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国民生活・経済に関する調査会

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国民生活・経済に関する調査報告(中間報告)(平成12年5月26日)

平成十二年五月

国民生活・経済に関する調査報告(中間報告)

参議院国民生活・経済に関する調査会

目次

I 調査の経過

 平成十年八月に発足した本調査会は、同年十月に、今期の調査項目を「次世代の育成と生涯能力発揮社会の形成」と決定し、調査を開始した。

 初年度目は、調査項目全般にわたる調査を行った。その結果、調査項目について、深刻化する「少子化」との関連をより明確にすべきであるとの認識が深まり、これを「少子化への対応と生涯能力発揮社会の形成」に改め、昨年八月に中間報告書を議長に提出した。

 また、昨年の常会閉会中に、ドイツ、スウェーデン、フランス三国の少子化対策と人材育成等の実情を調査するため、海外派遣が行われた。

 二年度目に当たる本年は、我が国の根幹にかかわり、早急に対応策を立てなければならない少子化問題を中心に調査を行うこととし、参考人からの意見聴取・質疑、政府からの説明聴取・質疑、各会派意見表明・委員間の意見交換及び山口、広島両県への委員派遣による実情調査を行った。

 参考人からの意見聴取と質疑は、外国における少子化対策としての家族政策等の内容、我が国の少子化に関する全般的な問題、少子化の進展が将来の社会保障負担に及ぼす影響、育児支援・育児の経済的負担軽減の在り方、経済界と労働界の少子化問題に対する考え方等について行った。

 また、政府からの説明聴取と質疑は、政府が昨年十二月に決定した、少子化対策推進関係閣僚会議の「少子化対策推進基本方針」、大蔵、文部、厚生、労働、建設及び自治の六大臣合意による「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について(新エンゼルプラン)」及び文部、厚生、労働、建設各省の「平成十二年度少子化対策関連予算」について行った。

 本報告書は、こうした活動を踏まえ、少子化問題について述べられた意見を整理し、当面する課題を提言としてとりまとめたものである。

II 調査の概要

一 参考人からの意見聴取及び主な質疑応答

(一)諸外国における少子化問題への取組について(平成十一年十一月十九日)

 少子化問題への取組に先駆的な経験を持つスウェーデン及び家族政策を通じた少子化対策を積極的に講じているフランス、両国における少子化問題への取組の概要について、参考人を招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 両参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(國學院大學経済学部教授  上村 政彦 参考人)

 フランスの出生率はここ二世紀にわたり低迷している。特に一九三〇年代に顕著に低下し、その後やや回復したものの、近年戦前の水準に近づきつつある。フランスでは古くから少子化対策が重視されており、家族の福祉の増進を通じて出生率の引上げを目指した多種多様な家族政策が、多面的に幅広く展開されてきている。

 家族政策の実質をなすのは家族給付制度であり、その給付総額は約三兆円、受益者は二十歳直前までの子ども千二百三十万人、主な給付は十種類である。その中心となる家族手当は、一九三二年に創設され、フランスに居住する第二子以降の子どもを扶養する者に支給される。これを補完する家族補足手当と併せ、家族給付費の全体の約五三%を占める。家族給付制度の財源は、事業主の負担する保険料であったが、国民の負担する総合福祉拠出金制度からも繰り入れられることとなった。また、親の就業が給付の受給要件とされていたが、最近撤廃され、制度の対象が全国民に拡大された。

 家族給付制度は、当初賃金の一種であった。その後、単一賃金手当、産前手当、出産手当等の創設により少子化対策としての性格が付与された。さらに、一九四五年以降は社会保障制度の下に再編されている。このような変革を経てきた家族給付制度の性格については様々な議論があるが、少子化対策としての要素が、他の社会保障給付にはない特徴をこの制度に付与している。

 家族給付制度の将来を展望すると、就業要件の撤廃や総合福祉拠出金からの繰入れにより、少子化対策としての側面が明確になる可能性がある。しかし、これまでの経験によると、出生率の問題は制度を設けただけでは解決しない。女性の意識について配慮し、息の長い教育や啓発という政策があわせて採られる必要があろう。

(早稲田大学社会科学部教授  岡沢 憲芙 参考人)

 少子化の背景には、女性のライフスタイルや意識の変化に対し社会システムが対応できていないことがある。この問題への対応を、スウェーデンの経験を踏まえて考えると、労働市場、企業及び経済構造、社会福祉体制、家族制度、地域社会、教育環境等への影響について包括的に取り組むことが必要となろう。

 少子化問題に対する政策の検討は段階的に行われるべきである。まず、少子化は望ましいか否かについての合意形成が必要であり、少子化が望ましくないとしたら、出生率を高める政策を検討すべきである。その政策としては、子どもを生みたくても生めない状態の克服、さらに、児童手当の充実等の生んだ方が得と思える制度の充実が挙げられる。この二つの視点で政策を展開して出生率が上がらないとすれば、少子社会にどう対応するかを検討すべきである。

 特に、生みたいのに生めない状況の克服については、(1)養子縁組の簡素化・養子と実子の格差解消、(2)生涯教育の充実等の教育環境整備、(3)保育所の整備、児童手当の充実、(4)男性の育児参加を可能とする労働環境の整備、労働時間の短縮、年休の完全消化、労働時間選択制度や児童看護休暇制度の導入、(5)家族数に応じた住宅の提供と補助金の支給、(6)女性の労働環境の整備、出産・育児休暇期間中の所得保障の引上げ、出産・育児休暇を取りやすい職場環境の形成、等の対応が考えられよう。

 スウェーデンにおいては、(1)妊娠中の部署異動申告制度、(2)四百五十日の出産・育児休暇、(3)児童看護休暇制度、(4)保育所の整備、(5)幼児を持つ親の労働時間選択制度、(6)男女雇用均等オンブズマン制度、(7)長期の有給休暇と年休の完全消化、(8)短い労働時間、(9)バリアフリーの都市計画、等を通じ、男女共同参画社会を形成し、少子化に対処した。こうした対応の背景として重要であったのは労働環境の整備であり、とりわけ、短時間労働、長期の有給休暇と年休の完全消化、雇用安定法、出産・育児休暇制度、幼児を持つ親の労働時間選択制度等が重要となろう。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ スウェーデンの経験から考えられる我が国の少子化対策については、(1)ワークシェアリング等を通じた労働時間の短縮、(2)育児休業中の所得保障水準の引上げや出産・育児による休業や復職が歓迎される職場の形成等の労働環境の整備、(3)開園時間や開設場所の多様化等の保育所及び幼稚園の充実、(4)児童手当や住宅補助の充実等の家庭政策の充実、(5)妊娠・出産費用の軽減、(6)伝統的な大家族が果たしてきた機能の社会的代替、(7)政策決定過程への女性の参加、等が重要であるとの意見が示された。

○ 家族手当等にかかる税外負担へのフランス企業の反応については、事業主負担率は減少し、その減少分は総合福祉拠出金で国民が負担する方向であるため、不満が出るとすれば国民からであろうとの意見があった。また、これまで受給に親の就業要件が設けられていた理由は、費用を企業が負担していたこととの関連で設けられたとの説明があった。

○ 出生率の向上に力を入れるべきか、少子高齢社会を前提とし早急の対策を組むべきかについては、少子化対策と高齢化対策は車の両輪として両方を進める必要があるとの考えが示された。また、予想される労働力の減少に対しては、(1)合計特殊出生率の上昇、(2)外国人労働力の導入、(3)女性の社会参加の向上、(4)定年と年金支給開始年齢の引上げ、(5)経済システムの規模の縮小を検討する必要があるが、スウェーデンでは、(2)と(3)の選択肢を採用し、在住外国人の生活環境整備、女性の社会参加に取り組んだとの説明があった。

○ 労働時間の短縮や婚外子の一般化と出生率との関係については、残業の減少や年休消化率の上昇は、少なくとも男性の育児や家事への参加の可能性を高め、女性の育児や家事負担を軽減し、女性の社会参画を高めよう、また、親との法的関係がどうあれ嫡出子との格差をなくすことが、子どもを生み育てることに関する精神的ハードルを取り除くことは確実であるとの見解が示された。

○ 少子化対策として外国人労働者を導入することについては、スウェーデンにおいても移民を受け入れる環境の整備が大変であったことは想像に難くなく、我が国も、どれだけの準備が必要かについて情報を得て、環境の整備を行うことが必要との見解が示された。

○ 社会が豊かになると人間はエゴイストになり、少子化対策に多額の予算をかけても十分な効果がないのではないかとの意見については、百年近い歴史があるフランスの家族給付は社会的に組み込まれており、今から始めようとする我が国と事情が異なるが、我が国においても将来この程度の費用がかかるという目安にはなろうとの意見が示された。

○ 少子化が子どもの教育に与える悪影響については、少子化により今までとは違う幼児期文化が育っていくということは想像がつくが、子どもの幼児期の精神形成に与える影響については、今の段階ではわからないとの説明がなされた。

○ スウェーデンで女性の労働参加が定着した要因については、公的セクターは女性管理職が多数を占めるが、民間セクターは男性管理職の社会であり、国際競争下で女性の社会参加や管理職登用はこれからの課題であるとの意見が示された。

○ 住宅手当の支給状況については、フランスの住宅手当には、家族給付部門の給付と社会福祉分野の給付があり、スウェーデンの住宅手当の額は、子どもの数、部屋の大きさ、家賃により決まり、我が国に比べ贅沢なところまで補助しているとの答えがあった。

○ 政策決定過程における女性や市民の意見の反映については、フランスの社会保障の運営は当事者の自主管理に任されている、しかし、国庫負担が導入されたため、国の干渉が強くなることもあろうとの見解が示された。一方、スウェーデンでは、税金が高いことを背景に、意思決定への市民参加を基本にしないと市民が納得しないため、市民の政策決定過程への参加を保障する制度の整備が進んでいるとの意見が示された。

○ 文化的背景が異なる我が国でも参考となる外国の少子高齢化対策については、自立教育と労働環境の整備が必要であり、さらに、余暇生活、家族の団らんや語らいが大きな価値を持つ社会にシフトすべきであるとの意見があった。

(二)少子化ヘの対応等について(平成十二年二月二十三日)

 我が国における少子化問題を概観するため、少子化問題の全般的な内容について、有識者を参考人として招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 各参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(武蔵工業大学環境情報学部教授・慶應義塾大学名誉教授  岩男 壽美子 参考人)

 平成十年十二月に出した少子化への対応を考える有識者会議の提言は、男女が共に家庭や地域の責任と仕事を両立できるような多様な働き方、生き方を実現できるよう、また子どもたちが楽しく伸び伸びと成長していけるような環境整備について、百数十項目にわたり提唱している。同提言をまとめるに当たり、(1)結婚や出産は、当事者の自由に委ねられるべきもの、(2)少子化は深刻な影響をもたらす、(3)女性を家庭に戻そうとする対策は非現実的・不適切・不合理である、の三つの留意点を挙げた。

