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経済・産業・雇用に関する調査会

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経済・産業・雇用に関する調査報告(中間報告)(平成17年6月13日)

1 調査の経過

 参議院経済・産業・雇用に関する調査会は、経済・産業・雇用に関し、長期的かつ総合的な調査を行うため、第百六十一回国会の平成十六年十月十二日に設置され、同年十一月に調査項目を「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」と決定し、三年間にわたる調査を開始した。

 初年度は、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」について、全般的に調査を行うとの観点から調査を進めた。

 第百六十一回国会においては、構造改革と経済財政の中期展望及び新産業創造戦略について並びに雇用対策基本計画及び若年者に対する就業支援について、政府から説明を聴取し、質疑を行った。

 次いで、第百六十二回国会においては、成熟社会における経済活性化に向けた方策について、地域経済の活性化について、日本経済の国際競争力の強化について、多様化する雇用への対応について及び経済社会の変化に対応した人材育成の在り方について、また、近年、大きな社会問題の一つとして喫緊の課題となっている、フリーター・ニート等若年者をめぐる雇用問題について、参考人から意見を聴取し、質疑を行った。その後、初年度の中間報告をまとめるに当たって、各会派からの意見表明、委員間の意見交換を行った。

 また、平成十七年二月十七日及び十八日の両日、経済・産業・雇用に関する実情調査のため、京都府に委員派遣を行った。

2 調査の概要

一 参考人からの意見聴取及び質疑応答

(一)成熟社会における経済活性化に向けた方策について

 平成十七年二月十六日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、成熟社会における経済活性化に向けた方策について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(内閣府経済社会総合研究所長  香西 泰 参考人)

 成熟社会の共通点は、民主主義の浸透、市場経済の機能、社会参加の活発化、人権の保護というフレームワークを持っていることであり、一番の強みは、生活水準、教育水準、健康、福祉の水準が高いことである。逆に弱みは、成功体験による自己満足、制度疲労である。成熟社会の問題点は、時代により変わってきている。一九六〇年代、七〇年代には先進国病が盛んに問題にされ、スタグフレーション、寡占体制での企業の管理価格、ヒッピーの増加、学生騒動等の文化的な矛盾があったが、現在は、インフレーションが先進国、成熟社会でほぼ終息しつつあり、非常に競争が激しくなるとともに、若者が無気力になり、理由の分からない暴力が非常にはびこっている。

 少子高齢化への対応については、成熟社会、先進国では出生率がほとんど一台であり、アメリカを除けば、所得水準の高い国では人口がかなり減りぎみであるが、女性の労働力率がドイツ、日本、韓国では低く、フランス、スウェーデン等で高いことは、女性が就業して子育てをしやすい国なので出生率が高いと解釈することが正しいのではないか。

 成熟している国、社会では、所得も高く、余り子どもを産んでいないことは事実だが、一番深刻なのは日本である。昨年十一月に公表された内閣府の日本二十一世紀ビジョン調査によれば、二〇三〇年の生活は今より良くなっているか悪くなるかとの質問に対して、六三・二%が悪くなると答えており、その理由として、社会保障制度の崩壊、財政破綻、働き手世代の負担増、活力喪失を挙げた人が非常に多かった。人口減少で何が起きるかに対しては、特に若い人の負担増、活力の低下、成長の鈍化、更なる過疎化が多くの意見であった。悪い予想は一種の悪循環を起こして自己実現する懸念すら出ているので、社会保障制度をどう持続可能性のあるものにするか、どう財政破綻を避ける道筋を明らかにするかが大事になってきていると、調査を見て改めて痛感した。

 世代共助ということが社会保障の理想になっているが、共助共助と言われると若い世代はますます負担に感じ、上の世代では若い人が働いてくれないのではないかという不信感も出ている。世代共助の前提として世代自立の努力があって、その上で互いに助け合わなければならず、そのためには同世代で所得再分配をすることをもう少し考えたらどうかとの印象を持たざるを得ない。

 次に家族生活であるが、フランスとスウェーデンで一応成功したと言われている。両国はGDPの三%近くを家族対策に使っているが、それに比べてアメリカ、日本、韓国は非常に少ない。日本としても、世代自立の意味でも、高齢者給付と育児、出産、子育てとのバランスについて再検討する必要があるのではないか。

 アメリカのように余り政策は講じなかったにもかかわらず出生率が回復した理由については議論があるが、イースタリン仮説では、生産性が上昇して七〇年代と違ってきたこと等に大きな原因があると考えている。日本は、フランス、スウェーデンの政策を学ぶと同時に、生産性の向上、つまり将来を明るくするような経済の再建が、出生率の回復にもよい影響を与えていく方向でいかなければならないのではないかという気がする。

 グローバリゼーションにより市場経済へ移行して世界が一つの市場になり、新しく市場経済に移行した国では成長がかなり高まっているとともに、世界的に労働力の供給が急激に増加したことが、グローバリゼーションの一つの問題である。同時に、技術革新が起こり、世界の技術が大きく変わった。先進国に有利なはずだったが、追い付こうとする国にチャンスを与えた。後れてキャッチアップする国は、概して労働力が過剰で、賃金が低く、生活費が安いという特徴があり、国内の費用の非常に安い国が技術で追い付いてきた場合に非常な競争力を発揮する。経済構造では、中国の統計が正しいとすると、GDPに占める二次産業のウエートは五割を超えるが、二次産業の雇用者は二割しかいないので、中国の製造業、二次産業の生産性は非常に高いことになる。

 しかし、成長が進んで完全雇用に近づくと、これまでの価格体系は維持できなくなり、競争をだんだん緩和していくことになる。中国では、沿海部は別として、奥地部は労働力が過剰なので、調整過程はかなり長引く可能性もあるのではないか。日本が、それに対応していくには生産性向上が大事であり、そのためには、規制緩和、人材育成、研究開発が正道と考える。

 なお、雇用の問題については非常に難しい問題があり、変化の激しい時代は雇用の安定が大事だが、労働を固定するだけではなかなか守れないというジレンマがある。固定的過ぎる労働体制と余りに不安定な労働慣行の間に何らかの道を労使でつくることが是非とも必要であるし、その場合、政策としては選択に任せる中立的な形にすることがむしろ大事ではないかと考えている。

(日本労働組合総連合会(連合)副事務局長  久保田 泰雄 参考人)

 経済の成熟化という意味で、日本の戦後経済社会システム全体が二十世紀末に大変革期に来ていることについては、労働組合も共通認識である。キーワードは労働を中心とした福祉型社会で、国民の圧倒的多数を占める勤労者が生き生きと働ける社会、そして安心して生涯にわたって生活できる社会こそ、目指すべき社会だと位置付けた。市場万能・自己責任の社会ではなく、社会連帯型、個人尊重の社会を目指すべきだと位置付けたが、政策的には完全雇用政策の再構築、いわゆる全員就業型社会の実現である。働く意思と能力を持つすべての人に雇用が保障されるような社会を目指したい。完全雇用こそ最大のセーフティーネットだと考えている。

 二つ目に、新しいワークルールの確立が必要である。長期安定雇用をあくまで核にすべきだが、労働力の固定化だけでは済まず、流動化や雇用の多様化ということがある意味では避けられない。その場合でも、パートや派遣など多様な働き方に対して、キーワードは均等待遇だと考えている。

 同時に、男女共同参画社会である。仕事と家庭の両立、ファミリーフレンドリーな職場と社会をどうつくっていくかは、日本が後れている分野ではないか。少子高齢化と最も密接に関連している。戦略的課題としての労働時間短縮、そして働き方、暮らし方を変えて、老若男女がともに働く社会をどうやってつくり上げるかは、理想論ではあろうが、非常に大事だと思う。

 そして、賃金制度や賃金闘争も労働組合は過去のものに固執しているわけではない。年功序列型賃金はむしろ変えるべきだが、評価基準をつくっていくことが不可欠で、ミニマムとしての最低賃金、初任給等は保障するといったルールを確立することが大前提ではないかと考えている。

 年金、介護、医療、税制を含めて将来不安を解消できるような、あるいは将来への安心を担保できるような持続型福祉社会をどう構築するかは、ここ数年間が残された最後の勝負ではないかと思っている。

 そして、地域を軸にした地域の再生である。中央集権型国家から、納得ずくで税金や社会保険料を払い、負担する社会をつくるためには、徹底した地方分権と住民の参加が不可欠だと思っている。

 これが我々の四年前に立てたビジョンである。この一方の対極にはアメリカ型社会があり、そちらではなく、この道を選択すべきではないかということが労働組合のビジョンであった。九〇年代の後半から、今足下で進んでいることは、残念ながら、違う道であったのではないかと思う。

 足下で起こっていることへの危機感を申し上げると、雇用システムが大きく変質してきたということである。現実に進行しているのは、地域間、企業規模間、そして雇用形態間、いわゆる正社員と非正社員の違いなど、様々な分野における二極化である。国民の所得格差も拡大する一方である。一部では、生まれが物を言う社会が日本で進行しつつあるのではないかということも言われている。日本の若年雇用問題に端的にそのことが表れているのではないかという危機感を持っている。

