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国際問題に関する調査会

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国際問題に関する調査報告(中間報告)(平成9年6月17日)

目次

 

審議経過

 本調査会は、第一三三回国会の平成七年八月四日(金)の本会議において、国際問題に関し長期的かつ総合的な調査を行うため設置された。
 本調査会においては、三年間にわたる調査活動のテーマを「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」と決定し、第一年目は、アジア太平洋地域の安全保障の在り方を軸として調査を行った。第二年目は、理事会等における協議の結果、引き続き安全保障について調査を進めるとともに、アジア各国の経済情勢を踏まえ、経済協力等についても調査を行うこととし、次のとおり調査を行った。

 第一三九回国会

○平成八年十二月九日(月)
「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のうち、アジアにおける安全保障及び経済協力等について海外派遣議員団から報告を聴いた後、委員間の意見の交換を行った。
 なお、海外派遣は第一三六回国会閉会後の八月二十二日(木)から九月四日(水)まで、アジアにおける安全保障及び経済協力等に係る諸問題の調査並びに各国の政治経済事情等の視察のため、議院から本調査会の会長及び理事を中心にした議員団をベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア及びフィリピンに派遣したものである。
○平成八年十二月十六日(月)
「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のうち、APECマニラ会議とアジア太平洋地域の経済情勢について野上義二外務省経済局長から報告を聴いた後、質疑を行った。

 第一四〇回国会

○平成九年二月五日(水)
「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のうち、アジア太平洋地域における安全保障の在り方について五百旗頭真参考人、鷲見友好参考人及び田中明彦参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。
○平成九年二月十二日(水)
「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のうち、アジア太平洋地域における経済と経済協力の在り方について長谷川潔参考人、広野良吉参考人及び竹中平蔵参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。
○平成九年二月二十四日(月)
「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のうち、アジア太平洋地域における安全保障の在り方及びアジア太平洋地域における経済と経済協力の在り方について自由討議方式による委員間の意見の交換を行った。
○平成九年三月三日(月)
「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のうち、アジア太平洋地域の安定と日本への期待についてプラサート・チチャイワタナポン参考人及びリム・ホァシン参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。
○平成九年四月七日(月)
二月十七日(月)から十九日(水)まで、安全保障、経済協力等に関する実情調査のため行った沖縄県への委員派遣の報告を派遣委員から聴いた後、それをもとにして委員間の意見の交換を行った。
○平成九年四月二十一日(月)
「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のうち、東アジアの安全保障と米軍のプレゼンスについて川島裕外務省総合外交政策局長から説明を、また森本敏参考人及び田岡俊次参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。
○平成九年五月七日(水)
「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のうち、我が国の今後の経済協力について畠中篤外務省経済協力局長から説明を、また西川潤参考人及び藤原勝博参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。
○平成九年五月十九日(月)
「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のうち、我が国の今後の経済協力について自由討議方式による委員間の意見の交換を行った。
○平成九年五月二十一日(水)
「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」のうち、アジア太平洋地域における安全保障について自由討議方式による委員間の意見の交換を行った。


調査概要

 第二年目は、三年間にわたる調査活動のテーマとして設定した「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」の下、「アジア太平洋地域における安全保障」及び「アジア太平洋地域の経済と経済協力」について調査を行った。以下各項目ごとに調査の概要を記述する。

一 アジア太平洋地域における安全保障

1 アジア太平洋地域の情勢認識と我が国の対応
(一) アジア太平洋地域の情勢認識

 アジア太平洋地域の情勢について、将来展望も含め、どのように認識するかとの視点に立って調査を行った。
 アジア太平洋地域は経済発展が進み、相互依存関係が深まる一方、朝鮮半島等における緊張、域内諸国の軍事力の増強等の問題が存在し、また、人口、食糧、環境、エネルギー等の問題が中長期的課題となっている。
 参考人からは、アジア太平洋地域における政治・安全保障をめぐる全般情勢について、朝鮮半島、台湾海峡等の地域的不安定要因や、領海、領有権問題等の地政学的不安定要因があること、また、多国間の協調主義と勢力均衡主義との併存という特色があるとの意見、アジアでは不確実性と緊張が続いているとの見方があるが、これは米国の危険な戦略によるものであるとの意見が述べられた。
 中国は、改革・開放政策を推進し、自国の主権を明確に主張しつつ平和で安定した国際環境の形成に向けた外交を展開しているが、中国の二十一世紀の経済成長を踏まえ、その動向と対応に論議の焦点が当てられた。
 参考人からは、中国は、長期的に総合国力を高め、その望むような国際秩序を築くことを考えている、分裂、戦乱型のシナリオは多分当たらず、また、直ちに軍事超大国になるわけではないとの見方が示された。委員からは、日米の離間といった統一戦略の下、ナショナリズムを支えとする総合国力の充実、海軍近代化に努力している中国の姿を冷静に見ながら、日米中の関係を築いていくことが肝要であるとの意見、日米両国は、中国をソフトランディングさせていくため、建設的関与政策をとるべきであるとの意見が述べられた。
 朝鮮半島では、軍事的緊張が続く一方、韓国の四者会合提案に、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は明確な姿勢を示していない。他方、北朝鮮では、食糧難の深刻化、亡命者の続出等を背景に不透明感が増している。
 参考人からは、朝鮮半島の軍事バランスは、北朝鮮が一方的に弱くなっているとの意見、北朝鮮脅威論は、冷戦下のソ連脅威論にかわるものとしてクローズアップされたものであるとの意見が示された。また、朝鮮半島が統一された場合その国は、統一のプロセスにより、中国との同盟国又は友好国、米国との同盟関係を維持しつつも構造的変化が起こる可能性のある国、ある種の中立国の三つの可能性があろうとの意見が述べられた。委員からは、北朝鮮の将来は予測不可能であるが、悪い場合、ソフトランディングした場合の二つの視点を踏まえ、我が国はどちらにでも対応できる体制をつくっておくことが大切であるとの意見が表明された。
 極東ロシア軍の動向については、参考人から、史上類例のないほどの自壊が始まっており、我が国にとって十八世紀以来の北方の重圧からの解放を意味するとの見方が示された。
 東南アジア諸国における軍備近代化の動向に関連して、委員から、東南アジアの経済発展がどうなるか、軍事力を世界で一番強化している地域であることも、一抹の懸念として残されるとの意見が述べられた。
 米国はアジア太平洋地域への関与を深めており、本年五月に発表された「国防計画の見直し」(QDR)においても、同地域における十万人程度の前方展開戦力の維持を確認している。米国のアジア太平洋地域への関与、米軍のプレゼンスについては、参考人から、米国のこの地域におけるプレゼンス、抑止機能が地域の平和と安定に重要な役割を果たしていることは幅広いコンセンサスがあろうとの意見が表明された。また、委員からは、アジアの現況を見ると、米軍のプレゼンスは必要であるとの意見が述べられたほか、米軍のプレゼンスにより日本はアジア太平洋地域を危険な道に引きずり込む緊張の震源地になろうとしているとの意見も示された。