 少子化への対応では、次代の子どもを生み育てる若者の意識・価値観・日々直面している問題に十分配慮する必要がある。特に、(1)現在の若者の意識は、結婚・出産が、必然的なものではなく、ライフスタイル上の選択肢の一つになった結果、それらの選択に際し完璧さを求めるため、選択を躊躇したり、また、育児にフラストレーションやストレスを感じてしまう、(2)若者は、自由を非常に大事なものととらえており、自由を拘束しがちな結婚、出産、育児の選択をためらう、(3)男女共学の中で男女平等を体験しながら育ったため、パートナーシップを求め、大切にする、(4)若者の意識は多様化しているため、少子化対策のメニューを多様化させ、かつ、その運用を柔軟にすること等について考慮する必要がある。

 また、男性よりも女性の意識の変化が急速かつ大幅なので、男女の間で大きなギャップが生じており、そのことも少子化問題に影響していると考えている。

(日本社会事業大学社会福祉学部教授  椋野 美智子 参考人)

 少子化について、(1)当事者である若い世代、特に女性の意見を十分聞くことが重要である、(2)結婚・出産等に関して、個人の生き方の多様性を制約するような対応をとってはならない、(3)特効薬はなく、性別役割分業型社会から男女共同参画型社会へ社会全体の体質改善をする必要がある、(4)男性の働き方を変え、男性中心、職場優先の働き方を変更することが鍵となる、(5)保育サービス等の総合的な子育て支援は重要であるが、それらの支援策が効果を発揮できる社会の体質改善や変革が必要である、との五つのポイントを強調したい。

 また、昭和五十年以降の少子化の原因は、未婚率の上昇であり、独身の理由で一番多いのは、適当な相手にめぐりあわないためとしている。いずれ結婚するつもりの人は九割近くいるが、その半分の人は理想的な相手が見つかるまで結婚しないといっており、女性の未婚者は結婚相手の条件として、男性の家事への協力や自分の仕事への理解を結婚相手に求めている。また、専業主婦志向の女性でも、結婚相手に家事への協力を求めている。

 性別役割分業についての意識は、男性は全年齢で賛成が反対を上回っている。ところが、四十歳代までの女性は逆に反対が多くなっている。このギャップが、男女の結婚条件がうまく合わない一つの理由になっている。

 子育ての経済的負担の軽減ということを考えるときに、出産・育児に伴って就業を中断することによる利益の損失(機会費用)が軽減できるような、子育てと仕事が両立できる施策が重要である。

 子どもに恵まれない人のための不妊治療や子育てをしたい人のための養子の支援も必要である。

(作家  鈴木 光司 参考人)

 従来、若い男女は、結婚することで互いに不足する点、女性は経済的なもの、男性は家庭生活全般、をカバーしあいながら、お互いに成長するのが普通であった。その後、昭和五十年代になると、女性の社会進出が進み、経済的な基盤を持つようになって、多様な生き方が可能になり、コンビニエンスストアや外食産業ができて、男女とも一人暮らしが楽に成り立つようになった。その結果、独身女性は、結婚した女性が働きながら、なお家事や育児を全部するのを見て、結婚のメリットを見いだせなくなり、結婚を選ばなくなった。

 本当は、父親が男の子をたくましく育てるべきであるが、企業戦士として家庭に背を向けているので、その要素がなくなっている。このため、そのように育てられた男は、適齢期になっても女性に結婚することのメリットを提示できない。これを変えるためには、男女共同参画社会の実現が、家庭の中にたくましさを持ち込む一つの具体的方法であると考えている。

 世の中の雰囲気が大事であり、結婚や子育てのマイナス面ばかりを強調するのでなく、楽しさやすばらしさを示すべきである。豊かな子育てをした世代が、次世代に向かって豊かな表情を見せれば、次世代の人々が子どもを生み育てることの楽しさを知り、子どもを生みたいという思いを自発的に持つようになる。

 少子化問題は、高圧的に「産めよ殖やせよ」で対処するのではなく、今ある社会の不備を改善して出生率を少しでも上げていくのが、正しい進め方である。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 保育所の整備に関し不足している点については、大都市圏での保育所、低年齢児の保育所が不足しており、病児保育、専業主婦が使いやすい一時保育等が進んでおらず、従来の考えにとらわれない柔軟な保育サービスの提供を考えて対処していく必要があるとの意見が述べられた。

○ 公共施設のバリアフリー化等を進める際に、子ども連れで行動する人の希望をどのように取り込めばよいかについては、高齢者や身体障害者等だけに限定した整備ではなく、すべての人にとり公共機関を利用した移動の円滑化が図られるのが望ましい。少子化対策としては、子連れでも移動を容易にしていくという社会全体の支援のメッセージが伝わるとよいとの意見が述べられた。

○ 単身赴任や転勤等を含め、広い意味での男性の働き方を変えることについては、子育て中の一定期間は遠隔地転勤のない働き方をし、可能になった時点でそうした働き方に変わる等、一度選んだ働き方を変えられる多様な働き方を可能にすることが一つの方策であるとの見解が述べられた。

○ 児童手当の在り方については、子育てにお金がかかる部分を政策的にカバーするには半端な金額では足りず、まず不可能だとの意見、また、経済的負担の軽減では、大学の教育費用が一番重いので、そこを奨学金で軽減するとか、仕事と育児の両立ができるようにして機会費用を軽減した方が効果が大きいとの意見、さらに、毎月児童手当を受給することで、母親がある程度の満足を受ければ、その影響の積み重ねで、その十年先に、次世代に子どもを生んでよかったということがいえるかもしれないとの意見があった。

○ いわゆる三歳児神話については、子どもの発達上小さいときは重要であるが、子どもが三歳になるまで母親が家にいて、密接に接する必要があると主張するのは、大変マイナスだ。それは、むしろ少子化を促進する方向に働く。母親の子育ては、接触の時間よりもその質が大事であるとの見解が示された。

○ 育児休業を三年間に延長することについては、育児休業期間の延長の要望は高くなく、三年間休んでいるとなかなか職場に復帰しにくいため、短時間勤務で少しずつ仕事も子育てもする方が復帰しやすいとの説明があった。

○ 三歳児神話は、厚生白書で合理的根拠がないと指摘されたが、今後の国の施策等にどう反映させるべきかについては、現在は、女性も働くのが当然視される時代であり、保育所の運営や社会保障のモデルとしている世帯を共働きを前提にしたものにすること等幅広い分野の政策を変えていく必要があるとの意見が述べられた。

○ 男性の家事や育児への参加が、結婚や教育問題、さらには企業活動にとってどのようなメリットをもたらすかについては、男が家事、育児に参加すれば、家族から粗大ごみや濡れ落ち葉扱いされることもなくなり、家庭が居心地のよい、エネルギー補充や忍耐力を養う場になる。その結果、職場でもいい仕事ができるようになるとの見解が示された。

○ 学校教育の中で、子育て問題についてどう対応するのかについては、よい学校を出、よい会社に就職することを成功と思わせない学校教育へ変わっていくことが重要である。また、地域や家庭が子育ての力を失い、そのすべてを学校が背負いこんでいたが、もう一度地域や家庭が担うべき分野を返すことが必要である。さらに、学校がもっとオープンになり、学校の中で、男女共同参画を教えていくことが重要と考えるとの意見が述べられた。

○ 女性が持つ母性を社会的機能として支えるためには、現在の男性の働き方を変える必要があるがその方策については、女性が大変な思いをせずとも仕事と家庭の両立ができ、かつ、やりがいの持てる働き方を可能にするのが望ましい。しかし、女性だけがそのようになることは難しいため、男性の働き方も変える必要がある。企業は、労働時間や勤続年数等で評価するシステムから、仕事の能力で評価するシステムに変えていく必要があるとの意見が述べられた。

(三)少子化の進展と社会保障負担の在り方等について(平成十二年三月一日)

 少子化の進展は、我が国社会の高齢化を早め、将来における社会保障制度の負担と給付の在り方に大きな影響を及ぼすことが懸念されることから、学識経験者を参考人として招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 両参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(国立社会保障・人口問題研究所長  塩野谷 祐一 参考人)

 少子高齢化及び人口減少は社会保障制度の再構築を迫る基本的な要因とみなされていると思う。経済成長率が低下し、増大する高齢者の社会保障費を減少する若年者の経済力によって支えることは困難になるからである。

 少子高齢化が問題であるのは、それを受け入れる社会の制度あるいは考え方が変化に追いついていないためである。その背景にある深刻な事態は社会保障財政の破綻よりも、人々の公共的理性の欠如である。公共的理性とは、公正の観点から議論する場合の知的、道徳的能力である。

 少子高齢化のうち、少子化は経済発展の結果、主として女性の側における機会の拡大によってもたらされたものである。出生率の低下は男女平等化の差し当たっての代償であると考えるべきである。高齢化も、経済発展のプロセスを通じて、医療技術の進歩や医薬品のイノベーションによってもたらされたものであり、これも人々にとって機会の拡大である。多額の年金、医療、介護のための費用は生活の質の向上に伴う一時的な費用である。

 このように、経済発展という本来望ましい成果が、社会保障財政の在り方等に不都合な結果をもたらしているのは、社会の仕組みが適応していないためである。これを適応させるには、男女共同参画のための制度とともに、老若共同参画というエージレスのための諸制度が必要になる。現在の我が国では、女性の解放・地位向上と家族の社会的機能の充足が対立し、少子化、人口減少という形で現れているが、スカンジナビア諸国の例をみると、女性の社会参加制度、家族福祉制度等の充実を図ることによって、これらの両立は可能である。

(一橋大学経済研究所教授  高山 憲之 参考人)

 少子化と高齢化は質的内容が正反対である。高齢化は高齢者の増加によって不足する財源、人員、施設の供給・整備が必要とされる問題であるが、少子化は供給超過に伴う配置転換・廃棄が必要となる問題であるので、問題意識をシャープにするためには、少子高齢化ということばをもう使わず、少子化社会への対応に純化させた方がよい。

 少子化は子どもの数だけでなく、質の問題でもあり、(1)経済発展によって子どもは欲望のコントロールを学ぶ機会を余り与えられていない、(2)受験競争が緩和して潜在的な能力を十分開発しないまま社会に出る人が増加している、(3)大人が自分の都合を優先して子どもの教育で手抜きし、子どもの社会力が著しく低下しているとの警告もある。

 少子化対策の育児休業、保育所に次ぐ三番目の柱として、異常な日本の男性の働き方をまともな形に変え、女性が仕事と家庭の両立をしやすくする様々な施策が必要になる。

 また、出産、子育てをめぐる現金給付の実施は、子どもを生み育てることに社会全体が敬意を払い感謝するというシンボリックな意味があり、子どもを生み育てている人とそうでない人との負担格差を縮小する観点、社会保障給付の高齢者への集中を是正するという観点から、大事だと思う。

 具体的には、出産育児一時金、育児休業手当、児童手当、奨学金は増額する必要性が高いと考える。年金制度の中に出生給付を創設し、児童手当も年金制度の一給付に改めて、年金制度に対する若者の理解を深めたらどうか。児童手当の増額、対象拡大に要する財源については、所得税、住民税における児童扶養控除を廃止し、その増収分を充当することを検討する必要がある。また、育児休業期間中の保険料納付免除によって失われた財源は、別途、租税によって補てんしてはどうか。児童医療費の窓口負担を軽減し、高額療養費還付金も児童用に低額の特別枠を設ける必要がある。