 失業率が改善し、労働時間も短縮しているとして、今政府が一息ついているのではないかということを強く懸念する。多くは、非正規雇用の拡大と短時間労働者の増大によるものではないのか。実態を本当に直視してもらいたい。

 現場力が落ちているということは経営者も言っている。団塊の世代が大量に退職していく二〇〇七年前後までに、本当にどうなのかを考えていく時代が来ているのではないか。

 最後に、外国人労働者の問題についても懸念を申し上げておきたい。少子高齢化対策の一つとしての外国人労働者の導入については反対である。単なる目先の労働力不足対策として位置付けて外国人労働者問題に対応することは、非常に禍根を残すのではないかという問題意識を持っている。

(社団法人日本経済団体連合会専務理事  矢野 弘典 参考人)

 日本経団連の経営労働政策委員会報告の概略を説明したい。攻めの改革を行うには人材力の強化が一番大事だという主張をしており、少子化対策と若年者雇用対策、特に雇用問題について強調した記述になっている。横並び的なベアはもう終わったことを述べており、自らの心構えとして経営者の高い志を訴えている。

 事業構造改革による競争力の強化という観点からは、有望分野に資源を投下する攻めの経営、交易立国と科学技術創造立国の推進であり、EPA・FTAの推進、東アジア経済圏づくりのための努力、日中間の相互連携といったことをうたっている。また、日本が進むべき道は科学技術創造立国であり、それを進める条件として人材力を高める必要がある。

 人口減少時代の経済運営については、人口減少は国の存亡の問題と述べている。人口の減少、とりわけ働き盛りの人口が減ることは労働力、需要や社会保障の支え手が減ることである。少子化対策の優先順位を高めて、思い切った財政投入と税制改革を行う必要があると考える。

 国全体の問題としては社会保障制度改革が大きな課題である。制度改革では、一つは年金、医療、介護等をばらばらにして部分最適を求める形で検討するのではなく、一体的な改革が必要であり、もう一つは、社会保障と税制、財政を一体的に改革することである。そして、あるべき社会像としては、自助努力を基礎とする社会を実現する、潜在的国民負担率を五〇%程度に抑えるという考え方が大枠としてある。

 イノベーションの担い手である高度の人材の育成が不可欠である。IT化の進展の一方で、人間同士の直接対話の必要性が社会的にも企業のマネジメントの中で重要視されていくと思う。競争力を強化する人事戦略として、二十一世紀の課題は、多様性を持った適応力の高い組織の形成にある。

 そして、雇用の最適編成、ポートフォリオについては、長期雇用の従業員が今後とも企業の核になっていくことは変わらないと思う。多様な人材の活用だが、流動性ある労働市場をつくっていく必要がある。雇用の維持も社会全体で考えることが必要であり、そのための条件整備をすることが政策的に大事である。

 個別に見れば、若年層の問題、フリーター、ニートの増加は国全体の問題である。家庭、学校、企業が各々の役割を果たしていくことが欠かせない。産学官の連携も大事であるし、省庁の縦割りの弊害もなくしていく必要がある。経済界は、インターンシップで、一万六千人を超える青少年を受け入れている。高齢者は最も個人差が大きい世代である。経済・社会活動の担い手としての活躍、新しい需要の創造が今後期待できるので、高齢者の社会参画の機会を提供するための環境整備を進めていく必要がある。女性の能力の活用については、能力とやる気のある人材に生き生きと働いてもらえるような職場づくりが必要であり、企業労使で協力して環境づくりを進めていけばよい。外国人の問題については、単なる人口減少の補完ではなく、多様性のダイナミズムの発現を促す観点が大事だと思っている。

 これからの人事・賃金制度については、雇用の多様化に応じて複線的な制度の設計をする必要がある。能力、成果、貢献の重視については、適切な評価基準による運営が不可欠であり、労使でよく話し合って制度づくりを行っていく必要がある。現場力の向上については、トップ垂範による現場・現物主義の徹底、従業員に対する雇用の安定とその貢献に報いる姿勢が必要であり、従業員の熟練の向上を図っていくとともに、暗黙知を重要視していく必要がある。

 労働法への対応では、労働時間法制の抜本的改正、派遣法の更なる規制緩和など産業、企業の競争力強化の視点からの一層の規制改革が必要であり、また、中小企業と地域経済の問題については、地域間格差の存在は否定できないが、需要構造変化に対応する攻めの経営が、人材と資金の問題では、とりわけ産官学の連携が必要だと思っている。

 企業は社会の公器であり、企業倫理の確立とCSRの推進、企業の社会的責任の推進が必要であり、良きものを継承し、急速な環境変化に対応していくことが、今後の経営の在り方である。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 中国における成熟社会へのロードマップとその課題は何かとの質疑に対して、中国については、政治体制と経済システムの間にかなりの緊張関係があることは否定できず、それがどうなるかは経済だけでも政治だけでも決まらないが、できるだけ平和な方向で平穏なうちにうまく適応して、政治的にも経済的にも成熟化が進むことを期待するしかないのが現状であり、これまでのところ、それなりに適応しているのではないかと考えており、そして、将来完全雇用に近づくにつれて所得分布が平等化すれば、政治的にも安定してくる可能性が更に強まってこようが、過剰人口が非常に大きいので、従来どの国も経験したことのない形で急速な成長が進んでいるのではないかとの意見が述べられた。

○ 請負労働の実態についてどう把握しているか、請負労働者は必要だという考え方なのか、請負労働についての対策はどうすべきかとの質疑に対して、雇用、企業間の関係も多様性が進み、労働者派遣、業務請負あるいはアウトソーシングという新しい形での仕事の仕方が増えてきているが、問題は、その中で行われている実態がどうであるかであり、合理性や公正性を欠いた不平等があれば改めるべきであるが、これからも傾向として増えていくのではないかとの意見が述べられた。また、正確に数字ですべてを把握できているわけではないが、疑似請負という極めて派遣に近く、しかも違法と思える労働力群が増えている実態があり、労使関係の中で整理していくことが基本であろうが、国の政策あるいは政治の責任としてもルールを守らせるということは必要であり、請負の形をとりながら派遣労働に極めて近いものは違法派遣とはっきり命名し、取締りの対象とすべきとの意見が述べられた。労働法なり派遣業法に従って必要な措置を講ずることが当然であり、また、アウトソーシングの一形態として、国際的に広がっていく可能性があるので、国内だけの問題でなく、グローバリゼーションに伴う一種のハーモナイゼーションの一つの課題になるのではないかとの展望を持っているとの意見も述べられた。

○ 日本の技術者が海外に流出する現象をどう見ているのかとの質疑に対して、世界一の賃金でも十分勝負できる付加価値のある商品を作るという意味では、技術力なり知的所有権は大事な戦略なので、問題のあることについて労働組合としてもチェックすべきではないかと思うが、例えば、定年退職して人生二毛作で大いに飛躍してやっていくことはよいことであり、むしろ、国内だけよりは、少し範囲を広げる中で労働組合としても大いにバックアップできることはしてもよいのではないかとの意見が述べられた。

○ 地域産業の衰退に伴う地域の生き延び方、雇用も含めた地域経済への対応についての見解を伺いたいとの質疑に対して、従来型の景気回復や地域振興ということとは変わってきたのではないかと思っており、世界の地方都市で新しいビジネスが起こっているので日本でも地方の時代が来てもおかしくなく、そのためには産学協同であり、そして、需要構造に合ったビジネスを考えていくことが大事であり、資金については、リレーショナルバンキングが普及し、小口で便利な資金供給がなされるようになってきており、人の問題については、小さくとも魅力的な仕事を作っていくことではなかろうかとの意見が述べられた。

○ 日本のものづくりにおいて、現場力が落ちている、ものづくりの優位性が失われつつあるとの認識は一致しているが、その原因や方向について食い違いがあるようだがどうかとの質疑に対して、技術的な変化が絶えず起こっている世界であって、グローバリゼーションが進む中で日本だけが技術を独占することには難しい点があり、一方で、デザイナー等の専門家が少なかったという弱点もあったこと、新しい世界、新しい技術にどうやって従来のよいものを残していくか、新しい技術にチャレンジしていくかが必要になっており、本当の人材を育成していくところから再出発することが、ものづくりを定着させていく一番のポイントになるのではないかとの意見が述べられた。また、必ずしもものづくり能力は落ちておらず、基本である部品、材料の技術が卓越していれば大丈夫であり、一番大事なことは、経営のリーダーシップ、それから現場力と言われる、一般従業員や中間管理層、監督層を含めた人材の能力であって、これを高める努力をしなければならず、教育投資を続ける必要があるとの意見が述べられた。

○ 二・一というアメリカの出生率をどのように分析し、評価しているのかとの質疑に対して、アメリカの出生率については、有力な説が二つほど考えられており、その一つが、七〇年代アメリカ経済は苦しかったが、九〇年代は生産性向上が大きく、父親の時代より今の方が明るいという発想が大きく関係しているのではないかという有力な説であり、もう一つが、アメリカでは結婚年齢は遅れたが、遅れて子どもを産むということが起きているという説であり、また、アメリカには出生率の高いグループがあるためである、企業による従業員の子育て支援の効果によるとの説もあるとの意見が述べられた。