(二) 我が国の対応

 アジア太平洋地域の平和と安全について、我が国はいかに対応すべきかとの視点に立って調査を行った。
 昨年四月の日米安全保障共同宣言の発表を受け、本年秋に予定される日米防衛協力のための指針の見直しを控え、中国、朝鮮半島情勢等の動きの中で、我が国の安全保障の在り方を中心に論議が交わされた。
 我が国の安全保障の在り方については、委員から、アジア太平洋地域の安全保障を考える上で、重要なファクターは、日米安全保障体制の堅持と、日米中トライアングルをこの地域でどう安定化させていくかであるとの意見、我が国が米国と協力し、どのように関与するかという理念を明確に諸外国に打ち出せるかどうかが、我が国のアジア太平洋地域における安全保障に果たす役割であろうとの意見、一国平和主義という戦後体制を脱し、日本みずからが主体的に平和政策を展開していく意味合いにおける安全保障についての基本理念、基本政策を明確化する必要があり、国民の意識も変わってこなければならない、日米安保共同宣言による新しい位置づけの中で日米同盟関係を基軸とし、節度ある防衛体制をとることは意義があるとの意見が表明された。さらに、我が国は専守防衛を堅持するとともに、我が国が先頭に立ち目に見える形でアジア太平洋地域の軍縮に努めるべきであるとの意見が述べられたほか、日本のとるべき道は、アジアの一員として行動していくこと、安保条約から抜け出して非核非同盟の道を進み、この地域の平和と安定に貢献していくことであるとの意見も示された。
 日米安保体制については、参考人から、我が国の安全保障政策のキーは日米安保条約の重要性であり、日米安保を軍事的側面としてのみではなく、自由主義的民主制国家の連帯を示すシンボリックな存在としてとらえることも必要であるとの意見、アジア太平洋地域の安定的推移のために日米安保が望ましいとの国際的承認が多く、国際公共財としての程度を高めているとの意見が示された。また、海上自衛隊基地に米軍専用埠頭を用意し連絡・通信・補給要員を残すことで日米同盟は保てる、無理をしない方が長持ちする同盟関係になるのではないかとの意見が述べられたほか、日本は安保条約よりも東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国が推進してきた多国間の協議によって安全保障を考えた方がよいのではないかとの意見も示された。
 日米安保共同宣言をめぐって、参考人からは、日本はアジア太平洋地域の力による変更はないという安定装置と、地球の半分にインパクトを及ぼす米軍の活動基盤を提供していることの二つの意味をなしたとの意見が表明された。他方、日米安保共同宣言は、米軍の作戦範囲をアジア太平洋という明確でない地域に拡大し、同盟を二十一世紀まで引き継ぐことを確認したもので実質的な安保改定であるとの意見も示された。
 参考人から、オーストラリア、韓国等と日米同盟を軸に協力体制をつくることにより、日米同盟が緩やかな集団安全保障へ発展し、この外側に、ASEAN諸国、ニュージーランド等の友好国を周辺国として位置づけ、各国が国情に応じ米国のプレゼンスを支援する緩やかな協力体制ができれば、紛争を未然に防止し、広範な安全保障協力を米国を中心に進めることができる地域的協力関係に発展できるのではないかとの意見が述べられた。これに関連し、委員からは、アジア太平洋の安全保障について、韓国、台湾、オーストラリア等と緩やかな協調体制を進めていかなければならないとの意見のほか、国連の理想とする集団安全保障体制は軍事同盟と対立する概念であり、日米同盟を軸に緩やかな集団安全保障へ発展していくとの見解には異論があるとの意見も示された。
 集団的自衛権をめぐっては、参考人から、朝鮮半島有事の自衛隊派遣は考えられず、韓国政府も望まない、米韓両国の活動に日本が領土内及び公海上で積極的に協力する、憲法九条三項に国際安全保障の明確な定義を与えるような改正が望ましいとの意見、また、九条一項を残し二項を削除する改正が望ましいとの意見が示された。
 委員からは、戦後憲法体制は、普通の国であるべき日本のある面の制約になっている、この転換期に日本の基本方向を決する上で、集団的自衛権の問題も見直すべきであるとの意見、集団的自衛権、個別的自衛権の行使については、最小限で国家の安全、地域の安定の目的を達すると解釈されるべきではないかとの意見が述べられたほか、集団的自衛権の行使は憲法違反であり、許すことはできないとの意見も表明された。
 本年秋に予定される日米防衛協力のための指針の見直しについては、委員から、ガイドラインにおいて、グレーゾーンに踏み込んだ具体的取決めができることが、我が国の決意を示す姿勢につながるとの意見、日本としては同盟関係の維持発展と、アジア近隣諸国から日本の軍事的役割の野放図な拡張と見られない配慮が、同時に進められなければならないとの意見が述べられたほか、ガイドラインの見直しで日米軍事一体化を推し進めることは、アジアの平和と安定にとって重大な問題で反対であるとの意見も示された。

2 アジア太平洋地域における信頼醸成の推進

 ASEAN地域フォーラム(ARF)等の場で行われている安全保障対話等の信頼醸成の取組をどのように位置づけ、対応を図るべきかとの視点に立って調査を行った。
 アジア太平洋地域においては、昨年、発足三年目を迎えたARFで、安全保障対話及び防衛交流の実績に関する情報交換、国防政策に関する文書の任意提出、国防大学間の交流、軍事演習についての事前通報等の措置を推進することが確認された。
 また、本年一月我が国は、ASEAN諸国との間で首脳レベルの対話を一層緊密に行うことを提案した。
 このような最近のARF等における信頼醸成の推進について、参考人からは、ASEANの発展がモデルとなり、緩やかで自発的な協力体制、開かれた地域主義としてのアジア太平洋経済協力(APEC)がアジア太平洋を覆うシステムに発展し、安全保障面ではARF等が活動している、緩やかで多様な要素を含む地域主義を冷戦後の秩序の受け皿として育てることができるかが重要であり、そのためには大国の衝突がないことが大切であるとの見解、ARF、APEC等の信頼醸成の装置は安全保障を代替するものではないが全体の底上げになるとの見解、東南アジアは、歴史の教訓に学び、大国間の覇権争いと隣国間の対立を回避するために、ASEANを設立し、その後もARF等の多角的、非軍事的なアプローチを追求してきており、今後もその努力を更に続けていくだろうとの見解が示された。また、アジア太平洋地域における安全保障の地域的枠組みの構築については、緩やかな地域統合のEU型、軍事機構を常設することなく対応するWEU型、常設軍もなくコンセンサス方式で協力関係を決定するOSCE型を想定し得るが、欧州の地域機構をアジア太平洋に持ち込むことは困難かつ非現実的で、この地域の地政学的特色に合致したものにならざるを得ない、地域的枠組みをつくるか否かについては、コンセンサスがなく、さらに、目的、構成、根拠規定の要否等について議論がなされていないなど、地域的枠組みには困難な問題があるとの見解が示された。
 委員からは、対話と協調、話合いによる紛争の未然防止、信頼醸成措置というアジア流の協調的安全保障はある面で正しい方向であるが、万一、予防が破綻した場合、紛争を阻止する体制を持っていない限界があり、その意味からも日米安保体制は堅持すべきであるとの意見や、ARF等の多角的な安全保障対話の試み、APECのような経済協力システムが、地域全体をカバーする安全保障システムのコアになることは理想であるが、アジア太平洋地域の現状を考えると、これらが日米安保体制の代替になるとは考えられない、当分の間、日米安保体制がアジア太平洋地域の安定装置として、重要かつ不可欠な役割を果たしていくことは異論がないのではないかとの意見が述べられた。他方、米国は、アジアで日米安保条約をNATOのような集団的自衛権を持った本格的な軍事同盟にして、それを中心にOSCEのような多国間協議体をつくることを目指し、ARF、APECをその補完物と位置づけているが、APECを安保問題を協議する場にしてはならないとの意見も示された。
 アジア太平洋地域における信頼醸成の推進のための我が国の役割については、参考人から、我が国は予防外交の分野でイニシアチブをとるべきであり、そのため予防外交を学問的、政策的に具体的に探究してみる必要があるとの意見、プラスサム志向の経済発展が重要であり、日本の経済援助はアジア全体に安定化をもたらすための装置であるとの見解、我が国はアジア太平洋の地域協力の活発化、アジア太平洋文明の方向づけに向けて、知的サーチライトとしてのAPEC大学をつくるような努力をすべきではないかとの見解が示された。
 委員からは、ARF等の場で信頼醸成、予防外交に努めるべきであり、東アジア諸国が国防政策をオープンにしながら「東アジア戦略概観」のようなものを共同して作成する努力を払うべきではないかとの意見、ストックホルム国際平和研究所等にならい、アジア太平洋地域の安全保障の在り方、軍備管理・軍縮を研究、推進する機関を国会に設立することが共通認識にならないかとの意見が示された。また、人的交流による信頼醸成が大事であることから、重層的なレベルでの交流を図る上で、地方自治体や姉妹都市交流について地方自治法に規定をつくるとか、国際交流団体を支援するシステムをつくれないかとの意見、アジアでは、紛争の要因を防ぐ視点から、貧困、麻薬、買春、児童の権利等の問題についても考えていくべきであるとの意見が表明された。

二 アジア太平洋地域の経済と経済協力

1 アジア太平洋地域の経済と我が国の役割
(一) アジア太平洋地域の経済に対する情勢認識

 アジア太平洋地域は現在、東アジアを中心に、世界で最も経済成長が著しく、域内全体の相互依存関係が深まっている。このようなアジア太平洋地域の経済情勢について、将来展望も含め、どのように認識するかとの視点に立って調査を行った。
 このような同地域の経済の現状について参考人から、グローバリゼーションが進展する一方で、局地経済圏の形成が進むなど、経済の地域化現象が見られるとの見方、アジアでは技術進歩等による生産能力向上というプラスの変化があるとの見方、さらに、アジア太平洋全域では高度経済成長にあるが、国別にはその成長に相当ばらつきがあるとの見方が示された。他方、同地域には経済成長の一方で、富の格差、地域間格差、都市化、環境破壊、民主化・民主勢力の抑制といった影の部分もあるとの指摘もなされた。
 アジア太平洋地域の高度経済成長の要因について、参考人から、国内の政治的安定、豊富で有能な人材の存在、旺盛な企業家精神、適切なマクロ経済政策、優れた官僚体制、経済成長に向けての強い政治的指導力があるとの指摘がなされた。また、日本のODAが途上国自身の開発能力の向上に貢献したこと、プラザ合意後の円高を背景とする我が国の直接投資が技術移転を加速させたことなどもその要因であるとの指摘もなされた。
 委員からは、アジアの成功はアジア的なアプローチをしたためであるとの見方や、それは工業化時代のしがらみや規制に縛られることなく、新しい時代の脱工業化、ソフトを中心とした経済開発に結び付いたためであるとの見方が示された。
 アジア太平洋地域経済の将来展望について、参考人から、政治的安定等の発展要因、WTOの下での開放的な経済体制の維持により今後の経済発展を楽観視しているとの意見、今後若干の失速もあり得ようが、中長期的にはアジアは順調に発展し、二十一世紀はアジアの世紀になるとの意見、さらに、アジアで技術進歩の向上を図る政策がとられる限り、アジアの持続的な経済発展に疑問を投げかけたクルーグマン仮説どおりにはならないとの意見も表明された。他方、二十一世紀には環境問題を始めとする影の拡大、域内における摩擦などが起きるのではないかとの意見や、中間層の所得拡大というプラス要因もあるものの、インフラ整備の遅れが成長のボトルネックになる危険性があるとの意見、日本的労働条件の押しつけを規制することが必要であるとの意見も述べられた。
 委員からは、アジア太平洋地域は世界の成長センターとして成長を続けていくのではないかとの意見が表明される一方、アジア経済が順調に発展していくためには、人口、食糧、環境、エネルギー等の中長期的課題に適切な対応を図る必要があるとの意見や、アジアの安定的な経済発展のためには、国際分業化を進めることが大きなポイントになるとの意見も述べられた。
 我が国経済について参考人からは、経済は依然低迷しており、経済パフォーマンスの好転は近い将来余り期待できないとの見方が示された。委員からは、アジアの経済的躍進の中で我が国経済は低迷しており、アジアの中での我が国のプレゼンスは薄くなってきているとの意見、プラザ合意後の円高や大店法の緩和・廃止の要求などで産業空洞化、系列崩壊が進み、中小企業が困難な状況にあるとの意見、また、国内の産業空洞化自体は産業基盤を足元から揺るがすものではないが、一番怖いことは技能労働者の多い中小企業の基盤が全部海外に移ることであるとの意見が述べられた。