 保育費負担を軽減するため、保育バウチャー制度を導入し、それを保育料やベビーシッター代等の一部に充当することを認めたらどうであろうか。教育費負担を軽減するため、高校レベル以上について供給サイドにつけている教育補助金を原則として全額奨学金化し、需要サイドから流すことを検討すべきである。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 外国人労働者の受入れ問題については、単に人口や社会保障財政の視点から議論することは望ましくないが、日本にない考え方や資質、文化の多元主義を社会に埋め込むためにはよいと思う。また、我が国の現状は外国人労働者の導入について、本格的に議論すべき段階に入ったと思うとの見解が述べられた。

○ 社会保障の財源として、保険料、租税、自己負担の三者をどう組み合せていくべきかについては、基本的に保険料と租税は区別する理由がなく、いずれもリスクに対処する仕組みであり、自己負担はコスト意識に基づいて社会保障制度を効率的にするためのものであると考える。今後の社会保障費総額が増える中で、三者のいずれも増えざるを得ないが、現在いずれが過重かという観点から、保険料よりは少し租税に重点を置きつつ自己負担を増やす方法が考えられるべきとの見解が示された。

○ 高校レベル以上の教育補助金を奨学金化するとの提案については、奨学金を需要サイドから流すことは、専門家が従来から主張してきたが、文部省の抵抗で実現しておらず、政治主導で行えば問題が展開するのではないかと思う。奨学金制度の変更は子どもの早期自立を促す効果もあるとの答えがあった。

○ 将来の年金負担を確実に担える税制の導入については、今後国民の負担を増加する場合に国民が公平だと思うものは消費税の増税しかなく、国民の納得を得て行う方法としては、消費税を年金目的税とし、増税する代わりに年金保険料を引き下げる提案を国民にしてはどうかとの意見が述べられた。

○ 公的年金制度の改善策として提案されている拠出建て方式については、確かにこの方式であれば年金の積立金不足、制度分立、空洞化、財政危機等の問題は起こらないが、金融市場での運用成績に依存するので、老後所得の安定を恒常的に担保できるかが疑問であるとの指摘があった。

○ 保険料と租税の望ましいバランスについては、現状では、保険料や法人税の引上げは困難であり、世代間における負担の公平を図る観点から、消費税を増税するしかないので、消費税の抱えている様々な問題点をクリアするため議論していただきたいとの意見が述べられた。

○ 男女共同参画社会が成熟していけば、出生率が回復するのかとの問いに対しては、就労と育児、出産がトレードオフの関係にあるため出生率が落ちているが、このトレードオフ関係をなくしたシミュレーションモデルでは、合計特殊出生率が現在の一・三八から一・七八に上昇するとの結果が出ているので、女性の出産、育児と社会参画が矛盾を来さないような施策を採れば、出生率が回復する可能性があるとの意見が出された。一方、出生率の回復のためには男女共同参画社会の実現のみでは十分でなく、子どもを生みたくないあるいは結婚したくないというのは、ある意味ではエゴイズムの表明であるので、出産や結婚についての選択が社会的に見て余り変な形にならないように誘導する、あるいはインセンティブを与えることも重要であるとの見解も示された。

○ 新婚夫婦等が住みたくなるような子育てタウンづくりについては、仕事に忙し過ぎて地域とのかかわりを持てない父親や男性が地域での役割を、どう果たし得るかを議論していただきたいとの意見が述べられた。

○ 男性の働き方を変え、仕事と家庭の両立ができるようになれば、社会保障の担い手も増えるのではないかとの意見については、男女共同参画、老若共同参画を推進すれば、少子化の悪影響をショックアブソーバーとして減らし、社会保障の担い手を増加させることにもなるとの見解が示された。また、男性の働き方を変えるには、現在の雇用・労働慣行を変え、労働時間の長さや忠誠心による評価システムから、業績を重視するシステムに変えることが必要であるとの意見も述べられた。

(四)育児支援、育児の経済的負担軽減の在り方等について(平成十二年四月十九日)

 少子化の主な要因の一つとして、育児自体の負担感や子育てにかかる経済的負担の重さが挙げられているため、育児支援やその経済的負担軽減の在り方について有識者を参考人として招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

両参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(中央大学法学部教授  広岡 守穂 参考人)

 これからは、子どもが多くの大人や友達と触れ合いながら育っていくためにも、また、親自身が自己実現を果たして生きていくためにも「子どもを預けて育てる」時代である。

 子育て中の母親は子育てに対する強い不安、ストレスを感ずるとともに、自分の将来に強い不安を持っている。したがって、子育て支援をすることは同時に母親の自己実現をサポートすることでなければならず、そのためには安心して働きながら子育てができる社会システムが重要である。また、自己実現をする努力は社会発展の原動力でもあるので、我々は性別に関係なく自己実現のチャンスがあるジェンダーフリーの社会をつくる責務がある。

 一方、現代人は、自己実現的である反面功利主義的になっており、今ほど道徳観念が重要な時代はないと考える。その面で両親だけが子育てにかかわるのは限界があり、地域の人々や保育士等が「子どもは社会の宝」として子育てにかかわっていくという「子どもを預けて育てる」社会的合意をつくる必要がある。しかし、地域の子どもの数が減少し、本来なら地域の子育て力が強まってもよいのに、地域は子どもの成長にますます無関心になっている。そこで、子ども電話相談等のNPO活動といった新しい形態の地域活動が盛んになることにより、かつて子どもの成長を見ていた地域の役割を再建する必要がある。そのためには働き過ぎの社会を切り替え、労働時間を短縮することにより、男女が自己実現的に働きながら、地域やNPO活動等にも参加する等、何足ものわらじを履けるようにし、そのうちの一つを地域の子どもたちとのかかわりに当てられる社会をつくらなければならない。

 育児の経済的負担軽減は、個々の家庭にお金を出すのではなく、地域の保育やNPO活動等に補助を出すのが正当な方法と考える。

(株式会社ポピンズコーポレーション代表取締役  中村 紀子 参考人)

 育児の経済的負担軽減の在り方については、国と自治体の経費軽減と利用者側の負担軽減の二つがある。東京都の公立保育所の場合、ゼロ歳児の定員が一人増えると補助金が月五十万円支払われるが、ポピンズが横浜市から若干補助を受け運営している横浜型保育室は、その三分の一の予算で保育所の最低基準にのっとった保育ができている。国、自治体の経費の有効活用のためにも、公立保育所は障害児保育、二十四時間保育、過疎地等民間では対応できない部分の役割を担い、通常の保育所は公設民営の形を採るべきと考える。これまで設置主体が民間企業の認可保育所は認められなかったが、ようやく本年四月一日から民間企業の参入が許された。しかし、まだ規制が強く残っているため、民間企業がなかなか進出できない。

 また、日本は少子化先進国ゆえに、世界に誇れる新たな子育て支援システムを今こそつくるべきである。現在の施設整備中心の公的補助では、税金を払いながら認可保育所に子どもを預けられない人にとって、公平な負担となっていない。そこで、新システムの一番目として、利用者が選択肢を持つ、保育バウチャー制度のような直接利用者個人に補助する方法を検討すべきである。そして、その財源は、児童手当、税金の特別控除、企業の家族手当、国・自治体が支出する保育施策の予算等子育て支援に使われているお金を見直すことにより、確保することが考えられる。二番目として、生みたい人が生める環境をつくる観点から、不妊治療に対する医療保険の適用拡大やその費用を所得控除できる具体的な政策も必要である。三番目として、地域の中で高齢者が子育て支援に参加できるシステムが必要である。その際、参加した高齢者が収入を得られるよう、雇用保険や児童手当拠出金を財源として使えないか検討したり、保育士以外の幼稚園教諭、小学校教諭等の資格を持った高齢者が保育所で雇えるよう、規制緩和をすることも必要である。また、新システムをつくり上げる前の暫定的な措置として、例えばベビーシッター利用料の消費税を社会福祉法人の保育料同様に非課税にしたり、あるいは所得控除の対象にすることも子育ての経済的負担を軽減する方法の一つである。

 なお、在日外国大使館では、フィリピン、中国からの看護婦や保育の資格を持った人(ナニー)を雇い、日本人を雇うより低いコストで保育サービスを利用している。そのような人を日本の家庭でも利用できるように、外国人労働者の規制緩和も検討すべきである。

委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 男性も積極的に子育てに参加すべきであるとの意見に対し、日本の男性はここまでやればいいという面があり、全面的に家事や育児にかかわる考えが弱い。また、両親だけでなく多くの大人の目が子どもたちに降り注ぎ、社会人としての規範、価値観を身に付けさせていかなければならないとの答えがあった。

○ ベビーシッター等が保育や介護にかかわる際に医療的な行為をする問題については、ベビーシッターが預かっている子どもに、親の指示でも薬を与えることは医療行為に当たりできない。母親ならできることがベビーシッターだとできなくなり、実際に困っており、規制緩和を願いたいとの要望があった。

○ 児童手当等の子育てに対する公的支援の在り方については、児童手当は所得制限のため一般サラリーマン世帯は受けられず、支給額も低く、出生率のアップにつながるか疑問であるとの答えと、児童手当は、低所得層に短期間給付するのは必要だが、基本的に子育て支援の在り方としては現金給付より、女性を社会で活用できる仕組みの整備等、現物給付の方がよいとの答えがあった。

○ 高齢者の子育て参加の意義及びその在り方については、高齢者が子育てに参加することは、高齢者にとって生きる場所を得ることにつながり、子どもにとっては話し相手を得られるなど、相互の文化伝承によい影響がある。また、高齢者の子育て参加促進のためには、保育所の保育従事者の四分の三以上が有資格者であれば他の従事者は資格がいらない等の規制緩和や、一定の研修後に子どもを預かれる家庭福祉員(保育ママ)制度の活用、デイサービスセンターと保育所の併設等が考えられるとの意見が示された。

○ ベビーシッターサービスの料金については、ベビーシッターサービスは子どもの病気等本当に必要な際の利用が多いにもかかわらず、料金が高いため贅沢との印象があり、公的補助の導入等の議論が必要である。また、アメリカでは学生アルバイトにより安い料金でサービスを提供しているが、安かろう悪かろうで問題も多く、犠牲になるのは子どもであり、イギリスのようなプロが行う方がよいとの考えが示された。

○ ベビーシッターサービスの質の確保については、全国ベビーシッター協会では研修を行い、質の確保に努めているが、さらに、研修制度に基づいたベビーシッターの資格をつくりたいと考えている。また、今後はサービスを提供する側のISO取得の有無が保育サービスの質を判断する基準になっていくのが望ましいとの考えが述べられた。

○ 子育て支援の分野でのNPOの役割については、NPO活動が盛んになることにより、地域の中での人間関係が再構築され、子どもを社会全体の中で育ててくれるという信頼感をつくることが大事であるとの意見が述べられた。