○ 出生率の回復について、ドイツでは政策上の失敗があったとのことだが、どこが失敗だったのかとの質疑に対して、ドイツが失敗したというのは少し酷かと思うが、見聞するところでは余り明快な説明は聞いていないとの意見が述べられた。

○ 労働が流動化する社会と高度な福祉社会との中間について、雇用問題を含めてどう考えているのか、とりわけ、雇用不安に対してどのような対策を考えているのかとの質疑に対して、基本的には、どんな時代でも、長期安定雇用を核にすべきと考えており、日本では積極的な労働市場政策が余りにもできていないので、それを準備しながら、最後は個人個人が選択をしていくという仕組みにしていくべきではないかとの意見が述べられた。

○ 競争力を強化する人事戦略においては、競争力を強化する結果として、敗者が出てくると思うが、どう考えているのかとの質疑に対して、企業の人事戦略を考えると、雇用を大事にしつつ年功処遇というのでは企業が成り立たないので、どうしても処遇格差が今まで以上に大きくなるが、そうした中で、恐らく幅広い横断性のある職種別賃金が育ち、労働市場の流動性を高めていくことになるのではないかとの意見が述べられた。

○ 世代共助の前提としての世代自立のためには、世代内の所得再配分強化も必要とのことだが、既に再配分が行われているのか、また、何か具体的な考えがあるかとの質疑に対して、負担を先送りにしないことが必要という意味で社会保障も改革しなければならないし、財政再建も急がなければならないということが前提であり、そのほかに、同世代の中で所得を再配分すれば次世代への負担が少し軽くなることが考えられるのではないかとの意見が述べられた。

○ 「多様性を活かす経営戦略」は言葉にすればやすいが難しいのではないかとの質疑に対して、男女、国籍、年齢などにとらわれずに、人の多様性を生かすというダイバーシティーマネジメントを経営戦略の基本に置くべきという主張をしており、それを具体的にどうするかは各社のこれからの設計になってくるし、女性の問題も社会的な習慣はそう簡単には変わらないが、ダイバーシティーマネジメントの考え方で努力することが大事であるとの意見が述べられた。

○ 人間相互の直接のコミュニケーションを具体的にどう大事にして暗黙知を生み出していくのかとの質疑に対して、職場では中間管理層の役割が大きく、家庭の役割もあり、直接のコミュニケーションがいかに大事かを教えていかなければならず、それが暗黙知を伝えることでもあるとの意見が述べられた。

○ 六十五歳までの雇用確保に当たっての課題は何かとの質疑に対して、産別によって随分差があるものの、連合全体では徐々に広がっているが、問題は、長期不況で現役の雇用をどう守るかという中で、実態として進行ペースが遅くなっていたり、実効が余り上がっていないのではないかという懸念を持っており、高齢者雇用安定法の改正を機に、高齢者、若者、障害者雇用も含めて、労使で一層力を入れて取り組んでいかなければならないとの意見が述べられた。

○ 少子化対策として何か方策はないかとの質疑に対して、決め手はなかなか難しいが、働く者の立場からすれば、仕事と生活の両立が可能な社会の実現に本気で取り組むことに精力を集中すべきであるとの意見が述べられた。また、各界で少子化問題に本気で取り組むことが大事であり、企業としては、労使でよく相談し合って、フレックスタイム、短時間労働、在宅勤務、休業制度や再雇用制度といった仕事と家庭の両立支援のための仕組みをつくり、国全体としては、保育所の整備に対するニーズが一番高いようなので、自由度のある保育所運営のための設置基準の見直し、企業間でのネットワークの仕組みを考えてはどうかとの意見が述べられた。

○ 経済状況が良くなっているのに生活改善は進まないが、この生活改善を進めるための考え方、得策があるかとの質疑に対して、日本全体が豊かになったことは事実だが、二極化が起こっており、また、豊かさの問題は、環境問題を含めて問い直されるのではないかと考えており、そして、付加価値を雇用、労働条件、労働時間短縮に適正に配分しながら、ダブルインカムで、子どもを育てて互いに幸福な世界をどうつくるかについて、変えるべきところは変えていく必要もあるのではないかとの意見が述べられた。また、長時間労働については、各社で話し合う個別のテーマになってくると思うが、企業の実態を見ると、経済やビジネスのサービス化、ソフト化、情報化の中で、時間で計れない仕事が増えており、労働基準法の見直しが必要であって、ホワイトカラーの例えば、研究開発、営業、企画業務等については、今の裁量労働制を拡張し、さらには労働時間適用除外も考えるべきであるとの意見が述べられた。

○ フランス、スウェーデンの成功とは、財政再建と景気対策を両立させた、あるいは財政再建と少子化対策を両立させたという意味でとらえているのかとの質疑に対して、フランスとスウェーデンが比較的高い出生率を維持している、つまり、家族政策について、財政負担も大きいが出生率も先進国の中では比較的高いという意味で成功したとの趣旨であるとの説明があった。

○ フランスやスウェーデンの世代自立は高齢者が若い人の扶養にならないという発想から来ており、婚外子が五〇%以上、親の面倒を見なくて大丈夫という社会だが、老人や孫と触れ合う機会を増やさなければならないという日本人の国民感情と両立できるのかとの質疑に対して、スウェーデンでは、婚外子が法律で権利を守られており、両親保険といった形で、例えば、休暇の取得についても非常に手厚く、高福祉高負担を実現していることは事実だが、その点は国民的合意があって実施していると考えるとの意見が述べられた。

○ イースタリン仮説の詳しい説明を伺いたいとの質疑に対して、相対経済地位仮説が正式な名称であり、経済的な水準を過去と比べ、その相対的な変化によって出生率がかなり影響されるということをある程度実証しているが、それでアメリカの事例をすべて説明できるかについてはいろいろな議論があるとの説明があった。

○ 去る一月二十日に発表された、大変強気かつ楽観的な「改革と展望」についての見解、デフレ脱却の見通しはどうかとの質疑に対して、現在日本が置かれている状況から考えると、財政再建を早く軌道に乗せなければ見通しが非常に暗くなることは明らかであり、そのためにできること、対応策を「改革と展望」の中で示したものと理解しており、また、デフレ脱却については曙光が差してきているのではないか、成長率と金利については、経済財政諮問会議等でも議論があったと聞いているが、デフレから脱却する過程で金利をある程度低く抑えながら成長を高めていくことが可能な面もあると言えるのではないかとの意見が述べられた。

(二)地域経済の活性化について

 平成十七年二月二十三日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、地域経済の活性化について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(法政大学経済学部教授  黒川 和美 参考人)

 ポリセントリシティーという言葉は、EU全体のバランスある発展を考えるときの基本用語になっている。この考え方は我が国の国土政策にも使われており、二層の広域連携という言葉遣いになっている。二層の広域連携とは、地域がそれぞれの特徴を伸ばしながら、中核都市を中心に周辺の都市ができるだけ高密度に高速度に結び付く交通体系をつくり、そこに外国に直接結び付く空港、港湾を造ることによって、世界と結ぶことである。地域は地域で独立して、直接外国とつながることによって、生産性を上げることができる。

 ヨーロッパでは、通貨が統合されて都市の広域連携が盛んに行われるようになった。人一人のテリトリーをできるだけ広げることは、地域の中で移動できる距離が長くなること、移動するための時間が短くなることで、密度を高め、経済活動量を増やすことができる。一つ一つの都市がそれぞれ自立していて横に密度高くつながるというメカニズムをつくろうということがヨーロッパ的な考え方であり、大都市でなく中小都市の連携というイメージである。

 日本は既に都市型社会になっており、政令都市と一時間、中核都市、人口十万人以上の都市とは三十分以内に特急や高速道路を使わないで行くことができる場合に、その二つのエリアは連携しているとみなすと、既に日本は八十二の都市地域の中に組み込まれ、この中に、自治体のおよそ七〇%、人口の九二%、GDPの九四%が含まれる。また、人々の移動を実証的データで見ると、我が国は八つの地域に分かれ、人々の移動の方向が新しい方向に変わりつつあり、山口県は明らかに北九州エリアと結び付き、北陸三県は経済や人、物の移動は完全に大阪圏であり、鳥取県は境港まで大阪圏になっている。

 一つの点に集中することから幾つかの点に連携してつながろうということが今回のテーマであるが、地域的にバランスが取れた発展をするためには地域が自立しなければならない。地域の繁栄なくして日本の繁栄なしという議論は、これまで東京の繁栄がなければ日本全体の繁栄がないという東京にとっての地域論であったが、それぞれの地域にとっての地域論があるはずである。

 ここで議論しなければいけないのは、地域の資金が直接海外投資と結び付くようなメカニズム、しかもその地域にとって最も身近な海外と結び付くということができないかということであり、このメカニズムを樹立できたらよいと思っている。また、地域の空港、港湾も直接海外と結び付き、東京を経由しない自立した地域、経済活動をどのようにつくれるかということが、重要なテーマとなっている。