(二) アジア太平洋地域の安定的な経済発展のための我が国の役割

 アジア太平洋地域は、今後、経済発展に伴い、人口、食糧、環境、エネルギー等の諸問題がそのボトルネックになるとの指摘がなされており、これらの解決のため、APECなどの多国間協力が始まっている。同地域が全体として安定的な経済発展を持続するために、貿易・投資、経済協力及び人口問題を始めとする諸課題への対処等各般の分野において、我が国はどのような役割を果たすべきかとの視点に立って調査を行った。
 我が国の基本姿勢について、参考人から、我が国は軍事力を伴わない政治大国となり、経済発展に積極的な役割を演ずるべきであるとの意見が述べられた。委員からは、我が国はアジア太平洋の発展があってこそ経済の発展が保障されることを念頭において、リーダーになるべきであるとの意見や、経済技術協力を中心にアジア太平洋地域の平和と繁栄に寄与することが、平和憲法を有し、今日の平和と繁栄を成し遂げた我が国の責務であるとの意見が表明された。他方、我が国の厳しい状況を見ると、今後ともリーダーシップをとっていけるのか疑問であるとの意見も述べられた。
 貿易・投資の分野での我が国の役割については、参考人から、我が国は規制緩和と市場開放によりアジア諸国からの工業製品輸入を促進するとともに、大企業のみならず中小企業の進出を通じ、技術・経営ノウハウを生かした裾野産業の育成に協力すべきであるとの見解が示された。委員からは、我が国は物づくり基盤の強化、大企業と中小企業の関係見直しなどの産業構造見直しの中で、アジアとの分業体制を考えるべきであるとの意見や、多国籍企業の野放図な経済活動に対する民主的規制を検討することが緊急の課題であるとの意見が述べられた。
 経済協力の分野での我が国の役割について、参考人から、我が国は東アジアへの経済協力を強化し、東アジア経済協力機構的なものをつくるなど、欧米諸国・途上国とともに新しい国際経済秩序を考えるべきであるとの意見、アジア太平洋に対する経済政策が基本とすべきは社会政策にあることを十分認識する必要があるとの意見、また、我が国は今後、アジア諸国の民生向上に直結する経済援助を展開すべきであるとの意見が表明された。さらに、多くの国が先進国になるアジアへの今後の経済協力の在り方について考えていく必要があるとの問題提起もなされた。
 人口、食糧、環境、エネルギー等の諸課題への我が国の取組みについては、委員から、我が国は環境破壊、貧富の格差の拡大、エネルギー問題など経済成長を制約する課題を解決するため、リーダーシップをとるべきであるとの意見、アジアでは将来、食糧問題や森林破壊が深刻になることが懸念されるので、我が国の持つ比較的進んだ技術やノウハウを活用して、これらの解決に積極的に取り組むべきであるとの意見、さらに、我が国はこれらの諸課題について、多国間の枠組みによる地域協力に努めるべきであるとの意見が表明された。
 APECなど多国間協力に対する我が国の対応については、参考人から、APECは我が国が唯一地域的なつながりを有するものであり、積極的に取り組む必要があるとの意見、APEC、EAECなどに関連して、我が国は自主外交を確立・推進すべきであるとの意見が述べられた。また、委員からは、アジア太平洋地域の経済成長を制約する問題解決のためにAPECを活用すべきであり、我が国はAPECの安定的発展のため、インフラ整備、技術者・企業家養成など、官民の枠を超えた協力体制を構築すべきであるとの意見が表明された。他方、APECはクリントン政権の主導により、設立当時の緩やかな協議体から貿易・投資の自由化を目指す機構となっている、我が国は、アジア太平洋諸国の自主的な発展、我が国経済と国民を第一とする自主性を確立すべきであるとの意見も述べられた。
 地域経済圏の形成と我が国の対応については、参考人から、我が国はもっとそれに積極的に取り組むべきとの意見が示されたほか、委員から、我が国は経済の活性化のため環日本海経済圏など地域経済圏の深化を積極的に推し進めるべきであるとの意見が表明された。

2 我が国の今後の経済協力
(一) 我が国の経済協力の現状認識

 ODAを中心とする我が国の経済協力の現状をどう評価するかとの視点に立って調査を行った。
 我が国のODAはアジア地域を中心に実施され、同地域の経済発展に寄与してきた。近年では、人口、環境、エイズ等の地球的規模の問題に対し、我が国のODAは重要な役割を果たしている。一九九六年の我が国のODA実績は九六・一億ドルで、九五年の一四七・三億ドルに比較し、円安等の理由により急減している。
 我が国は五次にわたる中期目標の下、ODAの規模を拡大してきたが、厳しい財政事情等を背景に、量から質への転換を図る等、ODAの在り方について抜本的な検討が求められている。
 我が国の経済協力の現状については、参考人から、特に東アジアに対してODAが経済社会基盤の整備、技術協力による人造りで貢献してきたこと、援助のアンタイド化を進めてきたこと、主要援助国等との政策協議を行い、ODAに対する比較優位を高めることを通じて我が国の自主性を示していること等について評価する意見が述べられた。他方、有償・無償・技術協力が有機的に連携して行われることが少ないとの意見も表明された。
 委員からは、我が国のODAは特にアジア太平洋諸国のインフラの整備、自立的な発展のための人材の養成、人造りに寄与してきたと評価する意見が表明されたほか、我が国の援助が相手国の国民に感謝、評価され、日本国民が納得するものか否か疑問であり、環境破壊や住民移転に伴う問題も発生させているとの意見、二国間ODAは途上国の経済的自立や国民生活の向上より、経済基盤整備に向けられる割合が多く、人道的な援助が少ないとの意見が述べられた。