○ 今回の保育所の設置要件等の規制緩和の実情については、民間企業が認可保育所に参入できる窓口は開かれたが、民間企業が認可保育所を行うには、多額の預金額や保育所仕様の内装費等が数千万円も必要になることなどから、民間企業が認可保育所事業に参入するにはリスクが大きい内容であるとの見解が示された。

○ 家庭での育児と教育については、基本的に子どもは家庭で育てるものだが、家庭の教育力が落ち、また、親が子どもを甘やかす状況になっているため、地域の人等が子育てにかかわる「預けて育てる」時代であるとの答えがあった。

○ 家庭でのしつけと教育力が低下している中での学校教育による国語力の大切さについては、国語力は、自分の思いを相手に伝えるコミュニケーション能力を身に付ける上からも大事であるが、親だけで教育できるものではないので、親にすべてを任せてしまう面があるとすれば問題であるとの意見であった。

(五)経済界並びに労働界の少子化問題に対する考え方等について(平成十二年四月二十四日)

少子化対策を考える際には、我が国の労働者の働き方を変えることが大きな課題であるため、経済界並びに労働界の双方から参考人を招致し、少子化問題に関して意見を聴取するとともに質疑を行った。

両参考人の意見陳述の主な内容は次のとおりである。

(日本経営者団体連盟常務理事  成瀬 健生 参考人)

 先日、日経連と連合で少子化問題についての共同アピールを出した。

 また、日経連は平成十年一月に「少子化問題についての提言」を出した。同提言等で述べられている日経連の少子化問題についての基本的立場は以下のとおりである。(1)保育所を充実する。幼稚園と保育所の施設の共用化や協力体制など幼保一元化を進める。特に大都市部の駅型保育所を整備する。(2)七歳未満乳幼児を対象に子育て減税を行う。(3)奨学金制度を整備・充実する。(4)定期借地権制度を普及充実させる。(5)固定的な男女の役割分業意識の見直しや地域社会による子育て支援体制を整備する。企業においては、女性の活用につながる育児と就労の両立のための雇用環境を整備し、男性が家事・育児に参加して家庭責任を共同分担する。(6)女性を積極的に活用し雇用環境を整備する。男性の家事・育児参加に資するため勤務・処遇形態を見直し、労働時間の柔軟化を図る。異動・配置転換・転勤については家族事情に配慮し、出産・子育て後の職場復帰を支援する。(7)我が国の政治・経済・文化・教育等幅広い観点から、外国人労働者問題を検討する。在留資格・技能実習などの拡大、移民問題も含めた検討を行う。

 日経連としては、少子化問題は国政の最大の課題と認識している。また、少子化対策は環境整備に止まらず、出生率の向上は我が国にとって望ましいというような意識を醸成するため政府主導で積極的な啓蒙・教育を行う必要がある。産業界としては、社会の安心感を生み出すために、雇用の安定を図る必要があり、生産と消費を活発化させ、経済成長につなげていくことが重要である。さらに、子どもを生み育てるための環境整備に加えて安定的な経済社会の発展に対する責任意識を国民全体が持つことが重要である。

(日本労働組合総連合会男女平等局長  猿渡 由紀子 参考人)

 少子化への対応策は、生み育てたいと願う人が安心して生むことができ、ゆとりを持って子育てができる環境を整備することであり、子育てを社会全体で支援する国民的合意の確立が必要である。また、性別役割分業を前提とした社会システムを変える必要がある。少子化問題に対する連合の基本的考え方は次のとおりである。(1)結婚や出産は当事者の選択であり、国や行政が介入すべきではない。(2)育児、養育の責任は第一義的には保護者にあり、保護者が安心して育てられる条件や子どもが健やかに育つ環境の整備が社会の責任である。

 男女が仕事と家庭を両立させるための職場の環境整備について、以下の事項に配慮する必要がある。(1)年休の完全取得、残業削減を通して年間千八百労働時間の実現を図る。(2)育児休業制度を取得しやすい職場の雰囲気づくり。(3)男性の育児休業取得の促進。休業の取得による昇進昇格での不利益取扱いの禁止及び所得保障として休業前賃金の六〇%を保障する。(4)短時間勤務制度の義務化。(5)小学校卒業までの子がいる労働者の深夜業、時間外・休日労働の免除。(6)子ども看護休暇の制度化。(7)転勤命令は家庭事情を配慮する。(8)企業人、管理職の意識改革を図る。

 仕事と家庭を両立させるための社会的な条件整備としての課題は次のとおりである。(1)多様な保育ニーズに応える保育施設の拡充。待機児童の多い自治体への集中的な交付金の投入。(2)新エンゼルプランの確実な実行。(3)保育料の軽減。(4)学童保育の拡充。児童館や学校の空き教室等を利用して地域の実情に応じた工夫をし、時間の延長及び対象年齢を小学校六年生までにする。(5)児童手当については、支給年齢、支給額、財源構成、所得制限、税制等他制度との関連など基本論議を行う。(6)妊娠初期から産後までの支援策の拡充として、健康診査、保健指導の公費負担と出産一時金の四十万円への引上げ。(7)税制・社会保障制度の改革。

 仕事と家庭の両立を図るためには、様々な施策の拡充と環境整備の充実、特に総実労働時間の短縮と多様なニーズに沿った保育所等の拡充が急がれる。女性と男性の固定的な役割分業を前提とした制度・慣行を男女平等の視点に立って変えていくことが重要である。

委員と参考人との質疑応答の概要は次のとおりである。

○ 連合と日経連の共同アピールの具体化を図るための産業界への働きかけについては、日経連として、都道府県や各地域の経営者協会での勉強会、シンポジウムの開催などでできるだけ多くの企業に徹底を図りたいとの考えが示された。

○ 外国人労働力を導入することの必要性やその意義、技能実習制度の在り方については、技能実習制度の期間延長や介護等の分野に技術・技能のある労働者をアジアから入れることは、日経連としては賛成である。単に労働力の導入というだけでなく、労働者側の国の事情や様々な社会的な影響を積極的、かつ、多角的に検討する必要があるとの認識が示された。また、連合はこの問題を現在検討中であり、具体的にいえないとの説明があった。

○ 育児休業期間中の所得保障の充実については、雇用保険が厳しい財政状況であり、これ以上の負担増は厳しいのではないかとの日経連の考えが示される一方で、連合は六割の所得保障を掲げているので、もう少し増やすべきだと考えるとの意見も述べられた。

○ フレックスタイムの普及については、労働時間の弾力化にはフレックスタイムや変形労働時間、裁量労働制など様々な方法があり、職種や業種によって適用状況に差があるが、柔軟化の動きは出ている。日経連としては、ホワイトカラーの職場に裁量労働制などを導入すべきと考える。連合からは一律に導入するのは難しいとの見解が示された。

○ 年次有給休暇の未消化やその取得状況については、日経連としては年休の完全消化について異論はないが、取得率が上がっていない。最近では若年者は年休を消化する傾向にあるが、高齢者の取得がなかなか進まないとの説明があった。

○ 雇用の安定や労働時間短縮に対する日経連の取組については、日経連としては雇用に特に留意しており、連合と共同で百万人雇用創出計画や独自の雇用創出計画を策定している。また、残業時間を調節することで、仕事量と人員規模のバランスをとり、雇用を削減せずに対応したい。残業での調整ができないと、雇用調節に傾くおそれがあるので残業を完全になくすのは難しいとの答えがあった。

○ 保育時間の延長は残業時間の拡大につながる例もある中で、子どもを中心に置いた保育体制の在り方については、地域ぐるみで複数の企業と保育所が多角的な関係を結び、企業のニーズと保育所の受入体制のバランスをとる事例がある。また、延長保育等のニーズがあることは事実であり、個々人の価値観や働き方、生き方、家族の在り方等から保育体制についても総合的に考えるべきであるとの考えが示された。

○ 子どもの看護休暇の導入に向けた課題については、看護休暇は労働者の要望も強く、育児・介護休業法には「適当な時期に見直しを図る」との条文もあるので、看護休暇の制度も取り入れて同法の改正を図り、拡充していきたいとの考えが連合から述べられた。

○ ワークシェアリングが我が国で進まないことについては、仕事の分割による労働時間の減少分を個々の労働者の賃金を減少させることで対応せざるを得ないが、労使の意識が違うので、両者の十分な話し合いが必要であるとの考えが示された一方で、連合からは、雇用のための仕事の分かち合いであり、賃金の分かち合いではないという立場をとっているとの考えも述べられた。

○ 働き方や子育てに関する職場での意識改革については、日経連としては少子化問題の提言や連合との共同アピールなどで、経営者や労働者に共通の意識を喚起する努力をしている。シンポジウムや勉強会を全国的に展開するなどの活動を続けていきたい。連合としてはセミナー等による啓発に努めたい。また、男性の意識を変えるのは難しいのでむしろ、男性中心の雇用管理を変え、仕事と家庭が両立できるようにする必要があるとの認識が示された。

○ 今回の児童手当法改正については、児童手当は経営者の負担が大きく、日経連としては従来の方式による拡充については反対であるが、新しい発想で行われた今回の法改正については、特に意見を述べていないとの説明がなされ、また、今回の改正では年少扶養控除の廃止によって負担が増える家庭があるので、連合としては少子化対策に逆行すると考えているとのことであった。

○ パラサイトシングルに対する職場での対応については、現在、企業がその対策を採っている例を聞かない。結婚については本人任せの雰囲気が強いが、上司が面倒を見る必要もあるのではないかとの意見が出された一方で、基本的には本人の自由に任せるべきことがらであるとの認識も示された。

二 政府の説明聴取及び質疑応答

 政府は、昨年十二月に今後の少子化対策の指針として、少子化対策推進関係閣僚会議の決定による「少子化対策推進基本方針」とその実施計画とも位置付けられる、大蔵、文部、厚生、労働、建設及び自治の六大臣合意による「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について(新エンゼルプラン)」を策定した。それらの策定経緯や内容及び文部・厚生・労働・建設各省の「平成十二年度少子化対策関連予算」について、平成十二年三月六日に説明を聴取し、四月三日に質疑を行った。

 その質疑概要は以下のとおりである。

○ 新エンゼルプランは地域の実情を加味して進めるべきとの指摘に対しては、基本方針にもあるように少子化対策は地域ごとの状況等を踏まえながら実施すべきものであり、今後とも各地方公共団体の実情に応じた対策が行われるよう努めるとの答弁があった。

○ 低年齢児の教育に関しては、母親にすぐるものはないと思われるが、ゼロ歳児保育を拡大することは教育的観点からどう考えるべきかとの質問に対し、厚生白書によると三歳児神話には少なくとも合理的根拠がないとしている。ただ、乳幼児期は特定の者との愛情深い関係を通して、人間に対する基本的信頼関係を形成する重要な時期であり、低年齢児保育においては、保育士の担当制のようなものを取り入れて工夫するよう、保育所保育指針において指導しているとの答弁があった。

