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国民生活・経済に関する調査会

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国民生活・経済に関する調査報告(中間報告)(平成14年7月17日)

I 調査の経過

 参議院国民生活・経済に関する調査会は、第百五十二回国会の平成十三年八月七日に設置され、三年間にわたり調査活動を行うこととなった。

 今、我が国は経済のグローバル化、少子高齢化、情報技術革命の進展、地球環境問題の深刻化等の大きな状況変化の流れの中にある。

 我が国経済は戦後めざましい発展を遂げ、経済大国を実現したが、バブル経済の崩壊以降停滞を続け長引く不況に陥っている。同時にこれまで日本社会が培ってきた伝統的な価値や権威、社会的連帯感等に対する国民意識も大きく変化してきた。そして、二十一世紀に入った現在、我が国経済社会の構造は大きな転換期を迎え、その中で産業の国際競争力の低下、景気低迷による雇用不安、国民の生活保障に対する将来不安の拡がり等社会を取り巻く状況は一段と厳しさを増している。こうした中で、多くの国民は世界第二位の経済大国の国民として、本来持つことができる豊かさの実感を持てないでいる。

 今、国民のこうした閉塞感、不安感を取り除き安全で安心した暮らしができる豊かな社会を構築することが求められている。

 こうした観点から、今期の調査項目は「真に豊かな社会の構築」とし、初年度は「グローバル化が進む中での日本経済の活性化」と「社会経済情勢の変化に対応した雇用と社会保障制度の在り方」をサブテーマと決定し調査を行った。

 初年度は、テーマ全般について調査を行うこととし、第百五十三回国会においては、参考人から日本経済の活性化に向けた課題について意見を聴取し、質疑を行った。政府からは、昨年十月に経済対策閣僚会議で決定された「改革先行プログラム」について説明を聴取し、関係省庁に対し質疑を行った。

 また、第百五十四回国会においては、参考人から雇用環境の変化とその対応、国民生活の変化に応じた社会保障制度の在り方、公的規制の緩和及び起業に当たっての課題、産業の空洞化問題及びグローバル化における企業の国際競争力の強化、豊かさを支える雇用環境の整備について意見を聴取し、質疑を行った。また、政府からは、本年一月に閣議決定された「構造改革と経済財政の中期展望」について説明を聴取し、関係省庁に対し質疑を行った。

 そして、初年度の中間報告をまとめるに当たって、委員間の意見表明及び自由討議を行った。

 さらに、平成十四年二月には経済、雇用対策及び社会保障等に関する実情調査のため熊本、福岡両県に委員派遣を行った。

 本報告書は、こうした活動を基にその概要と論議を整理し、中間報告として取りまとめたものである。

II 調査の概要

一 参考人からの意見聴取及び主な質疑応答

(一)日本経済の活性化に向けた課題について(平成十三年十一月二十八日)

 日本経済の活性化に向けた課題を概観するため、日本経済の現状に詳しい有識者を参考人として招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 両参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(株式会社野村総合研究所上席エコノミスト  植草 一秀 参考人)

 日本経済の再活性化は重要な課題であり、戦後日本社会の仕組みを大きく変えていく必要がある。改革の課題としては、(1)戦前来のお上としての「官」、下々としての「民」という垂直権力構造から水平構造への切替え、(2)規制により護送船団方式で行ってきた経済運営から自己責任をベースにした運営への切替え、(3)財政支出の全面的な見直しの三点が重要である。

 日本はバブル崩壊後、米国等に戦略的産業部門において水をあけられた。アジア経済の台頭の中、価格競争の激化が非製造業部門にも波及してきている。その他IT(情報技術)の発達等、日本を取り巻く環境の変化を直視することが、これからの日本をどう変えていくかを考える際に求められる。

 中国等への産業の海外シフトは国際分業体制の構造変化の下、不可避の流れであり、その中で産業の安定的な発展をいかに確保するかが重要な視点となる。ハイテク部門、知的所有権部門、バイオテクノロジー、金融、環境関連ビジネス等の戦略産業部門を強化しつつ、労働力吸収のための衣食住にかかわる身近なサービス産業の強化支援が課題となる。

 労働市場では年功制、長期雇用が崩壊するため、離職者支援体制の整備として、失業保障の給付期間、給付水準の拡充等を中心とした方策を十年程度の時限措置として講じていくことが考えられる。その上で企業の合理化措置をある程度容認していくことが必要ではないか。

 財政構造改革については、景気回復を第一優先とし、その上で支出面の改革を遂げた後、負担引上げ等の増税措置も検討すべきである。十年かけていかに財政を立て直すか、その時の国民の負担と給付水準がどうなるかを説得力を持って国民に提示することが重要である。

 地域経済の活性化という視点からも国土の有効利用が重要である。観光地での民間経済活動への規制を強化し、観光資源の価値を強化する施策を検討するとともに、すぐれた住環境取得を促すため、都市近郊の市街化調整区域を有効に活用する施策が重要である。

 国と地方の関係は自治権拡大が望ましい。どこでも一定水準の公的サービスを確保できるよう財源調整制度が重要となる点の認識が必要である。

(株式会社日本総合研究所調査部長  高橋 進 参考人)

 日本経済の縮小均衡プロセスを改善することが構造改革の持つ意味である。当面の集中調整期間は成長鈍化も覚悟する必要があるが、負の遺産処理が進めば一%位のベースラインへの復活、新産業の開拓で成果が上がれば二~三%に引き上げることも可能である。

 国内でいわゆる中国脅威論が出ているが、産業空洞化の本当の原因は日本の高コスト体質にある。国内投資を活発化し、内需主導の輸入大国とし、一方で競争力のある製品を生み出す拡大均衡型の黒字縮小を目指すべきである。中国がWTO(世界貿易機関)に加盟して最も恩恵を受けるのは日本であり、拡大する中国市場が目の前にあると考えることも可能ではないか。

 企業部門の改革に伴う痛みが雇用調整圧力といった形で個人部門に出てくる。緊急的な雇用対策に加え、雇用システムを変えるとともに、基礎生活コストの引下げや医療、年金の不安を解消する広い意味でのセーフティネットの構築等により、生活水準が落ちる人を支えることが求められる。

 財政面は長期的に見てプライマリーバランスの改善が必要だが、二〇一〇年までに健全化させる場合、毎年二・五兆~三兆円の赤字幅を削減しなければならない。歳出を削減しつつ、(1)規制緩和推進による高コスト体質の是正、(2)PFI(民間資金主導型の社会資本整備)活用、配分の見直し等による公共投資の生産性向上、(3)医療・介護への競争原理導入による社会保障支出抑制、(4)企業活動の活発化、消費活性化のための減税等により民間活力を引き出していく考え方が必要である。

 構造改革が官の改革という形で広く進んでいく一方、二十一世紀の日本をどうつくるかという視点から、人々の生き方、暮らし方、働き方を根本から問い直す生活者視点の構造改革も意識していいのではないか。従来型の産業振興の観点ではなく、町づくりの観点から政策を打っていくことが必要である。こうした政策の主体は地方自治体であり、分権化、自治の仕組みづくり、NPO(民間非営利組織)、NGO(非政府組織)の活用が必要となる。町づくりの観点から政策を問い直すと、世代間の不公平の問題、教育の荒廃、環境問題にもより取り組みやすくなる。今始まっている構造改革が上からの改革とすれば、その受け皿となる国民意識の改革、といった観点も考えていく必要がある。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 日本の金融システムの改善すべき点については、金融機関の財務状況に関するディスクロージャーには大きな問題があり、債権がどの程度悪化しているのか、査定が実情を十分に反映していないのではという疑念が強く、実情がわからない状況下でペイオフ実施が一人歩きする現状は適正さを欠いているが、事態を改善させてから事実を明らかにする方が賢明な対応ではないかとの見方が示された。

○ グローバル化、IT化の進展、少子高齢化など労働をめぐる環境が変わっていく中での国が講じるべき施策については、女性、高齢者の社会進出を促す観点からの改革が必要であり、ワークシェアリング等の雇用形態の多様化、労働移動の中立型システムへの移行と同時に、公共料金、医療、教育等の高コスト体質の是正も必要であるとの意見が示された。

○ 比較的短期間で産業構造を変化させ景気回復した米国等と、十年来不況にあえいでいる我が国との違いについては、我が国は労働行政がリストラを制限し、ハイテク部門が米国に制覇され、新ビジネスを起こす動きが鈍い点が指摘された。また、米国の産学協同の仕組み、TLO(技術移転機関)、SBIR(中小企業技術革新制度)等中小企業やベンチャー企業への支援は学ぶ余地が大きく、我が国は高コスト体質、硬直的なシステムが新産業を生むのを阻害してきているとの意見が述べられた。

○ 中国との国際分業化の中での製造業の生き残り策については、国際分業化は止められない流れであり、戦略的な産業部門や生活関連サービス業等の重要な産業を国内にいかに整備できるかが課題となるとの意見が示された。

○ 日本型ワークシェアリングの在り方については、雇用の安定重視という観点からは一つの選択だが、どこまで企業が競争力を回復できるか、中期的に目指すべき産業構造と就業構造の転換を遅らせないか等、検討すべきとの意見が出された。また、単に一つの仕事を二人で分けるのではなく、働き過ぎ社会を楽しい社会に変える、という視点でできないかとの意見が示された。

○ 認定NPO法人の申請数が増えない現状については、環境美化等や養護、介護等を行うNPOに国が公的助成を行い、高齢者に優良な就業機会を創出する等の仕組みづくりにより増えていくのではないかとの意見があった。他方、NPOは積極的に育成すべきだが、新たな補助金よりもマーケットの中から自然発生的に出てくる仕組みを促すことが必要との視点も示された。

○ 国民が豊かさを実感できない点については、市街化調整区域の活用等による優良な住環境の整備、弱者への配慮が必要との意見が出された。また、従来型の政策が限界に達し、社会保障制度等への国民の不安が強いことが豊かさを実感できなくしており、コミュニティーの中で生きがいを見出せるよう、経済政策の根本を生活者起点に変えることも必要との意見が出された。

○ 女性が出産や育児で将来的に失う機会費用を、男性、社会、企業も分担することが必要であるとの意見については、企業に女性を雇わないインセンティブが働かないよう、企業が負担する費用を社会、または国が支援する制度的な対応が必要であるとの見方が出された。また、必要なときに働き、出産・育児の際は家庭に戻る柔軟な仕組みを作るとともに、子育て・教育コストを下げることも非常に有効であるとの意見が出された。

○ 構造改革よりも景気回復、さらには民間市場が新しい雇用を受け入れられるよう規制撤廃を優先すべきとの考えについては、制度改革等のミクロの政策はどんどん進めるべきだが、うまく進めるにはマクロの安定を確保し、生産能力をうまく活かして二~三%の成長を実現することが必要であるとの見方が示された。

○ 心豊かに暮らすという観点、また新たな産業を促す観点から文化芸術政策が必要ではないかとの意見については、今後拡大していく産業として重要なのは生活文化に関わる産業であり、社会資本の整備の在り方としても、文化的な環境を整えることで人々が利益を享受できれば、不況対策の資金使途としても効果があるとの意見が出された。また、地域の文化、魅力を組み合わせた町づくり等、日本人、アジアの人達を惹きつけるような政策が必要であるとの意見が出された。

○ 公共投資については、GDP(国内総生産)統計でみるとすでに一九九六年をピークに公共事業は着実に減少しており、無駄な事業と下水道、産業廃棄物処理、高齢化に対応した施設等の本当に必要な事業を調べるのが先決で、単に減らしていくのは危険ではないかとの見方が示された。

○ 景気対策の効果の低さと国債消化の制約から財政政策の有効性をどう考えるかについては、過去の景気対策は緊縮財政政策によりその効果が発現しなかったと見るべきだ。景気回復を優先することで財政再建も可能になるとの見方が示された。

○ 景気回復策としてどのような対策があるかについては、公共事業の資金配分の見直しと必要な社会資本の整備、消費税の引下げ等を含む政策減税を検討すべきとの意見があった。

(二)雇用環境の変化とその対応について(平成十四年二月二十七日)

 雇用環境の変化とその対応について、現下の雇用・失業情勢に詳しい有識者及び労働組合と経営者団体の関係者を参考人として招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 各参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(株式会社日本総合研究所調査部主任研究員  山田 久 参考人)

 日本経済はかつてない失業率の上昇に直面しており、完全失業率が五・六%と現行統計始まって以来の高さであり、上昇スピードが極めて速い。八〇年代以降、性別の失業率を見ると、女性の失業率が男性を下回る状況が定着している。過去、景気後退期においては中小企業が雇用の受皿になってきたことが失業率を低く抑えてきた要因であったが、九七年の秋以降その状況が崩れ、中小企業が雇用を吐き出す側になっている。

 雇用問題を考える際には、産業と雇用と家族という、三つの要素で捉えていく視点が重要である。製造業が競争力のある中で正社員中心型の長期の雇用モデルが作られ、専業主婦が家事を支えるという家族モデルが前提となっていた。また、不況期にはパートという形で働いていた女性がパート雇用の中断により離職し、労働市場から退出する形で失業率が上がらなかったというメカニズムがあった。このモデルの背景には、(1)欧米諸国に対するキャッチアップ過程にあり製造業に強みがあったこと、(2)市場メカニズムをある程度制御できる、豊富な若い労働力があったこと、(3)年功制がコスト負担にならなかったこと、という要因があった。東アジアのキャッチアップにより製造業の雇用の急減につながっている。大企業の雇用の吸収力が低下し、正社員を減らし非正規社員を増やすということが生じている。正社員は男性、パート等は女性という関係になっているので男女間の失業率の逆転が生じている。また、失業率の低さを守ってきた中小企業の活力が失われている。

 今後の雇用再生に関して考えるときに、アメリカ、オランダが高い雇用を実現した要因は三つある。一つ目は産業構造がサービス化、ソフト化していったということである。二つ目は働き方の多様化が進んでいったこと。三つ目は女性の社会進出が積極的に進む中で、男性片働き社会から共働き社会に変わっていっていることが特徴である。これを参考に、雇用を中心とした経済のシステムを全般的に変えていく必要がある。

 ポスト戦後型雇用創造モデルへの課題としては三つがある。一つ目は産業構造を転換することであり、規制改革・競争政策を通じて新しいサービス産業が生まれてくる環境を整備し、付加価値の源泉である研究開発、知的所有権を適切に保護していくことである。また、ホワイトカラー部門及び家事をアウトソーシングしていくことである。二つ目は、労働市場の整備ということで産業構造の転換に伴って労働移動が必要になってくる中で、転職支援や再就職の支援サービスを民間の力を借りながら、公的サービスも充実していくことである。また、社会横断的な職業資格制度が必要となるとともに、職業教育システムを充実させることである。三つ目として、生活保障の在り方として、これまで男性が外で働いて女性が家庭にいることを前提とした制度を、就業形態、家族モデルに中立的なものに変えていくとともに、女性の社会進出を積極的に支援していくことである。また、養育費に関して奨学金を拡充するほか、住居コスト引下げのために中古市場を整備するといった全般的な課題が必要になる。

(日本労働組合総連合会総合労働局雇用労働局長  中村 善雄 参考人)

 現在、経済全体が不安定になっている中で、雇用に対する不安が拡大している。また、個別企業内の個別労使を中心に作り上げてきた安定的な労使関係の仕組みやそれを基にした産業の成長力の強さが、様々な諸政策と食い違いを起こしている。規制緩和についても、労働者個人があまり整備がなされていない労働市場を全面的に虚構的に信頼し、市場競争にさらせばすべて効率化するというバーバリーな論調が世論を風靡している。さらに企業経営に対する評価が短期業績志向的なものになってきている。極端な場合には短期のバランスシートを改善するための人件費削減の視点のみから強調され、その中で当該労使ともに、いかにして企業として中長期的に成長するかといった協議の視点も閉じこめられてしまうといった事態が起こっている。

 私どもが目指すべき社会は、孤立した個人を激しい市場競争にさらすことが解決の道だという市場万能主義ではなく、労働を中心とする福祉型社会、働くことに最も重要な価値を置いて、すべての人に働く機会と公正な労働条件が保障され、安心して自己実現に挑戦できる社会である。

 キャリアを積み重ねながら、生活の安定を図れる枠組みをどう作るかということを含め、セーフティネット更には能力開発の社会的な仕組みが整備された社会を構築し、家族、社会、子供等にとって正しく働くことはどういうことかを尊敬、尊重を持って理解され、お互いに連帯していける社会を作っていかなければならない。人間的な労働と生活の枠組みをセーフティネットとともに作っていくことが重要である。一つ目に、完全雇用という政策がすべての基本になってくる。国民生活に結びつく福祉、医療、環境といった分野はフロンティアであり、資源の重点配分により、雇用創出を図っていく。こういった福祉分野を中心に新たな雇用を創出し、新規産業の育成を図っていくことを中心に完全雇用を作ることが重要である。社会的な能力の評価をしていくシステム、従業員のキャリアということも含めて能力開発を支援する仕組みを作っていく必要がある。二つ目の重要な点は、雇用と労働をめぐるルールの明確化の問題である。生涯を通じて安定した雇用を基本としながら、労働者の様々なニーズに対応して多様な働き方を選択できる部分ということであり、そうしたニーズから中立的に選ばれる最低限の枠組みを作っていくことが非常に重要である。三つ目はソーシャルパートナーシップの確立である。企業内労使のみのルール作りには限界があるので、国、産業あるいは地域も含めてどういった安心した働き方の枠組みが作れるかといったことを多くのレベルで、政労使、公労使といった社会的な合意形成の仕組みといったものを実態的に作っていくことが求められていく。現在の厳しい状況を克服し、新しい働き方を構築していくことが問われている。

(日本経営者団体連盟労務法制部次長  松井 博志 参考人)

 春季労使交渉での提案は、まず働き方の諸制度を総合的に見直す場であると位置づけ、基本に据えることは、企業が存続することが重要であり、支払能力に基づいた総額人件費の管理をする。その際の重要な視点として、企業の中で雇用を維持できる仕組みを考えて頂きたいということである。バブル崩壊後の推移を見ると、労働分配率は上がってきており、賃上げ率は低下傾向にある。賃上げがなされている企業はましであるというのが実態であり、賃上げしない、あるいは賃下げも含まれていると認識している。雇用問題については当面の短期の措置と中長期の措置に分けて対応すべきという考え方を持っている。重要なことは、現下の深刻な雇用失業情勢に対する雇用対策である。中長期的には少子高齢化の進行あるいは勤労者の就労ニーズの多様化などに対応する仕組みを考えていく必要がある。

 雇用のセーフティネットは、雇用の維持・創出、勤労者の職業能力の向上、政府の雇用対策あるいは雇用保険・社会保障の充実である。雇用の維持・創出については、民間企業、経営者の責務が重要である。政府においては事業規制を取り払い、民間が自由な活動ができ、雇用の維持、更には創出できる環境条件を整えることが重要である。勤労者の職業能力の向上については、従業員にもより自らを磨く努力を続け、それに対して企業・政府・地方自治体が支援していく仕組みが重要である。今の現状を見ると、失業者が大量に発生している事実があり、それに対する支援が欠かせないことは言うまでもない。

 失業増大の回避のために雇用の維持確保、更には総額人件費の抑制を両立するための緊急避難的なワークシェアリングが必要である。どのようなワークシェアリングの導入の仕方があるか、連合とも協議を進めながら議論しているところである。過剰雇用と人件費負担に苦しむ企業においては、緊急避難措置として、労働時間を短縮し雇用を維持し、賃金、賞与など、どの部分について対応していくかは現場のそれぞれの労使が工夫して決め、総額人件費の負担の少なくなる方法を考えて欲しいと提案している。ワークシェアリングは、雇用、賃金、労働時間を多様かつ適切に配分する仕組みであり、中長期的にも雇用の維持創出が図られる仕組みであると理解している。また、勤労者のニーズに即した多様な雇用形態あるいは就業形態を用意し、従業員の働き方の選択肢を増やす必要があると考えている。柔軟なワークシェアリングに加えて、雇用ポートフォリオを活用し、企業の運営、従業員のニーズに合ったものを作り上げていけばよい。

 少子高齢化が進んでいく中で、中長期的に見ると、今から準備している企業が構造改革がうまくいったときにも、人材獲得競争で生き残れると認識している。労働市場改革の推進については、労働市場が経済のグローバル化に合わせた形で対応するため、移動性、柔軟性、専門性、多様性が生かされる仕組みを構築していくことが重要である。柔軟性については労働力需給制度に対する規制を撤廃していくことが必要である。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 連合のワークシェアリングについての検討状況及び財政措置は不要とする日経連会長の見解については、短期の緊急避難型ワークシェアリング及び中長期のワークシェアリングの課題については政労使において考え方の整理を行っており、三月中旬位までに一定の方向性を出すため議論が進められているとの説明があった。また、ワークシェアリングで労働時間を短縮して賃金を引き下げる企業と、労働時間の短縮なしに引き下げた企業の社会的公平性を重視しているとの説明があった。

○ 社会保障制度の就業形態・家族モデルに中立的な制度への変更については、現在は社会保険方式になっており、企業で個人が雇われることを前提にしている。工業化社会から情報化社会が進行してくる中で、インディペンデント・コントラクターなど、新たな雇用形態が生まれており、就業形態に中立的である必要があるとの見解が示された。

○ 自死遺児の急増については、失業者支援のためのカウンセリングの充実が喫緊の課題であるとの認識が示された。また、現在の雇用失業情勢は弱者にしわ寄せされており、そこのところをいかにケアできる体制を作るかが基本であり労働組合としても努力をしたいとの見解が示された。さらに、自殺者の増加については、失業率が増加するに伴って自殺者が増える脆弱な体質にあると懸念している。雇用対策法では、大量失業者を出したところには再就職支援の計画を立てることになっている。その部分で、企業に取組を進めてもらい、カウンセリングの行われている再就職支援会社の活用を進めてソフトランディングを図ることが重要であるとの意見が述べられた。

○ 日経連からの要望も踏まえて補正予算で措置した緊急雇用対策に対する最初の日経連の見解については、日経連として出した五十五の短期雇用創出の事例をより具体的に取り入れてもらいたい。また、雇用対策法に盛り込まれた年齢制限を付けない雇用、募集、採用の在り方について理解を広める努力をしているとの説明があった。