 事例をヨーロッパで探すと、オランダのランドシュタットというエリアがある。五百五十万人の人口があり、今ヨーロッパで最も経済力のあるエリアとされている。真ん中にスキポール空港があり、アムステルダムにもロッテルダムにも十五分程度で移動ができるという交通の便も持ち、しかも、ヨーロッパで最大のロッテルダム港、第四位のアムステルダム港を有し、EU全体の入口になっている。横浜よりもはるかに小さい都市が密接につながることによって、地域がポテンシャルを持っている。もう一つのケースは、ルールゲビートというライン川下流にあるエリアである。このエリアも、二十幾つある自治体を全部合わせると五百六十万人程度の人口であり、ヨーロッパの中ではロンドン、パリに匹敵する経済力を持ち、成長している。この大事なところは、一つ一つは小さな町が横につながることで大都市とほぼ同じ経済力を持つことができるということである。ヨーロッパの場合は、人口二十万人、三十万人の都市でも他国の三十程度の都市と空港で結び付くことが当たり前になっており、こういう上手なつながり方を我が国の中でうまく育てていく必要がある。

 日本の事例でも、静岡市は清水市と合併して、清水港という国際港湾を持ち、新しく空港を造る努力をしつつ、新幹線で七つの駅がつながるというユニークな町づくりを行っている。北九州市も、北九州空港を持ち、新しい港湾を整備し、新幹線と高速道路で横に五つの町がつながるシステムを持っている。長野県は、長野から軽井沢の間を自分たちの都合に合わせたタイムテーブルで電車を走らすという方向に変えた。横に中核の都市をうまく結び付けることにより、経済のポテンシャルを上げ、地域の人にとって一番都合のよい時間活動を確保できる形に持っていこうとしている。

 二層の広域連携の意味は、地域の一人一人の活動が、生産性が上がるように地域のユニットを明確にし、東京でしかできないと思われていた国際化も実現しながら、地域の中で自立できる経済システムを考え、それを金融、交通、物流の面からバックアップする、我が国全体がそういう都市の連携の組合せででき上がっているという国土になるべきではないかということである。

(社団法人全国地方銀行協会会長・株式会社東邦銀行取締役頭取  瀬谷 俊雄 参考人)

 福島県の地域経済の現状を見ると、スーパーやしにせの百貨店が倒産し、消費者が仙台、東京に流出してしまうという悪循環になっている。地域には再生していく力がないから、品ぞろえが十分でなく、ストロー現象が如実に現れている。新車登録、温泉旅館の利用等いずれも低迷しており、経済指標はいずれも悪化している。倒産件数は相変わらず多いが、本当につぶれるべきところは全部つぶれ、その意味で倒産件数は減っている。

 進出企業については、福島県は恵まれているが、低水準になってきている。また、高いレベルの工場が進出しているが、その工場の技術が優れていればいるだけ、逆に地元の雇用吸収力が余りない。

 建設業は、大幅な公共工事の削減によりほぼ半分になり、五年間で五百社が倒産し、雇用にして一万五千人相当の仕事がなくなった。もちろん、民間の設備投資も減っている。温泉旅館は建設業と並び地域の基幹産業であるが、団体旅行ではなく、グループや家族連れに旅行の形が変わったため、従来からの形でやっている温泉は苦戦しており、設備面の再投資ができないため、悪循環で温泉間の地域間競争に敗れつつある。梁川、保原のニット産業は、有名なファッション企業に付いて非常によかったが、全部中国に切り替わり、生産基地としてほぼ命脈を断たれた。バス事業は、ある程度のストックがあり、その中の地域間移動が濃密である場合にはよいが、それほどの規模の集積がないところでの路線バスは非常に厳しい。自由化はよいが、いいとこ取りだけの参入があるため、従来から路線を持っているところはやっていけない。この辺の政策的矛盾についても力を借りたい。

 商業地、住宅地、工業用地などの資産価格が低落しており、銀行を苦しめている。そして、幾ら安い値段で土地を買っても、それに引き合うビジネスは余りない。進出企業は三千社程度であるが、例えば、三ラインの工場を一ラインだけ残して二ラインは海外に持って行くなどの実質的な空洞化が始まっており、これが県内の雇用やGDPに与える影響は非常に大きい。日本が生産基地として将来的にもその役割を期待し得るかということについての一つの大きな問題である。

 地域内の資金循環については、資金需要がなく、預金だけ集まるため、どうしていくのがよいのか、我々の最大の関心事である。

 めり張りを付けた行政運営についてであるが、例えば無税償却の範囲を広げるなど金融面の税制について理解をいただきたい。産学官の取組については、少し美辞麗句が多く、実態が伴っていないところがあり、どうやって実を入れるかに力を入れていきたい。

 元気な県と元気でない県があり、例えば元気な県は愛知県、三重県、群馬県で、愛知県はトヨタ、三重県は液晶に引っ張られている。大企業中心に輸出型の傘下にある地域はよく、ここに一つ大きなヒントがあるのではないか。また、為替問題が解決されないと、いつまでも日本が競争力を保持できるかという深刻な問題がある。

(日本政策投資銀行地域企画部参事役  藻谷 浩介 参考人)

 日本で起きている問題の基本として比較的意識されていないのは、戦後五十年間に人口が八割増えたことである。終戦直後には七千二百万人であり、毎年百万人、五十五年間で五千五百万人の人口が増えたことを意識しないと、これから人口が減ることについての認識が変わってくる。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によれば、今後、人口は毎年六十万人のペースで減少するが、体感的には百六十万人の減少となる。インパクトの認識が違うため、対応が後手後手に回りがちである。毎年百万人増えるということは、さいたま市が一年に一個できるということであるから、空前の建設投資、インフラ投資で、家電製品も車も医療も食料もその分余計に売れる。それが、逆に毎年六十万人が減ることになると、一年に一個岡山市が無人になるということであり、マクロ的には何とか影響を与えずに済むという議論はあり得るが、ミクロレベルでは明らかに影響が生じている。

 就業者数を見ると、東京も、名古屋も、定年退職のため、既に十年前から減少に転じている。東京、大阪、名古屋は、いずれも昭和二十年代に就職した人の数が圧倒的に多い。その結果、二十年代に就職した人が退職し始めたこの五年間、退職者の数が多く、失業者にはカウントされないので、失業率は低いが、仕事を持っている人は絶対数として減っている。このため、可処分所得、消費が減少し、逆に、企業は人件費の負担が減るため、一般的には収益は向上し、その結果、消費不況であるが企業収益は好調、景気指標上は景気が良いという現象が起きる。これが、景気が良いと言われているのに実感がない大きな理由の一つである。

 景気がどんなに良くとも、退職者が増えて地域の経済、消費が細っていくことへの対策を景気とは別に考えなくてはいけないという問題が起きてくる。八十五歳まで平均余命があると言われる団塊の世代が退職後二十五年をどう過ごすかが、若い人の雇用をどうつくるかと同じように重要になる。二〇二〇年には首都圏、大阪圏、愛知圏、いずれも人口の二割前後まで七十歳以上の人が増える。埼玉県では、七十歳以上の人が平成十二年から三十二年にかけて二・五倍に増え、東京都市圏の五都県百二十四市町村では二・二倍である。このような変化を織り込まずに地域構造を議論していると、足下をすくわれることになる。今、埼玉県は高齢者が日本で一番少ない県であり、七十歳以上の人は人口の八%であるが、一気に二〇%になる。この間に団塊の世代が七十代を超えるからである。日本で一番団塊の世代を地方から集めたのは東京である。東京に出てきた団塊の世代が一番多く家を買ったのは埼玉県、その次が千葉県、神奈川県であり、多摩地域である。いずれも高齢者が日本で最も増える地域になる。これは既に過去、ニューヨークやロンドンの近郊で起きたことである。

 地方は、元々財政基盤が弱い上に、言わば東京からの所得移転で成り立っている地域が多いが、東京で集めた高齢者を養うための公共投資が必要になるため、地方に配分する財源の捻出に苦労することになる。

 しかし、対応策はあると思っている。それは、国際競争力のある産業を育てることであるが、それだけでは足りないために、地域という分野を立てている。

 中国との競争に勝利した超貿易黒字都市であっても地域経済にお金が回るとは限らない。日本国全体では経常収支が史上最高の黒字である。所得収支、貿易収支のいずれも黒字であり、観光収支も若干改善の基調にある。しかし、稼いだお金が、所得相応に地域に落とされない限り、地域内における主な大企業に勤めていない庶民にとっては仕事もなければ豊かさを実感できる空間もない、これが日本の現状である。このような状態を改善するために、今後、貯蓄を持ちながら退職する人が、マイクロビジネス及びそこでの消費に回るかどうかが、地域経済に決定的に重要であり、さらに、都市化地域内に機能を再集中して、高齢化してもお金の掛からない地域構造にしなければならないという二つの問題が日本に現れている。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 四国では高速道路、新幹線等の基盤整備ができておらず、競争して知恵を出すにしてもスタート台にも立っていないので、スタート台には立たせてほしいという意見があるがいかがかとの質疑に対して、海に恵まれた環境にある徳島がどういう戦略を取るべきかには、それに合ったプライオリティーの選択があり、また、資金の使い方も最も徳島と由来の深い地域と上手につながって使うことで、徳島固有の地域金融秩序が生まれるべきであり、四国全体が上手に結び付くように都市単位で考えるべきであるとの意見が述べられた。