○ 文部省の保育所教育へのかかわりについては、幼稚園の教育要領、厚生省の保育所保育指針の改定に双方の関係者が参加することなどで教育内容と保育内容との整合性、連携の確保を図っている。また、幼稚園教諭と保育士の合同研修などの実施、幼稚園と保育所の在り方に関する検討会の開催など、連携を深めていきたいとの答弁があった。

○ 都道府県間で出生率が大きく異なる原因については、地域により出生率が異なる明確な要因は不明である。人口問題審議会の研究によると産業構造、県民一人当たりの所得・部屋面積、女子の高等教育進学率等との間に一定の相関関係はあるが、原因を特定するのは困難であるとの答弁があった。

○ 少子化対策を策定する際、困難ではあるが出生率に関して何らかの目標を設けて対処することについては、子どもを生む生まないは、当人の選択の問題であり、「産めよ殖やせよ」という国家の方針で進めるものではない。子育て支援の基盤整備は重要であり、新エンゼルプランで保育に関する目標を掲げているように、周辺部分の目標を掲げながら行っていくのがよいとの答弁があった。

○ 固定的な性別役割分業や職場優先の企業風土の是正に対する取組及びその成果については、性別役割分業の是正は男女雇用機会均等法に沿い、雇用管理面での均等取扱いを周知徹底するよう指導している。また、企業風土の是正等は、育児休業制度の定着・促進とともに、ファミリーフレンドリー企業の普及促進を図っているとの答弁があった。

○ 終身雇用から労働の流動化・能力給へと雇用慣行が変わりつつあり、それが国民に不安をもたらして少子化にマイナスの影響を及ぼすのではないかとの見解に対しては、子育て退職者の再就職には、能力給体系の方が好都合の場合もあり、従来と異なる感覚で生涯設計をせざるを得なくなることが、少子化に深刻な影響を与えるとは一概にいえないとの認識が示された。

○ 子どもの看護のための休暇制度については、仕事と子育ての両立に重要な制度だが、子どもを含めた家族の看護休暇の民間事業所における普及率は、平成八年で八・二%にとどまっている。実態についての調査、年次有給休暇との関係、制度の必要性等を踏まえながら、関係者の意見も聴き制度の在り方について検討するとの答弁があった。

○ 移民の受入れをも勘案した適正人口規模を推計する必要性については、適正人口規模について一致した見解はなく、政府も一定の人口水準の確保を目標にしていない。しかし、急激な少子化により、人口構造が極端に変わることはマイナスであるとの認識は共通と思われる。移民の受入れ等については、日本の在り方にかかわる問題であり、出入国管理の観点からも十分検討すべきであるとの答弁があった。

○ 政府による男女の出会い支援策については、「結婚や出産は当事者の自由な選択に委ねられるもの」であり、国が直接に結婚奨励策を採るよりも子育てに夢や希望を持てるような環境づくり、子育ての負担感を減らすことが重要である。地域レベルで住民の理解を得て、事業を実施することは有意義であるとの答弁があった。

○ 世帯構成の変化に応じた住居の住み替え策については、子育て世帯には住宅金融公庫による支援をし、特定優良賃貸住宅などファミリー向け賃貸住宅を供給するようにしている。また、高齢者世帯には住宅のバリアフリー化の推進などの施策を推進している。さらに、住み替えが容易に行われるよう、中古住宅、賃貸住宅市場の活性化に努めていると答弁があった。

○ 少子化の中での学童保育の位置付け及び取組については、学童保育は、子育てと就労の両立支援、児童の安全、利便のため身近な場所を確保する必要があり、引き続き事業の普及を図る必要がある。新エンゼルプランでは平成十六年度までに現在の九千カ所を一万千五百カ所に増やす目標を立てている、学童保育の実施では、実施主体にスペースと体制の整備を要請しているとの答弁があった。

○ 学童保育施設の充実や指導員の待遇改善のための国による補助増額については、地域で行われている事業の基礎的な経費を補助するとの考え方で、補助基準額を設定している。これについては平成十年度に開設日数に応じて増額するよう改善を図ったり、十一年度予算では長時間開設する場合の加算を設けるなど随時改善しているとの答弁があった。

○ 保育所の待機児童の解消については、平成十六年度へ向けての新エンゼルプランを作成しており、その中で待機児童をなくす方向で目標値の達成に努力するとの答弁があった。

○ 児童虐待が増加している状況下で、児童相談所は嘱託の児童虐待対応協力員の配置ではなく、正規職員である福祉司を増員すべきとの指摘に対しては、協力員の配置で十分としているわけではない。地方交付税の算定基礎に児童福祉司の一名増員が認められたので、各自治体はこれを利用し児童相談所の職員を増やしてほしいとの答弁があった。

○ 外国人花嫁の入国審査手続の期間短縮については、真正な結婚であれば政府はきちんと対応すべきである。偽装結婚があると具合が悪いので、入国審査に時間がかかっているのだと思われるが、極力業務を促進するようにすべきであるとの答弁があった。

○ 保育費用の所得控除については、過去に税制改正を要望したことがあり、どういう方法で保育料の負担軽減が可能か、幅広い観点から検討する必要があるとの答弁があった。

○ 児童虐待防止のPRについては、広報をどういう形で行うかを市町村に示している。とにかく児童相談所等に相談に行ってほしいという内容の啓発ビデオ等を作成し広報に努めており、これからも積極的に広報を行っていくとの答弁があった。

○ 「保育に欠ける」との保育所入所要件を外し、保育から幼児教育を一貫して行う必要があるとの指摘に対しては、保育と幼児教育の分野が一貫性、整合性を持って行われる必要性はあるが、現在の状況では保護者が在宅していて、保育可能な子どもにまで公的保育責任を前提とした公費補助を行うことに、社会的な合意が得られるかが問題であるとの答弁があった。

○ 我が国が人口増加策を採る場合の対外的影響については、現在のように標準の人口を保つことができないような形での少子化問題は政府で対応すべきであり、政府が対策を採ることによって人口が大幅に増え、近隣諸国に影響を及ぼすようなことはないとの答弁があった。

○ 少子化で人口が減少した場合の女性の活用については、労働力人口は減少していくが現時点では量的に労働力不足が生じるとは見込んでいないので、女性労働力の活用は労働力不足に対応する観点からではなく、少子化に対応するため、女性が仕事と育児の両立や能力発揮できる雇用環境づくりに労働省は努力しているとの答弁があった。

三 各会派の意見表明・委員間意見交換(平成十二年五月十二日)

(一)各会派の意見表明(全文は参考に後掲)
(自由民主党・保守党)

 参考人の意見によれば、男女共同参画社会が実現すると、出生率がある程度回復するとのことであった。また、この男女共同参画社会の達成時期をどう見るのか、我が国女性の年齢別労働力率を見るといわゆるM字カーブがある、これが台形型になればその社会の達成ということになり、女性の労働力率と出生率も高くなる。このことから、少子化への対応策として、男女共同参画社会の実現が挙げられる。我が国はそのために男女雇用機会均等法やエンゼルプラン等を実施してきたが、まだその実態像が明らかでない。

 我が国における夫婦が理想とする子どもの数と実際にもうける数は乖離しているため、その乖離を解消し、各家庭が希望する家族人員を維持できる理想的な社会を構築するのが我々の責務であり、単に総人口を維持するために子どもを生むことが重要なのではない。

 少子化が進む中で、生産年齢人口問題を考える際、出生率の上昇または回復により労働力を維持する考えと、男女共同参画社会の確立と生涯能力発揮社会の形成も併せ、その結果、出生率が上がり労働力の維持・増加も可能になるとの二つの考えがある。この二つの一方の考えを採るのではなく、両者のバランスをとることが重要である。

 現在の家族の属している世代とその前後の三世代間における、今後の社会保障の公平な負担と給付を維持することが、政治の果たす役割である。

 単純に総人口を維持するために出生率を上げることではなく、理想の子ども数を持って家族が暮らしていける、そういう社会を構築することの結果として総人口がでてくるのではないかと考える。

(民主党・新緑風会)

 少子化の原因は複雑多岐であり、その影響は労働力減少や社会保障負担など経済的影響や社会・文化の在り方まで深くかかわる。これらのことから、民主党としても少子化対策を重要政策の一つと位置付け、子育て支援を家族、地域社会、行政一体となって行い、多面的なアプローチが必要であると提起している。

 少子化対策の短期的な課題としては、子育て支援の緊急整備がある。保育サービスの整備、育児休業制度の改善、看護休暇制度の創設等働く女性の育児と仕事の両立を図る対策が必要である。次に、出産・育児の経済的負担軽減策であるが、これは現物給付サービスを補完するものであるとの認識を持つべきである。そのうち、地方自治体が行っている乳幼児医療自己負担補助制度は、国の制度とし、対象を小学生まで広げる必要がある。また、児童手当の今回の改正は、税負担増の家庭も出ることなどから反対であるが、十八歳までの子どもに所得制限なしで支給する、子ども手当制度を民主党は提案している。

 次に対策が困難な中長期的課題には、生活・住・労働環境などの社会システム全体の改革がある。中でも、固定的な性別役割分業の背景である労働環境は、なかなか改善されない。失業率が改善されない中で、労働力のミスマッチを埋める再教育課程の整備やワークシェアリング等についても対策を講じる必要がある。

 これまで、少子化問題は、経済的影響を中心に論じられることが多かったが、子どもや若者世代の考え方を取り入れる必要がある。青少年をめぐる凶悪事件の多発等、子育て環境には厳しいものがあるが、社会の基礎単位である家族を大事にし、障害を持つ子も持たない子も共に学ぶ統合教育、子どもと老人が自然に触れ合う地域社会、仕事と家庭が両立できる働き方等を二十一世紀に向かって再構築していく必要がある。

(公明党・改革クラブ)

 少子化への対応策は「要因への対応」と「影響への対応」に分けられるが、その効果を上げるには、両者を同時に行う必要があり、国の対策もより広範な政策を体系立てて行う必要がある。安定した社会保障制度の実現のためには低出生率の回復は至上命題であるが、少子化の要因は多様であり、その対策は長期的かつ大胆に取り組まねばならない。以下、総合少子化対策全体の中で二点にしぼり意見を表明する。

 第一は、基本法の制定である。政府の少子化対策は各省庁個別に対応しており、その実効性は乏しい。現在、衆議院に議員立法により提出されている「少子化社会対策基本法案」は、施策の基本理念、国、地方公共団体、事業主及び国民の責務、財政措置、年次報告の提出等を定め、少子化対策を社会全体で進めるとしている。同法は、少子化対策を国民的運動に広げ、実効性を高めると期待されており、その制定を急ぐべきである。

 第二は、児童手当制度の緊急的かつ抜本的改革である。現在、児童扶養控除制度は支援を必要とする中低所得者に恩恵が少なく見直さざるを得ない。児童手当の改革を行い、扶養控除を廃止する方が公正な制度になると考える。公明党は、児童手当を十六歳未満の第二子まで一万円、第三子以降は二万円を所得制限なしに給付し、その財源は扶養控除の廃止と年金保険料積み立て等を当てることを提案している。年金保険料積み立てを財源とすることは制度本来の目的から外れる要素があるが、次世代の年金への理解促進、少子化対策の責任を社会全体で負うこと、世代間や世帯間の負担公平の視点から合理性があり、国民の理解が得られると考える。児童手当制度を「生活の安定に寄与する」制度に抜本改革することは与野党が同一歩調をとれると考えており、本調査会として二〇〇一年度に児童手当制度を抜本改革する方向での提言を行うことをお願いしたい。