○ 我が国の労働環境及び税制を始めとした社会制度の変革については、流動化の中でどのように能力を開発して行くかを考えていく必要があり、個々人の能力が育成できる社会を創っていくことが課題であるとの意見があった。また、雇用の流動化を促進すべきという考えにはきちんとした退職、解雇に係るルール作りをする必要があり、人的形成、ネットワークも含めた能力開発ができる枠組みをつくることが重要であるとの認識が示された。さらに、雇用の流動化は基本的に避けられない方向であるが、適正な条件を企業側が提示していく中で、多様な就労ニーズに対応していかないと流動化も進まないとの見解が示された。

○ 好きな仕事を短時間行い、あとは自由に自分の時間を使いたいと考えている労働者、また能力別の給与査定について賛成している人の年代別傾向については、短時間で働いて得られる賃金とフルタイムで働く賃金との間には時間差以上のものがあり、それでも短時間という仕事を選ばなければならないというのが労働市場で提示されている条件であると考えている。共働き世帯や自由なニーズに応じて働き方が選べる社会をきちっとしたルールの下に作っていくことが現在の流れである。また、若年層ほど査定の中身についての基準の透明化を望むであろうし、特に中堅層の能力評価の仕組みの透明化あるいは社会化が重要であるとの見解が示された。

○ ごみ処理施設や廃棄物処理施設の建て替えや新規導入に一兆円ずつ十~十五年計画で進めれば、安定した雇用も生まれ、雇用増につながるという意見については、ごみ処理施設というのも一つの提案だと思うが、政策評価なしに増やしていくのは問題であり、公的に必要なものを厳選し、そこで持続的に雇用を生んでいくという観点であれば評価できる。ただし、雇用とは民間の活力が主体であるから、そこの議論はベースとして持っておく必要があるとの見解が示された。

○ 労使は積極的に雇用問題について重要な企業調査を行うなどして、政治の舞台に上げることができるようにしておくことが雇用問題の環境づくりに必要との意見については、政策要求も含めワークルールの問題、特にパートタイマーや非典型の組合員の問題は非常に重要であるとの見解が示された。また、個別労使で解決できない問題については審議会レベルで検討しており、ワークシェアリングについても、政府の役割はいかなるものかということを連合並びに会員企業の声を聞きつつ対応し、政策実現に努めていきたいとの認識が示された。

○ 「私が考えるワークシェアリング」としての見解については、オランダモデルよりも柔軟なものでなくてはならず、二・〇モデルであっても一・〇でもその真ん中のいろんな数値があってそれぞれが選択してそのような社会を構築することが重要であるとの意見が述べられた。また、モデル的にオランダ型にかなり近いイメージであり、様々な労働力人口の構成変化や国際競争に対応できる柔軟な労使、社会的合意に基づいて対応していけるシステムについて考えることが重要であるとの意見が述べられた。さらに、ワークシェアリングはかなり限界のある議論だと考えている。雇用の問題というのは生産性の議論と生活価値という二つの議論があり、生活価値のところでワークシェアリングは考えて良いと思うが、生産性の議論は別途しないと駄目であるとの意見が述べられた。

○ ポスト戦後型雇用創造モデル構築のための政労使の役割については、企業は産業を活性化して雇用機会を生んでいくというのが基本的役割である。その中で、ある程度後退せざるを得ないところを国がどう補填していくのかという議論になる。労働組合は働き方が多様化しているため、労働者全体の中で均等待遇をどうやって作っていくか、家族モデルや生き方の多様化に中立的なものをどうやって作っていくか、能力開発をどのように企業に対して要望していくかという、労働者全体の質の向上、生活の向上を正社員だけでなくすべての代弁者としてやっていくという役割分担になるとの認識が示された。また、移動の仕組みについても産業別というレベルで労使が協議することが望ましく、産業別の労使の役割が重要になっていく。政府は最低限のルールの設定ということで役割は大きい。未組織という部分でいけば、組織化して最低限の下支えをきちっとやっていくことが重要であるとの見解が示された。さらに、政府の役割は民間が事業をしやすい環境を整えることである。公は限られた役割を担い、民間は企業が存続し得る仕組みを現場の労使が知恵を絞って対応することであるとの意見が述べられた。

○ 日経連の奥田会長の便乗リストラに対する批判については、雇用の維持は経営者の責任であり、広く会員企業にできる範囲で実行に移していただきたいと考えている。維持できなければ、経営者として責任をとるようお願いしているとの説明があった。また、雇用を守る企業の責任は当然であり、過去の信頼関係を含めたベースとして労働者との労働関係をきちんと行うことは労使間のルールでも当然のことである。合理的な解雇の理由も含めて退職、解雇に係るルールを社会全体の中でクローズアップする必要があり、法制着手までは慎重かつ精密な議論が必要であるとの認識が示された。

(三)国民生活の変化に応じた社会保障制度の在り方について(平成十四年三月六日)

 少子高齢化の進展、共働きの増加等国民生活の変化に応じた社会保障の在り方について、参考人から意見を聴取するとともに質疑を行った。

 各参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(上智大学文学部社会福祉学科教授  山崎 泰彦 参考人)

 高齢者や女性の雇用を促進し、また、次世代の育成を支援することにより、社会保障制度の支え手を増やす視点が重要である。現在の社会保障制度の雇用抑制的な要素を解消し、雇用に中立的、促進的な制度に改める必要がある。

 高齢者を雇用すると、給与水準により年金の全額又は一部が停止され、財政に貢献する。貢献度に応じ事業主の保険料負担を増減させ、雇用促進の機能を組み込むべきである。

 女性の雇用では、税制や社会保険の専業主婦に対する保護的扱いを見直し、第三号被保険者制度について、世帯所得の二分の一を夫と妻に帰属させ、個人で保険料を納め、年金権を得る方式とする。医療保険も同様に、税制も二分二乗方式にすべきである。

 次世代の育成支援は、児童手当等低所得者を重点とする選別的給付である福祉制度のものと、出産育児一時金等所得要件のない普遍的給付である社会保険制度のものに大別されるが、どの子も次代を担う社会の子であり、普遍的支援を基本にすべきである。

 高齢世代の負担適正化、世代間公平の確保も必要である。高齢者は一般的には経済的弱者ではない。医療や介護でも定率一~二割程度の負担を求め、長期入院や介護施設の部屋代、食費等応分の負担を求めるべきである。また、医療保険負担も見直しが必要である。被扶養認定の収入基準は六十歳以上の高齢者と障害者は百八十万円未満であるため、月収が十五万円近くありながら子の健康保険の被扶養者となり、医療を受ける者が相当いる。国民健康保険や介護保険では、わずかな年金収入であっても保険料を負担しており、大きな不公平がある。高齢者優遇税制の見直しも課題になる。優遇税制により、六十五歳以上の七四%は住民税非課税の低所得者とされているが、同じ所得には同じ税、同じ社会保険料の負担に改めるべきである。

 近年、基礎年金を始め社会保障の財源を税で賄う税方式の主張が高まっているが、社会保険を基本に社会保障の発展を図るべきである。そのメリットは、保険料を理由なく滞納した者には給付制限があり、拠出意欲を確保できることである。普遍的給付を基本にした社会保障の発展を図るには、基本を社会保険に置く必要があり、その前提は社会保険料の徴収強化である。

 年金についての最大の課題は次世代育成支援事業の創設である。基礎年金に支援事業を創設し、出産関連給付、保育サービス、児童手当、奨学金制度を設ける。財源は、現役世代の子育て負担金と国庫負担とし、社会保険事業であるので所得制限はない。

 介護保険では、第二号被保険者について範囲を二十歳まで下げ、支える世代を拡大し、また、給付対象を老化による特定疾患に伴う要介護者等から一般障害に拡大すべきである。さらに、家族介護を評価する観点から、現物給付を補完する現金給付を導入すべきである。

 高齢者医療制度は、介護保険と類似のものとするのが合意を得やすい。すなわち市町村を保険者として、高齢者を被保険者に応分の保険料の負担を求め、これに現役世代の保険料と公費負担を加えて財政運営を行う。

 医療費には大きな地域差があり、同一保険料では公平性が確保されない。政府管掌健康保険は、地域ごとの実質的な医療費の高低が保険料に反映する仕組みにすればよい。

(慶應義塾大学商学部教授  城戸 喜子 参考人)

 女性の就労が増え、就労形態も多様化すると、正規労働者中心の社会保障、社会保険では行き詰まる。また、世帯形態が多様化する中で、夫婦世帯を標準とするのは疑問である。

 二十一世紀の社会保障は社会サービス中心となり、次世代の育成を含めた家族へのサポートが非常に大事になる。

 高齢者と非高齢者への給付を先進各国について比較すると、他国は四〇%台前半であるのに対し、日本は五〇%になっている。しかも、日本は社会保障給付費の五〇%以上が年金給付に割かれ、医療が四割弱、その他が一割弱。社会福祉関係はその他の中のまたごく一部で、社会保障の資源配分は望ましくない状態にある。

 幼児期から高齢期までの保障が必要であるが、現時点では失業に対する保障が十分でない。高齢者給付に比重が掛かり過ぎている社会保障の現状を知ってほしい。

 生活の保障は、雇用や住宅の問題もあり社会保障だけでは完結しない。例えば、持家の有無により同じ年金給付額でも違った意味を持つ。自治体の責任で高齢者に住宅保障をしているところもあるが、国の制度として検討してほしい。年金だけを保障しても生活のリスクに対応できないこともあり、年金・医療・社会サービスの総合点検が必要である。

 公的年金制度については、世代間の負担の在り方を考えるとき、世代内の不公平をクリアしなければならない。制度をもう少し透明・公平・簡潔なものにすべきである。

 年金の給付水準は厚生年金の場合、加入期間が十分でない人も含めた平均で六二%と、給付水準が高過ぎる。基礎年金を消費税で賄い、上積みの部分を民営化するという意見には反対である。公的年金を根底から報酬比例年金にして、生活保護の場合と同様に最低保障額を付けるべきである。また、年金を個人単位化することは賛成であるが、スケールメリットが働くので共働きの人の給付水準、保険料とも約三分の二に引き下げるべきである。

 医療改革については、医療費高騰の原因をまず除去すべきであり、医療提供体制の改革が前提条件にならなければならない。介護保険については、第二号被保険者の範囲を広げることに賛成であるが、この場合、必ず給付を受けられるようにしなければならない。

(埼玉大学名誉教授  暉峻 淑子 参考人)

 失業者の生活保障の問題を取り上げたい。日本の失業率はこれまで大変低かったが、現在は五%を超えている。失業が増えても、構造改革の途中であり労働が自由に移動するのはいいと考える人もいるが、現在は既に三分の一が非正社員として働いている。また、戦後は失業が余り問題とならなかったので、失業者の本格的な生活調査は行われていない。そのため、失業対策も遅れている。例えば、ホームレスは把握されているだけで約三万人といわれるが、七割が職場を追われた三年以内の失業者である。自殺者も三年連続三万人を超えている。勉強したいのに、世帯主の失業による高校中退者が増えている。家庭崩壊も失業をきっかけに広がっている。

 失業によりその人が持っていた知識や技能が捨てられてしまうことは、国の富の大きな損失である。労働の流動化という一面的な見方でなく、背後に何があるか知ってほしい。短期雇用、不安定雇用の増加により、自分の生活設計もできなくなり、場当たり的な生き方になる。モラルとしても問題であり、社会不安は企業にとっても政治にとっても好ましくない。

 また、失業しても、事業主の未加入や加入期間が短期間であること、パート等であることの理由により、失業保険がもらえない人が多い。ドイツの場合は、失業保険等社会保険はパートであろうと、最低六か月働けば何らかの保険が付く。失業しても、医療保険と年金掛金と介護保険の社会保険の掛金は国が代わって払っている。また、自治体により求職活動にも必要な交通費や社会から疎外されないため入場料の割引制度もある。家賃補助も用意され、教育費の無償に加え在学中は二十七歳まで児童手当があるため、親の運命に関係なく子は自分の道を進むことができる。

 小泉首相は、二~三年痛みを我慢してほしいというが、この期間と失業手当の受給期間がかけ離れている。日本は多くの場合、四十五歳以上六十歳未満の人が勤続年数二十年以上であっても失業手当の受給期間は十一か月である。ドイツの場合は三年近く支給され、保険が切れても多くの場合は失業扶助もある。さらに、本年より職業安定所の職員数を倍増するなど失業者の自立にも注力している。七人以上の失業者による社会福祉、環境、青少年問題の自立事業には給与のほか施設・設備が補助される。このほか、職業訓練の制度や機能についても日本は多くのことを学ばねばならない。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 高齢者給付の割合が非常に高いことに対する政策課題については、今後は失業給付や生活保護給付の増加は避けられず、また育児休業給付の拡充も考えられる。日本は他国に比べ現金給付に偏り過ぎており、今後年金給付の削減は避けられないとの意見があった。

○ 有効な少子化対策については、労働時間の短縮とともに夫の理解を得るため夫の育児参加を真剣に考えなければいけないとの意見、夫の賃金が高い場合は父親が育児休業を取りにくいこともあるので、仕事と家庭と地域での生活のバランスの取り方を確立する必要があるとの意見、現在はやむを得ず子供を保育所に長時間留め置いているが、労働時間を短縮し家庭で親が責任を果たせるようにした方がよいとの意見があった。

○ 基礎的年金を税で賄うこと及び消費税を年金財源に当てると結果的に高齢者が負担を免れるとの考え方については、税と社会保険の本質的な違いは、社会保険では負担と給付がリンクしており、負担しないと給付が発生しないので、渋々ながらも払うという本質的違いがある。また、年金の物価スライド制を前提にすると、消費税が上がると物価も上がるので一年後には年金額も上がり、年金生活者は増税分を取り戻すことができるとの説明があった。

○ 年金財源を税方式にすることに反対の理由については、基礎年金に一般財源を投入する場合、コストと世帯当たりの支給額のバランスが非常に難しく、高率の消費税を掛けられなければ給付水準は抑制されることになる。また、年金は日常生活の基礎的部分を賄うのが原則であり、別途医療保障や介護・育児サービスを保障するシステムをつくり、年金はそこそこの水準でいいとの見解が示された。

○ デフレ経済の中での失業対策、雇用安定策及び将来不安をなくす社会保障政策については、就業機会をつくることが最重要であり、地域でどのような就業機会があり得るのか自治体が考えたらよいとの意見、人生に何度でも挑戦できるよう高校、大学授業料の無料化や安心して住めるための家賃補助など社会的に安定したものが大切であるとの意見、社会保障の将来不安が非常に大きく、今は厳しくても将来への備えが必要であり厚生年金の積立て度合いを高めることに加え、介護、医療でもある程度の積立金の確保は大切であるとの意見があった。

○ 社会保険料徴収の強化の具体策については、以前年金保険料未納者は個人年金保険料控除の対象から外すとの案もあった。まず助け合いの制度に加入した上で自助努力をし、それに対して税制上の優遇措置を与えるべきで、運転免許証交付に国保や年金保険料の納付を条件とすることも一案であるとの意見があった。

○ 日本の所得税制を更にフラット化すべきとの主張については、ヨーロッパの税制は高所得者からは多く徴収しており、高所得者が社会に対して義務を果たすとの観念が日本より進んでいる、また、物価水準を考慮した上で消費税率をどうするかを考えないと再び消費不況を起こす危険があるとの見解が示された。

○ ワークシェアリングについては、超過勤務に対する割増賃金率を高めるとの意見のほか、ワークシェアリングは必要だが、教員、看護婦、福祉の現場で公務員から実行していくことが大事、大企業はコスト削減を進めており、福利厚生費が必要なワークシェアリングの実施は困難である。ドイツの場合は労働者側と使用者側の協議会で賃金と雇用者数を明確に契約しているが、日本の場合は曖昧であり、法制定等がない限り民間企業では困難との見解が示された。

○ 介護保険で家族介護手当が見送られた点に関する見解及びドイツでの事情については、医療と異なり介護の多くは家族がかかわるので家族介護を評価し手当を給付するのは当然であるが、ドイツと同様に高齢者本人に給付し、外部サービスか家族の介護かは本人に任せるべきである、また、家族による虐待も少なくないので第三者によるチェックは必要との意見、介護保険があっても家族による介護は避けられず、家族に機会費用を報酬として支給してほしいとの意見、老人の場合旧知の安心できる人に介護してもらいたいとの普遍的心理があり、日本でもドイツのように金銭給付と現物給付の両方が介護保険にあってよいとの意見があった。

○ ドイツにおける職業訓練の実態及び解雇規制法については、職業訓練は希望すれば二年間受けられ、国の予算も雇用保険と同規模であり、失業者の労働の質を国際競争に堪えるよう国が注力している。これが可能になったのも全国組織の失業者同盟や労働組合が自ら提案したことによる。また解雇は、会社の状況を事前に説明した上で行わなければならず、勤続年数の長い者は解雇される順番が遅く、子を扶養している未亡人は解雇されない、解雇手続も使用者は企業内の協議会に諮る必要があり、企業が協議会の結論に反して解雇する場合は、労働裁判所が短期間に結論を出すとの説明があった。

○ 真の豊かさとは何かについては、豊かさとは、自分の人生を自分で決めることができて選択の幅が広い社会であるとの意見、時間と空間と安心感であり、空間には住居とそれを取り巻く緑の環境もあるとの意見、安心ということが大切で、社会保障と社会資本が整備されなくてはならない、また、自然との共生も大切で、すべてが調和していないと豊かとはいえないとの意見があった。

○ 豊かさを阻害する教育・精神文化面の問題点及び政治への助言については、ヨーロッパでは障害者と同じ教室で学び体験の中で思いやりの心を育てているが、日本ではそうした機会に欠け助け合いの体験が少ない。国の予算は、生活問題や社会保障に率先して支出してほしいとの意見があった。

○ 教育の中で子供に真の豊かさをどのように教えていくべきかについては、日本の子供にとっての不幸は経験から自分で考えるチャンスを奪われていることである。これからの経済競争でも知能を働かせて行う事業が増えてくるので子供自身の考える力、創造性、判断力が働く教育をしなければならず、ただ教え込む、追いつき追い越せ型の教育制度は変えねばならないとの意見があった。

○ 政管健保保険料の改革案については、政管健保を都道府県単位に分割しても格差が生じ、財政調整が必要となる、実質的に分権化し年齢構成を補正した上でなお医療費が高い地域は保険料を上げ、低い地域は下げるという医療費の実質的な差を反映させ地域別に保険料を決めるのがよい。また、現在約三百五十ある第二次医療圏が適正単位との説明があった。

○ 社会保障を保険方式、税方式のいずれにすべきかについては、国民は保険料を払い権利としてサービスを受けることを望んでいる。また、すべてを税方式にすると金持ちにまで給付することになりばらまきになる。年金・医療・介護もみんなが権利として利用できるようにし、高所得者は負担を多くしても権利は同じように受けられる仕組みの方がよいとの意見があった。

○ 日本人の血縁意識の変化の可能性については、都市の新住民同士が地域で支え合うことが多くあり、新しい形で自発的な支え合いが育ってくる素地があるとの意見、介護に関する調査によると自分たちは親を介護するが自分たちの世代は社会的な介護を受けたいとの回答が最も多く、意識はかなり変わっているとの意見があった。

(四)公的規制の緩和及び起業促進に当たっての課題について(平成十四年四月十日)

 グローバル化が進む中での日本経済の活性化の検討のため、公的規制の緩和及び起業促進に当たっての課題について参考人を招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 各参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(株式会社ウェブハット・コミュニケーションズ代表取締役社長、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科兼任 講師  高柳 寛樹 参考人)

 若い経営者が考えるべきことが三つある。その第一は、「資本(金)」ではなく「売上げ」を得ることである。ベンチャーキャピタル等から資本金は集まるが、売上げを得ることに力が注がれず、多くのインターネットベンチャーが存続できずに消滅していった。第二は、自らの人脈で「実」のあるブレーン組織を構築することである。実務経験のあるブレーンを外部から招くことが大切である。第三に、誠意ある失敗とそれを許容する社会づくりである。一度失敗すると日本はリスタートが難しい国である。失敗を積めば積むほど失敗をしなくなるものであり、銀行の融資制度等も、そういったことをもっと理解した制度になるとよい。

 これからの社会に期待することは、構造改革と当事者の意識改革である。まず、大学の役割を考え直さなければならない。大学院在学中に、教授から「研究者は清く、貧しく生きなさい」と言われたが、学内における「起業」に対する日米の考え方はかなり違っている。日本の大学では「意外なこと、予想外のことを受け入れられない」ため、若い起業家を目標達成型の静的な考え方に陥らせる。また、一定のレールに乗っていない異端を排除する力が生じている。夢を抱く人は異端であり、ヒーローを賞賛しない社会では物事を起こそうとしたときにモチベーションの低下を招く。次に、大学を含めた教育とアントレプレナーシップという部分を考える必要がある。若い起業家に対する教員等の「しらけ」を排除する必要がある。また、小中高大を通じて、素人が玄人の世界を垣間見る楽しさを体験させることが大切である。私もそういった体験から起業に至っている。最初は、学校の先生に社会人経験のある人を多く採用する、外部から人を呼んでくるなどで十分である。

 インキュベーターは、本質的なビジネスモデル、つまり、売上げを得られるようにサポートできる能力が必要である。それから、経営に必要なセンスを育てる能力があるとよい。そして、最も重要なのは、過保護は禁物であるということ。過保護の結果、何もやらず、何も考えなくなってしまうベンチャーを多く見てきた。議論の中で適正な支援というものを構築していくことがインキュベーターの仕事ではないか。ある民間のインキュベーション施設ではオフィスの間貸しのみを行い、余計な口出しは一切しないが、必要に応じて、必要なときに経験のある先輩起業家にアドバイスを求めることができる。そういうソフトなインキュベートというものも非常に重要である。

(シンクタンク・ソフィアバンク代表、多摩大学大学院教授  田坂 広志 参考人)

 なぜ新しい産業が生まれてこないのか。一番に理解すべき点は、これから生まれてくるべき新しい産業というのは従来の産業とは全く性質を異にした産業であるということである。従来は生産者のシーズを中心として形成されてきた縦割のシーズ型産業であり、これからは消費者のニーズを中心として形成されてくる横断的なニーズ型産業が生まれてくるということである。

 国の政策も、これまではシーズ型産業の育成という観点で施されてきた。これから必要なのは、異業種を集めて生活者のニーズに応えられるパッケージ商品やトータルサービスなどを、いかに育てるかという政策である。そこで、ITベンチャー、ネットベンチャーもこの顧客中心、生活者中心のビジネスを育てていくという観点から、政策的に支援していくべきだろう。ネットベンチャー、ITベンチャーはシーズ型産業からニーズ型産業への構造転換の触媒的な機能を持っている。