○ 今まで日本の都市計画は、住宅地、商業地、工業地というように区分してきたが、このように純化することがよいのか、都市計画を変える方が少子高齢化社会にはふさわしいのではないかとの質疑に対して、「まちは『花』」だとすると、根である家がなくては花は咲かず、根は汚いから見せたくないけれども、刈ってしまった瞬間に枯れることになり、また、葉である事業所、茎である病院や学校といった公共施設が必要で、そうすると必ず花は咲くので、今多くの町で一番必要なものは根であり、徳島の先進事例では、定期借地権を設定して、マンションを約三割安い値段で分譲するという考え方に転換した瞬間に市街地にマンションが建ち出したとの意見が述べられた。

○ 今、自立を促しているのは国家の財政事情が悪いからであり、地方は戸惑っていると思うが、税源の移譲もなしに自立ができるのかとの質疑に対して、地方の自立は中央の補助がなくてはあり得ず、少しずつ交付税の比率を引き下げていくなり、あるいは補助金を少し切っていくなりして、ソフトランディングをしていくしかないとの意見が述べられた。また、現行制度で補助を受けつつ自立できるかは簡単にはいかないが、EUは自分たちの所得水準の五分の一の新加盟国十か国を去年六月に参入させて、競争を激しくすることで、既存の豊かなところに緊張感を与えながら全体の整合化を図る努力をしており、我が国も何らかの形で調整できなければ、競争にも敗れる可能性があるとの意見が述べられた。

○ 発展した地域の例を挙げてほしいとの質疑に対して、千葉県の銚子市は、農業の場合、組織化に成功し、若い人の雇用に門戸を開いて六十代、七十代よりも三十代、四十代の雇用が多く、かつマーケットを開拓しており、後継者がいる産業は育ち、高齢者の力の入れ方も変わってくるとの意見が述べられた。

○ 郵便貯金は貯金を多く集めることができても、貸すノウハウはまだなく、地方銀行は大変なコストを掛けて預金を集めて地域の活性化のために使っているが、郵便貯金の資金を地方銀行が使うことを考えたことはないかとの質疑に対して、今は確かに運用の技術を持っていないが、仕事にあぶれた銀行員は多く、そういう人を活用して、膨大な資金と実質的な国家信用をバックに住宅ローンをやられたら、地域金融機関は軒並みアウトであり、地域金融、地域経済を再生させていく一番重要な機能を持つ地方銀行の生きるすべを奪うようなことはしないでほしいとの意見が述べられた。

○ 地域の資金循環をいかにつくっていくのかとの質疑に対して、やむを得ず東京で資金を運用するしかないが、できることなら地域内の資金循環を図りたい、マイクロビジネスも立ち上げたいとの意見が述べられた。また、簡単に貸出し先を見付けることはできないが、例えば、我が国の経済は既に八〇%がサービス業であり、消費活動が小さいことが経済活動を小さくしている大きな理由であり、都市同士が横に連携することで消費活動をより豊かにすることになるとの意見が述べられた。小さくともよいからキャッシュが回収できるビジネスをつくるとともに、貸出し先を見極める必要があるとの意見も述べられた。

○ いわゆるリレーションシップバンキングという地方銀行と政府系金融機関の役割分担はどうあるべきかとの質疑に対して、日本開発銀行は非常にリスクが高く民間が手を出しにくい分野に資金を提供していたが、現在は企業の再建の場合に地方銀行と衝突する相手が日本政策投資銀行であり、一種の時代的役割は終わったが、例えばITER(国際熱核融合実験炉)を資金的に支える場合や、破綻した企業を法的整理によりもう一度立ち上げようとする際の資金計画を組む場合などは、日本政策投資銀行の役割は大きいとの意見が述べられた。

○ 例えば大型港湾を各自治体が外国貿易のために整備をするが、中には釣堀化するような現状もあることと、地域連携による外国との結び付きをどう考えるのかとの質疑に対して、ばら積み船で東シナ海を簡単に行き来できることをイメージしており、小規模で取り残されている多くの港湾をもっとうまく使う方法があり、飛行場も百人乗り程度で簡単に近い地域と行き来できる国際線をつくることは可能ではないかとの意見が述べられた。

○ 外国の都市との結び付きを広め、観光などを広げることはよいとは思うが、それが経済のポテンシャルにつながるということと、内需型産業の拡大ということの関係をどう考えているのかとの質疑に対して、コミュニティービジネスであればこそ、東京ではない、世界やほかのローカルなところとの経営ノウハウの交換に意義があり、地方の勉強している人はよく相互に移動し、意図的にお金を掛けて交流するという投資をすることで、ビジネスチャンスをつかんでおり、野菜を直接外国に販売している例、飛騨古川に台湾の人が年間百数十人視察に来ている例、ニセコにオーストラリアの人が多くのコンドミニアムを建てている例、いずれも東京の人が気が付かないところでしっかりとした交流が起きているとの意見が述べられた。

○ 発言中のB市の市街地活性化は何が具体的なポイントになっているのかとの質疑に対して、商店街がコミュニティーの核としてまれに見るほど努力している例であり、加えて、地権者が、全般的には高い家賃を相手によって柔軟に下げ、多様な店舗を入れて集客数を増やすというショッピングセンターのノウハウを導入してショッピングセンターに対抗しており、市街地問題は地権者問題であることを示しているとの意見が述べられた。

○ 地方の自立が進み、地方分権が進めば一番最初に問われるのは政治だとのことであるが、どのようにイメージしているのかとの質疑に対して、国政は国内のことばかり議論し過ぎていると思っており、地域のことと周辺の国々のことに関心を持って、その間の支えになっていただけないだろうかと思っているとの意見が述べられた。

○ 人、物、金を地域経済の中で生かし切っている部分と生かし切っていない部分は何かとの質疑に対して、人の面では、雇用の場をどうやってつくり出すかであり、実物投資では、通常では海外との競争に負けるため、技術集約的なものでないと集積が図れない、人と物が骨格であり肉であるとすると、金融は血流であり、さきの二つが解決すればおのずから血液が流れて行くものだと思っているとの意見が述べられた。

○ 地域の活性化問題は車社会と切り離せないと考えるが、どのように考えるかとの質疑に対して、人間は歩かないと消費しないので、ショッピングセンターのように無理やり車から降ろす仕組みをつくるが、この仕掛けにお金が掛かるために、それをつくれない中心商店街が先に疲弊するということは当然起き、もっと歩く範囲で消費や交流ができるようにすべきであるとの意見が述べられた。

○ 全国で人材の育成はどのように行われているのかとの質疑に対して、経営技術については、企業のOJTに任されていたが、OJTがなかなかきちんとできにくくなっており、加えて、企業内には新しい経営ノウハウがもうないというケースもあるため、アメリカのコミュニティーカレッジのように、低所得者であっても経営が学べて中流になれるような仕組みを日本でもつくる必要があり、また、経営技術を教えるということがNPOの形で始まっており、NPOやコミュニティービジネスを行っているところが交流の場、人材育成の場になっているとの意見が述べられた。

○ 中堅・中小・零細企業が優れたマーケティング力を備えるためにはどうしたらよいのか、また、マーケティングということも含めた経営指導、経営サポートも大事と考えるがいかがかとの質疑に対して、マーケティングを商品開発力と訳しており、本当の販売は売れないものを売ることではなく、売れるものを開発することであり、すき間の需要が分かっている人は必ずそれに対応する商品開発ができ、ポイントは自らが消費者であることであるとの意見が述べられた。また、どんな商売でも、独特のノウハウ、苦労もあり、当行から企業等に派遣している者は元々資金管理のプロとして行ったはずであるが、それにとどまらず、営業の中心まで至っているとの意見が述べられた。

○ 二層の広域連携に同感であるが、現状をどういう過程を経て、変えていくべきなのか、また、地域連携軸の推進や拠点都市構想では期待されたような効果が上がっていないと思うが、何が足りなかったのか、今後どうすべきなのかとの質疑に対して、東京の例を見ても、近いところでできるだけ密度を高く充実しようということが一つの動きになっていると認識しており、高密度で高品質の生活を追い掛けるような体制が時代の流れに合っているが、都道府県単位とか、国から県を通じて計画をお願いするというものではなく、人々の流れが動いているかをよく見定めるところから議論し始める必要があるとの意見が述べられた。

○ 企業を再生をさせて、結果として不良債権を減らしていくことが最も望ましいと思うが、企業の再生を目指す税制を含めた環境整備について、国としても取り組んでほしいものがあるかとの質疑に対して、法的整理で、例えば民事再生法に持っていくこと等が一番妥当であるが、債権放棄しても、企業に対する一種の贈与であるから課税をするという硬直的な話が出てくるので、そういうことについて血の通った税制を考えてもらいたいとの意見が述べられた。

○ 大手企業の撤退が決まった後、どういう分野の人が活動することが望ましいのかとの質疑に対して、事業主体として絶対に入る必要があるのは地権者であり、次に、高度な商業者の参画を募る必要があり、ある程度マネジメントのための人材を出せるような地元の企業が参画する必要があるとの意見が述べられた。