(二) 我が国の今後の経済協力

 我が国の今後の経済協力の進め方は、いかにあるべきかとの視点に立って調査を行った。
 財政構造改革を迫られていることを背景に、我が国の今後の経済協力の方向性について、政府・民間を挙げて幅広い調査・検討がなされている中、本調査会においても広範な角度から議論が展開された。
 今後のODAの進め方の視点について、参考人から、地球市民としての視点から地球大の利益を考えること、市場の効率性を公共支援に導入すること、経済協力に関与する各主体の社会的責任を強化すること、政府主導のODAから国民参加型のODAへの転換を目指すこと、南南協力、特に第三国研修を充実すること、日本や現地におけるNGOの活用を図ることが指摘された。
 委員からは、日本自身が生きていくためにも積極的なODAについて、いろいろな角度から検討される必要があるとの意見、援助は日本の顔が見えるものとしていくべきであるとの意見、有償・無償・技術協力のパッケージによる包括援助を実効的にするため精密な国別援助計画を立てるべきである意見、相手国のニーズ・発展段階に合致し、被援助国民の理解が得られるODAが求められているとの意見が述べられた。また、ODA予算の効率的配分と被援助国の安定的な経済発展を阻害している既得権益構造を改革していくべきではないかとの意見、自主的、総合的な方針を確立し、米国の戦略補完的援助から脱して、飢餓、貧困の救済、途上国の経済的な自立への貢献に切り替えていくための理念、原則の確立が大事であるとの意見が示された。
 「人間中心の開発」が時代的な要請となっていること、援助ニーズが多様化していること等を背景に、援助の質的向上、途上国の制度造り支援を始めとする援助のソフト化の推進について論議が交わされた。
 参考人からは、インフラ整備よりソフト分野の比率を重視すべきである、社会開発のため基礎教育に力を注ぐべきであるとの見解、有償・無償・技術協力、二国間・多国間、援助供与国と国際機関、ODAと貿易・投資等の民間経済協力等をうまく組み合わせたパッケージによる総合的援助が必要であるとの見解が示された。
 委員からは、環境、保健、医療、教育等の社会開発分野を重視すべきであるとの意見、円借款中心から贈与中心に進めるべきであるとの意見、技術協力、政策支援や開発途上国の人材開発が大切であるとの意見が述べられた。親日家の養成にも資する留学生の受入れについては、「留学生受入れ十万人計画」が進められているが、受入れ体制や条件のみならずグローバル化の中でのソフト・パワーの充実という観点から政策を立案することが不可欠であるとの意見が表明された。また、途上国内において、高等教育機関進学の機会を得られない人材のために、奨学金を経済協力予算で創設すべきではないかとの意見、人材の養成について、アジア太平洋諸国の共通の場が考えられてよいとの意見も示された。さらに、質的向上への転換は大事であるが、ある程度の援助量がなければならず、ODAを一律に削減し世界に誤ったメッセージを送るのは疑問であるとの意見、量から質への見直しは、これまでの進め方の破綻、行き詰まりの反映であるとの意見も述べられた。
 日本の援助実施要員は漸増しているが、援助量に比較し依然として少ない。今後、ODAのより一層の質的向上を図るためには、要員の増員とあわせ、質の高い要員の育成が喫緊の課題である。
 委員からは、援助実施要員の重点的な増員の重要性に加え、NGO関係者のODA事業への参加を含めた国際協力に係る人材育成に本腰を入れて取り組むべきであるとの意見が表明された。また、国民参加型援助の典型として重要な青年海外協力隊員の派遣については、隊員の身分の保障、帰国隊員の処遇等について必ずしも十分な配慮がなされているとは言い難いとの意見、官民が協力して、帰国隊員の援助分野における能力の活用や、再就職の支援に努めていく必要があるとの意見が述べられた。
 円借款に関する四省庁体制、技術協力に関する十九省庁体制など、援助実施体制をめぐり論議が交わされた。
 参考人からは、現在の援助実施体制の基本は高度経済成長期に確立したもので、経済成長の誘導には効率的であるが、社会的、環境的なひずみの問題には十分対応し得ない、また、予算の重複や有機的な執行に関する問題が生じており、実施体制の一元化を行うべきであるとの見解、援助政策の企画立案機関と実施機関について、それぞれその一元化を図るべきであるとの見解が示された。
 委員からは、縦割りになっている行政の在り方を見直すべきではないかとの意見、実施体制を統合し、国際援助庁にまとめ、インフラ等は民間の協力との関係を考えて総合的、効果的なODAとし、フォローアップも組織的にすることが必要であるとの意見が表明された。また、援助庁をつくるのであれば、明確な機能を持たせて重複を削っていく努力が必要であるとの意見も示された。
 我が国のODAの原資は主に国民の税金であることから、国民の理解と支持を得てODAを実施することが必要であり、このため国民への情報の公開をより一層進めていくべきではないかとの視点に立ち論議がなされた。
 委員からは、ODAに対する国民の関心、理解を高めるため学校教育でその意義を教えるなど、ODAの重要性についてアピールすることが必要であるとの意見が表明された。
 NGOは草の根レベルの援助を中心に、途上国の開発に欠かせない役割を果たしている。参考人からは、政府とNGOとのパートナーシップが必要であるとの見解、環境分野や、貧困、失業等の社会問題についてNGOの参画が重要になってきているとの見解が示された。委員からは、政府とNGOとの緊密な協力が大切であり、NGOに対する援助の拡大を図るべきであるとの意見が述べられた。
 アジア地域を中心に、インフラ整備等のため資金需要の増大が見込まれている。これに関連し参考人からは、幅広い経済協力分野において、民間の有する広い知識、経験等を活用すべきであるとの見解が示された。
 国会は、経済協力予算を計上している予算の審議、議決等を通じてODAに関与している。国民の代表機関である国会のODAに対する関与をめぐって参考人からは、ODAの具体的な実施が政府開発援助大綱に沿っているかどうか議論すべきであるとの意見、ODAの基本的戦略をつくるところは国会で議論し、大きな方向づけをした上で、具体的案件については執行機関に委ねるべきではないかとの意見が述べられた。委員からは、個別案件についても、マイナスの起きないような形、国民に責任を持てる形での国会審議は可能ではないかとの意見、国会がどこまで関与すべきかは、行政と立法の関係という意味でも難しい問題であるとの意見が示された。
 我が国のODAは、九二年に閣議決定されたODA大綱に基づき実施されている。他方、ODAに対する我が国の考え方を明確化するとともに、援助の透明性を高め、国民の理解、参加を得たODAとしていくために、ODAに関する基本法を制定すべきではないかとの考えをめぐって論議が続けられてきた。
 参考人からは、ODA基本法を制定することは賛成であるが運用が大切であり、運用で外交当局を縛らない、特定の地域の利益に優先した形で行わないことが必要であるとの意見、民主主義から生ずるリスクに対する安全装置をつくりつつ、ODA大綱は基本法に移行するのが筋であるとの意見、援助実施体制の一元化の観点からも基本法は必要であるとの意見が表明されたほか、ODA大綱の運用もある程度柔軟でないと、国と国との摩擦を起こしかねず、杓子定規に解釈するとODAを供与する場面も制限されることになるとの意見も示された。
 委員からは、ODA基本法に基づき国別援助計画を立てていくべきであるとの意見、制定に当たっては、国会審議と国会承認など民主的公開制度の確立を基本とすべきであるとの意見、法律制定によるメリットを明らかにし、デメリットについてはいかにいい形に担保していけばよいか検討する必要があるとの意見が述べられた。また、基本法には、ODAの理念・基本原則、国会に対する報告、NGOとの連携の強化等を盛り込むべきではないかとの意見も表明された。

三 早期に施策の具体化を求める提言

本調査会は、以上の調査に基づき、次の五点の事項について早期に施策の具体化を求めるものである。

 提言1 援助のソフト化の推進
 今後我が国が経済協力を進めるに当たっては、その質的拡充を図るため、政策支援・人材の育成等に重きを置く援助のソフト化を一層進めていくことが重要である。
 国の組織・制度等基盤整備に向けた努力を行っている開発途上国を支援するため、相手国との緊密な対話の下、必要な諸制度の導入を調査・検討し、専門家を派遣し、研修員を受け入れる包括的なアプローチを一層促進すべきである。
 開発途上国において国の将来の発展を担う潜在的可能性を有しながら、経済的理由等から高等教育機関への進学を断念せざるを得ない人材に対し、経済協力予算を用いて当該途上国内の高等教育機関進学のための新たな奨学金制度の導入を検討すべきである。
 提言2 留学生受入れ施策の充実
 留学生受入れ十万人計画が進められているが、留学生数の伸びは鈍化傾向にある。我が国への留学を魅力あるものとしていくため、受入れ体制の整備、安定した留学生生活基盤の確立とともに、我が国企業における留学経験者の採用等、社会、教育を始め各般の分野にわたる留学生受入れ施策の充実が図られなければならない。
 留学生受入れに当たっては、その施策の充実を図るため、国費留学生制度や私費留学生のための学習奨励費の支給等留学生に対する奨学金制度の拡充等の経済的支援を進めるとともに、留学生センターの整備等教育研究体制の充実に努めるべきである。また、留学生支援企業協力推進協会、日本国際教育協会等が実施している留学生宿舎確保事業の充実を始め、留学生の生活基盤確立に向けた関係経費の増額に格段の努力を払うべきである。このため、経済協力予算のより一層の充当を進めるべきである。
 提言3 「アジア太平洋大学(仮称)」の創設等、人的交流・知的交流の拡充
 様々な分野における多様性をその特色とするアジア太平洋地域において、長期的視点に立脚した多層的多面的な人的交流・知的交流を積極的に推進することは、域内諸国との相互理解を深め、真の信頼関係を構築するために極めて重要な手段である。そのため、アジア太平洋地域の抱える諸問題の共同研究及び域内諸国からの学生に対する専門教育を行い、同地域における知的交流の拠点となる「アジア太平洋大学(仮称)」の創設を検討すべきである。
 また、国際交流基金の予算・人員の拡充、関係行政機関と官民の実施機関との連携の強化、コミュニケーション能力を重視した英語教育の充実、高等教育機関における人的交流・知的交流に関する教育研究体制の拡充などによる計画的かつ組織的な人材育成の強化及び文化交流事業の拡充を進めるべきである。
 提言4 国際協力に携わる人材の育成
 援助ニーズの多様化に対応し、きめ細かく息の長い援助を推進していくため、国際協力に携わる質の高い人材の育成と確保が急務となっている。このため、専門家として国際協力に携わる人材の養成とその待遇向上のプランを策定し、計画的な人材の育成に努め、また、「国際開発大学」構想の推進を始め、開発援助に関する教育研究体制の充実を図るべきである。
 さらに、青年海外協力隊帰国隊員の身分安定の制度を充実するとともに、青年海外協力隊、民間援助団体、民間企業等における援助経験者の援助関係省庁、援助実施機関の職員への任用、開発専門家への登用の促進に努力すべきである。
 提言5 アジアの農林業についての共同研究開発の拡充
 我が国の周辺諸国を始めとしたアジア地域では、食糧自給率が低下し、これが地域の不安定要因になりかねず、また、森林の破壊が進行し、地球環境の悪化を加速させることが懸念されている。これらに対処するために、我が国がリーダーシップをとり、同地域における食糧増産技術及び造林技術についてアジア地域の諸国との共同研究開発をより一層拡充すべきである。

四 最終年に向けて

 本調査会は、これまでの調査を踏まえ、調査テーマである「アジア太平洋地域の安定と日本の役割」の下、東アジア地域における安全保障の在り方、ODAを軸とする経済協力の在り方、ODAに関する基本法の立法化などを中心として実りある成果が得られるよう充実した調査を進める。



(参考)

参考人の意見の概要

「アジア太平洋地域における安全保障のあり方」(平成九年二月五日)
○五百旗頭 真 参考人(神戸大学教授)

