請願

 

第164回国会 請願の要旨

新件番号 540 件名 アスベストによる健康被害の防止と補償に関する請願
要旨  アスベスト(石綿)による健康被害が大きな社会問題になっている。厚生労働省の調査でもアスベストが原因のがん(中皮腫(しゅ)等)の死亡者が二〇〇三年度までに六、〇〇〇人に達している。日本のアスベスト関連死は年間一、二〇〇人から一、八〇〇人に達する可能性があると見込まれている。アスベストによる中皮腫、肺がんは、発症までに数十年掛かるとされ、アスベストの輸入量がピークを迎えた一九七〇年代から一九八〇年代に吸い込んだ人たちが発症する時期に差し掛かっている。欧州の研究では中皮腫の死亡例が見付かれば、それと同数から二倍の肺がん死も発生していると言われている。日本では二〇〇〇年から四〇年間に男性患者だけで約一〇万人が発症するとの研究もあり、マスコミ報道でも、労働者だけでなく一般住民もアスベスト曝露(ばくろ)を受け、多くの人が健康被害と不安にさらされている。国は被害の可能性を三〇年前から認識しながら対策を講じることなく健康被害が拡大してきた。その責任は重大である。アスベスト健康被害は、行政の不作為によって引き起こされた公害と言っても過言ではない。二月三日に「石綿による健康被害の救済に関する法律」が成立したが、救済給付額が労災補償と比較しても不十分であるなどの様々な不備があることから改善が必要である。

 ついては、国は責任を認めるとともに、早急に次の対策と法・諸規則の改正を実施されたい。
一、アスベストによる健康被害防止と国民の不安を解消するために
 1 アスベスト製品の製造・使用を、政府が目標としている二〇〇八年を待たずに、期限を前倒しし、全面禁止すること。
 2 アスベスト製品製造関連事業場調査(立入調査含む)、健康被害防止対策状況・周辺住民等健康被害実態調査等を強化し、健康被害の拡大を食い止めること。これにかかわり、特に、次のことを重視すること。
  (一)建築現場等におけるアスベスト製品使用の確認が困難になっている実態がある。こうした実態を明らかにし、例えば住民の申請に基づきアスベスト含有量分析調査を公費で実施するなど実態にふさわしい対策を講じること。
  (二)政府が既に発表している「建築物解体等に伴う石綿飛散防止対策について」等の周知とともに、アスベスト建材除去・改修工事に際し、公費による補助等費用負担の軽減策を講じること。
  (三)震災による建築物倒壊処理等災害特別時における対策について、財政措置を含む措置を講じること。
  (四)吹き付け石綿の建物で生活・就業する人への健康被害調査と対策を抜本的に強化すること。
  (五)アスベスト被害の防止にかかわる調査を徹底するために、専門家を養成・組織し、アスベスト調査員制度新設を検討すること。
  (六)以上の調査等各対策について、国としての所管部署を明らかにすること。
 3 石綿による健康被害が広範囲にわたることから、国の関係するあらゆる機関に相談窓口を設置して、自治体等の窓口と連携し専門的・的確な相談受付・処理体制を確立すること。
 4 石綿製品、製造事業、製品アスベスト含有建材利用工事、関連疾患等のすべてにかかわる情報開示を行うこと。
 5 アスベストにかかわる疾病(労働災害)を出した事業所の発表のみならず、過去と現在において石綿製品の製造を行っているすべての事業所を公表すること。
 6 4の事業場近辺を含め、全国各県内主要箇所におけるアスベスト飛散濃度を測定すること。
 7 石綿を含む産業廃棄物の管理に関して、解体業者のみならず依頼者の責任も明確にした対策を強化すること。また、産業廃棄物の処理方法を拡充するなど、不法投棄を防止すること。
 8 アスベスト建材を使用し施工した中小建設業者が、顧客や住民から撤去・改修工事を求められた場合等、工事代金を全面補助する制度をつくること。
 9 アスベスト含有量等の検査費用の便乗値上げを規制するよう行政指導を行うこと。
 10 石綿含有製品の輸入は原則禁止されているが、石綿規制のない国で流通する製品の輸入は可能であることから、建築資材等輸入時の完全な検査体制を確立し、海外の石綿含有製品が国内に流通しないよう対策を講じること。
二、アスベスト粉塵(ふんじん)曝露のおそれのある住民、労働者の健康・医療対策について
 1 医療機関の検診窓口を増やし、健康被害を受けるおそれのある人に対し、早期に検診を受けられるようにすること。また、離職者や周辺住民に対する胸部らせんCT検査等に対する医療費の全額補助等必要な対策を講じること。
 2 アスベスト関連職場労働者に対する健康被害防止策を徹底し、石綿教育の徹底と取扱いに関するマニュアル等の周知徹底を図ること。
 3 関係する事業主に対し、健康診断の促進を徹底す ること。また、パート・短期雇用労働者・下請労働者など、関係するすべての労働者が無料で健康診断を受けられるよう直ちに対策を講じること。
 4 アスベストに関連する職場を離職した労働者に対する検診を徹底し、健康管理手帳を迅速に交付できるようにすること。この場合、アスベストによる発症期間が長期に及ぶことから、症状のない労働者でも、アスベスト関連作業に従事したことが明確な場合は、本人の希望によって、健康管理手帳を交付し、定期的に健康診断を受けられるようにすること。また、労災認定は時間を掛けずに速やかに行うこと。
 5 アスベストに関連する疾病患者及びその遺族に対し、個別に疾病説明、労災手続など諸対策を周知することを医療機関に指導すること。
 6 アスベスト疾患に対する検査・療養等の医療体制の充実と的確・迅速に判定できる医師の養成を速やかに行うこと。
三、被害補償について
 1 アスベスト関連作業による疾病は、数十年の長期間経過後発症するために、その労災認定に当たっては、労災補償請求権の時効制度を特別に見直し、アスベスト作業関連疾病にかかわる労災保険請求者について全員救済すること。
 2 いわゆる一人親方、事業主についても、労災補償の対象とし、救済すること。
 3 労災補償対象外のアスベスト曝露による疾病又は死亡について、被害者、遺族に見舞金・弔慰金を支給すること。支給額については、最低でも労災補償と同額以上とすること。
 4 二月三日に成立した「石綿による健康被害の救済に関する法律」には全事業所からの費用徴収がうたわれているが、アスベストに全く関係のない事業所もあることから、全事業所からの徴収は行わないこと。
四、認定・窓口相談業務体制の強化について
 1 労働局・監督署、保健所等関係する窓口の職員を増員して対策に当たること。
 2 相談窓口に対応する職員については、研修等を強化しあらゆる相談に対応できる体制を強化すること。
 3 アスベストに対するパンフレット等を作成し広報活動を強化すること。

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