 今マーケットで求められているのは、個別のビジネスアイデアだけではなく、新しい産業ビジョンが大きな影響力を持った言葉によって語られることである。シーズ型産業からニーズ型産業への転換、政府主導から民間主導への転換、業界団体同業種が集まった団体からむしろ異業種が連合する方向への転換、大企業中心からベンチャー企業中心への転換、間接金融から直接金融への転換、この五つの視点の転換を行いながら、国も民間も新しい産業育成のビジョンを掲げるべき時代になっている。

 米国型インキュベーションを学び、日本で同じをことをやろうとしてもうまくいかない。その理由は日本にはビジネス生態系が存在していないからである。まず、日本と米国では起業する人材の厚みが圧倒的に違う。次に米国ではビジネスモデル、ビジネスプランをかなり戦略的に立てるが、日本ではアイデアビジネスの段階を超えていない。そして、日本ではリスクキャピタルと呼ばれるハイリスクの段階で投資をする企業が少ない。また、コンサルテーション、コンサルティングという意味でも、日本ではベンチャーに対する知恵を提供する機能が弱い。さらに、インフラについては、日本は箱物だけは大変しっかりしているが、マーケットの中の分業システムがまだ十分にない。これらの問題に対する解決策を見いだし、日本的なビジネス生態系を可及的速やかに育てることが日本での新しい産業育成のために極めて重要な課題になっている。一つの方向として、異業種企業が集まってベンチャーを支援するような仕組みが必要だろう。

 そして、そこでは五つの発想転換が必要である。第一に、大企業の中に囲い込まれている人材がベンチャーに取り組める仕組み、大企業が社内から起業家を輩出していくような支援が必要である。第二に、これからは複合的なビジネスモデルが必要になる。複合的なビジネスモデルの開発を行う場をどう作るかが大きなテーマである。第三に、ベンチャーキャピタルという狭い機能にとどまらず、必要な時に必要な形で資金を得られるというキャピタルネットワークが求められる。第四に、インキュベーターには、ベンチャーがいろいろな異業種企業と連携していけるアライアンス・コーディネーション、戦略的提携の支援の機能がインキュベーターには求められてくる。最後に、顧客ネットワークや企業ネットワークの提供もインキュベーターの重要な役割である。

 日本では、日本の風土に合わせた新しいインキュベーションの戦略を考えていく必要がある。大きな産業ビジョンを掲げながら、一方で、先ほどの五つの発想転換をする。そうすれば、単なるアメリカの機能のまねではなく、日本的な新しいベンチャー支援の仕組み=日本型インキュベーションが生まれてくるだろうと考えている。

(一橋大学イノベーション研究センター教授  米倉 誠一郎 参考人)

 主張したいのは、第一に新しい産業支援、ベンチャー支援は国家戦略の一つに位置づけるべきであること。第二にそれはかなり精緻なシステムとして考える必要があること。まずは、謙虚にアメリカのシステムワイズなロジックを学ぶべきである。

 ベンチャー支援を国家戦略とする理由は、第一に、グローバルな競争をすると大企業は雇用創出力を失っていく。したがって、雇用を作る必然性が出てくる。第二に、新しいビジネスフロンティアは不確実性が高い。したがって、そこでの起業には特殊なシステムが必要である。第三に、ベンチャービジネス支援は小さな企業を創出することではなく、五年から十年の間にグローバルな百社に入るような大企業を創出するということが基本的な眼目である。ベンチャー支援と中小企業支援を混同してはならない。競争に必要な経営資源が世界規模で調達されることになれば、資本調達のために、株主を重視するアメリカ型の経営スタイルが必要となってくる。その結果、事業分野及び人材を絞り込んで利益率を上げる方向へ向かうことから、経済は良くなるが雇用は生まれてこないという「雇用なき回復」が起こる。したがって、雇用を作っていくためには、新しい産業を作らざるを得ない。

 しかし、新しい産業といっても、三か月に一度変わる技術、不確実なマーケットニーズを事前に予測することは不可能である。そこで、多くのトライアル・アンド・エラーを重ね、新しい産業を掘り当てる。不確実性の中で数を打つには、ロウ・エントリーリスク、ハイ・リターンにして参加者を増やす必要がある。それには、ベンチャーキャピタルの促進と簡便な公開市場の整備が重要である。さらに、ここで問題なのは、参加者の質で国の競争力が決まるということである。このゲームに競争力を増やしていくことは大学発のベンチャーをどうやって作るかということでもある。

 ベンチャー支援には五つの前提がある。まずは豊富な資金である。年金基金、機関投資家の資金を新しい産業に向けるためのインセンティブを国が作ることが非常に重要である。アメリカでは一九七九及び八〇年にERISA(従業員退職所得保証法)を改正し、投資環境を整えた。次にハイリターンである。アメリカでは、一九八二年にナショナル・マーケット・システムというコンピュータを導入して、ナスダック市場を整備し、小口投資が可能な仕組みが作られ、資金量も増大した。リスク分散型組織であるベンチャーキャピタルの組織も整備された。さらに、二重課税回避やエンジェル税制等優遇税制の実施も重要である。最後に、アメリカでは失敗をポジティブにする法律(倒産法)を整備したが、失敗の傷をいかに少なくさせるかということが重要である。

 また、大学に対する支援として重要なのは、良いアイデアに対してプロフェッショナルを付けるということ、すなわち、アドミニストレーターの拡充である。研究の効率の悪さが研究者の研究レベルを下げている。

 アメリカの例を見ると、支援策のコアコンセプトが固まってから、花開くまでに、十五年くらい掛かっている。日本も今から真剣な取組が必要である。

 政策的には、点在している施策を一点に統合化することが重要である。ベンチャー支援策を中小企業育成、雇用問題と切り離し、五年から十年以内に国際的な企業を数十社生み出すということをターゲットにする。年金改革、直接金融、上場公開市場の整備もそのために必要な手段である。リストラ、リエンジニアリングを行って、企業競争力を高めている企業にインセンティブが湧くようにする。リストラを止めるのではなく、リストラされた者にセーフティーネットを作る。大学発のベンチャーに対する支援も、それを最終的に大企業にしていくための支援の一環とする。もう一つ言えば、人間が生きていくのに不可欠な環境と食料とエネルギーの三分野に資金を徹底的に投入すべきである。

 政府の役割の中では、「購買」が重要である。例えば、小中学校を光発電にする国家プロジェクトを行い、そのうち一定量を中小企業あるいはベンチャー企業から購買する。これは、公共需要の発生により景気回復に役立つとともに、大量発注で価格が低下し、民生利用が進む可能性がある。そして、この分野でデファクトをとっていくことが日本の新企業、新産業育成の重要なポイントである。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 我が国の長期的かつ総合的な国家戦略を生み出せる政策シンクタンクの必要性については、本当に政策を論じる団体が必要であるにもかかわらず、我が国では政策の現場と現実の人材の行き来が非常に弱い。知の現場にいる者と経営の実務者とが交流し、その両方をやっていけるような仕組みを作るべきであるとの意見が述べられた。

○ 民間主導で行う新産業の育成に関する政府の役割については、国家のビジョン、戦略、市場に対する新しい考え方を国民に対してきちんと示すことが非常に大事であるとの意見が述べられた。

○ 地方の新しい企業、ビジネスづくりなどを促進するための方策については、道州制のような広域的な範囲で行政を考えるべきであるとの意見、地方では、地域が情報、知識、知恵のセンターになるべきであり、地域に愛着を持って日本全国にメッセージを発信し、人々の知恵と関心を集めていける人材を育てることが重要であるとの意見が述べられた。

○ 起業促進のために緩和すべき規制については、日本の国立研究所の運営を民間に委ね、民間のテクノロジーマネジメント能力が国の技術開発の根幹部分に使われるような仕組みを作るべきであるとの意見が述べられた。

○ 直接金融の拡大方策については、ドイツのように、国がインセンティブを用意して民間の貯蓄を直接金融に回すシステムを作ることは十分可能であるとの意見が述べられた。

○ アメリカの状況を見ると、IT関連のインフラが地方に伸びたとしても、現実に地方と都市の問題を解決するまでには至らないのではないかとの問いに対しては、地方は確かに不利な状況にあり、インターネット革命、ブロードバンド革命等をいかにうまく利用していくかが重要である。しかし、地方にいながら知恵の集積、情報が集まる、人も頻繁に行き交いすることは十分にあり得るとの意見が述べられた。

○ 国民が本当の豊かさを感じることができない理由、これからの日本の豊かさとは何かということについては、精神的な面で本当に豊かだというのは生き方のチョイスの多さであるが、日本が用意しているシナリオは少ない、また、非効率な運営を続けてきた結果、日本はお金のコストパフォーマンスが悪いので、投資効果を考えた資本主義の貫徹化が必要であるとの意見、日本人は今、世界の中で最も恵まれた部類に属する国民になっており、この国民にはノブリスオブリージェとでも呼ぶような使命がある。世界に対してどのように貢献していくか、その使命感を国民全体で議論するような文化が生まれたときに、この国は豊かな国になるであろうとの意見が述べられた。

○ 個人金融資産の六〇%を保有する六十五歳以上の方の資産はベンチャーキャピタルには回りにくいということについては、確かに難しいが、期間限定で譲渡税をゼロにし、一番お金が必要な三十代、四十代への所得移転を促すことで直接金融に結び付けるなど大胆な施策を考えていく必要があるとの意見が述べられた。

○ ベンチャービジネスの育成は小さな企業を創出するのではなく、大企業を作ることだとの意味については、日本のベンチャー支援には、何でもいいから数を打つのではなく、有望な成長産業の中に世界的な企業を作る、そのための試行錯誤を援助する資金に限るという意識を持つことが重要であり、地域における経済振興と本当に競争力のある企業を体系的に育てていくことを混同しないことであるとの意見が述べられた。

○ 本当に経済を再生するために、今政治に求められているものは何かとの問いに対しては、ほとんど制度は整ったので、後は、次から次へと新しいことを起こしていくスピードが必要であり、政治に期待したいのは、この国がどういう国に向かうのか、どういう形の税制を取り、どういう国民を創出していくのかという議論をして欲しいとの意見、役人の作文に基づく、魂の入らない大型プロジェクトではない本当にビジョンにあふれるプロジェクトを今打ち上げるべきであるとの意見が述べられた。

○ 大学のインキュベート機能の強化に必要な改革については、産学官の連携をシステマティックに行える制度が重要であるとの意見、大学と民間の人的交流が進むことが最低条件であり社会の隅々にある本当に大切な知恵をネットワークして多くの人たちが享受できる場を作るのが大学の役割であるとの意見、大学がインキュベーションセンターとなるためには人材を育成するだけの知が集中しないといけないとの意見が述べられた。

○ 起業に当たっての更なる支援の在り方については、国による成果の買上げが重要であり、例えば国会の資材調達のうちの一〇%は従業員五十人以下の中小企業から買うなど、他の支援策に加え新たな市場まで提供すれば一貫した支援になるとの意見、ネットベンチャー、ITベンチャーが市場構造の根本的な転換、すなわち今まで大企業に情報主権があったマーケットの構造を生活者、消費者主権に変える歴史的な役割を持って活動しているとの観点からの支援が必要であるとの意見、売上げを得るところ、売るところの支援が重要との意見が述べられた。

○ 国民の起業等に挑戦する気持ちを守り立てるための政治の役目について、国民の一人一人が人間として大きく成長し、成熟した精神へと向かって深まっていける時代にすることが政治の大切な役割であるとの意見、シンボライズされた存在である国会議員が率先して新しいことをやっている人のバックアップをする、新しいものを使うことが日本を変えていくとの意見が述べられた。

(五)産業の空洞化問題及びグローバル化における企業の国際競争力の強化について(平成十四年四月十七日)

 我が国経済の活性化において、産業の空洞化と国際競争力の強化が大きな課題となっていることから、有識者を参考人として招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 両参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(専修大学経済学部教授  鶴田 俊正 参考人)

 一九八六年の『通商白書』や一九八五年度の『世界経済白書』からすると、産業構造の空洞化は、海外直接投資と密接に結び付けられて、国内における生産、投資、雇用等が減少する事態を言っているようである。

 産業構造の空洞化の議論について、一九八〇年前後にアメリカでディインダストリアライゼーションという議論が行われた。当時のアメリカは、第一次石油危機直後、第二次石油危機に直面していた時期で、長期にわたって生産性が停滞していた。

 日本では、一九八五年のプラザ合意による円高の後、空洞化の議論が活発だった。一九九〇年代前半でも空洞化の議論があり、ごく最近また議論が活発化してきた。このように空洞化論はかなり歴史的背景があることを認識した方がよい。

 空洞化を生産、雇用、所得等が低下することと定義すれば、今日の空洞化現象は、直接投資だけで生じているのではなく、むしろ日本経済の長期停滞との関係で、生産、所得、雇用等が減少していると理解する方が適切である。

 ミクロの側面でいうと、日本経済は多くの産業分野で規制が行われており一九九〇年代に入って、規制緩和、規制改革が国の重要な政策と考えられるようになった。規制が行われている状態から自由競争に転換する過程で、スリムにしていかなければならない。

 直接投資は非常にダイナミックなものであり、世界経済発展の原動力であると理解することが必要である。日本からの直接投資の効果については、日本から被投資国に雇用機会、所得機会が移動するが、むしろその結果として経済が発展し、相手国の経済が発展し、日本からの輸出が拡大することによって、日本の中に新しい所得機会と雇用機会が生まれる。

 ただ、今後の大きな課題は、ミクロのベースでいえば、海外から日本への投資によって日本経済が更に活発化することがあり得ることである。空洞化論で欠けている議論はこの論点である。

 空洞化論という悲観論に浸っているのではなく、日本経済の活性化を促すために海外から日本に資本が入ってくるような方策を考えなければならない。そのためには、規制を思い切って見直し、海外企業が日本でビジネスを展開しやすいような風土を作ること、閉鎖的な取引慣行を開かれたものに転換し、海外企業が安心してビジネスができるような環境を作っていくことが重要である。

 これら対内直接投資の促進策を検討しながら、日本企業の競争力を培っていくことがこれからの大きな課題である。メガコンペティション時代における企業競争力の強化のため、高技術、高品質、高生産性、高付加価値の企業が日本の産業構造の中核を担っていくようにしなければならないというのが結論である。

(社団法人大田工業連合会会長  小倉 康弘 参考人)

 社団法人大田工業連合会は、十一団体あり、大企業に追随する中小零細企業の集まりであって、機械金属工業が八五%を占める。昭和三十七年に社団法人として発足したが、傘下の従業員の福祉も考えて、同時に都南工業給食協同組合を立ち上げ、大田区の産業のためにいろいろ施策を練ってきた。

 大田区工業の現状については、工場数は一九八三年九千百九十あったが、一九九〇年は七千八百六十、二〇〇〇年には六千三十八となっている。倒産も、バブル時二千百五十四社だったが、二〇〇〇年一万八千九百二十六社、二〇〇一年には一万九千四百四十一社である。企業の大半は日本の産業の母体である機械金属工業である。全体の約半分が三人以下の企業であり、九人以下の企業が八一・八%という現状である。集積技術があり、大企業の下請の地域だが、景気低迷による受注減で、リストラ等を行っている。現在は、大企業の海外進出、景気低迷、親企業からの値下げ要請により、企業の六割で受注が減っている。基盤技術としては揺らいでないが、大企業からの受注が減って閉鎖するところも出ている。

 産業の空洞化については、「空洞化の影響に関するアンケート調査結果」(連合会実施)によれば、七九・四%の企業で受注減という厳しい状況にある。大田区の技術としては、中小零細企業は、大量生産ではなく少量生産で、開発製品の試作等を行っている。ただ、スプリング製造では、約七割程度の工場で機械が遊休化している。金型でも最近は、試作段階で親企業に提出すると、図面提出、承認図提出を要求される。しかし、図面を提出し、海外で生産されると二度と発注が来ないので、大変苦労している。アンケートでも、基盤技術、開発や試作品等の技術は移転していないし、大企業の海外移転に伴う移転は余り考えていないことがわかる。

 大田区工業の今後としては、技術的には基盤技術を温存しながら、ITによって、受注活動をしながら情報を入手して、より特化した技術の研さんに努めたいとの考えである。連合会には青年部があり、若手経営者と青年部を活発に動かすように考えている。行政施策に対する要望として、契約及び支払条件の適正化について繊維業は九十日、製造業は百二十日となっている割引困難な手形の期間の同等化や支払手形の現金決済化、事業承継についての不動産の評価、特別保証制度における償還据置きと返済期間の長期化について考えてほしい。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 空洞化問題を乗り切っていくための具体的な政策課題については、国内で産業構造がスムーズに転換できるような状態を作ることが大事であって、そのための政策のポイントは、個々の企業の競争力を強化し、日本経済の持っている垂直構造を、規制の見直しによって水平構造に変えて、自由な競争のフィールドを作り出していくことである。それは産業構造を転換し、企業の活力を取り戻す大きな政策手段になるはずである。そうすれば海外からの直接投資が促進され、経済を活性化させていくことにつながると認識しているとの意見が述べられた。

○ 大田区の工場数の減少要因については、昭和三十九年の公害防止条例、四十二年の公害対策基本法、四十四年の東京都公害防止条例等により工場が山形、秋田、福島へ移動したこと、また、海側の埋立地への移動、大企業志向や三K問題等による後継者不足のための企業閉鎖といったことによるとの説明がなされた。

○ 中小企業における金融問題の実態については、確たる保証がないところには金融機関が貸さない貸し渋りが起きており、銀行によっては割り引く手形の枠を決め、業者、企業を限定して手形を割っているとの説明がなされた。

○ ものづくりに対する認識、考え方については、IT時代になっても、伝統的な技能と近代的な技術をいかに接合し、後世に伝えていくかが大事だと認識している。単にそれを守るのではなく、いかに力強いものにしていくかが重要で、子供から大学生まで、ものづくりに対する正確な知識、認識を深めることが大事で、国を挙げてその努力をすべきであるとの意見が述べられた。

○ 中小企業が抱える問題については、無資源国日本はものづくりをしなければ経済を支えられず、ものづくりは絶対に必要である。ものづくりにおいて中小・零細企業は職人気質、技能を温存し続けていく以外に生きる道はなく、技術、技能の研さんを続けていくことが大切である。量産品を中国が作っても、その主体となる部品については手放す考えはない。ただし、中国、台湾で作るならば、その前に金型の図面を高い価格で買い上げてもらってはどうかと考えているとの意見が述べられた。

○ 中高年齢者は、新しい知識や技術に付いていけず、リストラの対象になりやすいが、こうした中高年齢者の持つ知恵を活用する方策については、経済発展の原動力は人間の知識であって、産業化に役立つ知識は重層的かつ多様な広がりを持っている。経済社会の発展のためには、重層的な社会が持っている知識をどのように活用するかが重要である。基礎的な部分では伝統技能が重要な役割を担っており、年齢を刻んでも優れた技能を持っている者に雇用機会が開かれるような社会でなければならない。それが日本社会のダイナミズムの基礎を形作っていくとの意見が述べられた。

○ 日本産業が国際競争に打ち勝ち生き延びていくための課題については、ある程度の日本企業の海外移転はやむを得ないものの、日本の技術、技能は中国にまねができないもので、ものづくりには将来とも希望を持っている。後継者に技術を磨いてもらい、日本のものづくりをなくさないようにしていきたいとの意見が述べられた。

○ 日本が身の回り品を作らない国になりつつあるが、今後日本は何を作るべきかについては、自動車のような総合的産業、しかも基礎では超精密技術が必要な産業を、これからの中核に据えていくべきである。また、エネルギー問題や資源問題が、日本の製品価格が競争価格に対抗できない要因となっており、エネルギー問題に政策対応しつつ、より精度の高い製品、質の高い製品を作ることに特化していけば、コストダウンで製品の競争力は出てくるとの意見が述べられた。

○ 対内直接投資を増加させるためになすべきことについては、日本社会に幅広くある規制を見直すことによって、海外の企業が自由に日本社会の中でビジネスを展開できるような風土を作らなければならないとの意見が述べられた。

○ 技術継承のための人材の確保については、連合会において青年部を立ち上げ、後継者育成のため、後継者、若手経営者がチームワークを作っているとの説明がなされた。

○ 高コスト構造の日本への対日投資促進策として、例えば経済特区を作る考えや、研究開発促進のため、研究開発促進税制をアメリカ並みにすることについては、政府が税制改革に取り組み始めており、政府税調を中心にして検討すればよいと思う。土地、人件費、法人税が高いことは事実だが、人件費はその知的能力に対する対価だと割り切れば決して高くない。また、地価の高いことが対日投資を制約している主要な要因とは思えない。経済特区は一つのアイデアとして傾聴すべきだが、法人税を含めて対日投資を促進するような税制はあり得るだろうとの意見が述べられた。

○ ものづくりに当たっての政府の支援については、基礎技術の研究費に対する国の支援が足りないとの問題が提起された。

○ 為替レートの変動が直接投資に対してどのような影響を与えるかについては、為替レートの変動にうまく対応することは非常に難しいが、日本の対外直接投資を促進しているのが円高であるのは間違いない。ただ、過大な為替レートでは企業の対外進出が促進され過ぎて、いわゆる空洞化問題を短期的に生み出すことも否定し難い。為替レートが円高である要因は、貿易バランスの輸出超過と資本の流出超過によるとの意見が述べられた。

○ 海外の現地生産比率については、製造業全体で二〇〇〇年度の一一・二%から二〇〇五年度には一三・七%に上昇する見込みであるが、こうした海外生産比率の高まりが相手国の経済発展を促し、またそれが日本経済の成長にとって重要な役割を果たしているとの意見が述べられた。

○ 日本では大企業が横暴で、勝手にやっているのではないかとの意見については、日本の大企業が横暴だということではない。また、中小企業の大企業に対する考え方は相互提携であり、業種別分業であって、大企業が採算ベースに乗らないから中小企業に頼るという考え方を持てば、協力し合えるとの意見が述べられた。

○ 金型の加工データ、設計図が外国へ流出していることは問題であり、金型の加工データ、設計図は知的所有権に当たるのではないかとの意見については、金型は知的所有権ではないが、金型の図面は知的所有権として認めてほしいとの意見が述べられた。

(六)豊かさを支える雇用環境の整備について(平成十四年四月二十四日)