(日本共産党)

 少子化の大きな原因は、長時間、深夜労働など、日本の異常な労働実態にある。この点の改善こそ少子化への取組のカギである。また、子どもを生むかどうかを決めるのは当事者の選択であることは当然であり、このことが侵されてはならない。

 今や女性を家庭に戻そうとする対策は非現実的、不適切、不合理であると言われているのに、女性の時間外・深夜労働規制の撤廃など労働法制改悪の中で、子どもを生む女性はお荷物扱いという職場の実態がある。第一子の出産に当たって仕事を辞めた女性は全体の七三%との調査もあり、「M字カーブ」は解消されず、女性が働こうとすれば家庭を犠牲にするしかないのが現状である。この矛盾を解決するためには、男性の働き方を変え、男性は仕事、女性は家庭という性別の役割分業社会を変えていく必要があり、男性の家族的責任を果たす上からも男女共同参画社会の推進が求められる。

 仕事と家庭の両立、子育てしやすい環境づくりのため、保育所や学童保育等に予算を増やすべきであり、四万人の待機児童の解消、特に都市部でのゼロ歳児の待機児童の解消が急がれる。また、子どもの看護休暇、育児・介護休業の充実も必要である。

 理想の子ども数を持てない理由の上位に子育てや教育への経済的負担が挙がっており、国としての乳幼児医療費助成制度、不妊治療への保険適用拡大、また、奨学金の抜本的拡充や、授業料の軽減など教育費の負担軽減が求められる。児童手当の拡充は必要であるが、今回の改正のように財源を子育て世帯への増税で賄うのではなく、国の財政運営の在り方を含め抜本的に見直すべきである。少子化対策費を消費税の増税や高齢者対策費から振り分けるとの議論もあるが、社会保障を予算の中心に切り替えていくべきである。

 昨今の児童虐待、少年犯罪はこれから子育てをする世代に不安をもたらしているが、子どもの権利条約の精神を生かし、子どもと教育の問題は国民皆で取り組むべきである。少子化問題は個々の施策だけでは解決できない。豊かで人間らしい暮らしの実現が望まれる。

(社会民主党・護憲連合)

 少子化問題は、結婚、出産というすぐれて個人的なことであると同時に社会的な問題でもあり、単純に解答を見つけることは困難であるばかりか危険でもある。少子化に関する政策の基本は、「産めよ殖やせよ」政策ではなく、子どもや女性の権利保障の視点を貫くことである。安心して子育てできる社会をつくることであり、子どもの人権を確立することである。また、女性の性と生殖に関する自己決定権を保障することが大前提である。

 社民党の子育てあるいは子育ちへの総合的な支援システムについての考えは次のとおりである。(1)新エンゼルプランを着実に実施するとともに、目標を前倒しし、大幅に引き上げた計画を策定する。(2)待機児童、病児、障害児等、保育を必要とするすべての子どもを受け入れられるよう、延長保育の一般化、認可外保育所への支援強化、保育士の増員等による保育所の拡充を行う。(3)地域子育て支援センター、児童相談所の拡充等により地域社会における子育て支援を強化する。(4)児童手当制度を抜本的に見直し、年収一千万円以下の世帯の義務教育終了までの児童を対象に、第一子に一万円、第二子に二万円、第三子以降に三万円を支給することを内容とする、全額国庫負担による子ども手当制度を創設する。(5)育児・介護休業中の所得保障の六〇%への引上げ、育児・介護雇用安定助成金の拡充、時間外労働等の実効ある規制、育児や介護などのアンペイドワークの評価の確立、家族介護休暇の法制化等により子育てと両立する就業形態、給与体系を構築する。

 少子化への対応は、子どもの問題、女性の問題、出生率の問題等々を個別的に切り離して考えるのではなく、トータルなとらえ方が不可欠である。

(参議院クラブ)

 高齢社会対策基本法は、国民生活に関する調査会で立法化した。少子化社会対策基本法案が衆議院に提出されているが、参議院のあるべき姿からみた場合、少子化対策は参議院で議論し基本法として提出すべきものであった。この問題の収拾について衆議院と協議すべきである。

 現在、世界の人口は六十億人であるが五十年後には八十九億人になる。その中で先進国は軒並み減っていく。人口減少、少子高齢化はかなり深い先進国病と思われる。フランスでは一九三〇年代から少子化対策を行い、多額の予算を当てているがなかなか効果は現れない。同国のある国会議員は人間は豊かになると男女ともエゴイストになると述べている。

 我が国には現在、(1)百年後には六千万人となる人口減少、(2)国と地方を通じ七百兆円もの借金、(3)経済の再構築、(4)警察不祥事、少年犯罪等人心の荒廃の、四つの大きな問題がある。この問題の克服は、少子化にどう対応するかということと関連があり、そのためには国・地方、政治、官僚システム等社会システム、そして家族の中で、日本全体がスリムで効率的なものをどう築き上げていくかということが問われている。

 三歳児神話について、女性を家庭にとどめることになると厳しい見方をする人も幼児教育の重要性は認めている。少子化の中で質のいい子を育てなければならず、この問題をゼロ歳児保育等、保育所の問題とし厚生省レベルで受け止めていいものか、保育と教育の問題は的確に整理する必要がある。また、パラサイトシングルなどのように若者が自立せず家庭にとどまっている問題をどうするのか、日本の親は怒らなくなったのではないかとの指摘もある。

 日本民族のアイデンティティーをどうするかということと深くかかわりながら、少子高齢化の問題はとらえていかないと道を誤ることになるのではないか。

(二)委員間意見交換

○ 少子化への対応は労働、教育、経済等あらゆる問題に影響しており、本調査会で全部に触れるのは難しい。少子化の「要因」に重点を置いた議論が必要である。政府の少子化対策推進基本方針は、「要因」と「影響」への対応がまざっており、政策としての目標や効果が検証できない。少子化をどう克服していくのかという議論をする必要がある。本調査会の二年目の取りまとめは、少子化の要因に関する議論なのか、影響に関する議論なのかを分けてほしい。地方では、少子化により家庭や地域がなくなっている。結婚や出産は個人が自由に選択できるものであるが、人口が減少していくことを一つの病理としてとらえ、少子化の克服に躊躇してはならない。

○ 西欧の箴言「政治の役割は母親と子を救うことなり」は、女性を大事にする家庭・地域社会・国は栄えるということである。少子化傾向といいながら、子どもを自分で責任を持って育てているシングルマザーがおり、高校生、中学生で望まない妊娠が生じている。ゼロ歳児を預かるのはいかがなものかという議論があったが、ゼロ歳児を保育所に預けなければ働けない女性がいることも理解して審議を進めていただきたい。

○ 少子化問題についての当調査会の認識は、女性が子どもを生む、生まないの問題から、若い男女が家族を持てない社会問題だということになったと思う。女性を家庭に戻す対策は非現実的で不適切、不合理である。子どもを保育所に預けるということが即悪ではなく、三歳児神話にとらわれるのは良くない。少子化対策については、「産めよ殖やせよ」ではなく、カイロの国際人口・開発会議等でのリプロダクティブヘルス・ライツの視点が大事である。乳幼児医療の無料化は、地方自治体では拡充が進み、早期治療やこれから出産しようとするときに安心感を与えることから、国としても早急に制度化すべきである。第一子の出産に伴い仕事を辞めた女性は七三%、出産後も働き続けることは大企業ほど難しいという調査もあり、これを是正するには何らかの制度的なルールを社会が持つべきである。少子化に逆行する労働関係施策が実行されていることに危惧を持っている。

○ グローバル、ボーダレス社会における自分が属する最小ユニットは何か、自分が帰属することによって安心感が得られるユニットは何かということを議論する必要がある。
 若年層は将来に対して、巨額の財政赤字から予想される増税やインフレに対する不安、高齢化社会の中で退職後どのように暮らしていくかという不安がある。また、個々の目標がなかなか見えない若者に対しては、それぞれのパーソナルゴールを尊重する社会的なシステム・風潮をつくっていく必要があり、少子化問題はこれらの問題も併せて議論する必要がある。

○ 高齢者や女性の社会参画が進むので、生産人口から日本の適正人口を測ることはできず、少子化問題を人口問題から考えようとすると解決できなくなる。少子化と高齢化の結果であるパラサイトシングル対策も大事ではあるが、日本の夫婦が基本的に三人の子どもを持ちたいと望んでいるなら、その家族が望んでいる理想の子ども数を確保できるようにすることをまず理想として掲げ、男女共同参画社会を育てていくべきである。

○ 子育て支援策の評価を出生率の増減をもとに行うことは飛躍がある。本来、支援策の効果とは子どもを生む人、育てる人がいかに充実度を増すか、子どもがいかに自分の能力を高められたかが第一であり、出生率が上がったかどうかは付随的なものである。
 少子化についてまとめるときは、個別政策の不足部分について触れるのではなく、政策の目標なり理念を示すべきである。

III 課題

 今年度の調査のうち、主要な論点と思われる事項を取り上げると、以下のようになる。

(男女共同参画社会の形成)

 男女共同参画社会の実現は、少子化対策を検討していく上で極めて重要な課題であり、今年度においても、ほぼすべての審議で取り上げられている。また、政府も、昨年制定された男女共同参画社会基本法に基づき、各種の施策を推進しているところである。

 女性の社会進出が進んだ現代社会で、子どもを生み育てやすい環境を整備することは喫緊の課題となっている。それは、男女が共に家庭や地域社会において果たすべき責任と仕事を両立できる、多様な働き方、生き方を可能とするジェンダーフリー社会を構築することである。

 平成八年の総務庁の調査によれば、育児を除く一日の家事関連時間は夫が二十三分、妻が四時間四十五分で、家族責任の多くを女性が負っていることを示している。男性の育児や家事への参加を進めることにより、従来女性が担ってきた育児や家事の負担を軽減し、女性が自由に参画できる社会を形成することが必要である。

 男性の家事や育児への参加は、父親としての家族責任を積極的に果たすことで、その自覚を促すことにもなる。また、ややもすれば孤立しがちな子育て中の母親の心理的負担感を軽減し、母親自身もまた成長できるような育児を可能にすることにもなる。しかし、長時間労働や通勤時間などの制約から、男性の育児・家事参加が進まない実態にあり、労働時間の短縮等を進める必要がある。夫婦で一・五人分稼ぐオランダのような働き方や、米国のように職住近接したコンパクトな町づくりをしていくべきである、との意見があった。