○ 福島空港は効率がよく健闘しているとされているが、この空港が福島経済に及ぼす影響はいかがかとの質疑に対して、空港効果は一定規模では認められるものの、搭乗率がよいとは思っておらず、撤退したエアラインもあり、前途は波平らかではないとの意見が述べられた。

○ 福島県の人口の減少割合は比較的なだらかと考えるが、雇用の場がほかにもあるのかとの質疑に対して、福島県は日立市ほどの強大な企業城下町でなく、マイルドだということもあり、また、転入、出生もあるとの説明があった。

○ 農地規制緩和で田畑付きの豪邸街に変えていくと書かれているが、なぜ豪邸なのかとの質疑に対して、遠くともそれを価値と感じる、退職して非常に元気で、都会にも一週間に一回は遊びに行きたいという人が、例えばもっとゴージャスな住環境を大都市圏で手に入れるというアイデアとして書いたとの説明があった。

○ 日本の人口が減っていくが、最低限これだけは割ってはならないという人口、大まかな年代別の人口をどう考えているのかとの質疑に対して、日本の経済を支えているのは三十代女性であり、この人たちが今どういうライフスタイルを取るかで日本の経済の命運が決まるとの意見が述べられた。また、二、三十年後に今生まれている最後の数の多い世代が子どもを産みたい環境をつくれるかが、日本の人口減少を止めるために重要になり、二〇三〇年ぐらいに人数の多い女性が子どもを産みたい社会、男性が子どもを育てたい社会になっていればよいのであり、社会構造を変革していくには猶予が十数年から二十年ぐらいあるとの意見が述べられた。

○ 都市の再生、地方の再生のキーワードを具体的に示してもらいたいとの質疑に対して、多様に芽はあると思うが、具体的には自動車ではなくて歩くことであり、これはお金持ちの高齢者が歩き回って消費をするイメージであるとの意見が述べられた。また、消費のニーズを具体的に知っている人間に、多くの場合、女性に経営を交代することが活性化の早道であると思っているとの意見が述べられた。

(三)日本経済の国際競争力の強化について

 平成十七年三月二日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、日本経済の国際競争力の強化について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(オリンパス株式会社代表取締役会長  岸本 正壽 参考人)

 日本経済の国際競争力強化の基本的要件は、技術創造立国と貿易立国である。資源の乏しい我が国では、科学技術、生産技術の発展が国際競争力の源泉であると同時に、技術開発による新産業の創出が新しい雇用の受皿となり、先進技術の研究開発とその産業化を促進するための継続的な投資、高コスト構造の是正及び自由貿易体制の強化が肝要となる。

 技術開発に的を絞って整理すると、まず生産技術については、日本企業の海外生産が伸展する中で、高付加価値創造のものづくりを追求すべきである。現状を見ると、日系企業の中国及び他のアジア地区での生産品は、軽工業のアセンブリー中心の製品群から中級品、部品を含めた一貫生産へ移行しつつあり、アメリカは高付加価値製品の製造力が強いとは言えないと判断している。こうした現状に対して我々企業は、海外生産品でも量産技術は日本で確立する、高度生産技術を必要とする製品は日本生産とする、生産技術移転はブラックボックス化するなどの方法を取り、「価値創造」の「創」は日本、「造」は海外でという生産区分を行い、中国での生産は合併から独資系への移行が多くなっているなど、技術を日本の中に保有することに一生懸命である。課題としては、中国大手企業による技術・技能を有する日本企業の買収、高額雇用による退職技術者の流出、日本の若者の労働意欲及び挑戦意欲の弱さが挙げられる。

 次に科学技術であるが、かつて日本は基礎技術に弱いと言われたが、昨今、日本発の強い部分が増加しており、既存産業においても、新しい技術開発が行われている。技術開発の強化策としては、第一に、国家予算による支援と税制による研究開発投資の促進である。国家予算による支援は、研究開発費の民間ベースではアメリカの二分の一、民間が使用する研究開発費総額に占める政府の資金負担割合はドイツの六分の一、アメリカの五分の一であり、国家予算の対GDP比率は欧米主要国の水準以下で、日本が優位性を期待できる戦略分野に焦点を当てた継続投資及び当面GDPの一%程度の額が最低限必要である。また、現在、税制は従来からの増加試験研究費の税額控除に加え、二〇〇三年度から導入された試験研究費の総額に対する税額控除の制度があり、研究開発投資の促進に大変寄与しているため、現行税制の継続、さらにはより有利な制度が投資促進を支援することになる。第二に、産官学連携の強化である。アメリカに比べ、日本の対応は少々後れを取ったが、近年、急激にその動きが高まり、二〇〇三年には国立大学と民間との共同研究数は八千件を超え、三年前と比較すると倍増している。特に、基礎研究は長い期間及び多額の先行投資を必要とし、また、複合技術開発のスピードの観点からも、一企業での取組は無理であり、新産業創出の基盤となる世界トップレベルの研究開発の推進、人材育成のための産学連携の強化を図ることが重要である。第三に、ベンチャー企業の育成である。小泉内閣の大学発ベンチャー企業一千社の設立目標は、昨年でほぼ八百社と聞いているが、民間を含めてなかなか育成が困難であり、政府、地方公共団体の資金援助、官民によるマッチングファンドの設立、あるいは公的研究機関の設備の一部開放等、育成施策の拡充が必要である。第四に、人材の育成である。新しい技術が開発されても、それを事業化する人材の不足とともに、内外の研究者の交流の場が乏しく人材が育ちにくいため、産学の人材交流の積極的推進による事業化のスピードアップ、MOT(技術経営)教育の充実、一定期間の企業での経験学習のための教育システム及びアジアを中心とした海外の優秀な人材が集まりやすいインフラ整備が必要である。第五に、知的財産である。紛争の迅速処理に対応するための専門裁判官の養成及び政府レベルによる日本発の国際標準化への取組推進をお願いしたい。

(株式会社三菱総合研究所主任研究員  後藤 康雄 参考人)

 我が国の国際競争力をスイスのビジネス・スクールのIMDの調査で見ると、九〇年代前半頃まではずっと一位であったが、バブル崩壊後は二十位辺りを低迷し、最近のランキングでは二十三位、アメリカが一位である。

 国際競争力の定義は、安い価格で商品やサービスを提供できるという価格競争力と品質やサービスなど価格には必ずしも表れない非価格競争力の二つの側面で構成されている。レーガン政権時のヤング委員会における競争力の定義は、国民生活を向上させつつ世界で競争できる財を生む能力としている。また、一国の競争力を考える場合に、個別産業の競争力が低下してもカバーする他の産業が盛り上がってくれば国全体の競争力は必ずしも衰えたとは言えないという面がある。

 客観的な競争力を示す指標として、コスト指標とパフォーマンス指標がある。それぞれの現状について見ると、まずコスト指標の代表は為替レートや貿易ウエートなどを考慮して加工した価格である。この指標で見ると、カナダ、フィンランドや韓国などと比較し、日本は少し厳しい状況にある。もう一つ、コスト指標には、物を一つ生産するときに一単位当たりに生産コストがどれくらい含まれているかを示すユニット・レーバー・コストという指標がある。日本の状況を見ると、九〇年代を通じてかなり産業界は雇用のリストラを進め、なるべく労賃を少なくしようと努力し、それは実った面もあるが、国際的に見るとまだ厳しく楽観できない。最後に、パフォーマンス指標の代表として世界貿易に占める輸出シェアを見ると、日本は、横ばいあるいはやや減少傾向であるが、アメリカやヨーロッパも同じように下がっている。しかし、中国を含むアジア諸国は世界のシェアを食う形でウエートをどんどん高めてきていることが分かる。

 では、そもそも競争力を左右する要因とは何かを価格と価格以外に分けて考えてみると、価格要因を左右する要素は、企業の価格設定、為替レートの水準及び技術進歩である。一方、価格以外の要因を左右するものは、品質やサービスの向上、その裏付けとなる研究開発・技術進歩であり、価格要因、価格以外の要因、いずれにしても研究開発、すなわち技術進歩の占める役割が大変大きいと言える。

 次に、研究開発・技術進歩をどう考えていけばよいのかとの観点から、アンケート調査を二つ紹介したい。一つ目の「二〇一〇年の世界の新技術・市場調査」によれば、引き続き製造業を中心に日本の技術はそれなりに自信を持ってよいと思うが油断はできず、いろいろ官民挙げて努力をしていく必要はある。二つ目は「『デスバレー』の日米比較」である。「デスバレー」とは八〇年代のアメリカの概念であり、よい技術開発が製品に結び付かないことを言う。日本型デスバレーについては、社内の連携、人材の問題が大きいとの調査結果であり、その解消のためには、もう少し企業をベースとした政策、企業をうまく動かすような政策が一つの方向性ではないかという印象を持っている。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 研究開発投資減税の今後の課題と評価を伺いたいとの質疑に対して、新しい税制の意図を企業はしっかり受け止め、減税が非常に生きており、心理的にも大変役に立っているとの意見が述べられた。また、数字では測れないが、高く評価しており、長い視野に立ってドアをオープンにする期間を設け、この制度を浸透させていくことが効果的であるとの意見が述べられた。