豊かさを支える雇用環境の整備に向けた課題を概観するため、雇用問題に詳しい有識者を参考人として招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

各参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(東京大学社会科学研究所教授  佐藤 博樹 参考人)

 多様な働き方、就業形態が十分生かされる社会を作るためには、雇用政策から就業政策への変更が求められる。持続可能な社会保障制度構築のためには、制度の担い手、働き手の拡大が大事である。また、若年者、既婚女性、高齢者等の潜在的な人的資源に広く働く場、社会参加の機会を提供していくことが望ましい。こうした視点からも就業率向上は重要である。

 具体的には、生産年齢人口の何%ぐらいの就業率を目指すという目標就業率の設定、女性就業率が海外と比べて低いことから女性の就業率目標を立てることが考えられる。

 就業率目標を政策に入れることで、第一に雇用対策から就業対策へと施策の範囲が広がり、雇用者だけでなく多様な就業形態が視野に入る。現状の能力開発施策は雇用保険加入者が対象であり、結婚、出産後に家庭に入った女性、若年のフリーターには能力開発の機会が提供されていない。

 第二に、多様な人が働けるような就業機会を作り出さなければ就業率が上がらないことから、多様な就業形態、多就業型ワークシェアリングの議論も視野に入ってくる。異なる働き方の間での処遇均衡、能力開発や社会保険等が働き方に関係なく整備されているかといった課題が重要になる。

 第三に、パートの働き方の改善を取り上げることが当面重要となる。現状では正社員が減る一方、非正社員が増え、一部ではパートの基幹労働力化が増えている。正社員の働き方も変化し、働き方が正社員と大差のないパートが増えているものの、処遇や処遇の決め方には大きな違いがある。現状のまま正社員が減りパートが増えた場合、労働市場全体として労働条件の低下や雇用の不安定化が起きかねない。処遇の面で報われなければ、ほどほどの働き方でいいと考えるパートが増えないとも限らない。

 正社員を含めた雇用システム全体の見直しが不可欠である。まず出発点として正社員と非正社員ともに大事な人材として位置付け、その上で、働き方に応じて処遇することが大事であり、賃金水準については時間比例にすることが望ましい。こうした取組によって、短時間勤務とフルタイムの間を相互に行き来できるような働き方ができていくのではないか。

(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科助教授  永瀬 伸子 参考人)

 非正社員は九〇年代に女性、若年層、高年齢の男性を中心に急増した。非正社員の拡大は世界的な流れだが、我が国では正社員との間で賃金、雇用の安定性、社会保険、企業年金や退職金等の格差が大きい点が特徴的である。

 これまで拘束性の高い正社員との格差は容認されてきたが、それも効率的ではない時代になっている。正社員の拘束性を嫌う若者が増え、正社員で子供を持っている女性は少数である。また、正社員には世帯賃金をとの考え方は中高年の男性失業者の再就職をかえって難しくしている。

 平成十一年に行われた調査によれば、正社員よりも賃金が低いと思っていて、同じような職務内容の正社員との賃金差に納得できない非正社員が大体四割となっている。これは生計を維持する必要があるにもかかわらず、お小遣い程度の賃金である点への女性の低い納得度が現れているためであろう。

 正社員と非正社員の均等待遇は、人口構造等から見ても進むべき方向であり、総論としての理解は多くが持っているが、実態としては簡単に進まない。

 今後は正社員と非正社員の雇用区分の垣根を低める必要がある。そのためには、両者間の随時転換を可能にしていくことが重要であり、非正社員の法律上の扱い、従業員代表の中への非正社員代表の加入、社会保険の扱い、育児・介護休業法等の非正社員への適用を考えることが必要となる。

 重要なのは働き方の暗黙の合意を変えることにある。家庭責任を男女が取ることを前提に制度を考えて行くことが必要である。具体的にお願いしたいのは、(1)育児休業を時間貯蓄制にする点、(2)保育園枠の目標を何万人という総数から子供の何割という形に変える点である。保育園入園のため休業期間を残して四月に復帰する女性は多いが、残した分を短時間勤務でその後も使える形にできないか。また、保育園枠を二歳児の三割という形にすると、どの自治体で相対的に少ないかが明確になるとともに、より多くの人が保育園に対してアプローチできる。

 また、若年層が普通のこととして家庭も子供も仕事も持てるよう、是非若年層に重点的な施策をしていただきたい。

(株式会社ベネッセコーポレーション人財部長  柏渕 忠 参考人)

 当社は女性社員が正社員の六〇%近くと多く、全員総合職で給与体系も全く一緒である点が特徴的である。また外部人材の活用も多い。平成七年に新しい人事制度の柱として成果主義、自由と自己責任を掲げ制度改革を全般的に行っており、昭和六十一年に再雇用制度、平成七年に育児休職制度を設け、最近では復帰率は八割となっている。育児休業は男性も使える形にはなっているが、今のところ活用例はない。平成四年ぐらいから育児時短勤務を設けている。平成七年からカフェテリアプランを始め、この中に事業所内託児所等、様々な制度を補助する形で盛り込んでいる。

 こうした制度を取り入れたメリットとしては、まず勤続年数が延びていることが挙げられる。女性が働きやすい職場ということで、新卒採用のランキング、就職人気ランキングも高くなっている。また、育児経験を活かして子供向け商品のモニターを自らやり、それをまた商品に反映するという形で、社員も含めたコミュニティービジネスができている。

 今後の課題の一つは管理職に占める女性社員のシェアが低い点である。もう一つは、残業の増加等から体調を崩す等、ヘルスケア的な課題が増えている点である。また、時短勤務社員が増え、組織編成等での配慮が難しくなっており、マネジメントのテーマとしてケアしていこうと考えている。

 今後の課題としては、契約社員のような形での雇用形態に加えて、在宅、SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)も志向していこうと考えている。また、やはり契約社員というと、実際入社するときに迷ってしまう方がいるのが現実であり、サポートできるように変えていきたい。個人事業主として契約し、その時々にプロとして活躍して、実際に会社への貢献が終わった段階でまた移っていく、そうした形態が会社、事業形態が変革している今の時期には非常に有効性がある。こうした分野では法制面での支援が必要な部分があるのではないか。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 経営者にとって正社員と非正社員の格差解消を進めるインセンティブは何かという点については、能力に応じた処遇はパートの能力向上意欲、働く意欲を高め、会社への貢献にも寄与するとの意見が述べられた。

○ 保育園枠の二歳児の三、四割への義務づけは財政問題からも厳しいのではないかとの意見に対しては、保育園の入園比率の高い地域では出生率、既婚女性の労働力率も高いとの見解に加え、社会保障給付費は児童向けが少なく、もっと財源が振り向けられるべきとの意見が示された。

○ 終身雇用から転職の時代へ変化するなかでの企業の雇用の在り方については、付加価値を生み出す人材を企業内で育成、確保し、企業が人的資源投資するコアとなる人材と他の多様な就業形態の人材を上手く組み合わせていくとともに、バランスのとれた処遇体制をつくることが企業の競争力につながっていくとの意見が述べられた。

○ 真の豊かさについては、意欲と能力を活かす働き方が提供されること、仕事の場と家庭や地域等の非金銭的な豊かさを感じられる場の双方を全ての人が持ち、同時にやり直しができること、子供と経験豊かな高齢者を結び付けるような縦のコミュニケーションを増やすことが豊かさにつながるとの意見が示された。

○ 子育て等の機会費用の社会的負担については、その費用が女性だけに掛かる状態は変えていかなければならないという意見があった。

○ ファミリーフレンドリーな企業文化が今後我が国で育つための望ましい施策については、意欲ある女性をどう支援するかが大事であり、保育施設が見つからず復職のタイミングが遅れるケースもあることから、インフラ整備としての保育園拡充が必要であるとの意見が出された。

○ 正社員と非正社員の均等待遇に関する基本的な法体系については、現行のパート労働法第三条での事業主への均衡処遇配慮の義務付けは、義務では弱すぎるとの議論もあるが、労働時間の長短による処遇差別は合理的な理由の無い限り禁止という形や、オランダのように従業員が働く時間帯、曜日の希望を企業に出すという仕組みも考えられるとの意見が示された。

○ 派遣や有期雇用契約の規制緩和については、反復更新で長期勤続になっている有期雇用が問題であるが、有期雇用契約は無期を原則とし、中間的な雇用保障の段階を作ることで解決できるとの見解が出された。また、そのためには雇用契約法制を整備すべきであるとの意見も示された。

○ 第三号被保険者制度については、今後は形を変えるべきであり、(1)非正社員の被用者年金加入、(2)一案として末子十歳ぐらいまで社会保険料を免除し基礎年金分を付与、就業時の報酬比例分については育児で低くなった分を配慮する、(3)子供が育ってもなお専業主婦がいる世帯のうち、豊かな世帯では男性の年金権を妻に分割する等が必要との意見が述べられた。

○ 所得税の配偶者控除、配偶者特別控除については、基本的には控除を廃止し、子供のケアへの配慮ととらえ、児童手当という形で直接給付の方がいいのではないかとの意見が示された。

○ 女性の創業しやすい環境整備が必要ではないかとの意見については、働く機会を増やすためにも開業支援が重要であり、支援策としては、(1)開業しようとする母集団の増加、(2)開業率向上、(3)存続率向上、(4)廃業支援を促すことが必要であるとの見方が示された。

○ 労働者全体の雇用条件の水準を高めていく点で正社員と非正社員の均等処遇をどうとらえるかについては、正社員、非正社員ともに同一労働同一賃金が原則だが、同じ仕事でも能力や将来のキャリア等を含めて処遇を考える必要があり、この点の整理を進めていく必要があるとの意見が示された。また、年功賃金制度、低すぎる非正社員の賃金等の従来の日本の雇用慣行にはゆがみが生じており、大きく見直す時期にあるとの意見も出された。

○ 余暇の時間については、定年が六十五歳まで延びても、途中で育児や介護、能力開発等で休業し、職業生涯の時間は余り変わらないとするのがこれから目指すべき社会の在り方ではないかとの見方が示された。また、男女で働き、共に家庭生活に責任を持つということは、ゆとりの時間を持つことが前提条件となるが、現状は男性は仕事を失わないよう、女性は賃金を増やすために長時間労働をし、家庭時間が縮小しているとの意見が述べられた。

二 政府の説明聴取及び質疑応答

(一)「改革先行プログラム」について(平成十三年十一月二十一日)

 構造改革を加速するため、平成十三年十月二十六日の経済対策閣僚会議で決定された「改革先行プログラム」について、内閣府から説明を聴取し、質疑を行った。

 その質疑の概要は次のとおりである。

○ 平成十四年度予算編成の基本方針は、森林整備の強化を図るという改革先行プログラムの考え方と一貫性が保たれるべきではないかとの意見については、森林整備は、地球環境の保全、雇用対策や木材産業の経営革新に役立つものであり、構造改革の中で実施されるべきものと理解している。平成十四年度予算については、経済財政諮問会議の審議を経て予算編成の基本方針で考え方を示すが、その際先の骨太の方針を踏まえた取組が記述されると考えているとの答弁があった。

○ 構造改革の実現に向けて、国民参加のよりよい手法を考えるべきではないかとの意見については、これまでタウンミーティング、メールマガジンなどを通じて国民との対話、国民の理解を図るように進めてきたが、今後も国民との対話を重視しながら構造改革を進める方針であるとの答弁があった。

○ これからの教育は、自営志向の人間養成への重点移行、人間学、企業学の開発・導入が望ましいとの考えについては、大学における人材育成に対し、各大学がカリキュラムの編成など工夫を凝らしている。特に経済再生への貢献、起業家マインドを持った人材の育成では、国公私を通じてそのための講座、講義を数多く工夫しながら設けているとの答弁があった。

○ いわゆるマル経融資制度の貸付限度額の別枠、本枠の一本化を図ることができないかとの意見については、別枠を撤廃して本枠との一体化を図ることは、別枠が景気対策による時限措置として実施しているところから難しいが、小規模事業者向けの融資制度としてマル経融資制度の重要性が増しており、平成十四年度においても、一千万円まで融資可能となるよう貸付限度額の特例、加えて貸付期間の延長を実施すべく要求しているとの答弁があった。

○ 個人保証制度が過酷すぎるため、倒産時に基本的な生活権さえ侵されるケースが多々あるが、差し押さえ禁止財産をせめてアメリカ並みに保障すべきとの意見については、現在、法務省で破産法の大改正に着手しており、法制審議会で検討を続けている。差し押さえ禁止財産の問題について検討項目の一つに入っているが、債務者の経済生活再建を容易にするために広げるべきという意見に対し、債権者に対する配当が減ることが問題になる。また、債務者のモラルハザードの問題もあるとの答弁があった。

○ 中小企業の事業承継問題に関し、諸外国同様に、例えば五年程度の事業承継を前提として課税対象額の五割を控除するといった制度を創設すべきではないかとの意見については、事業用の小規模宅地等の課税の特例など最大限の配慮を行ってきているところであるが、事業承継の円滑化のために更なる優遇税制を講ずることについては、事業承継の実態等を踏まえ、これまでの優遇措置との関係、親の財産に依存せずに自ら起業する者とのバランス、機会の均等、給与所得者の相続税の負担とそのバランスなど、検討すべき問題があるとの答弁があった。

○ 産業構造の転換が遅々として進まない硬直状態を解決する具体策については、将来も社会保障制度等が維持できることを国民に理解してもらうことが必要である。また、医療、福祉、教育、人材、環境、都市再生といった分野での規制改革が進められることが必要であるとの答弁があった。

○ 地方の自立が経済活性化のために重要課題であるとの意見については、いわゆる骨太の方針でも「個性ある地方の競争―自立した国・地方関係の確立」について述べているが、それぞれの地域が自立して個性と創造性を発揮してもらい、知恵と工夫により置かれた環境の中で頑張ってもらうとの考えが重要であるとの答弁があった。

○ 今後における働き方の変化の方向と必要となる施策については、産業構造の変化、価値観の多様化する一方、女性の就業状況を見ても、雇用者に占める女性の割合が年々上昇するなど、女性の労働力率は上昇傾向にある。こうした変化に的確に対応するためには、仕事と育児、介護の両立の負担軽減、雇用均等のための雇用環境の整備、多様で柔軟な働き方の選択、働き方に応じた適正な労働条件、処遇の確保といったことが重要であるとの答弁があった。

○ 工場等制限法の廃止については、昨今における産業構造の変化、経済のグローバル化のほか、大学の地方立地、工場の地方での立地、また海外進出が進む一方で、都市環境の改善で大都市の交通量は増大しているものの、緩和状態になっていること等により、工場立地制限の理由が変わってきている。地方自治体、経済団体からの見直しの意見を受け、現在、国土審議会に首都圏と近畿圏の二つの分科会をつくり、審議中であるとの答弁があった。

○ 貸し渋り対策として国が創設した中小企業金融安定化特別保証制度における中小企業総合事業団の融資の在り方、保険準備基金の積増しについては、平成十二年度末の中小企業総合事業団の保険準備基金残高が一兆円、保険収支差がマイナス四千七百億円、本年十月末時点の回収率が五・三九%となっているが、回収体制の一層の強化を図ることに加え、リスクに応じた保険料率の設定等の収支改善策を実施するなど適切に対応したいとの答弁があった。

○ 中小企業、ベンチャー企業等新たな起業者の経営をしやすくする方策については、新市場、成長分野に果敢に挑戦する創業者、中小企業を後押しする創業・経営革新支援策を強化することが重要である。創業支援としては、無担保無保証の新しい融資制度の創設、新事業を創出する関連保証の引上げ、全国の商工会、商工会議所、中小企業支援センターによる創業塾、セミナー等の拡充を図りたい。経営革新支援策としても、経営革新講座、経営革新支援セミナー等の人づくり、ビジネスのマッチングを行うとともに、技術革新による経営革新の支援、ITによる経営革新支援に取り組みたい。さらに、資金調達手段の多様化の観点から、政府系金融機関による経営革新新企業に対する低利融資制度、私募債の対象拡大も図っていきたいとの答弁があった。

○ 放課後児童の受入体制の整備については、平成十四年度に放課後児童クラブ八百カ所の概算要求をしている。放課後児童健全育成事業は、児童福祉法の施行令で、必要最小限の設備基準が定めてあり、実施通知において、活動を要する遊具、図書、児童の所持品を収納するロッカーを備えるものとしている。また、国庫補助は、一定の利用料徴収を前提として年間約百五十三万円と積算しており、順次改善を図っているとの答弁があった。

○ 消費税の減税こそ国民の購買力を高めるために必要ではないかとの意見については、現下の極めて厳しい財政状況を考えれば、消費税の引下げはとり得る政策ではないとの答弁があった。

○ 求人数が減少している新規高校卒業者の対策については、高等学校の担当教員、ハローワークの職員が対応に当たっているほか、学卒専任の求人開拓推進員、都道府県の労働局幹部及び大臣自らも求人開拓を行っている。また、高校新卒者対象の集団就職面接会を催すなど努力している。進路指導等の体制充実のための教職員定数の改善を図ってきており、加配措置も講じている。企業訪問等における交通費、通信費等は、地方交付税で措置されており、各校に配分されるが、各校が教育活動に要する経費全体の中で工夫して取り組んでほしいとの答弁があった。

○ 雇用期間六カ月未満を原則とする緊急地域雇用創出特別交付金については、障害者等の世話をするような特定の人間関係が生じる仕事、事業継続のための事務局的な仕事、災害で土地を離れての仕事のような場合には、一回に限り、雇用期間の更新を認めているとの答弁があった。

○ 構造改革の推進に明るい展望を示すことが必要だという指摘については、改革先行プログラムが具体性に欠けわかりにくいとの指摘もあるが、構造改革は国民生活に関係が深く、元気が出る構造改革をするための理解を得るよう努めていきたいとの答弁があった。

○ 骨太の方針、改革先行プログラムに基本的な理念が見えないとの意見については、民間に任せられるものは民間に任せる、地方に任せられるものは地方に任せることが基本的な考え方であるとの答弁があった。

○ 厳しい経済情勢下での雇用問題への政府の対応については、世界競争が激しくなる中での生産拠点の移動や新しい技術の出現で、雇用問題は、需要、供給の両面から変化していくと思われるが、規制を撤廃し、そこに新しい仕事を生み出し、開業、創業の支援で仕事を増やしていくという方法もある。ミスマッチを減らすことが雇用対策の課題であるとの答弁があった。

○ 製造業の生き残りの戦略、展望については、加工貿易、科学技術創造立国を支える上で、その重要性はこれからも変わらない。製造業が近年、いわゆる第二の空洞化ともいうべき事態に陥っていることに強い懸念を持っている。経済産業大臣の私的懇談会として産業競争力戦略会議を発足させ、競争力のある製造業をどう存続、発展させるかについて幅広い角度からの総合戦略の検討に着手したとの答弁があった。

(二)「構造改革と経済財政の中期展望」と経済の活性化策、雇用政策及び社会保障制度の在り方について

 (平成十四年二月十三日)

 構造改革を中心とする経済財政運営の中期的な展望を明らかにするため、平成十四年一月二十五日に閣議決定された「構造改革と経済財政の中期展望」について内閣府から説明を聴取するとともに、経済の活性化策、雇用政策及び社会保障制度の在り方について質疑を行った。

 その質疑の概要は次のとおりである。

○ 現在の不況の短期的な要因については、前回の景気回復が外需に依存していたこと、IT部門への依存が大きかったこと、所得が伸び悩み消費が低迷していること、不良債権、過剰債務が経済のおもしとなっていることが挙げられた。

○ 内閣府のモデルで物価指数がプラスになる要因については、中期的には構造改革が進むことによって生産性が上がってくる、経済全体が言わば力を取り戻すことが重要である。短期的には不良債権を何とかすること、資産市場を活性化することも含め全般に考えていく必要があるとの見解が示された。

○ 一・五%以上の実質経済成長率を見込む根拠については、まず、規制改革が進展し、政府のやっていたことを民間がやるようになると、投資が拡大し、あるいは起業が促進される。第二に、財政赤字を削減すると同時に持続可能な社会保障制度をきちんと構築していくと、将来に対する不安が軽減され消費も拡大する。第三に、歳出の中身を合理化することにより雇用や仕事が増えていく、また、労働力需給のミスマッチが解消していく。第四に、生産性が基本的には上昇していく。それから、女性や高齢者の就業率あるいは労働力率が上昇することが挙げられた。

○ 時代のニーズに合った大学の改革や学科の見直しに向けた取り組みについては、国公私立大学の設置認可の仕組みも近年相当弾力化してきた。更に設置の在り方について中央教育審議会の関係の分科会で検討中であり、その検討を経て速やかに更なる改善に努めていきたいとの答弁があった。

○ 産学官連携は空洞化解消や雇用にも大きく貢献するだろうと思っているが、産学官連携を促進するため、制度的にどう改めていくのかとの意見に対しては、昨年六月に大学を起点とする経済活性化のための構造改革プランを発表し、その中でも産学官連携を重要な項目の一つに位置付けて、取組を更に進めたいと考えている。十四年度予算でも特に大学発ベンチャー創出を力付けようということで予算も講じており、また、現在国立大学の改革の議論も行われており、その中でも産学官連携をやりやすくするにはどうしたらいいかという観点から検討しているとの見解が示された。

○ 「改革と展望」の閣議決定という事態を受けて、厚生労働省は新たな雇用対策基本計画の策定に早急に当たるべきだとの意見に対しては、「改革と展望」の雇用関係の考え方は、現行の雇用対策基本計画の基本的な課題認識と一致している。今般廃止された従前の経済計画が新しい「改革と展望」に変わったという形式的な理由で現行の雇用対策基本計画を直ちに改定することは考えていない。また、国が講じようとする施策の基本方向という実質的な側面においても、直ちに現在の雇用対策基本計画を改定する必要があるとは考えていないとの見解が示された。

○ 非常事態とも言うべき極めて厳しい雇用環境に対処すべく、正にセーフティーネットの根幹を成す雇用保険の全国延長給付の要件緩和によって非自発的失業者を重点に置いた失業給付の九十日延長を図るべきではないかとの意見に対しては、全国延長給付は現在のところその発動基準に達しておらず、要件を緩和して全国一律に給付を延長するということになると、失業者の滞留を招くおそれも十分ある。要件の緩和は考えていないとの見解が示された。