 男女共同参画社会の実現には、税制や社会保障制度等の社会システムを世帯単位から、男女が共に働くことを前提として、個人単位とするものに改めていくことも求められる、との指摘もあった。デンマークやスウェーデンなどの北欧諸国では、種々の社会システムを個人単位に改め、女性の社会参画と出産・育児などの家族責任を両立できるような施策を推進することで、少子化への対応を図った。こうした例からは、女性の労働力率が高まれば、出生率も上昇する結果が見られる。我が国においても、国立社会保障・人口問題研究所のシミュレーション・モデルによれば、仕事と育児の両立支援策の充実により、合計特殊出生率は現在の一・三八から一・七八まで回復するとの試算もなされている。

 男女が共に、そのライフスタイルに応じて、自己の能力を十分に発揮できる男女共同参画社会を構築することにより、結婚・出産・育児に関して夢や希望が持てる社会を形成することが求められる。

(育児と仕事の両立のための労働環境の整備)

 育児と仕事の両立を可能にするための環境整備は、「M字カーブ」が示すようにその両立の困難さから、子どもを生み育てたいと願う人々が生めずにいる状況を克服する上で重要である。

 このためには、従来の男性中心の雇用管理に基づいた職場優先の働き方を変えることが必要である。残業時間の削減や年次有給休暇の完全取得、短時間勤務制度の充実といった方策により、労働時間を短縮していくことが求められる。

 労働時間を短縮する上で、現在の長時間労働を生み出している評価システムや企業慣行を改め、労働時間にとらわれない業績本位の評価システムに変えていくことも検討課題である。また、情報技術などの導入によって業務の効率化を図るなど、生産性を向上させることで労働時間の短縮を図ることが必要である。

 これら労働時間短縮のための方策を着実に推進していくことによって、女性の育児と仕事の両立が可能になるとともに、男性も家事・育児に積極的に参加することができるような社会的な条件が整備される。労働時間の短縮は、余暇時間を生み出し、家族同士のコミュニケーションの充実によって、多くの人が子育ての楽しさを実感できる社会に変えていく契機ともなる。また、在宅勤務やSOHO、パートタイム就労など、ライフスタイルに応じて、勤務形態を自由に選択できるような環境を整備するとともに、男女共に雇用と生活の保障を前提とした労働関係を構築することも課題となっている。

 次に、育児休業制度の充実が求められる。特に、現在取得率の極めて低い男性の育児休業取得を促進するため、休業期間中の生活の経済面での不安を取り除く必要があり、所得保障の更なる充実が求められる。また、育児休業の取得に理解のある職場や、休業の取得によって昇進、昇格で不利益を受けることがないような職場環境を形成する必要がある。

(子どもの看護休暇制度の創設)

 子どもの看護等のため母親・父親双方の年休取得と欠勤日数の合計は年一四・九日に上る、との調査結果もある。一方で、民間事業所での子どもの看護休暇制度の普及率は平成八年で八・二%にとどまっており、子どもが病気になった場合、祖父母などに頼っているケースが多いと考えられる。勤労者からの要望が多い看護休暇制度の早急な法制化が求められる。

(保育環境の整備)

 女性が生活のためだけでなく、自己実現を図るために仕事を続けていくことができる社会を構築するには、安心して子どもを預けられる保育環境を整備することが喫緊の課題である。

 保育所の整備・拡充や待機児童の解消については、新エンゼルプランでその施策の推進が図られているが、大都市圏では、低年齢児を受け入れる保育所が不足しているため、待機児童が多い。こうした状況を解消するには、目標の前倒しなども含めた新エンゼルプランの着実な実施が求められる。また、大都市地域では、通勤途上で子どもを預けることができるような駅型保育所や駅前保育ステーションの整備が必要との意見もあった。

 保育ニーズは多様であるが、ゼロ歳児保育や病児保育、障害児保育、また休日保育など、現在の保育所等では十分に対応できていないものがある。専業主婦が、冠婚葬祭時や、育児ストレスからの解放が必要なときには、そうしたニーズに対応できる一時保育なども必要である。また、保育の終了時間に仕事が終わっていない場合などは、母親の働き方に合わせて柔軟に保育時間を選択できる延長保育等、多様な保育ニーズにきめ細かく対応できる保育環境の整備が求められる。さらに、認可外保育所への支援強化も求められる。

 今後の保育所は、母親の育児相談に応じたり、地域の子育て支援の中核として、幅広い役割が果たせるよう、その整備・拡充が望まれる。また、保育士や指導員などのマンパワー面からも、増大するニーズに対応できるよう十分な数を確保するとともに、研修制度を充実させたり、幼稚園や小学校教諭などの資格を持った高齢者なども保育の現場に参入できるようにするなど、質量両面からの充実と柔軟な対応が求められるとの意見もあった。

 また、保育から幼児教育を一貫して行うことができるよう、保育所と幼稚園の効果的な連携を図ることも課題である。

(三歳児神話)

 平成十年版の厚生白書では、いわゆる三歳児神話について、調査、検討を行った結果、少なくとも合理的根拠はない、とされている。働く母親の仕事の保障、また実際の体験からも「三歳児神話」については、保育所の保育環境の充実の問題であるとの意見などが出された。一方、乳幼児期の育児が重要であるとの観点から、少なくとも三歳までは母親自身で子どもを育てるべきであると考え、保育所等に預けて育てることに懸念も示された。

(出産・育児にかかる経済的負担の軽減)

 平成九年の出生動向基本調査の結果を見ると、理想の数だけ子どもを持てない理由の第一に、子育ての経済的負担が挙げられており、その負担を軽減することは重要である。

 妊娠から出産までにかかる費用の軽減については、平成九年から市町村が主体となって実施している妊産婦健康診査の公費負担をさらに充実させる必要がある。出産育児一時金を増額し、支給についても迅速に行われるよう制度の改善が求められる。さらに、乳幼児医療の自己負担軽減については、現在各地方自治体で単独事業として進められているが、国としても何らかの助成を行うことが求められる。

 保育にかかる費用については、保育料等の負担の軽減を図り、所得控除のほか、保育バウチャーの支給など直接利用者個人への補助を行う新たな制度を幅広い観点から検討する必要があるとの意見もあった。

(子どもに恵まれない人に対する支援)

 生みたい人が子どもを生み育てやすい環境を整備するという観点からは、子どもに恵まれない人のための不妊治療や養子制度についても支援する必要がある。不妊治療を希望する者については、医療保険の適用を拡大することについて検討する必要がある。

(児童手当制度の検討)

 出産や子育てをめぐる現金給付の実施は、経済的な負担を軽減するという直接的な意義のほかに、子どもを生み育てることに対して、社会全体が敬意を払い感謝するというシンボリックな意味もあるとの指摘がなされた。

 児童手当については、少子化対策としての効果への疑問や、今回の改正に伴う年少扶養控除の特例の廃止について批判する意見も述べられたが、児童の養育費を軽減する観点から、その充実を求める意見も強い。

 本調査会においても、今後、児童手当の支給年齢、支給額、財源構成、所得制限等について抜本的な検討を行い、支給対象年齢の大幅な引上げや支給額の増額を図るべきであるとの意見が述べられており、制度充実に向けた検討を速やかに開始する必要がある。

(教育費用の負担軽減)

 子どもを育てていく上で、最も負担が大きいのは教育費である。子育ての経済的な負担を軽減する観点から、高等教育、特に大学の教育費用の負担を軽減することが必要である。そのため、授業料の負担軽減とともに、学力要件による制限を緩和するなど奨学金制度を拡充する必要がある。パラサイトシングルの増加など少子化の要因の一つとも指摘される若い世代の自立心の欠如を克服する契機ともなるとの意見もあった。

(社会保障制度の在り方)

 少子・高齢化が進展していく中で、社会保障給付が増大し、現役世代が社会保障のすべての負担を担うことは困難となっており、世代間の負担公平を図っていく必要がある。さらに、現在の社会保障給付は、高齢者対策に比重が置かれており、これを少子化対策にも比重を置いていくことが求められる、との意見があった。一方、社会保障への国庫支出の割合を増やし、社会保障を予算の中心へと切り替えていくべきとの意見もあった。

 少子化が進み総人口が減少する状況の下で、将来の社会保障制度の担い手を増やすためには、女性や高齢者の社会参画を進めることが不可欠である。女性や高齢者が社会で無理なくその能力を発揮していくことのできる、ジェンダーフリー社会、エージレス社会を実現するとともに、社会保障の公平な負担と給付の在り方を確立することで、少子・高齢化に適切に対応できる社会保障制度を構築していくことが課題である。

(子どもの健全育成)

 近年、児童虐待や少年犯罪が増加しており、子どもを生み育てようという世代にとって、将来の不安を与える結果となっている。これらの背景には、過度なストレスやいじめなどがあるが、子ども社会のゆがみは、大人社会の在り方が影響している面もある。子どもの権利条約の精神をいかし、地域社会や教育を通して、国民全体で次世代を育成していこうという意識を高めていくことにより、安心して子どもを生み育てることができ、それが幸せにつながる社会を形成していくことが求められる。

(地域社会における子育て支援)

 かつて、我が国では、子育ては父母のみに委ねられていたのではなく、祖父母を始めとした親戚縁者、さらには近隣の住民など地域社会全体がその役割を果たしていた。少子化の進展に伴い、子どもたちが育っていく上で、異世代との交流の機会が減少していることが指摘されている。こうしたことから、子どもたちが地域社会で様々な世代の人と触れ合い、地域の高齢者が子育てに参加することには、大きな意義がある。

 高齢者は豊かな社会経験を有しており、それを次の世代に伝えていくことは、社会全体として有益であるだけでなく、高齢者の生きがいにもなる。このため、高齢者が子育てに参加できるよう、保育所等における環境整備を行う必要がある。また、仕事が忙しく、地域とのかかわりを持つ機会の少ない父親が、地域社会でその役割を果たしていくことのできる環境整備を図っていくことも重要である。さらに、地域におけるNPO活動が、子育て支援に貢献できるような体制を整えることも必要である。

(学校教育の役割)

 受験競争を勝ち抜かせることが、子育ての成功という思いこみを母親に与え、子育ての負担感を増していることもあり、従来のよい学校を卒業し、よい会社に就職することが幸せな人生を送ることであるとする一面的な価値観を改める必要があるとの意見もあった。

 また、学校教育を通じて、男女共同参画社会の理念や働くことの価値や意義について、若者の意識を啓発していくとともに、自分自身の価値観に合ったライフスタイルを自ら選択していけるよう、その自立を促していくことが必要である。

 さらに、人生のどの時点からでも学び直せるような生涯学習を可能にする教育体制を構築していくことも求められる。

(住宅等生活環境の整備)

 子どもを持つ世帯に対し、子育てができる十分な広さの住居を持つことができるよう支援する必要がある。スウェーデンでは、子どもを持つ家庭への住宅補助が充実しており、子どもが増えるごとにその分だけ補助を受けられる制度になっている。このように子どもの成長段階に合わせて補助額を変えるとともに、家族のコミュニケーションを十分図ることのできる広さ、間取りを持った住宅を供給していくことが必要である。

 また、公共施設のバリアフリー化についても、高齢者や身体障害者のみならず、子ども連れの人にとっても利用しやすいものとなるよう配慮することが求められる。

(男女の出会いの支援)