○ 生産技術における「創」は日本、「造」は海外という役割区分は、高額雇用による定年退職技術者の流出の影響により、必ずしもそう言い切れない部分があると考えるがいかがかとの質疑に対して、中国企業への定年退職技術者の流出は技術を教えるというよりも品質の管理手法が中心であり、技術の面からはそう恐れるほどのことはないとの意見が述べられた。

○ 研究開発の成果を迅速に保護するという分野における特許行政の現状と今後についての見解を伺いたいとの質疑に対して、成果として特許に申請したものはできるだけ早く登録し、保護をしてもらいたいとの意見が述べられた。

○ 「研究成果(技術)の製品化状況」あるいは「製品化されないことへの自己評価」の原因について詳しく説明してほしいとの質疑に対して、ニーズがうまく形になっていかないこと、技術を経営の観点から考えることのできる人材が不足していること、社内の連絡が悪いことなどが挙げられるが、これらを別の視点から統一的に見ると、研究開発を経営全体の中できちんと位置付けて考えるという発想がまだ十分に浸透していない面があるとの認識が示された。

○ 日本の技術の強みを発揮する企業間連携の在り方はどのようなものかとの質疑に対して、民間企業が数社集まるのは利害関係が絡むため非常に難しいが、官が積極的に異業種、同業種含めて参加しやすくコーディネートした場合は集まり、アナログ時代はすべて自分たちでやろうという時代であったが、もうそういう時代ではなく、さらに巨額の研究開発費用等を考えると今後はますます企業間連携は行われていくとの意見が述べられた。

○ IMDのデータによると、日本は政府の効率性及びビジネス環境ともに三十七位で、中国より悪いが、八〇年代、九〇年代前半の日本がトップであった頃と比べてどのような要因で悪くなったのかとの質疑に対して、トップであった頃は経済情勢が際立って良かったが、バブル崩壊後の実態経済の悪さが反映され、経済を立て直すために財政出動を繰り返して巨額の財政赤字を抱えて、政府部門の規模もまだ大きい状態が続いていることに加え、不良債権がまだ片付いておらず、国際性、マーケットのオープンさなどに対する努力が十分ではないと評価されて、ビジネス環境の評価が低くなっているのではないかとの意見が述べられた。

○ 日本の国際競争力、とりわけ技術力を考える上で、重層下請構造や系列ということが特徴的であると思うが、電子工学分野においてはどのようであり、またどうあるべきかを伺いたいとの質疑に対して、今は認識が随分変わり、下請という意識はなく、協力会社、いわゆるパートナーという感覚とウイン・ウインの精神で、お互いの利益が出るような関係を構築していこうとしているとの認識が示された。

○ 日本から海外への知的財産の流出を食い止めるにはどうしたらよいかとの質疑に対して、どの企業でも特許に限らず情報の保護をどうするかということで、就業規則に機密情報の保護を載せるようになっており、自分の責任において守ることを優先しなければならないが、罰則については非常に苦慮しており、当社は、組合側と経営側で話し合って固めているのが現状であるとの意見が述べられた。また、政策レベルでの特効薬はなかなか見いだし難く、企業の努力と国際的な枠組みでペナルティーを強めていく方向しかないと考えるが、逆に言うと、ある程度の流出はあらかじめ見込んでおいて、むしろ技術進歩を常にたゆみなく続け、あるいは逆に海外の技術が日本に集まってくるような体制をいかにつくっていくかという方向が基本的な路線ではないかとの意見が述べられた。

○ 原子力発電によって多くの電力を確保している日本の現状を踏まえて、エネルギーの確保と消費のバランスについて、どのような考えで進めていけばよいのかとの質疑に対して、これからの日本経済、世界経済はサステーナビリティーを確保できるのかという問題意識の下で、エネルギーと人口を中心に最近ようやく幾つかの研究が出始めており、人口については経済的なロジックで対応策が少し出てきているが、エネルギーについては、使った方が得のような性格があるため、大変解決が難しく、いかにエネルギーを効率的にする技術を日本発で開発していくのかが現実的な解ではないかとの意見が述べられた。

○ 昭和三〇年代からオリンパスの内視鏡技術あるいは電子スコープ技術を海外から多くの人が勉強に来ていたにもかかわらず、追随を許さず、ずっとトップを走っている大きな原因は何かとの質疑に対して、常にユーザーとしっかりと目線を合わせ、一緒に開発してきたことが一番の強みであることに加え、医療の世界はリスクが大きいため大企業が見向きもしなかった事業であることが幸運であったとの意見が述べられた。

○ 国際競争力比較によると、シンガポールは政府の効率性がトップであるが、具体的にどのような事例があるのかとの質疑に対して、シンガポールは資源のない小さな国であるため危機意識が常にあり、国をかじ取りするパブリックセクターの人々のモラルの高さがバックグラウンドにあること、極めて健全な財政が続いていること、外貨準備も有利なところに運用していることなど、いろいろな側面においていかに無駄なく効率的に運営するかというカルチャーが浸透しているとの認識が示された。

○ 日本型デスバレーを企業の問題として提示されたが、政府、行政の問題と全くイコールであり、産学官の連携も政治が加わり、システムを変えていかないと発展しないと思うがいかがかとの質疑に対して、そもそも外部との連携不足という問題意識が企業の技術責任者には余りないことが問題であり、産学連携あるいは外部との連携に関してまだ十分にその認識が浸透しておらず、もう少し政府の啓蒙活動や間を取り持って成果を世の中に示すなどの取組があるとよいのではないかとの意見が述べられた。

○ 「課題」として「日本の若者の継続的努力と忍耐力の弱さ」が挙げられていたが、企業はそのような若者にどのような教育をして育て上げてきているのかとの質疑に対して、情熱のある人、挑戦意欲のある人を更に伸ばし生かしていく、意欲のない人にも入社して五年間は大体平等に全員教育をするが、五年以降はある程度選別教育に入り、自己育成を考えている人たちをもっと教育して伸ばしていく、企業の教育は、自分の企業に合った人をつくる、どうつくるかという教育であるので、学校教育あるいは家庭教育のところから何かやっていかないと今の現実はなかなか直らないのではないかという危惧を抱いているとの意見が述べられた。

○ 国立大学、私立大学との共同研究の現状あるいは活用及び期待はどのようなものかとの質疑に対して、私立大学に比べ、国立大学は手続が面倒で非常にやりにくかったが、独立行政法人化されて随分変わり、技術開発担当者も非常に良くなったと言っているとの意見が述べられた。

○ 日本型デスバレーの原因と解決方法は何かとの質疑に対して、原因としては、経営中枢と研究開発部門のコミュニケーションが十分ではなくて、よい意味でも悪い意味でも研究開発部門が一種の独立した形になっており、最初は、目標を与えられるが、あるところから自己目的化してしまうということが比較的多く、解決手段としては、各企業のスタイルがあるため一概には言えないが、経営中枢が研究開発部門と連携を強め、干渉していくことが一つのやり方ではあり、また、社内のいろいろなコミュニケーションを円滑化する役割を果たす人の存在があるかないかでそのパフォーマンスは変わってくるとの意見が述べられた。

○ 技術・技能を保有する企業に対する買収の実情と今後の動向はどうかとの質疑に対して、企業買収は、今はそう深刻な問題ではないが、将来そういう傾向が出てくる危惧はあるとの意見が述べられた。

○ インターンシップが人材供給の核となるための課題は何かとの質疑に対して、インターンシップは企業にとっては余りにも短期過ぎて人材育成にはならず、産学連携にも関連した人材交流や教育は半年などの単位でできれば、教育面においても有効に働くのではないかとの意見が述べられた。

○ 国際競争力の比較によると、大きな政府の代表例でもあるスウェーデンが、日本と比べて政府の効率性がよいとされているのはなぜかとの質疑に対して、スウェーデンと日本は同じ大きな政府といっても、その中身、分野、規模の定義及び範囲をどこまでカバーして見るかという辺りで日本は少し大き過ぎるあるいは非効率と評価されてしまったのではないかとの認識が示された。

○ 日本で利用する医療機器の約五〇%は輸入品であるが、日本製の医療機器や医療材料が拡大しないのは、ベンチャー産業育成の問題なのか、あるいは国家予算などの支援問題なのか、また、医師の関心分野も一つの条件になるのかとの質疑に対して、日本の企業は医療機器、特に治療機器に対してはリスクが高いので投資をしないという経営姿勢があり、また、薬事法が薬と医療機器を同じようなスタンスで規制しようとしている問題があり、ベンチャー企業についてはベンチャーキャピタルの形態や姿勢の違い、失敗した場合のリスクの問題など、いろいろな意味で特に医療関係のベンチャーが育たないとの意見が述べられた。

○ 将来の市場規模予測を見ると、医療機関向けの医療機器、医療材料が順位に入っていないが、これは市場規模が小さいからか、成長が余り見込まれないからか、また、医療産業が広がらないことについては四つの競争力(経済情勢、政府の効率性、ビジネス、インフラ)の中に何か問題があるのかとの質疑に対して、単に出遅れてしまった部分、具体的にやってみると意外に技術的な壁が高そうだということが認識される部分などが大きな背景になって、バイオ・医療関係は全体の中では比較的厳しめの評価の分野になっているとの意見が述べられた。