○ 倒産関係法制を見ると、労働者の給与の支払に充てられる労働債権の優先順位が未納の税金に充てられる租税債権より低い。このように極めて冷たい倒産関係法制は早急に改めるべきであるとの意見に対しては、現在法務省で倒産関係法制の見直しを進めている。その中で、労働債権の順位を引き上げるべきではないかという指摘がなされており、重要な論点の一つとなっている。本日伺った意見も参考にさせていただいて更に検討を深めたいとの答弁があった。

○ 現行の有利子の育英奨学金の対象に高校生を加えてほしい、有利子の奨学金も随時採用の制度としてほしいとの要望に対しては、緊急採用奨学金制度は随時受け付けているので、周知徹底なども図っていきたい。有利子は様々な問題があるので、検討を十分しなければならないとの見解が示された。

○ 完全失業率を五・六%とする予測は楽観的過ぎるとの批判については、改革がうまくいったことを前提とした場合の数字であり、何もしない状況に比べれば低い数字になっていくと思うとの答弁があった。

○ ワークシェアリングは実現していく前提の下に考えていく必要があるのではないか。周辺整備をもう少し深めるべきではないかとの意見に対しては、総理大臣の施政方針演説では、「改革と展望」より一歩進んで「ワークシェアリングの実施に向けて検討を行う」という表現になっているとの答弁があった。

○ NPOは雇用の受皿になるものと期待されるが、今後どうあるべきかとの問いに対しては、NPOがもっといろいろな局面で活躍していただければと思う。ただ、NPOの名前をかりて商売を行う例もあり、NPOの間でもっと競争が起き、淘汰が進んで均衡状態が出てこなければ、NPOをもっと税制優遇すればいいということにならないのではないかとの見解が示された。

○ 児童扶養手当制度を見直さない場合の国庫負担額については、約百二十億円程度の増加が見込まれるとの答弁があった。

○ 児童扶養手当制度の見直しによって手当額が減る世帯数については、全額支給世帯と一部支給世帯を合わせて三十三万人程度で受給者全体の約四六%である。一部支給世帯のみでは十五万人であるとの説明があった。

○ 厚生労働省は今の収入ベースで児童扶養手当の一部支給の上限を三百万円から三百六十五万円に引き上げるという説明をしているが、三十五万円の寡婦控除をやめると現行の計算方法では三百三十万円になる。このような説明の仕方で母子家庭と国民の信頼を得られると思うかとの意見に対しては、母子、寡婦の団体、自治体などとも意見交換をしたり、情報提供を細かにやりながら、慎重に進めているとの見解が示された。

○ 保育所入所待機児童の定義変更は大変な問題をはらんでいるとの指摘があったが、この定義変更については、いわゆる保育ママ、保育室などで保育されている児童は待機児童数に含めないことにする。他に入所可能な保育所があるにもかかわらず特定の保育所を希望して待機しているような場合は待機児童に含めないことにするとの説明があった。

○ 土曜日に開設する学童保育へ補助してほしいとの要望に対しては、平成十四年度予算で土日祝日開設加算という補助金を創設することにしている。二十人以下の学童保育への補助については、平成十四年度予算において都市部も含めすべての地域で十人以上のクラブを補助対象としていきたい。一人以上の障害児の学童保育受入れへ補助してほしいとの要望に対しては、十三年度から試行事業として障害児を四人以上受け入れる児童クラブに対して加算しており、試行事業等の結果を見て検討していきたい。学童保育施設の整備への補助については、十三年度一次補正、二次補正、十四年度予算において従来の補助に加えて、単独で整備する場合にも助成を行うことにしているとの答弁があった。

○ デフレ対策の最優先を確認したことは構造改革路線の転換ないしは手直しを意味するのかとの問いに対しては、構造改革は新しい消費や投資を生み出すことによってデフレの背景にある需要不足の解消にも寄与する。構造改革の過程で新規需要の創出を通じて一般物価の上昇圧力が高まりデフレの解消につながる。デフレ対策と構造改革は矛盾していないとの答弁があった。構造改革と景気対策の両立については、景気回復が短命に終わってしまうことの背景には、構造が時代に適応していないことがある。経済の体質を強めていくことこそが短期の景気の問題への対応にも役立つとの見解が示された。

○ 不良債権問題と過剰債務問題の解決が進捗しない原因については、土地の価格が下げ止まっていないこと、金利を十分に払えないような低収益の企業もかなり存在すること、金融庁を中心として金融の監督を強化したい、金融機関もより厳格な資産査定や債務者の区分を行っていることが挙げられた。

○ 金融機関への公的資金投入については、必要なときに対応する仕組みは整っており、それをやるかやらないかは所管省庁が判断する。諮問会議を中心としてデフレ対策を議論する過程でも金融庁ともよく協力していきたいとの見解が示された。

○ 貸し渋りの解消については、健全な中小企業が資金繰りのないために活躍できない事態にならないようにということは、対策の中でもその精神は書いてあり、金融庁もそういうことで対応しているものと理解しているとの見解が示された。

○ 不良債権の最終的な処理に伴い、労働力、資本などを生産性の高い分野に移動させることになると言われており、過渡期の雇用対策は極めて重要であるが、この対策については、雇用の受皿を増やすことが大きな柱になる。その上で、円滑な労働移動を図っていく。どうしても失業状態に陥る方が出るので、セーフティーネットを整備する。そこで、平成十三年九月に総合雇用対策を策定し取り組んでいる。その中で、まず、新市場、新産業の育成を大きな柱として、経済産業省始め関係省庁等で努力をいただき、厚生労働省も支援している。厚生労働省としては、離職者等に能力開発をして円滑に移動できるように支援する。求職者のために、五万人のキャリアカウンセラー、マンツーマンで職業相談、指導をする人を養成している。円滑な移動という面では、事業主が離職者を大量に出し、民間の就職支援会社と契約をして、そちらの方でかなり活躍してもらう場合には、事業主に対し国からも支援をしている。セーフティーネットという面では、よりよい職に就けるよう雇用保険制度の中にも訓練延長給付制度を充実して、中高年齢者等を中心により就職に結び付く訓練をできるよう法改正をした。当座の問題として、緊急地域雇用創出交付金事業も一月から実施している。これはつなぎ的な雇用であるが、その間にも必要な職業能力が身に付くよう工夫をしながら進めている。そのほかに、必ずしも雇用に着目せずに、例えば新規開業をする高年齢者にも資金を助成したり、起業で必要となる人材相談、人材育成についての支援等も始めている。こうしたあらゆる手だてを使って不良債権処理等に伴う離職者問題等に対応していくとの答弁があった。

三 委員間の意見交換(平成十四年五月二十二日)

(一)意見表明(全文は参考に掲載)
(自由民主党・保守党)

 我が国経済社会が急速に厳しい状況に陥った要因の一つはグローバル化で国際競争力が著しく低下したことであり、もう一つは情報通信技術の発展、少子高齢化社会の進展など経済社会環境の急激な変化である。我が国はある意味で歴史的な転換点を迎えているが、依然として旧来型の習慣やシステムの中で活動しており、私たちの意識そのものが急速に変化する社会環境に追い付いていない。

 それでもなお、私たちの周りには、美しい自然、良き習慣・伝統が脈々と息づいている。今こそ私たちは、知恵を絞って、それらを巧みに生かしながら、時代に合った新しい価値観を生み出していくことを真剣に考えるべきである。高度経済成長期に積み上げてきた社会システムや経済構造、地域社会、教育、社会保障の在り方等を大きく変えていかなければならない。これまでの成長一辺倒でなく、成熟した社会における真の意味での豊かな社会を構築し、持続させていくためには、時代の社会環境に適合するようにライフスタイルも変えていくことが重要である。

 例えば、都市生活者と地方生活者の積極的な交流を通じ、都市と農山漁村の共生を図っていくことが重要である。ストレスの多い都市での生活を離れ、豊かな自然とゆったりした時間の流れを体感できる農山漁村で生活することが可能な仕組みを作ると同時に、その逆の仕組みも作れば、ある意味でライフスタイルの変化につながる大きな意義がある。市場の効率性や生産性だけを追求する施策を推進すると、地方、特に農山漁村が取り残される危険は極めて高い。一方、競争だけにさらされる都市の労働者、生活者が真の豊かさを感じることができるか疑問である。都市と農村が歩み寄って知恵を出し合い、農山漁村の引く力と都市側の押す力がうまくかみ合うならば、物は動き人も動き、活気が再び出てくる。その先に人々が互いに豊かさを感じることができるなら、経済活性化の一つのモデルになるものと考える。

(民主党・新緑風会)

 これまで政府、学者、経営者等から有意義な意見を聞いたが、二年目以降は、これらの意見を踏まえ、本調査会の原点でもある「真に豊かな社会の構築」という軸で再整理し、議論を更に深めていく必要がある。そのためにはまず、国民がどのようなライフスタイルを望んでいるかについて考える必要がある。

 例えば、一つは共働きである。高水準の日本の労働コストに対して、国際競争力の点から下げ圧力が働き、今後は、共働きが一般的になる。一家の大黒柱が家族を支えるというライフスタイルから共働きへ変わるならば、それに伴い、社会保障制度や税制も変革を求められる。

 もう一つは、高齢者の就業についてである。現行の年金、医療制度等は年齢を基準にしているため、高齢者の就業意識と年金制度等が時として矛盾する。一九九九年に年金制度の抜本改革に踏み切ったスウェーデンでは、保険料を支払い年金受給を先に延ばすほど受給額が増える。高齢者の高まる就業意識や価値観の変化にマッチした仕組みだが、今後、我が国が年金制度の抜本改革に取り組む前提として、高齢者の就業意識の検討、調査が必要である。

 また、日本が今後どの産業分野で世界に挑んでいくかという戦略も社会保障制度や税制、教育等の在り方に影響を与える。日本がものづくり技術以外で生きていくならば、ものづくり技術の育成に重要だった固定的な雇用確保の考え方から流動的な雇用確保の考え方に抜本的に改めていく必要がある。

 国民が望むライフスタイルは非常に扱い難い問題だが、国としても、時代の流れにマッチした制度を構築していくため、ライフスタイルを考えることは不可避な課題である。

(公明党)

 心の豊かさをどのように感じるかは人によって異なるが、ある程度の社会保障を含めた経済的裏付けがなければ、真に心豊かに暮らすことは困難と思われる。そうした心豊かに暮らす基盤を創ることが、私どもの使命と認識している。

 今日、企業がグローバリゼイションの進展の中で、厳しい国際競争を勝ち抜くためには、これまでの国内ルールでは通用しない時代である。様々な規制緩和、大きな構造改革が急務である。例えば、総合規制改革会議や経済財政諮問会議等でも六ないし七つの特区構想が議論されている。全国規模での規制緩和には反対との意見があっても、先進的なモデル事例として地方の特色を活かし、沖縄の金融特区、教育特区、国際物流特区、医療特区などから始めていくことも考えられるのではないか。教育特区も興味深い。日本では、GDPに対する教育費の割合はOECD(経済協力開発機構)三十か国で最も低い水準である。人材こそが最大の財産であり、教育は最大の投資である。明日への成長力のためには、人に投資すべきである。

 また、再起可能な社会の実現を目指すべきである。日本の企業の資金調達は難しく、ミドルリスク・ミドルリターンの金融を実現することがベンチャー、中小企業支援には重要である。また間接金融を直接金融に発展させる必要がある。現状では、倒産した際には身ぐるみはがされてしまう状況である。このため、最低生活費として、二十一万円しか差押え禁止とならない現在の倒産法制の見直しが必要である。様々な面から再起可能な社会を構築する必要がある。

 これからは男女がともに働きながら家庭を支えていく時代になる。労働者の就業に対するニーズの多様化や企業の事業環境の急速な変化に的確にこたえなければならない。育児休業、保育所の増設、放課後児童クラブ等を始め、地方分権、都市再生、男女共同参画という観点に立ち、国民の選択肢を広げる必要がある。夫婦別姓も視野に入れた広い意味での変革を考えなければ、真に豊かな社会の構築はあり得ない。

(日本共産党)

 経済大国と言われながら、本当の豊かさを実感できないのはなぜか、この国民の疑問に答えるための政治の責任について考えてみたい。

 まず、豊かさとは何かという問題である。「真に豊かな社会の構築」のために国民が求めているものは、物質的な豊かさに加えて、物やお金だけでは味わえない、人間らしいゆとりのある、また心の豊かさも十分共有できる新しい社会である。しかし、現下の国民生活の実態は完全失業者は約三百八十万人、長時間過密労働、少子化の進行、低賃金のパート労働者の増大など深刻な危機に陥っていると言わざるを得ない。小泉構造改革の道を突き進むことは、国民が豊かになっていく道とは考えられず、根本的な転換が必要である。

 雇用対策と働き方についての第一は、新たな失業者を作らない政策への転換である。日本でも、ヨーロッパの多くの国で行われている解雇規制法など大企業のリストラ規制のルールを早急に確立すべきである。第二は、サービス残業の根絶で賃下げなしのワークシェアリングを実行し、九十万人の雇用を生み出せるという試算もあり、国民生活に不可欠の分野での公的な雇用を拡大することである。第三は、失業者の生活保障の問題であり、ヨーロッパ並の水準を目指した抜本的な拡充を行うことが必要である。第四は、男女ともに仕事と家庭に責任が果たせるよう、女性の仕事と母性保護をしっかりと保障し、男性の長時間勤務を改め、保育所や学童保育の充実を公的な責任において図るべきである。

 次に、国民生活と社会保障については、まず何よりも社会保障を充実させ、将来の不安を取り除くことである。介護保険料や健康保険料の負担増をやめ、六歳までの乳幼児医療費の無料化が必要である。そのためにも、国民の生存権を明記し、社会保障を国の責務としている憲法の立場に立って、米軍の思いやり予算を大幅に削減することで、国民の社会保障財源を確保し、その向上を図ることは十分に可能である。

 次に、景気の回復、産業の空洞化対策の問題である。景気の回復には、社会保障の充実に加え、消費税を三%に戻し、個人消費を回復させることが必要である。産業の空洞化も深刻であり、大企業に対しては、リストラアセスメントなどにより、大規模な人減らし、生産縮小、海外進出を計画段階で国と地方自治体に報告させ、その影響を調査した上で計画の変更や中止を勧告できるという法整備が必要である。

 最後に、他国の人々とともに、平和や豊かさを共有できる思いやりの深い国となるよう努力を尽くすことが「真に豊かな社会の構築」への大前提である。

(国会改革連絡会(自由党・無所属の会))

 私たちはある意味でかつて理想としていたものをほとんど手に入れたと言える。不老長寿の夢は世界一位の平均寿命として、経済的豊かさは世界第二位の国内総生産として実現された。それにもかかわらず、なぜ真に豊かな社会を今改めて議論するのか。それは目標を達成した日本人が新たな理想、目標を見付けられずにいるためである。

 私たちの理想の社会とはどのような社会か。日本人にとっては、生涯現役として社会に貢献し、何らかの形で働き続けることのできる社会が豊かな社会である。高齢化が進む我が国では、高齢者の生き方の充実が大きな課題である。まず必要なのは生涯、社会で活動できる場を確保するための雇用政策である。定年制等の労働体系の見直し、新たなシニア向けの賃金体系の構築と同時に地域を守り、高齢者が生きがいをもって働ける場をつくる社会政策としての新たな農業政策を考えるべきである。必要なのは、少子高齢社会に適した社会インフラ整備を主役とした政策を作っていくことである。

 女性の子育て後の再雇用支援も重要である。出産、子育ての機会費用を社会で負担することにより少子化に歯止めをかける必要がある。そのような社会環境整備は地域の実情に沿って作られるべきであり、そのためにも早急なる地方分権の実現が必要となる。また、パートと正社員で著しく格差のある賃金体系については根本的な見直しが必要である。ただし、格差是正のためにパートの賃金水準を正社員に合わせるのではなく、就業者全体として利益をどのように再配分するかの視点が重要である。

 我が国がこれからの国際競争の中で生き残っていくためには、リーダーの育成が必要である。日本は他国に比べて国民の潜在能力は高いが、キャリアのリーダーシップが足りない。結果の平等にこだわった教育ではなく、社会を牽引できるリーダーを育てる新しい教育を考えるべきときが来ている。

(二)意見交換

○ 豊かさはその時々の社会情勢によって違う。現在は心の豊かさ倍増論という社会にしていかなければならない。ある程度の所得、資産、そして健康が備わった上での心の豊かさが大事である。自己実現、個の確立が達成できる社会が真に豊かな社会である。
 二十一世紀のキーワードは、環境である。NPO、NGO、ボランティア等もそれぞれの立場で貢献していける社会へ誘導していかなければならない。文化芸術振興基本法も成立したことで地域、家庭、個人においても、心の豊かさを倍増させることができる社会を構築していく必要がある。
 ライフスタイルが大変大切である。都市と農村の交流ができる税制上、財政上の措置を考えていくことも心の豊かさ倍増論の一環ではないか。ワークシェアリングについては、政労使の三者会談、合意が進み、法改正もできるよう努力していくことが必要である。

○ 真に豊かな社会の構築に当たっては、雇用不安や将来不安を取り除くことが重要である。新人口推計でさらに深刻な少子化の進行が示されたが、対策として女性が子供を持つ機会費用の低減、保育のキャパシティーの保障などが提起されている。今後の日本の在り方を考えていく上で、こうした雇用の問題、社会保障を含めた問題の解決が重要になってきている。そういう点で日本のパートタイム労働者の処遇を改善していかなければならない。ILO(国際労働機関)のパート条約の批准、法的な整備が当然必要である。
 また、日本の賃金は世界一高いと言われてきたが、それは為替レートで見た場合であり、実際の購買力という点では、この十年間、先進国の中で賃金の伸び率は最も低い状況にある。こういう問題も是正することが必要である。
 今後、国際交流が進む中で、人間の尊厳が尊重されるような二十一世紀の社会に日本が大いに貢献していくことが正に真に豊かな社会である。

○ 経済的に富める者もそうでない者も、豊かさを感じることができる。日本も生活の糧を得るためから、心の豊かさを求める時代に来ているのではないか。
 世界人口約六十億のうちわずか約三億人が豊かな生活をしているといわれるが、日本人はほとんどがその中に入っており、残りの人に恩恵を与える役割を負っている。心の豊かさを感じるために、社会に貢献するシステムを作り上げていくことが重要である。
 ヨーロッパでは、長い歴史の中で経営者が社会貢献のシステムを作り上げてきた。日本の企業も社会貢献をすることによって精神的に豊かになることができると思われる。私も社会奉仕活動をした日は豊かさを実感している。
 社会貢献により豊かさを実感できるシステム作りを日本全体に呼びかけ、ライフスタイルや企業スタイルを変えていくことが今後問われていく。

III 課題

 初年度の調査会においては、調査項目(「真に豊かな社会の構築」)に関して各種の意見や見解が表明された。これらの意見等を主要な論点と思われる事項についてとりまとめて課題として整理すると以下のようになる。

 なお、課題としてまとめた意見等は本調査会の結論として集約したものではない。これらの課題は、次年度以降に議論を深めていく基礎となるものである。

真に豊かな社会の構築
(真に豊かな社会とは)

 我が国社会は物質的には豊かになったとはいうものの、心の豊かさ、真の豊かさを実感することは難しい状況にあるといえる。戦後経済は急成長を遂げたが、国民生活の現状をみれば、高い失業率、長時間労働、自殺者の増大、少子高齢化の進行、食の安全の問題、環境問題など深刻な危機に陥っている。

 これからは、ゆとりのある、心の豊かさを共有できる真に豊かな社会の構築が必要である。そのためには、我が国の美しい自然、良き習慣、良き伝統を巧みに生かした新たな価値観の創出を真剣に考えていくべきであり、従来の社会システムや経済構造、地域社会の在り方、教育の在り方、社会保障の在り方なども検討すべき課題となっている。

 社会への奉仕は個々人の心の豊かさを育むものでもあり、NPO、NGO活動、ボランティアなどの立場から、一人一人が社会に貢献することによって真に豊かな社会をつくる必要がある。真に豊かな社会の姿については、一人一人描く理想は異なるものの、意欲と能力が活かせる社会、選択肢の幅が広く再起可能な社会、時間と空間と安心感のある社会、個の確立が達成できる社会、仕事の場と家庭や地域などの非金銭的な価値のある場を持てる社会になることが二十一世紀の日本にとって必要であるとの見解が示された。また、地位ある者は社会に貢献をしていく、ノブリスオブリージェの視点も大切であるとの見解も示された。

(豊かさを育む教育)

 我が国の戦後教育は、記憶に頼る知識偏重の教育にこだわり、他人への思いやりを育むといった面が不十分であった。公徳心、使命感、人との触れ合いなどが失われていることが心の豊かさを阻害している。豊かな社会の実現には、心の教育について考える必要があるとの意見があった。

(ライフスタイル)

 成熟社会における真に豊かな社会を構築し、持続させていくためには、社会環境に適合するように国民のライフスタイルを変えていくことが重要である。都市生活者と地方生活者との積極的な交流を通じ、都市と農山漁村との共生を図っていくこともライフスタイルを変えていく視点になる。

 また、ゆとりある生活のためには余暇の時間を持つことが必要である。男女が共に働き、共に家庭生活に責任を持つということは、ゆとりある時間を持つことが前提条件となる。高齢化を背景に定年延長が進んでも、途中で育児や介護、能力開発等で休業しても、生涯において仕事をしている時間はそれほど変わらないようにするのがこれから目指すべき社会であり、平日にゆとりある生活をいかに作っていくかが課題となっている。

一 日本経済の活性化策

(我が国を取り巻く環境変化と経済構造の転換)

 我が国経済社会は、九〇年代以降長期にわたり景気低迷が続いている。デフレの進行と不良債権が重くのしかかり、国民は将来に対する不安から消費不振に陥り、企業も明るい将来展望が描けない中、事業規模の縮小や生産拠点の海外移転を続けている。

 経済の長期低迷の要因としては、急速なグローバル化に伴う価格競争力の著しい低下、情報通信技術の発展、急速な少子高齢化など、我が国を取り巻く経済社会環境の急激な変化が考えられる。我が国経済社会の制度や習慣は環境の変化に十分に対応できておらず、経済活性化のためには、戦後日本社会の仕組みを大きく変えていく必要がある。

 経済社会構造の改革は、国全体、国民生活に直接関わるものであり、国民参加のよりよい手法を考えることが望ましい。また、二十一世紀の日本をどうつくるかとの観点から、人々の生き方、暮らし方、働き方を根本から問い直す生活者視点の構造改革も意識する必要がある。

(デフレの解消)