 戦後日本の安全保障をいかに図るかについて吉田首相は、サンフランシスコ講和の際、経済復興優先の観点から、日米安保条約と日本自身の限定的軍備を結合して行うとの選択をした。六〇年安保を経て吉田路線が定着し日本は経済大国となったが、沖縄返還、ニクソン・ドクトリン、米国のアジアからの後退は、日本の軍事的役割の拡大要因と解された。他方、米ソ、米中デタント、日本の財政悪化、保革伯仲は、抑制要因とされた。基盤的防衛力の考え方により、防衛計画の大綱と日米ガイドラインが策定され、七〇年代において、日本は国際協調システムの枠内で限定的な安全保障の努力を払うという日米安保の再確認がなされた。八〇年代の新冷戦期、西側の一員としての立場が強調された。七〇年代の体験を通じて日本は、外交・国防努力のみならず、経済・資源エネルギーの安全保障、大災害への対処という総合安全保障論を形成した。
 ソ連崩壊により、日米安保の役割は終了したとの論議がなされたが、湾岸危機、北朝鮮の核問題等の動きがあり、冷戦後、必ずしも特定できない不安定要因に対する安定装置として、日米安保はNATOと同様に再評価されるようになった。日本は軍事大国化を慎しみ、日米安保プラス限定的軍備の枠組みを守り新しい状況に対応してきた。現在日本では、侵略戦争否定、自衛戦争容認については、広い了解があろう。他方、国際安全保障のための軍事的役割については、湾岸戦争の経験からPKOへの参加が決断されたが、多国籍軍参加はまだであり、政治・外交努力、軍事措置を含む国際秩序構築のための貢献の必要性について原理的に理解されながら、具体的措置にはなお首をかしげている状況にある。
 アジア太平洋における安全保障は、米国を中心とする同盟条約網によるハブ・アンド・スポーク型が基本型であったが、冷戦後、不安定要因との関連からは日米安保枢軸型となっており、また、ASEAN等は米国の安全保障上の役割を重んじ柔軟に対応している。
 中国はパワー・ポリティックスを改革・開放路線の中でも併用し、長期的に総合国力を高め、中国の望む国際秩序を形成しようと考えている。二〇~三〇年後、中国が経済力、軍事力を高めたとき、どのような存在になるかが二十一世紀の中心課題の一つであろう。
 ASEANの発展がモデルとなり、緩やかで自発的な協力体制、開かれた地域主義としてのAPECがアジア太平洋を覆うシステムに発展し、安全保障面ではARF等が活動している。緩やかで多様な要素を含む地域主義を、冷戦後の秩序の受皿として育てることができるかが重要であり、これには大国の激突がないことが大切である。
 日本の役割としては、第一に、日米安保のアジア側出口の適切な管理が重要である。米国の圧倒的な力をアジア太平洋の秩序構造に活かし、日米安保という背骨を桐の箱に大事に納め筋肉活動を活発にすべきである。第二に、地球環境などグローバルな問題と途上国の開発を支えるODAを中心とした協力が重要である。第三に、アジア太平洋協力を活発にする上で、サーチライトとしてのAPEC大学の創設など、アジア太平洋文明をどう方向づけ構築するかという知的創造に向け、民間の役割の充実を含め努力すべきである。

「アジア太平洋地域の安全と日本の役割」(平成九年二月五日)
○鷲見 友好 参考人(法政大学教授)

 一九九三年の発足以来クリントン政権は、ソ連崩壊後の新戦略を推進してきた。九五年の「東アジア戦略構想」では、アジアは依然として不確実性と緊張が存在し、朝鮮半島では挑発的な軍事的脅威に対決していると情勢を分析している。冷戦下でのソ連脅威論に代わるものとして北朝鮮の「危険」がクローズアップされている。北朝鮮は困ったことをする国であるが、そのこととクリントン政権が言うように軍事的脅威であることとは別である。
 クリントン政権は、北朝鮮、イラク等の「ならず者国家」の潜在的脅威が本格的脅威になることを阻止するための予防的防衛が、米国の利益を守る重要な手段であるとする「ロウグ・ドクトリン」を主張している。これは、米国がどの国が「ならず者国家」かを決めるという危険な戦略である。このような戦略をやめさせることが重要であり、日本は、米国の言うことに従っていればよいとする考えから脱却することが必要である。
 「東アジア戦略構想」の背景には、ソ連の脅威がなくなった下での軍事支出と軍事同盟維持の新たな理由づけ、軍事同盟の再検討の必要性がある。また、同構想では、日米経済摩擦、米国内での日米安保解消論に配慮し、貿易、雇用創出面における米国にとってのアジアの重要性が強調されている。さらに、在日米軍は、米軍の地球的規模の展開体制にとって死活的に重要であること、日本は、米軍駐留経費の70%以上を負担する最も気前のよい同盟国であることが指摘されている。
 昨年の日米安保共同宣言は、米国の世界・アジア戦略を政府間の取決めとして確認したもので、米軍の作戦範囲を限定した「極東」との文言がなくなり、日米安保を「アジア太平洋」という範囲も明確でない地域に拡大し、さらに、その二十一世紀までの継続を確認している。これは、実質的な安保改定であり、国会での十分な論議もなく、首脳間でこのような決定をしたことは、民主主義の蹂躙と言わざるを得ない。この宣言に対して、韓国、中国は警戒する旨の発言をしている。他方、ASEAN等は宣言を歓迎しているが、この背景には、日本が独自で軍事力を強めることに対する危惧がある。
 自衛隊が憲法違反の存在であるにもかかわらず、日本の軍事費は、世界第二位に達しており、しかも削減されたことがない。
 アジアの安全保障に対する役割として日本は、冷戦崩壊後の今こそ、平和憲法の理念に従った話合い、互恵平等の貿易その他の経済関係、人道的な援助等々により軍事力によらない解決の方法を追求すべきである。兵器の供給を抑えれば、紛争を激化させないことができる。日本は、非核・非同盟・中立の立場で軍事費を削減し、アジアにおける軍縮へのイニシアチブをとるべきである。

「アジア太平洋地域における安全保障の在り方」(平成九年二月五日)
○田中 明彦 参考人(東京大学助教授)

 アジア太平洋地域には様々な問題がある。第一に、この地域には欧州と比べるとかなり特徴的な領土問題が存在していることである。欧州には全欧安保協力会議をつくる過程で、国境についての合意があるが、アジア太平洋地域にはない。第二に、南北朝鮮や中国・台湾などの分裂国家が、国際紛争の要因となっていることである。第三に、軍備力の近代化である。各国の経済が発展し、軍事費を増大するゆとりが出てきたことが要因になっている。軍備力の増大で懸念されることは、一国の軍事力の増大が周辺国の軍事力も増大させ、もとの国の軍事力をさらに増大させるという悪循環がはたらくことである。第四に、主要国間の関係が安定性を欠いていることである。冷戦後、米中、日米、日中の関係が重要になってきている。主要国関係の緊張がただちに安全保障に影響を与えることはあり得ないが、安全保障の背景にある領土、分裂国家、軍備の近代化等の問題をさらに悪化させる可能性がある。第五に、この地域においても、テロ、麻薬、難民、海賊、環境など新しい意味での安全保障が注目されなければならないということである。
 国際政治学における安全保障の考え方は、リアリズム(現実主義)とリベラリズム(国際協調主義)の二通りが主流となっている。リアリズムは国際政治を対立的ととらえ、その対立の背景にある力の分布を重視した考え方である。リベラリズムは、三つの考え方に整理できる。第一は、民主主義による平和で、各国の政治体制を民主化し、広めていこうとする考え方である。第二は、経済的相互依存による平和で、経済を密接に結びつけることによって戦争を防止していく考え方である。第三は、国際的制度による平和で、多くの国が安全保障の話合いをする、あるいは、集団的安全保障の取決めを結ぶことにより、相互の国の軍事化を防止していくという考え方である。
 我が国の安全保障政策のキーとなるものは、日米安全保障条約の重要性である。日米安保を軍事的側面としてのみではなく、自由主義的な国の連帯を示すシンボリックな存在としてとらえることも必要である。第二に、プラス志向の経済発展の重要性である。どこかの国の経済発展が、他の国の発展のマイナスになっている場合、紛争の要因となる。その場合、日本の経済援助がアジア全体に安定化をもたらすための装置になることが重要である。第三に、多角的多層的な国際制度の重要性である。ARF、APEC等の信頼醸成の装置は安全保障を代替するものではないが全体の底上げになる。
 アジア太平洋地域における最近の問題として、朝鮮半島では、北朝鮮の金正日体制の確立等の問題がある。米中関係は、改善の方向に向かってきてはいるが、依然として台湾問題、香港問題がある。台湾の外交活動は積極的に展開されている。香港返還の準備が進んでいるが、米中関係の改善があっても、今後の行方は予断を許さない。
 これからの日本の課題は、第一に、朝鮮半島の問題が確固としない段階にあるため、日米安保の有効性を高める努力を継続しなければならないことである。第二に、集団的安全保障に関連した議論を国際機関の場で積極的に行うことである。第三に、多角的な安全保障対話の試みを積極的に進めていくことである。第四に、米中関係を重視しながら、建設的な対話を行うことによって日中関係を安定化させていくことである。

「アジア経済の現状、展望、課題と日本」(平成九年二月十二日)
○長谷川 潔 参考人(日本経済新聞アジア部長)