 少子化の最も大きな要因とされるのが、未婚、晩婚化の進展である。若者の出会いの多くが仕事を通じた職場であることから、現在の性別で固定されがちな職場を開かれたものにし、男女が共に働くことのできるような社会を構築していくことは、出会いの機会を増やしていくことにもなる。

 政府が男女の出会いを支援することについては、結婚は当事者の意志に基づいてなされるものであり、すぐれて個人的なものであるため、国が直接に結婚奨励策を採るのは適切でない面がある。結婚、出産、育児といったライフスタイルの選択を魅力あるものにしていくことが重要である。

(外国人労働者問題)

 少子化の進展に伴い、将来、介護など需要が増大する分野で、労働力の供給不足が生じる可能性が指摘されている。これらの労働力不足を補うため、女性や高齢者の労働参加を促すとともに、外国人労働者の導入についても検討する必要がある。その際には、単に労働力人口や社会保障財政等の視点からのみ、この問題を議論するのではなく、労働者側の国の事情や外国人が我が国に定着した場合の経済的、法的、社会的な側面からみた総合的な検討が求められる。

(少子化に関する基本法の制定)

 現在の少子化対策は、少子化対策推進基本方針を基に各省庁が個別に施策を行っているが、少子化関係施策の支柱として、個々の政策にとどまらない総合的な少子化対策の理念が必要である。そうした観点から、少子化に関する基本法の制定が課題となっている。

IV 提言

  現在我が国において生じている急速な少子化の進行は、国民一人一人の意識や我が国社会の在り方に深くかかわっている。そのため、少子化を単に若者の未婚化や女性の出産や育児の問題としてとらえるのではなく、幅広い観点から、社会の慣行・制度やその背景にある意識について見直しを行い、長期的な取組を行うことが求められている。

  その取組は、結婚や出産は当事者の自由な選択に委ねられるべきこと、子育て支援においては子どもの利益が最大限に尊重されるべきことを前提として、家庭や子育てに夢を抱き、理想とする数の子どもを持ち、次代を担う子どもを安心して育てることができる環境を整備し、出産や育児に喜びや誇りを感じることができる社会の実現に向けたものとする必要がある。この実現に向け、政府、地方公共団体や企業だけではなく、国民一人一人が、性別や年齢を問わず、家庭、職場、地域社会において、積極的に取り組むことが期待される。このような取組を促し、急速な少子化の進行に歯止めをかけ、よりよき社会を次世代に引き継ぐことは、我々に課された課題である。

 本調査会は、二年度目の調査のまとめとして、特に重要であり早急な取組が求められる点について、以下のとおり提言を行う。政府並びに関係各方面におかれては、この主旨を理解され、実現に努められるよう要請するものである。

一 出産・育児にかかる経済的負担の軽減

(乳幼児医療の負担軽減)

 妊娠・出産を安心して迎え、出産した子どもが健やかに成長することができる環境を整備することが極めて重要である。

 乳幼児医療については、医療費の自己負担分を公費で助成する措置が地方公共団体により実施されているところであるが、当該事業の定着度、自治体間での取扱いの相違がもたらす負担の不平等、財源の枠組み等を考慮して、国による負担あるいは医療保険の自己負担割合の軽減等の措置を検討すべきである。

 また、妊産婦・乳幼児健康診査費用の一般財源化により健康診査の質の低下を来さないよう周知を図るべきである。

(出産育児一時金の改善)

 妊娠・出産に際しては、出産前後の諸費用の負担を軽減することを目的として、出産育児一時金が給付されているが、出産後に給付が行われるため一時的に相当額を自己負担する必要がある。このため、一時金の早期の支給に向け、支給方法を改善すべきである。また、出産及び育児にかかる費用の実態に基づき、出産及び育児費用に見合った額とすべきである。

(不妊治療への医療保険適用の拡大)

 不妊治療の中で医療保険の対象となっていない治療を受けざるを得ない者にとって、治療技術の高度化や低い成功率に伴う治療費の増大が、大きな負担となっている。子どもを望む夫婦が、めざましい進歩を遂げている生殖医療技術の恩恵に浴することができるよう、生殖医療技術の質の担保を図る、治療を一定回数医療保険の対象とするなど支援策の在り方について、不妊治療に関する安全面・倫理面での問題、財源の枠組みに配慮しつつ検討すべきである。

(児童手当の在り方)

 等しく養育者の負担を軽減する児童手当制度は、家計の児童扶養費の一部を社会的に負担することにより将来の社会を担う児童を健全に育成し、子どもを養育している家庭を直接的に支援する制度として位置付けられてきた。今後、扶養控除等他の負担軽減策や社会保障政策等との関連も視野に入れ、制度の政策的役割を明確に位置付けるとともに、支給対象児童の範囲、支給期間、所得要件、支給額、財源等について抜本的な検討を行い、制度の充実を図るべきである。

(奨学金制度の充実)

 大学等高等教育段階における教育費用は、家計にとって大きな経済的負担となっている。進学率が大幅に上昇した今日、親の経済的な負担の軽減を図り、学生が安心して勉学に従事することができる就学環境を形成し、さらには、学生の自立を促すため、希望者が貸与を受けることが可能となるよう奨学金制度の充実を図るべきである。

二 保育所等の整備

(待機児童の解消)

 大都市圏を中心として存在する多数の待機児童の解消は、早急に対応すべき課題である。このため、新エンゼルプランに掲げられた目標の達成に向け、待機児童の解消への取組を拡充するとともに、待機児童の多い地方公共団体において十分な取組が可能となるよう、所要の支援を行うべきである。

(延長保育等多様な保育サービスの整備)

 夫婦共働きが普通となり保育所の利用が一般的となった中で、保育ニーズも多様化しているが、対応する保育サービスの供給は十分ではない。このため、延長保育、休日保育等の多様な保育サービスの普及を図るべきである。また、一時保育等専業主婦を含めた新しい需要に対応した保育サービスについても拡充を図るべきである。このような取組の一環として、規制の緩和や運用の弾力化等保育制度の見直しを行う場合においては、地域の実情に十分配慮するとともに、保育される子どもの立場に立ち、保育サービスの質の低下が生じないよう留意すべきである。

(育児に関する情報提供)

 いわゆる「三歳児神話」については、厚生白書において、少なくとも合理的根拠が認められないとされているが、低年齢児保育や集団保育についての懸念が存在している。親が抱く保育に関する様々な不安や懸念を解消することや親に適切な育児・教育情報を提供することは、安心して生み育てられる環境を形成する上で重要である。このため、子どもの健全な成長と育児環境との関係について調査研究を行い、育児や教育に関する情報を適切に提供すべきである。

(放課後児童健全育成事業等の拡充)

 働く女性が就業を継続するためには、小学校就学後においても、放課後子どもが安心して遊んだり、友達と過ごす場の確保が必要である。このため、放課後児童クラブの普及を図り、対象児童の年齢を引き上げるとともに、事業内容や施設の充実を図るべきである。また、併せて、研修制度等を通じ指導員の資質の向上に努めるべきである。

 また、子育て支援については、地域の自主的な取組を尊重し、NPO等を含め地域住民が多様な形で参加できるような運営に努めるべきである。

三 育児と仕事の両立

(育児休業取得環境の改善)

 育児休業を取得しやすいものとすることは、女性の育児と就業の両立を容易にするとともに、男性の育児休業取得割合の向上につながると考えられる。このため、労働者が育児休業をとりやすく、また、育児休業後、円滑に職場復帰して、その経験、能力を活かして働き続けることができるような復帰後の職務や処遇の在り方等について必要な措置を講ずべきである。

 また、日常的にある程度の時間を育児に確保することができれば、育児休業を取らずとも、育児と就業の継続が可能となる。したがって、小学校に就学するまでの子どもを養育する労働者を対象とした短時間勤務の制度、始・終業時刻の繰上げ・繰下げ制度等について、拡充を図るべきである。

(育児休業給付の改善)

 雇用保険法の改正により、育児休業給付水準が現行の二五%から四〇%へ引き上げられることとされているが、その活用促進を図り、安心して子育てができるよう育児環境の経済的基盤の強化に努めるべきである。

(労働時間の短縮)

 労働時間の短縮は、単に働き方の面からだけではなく、男性が家庭生活や地域生活へ参加するための条件を整備するとの観点からも、重要であるため、労使をあげた取組を促進すべきである。さらに、こうした取組が実効性を持つためには、社会や企業の制度の変革と併せて、職場中心の働き方についての発想の転換が必要不可欠であり、意識改革に向けた啓発活動を拡充すべきである。

(多様な働き方の環境整備)

 フレックスタイム制度、短時間勤務制度などの労働時間の柔軟性を高める制度の普及や在宅ワーク等の多様な働き方が健全に発展していくための施策の推進を図り、男女が共同して育児や家事に参加することができる就業環境を形成すべきである。また、家事や育児との関連で勤務時間や勤務場所を重視する女性のニーズに対応するため、パートタイム・派遣労働者の適正な待遇や雇用条件を確保すべきである。さらに、年齢制限等労働市場への再参入を阻害する要因を解消すべきである。

四 子どもの看護休暇

 育児休業から職場復帰した後、子どもの病気等により、年間相当日数の年次休暇を費やす現状においては、養育者が子どもの看護のために短期間の休暇を取りやすくなるような制度の創設に向けた検討をすべきである。このような制度を、育児・介護休業法の中に明確に位置付けることは、子どもの病気等を理由とした休暇の取得に関する職場の理解の形成に資することとなる。

五 男女共同参画社会の形成

 女性が結婚や家庭に希望を持ち得ず、次代を担う子どもを育てることを負担と感じることが、少子化の要因となっているといわれる。この背景には、家事や育児の負担が女性に集中しがちな職場・企業中心の男性のライフスタイルや我が国の男女の固定的性別役割分業意識が存在している。また、現状の賃金体系や労働慣行の下においては、出産や育児は、これらにより、就業を中断した女性に対し不利な影響を及ぼすものと捉えられている。

 こうした社会の在り方が子どもを持つことをためらわせる要因となっているため、社会に存在する男女の固定的な性別役割分業意識を見直し、女性が社会参加しやすくする観点も踏まえ、性別にかかわらず、家庭、職場、地域において自己実現が可能となる社会を形成すべきである。特に男性の働き方の見直しや家庭における責任を男性も担いやすくするような取組が重要である。

六 外国人労働者問題の検討

 我が国は、二十一世紀において人口の減少する社会を迎えると予測されている。こうした中、国内における労働力確保等の施策を進めるとともに、個人及び社会全体の生産性の向上を図る必要があるが、特定の労働分野あるいは地域においては労働力不足が懸念される。

 我が国においては、外国人労働者が定着した場合に予想される、外国人労働者の家族を受け入れる社会的制度等の在り方については、十分な検討がなされているとは言い難い。このような現状において、なし崩し的に外国人労働者の導入が進むことは、社会的コストを大きなものとしかねないため、本格的人口減少社会の到来を前に、多面的な検討を開始すべきであり、検討に際しては国民的なコンセンサスの形成に努めるべきである。