現在の長期不況の要因には、デフレの問題と、国民の将来に対する不安による消費不振の問題がある。デフレの進行は、消費、投資を抑制するとともに、資産価格の下落に伴うバランスシートの悪化などから経済が更に縮小に向かうという悪循環に陥らせる。

 金融調整が進められているもののデフレ解消には至っておらず、インフレターゲット論などの提案も出ている。デフレの進行にはアジア諸国の工業化、我が国の高コスト体質なども影響しており、金融政策のみでの対応は困難であるとの意見があった。

(金融システム改革と不良債権の処理)

 我が国の金融市場はディスクロージャー制度、税制などに問題があることから魅力に乏しいマーケットとなっており、金融システムの改革が必要である。

 経済活性化のためには、不良債権問題を早期に解決しなければならないとの意見もあったが、処理を誤るとデフレスパイラル的な悪化を引き起こす懸念があるとの指摘があった。また、貸し渋りが横行している点についても何らかの対策が講じられる必要がある。

(財政の健全化及び財政政策)

 財政赤字の拡大は国民の将来不安の増大にもつながっており、いかに財政を立て直すか、その時の国民の受益と負担の関係がどうなるかを国民に提示することが重要であり、長期的にはプライマリーバランスの改善が必要である。また、景気対策としての財政政策については、過去十年間の財政政策の経済効果が小さく、有効性について疑問視する意見も挙げられた。

 税制については、所得再配分に近い悪しき平等主義が意欲やチャレンジ精神を阻害し、日本経済のダイナミズムを喪失させる要因になっており、制度の再考が必要であるとの意見がある一方、消費税については、個人消費の落ち込みを回避し、需要拡大を促すために減税が必要であるとの意見も述べられた。

(国と地方の在り方)

 国と地方については、スリムで効率的な仕組みにつくりかえていく必要があり、道州制の議論も含めて制度改革への取組が必要であるとの意見があった。制度改革と同時に自治体に自立、競争を促す前向きの市町村合併を行うことも効果的であるとの意見があった。

 米国、フィンランドなどの国々では、地域の産学官の連携が原動力となりダイナミックな構造転換が起こっており、我が国においても、いかに地方に自立性を持ってもらうかが経済活性化の重要課題となるとの意見があった。

 そのためには地方分権の推進が必要であるが、現在議論されている地方分権は地方交付税の削減など地方の不安をあおる面が強く、財源の移譲など地方に安心を与える施策が進められるべきであるとの意見もあり、また、地方の自治権拡大の際は、どこでも一定水準の公的サービスを確保できるよう財源調整制度が重要との意見もあった。

(規制改革)

 産業構造の転換を促し、厳しい国際競争を勝ち抜くためには、これまでの国内ルールでは通用しないことから、様々な規制を緩和、撤廃し、大きな構造改革を進めることが必要であるが、規制改革の推進には困難が伴うことから、特区を設置し、特定の地域から規制改革を始めていくことも必要であるとの意見がある一方、リストラアセスメント法の整備や、企業の社会的責任のルール化が必要であるとの意見があった。

(NPO支援)

 NPOは社会貢献の場、雇用の受け皿としてこれからの役割が大きく期待されている。高齢者にとって働きがいのある優良な就業機会を創出する場としてもNPOへの期待は高い。しかし、NPO法人への寄附金税制措置を新たに施行したにもかかわらず、寄附優遇税制を受けられる認定NPO法人はまだ少数に過ぎないことから積極的に育成することが望ましい。

 また、支援を講じる際には、新たな補助金よりも自然発生的に出てくる仕組みを促すことが必要であるとの意見、環境美化や養護、介護などの仕事を行うNPOに対して国が公的助成を行うべきとの意見が挙げられた。

(文化芸術の振興と経済の活性化)

 心豊かなくらしの構築などの観点から文化芸術政策の推進が求められる。フランスでは文化施策に我が国の九倍もの国家予算をつぎ込み、米国では寄附金の優遇策など文化芸術に非常に力を入れている。旅行、教養、文化活動などの生活文化に関わる産業は今後拡大していく重要産業でもあり、地域の文化を活かした魅力的な町づくりは、観光産業を始めとした非製造業の促進にとっても望ましく、文化的な環境整備などの文化芸術の振興は、経済活性化にとっても効果があると考えられる。

二 起業の促進

(起業支援の拡充)

 厳しい国際競争下で大企業は雇用創出力を失いつつあり、働く機会を増やすためには、新しい企業、新しい産業を作ることが必要である。

 現在の支援施策は点在しており、多種の施策を統合するとともに、ベンチャー支援策を中小企業育成、雇用問題と切り離し、五年から十年内に国際的な企業を数十社生み出すという目標を作ることが必要であるとの意見が挙げられた。

 税制については、エンジェル税制はまだ十分に活用されておらず、TLOに対する優遇税制についても課題が残されているが、共に始まって間もない制度であり、修正しつつ進めていくことが重要であるとの意見があった。

(起業を促す環境整備)

 新しいビジネスフロンティアは不確実性が高いため、トライアル・アンド・エラーを重ねることが重要であるが、現状では一度失敗するとリスタートが難しい。企業の資金調達を促すミドルリスク・ミドルリターンの金融の実現、失敗の傷をいかに少なくさせるかという視点での倒産法制の見直しなどにより、再起可能な社会を実現させることが必要である。

(資金調達を促す金融システムの整備)

 起業家にとっては間接金融はリスクが高いことから、直接金融を充実、拡大させていくことが望ましい。そのためには、小額投資が可能な市場を整備し資金量を増やすとともに、リスク分散型組織であるベンチャーキャピタルの組織を整備することが必要である。

 また、直接金融を拡大させるには投資家教育が大事であり、フィナンシャル・インテリジェンスによる投資教育、小中学生からの投資教育などを続けることが求められるとの意見があった。

(女性の起業支援)

 米国では中小起業家の三分の一は女性だが、我が国では女性の起業にはまだ障害があり、萌芽も見えていない状態である。IT革命に伴い通勤しなくとも仕事ができるインフラが整ってきたこと、マーケットに近い人間のアイディアが強く求められる時代になったことは、女性にとって有利な状況とも考えられる。女性、高齢者、若年層など今まで起業が少なかった層には膨大なポテンシャルがあることから支援は大事であり、女性が起業しやすい環境整備が求められる。

(起業家教育)

 起業家を育てていくために、これからの教育は、自立心の強い自営業志向の人間、リーダーとなり得る人間を養成する方向に重点を移行し、学問分野も人間学や企業学などを新たに開発、導入することが望ましい。また、外部から教師を採用する、もしくは講義を依頼するなど、大学を含めて学校教育の場において起業家精神を育む教育を考えていく必要があるとの意見があった。

(起業における大学の役割)

 大学において産学官の連携を促す制度は米国など世界各国にみられるが、例えばイスラエルでは各大学に必ずインキュベートセンターがあり、インキュベートシステムが産学官の中で有機的に連携を取るなど、日本の制度とは格差がある。我が国では、大学自体に意外なこと、予想外のことを受け入れられない面があり、学内での起業に対して抵抗感が残されていることが、大学発ベンチャーを進める上での障害ともなっているとの意見があった。

 大学がインキュベートセンターとなるためには、人材育成するだけの知が集中しなければならない。大学と民間の人的交流を進め、民間企業で培われた人材を大学に呼び寄せるなど、アドミニストレーターの拡充とプロフェッショナルの育成が必要であるとの意見があった。

(地方における起業)

 地方では新しい企業、ビジネスづくりが真剣に求められている。しかし、起業は資金市場や消費者のニーズがある地域に集積することが予想され、地方は都市に比して情報に乏しく、経済面でも第一次産業中心で社会資本整備が後れていることから、現実には地方での起業は進みにくいとの懸念が示された。

 ただし、IT関連起業に関してはニッチなマーケットは地方に十分存在し、経営母体が地方にあっても何の問題もない面もあり、インターネット革命などをうまく利用し、地方にいながら知恵、情報を集積し、人も頻繁に行き交いするということは十分にあり得るとの見解が述べられた。

三 産業の空洞化問題及び企業の国際競争力の強化

(産業構造の転換)

 対日直接投資が少ない一方、日本から海外への直接投資が増大しており、我が国の産業空洞化が懸念されている。得意な分野を国内に残すべく産学官で全力を挙げての生き残り戦略を考える必要がある。

 メガコンペティション時代における競争力強化のためには、産業構造の転換を促すとともに、高技術、高品質、高生産性、高付加価値の企業が産業構造の中核を担っていくことが重要であるとの意見がある一方、EU(欧州連合)では大規模な海外移転や、そのための企業規模の縮小、閉鎖、雇用に関する労使の事前協議などの仕組みもあり、我が国でも、企業に対するリストラアセスメントの法整備を行うなど、企業の社会的責任をルール化すべきとの意見もあった。

(対日直接投資の拡大)

 対日直接投資で経済を更に活発化することが望ましい。我が国は土地、人件費、法人税などが高いことが障害ともなっており、法人税を含めた対日投資促進税制、規制や閉鎖的な取引慣行の見直しにより、海外企業がビジネスを展開しやすい風土を作ることが必要であるとの意見があった。

(産学官連携と研究開発支援策)

 産学官連携の制度は、重要な研究分野での成果を産業に結び付ける点で産業空洞化への対応としても重要であり、雇用問題への貢献も期待できる。しかし、我が国においては産学官の連携はまだ進めにくい面もあり、国立大学改革など制度を見直す必要があるとの見解が示された。

 また、我が国の大学における特許出願数は米国の約十分の一に過ぎず、知的財産の活用の観点から問題がある。研究費の税額控除については、我が国は増加額の一定割合を控除するのに対して、米国は総額の一定割合を控除している。研究開発促進税制を見直すことで研究開発の促進、特許の増加、産業強化を図ることが望ましい。

(ものづくり技術)

 ものづくり技術はこの数十年間我が国産業において多くの貢献を果たしてきたが、IT時代においても役割は重要である。しかし、製造業の海外シフトが進み、中小企業、町工場の集積が壊れてきたことが、ものづくり技術の弱体化を引き起こしつつある。

 無資源国である我が国ではものづくりをしなければ経済を支えていくことができない。伝統的な技能と近代的な技術をいかに接合して伝えていくかが重要であり、そのためには技術継承が必要である。子供から大学生までものづくりに対する体験や正確な知識、認識を広める努力を国を挙げてすべきである。

(中小企業対策)

 中小企業は事業ベースで九九・三%、従業員数で八〇・六%を占め、我が国経済を生産、雇用の両面から支えているが、今や未曾有の危機に襲われており、対策を講じる必要がある。

 時限的に別枠分が上乗せされているマル経融資制度については、別枠と本枠の一本化について前向きな検討が必要である。また、金融機関から融資を受ける際の個人保証制度は、倒産時に基本的な生活権すら侵されるケースが多い点で問題がある。米国では倒産時でも三万ドルの自己資本保有が保障され、個人の住居や自家用車などは手放す必要はなく、我が国においてもその程度までは保障すべきである。

 事業承継を条件とした資産への相続税軽減策については、諸外国と同様に五年程度の事業継続を前提として、課税対象額の五割を控除するなどの制度を創設することが望ましい。また、中小企業が連鎖的に破綻することのないよう金融面でのセーフティネットを一層整備することも必要である。

 行政施策に対する要望としては、契約及び支払条件の適正化について繊維業は九十日、製造業は百二十日となっている割引困難な手形の期間の同等化や支払手形の現金決済化、事業承継についての不動産の評価、特別保証制度における償還据置きと返済期間の長期化について考えてほしいとの意見が述べられた。また、金型図面を知的所有権として認めてほしいとの意見も挙げられた。

四 雇用環境の変化とその対応

(雇用問題の捉え方)

 雇用問題については、当面の短期の措置と中長期の措置に分けて対応することが必要である。短期的には、現下の深刻な雇用失業情勢に対する雇用対策が重要である。

 中長期的には、少子高齢化の進行あるいは勤労者の就労ニーズの多様化など、社会経済情勢の変化に適切に対応する仕組みを構築することが重要であるとの意見があった。国際競争の観点からは、我が国の給与水準の低下が予想される。その結果、今までのような一家の大黒柱が家族全員を養う働き方は続けられなくなり、欧米同様共働きが当然のようになると思われる。また、少子高齢化、ITの進展など様々な要因により、働き方は変化していくと思われる。このような変化に対応して立法を含む制度整備を早急に進めていくことが重要であるとの意見があった。

(若年層の失業)

 不況に伴う現在の雇用不安は極めて深刻であり、とりわけ十五~二十四歳層の失業率は一〇・九五%にも達している。このため、まず、新規採用抑制の解消が図られる必要がある。また、高等学校新卒者の就職状況が厳しくなっている中では、求人要請のための企業訪問、就職指導のための教員の増員などの対策を講じるとともに、企業訪問による交通費・通信費の増加が学校予算を圧迫している現状を改善する必要があるとの意見があった。

(雇用保険の充実と失業者の生活保障)

 今日、不況下の倒産件数の増加に伴う自殺者やホームレスの増加などに見られるように、不況の影響が弱者にしわ寄せされている面があり、失業者に対する生活保障、再就職あっせんなど、きめ細かいケア体制の整備が必要である。このため、失業者を支援するためのカウンセリングの社会的な充実が求められる。

 失業者の生活保障については、雇用保険の失業給付が大きな役割を果たしている。事業主の未加入や加入期間が短期間であること、特にパートタイム労働者であること等によって失業給付を受給できない勤労者も多く、こういった問題点を解消していくことが必要である。また、非自発的な失業者に重点を置いた失業給付の延長を図るべきであるとの意見があった。ドイツでは失業保険等の社会保険にはパートタイム労働者も同様に加入している。失業者の医療保険、年金、介護保険の保険料は国が代わって支払っている。また、自治体によっては求職活動に必要な交通費や家賃補助等の制度がある。これらの制度を参考にして、失業者の生活保障を充実させ、ヨーロッパ並みの水準を目指した生活保障の抜本的な拡充を行う必要があるとの意見があった。

(解雇に対する規制)

 新たな失業者を生み出さない施策も重要である。この観点からは、経営者は雇用を維持する最大限の努力をすべきであり、解雇規制法を制定すべきとの意見があった。

(雇用機会の創出)

 雇用の維持・創出においては、民間企業、経営者の責務が重要であり、政府が規制緩和を推進することによって民間企業の自由な活動を保障し、雇用の維持、更には創出が可能となる環境整備を図ることが重要であるとの意見があった。

 また、教育・消防・介護・医療など国民生活に不可欠な分野での公的な雇用の拡大に取り組むべきであるとの意見、国民生活に結びつく福祉、医療、環境といった分野に資源を重点配分することにより雇用創出を図るべきであるとの意見、ワークシェアリングを本格的に実行すべきであり、サービス残業の解消、年休の完全取得により、労働時間の短縮を図り、雇用を拡大することが重要であるとの意見があった。

(ワークシェアリング)

 働く意欲や能力のある勤労者が、その能力を十分に発揮できる社会を形成することは、人的資源を有効に活用し、人々の社会参加を促す上で非常に重要な課題である。このため、短時間勤務の推進により、仕事を分かち合う多様就業対応型ワークシェアリングを進める必要があるが、その際には、同じ働き方には同じ賃金を適用し、時間の長短については時間比例にすべきであるとの意見があった。また、雇用の維持・確保と賃金コストの抑制等を両立するための緊急避難的なワークシェアリングには、社会政策的な観点から何らかの支援をすることが重要であるとの意見があった。

 一方で、ワークシェアリングについては、勤労者の生活価値を高めるという面では有効であるが、生産性の議論を別途する必要があるとの意見があった。また、企業の競争力の回復や中長期的に目指すべき産業構造と就業構造の転換に後れを来さないよう検討する必要があるとの意見、福利厚生費を要するワークシェアリングの実施は、コスト削減を進める民間企業には、法制定等がない限り困難な面があるとの意見があった。

(労働力の流動化)

 近年の経済情勢や産業構造の変化、また勤労者の価値観の多様化により、労働力の流動化が進展している。従来の固定的な雇用確保という考え方から、流動的な雇用確保という考え方に改め、進展する労働力の流動化に適切に対応することが求められる。このため、転職支援や再就職支援の民間及び公的機関のサービスを充実させるとともに、勤労者の職業能力の再開発が重要となる。

 一方で、労働力の流動化によって勤労者の生活が不当に脅かされることのないよう、退職、解雇に係るルール作りが必要であるとの指摘があった。また、労働時間管理についても適切な見直しを行うなど、雇用と労働のルールの明確化も課題として指摘された。

(仕事と家庭の両立)

 出産、子育てによる機会費用を国、企業、男性も負担して、男女ともに仕事と家庭に責任を果たせるようにすることが重要である。社会保障給付費のうち高齢者向けが五十兆円に対して児童向けは二兆円と少ないので、さらに財源を振り向けることが望まれる。

 女性が仕事と家庭を両立できる条件として、育児・介護休業制度、看護休暇制度の充実など働きやすい環境の整備、保育サービスや学童保育の整備、男性の育児・家事参加等がある。

 働きやすい環境については、女性が再就職しようとすると賃金の低い非正社員にならざるを得ない場合が多く、他の先進諸国と異なっている。子育てをしながら働くことのできる環境、子育て終了後の再雇用制度等を整備することが必要である。

 保育サービスや学童保育は、地域の実情に応じて公的な責任で充実することが必要である。「仕事と子育ての両立支援策の方針について」(閣議決定)の学童保育の設置目標を引き上げることが必要であるとの意見があった。

 我が国では男性の育児・家事参加が諸外国と比べて極めて少ない。男女の労働時間の短縮、特に男性の長時間労働を改めることが必要である。サービス残業の根絶に向けた取組が課題となっている。

(職業能力の開発と評価)

 景気低迷や失業率上昇の克服等が緊急課題となっている現状では、能力開発に関する国、都道府県、企業、勤労者等による一層の取組が求められる。特に、ものづくりが経済の活性化のために重要であることから、子供時代からものづくりに親しみやすくすること、ものづくりに関して高度な能力と意欲を有する高齢者を活用すること等を含め、ものづくりに関する能力開発を強力に推進する必要がある。

 一方、国が関与する職業能力評価制度としては、技能検定、技能審査認定、社内検定認定の三制度がある。また、従来の職業能力評価制度はブルーカラー職種が中心であったが、ホワイトカラー職種についても平成五年からビジネス・キャリア制度が開始されているが、まだ十分に活かされていない。職業能力評価制度の一層の拡充が必要である。

(就業形態の多様化への対応)

 最近では正社員が減る一方で、特に女性の非正社員が増え、一部ではパートタイム労働者の基幹労働力化が進行し、正社員とパートタイム労働者の間で働き方の差異が縮小している。しかし、処遇や処遇の決め方には大きな違いがあり問題である。このため、正社員を含めた雇用システム全体の見直しが不可欠である。同一労働の賃金を時間比例にすることが望ましい。能力開発や社会保険等の仕組みを働き方に関係なく整備することも重要である。

 ヨーロッパなどと比べて後れている日本のパートタイム労働者の処遇を改善していくためには、パートタイム労働に関するILO条約の批准、正規と非正規の均等待遇に関する基本法的な法律の整備が必要であるとの意見があった。

 また、契約社員については、雇用形態が変化している時代には非常に有効であるが、法律上の特別な規制がないため、今後は立法化が必要であるとの意見があった。有期雇用についても雇用契約法制を整備すべきであるとの意見があった。

(高齢者の就業)

 生涯活動することのできる場所、働く場所を確保するための新しい雇用政策が重要である。勤労者を年齢のみで一律に排除することなく、その能力を適正に評価する仕組みを整備し、生涯を通じてその能力を発揮できる社会を形成することが重要である。定年制などの現在の労働体系を見直し、新しい賃金体系を作り、シニアのための言わば別体系を作るべきである。高齢者が生きがいを持って働ける場所としての社会政策としての新たな農業政策を考えるべきであるとの意見があった。

五 国民生活の変化に応じた社会保障制度の在り方

(生活の変化と社会保障制度)

 現在の社会保障制度は社会保険方式になっており、正規労働の個人が企業に雇われ、男性が外で働き女性が家庭にいることを前提としているが、女性の労働が増え、就労形態が多様化する中で、今の社会保険の仕組みでは対応できなくなっている。仕組みを今日における就労形態や、いわゆる男性片働きから男女共働きに変わりつつある社会の家族モデルに中立的なものにしていく必要があるとの意見があった。

 また、高齢者や女性の雇用を促進し、社会保障の世代間扶養の担い手である次世代の育成を支援することにより、社会保障制度の支え手を増やすことが重要である。そのためには、現在の社会保障制度に内在する高齢者や女性の雇用に抑制的な要素を解消し、雇用に中立的ないし促進的な制度に改める必要がある。また、育児を評価し、育児の社会化の観点から本格的な育児支援の施策が必要であるとの意見があった。

(財政方式の在り方)

 社会保障の限られた資源を真に必要としている人に提供することが国の役割との観点からは、社会保険方式は疑問である。税方式であるなら、厳しい基準を設けた上で必要とする人だけに提供する制度にすれば支出もかなり低く抑えられるのではないかとの意見があった。

 一方、税方式では、租税負担と社会保障給付との間の個別的な関係が断ち切られているので、たとえ社会保障財源に充てるといっても、負担増の合意を得ることは非常に難しい。社会保険方式のメリットは、保険料を理由なく滞納した者には給付制限があり、拠出意欲を確保できることである。国民は保険料を払い権利としてサービスを受けることを望んでおり、社会保険を基本とした社会保障の発展を図るべきとの意見があった。

(社会保険の空洞化対策)

 社会保障制度への信頼低下を防ぐために前提となるのは、社会保険料の徴収の適正化である。その対策として、運転免許証の交付に国民保険や年金の保険料の納付を条件とすることも一案であるとの意見があった。また、英米の税務署では、税と社会保険料を一体で徴収しており、税の徴収機構を通じての社会保険料徴収も一方法であるとの見解が示された。

(第三号被保険者制度の見直し)

 国民年金の第三号被保険者の問題については、これを廃止することには根強い反対があり、同制度を直ちに無くすことは困難である。第三号で得られる権利を半減させ、非正社員であれば報酬比例部分も付ける年金制度が望ましいとの意見もあった。現行制度は、パートタイム労働では年金上のメリットがほとんど無いので、パートタイム労働者でも保険料を払えば、年金が増える制度に変える必要があるとの意見があった。

 また、現在のモデル年金は男性四十年加入を基本としているが、子供を持つと女性の約八割は仕事を辞めるため、女性の就業期間は長くて二十年位である。したがって、子育て時期を考慮した年金権の拡充が必要であるとの意見があった。