 アジア経済は、この一〇年で様変わりになった。その原点は八五年九月のプラザ合意による円高誘導である。そのときの日本の産業調整がアジア経済の発展の火つけ役になった。アジア経済を大きく変えたもう一つの要素は、八九年の冷戦終結である。これを受けて、中国、ベトナム、インドと次々に市場経済の仲間入りをしていった。先進諸国の経済発展に伴って、アジア諸国の発展の雁行隊列はやや崩れてきたが、多くの国を巻き込んだ形で規模はより大きくなってきた。
 この一〇年間にアジア経済に起きた変化を見てみると、まず、貿易の面では、米国と日本に対する依存度が低下し、最大の市場はアジア域内になってきた。また、投資の面では、NIESが日本と並ぶ主役となった。NIES諸国による投資は、対ASEAN投資では既に、日本や米国を上回っており、対中投資でも、統計上は香港と台湾が七割を占めている。さらに、技術の面においては、プラザ合意後は、日本の技術導入が主役だったが、最近は日本離れという現象も見られる。例えば、最近のアジア各国の国民車生産における提携先に見られるように、アッセンブリーについては、日本とNIES、欧米勢がほぼ対等の立場に立ちつつある。ただ、部品だけは、依然として日本頼みという現象が目につく。最後に、経済規模の面についてみると、九五年には、日本プラス東アジア九か国は、米国やEUと肩を並べてしまった。成長率の差からすると、遅かれ早かれアジアは世界最大の地域になるのは間違いない。
 このように東アジアの経済が自立性を高めている中で、日本のアジアに対する直接投資については、バブル崩壊後一時減少したものの再び高水準になってきている。反面、日本国内では空洞化が想像以上に早く進んでいる。日本の産業界の今後を考える場合は、身近にアジアという急成長する市場と、安い労働力、土地があるという地理的な有利性を活用する時代になってきた。かつてのように、単なるコストダウンや輸出生産拠点狙いから、アジアのどこで、何をつくり、どこへ売るかという戦略的な見方をしていなければいけない時代に入ってきた。
 アジア経済の今後の課題と展望については、人件費の上昇に伴う産業構造の調整ということがある。もう一つは、インフラの問題で、これが成長のボトルネックになる危険性がある。ADB(アジア開発銀行)の予測によれば、今後、九六年から二〇〇〇年までの五年間に、同地域のインフラ整備のために一兆ドルが必要になるとしている。これはODAではまかないきれないので、民間資本の参加が期待されている。今後のアジアの経済のプラス要因としては、中間所得層の拡大がある。これにより内需が輸出を補完する新たなエンジンとして育ってきている。

「アジア太平洋地域の経済と日本の経済協力」(平成九年二月十二日)
○広野 良吉 参考人(成蹊大学教授)

 アジア太平洋地域の高い経済成長は、一九六〇年以降の東アジアを除けば、普遍的でも、恒常的なものでもない。国内的に政治的安定、豊富で有能な人材の存在、旺盛な企業家精神、適切なマクロ経済政策、ある程度優れた官僚体制、経済成長へ向けての強い政治的指導力といった要因を備えた国では高い成長をなし遂げた。また、日本の直接投資による技術移転等も成長を支えてきた。経済成長の一方、所得・富の格差、地域間格差、都市化、環境破壊、民主化・民主的勢力の抑制という影も見られる。この点につき先進国及び国際機関は警鐘を鳴らしてきたが、途上国サイドで必ずしも十分な努力がなされていない。
 政治的安定・従来の発展要因、WTOの下での開放的な経済体制の維持により今後のアジアの経済発展を楽観視しているが、外部の変化への対応能力が高いという人々の特性も発展継続の一因である。クルーグマンによる悲観論は問題外である。他方、二十一世紀には多くのアジア諸国が先進国入りするが、同時に環境問題を始めとする影の拡大が懸念される。また、従来なかった[1]域内における摩擦、[2]人権・民主化をめぐる対米・対EU摩擦、[3]中国の環境問題・特定商品等をめぐる対日摩擦が起こってくると見られる。
 日本のアジア、特に東アジアに対するODAは開発能力の向上に寄与したものとして高く評価している。特に日本は、今後民間資金との連係が必要となるインフラの整備、技術協力による人造りの面で大きな貢献をしてきた。ODAの制度上の問題として既得権益集団が経済協力の効率化を阻止してきたとの議論もあるが、既得権益集団を利用しつついかに効率化するかを考えるべきである。
 今後の経済協力の在り方のポイントは、次のとおりである。[1]縦割的視点でなく、地球市民の視点から地球大の利益を求める。[2]競争原理を一層導入し、市場の効率性を公共支援に持ち込む。[3]民間部門等市場の各主体による公正さ等社会的責任を強化した公共政策の公正原理と、長期視点を持った市場行動への移行に努める。[4]自由・民主・公正を基盤とした市民社会の形成により政府主導から国民参加を目指す。この意味でNPO法の成立を期待する。[5]恒常的改革の時代であり、日米欧という従来の国際秩序・体制擁護のみでなく、新興国を支援することが必要である。[6]東アジアへの経済協力を強化し、東アジア経済協力機構的なものをつくる等、欧米諸国に追随する無防備なグローバリズムから脱却し、欧米諸国・途上国と共に新しい国際的な経済秩序を考えるべきである。

「アジア太平洋地域の経済と経済協力」(平成九年二月十二日)
○竹中 平蔵 参考人(慶應義塾大学教授)

 東南アジア諸国を訪問し痛感するのは、アジア経済が予想をはるかに超えた速度で進展しており、日本にこれに対応できるだけの変化が今求められているということである。
 アジア太平洋の経済を考える上で重要なマクロフレームワークは以下の三点、[1]技術進歩、平和の配当、経済のグローバル化等によるポジティブ・サプライショック(経済供給側の利用可能な選択肢の拡大)のチャンスが到来していること、[2]市場構造がファースト・ムーバーズ・アドヴァンティッジ(最初に動いた者が得をする)とウィナー・テイクス・オール(勝者がすべてを得る)に変化し、貿易の自由化が進んでいること、[3]香港と広東省の関係に見られるように、国家の枠組みを越えて経済圏が成立するなど、地縁、言語等伝統的要因に基づき、経済のグローバル化の中で地域化現象が発生していることである。
 米国の対外経済政策は、国民中間層の生活水準の持続のため、財政赤字の削減が必須であり、デフレ政策が実現不可能なことから、デフレを相殺するための外需拡大・輸出増加が必要となり、アジア太平洋地域を「新たなフロンティア」と位置づけ、「世界の成長センター」に対する自由化促進及び介入策を基本としている。従来の通商法三〇一条の発動等マーケット・スレットの通商政策(自国市場からの締出しによる脅し政策)は継続されるものの次第にその割合は低下し、代わって地域経済組織を活用した彼らが主張する「法の論理」によるものに変化している。近年、世界の地域経済組織間の協議・協力関係が始まり、従来懸念されていた経済のブロック化とは異なる新たな相互協力関係が形成されつつあり、米国はそれらのすべての組織に参加し、将来盤石の構えを見せている。これに反し、日本が地域的つながりを有するのは唯一APECのみにすぎない。
 アジア太平洋の経済を概観すれば、一九八〇年代前半にはアメリカが主たる消費者の役割を果たし、同年代後半にはアジア・NIES諸国がその役割を演じ、九〇年代以降になると政治の枠組みを越えた局地経済圏による経済の活性化が図られてきた。アジア太平洋の経済発展の特色は、西欧とは異なり、政治が特別の枠組みを持つことなく経済を放任したからこそ、ファジーながらもむしろそれゆえに、一層発展してきたことといえよう。
 しかし、政治的枠組みの欠如は同時にリスク要因も抱え、アジアでは軍事拡大の連鎖が発生している。また、環境問題も同様に枠組みの欠如がもたらす類似の問題となっている。
 アジアの経済発展に疑問を投げかけたクルーグマンの仮説は、アジアの途上国の技術進歩率の低さの指摘は正しいが、実際には同氏の仮説通りにはならず、技術進歩の向上を図る政策が採られる限り、この地域の経済は、今後も一層発展していくであろう。
 今後アジアの成長に資するための日本の課題は、[1]人的貢献を始めとするソフトパワーを高めるための国内改革の必要性、[2]グローバル化の中で進行する地域化を踏まえ、多様な選択肢を持ち合わせた多国間主義による外交の必要性、[3]アジア太平洋に対する経済政策がその基本とすべきは社会政策にあることを十分に認識することであるといえる。

「アジア太平洋地域の安定と日本への期待」(平成九年三月三日)
○プラサート・チチャイワタナポン 参考人(タマサート大学準教授)

 天然資源やエネルギーを十分に持たず海外との貿易に依存している日本にとり、アジア太平洋の安定は最も重要である。
 冷戦対立構造の崩壊とともに、東南アジアはようやく平和と安定の時代に入った。一方、北東アジアでは、今なお緊張と武力衝突の可能性など諸問題が残っている。
 安全保障問題は、海をめぐる諸問題と、麻薬・エイズ・テロリズムなどの社会的安全保障の問題に転換してきた。
 米国の軍事的プレゼンスと在日米軍基地の重要性に対する東南アジアの国々の認識は、次第に薄まってきた。
 東南アジアは、歴史の教訓に学び、大国間の覇権争いと隣国間の対立を回避するために、ASEANを設立し、その後もAFTA、ARF、ASEM等の多角的、非軍事的なアプローチを追求してきたが、今後もその努力を更に続けていくだろう。
 ASEANが日本に期待していることは、第一に、日本に対する市場アクセスが改善されること、第二に、欧米との交渉に際してASEANを不利な立場にさせないこと、第三に、ASEAN拡大首脳会議等、ASEANのイニシアチブで始まった会合への積極的な参加を通してASEANを支援すること、第四に、ミャンマーの人権状況を改善するよう外交的な影響力を行使することである。これについては、例えば、ミャンマーから日本や東南アジア諸国に研修生を派遣することも考えられる。
 日本のODAについて指摘したいことは、第一に、南南協力、特に第三国研修計画の強化を期待したいこと、第二に、情報公開が必要であること、第三に、社会開発が重要であり、そのために、基礎教育にもっと注意を払うとともに、日本や現地のNGOをもっと利用すべきこと、第四に、市民社会の成長がいくつかの国の国家開発の中心的なコンセプトとなってきたことを重視すること、第五に、被援助国が援助国となるよう支援することである。
 ODA法案とNPO法案は、納税者のODAに対する主導権、参加の権利に密接にかかわるものであり、その成否に国会の見識が問われていると思われる。

「アジア太平洋地域の安定と日本への期待」(平成九年三月三日)
○リム・ホァシン 参考人(中京大学教授)

 アジア太平洋地域では、華南経済圏、バーツ経済圏、成長の三角地帯などの局地経済圏が形成されつつある。同地域の経済発展のマイナス要因としては、一次産品の暴落、外債の累積、先進工業国の景気低迷によるシンガポールを始めアジア諸国の経済の失速、南沙・西沙群島問題などの国家・地域紛争の悪化、民族紛争や政権交代による政治の不安定、宗教問題がある。他方、プラス要因としては、アジア諸国の官僚政府の効率性、低廉な農工業原料、良質な労働資源などのほか、特に西欧に比べて高い貯蓄率と低い福祉支出などが挙げられる。今後は若干の失速もあり得ようが、中長期的にはアジアは順調に発展し、二十一世紀はアジアの世紀になると考える。この地域の局地経済圏の形成について、日本は、消極的あるいは受け身的な立場に甘んじているが、これは問題ではないか。
 アジア太平洋地域には、日本・欧米・アジアとの間に経済相互補完関係が存在する。日本は、アジア諸国を迂回生産地として欧米貿易市場を開拓するとともに、欧米との貿易摩擦を回避するため、円高を利用して対アジア投資を増加させ、アジアから欧米に輸出することで特恵関税制度の適用を享受してきた。日本は、アジア各国の市場を開拓し、その労働資源を確保するため、資本集約産業を中心に、NIESに進出している。一方、労働集約型産業は、NIESからASEANさらには中国へと移動している。日本に求められていることは、対アジア投資を増やすとともに、内需を拡大して自国の市場を開放し、アジアからの輸入を促進することである。日本は、同地域におけるODAを推進し、産業インフラの整備に貢献すべきである。日本経済の景気低迷にかんがみれば、近い将来に日本がアジア太平洋地域の経済発展の牽引車となることは、余り期待できないと考える。
 日本は、アジア太平洋地域におけるASEAN一〇、ARF、ASEMなどの急展開に対して十分に対応できないでいるように思われる。経済大国日本にふさわしい政治的、外交的姿勢が曖昧であり、見えない。同地域には、北方領土問題、尖閣列島問題、竹島問題のほか、チベット独立問題、中国核実験、天安門事件、ミャンマー民主化運動、東ティモール独立運動など不確定要因があり、これらに対する独自の外交が日本に求められている。アジア太平洋地域においては、華人による経済が急速に発展を見つつあるが、これに対しても、日本の対応は遅れをとっている。
 中国は、今後もかなり高い成長率を維持し、中長期的に見れば間違いなく経済大国となろう。中国とアジア諸国との関係は、日本のそれより、はるかに緊密であり、すでに政治・軍事・外交面で、中国は日本以上の影響力を有している。
 アジア太平洋地域の安定にとって、日本には、次の諸点が期待されているといえよう。[1]日米安保条約、ASEAN、ARF、ASEM、APEC、EAECなどに関連して自主外交を確立・推進すること、[2]規制緩和と市場開放により逆輸入を促進すること(垂直貿易から水平貿易への促進)、[3]技術・経営ノウハウを生かした裾野産業の育成に協力すること(海外直接投資の促進)、[4]アジア諸国民の民生の向上に直結する経済援助を展開することであり、[5]バスに乗り遅れることのない日本が期待される。
 日本は、軍事力を伴わない政治大国となり、この地域の経済発展に積極的に役割を演じる国となるべきである。

「東アジアの安全保障と米軍のプレゼンス」(平成九年四月二十一日)
○森本 敏 参考人(野村総合研究所主任研究員)

 冷戦後の安全保障の特色として、第一に、軍事的脅威に加え、歴史的、民族的確執、人口増加に伴う食糧、エネルギーの不足、難民の発生、テロ等の広範なリスクに安全保障の対象が拡大してきたこと、第二に、かつて国家であった安全保障の主体が国際社会全体、欧州等の地域、さらに個人の安全保障にまで拡大してきたこと、第三に、安全保障の手段も外交、防衛に加え経済、科学技術、環境、食糧、エネルギー等の総合的政策となるとともに、抑止の前段階である予防防衛、予防外交という国際社会の不安定要因を未然に排除するための総合的な努力に重点がシフトしつつあるということが挙げられる。
 アジア太平洋地域の不安定要因は、第一に、朝鮮半島、台湾海峡等の地域的不安定、第二に、中国、北朝鮮等の社会主義国の存在、領海、領有権問題、軍備増強等の地政学的不安定、第三に、人口、食糧、環境、エネルギー等の問題である。冷戦後この地域では、多国間の協調主義と勢力均衡主義が併存していることが一つの特色といえる。
 この地域における安全保障の地域的枠組みの構築について、緩やかな地域統合のEU型、軍事機構を常設することなく対応するWEU型、常設軍もなくコンセンサス方式で協力関係を決定するOSCE型を想定し得るが、欧州の地域機構をアジア太平洋に持ち込むことは困難かつ非現実的で、この地域の地政学的特色に合致したものにならざるを得ない。地域的枠組みをつくるか否かについてはコンセンサスがなく、さらに、目的、構成、根拠協定の要否等について議論がなされていないなど、地域的枠組みには困難な問題がある。
 この地域では、同盟関係が安全保障の実効的な機能を果たすことは確かであり、対話や交流を進めることで紛争を抑止したり、紛争に対応することは非現実的である。そこで、同盟関係と多国間協力をどう調和させていくかが問題となる。重要なことは、冷戦後、米国のこの地域におけるプレゼンス、抑止機能が、地域の平和と安定に重要な役割を果たしていることについては、幅広いコンセンサスがあることであろう。
 冷戦後の同盟は、共有する価値、国益の増進が目的である。我が国は、日米同盟を強化し安定的なものにすることが必要である。同盟が未来永劫続いた例がないという歴史に照らし、さらに、米国のアジア太平洋地域における軍事プレゼンスが地域の平和と安定に不可欠であることを前提にすれば、日米同盟を将来緩やかな協力関係へ拡大していくことが不可欠である。例えば、オーストラリア、韓国等と日米同盟を軸に協力体制をつくり上げられるかもしれない。これは日米同盟の広がりを意味し、日米同盟が緩やかな集団安全保障へ発展していくことを意味する。さらに、この協力体制の外側に、例えば、ASEAN、ニュージーランド等の友好国を日米同盟の周辺国として位置づけ、各国が国情に応じて後方支援、基地提供等の分野で米国のプレゼンスを直接、間接に支援する緩やかな協力体制ができれば、紛争を未然に防止し、広範な安全保障協力を米国を中心に進めることができることを意味し、この地域の共通の価値である自由、民主主義、市場経済、地域的安定にとって役立てる、本当の意味の地域的協力関係、枠組みに発展できるのではないか。この場合、日本はある種の集団安全保障の問題を克服し、若干の支援協力を我が国の領域外で米国に対し行わなければならないということを意味し、日本の政治にとって大きな意味合いを持つと思われる。そのような枠の中で、日本が域外に出ることは、この地域における日本への不必要な懸念、心配をもたらすことなく、地域の平和と安定のために、日本が引き続き協力することができることを意味すると思われる。

「日本周辺の軍事情勢と米軍の駐留」(平成九年四月二十一日)
○田岡 俊次 参考人(軍事評論家)