(高齢者医療制度の改革)

 高齢者医療制度の改革は、隣接する介護保険と類似の仕組みとするのが合意を得やすい。すなわち、市町村を保険者として、高齢者各人を被保険者として応分の保険料の負担を求め、これに現役世代の保険料と公費負担を加えて財政運営を行う。また、制度的にも、高齢者医療と介護保険の整合性を図る必要があるとの意見があった。

(医療保険制度の個人単位化)

 医療保険の世帯単位から個人単位への移行については、夫がサラリーマンであればその所得の半分を妻に帰属させ、妻が健康保険料を支払い、個人の保険証を持つようにすべきであるとの意見、被扶養の配偶者は国民健康保険に加入する方法もあり得るとの意見があった。

(政府管掌健康保険の改革)

 医療費には大きな地域差があり、全国同一保険料では公平性が確保されない。しかし、政管健保を都道府県単位に分割しても格差が生じ、また財政調整が必要となる。したがって、全国一律の政管健保を実質的に分権化し、地域別に保険料を定める制度とする。地域別保険料には医療費の実質的な差を反映させ、年齢構成を補正した上でなお医療費が高い地域は保険料を上げ、低い地域は下げることとし、その地域の規模としては、現在約三百五十ある第二次医療圏が適正な単位であろうとの意見があった。

(介護保険制度の見直し)

 現在四十歳以上六十五歳未満である第二号被保険者の範囲については、二十歳以上にまで範囲を広げて、支える世代を拡大するとともに、老化に起因する特定疾患に限定されている給付対象を一般の障害にまで拡大すべきであるとの意見があった。

 家族介護については、介護保険があっても、家族が介護に巻き込まれることは避けられない。家族介護を評価し、手当を給付すべきである。高齢者の場合、旧知の安心できる人に介護して欲しいとの普遍的心理があり、安心のためにも現金給付を認めるべきであるとの意見があった。

 なお、現金の給付に際しては、ドイツの制度と同様、家族ではなく要介護者本人に給付し、外部サービスあるいは家族等の介護の選択は本人に任せるべきであり、また、家族による要介護者虐待の事例も少なくないので、第三者によるチェックが必要であるとの意見があった。

参考

一 調査会委員名簿

 (一) 報告書提出日(平一四・七・一七)における委員

会長 勝木 健司 理事 魚住 汎英 理事 鶴保 庸介
理事 中島 啓雄 理事 内藤 正光 理事 日笠 勝之
理事 西山 登紀子 理事 島袋 宗康 委員 太田 豊秋
委員 加治屋 義人 委員 北岡 秀二 委員 小斉平 敏文
委員 山東 昭子 委員 鈴木 政二 委員 伊達 忠一
委員 藤井 基之 委員 松山 政司 委員 朝日 俊弘
委員 榛葉 賀津也 委員 辻  泰弘 委員 本田 良一
委員 松 あきら 委員 畑野 君枝 委員 森 ゆうこ
委員 山本 正和        

 (二) 平一三・八・七~一四・七・一七までに当調査会に所属したことのある委員((一)の委員を除く)

会長 直嶋 正行 理事 中原  爽 理事 山本  保
委員 加納 時男 委員 岸  宏一 委員 久世 公堯
委員 久野 恒一 委員 小泉 顕雄 委員 鴻池 祥肇
委員 佐藤 昭郎 委員 斉藤 滋宣 委員 日出 英輔
委員 吉村 剛太郎 委員 浅尾 慶一郎 委員 佐藤 泰介
委員 藁科 満治 委員 山本 香苗 委員 松岡 満壽男
委員 大渕 絹子        

二 調査会の活動状況(平一三・八・七~一四・七・一七)

調査項目・真に豊かな社会の構築

(1) 調査会(手続のためだけに開かれた調査会を除く)

国会回次 年月日 活動内容
一五三回 平一三・一一・二一
内閣府から説明聴取、内閣府・法務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・林野庁・経済産業省・中小企業庁・国土交通省に対する質疑
 
「改革先行プログラム」
 
(副大臣)
国土交通副大臣 佐藤 静雄 君
 
(政府参考人)
内閣府大臣官房審議官 谷内  満 君
内閣府政策統括官 小林 勇造 君
内閣府政策統括官 坂  篤郎 君
法務省民事局長 山崎  潮 君
財務大臣官房審議官 木村 幸俊 君
文部科学省生涯学習政策局長 近藤 信司 君
文部科学省初等中等教育局長 矢野 重典 君
文部科学省高等教育局長 工藤 智規 君
厚生労働大臣官房審議官 水田 邦雄 君
厚生労働省職業安定局次長 青木  功 君
農林水産大臣官房審議官 山野 昭二 君
農林水産省総合食料局国際部長 村上 秀徳 君
林野庁長官 加藤 鐵夫 君
経済産業大臣官房審議官 桑田  始 君
経済産業大臣官房審議官 濱田 隆道 君
経済産業省製造産業局長 岡本  巖 君
中小企業庁次長 小脇 一朗 君
国土交通大臣官房審議官 榎本 晶夫 君
国土交通省総合政策局長 岩村  敬 君
一一・二八
参考人から意見聴取・質疑
 
「日本経済の活性化に向けた課題」
 
(参考人)
株式会社野村総合研究所上席エコノミスト 植草 一秀 君
株式会社日本総合研究所調査部長 高橋  進 君
一五四回 平一四・ 二・一三
内閣府から説明聴取、内閣府・法務省・財務省・文部科学省・厚生労働省に対する質疑
 
「「構造改革と経済財政の中期展望」と経済の活性化策、雇用政策及び社会保障制度の在り方」
 
(副大臣)
内閣府副大臣 松下 忠洋 君
 
(大臣政務官)
文部科学大臣政務官 池坊 保子 君
 
(政府参考人)
内閣府大臣官房審議官 薦田 隆成 君
内閣府政策統括官 坂  篤郎 君
内閣府政策統括官 岩田 一政 君
内閣府国民生活局長 永谷 安賢 君
法務省民事局長 房村 精一 君
財務大臣官房総括審議官 藤井 秀人 君
文部科学省高等教育局長 工藤 智規 君
文部科学省研究振興局長 遠藤 昭雄 君
厚生労働省職業安定局長 澤田 陽太郎 君
厚生労働省雇用均等・児童家庭局長 岩田 喜美枝 君
厚生労働省保険局長 大塚 義治 君
二・二七
参考人から意見聴取・質疑
 
「雇用環境の変化とその対応」
 
(参考人)
株式会社日本総合研究所調査部主任研究員
山田   久 君
日本労働組合総連合会総合労働局雇用労働局長
中村  善雄 君
日本経営者団体連盟労務法制部次長 松井  博志 君
三・ 六
参考人から意見聴取・質疑
 
「国民生活の変化に応じた社会保障制度の在り方」
 
(参考人)
上智大学文学部社会福祉学科教授 山崎 泰彦 君
慶應義塾大学商学部教授 城戸 喜子 君
埼玉大学名誉教授 暉峻 淑子 君
派遣委員の報告
四・一〇
参考人から意見聴取・質疑
 
「公的規制の緩和及び起業促進に当たっての課題」
 
(参考人)
株式会社ウェブハット・コミュニケーションズ代表取締役社長
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科兼任講師
高柳 寛樹 君
シンクタンク・ソフィアバンク代表
多摩大学大学院教授
田坂 広志 君
一橋大学イノベーション研究センター教授
米倉 誠一郎 君
四・一七
参考人から意見聴取・質疑
 
「産業の空洞化問題及びグローバル化における企業の国際競争力の強化」
 
(参考人)
専修大学経済学部教授 鶴田 俊正 君
社団法人大田工業連合会会長 小倉 康弘 君
四・二四
参考人から意見聴取・質疑
 
「豊かさを支える雇用環境の整備」
 
(参考人)
東京大学社会科学研究所教授 佐藤 博樹 君
お茶の水女子大学大学院人間文化研究科助教授
永瀬 伸子 君
株式会社ベネッセコーポレーション人財部長
柏渕  忠 君
五・二二
意見表明
北岡 秀二 君(自由民主党・保守党)
内藤 正光 君(民主党・新緑風会)
松 あきら 君(公明党)
西山登紀子 君(日本共産党)
森 ゆうこ 君(国会改革連絡会(自由党・無所属の会))
 
意見交換
七・一七 中間報告書の提出を決定

(2) 委員派遣

国会回次 期間 派遣地等
一五四回 平一四・二・一九
~二一
派遣地 ― 熊本県及び福岡県
 
調査目的― 経済、雇用対策及び社会保障等に関する実情調査
 
派遣委員― 会長 勝木 健司 理事 魚住 汎英
理事 北岡 秀二 理事 鶴保 庸介
理事 内藤 正光 理事 日笠 勝之
理事 西山 登紀子 理事 島袋 宗康
委員 山東 昭子 委員 松山 政司
委員 榛葉 賀津也
 
視察先― ソニーセミコンダクタ九州株式会社熊本テクノロジーセンター、熊本県立天草高等技術訓練校、福岡システムLSIカレッジ、福岡両立支援ハローワーク、福岡学生職業セン ター、九州大学産学連携推進機構等

三 経済、雇用対策及び社会保障等に関する実情調査(委員派遣報告文 平一四・三・六 調査会)

○ 魚住汎英君 委員派遣の報告を申し上げます。

 去る二月十九日から二十一日までの三日間にわたって、勝木会長、北岡理事、鶴保理事、内藤理事、日笠理事、西山理事、島袋理事、山東委員、松山委員、榛葉委員、私、魚住の十一名は、熊本県及び福岡県において、経済、雇用対策及び社会保障等に関する実情について調査してまいりました。

 以下、調査の概要を申し上げます。

 まず、熊本県について報告いたします。

 本県は、「創造にあふれ、"生命(いのち)が脈打つ"くまもと」を基本目標に策定された総合計画「パートナーシップ21くまもと」の実現に向けて取り組んでいるところでありますが、本県の景気の現状は、昨年十二月に九州最大のスーパー寿屋が倒産するなど、非常に厳しい状況にあります。

 県においても、熊本県雇用創出対策に取り組んでおりますが、国の雇用対策に関連して、緊急地域雇用特別交付金制度の、地域の特性に応じた活用と更なる柔軟性についての要望、及び企業誘致に関連して、税の優遇措置のある経済特区の実現についての要望がありました。さらに、少子高齢化が進む中で、空き店舗を活用した保育サービスや介護サービスへの柔軟な取組を可能にする施策についての要望も出されました。

 また、同県では、BSE問題や韓国産トマトを熊本産と称するなど、農産物の風評被害が相次ぐ中、JAS法の適正化についても要望がありました。

 次に、主な視察先について申し上げます。

 まず、ソニーセミコンダクタ九州株式会社熊本テクノロジーセンターを訪れました。

 本センターは、半導体産業の中でも需要拡大が見込まれる映像デバイスの世界最先端工場であります。「九州で世界と勝負する」をキャッチフレーズに掲げ、大幅な生産性の向上とコストダウンを達成したばかりでなく、一〇〇%ゼロエミッション、周辺緑化など、環境面にも取り組んでおります。同センターからは、国内生産の維持に関連し、優遇税制の要望が出されました。

 次に、熊本県立天草高等技術訓練校を視察いたしました。

 本校は、職業能力開発促進法に基づき、離職者及び転職者等を対象にした訓練機関であり、電気設備科及びOAビジネス科を訓練科目としております。

 派遣委員からは、訓練生の平均年齢及び女性の割合、就職率を高める工夫、カリキュラムの編集方針、地域社会との連携の必要性等についての質疑が行われました。

 次に、五和町コミュニティセンターにおいて老人福祉施設関係者と懇談を行ってまいりました。

 老人福祉の重要性が一層増す中で、今般、天草地域の介護老人福祉施設四か所及び介護老人保健施設六か所の代表をお招きし、福祉の現場の生の声を聞きました。

 関係者からは、六人部屋解消に係る施設整備と資金、低所得者の介護サービス利用料の自己負担問題、訪問介護の家事援助等の介護報酬が安価である点、施設内での転倒・事故防止の苦労、施設の努力により介護度が低くなった場合の成功報酬制度の創設等について意見や要望が出されました。

 これらの意見等に関し、派遣委員からは、介護保険導入後に施設入所が長期化している現状の改善策、施設が入所者を選ぶ基準、ショートステイの利用が少ない原因、施設の建築構造に留意した点等についての質問がありました。

 引き続きまして、福岡県について報告いたします。

 本県は、県の総合計画であるふくおか新世紀計画を策定し、新たな時代の潮流に対応した県づくりを進めております。

 その第一は、二十一世紀型の産業構造の構築であります。

 本県では、中小企業の資金調達の多様化を図るため福岡県新金融システムや、ふくおかギガビットハイウエイ等の最先端のIT拠点地域の構築、福岡県リサイクル総合研究センター等の環境産業の推進を進めております。

 第二は、新しい社会システムの構築であります。

 男女共同参画の推進では、県、県民、事業者の責務を明記した条例を昨年制定しました。また、NPOとの協働も進めております。青少年の教育問題では、新世紀を拓く人づくりとして、青少年アンビシャス運動や科学への理解と関心を深めるためのフクオカ・サイエンスマンスを実施しております。

 派遣委員からは、九州全体に産学連携を進める必要性、産学連携を進める上での制度的問題点及び大学の役割、アジアとの交流が盛んになる中での県の治安状況等についての質疑がなされました。

 次に、同県における主な視察先について申し上げます。

 まず、福岡システムLSIカレッジを訪問いたしました。

 半導体産業は現在、アジア諸国との価格競争の影響等により大変厳しい状況にあります。本校は、このような中にあって、付加価値が高く将来有望なシステムLSIの実践的な設計人材の養成を目的に、産学官が一体となって全国で初めて設立した機関であります。

 続いて、厚生労働省福岡労働局による概況説明の後、福岡両立支援ハローワーク及び福岡学生職業センターを訪れました。

 福岡県の雇用情勢は、有効求人倍率が全国を下回り、特に機械、電気機器の製造業の落ち込みが厳しいとのことであります。

 また、育児と仕事の両立に関連して、働く母親からは、病児保育の充実を求める声が大きいとのことでありました。

 福岡両立支援ハローワークは、育児、介護、家事と仕事の両立を求める人の多様な就業ニーズに対応しており、また、福岡学生職業センターは、大学等の卒業予定者と既卒の未就職者を対象に就職をバックアップしております。

 派遣委員からは、四十歳以上の女性の求人状況、ハローワーク窓口業務の時間延長問題等に関して質疑が行われました。

 最後に、九州大学産学連携推進機構を視察いたしました。

 本機構は、九州大学の知の集積が社会で一層活用されるために設立された学内外への知識サービス提供機関であり、特許にかかわる各種相談や大学からの企業支援等、社会と連携した知的創造活動をサポートしております。

 派遣委員からは、文系の産学連携の具体的な事例、産学連携を進める上での障害、我が国の大学研究室の劣悪な環境等に関連して質疑がなされました。

 最後に、今回の派遣に当たりまして、熊本県、福岡県並びに関係者の皆様方から多大な御協力をいただきましたことに厚くお礼を申し上げ、報告を終わります。

四 意見表明(平一四・五・二二 調査会)

○ 北岡 秀二 君 御指名をいただきましたので、簡潔に、今までいろいろ御意見を伺ったり意見交換した中で思い当たるところの意見表明をさせていただきたいと思います。

 我が国経済社会は、バブル崩壊以降、かつて経験したことのない景気低迷の中で苦しんできましたが、今なおそこから抜け切れないでおります。失われた十年とも言われるこの期間は、戦後の輝かしい成長の軌跡を歩んできた我が国にとりましては、正に悪夢のような時の流れでありました。

 現下の動向を見ますと、先週末、景気の底入れ宣言が出されましたが、なおデフレの進行と不良債権処理の遅れが我が国の経済の上に重くのし掛かっております。そのために、国民の中に将来に対する漠然とした不安が醸成され、自己防衛、生活防衛的行動が多く見受けられます。それが国民の消費減退や消費不振となって我が国経済の足を引っ張っておるのが現状であろうと思います。個人のみならず企業もまたしかりであります。見通しの利いた明るい将来展望がなかなか描けない現状の中で、事業規模の縮小や生産拠点の海外移転など、企業のリストラは依然として続いており、正に消費の萎縮と企業のリストラという悪循環に陥っているのが現状であります。

 では、我が国経済社会がこの十年余りの間に急速に厳しい状況に陥ってしまった原因、要因は一体どこにあるのでしょうか。その一つは、この十年余りの間に急速に進んだグローバル化で国際的な価格競争力が著しく低下したことにあります。そしてもう一つは、グローバル化とともに猛烈なスピードで進んできた情報通信技術の発展を始め、少子高齢化社会がますます進展するなど、私たちを取り巻く経済社会環境の急激な変化にあるのではないかと思います。

 本調査会におきましても、これまで経済の活性化策や雇用問題、さらに社会保障制度の在り方等々について、実務経験者始め、大学などの有識者から地域経済の空洞化の現状、厳しさを増している雇用環境や社会保障制度の実情等々について幾多の有益なお話を伺ってまいりましたが、そうしたお話を踏まえた上で、なお私の考えていることの一端を申し述べてみたいと思います。

 ただいま申しましたように、今日の我が国の経済社会を取り巻く環境は、経済社会のあらゆる面でのグローバル化と根本的な構造変化が猛スピードで押し寄せ、ある意味で歴史的な転換点を迎えていると言ってもいい状況であります。しかしながら、現実の私たちの消費行動や生活習慣、さらには企業活動等々は、こうした環境変化に十分に対応したものとなっていないどころか、ある面では依然として旧来型の習慣やシステムの中で行動し、活動していると言っても過言ではありません。換言すれば、私たちの意識そのものが急速に変化する社会の環境に追い付いていっていないということであります。それはまた、角度を変えて見れば、従来の価値尺度や価値観が今日の社会に必ずしも合致していないことを意味しております。

 しかし、それでもなお私たちの周りには、美しい自然とともに、良き習慣、良き伝統が脈々として息づいております。今こそ私たちは、知恵を絞って、それらを巧みに生かしながら、今日の時代に合った新しい価値観を生み出していくことを真剣に考えていくべきであると思います。同時に、それは、これからの我が国社会の進むべき道を考える上で極めて重要な作業であると考えるものであります。すなわち、それは、これまで私たちが過去の高度成長期の過程の中で拡大、拡張を中心として積み上げてきた社会システムやあるいは経済構造、そしてまた地域社会自体のあるべき姿、教育の在り方等々、更に付け加えて申し上げれば社会保障の在り方等々を大きく変えていかなければならないということであります。

 この共通項として底流に流れているキーワードの一つに、私ども日本国民自体のライフスタイルを変えていかなければならないということも私は言えるのではないかと考えております。これまでの成長一辺倒でなく、成熟した社会における真の意味での豊かな社会を構築し、そしてその社会を持続させていくためには、その時代時代の社会環境に適合するようにライフスタイルも変えていくことが極めて重要であると考えるものであります。

 ライフスタイルをどのように変えていくか、いろいろな角度からの議論が必要であろうかと思うわけでございますが、その端緒となるかもしれない一例を皆様方の前に申し上げてみたいと思います。

 これはもう私ども自由民主党の中でも一部取り組んで具現化をしようとしておることではありますが、現在の人々の暮らしぶりを見ますと、特に大都市に住むいわゆる都市生活者は、仕事はもちろん、休日もそのほとんどを都市の中だけで暮らす。一方、大都市以外の地方、特に農村に暮らす人々は、そのほとんどを地域農村の中で暮らす傾向が強いように思われます。しかし、これからは都市生活者と地方生活者との積極的な交流、共生を通じ、言わば都市と農村との共生を図っていくことこそが重要ではないか、これも一つの大きなライフスタイルを変えていく視点になるのではないかと考えるものであります。ストレスが多くゆとりの少ない都市での生活を離れて、しばらくの間でも豊かな自然とゆったりした時間の流れを体感できる農村で生活することが可能な仕組みを作るものと同時に、その逆の仕組みも作ることができれば、都市生活者にとっても、また農村の生活者にとっても、ある意味でライフスタイルの変化につながる大きな意義があると思うのであります。

 現状のまま市場の効率性や生産性だけを追求する施策を推し進めていきますと、地方、特に農村部が取り残される危険は極めて高いと言わなければなりません。同時にその一方で、競争だけに費やされる都市部の労働者、生活者が真の豊かさを感じることができるかどうか大いに疑問であります。同じ日本の国の中でありながら都市と農山漁村が互いの交流もなくある種の断絶にも似た生活、活動を続けたのでは、それぞれが持つ豊かな資源を有効に活用しているとは到底言えません。こういう交流を通じて、新たな自分発見、新たな社会の在り方、そういうことを発見することにつながっていく、成熟社会にもつながっていくのではないかと私は考えるものでございます。

 この都市と農山漁村を共生、交流させることについて、その具体的な方法論等についてはまだまだこれから大きな課題があるわけではございますが、もちろん、本調査会で様々な有識者の方々から伺ったベンチャー企業の育成や新たな企業を起こす社会経済環境の醸成は極めて重要であり、強力に推し進めていくべきことであることは申し上げるまでもありません。しかしながら、私はそれと同時に、人々が豊かさをかみしめつつ我が国経済も活性化させていくことはできないものかと深く考えるものであります。

 これまでも地方では、町おこしや村おこしの一環として都市で生活している人々を農村に呼び寄せようという様々な工夫、試みがされてきました。しかし、それはともすると、都市の生活者がどんなことを望みどんなことをしたいと考えているのかという、言わば相手のニーズを必ずしも十分につかんだものではありませんでした。これからは双方が互いに歩み寄って知恵を出し合い、農山漁村の引く力と都市側の押す力がうまくかみ合うならば、物は動き人も動き、この国の再び活気が出てくる一つの大きな引き金になると考えるものであります。その先に人々が互いに豊かさを感じることができるなら、経済活性化の一つのモデルになるものと考えるものでございます。

 その他、いろいろな角度からの切り口、そしてまた施策も必要になってくるであろうと思うわけでございますが、先ほど申し上げましたライフスタイルを変えるという観点から一つの私なりに考える提案を表明させていただきまして、私の意見表明とさせていただきます。

 ありがとうございました。

○ 内藤 正光 君 民主党の内藤でございます。

 今週初め、民主党会派に所属する議員が集まり、それぞれ意見交換をいたしました。それを踏まえて意見をごくごく手短に表明をさせていただきたいと思います。

 これまで政府や学者、あるいはまた経営者等から、日本経済の活性化策を始め、雇用問題、社会保障制度、起業、さらには産業の空洞化などについて多くの有意義な意見を拝聴してまいりました。そして、二年目以降は、これらの有益な意見を十二分に踏まえ、本調査会の原点でもあります真に豊かな社会の構築という軸で再整理し、議論を更に深めていく必要があるというふうに考えます。そして、そのためにはまず、国民が一体どんなライフスタイルを望んでいるのかじっくり考えてみる必要があるのではないかと考えます。

 ライフスタイルは個々人の価値観であり、国会の場で議論すべきことではないとおっしゃる方もいるでしょう。しかし、ライフスタイルと社会保障制度の在り方などは一体不可分のものであり、逆に言うならば、あるべき社会保障制度の在り方を議論するに当たっては、国民が望んでいるライフスタイルを議論するのは十分意味のあることだというふうに考えます。

 例えば、共働きについてです。

 私個人としては、国際競争力の観点から、世界的に見て高水準にある日本の労働コストに対する下げ圧力が働き、好むと好まざるとにかかわらず、今後共働きが普通になってくるだろうというふうに考えます。一家の大黒柱が家族を支えるというライフスタイルから共働きへというものへ変わるならば、当然それに伴って、あるべき社会保障制度や税制も大きな変革を求められることになるでしょう。

次に、高齢者の就業についてです。

 現行の年金制度や医療制度などは皆、年齢を基準に一律に分けて対応しております。高齢者の高まる就労意識と現行の年金制度などが時として矛盾を生じることさえあります。

 実は私、このゴールデンウイーク、北欧のスウェーデンを訪れ、同国の年金制度などについて調査をしてまいりました。日本の現在の年金制度は、六〇年代、スウェーデンの制度に倣ったものなんですが、日本がお手本といたしましたスウェーデンは、このままでは少子高齢化の進展などに耐えられないとして九九年に年金制度の抜本改革に踏み切ったわけでございます。その新制度には注目すべき点が数々あろうかとは思いますが、高齢者の就業と年金という関係でいうならば、年金の受給開始年齢を保険料を払いながら先へ延ばせば延ばすほど受給開始後の受給額は増える。例えば、受給開始年齢を六十五歳から六十七歳へ延ばすとどうなるかというと、その後の毎年の受給額、二〇%増えるそうです。同様に、六十一歳と六十九歳とで比べてみますと受給額が二倍ぐらい違ってくるというふうに言っておりました。

 これは高齢者の高まる就業意識や価値観の変化にマッチした仕組みだと考えますが、やがて我が国でも年金制度の抜本改革に取り組んでいかなければなりませんが、その前に日本も早急にその前提として高齢者の就業意識を考えてみる、調査してみる必要があるんではないかというふうに考えます。

 また、日本が今後いかなる産業分野で世界に挑んでいくかという戦略も社会保障制度や税制などの在り方に大きな影響を与えるものと思います。

 戦後、日本は物づくり技術を育てていくために、職人一人一人にできる限り長期間一つの会社で働き続けてもらえるよう、会社としては長期就業ほど有利になるような福利厚生サービスを提供し、国としてもそれを制度面からサポートをしてきました。更に言うならば、欧米追随かつ規格大量生産を軸に据えたため、教育についても、自ら考えることよりも知識を重視するものとなってまいりました。

 本調査会では、過日、九州を視察してまいりましたが、そこで私たちが知ったことは、LSIの製造からより付加価値の高いシステムLSIの設計に軸足を移すということでございましたが、もしそうであるならば、当然、教育の在り方も、知識偏重というものから考えることを重視するような教育へと抜本的に見直していかなければならないでしょう。

 さらに、物づくり技術を育てるには、固定的な雇用の確保がある意味で重要でございました。しかし、物づくり技術以外でこれから日本が生きていこうとするならば、固定的な雇用確保という考え方から流動的な雇用確保という考え方に抜本的に改めていかなければならなくなるかもしれません。その際、再教育機関など、それを支えるための仕組みが求められていくことになります。

 最後に、国民が望むライフスタイルというのは、とらえどころがなく非常に扱い難い問題であるというふうに承知してはおりますが、国としても、時代の流れにマッチした制度を、社会保障制度を構築していくためにも、私はこれはライフスタイルを考えるということは不可避な課題であるというふうに、避けることができない課題であるというふうに考えます。

 このことを申し上げ、中間の取りまとめに向けた意見表明とさせていただきます。

○ 松 あきら 君 これは、私の意見として述べさせていただきたいと思います。

 「真に豊かな社会の構築」というのは大変壮大なテーマであると同時に、今ほど残念ながらこれを語るのに難しい時代はないというふうに思っております。やはり、心の豊かさというのは、もちろん人それぞれ、考え方あるいは感じ方、思い方で違うとは思いますけれども、やはりある程度の社会保障を含めた経済的な裏付けがなければやはり、ということは、つまり人並みに暮らせるということがなければ真に心豊かに過ごすことは難しいというふうに思っております。正に、その基盤を作るのは私どもの仕事であるというふうに認識をしております。

 今、国、企業が、それこそ好むと好まざるとにかかわらず、厳しい国際競争を勝ち抜いていくためには、グローバリゼーションが進展する中、勝ち抜いていくためには、これまでの国内ルールでは通用しない時代となっております。正に、真に豊かな社会を構築するためにも、このいろいろな様々な規制というものを緩和して、大きな構造改革をすることがやはり急務ではないかというふうに思っております。

 こうした状況を打開するためには、例えば、総合規制改革会議あるいは経済財政諮問会議等でも六つないし七つの特区ということが表明をされておりますけれども、私自身は、この規制を緩和するということは、つまり規制されている人たちにとっては、これを緩和されるのは非常にまずい、反対であるという、またそういう意見もあるわけでございます。ですから、すべておしなべてやるのは難しい。であれば、例えば沖縄の金融特区もそうでございますけれども、教育特区あるいは国際物流特区、医療特区などの特区というものから始めていくことも必要ではないかなというふうに思っております。

 例えば、今、日本の港は、かつて神戸港あるいは横浜港など世界有数の貨物取扱量を誇りましたけれども、今では香港や釜山に遠く及ばない現状になっております。これは、接岸料も高い、内航海運コストも高い。夜間はもちろん通関、検疫ができない。ですから、二十四時間は駄目です、夜は駄目です。そして水先案内料が高い、そして外国人労働者による荷役の制限、いろいろありまして、例えば、夜遅くなれば日本の港には接岸できない、湾の外で待っているというような、こういうことになれば、例えばこれで世界の国々と競争しようと思うところにもう無理がある。これ、一つの例でございますけれども、そういうことでございます。

 ですから、そういう特区を作っていくと。そして、私は教育特区というのも非常に興味深く思っております。新学習指導要領が実施をされ、三割方いろんな授業が減るということでございますけれども、やはりこれは総合的な学習の時間が導入されたことによりまして、同じ公立学校であっても教師の創意工夫で学校間に差が付く時代となってまいります。私は、しかし、これはこれであるとは思いますけれども、こうなれば東京の品川区のように学区制を外さなければ、やはりこれはお金のある家の子だけが私立へ行けばいいということでは間違いであるというふうに思っておりまして、この辺も一度考えていただきたいなというふうに思います。正に、その上でそれぞれの特性を生かした数学あるいは英語を教える、いろいろな学校の、多様な学校が生まれることも一つ大事ではないかなというふうに思っております。

 そして、日本では、GDPに対する教育費の割合では、実はOECD三十か国のうちで残念なことに最下位でございます。私は、すべての源は人づくりである、人材こそが最大の財産であり、教育は最大の投資であるというふうに思っております。私の持論でございますけれども。

 例えば、OECD平均が五・〇%でございますが、日本は三・五五%ということになっておりまして、ドイツ、イギリス、アメリカ、フランスと比較しても大変に低い水準でございます。やはり私は、これは初等中等教育でございまして、大学以上の高等教育になりますともっと差が付いているという非常に残念な結果が出ているわけでございます。やはり私は、明日への成長力のために、これからは公共事業というものは人に投資をすべきだという考えを持っております。

 そしてまた、今の日本の国は再起可能な社会ではない、やはりこれは再起可能な社会の実現を目指すべきではないかというふうに思います。

 一つは、これは中小企業だけの問題ではありませんけれども、日本の企業の資金調達、なかなか難しいです。私自身は、ミドルリスク・ミドルリターンが非常に望ましいというふうに思っております。やはりほとんどが例えば四%以下で貸すと、やはり五%を超えることはまれです、金利が。ところが、以前問題になっておりました商工ローン、今は四〇%ということはありませんけれども、年利二〇%以上の高い金利に、これは普通の金利で貸してもらえない大多数のところは逃げ込まなければならないという現状があります。やはりこうしたことは、非常に私は、日本の国が回っていくためにはおかしいのではないか。土地を担保に設定するだけでなく、やはりミドルリスク・ミドルリターンの金融を実現することがベンチャー、中小企業支援には極めて重要です。

 それとまた、私は、中小企業の方のみならず、大企業もそうですけれども、やはりこれからは、今まで間接金融が主でしたけれども、これからは直接金融に発展させる必要があるというふうに思っております。

 やはり現状においても、不幸にして倒産された方が身ぐるみをはがされてしまうという状況です。今、残念ながら、ミドルエージの死因のトップは、がんでも脳卒中でもなく、自殺です。すべてが経済的なことが原因ではございませんけれども、毎年三万人に上る方が自殺で命を落とすような社会では真に豊かな社会とは言えないというふうに思います。このために、現在の倒産法制、例えばこれなども見直すことが必要なんじゃないかと思います。

 日本では、差押禁止財産は、衣服、燃料二か月分、最低生活費二十一万、年金等の公的給付受給権となっておりますけれども、例えばアメリカなどは、車あるいは住居などは差し押さえないということになっております。やはり破産した経営者のその後の動向を日米で比較しますと、アメリカでは約半数の方が経営者として再起をする、しかし日本では一割にすぎないわけでございます。やはり、例えばアメリカでは破産もビジネスの経験としてとらえられますけれども、日本ではそうではない、再起が難しいということになります。

 そうしますと、再起が難しいということになりますと、創業ということを妨げ、創業を希望する方のチャレンジ精神というものをつぶしてしまいます。やはり私は、様々な面から再起可能な社会を構築することが必要であるというふうに思っております。

 それから、やはり私は、これからは、もちろん好むと好まざるとにかかわらず、先ほども出ましたけれども、今までは夫一人が家庭を支えているという時代で、ほぼそうでございましたけれども、これからは男女がともに働きながら家庭を支えていく時代になってくるのではないかというふうに思います。これは、ワークシェアリングということも一つのその言葉ですけれども、しかし多様なニーズ、その多様化、つまり労働者の就業に対するニーズの多様化、企業の事業環境の急速な変化に的確にこたえられなければならないというふうに思います。

 ですから、やはり私は、育児休業あるいは保育所の増設、放課後クラブ等々を始め、地方分権、もちろん都市再生、男女共同参画という、そういういろんな観点からも、私は、国民の選択肢を広げるためには夫婦別姓ということも視野に入れた広い意味での私は変革というものを考えていかなければ、真に豊かな社会の構築はあり得ないというふうに思っております。

 以上でございます。

○ 西山 登紀子 君 日本共産党の西山登紀子でございます。

 日本共産党を代表して、中間報告に対する意見表明をいたします。

 本調査会は、「真に豊かな社会の構築」をテーマに設定し、今期の調査を進めてきました。経済大国と言われながら、本当の豊かさを実感できないのはなぜか、この国民の疑問に答えるための政治の責任について考えてみたいと思います。

 まず、豊かさとは何かという問題です。

 この点についての参考人の意見は、仕事の場があり、安心して自分の道を選択でき、その能力を発揮できること。また、家庭や地域に非金銭的な豊かさを感じられる場があること。また、自然と共生して生きることができる、それをすべての人が享受することができるなど、大変示唆に富むものでした。

 私も、真に豊かな社会の構築のために国民が求めているものは、物質的な豊かさに加えて、いわゆる物やお金だけでは味わえない、人間らしいゆとりのある、また心の豊かさも十分共有できる新しい社会であると実感しております。

 戦後、半世紀以上、高度な経済成長のみを追い続けてきた日本は、先進資本主義国の中でもいびつなゆがみを持った国となっています。

 その下で、国民生活の実態はどうなっているでしょうか。完全失業者数は約三百八十万人、潜在失業率は一〇%を上回り、十人に一人が失業者という深刻さです。小泉政権の下、大企業のリストラ、不良債権の最終処理による信金信組の破綻が五十八件にも上り、中小企業を直撃して更なる失業者を生み出しています。デフレの悪循環、また、年間三万人を超える自殺者とその遺児の問題、長時間過密労働、少子化の進行、低賃金の女性パート労働者の増大、BSEを始めとする食の安全の問題、地球温暖化など深刻な危機に陥っていると言わざるを得ません。

 自助努力、市場原理を極端なまでに強調し、社会的弱者を切り捨てる小泉構造改革の道を突き進むことは、この一年間の経済実態や国民生活、産業の在り方を見ても、国民が豊かになっていく道とは到底考えられません。根本的な転換が必要です。

 まず、雇用対策と働き方について述べます。

 第一は、新たな失業者を作らない政策への転換です。日本でも、大企業のリストラ規制のルールを早急に確立すべきです。日本の大企業が、この間、内部にため込んだ利益は、二〇〇〇年三月期決算によっても、大企業四百二十社で百二兆円にも上っています。雇用を守るために、経営者としても最大限の努力をする、経営上の都合による解雇は最後の手段、これは近代社会の中で確立してきたルールではないでしょうか。ヨーロッパの多くの国で行われている解雇規制法を我が国でも制定することが必要です。参考人質疑で、企業内労使のみのルールづくりには限界があるので、政労使、公労使での社会的な合意形成の仕組みを作る必要が求められているとの意見は重要だと考えます。

 第二は、雇用を拡大する本腰の取組を行うことです。賃下げなしのワークシェアリングを本格的に実行に移すこと。サービス残業の根絶を行えば、九十万人の雇用を生み出せるという試算もあります。昨年四月に、厚生労働省が労働時間管理徹底の通達を出しましたが、その実効ある対応が求められます。その他、年休の完全取得を進める、教育、消防、介護、医療など国民生活に不可欠な分野での公的な雇用の拡大にも本格的に取り組むべきであると考えます。

 第三は、失業者の生活保障の問題です。この点では、ヨーロッパ並みの水準を目指した抜本的な拡充を行うことが必要です。完全失業者のうち、失業給付を受けているのはわずか三割にすぎません。その最大の理由は、失業給付が最長でも十一か月で切れてしまうことによるものです。失業がホームレスへの転落の不安と背中合わせという国は日本だけです。

 参考人の意見の中で、ドイツの紹介がありました。労働権が保障されていること、正規労働者だろうがパートだろうが、六か月働けば失業給付などの保険が付き、失業しても社会保険の掛金は国が代わって支払う。また、失業給付は三年近く支払われ、保険が切れても失業扶助が支給され、年金にも連動していくという生活の安心の土台が確立していること。また、職業訓練による労働の高度な質の向上を目指す施策もあるということです。同じ先進国として、こうした点を教訓として見習うべきではないでしょうか。

 第四は、男女ともに仕事と家庭に責任が果たせるよう、女性の仕事と母性保護をしっかりと保障し、男性の長時間労働を改め、保育所や学童保育の充実を公的な責任において図るべきです。

 次に、国民生活と社会保障に関する問題です。

 まず何よりも社会保障を充実させ、将来の不安を取り除くことが求められています。構造改革と経済財政の中期展望では、社会保障は可能な限り抑制するとしていますが、これでは将来の不安が増すばかりです。特に、今審議中の健康保険の改正案は、政管健保、組合健保合わせて、保険料の約一兆円増、健保本人と定年退職者の負担を二割から三割へ引き上げ、高齢者に更なる負担を押し付けるなど、空前の負担増を強いるものとなっています。今回の法改正がされれば、更なる受診抑制が起こり、国民の命と健康が脅かされ、とても豊かな生活など保障する道とはなりません。

 健康保険への国庫負担率を八三年の水準に戻すこと、高い薬価を引き下げることなど行うならば、国保の三割負担を二割に、そして老人医療を昨年一月前の定額制に戻すことも可能です。六歳までの乳幼児医療費の無料化には、一千二十億円が必要ですが、これはアメリカ軍への思いやり予算の半分で実現できます。介護保険については、高過ぎる保険料、利用料の軽減や、特養ホームの建設、家族介護の金銭給付など必要との指摘もあり、当然と考えます。

 母子家庭の児童扶養手当の削減と法制度の改悪も重大であり、今国会での強行は許されません。憲法二十五条は、国民の生存権を明記し、社会保障を国の責務としています。この憲法の立場に立って、税金の使い方を大きく変えることで国民の社会保障の向上は十分に可能です。

 次に、景気の回復、産業の空洞化対策の問題です。

 景気回復については、参考人質疑の中で、小手先の景気対策ではなく、消費税減税が有効であるとの指摘がありました。社会保障の充実に加え、三%に戻すことで、GDPの六割を占める個人消費を回復させることが日本経済にとって今すぐ必要な改革です。

産業の空洞化の問題も、とりわけ深刻です。

 参考人からは、大田区工業会連合会に加盟している下請中小企業などの七九・四%が受注減となり、空洞化の影響が雇用と地域経済に深刻な事態を及ぼしていることが明らかになりました。

 大企業に対しては、リストラアセスメントなどにより、大規模な人減らし、生産縮小、海外進出を計画段階で国と地方自治体に報告させ、その影響を調査した上で計画の変更や中止を勧告できるという法整備が必要と考えます。

 最後に、参考人から、他国を思いやる文化のある日本が強調されました。今審議されている有事三法案は、アメリカの戦争に日本が武力行使を含め参戦するという憲法違反の亡国の道を歩むものです。他国の人々とともに、平和や豊かさを共有できる思いやりの深い国となるよう努力を尽くすことが真に豊かな社会への大前提であることを申し上げて、意見表明といたします。

○ 森 ゆうこ 君 国会改革連絡会の森ゆうこでございます。

 私も、個人的な意見を述べさせていただきたいと思います。

 「真に豊かな社会の構築」、ある見方をすれば、私たちは、かつて理想としていたものをほとんどすべて手にしているとも言えるのではないでしょうか。

 不老長寿という人類不変の夢、これは平均寿命平成十二年で男性七十七・六四歳、女性八十四・六二歳と世界一位。不老長寿という夢を達したかに見えます。そして、戦後追い求めてきた経済的豊かさは、GDP平成十二年四兆三千五百億ドル。これは世界の富の一四%を我が国が占めている。世界第二位。これも夢を実現したと言えるのではないでしょうか。

 それにもかかわらず、真に豊かな社会を求めて今改めて議論しなければならないのは一体なぜでしょうか。かつての目標を達成した日本人が、新たな理想、そして目標を見付けられずにいるからだと思います。

 それでは、私たちが追い求めるべき理想の社会とは一体どんなものでしょうか。

 楽園という言葉があります。楽園では働くことは言わば罪である、そのような考え方だと思います。しかし、このいわゆる楽園の考え方は、日本人にとっては合わないのではないのでしょうか。日本人にとって、生涯現役として社会に貢献でき、そして何らかの形で働き続けることができる、そういう社会が日本にとっては、日本人にとっては豊かな社会なのではないでしょうか。

 特にこれから、高齢者人口が全人口の三分の一になる我が国では、この高齢者の生き方が大きな課題となることは明白です。その方法として、高齢者の生き方を充実させる方法として更なる社会保障制度を拡充することを主張する方もいらっしゃるでしょう。しかし、これは真の豊かな社会をつくるものでしょうか。社会保障は元々主役ではありません。生涯元気でその人らしい活動の場がある社会が理想であり、その理想が全うできないときにお互いに支え合う、それが社会保障だと思います。

 まず必要なのは、生涯、社会で活動することのできる場所、働く場所を確保するための新しい雇用政策であると思います。定年などの現在の労働体系を見直して、そのためには、新しい賃金体系を作り、シニアのための言わば別体系を作るべきだと考えます。

 そして同時に、なかなか小泉構造改革では話題に上りませんが、社会政策としての新しい農業政策を考えるべきではないでしょうか。地域を守り、そして高齢者が生き生きと生きがいを持って働ける場所としての社会政策としての新たな農業政策を考えるべきと思います。

 これは少し言い方が乱暴なんですが、社会保障というのは、多くのお金を投じ、そして政治家にとって、いや、政治屋かもしれませんが、大きな票となることだと思います。しかし、必要なのは、この少子高齢社会に適した社会インフラの整備を主役とした政策を作っていくことだと思います。社会環境の整備に予算を使い、そして政府がその先頭を進んでいくとの姿勢を見せていくべきではないでしょうか。

 高齢者の問題と同様、キーワードはもう一つ女性の問題があります。特に、子育ての期間、産休ではなく、社会のシステムとして再雇用を認める制度を作り、出産、子育ての機会費用は社会が負担することによって少子化に歯止めを掛けることが必要ではないかと思います。そのような社会環境整備を整えるには地域の実情に沿って作るべきだと思います。そのためにも、早急なる地方分権を実現する必要があると考えます。そして今、正社員、パートタイマーで著しく格差のある賃金体系を根本的に見直すべきだと思います。

 ただし、日本が今さらされている国際競争の現状を考えるとき、今まである賃金体系の見直しといいますと、とかくその格差を是正するために、例えば今、正社員の賃金にパートタイマーの賃金を合わせるというような形でやられることが多いわけですが、そうではなくて、全体として、正社員もパートタイマーも含めて、全体として利益を再配分するにはどのようなシステムがいいかという視点が重要だと考えます。

 そして、この日本がこれからの国際競争の中で生き残っていくためには、日本にはそれを引っ張っていくためのリーダーの育成が必要ではないでしょうか。日本は、全体としてはまだまだ他の国に比べて国民の潜在的な能力は高いと思いますが、しかし、先進諸国と比べてキャリアのリーダーシップが足りないのではないでしょうか。キャリアは能力主義でなければなりません。そのために、私たちは学校教育というものをもう一度見直す必要があると思います。今までの結果の平等にこだわった教育ではなくて、社会を牽引していけるリーダーを育てる新しい教育の姿を考えるべきときが来ていると思います。

 以上、簡単ではございますけれども、私の意見表明とさせていただきます。