 極東ロシア軍は史上類例のないほどの自壊が始まっており、十八世紀以来の北方の重圧からの解放を意味する。ロシアの兵力は九一年四二〇万人が現在一二〇万人で、極東では下士官兵の欠員が40%と極端な減少を示しており、ロジオノフ国防相は「ロシアは二〇〇三年までに防衛能力を完全に失う」旨述べている。九六年四月クリントン米大統領は「米露は同盟国であり続ける」旨演説、米露両軍の共同訓練が盛んである。将来、ロシアで専制体制が復活しても、言論統制、官僚支配では「情報革命」に乗れず、過去の下降カーブの再現となる。他方、市場経済でも民衆にその経験が乏しく、ロシアは、低迷が続くかと思われる。
 ソ連崩壊後、米国から「中国軍増強説」が出てきた。特に国防費の急増が指摘されるが、八六年以降の十年間で公表国防費三・五一倍、物価三・〇八倍、年率4%程度の実質増である。中国では経済成長に反し、歳入は伸びていない。徴税は地方に依存しているが、地方官憲の不正と脱税の横行が財政赤字の一因である。中国は、武器輸出による外貨を兵器輸入に充ててきたとされるが、武器輸出は、八八年三六・四億ドルが九五年六億ドルへ急落している。ロシアからスホーイ二七を九二年以来五〇機程度輸入したが、将来二〇〇機程度であり、中国空軍は急減の方向にある。海軍も潜水艦は八〇年代一一〇隻が九六年六二隻、主要水上艦は九〇年六三隻が九六年五一隻で減少している。「防衛白書」(平成八年版)では中国軍に関し「増強」という語を使わず、「中国の軍事力近代化は、今後も漸進的に進むものと見られる」とする。中国経済は「諸侯経済化」し、軍人の商業活動もその基盤に乗っており分裂の懸念がある。軍の近代化のピッチは台湾の方が中国より早く、海空軍は中国より強力で、台湾海峡の制海、制空権は台湾が掌握し、戦力差は拡大しつつある。
 朝鮮半島の軍事バランスは、北朝鮮が一方的に弱くなっている。韓ソ、中韓国交樹立後北朝鮮の石油輸入は激減し、空軍の飛行訓練はほとんど行われていない。航空戦力では、北朝鮮は第一線機が一〇〇機程度、米韓合計で約六六〇機、搭乗員の練度等を考慮すると圧倒的な航空優勢であり、戦車戦力も同様である。万一戦争の場合、一九五〇年の朝鮮戦争と異なり、韓国の勝利は疑いなく、九四年三月韓国国防相が議会国防委で、ソウル近郊で北朝鮮の戦力を撃破し北進、清川江岸で停止する旨の「作戦計画五〇二七号」を説明している。
 北朝鮮には、核弾頭は多分ない。九一年末には一、二発分のプルトニウムを抽出し得た可能性はあるが、起爆のための爆縮技術の実験を行っていない。スカッド系列のミサイルは、弾頭重量一トン以下にしないとミサイル弾頭にならない。化学弾頭はあると見られるが、対策があれば効果は乏しい。「ノドン(芦洞)一号」は、九三年五月にテストを射程五〇〇キロメートルで行って後、約四年たっても二度目の発射実験が行われておらず、資金、技術等の原因により、開発を中止したのではないかと判断している。
 韓国軍当局は、一九九八~二〇〇二年において、年間平均装備費七八〇〇億円を充てる中期国防計画を進めている。一昨年七月の韓国国防省付属機関「国防研究院」の「二十一世紀を目指す韓国の国防」の構想では、「周辺諸国」を対象とし、「一五〇〇キロメートル圏の制空権確保」、「遠洋での作戦を立体的に行える機動部隊」を目指している。これは、統一後の防衛力整備のため、日本を念頭に置いた計画とされていることを認識すべきである。

「日本のODAー改革のとき」(平成九年五月七日)
○西川 潤 参考人(早稲田大学教授)

 財政再建の重要性から、ODAは量的拡大から質的改善が課題となっている。
 日本のODAは、一九五〇年代の賠償協力に始まり、六〇年代の円借款の供与による市場確保と資源開発の時代には、ODA体制の基礎である海外経済協力基金(OECF)と海外技術協力事業団(現在の国際協力事業団〔JICA〕の前身)が設立された。七〇年代の海外投資促進の時代、八〇年代の黒字還流による貿易・投資面での市場確保と外交的利益を目指すとともに、人道的関心への対応が出てきた時代を経て、九〇年代には国際化が進み、安全保障問題、地球規模問題への関心を背景に、九二年にODA大綱が制定された。
 一九九〇年に国連開発計画で初めて、人間開発が提唱された。これは、経済成長重視の開発路線が、アジアを中心に経済成長を遂げた反面、貧困層の増大、社会の分裂、環境の破壊をもたらしたことから、八〇年代後半以来主張された、持続可能な開発の考えを背景としており、経済成長と同時に、社会的な発展や、教育、保健、実質所得等を指標とする人間的な開発を開発の目標とするものである。このような国際社会における開発目標の転換は、九六年度ODA白書で、人間中心型発展としてクローズアップされており、経済利益確保型と評価されてきた日本のODAも、国際社会の変化に呼応して変わってきている。
 今日のODAの実施体制、すなわち、円借款に関する外務、大蔵、通産、経済企画の四省庁体制、技術協力に関する十九省庁体制は、高度成長期に確立したものであり、経済成長を誘導するには効率的な体制とも言えるが、経済成長による社会的、環境的なひずみが生じたり、予算の重複や、予算の有機的な執行などの面で問題が生じている。
 中国、タイ等で援助案件を調査した体験によれば、日本のODAによる経済インフラの整備など、役立っている面が多い反面、有償協力、無償協力、技術協力が有機的に連携して行われていることが少ないように見受けられる。効率優先の現行の実施体制では、社会問題や環境問題が解決しなかった現実を踏まえ、また、成長優先の国民の価値観が変化し、ODAの質的な見直しが問題になっているとの視点に立てば、実施体制を見直すべきではなかろうか。行政改革の下、OECFと日本輸出入銀行が統合すれば、ODAの経済的インタレストが強まり、人間中心の発展に逆行するのではないか。ジェトロとアジア経済研究所の統合にも、同様な問題を指摘し得る。OECFとJICAを統合して、外務省の外庁として国際協力庁を創設し、アジア経済研究所のような基礎的研究機関を附置するなど、援助の一元的体制をつくるべきではないか。少なくとも、有償、無償、技術協力を一元化する体制が必要であろう。国民の価値観の変化、国際社会の開発目標の変化に対応した経済協力体制を考えることが、日本のODAの質的な改善の前提となろう。
 ODA体制改革のために重要なことは、ODAが行政優位型であり、国民の参加が少なく、ODAに対する国民的な関心が薄いことである。ODAの実施の中で、国民の参加をどのように確保していくか、また、ODAの新しい方向である環境、社会問題などについて、NGO、民間セクターの参加をどう求めていくかが重要である。NGOに対する予算は増加しているが、諸外国と比較すると少ない。外務省とNGOとの協議は、他省庁と比較し進んでいる。しかし、九五年の社会開発サミットで提起された「社会開発国内戦略」を実行していくための体制が整備されていないなど、日本では特に、外交と国内政策の連携が遅れているが、このような国内の支援体制をいかにつくるかも課題である。

「我が国の今後の経済協力」(平成九年五月七日)
○藤原 勝博 参考人(経済団体連合会常務理事)

 東アジア諸国のめざましい経済発展、市場経済への移行、民営化等により、途上国への経済協力をめぐる環境は大きく変化しており、官主導のODAから民間参加の投資活動、特に、直接投資への期待が高まっている。途上国への資金の流れも公的資金が伸び悩み援助疲れが見られる一方で、民間資金は急速に伸びている。また、民間資金によるインフラ整備の動きが活発になっている。途上国は、民営化、市場化、構造改革に日本を中心とする先進国のアドバイスを求めている。他方、我が国の国内環境も変化しており、ODA予算の伸び悩みとともに、国民の税意識の高まりや財政再建の重要性から、ODAに対する国民の目も厳しくなってきている。
 これらを背景に、経団連は、限られた資金をいかに効率的に使い、また、本当に途上国に評価されるためには、援助はいかにあるべきかについて具体的な提言をとりまとめた「経団連意見書」を四月十五日に発表した。
 この意見書では、ODA改革の基本的方向として、[1]ODAの位置付けと政策、執行それぞれの一元化による責任体制の明確化、[2]政府と民間の役割分担、民間の参加拡大、[3]広範な国民参加による援助の実施、[4]次期中期目標の量的設定の廃止と効果的援助の推進、の四点を挙げるとともに、これを踏まえて次の三つの具体的な提言を行った。
 提言の第一は、「ODA推進体制の改革」である。すなわち、援助政策を企画立案する省とそれに基づいて実施する機関にそれぞれ一元化すべきであり、実施機関については、海外経済協力基金(OECF)と国際協力事業団(JICA)、さらに、ODAにかかわる十九省庁を整理・統合して、国際協力庁を設置すべきであるとした。
 提言の第二は、「官と民のパートナーシップによる援助の実施」である。経済界、NGO、学界も含めた民間の経験・知識・ノウハウを活用し、民間も参加した総合支援計画を策定するとともに、個別プロジェクトの企画・立案、実施、事後評価の各段階における民間の参画を求めていくべきであるとした。
 提言の第三は、「質の充実」である。すなわち、有償・無償・技術協力、二国間・多国間、援助供与国と国際機関、ODAと貿易・投資等の民間経済協力等をうまく組み合わせたパッケージによる総合的援助を推進するとともに、広報活動・情報公開の推進にも努めるべきであるとした。
 資源小国、貿易立国であり国際社会にその存立を大きく依存する我が国にとり、ODAは国民的利益を確保するために不可欠な分野であるが、今は量的拡大から質的拡充の転機と見ており、長期的な視点に立って、抜本的な改革を進めたいと思っている。そのような背景から、今回の意見書を提出した。