○ 日本型デスバレーの解決策として、国が関与すべきところがあるのか、デスバレーを招かないための方策は何かとの質疑に対して、基本は企業の自主努力であるが、触媒的施策として、経営という視点から技術を考える技術経営についての啓蒙や成功例を世の中に広く紹介する、また研究開発投資に何かインセンティブを付けるような方法が考えられるが、いずれにしてもそれらをいかに浸透させていくかであるとの意見が述べられた。また、基本は経営戦略と技術戦略がどうマッチしているかであり、MOT、技術経営者がいるいないという以前の問題として、経営に沿ったしっかりした必要な技術を開発する、それを技術戦略として取り込むということが基本的にできていれば、デスバレーを招くことはそれほどないとの意見が述べられた。

○ 技術創造立国と貿易立国を前提とした学校教育の在り方を伺いたいとの質疑に対して、日本の教育は受け身過ぎる教育、一方的な教育であり、せめて高校では知の創造のコツを教えてもよいのではないか、また、自己向上心を植え付ける教育が必要であり、さらに、自分で考え創造できるための個を尊重した教育をどのような方針で行っていくのかを本当に考えていかなければならないとの意見が述べられた。また、これからは世界にないオリジナルなものをつくっていかなくてはならない時代であり、何を勉強したかが重要になるので、大学院卒の人をあえて意識的に登用して活躍の場を与え大学院を拡充するなど、何か知っているという人が活躍できるような社会に変えていくのが、教育システムを考えていく際の基本的なコンセプトではないかとの意見が述べられた。

(四)多様化する雇用への対応について

 平成十七年四月六日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、多様化する雇用への対応について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(大阪大学社会経済研究所教授  大竹 文雄 参考人)

 労働力調査によると、二〇〇四年の雇用者総数五千三百三十四万人のうち、役員を含む正規雇用者が占める比率は、男女計で約七割、男性で八割超であるが、女性では約五割に過ぎず、その他はパート、派遣社員、契約社員等が占めている。特に女性では、雇用者のほとんどが正社員であったという伝統的な雇用状況は失われている。

 また、就業構造基本統計調査によると、正社員が占める比率は、一九九二年から二〇〇二年にかけて、男女計で約八割から約七割まで、男性で約九割から八三%まで、女性で約六割から五割を下回るまで低下し、その一方、パート、派遣社員、契約社員・嘱託が増加している。

 労働力調査で二〇〇二年から二〇〇四年までの各年について各雇用形態別の労働者数の変化を見ると、男女計では正社員は減少する一方、二〇〇三年から二〇〇四年にかけて派遣社員が急激に増加した。男性では雇用者総数が減少傾向の中、二〇〇三年から二〇〇四年にかけて派遣社員及び契約社員が増加した。女性では、雇用者総数が増加傾向の中、正社員は減少する一方、ほぼすべての他の雇用形態の労働者は増加した。

 これらから、正社員が減少し非正社員が増加したこと、男性の雇用が減少し女性の雇用が増加したこと、男性の雇用が減少した分は、女性の非正社員が増加したことの三つを言うことができ、これが雇用形態の多様化の中身となると思う。

 雇用形態の多様化に伴う問題は正社員と非正社員の間の賃金格差の拡大である。賃金構造基本統計調査によると、女性パート労働者の女性フルタイム労働者に対する時間給比率は、二〇〇二年には五〇%台にまで低下している一方、女性パート労働者数の女性フルタイム労働者数に対する比率は、過去二十年間一貫して上昇している。したがって、特にパート労働が増えてきた中で問題となるのは、パートの賃金が正社員の賃金と比較して低いことである。

 賃金格差が拡大した理由としては、まず、家庭から社会に出て働きたい女性は増加しているものの、正社員の働き口が限られている中ではパートとして働かざるを得ず、パートで働きたい人が増える一方であるため、パートの賃金が低下したという需要と供給の関係で説明できる。これに対しては、低賃金の正社員が非正社員に変化しただけで、本質的な格差の拡大は起きていないとの見方もある。そのほか、技術革新により一部の技能を持った人に需要が集中したこと、グローバル化の進展により安い労働力は海外に求めればよいとの考え方で国内における低賃金労働が減ってきたことが挙げられる。

 非正社員の増加理由としては、短時間雇用が可能な技術体系になったという技術的要因、企業は雇用調整がしやすく雇用管理の負担が軽い労働者を雇用するという需要要因、そして子育てを終えた女性がパート労働を希望することが増えているかもしれないという供給要因及び少子高齢化の進展による女性を雇用する必要性の高まりがある。また、制度的要因として、正社員に対する解雇規制が強く雇用調整が困難であるため、経済成長が見込まれない景気状況下では、企業は雇用調整がしやすい非正社員を増加させること、税、社会保険及び配偶者手当の負担・給付の観点から、一定の収入以下で働きたい人がいることがある。

 制度的要因に対する政策的な対応としては、雇用保障の程度が現在の正社員と非正社員の間に位置付けられる雇用を創出していくこと及び公務員の給与制度から配偶者手当をなくすことにより、公務員の配偶者のパート選好が低下し、それが民間企業に波及することが考えられる。

 そのほか、個人請負、ボランティアやNPOで働く人等をどう位置付けるか等の問題があることを指摘したい。

(テンプスタッフ株式会社代表取締役・社団法人日本人材派遣協会会長  篠原 欣子 参考人)

 厚生労働省によると、二〇〇三年度の人材派遣業界の市場規模は二兆三千六百十四億円(対前年比五・一%増)、派遣労働者数は二百三十六万人(対前年比一〇・九%増)であった。二〇〇四年は、景気回復に伴い企業からの需要が増加しているほか、二〇〇四年三月から派遣法改正により自由化業務の派遣期間制限が三年に延長されたこと等もあり、派遣スタッフが不足している状況である。

 市場拡大の背景として、労働者の就業意欲の変化、規制緩和による派遣可能職種の拡大、景気回復による企業の人材需要の拡大等があり、派遣という就業形態は、企業の人材活用の施策、就業者のキャリアプランの一つとして、今後も伸びていくものと考えている。

 二〇〇三年度に派遣実績のあった一般労働者派遣事業所数は七千六百七十事業所で、この五年間で倍以上に伸び、派遣業界への参入も非常に増加している一方、IT化の進展等により寡占化も進んでいる。

 派遣スタッフの料金は、特殊技能を有する者の料金が最も高く、時間単位での料金となっている。

 契約期間は六か月未満が約九割と短期の契約が大変多いが、繰り返し延長される例が非常に増加している。

 企業が派遣を活用する理由としては、欠員補充や必要な人材の迅速な確保、特別な知識や技能の確保、雇用管理の負担の軽減等が挙げられる。

 労働者派遣法は、一九八六年に制定され、数次の改正を経て、一九九九年に対象業務の原則自由化という抜本的な改正が行われている。二〇〇四年三月からは、派遣情勢や働き方の多様化に合わせ、一定条件を満たした場合の派遣先に対する派遣社員への雇用契約の申込みの義務付け等の改正が行われ、とりわけ紹介予定派遣が急速に伸びている。

 人材派遣ビジネスが成熟しているアメリカでは、専門職派遣が事務系派遣を大きく上回っているが、我が国でも規制緩和の流れから派遣対象業務が広がったことを受け、企業のニーズも多様化し、一層専門職の派遣が求められるようになっている。背景としては、職種等が多様化する状況において、企業が特殊技能を有する人材を迅速に確保することは困難なことや、自ら社員に教育を施す時間的余裕がないことがあるのではないかと考える。

 そうした企業からの要求に応ずるため、派遣会社が素質・素養のある人を募集し、教育を施した後に企業に派遣するという取組がなされるようになっている。また、専門の技術や知識を有する者を、関係する会社や学校に赴かせ一定の経験を積ませた後に、通常よりも高い料金で企業に派遣するという育成型派遣も最近増加している。

 派遣会社は、業務上個人情報を取り扱う機会が多いため、コンプライアンスに非常に積極的に取り組んでおり、プライバシーマークの取得等体制の整備を図り、個人情報の保護について慎重を期している。

 派遣社員を対象とする健保組合が、二〇〇二年に結成され、現在の会員数は三十万人以上になる。派遣契約終了後、次の派遣契約に移るまでの間においても保険を継続できることから、派遣社員には好評である。派遣業界においても、派遣社員に対する様々な利便を図っており、子育て等をしながら働けるという、派遣という雇用形態は非常によいと考える。

 社会人や学生を対象とした奨学制度を実施しているほか、障害者の雇用促進に資するためパソコン教室の開催、トレーニー制度の実施等社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

(株式会社日本総合研究所調査部主任研究員  山田 久 参考人)

 九〇年代後半から、産業空洞化圧力の問題、不良債権問題の発生等我が国経済は未曾有の危機に直面し、企業の労働需要の大幅な減退を背景に、新卒採用の減少、早期退職等による離職者の増加等が惹起され、急速に失業率が上昇した。しかし、一人当たり雇用者報酬は、九七年半ばをピークに緩やかに減少傾向に転じ、特に二〇〇〇年前後から下落スピードが加速しており、こうした賃金コストの削減を背景に、二〇〇〇年代に入り失業率の上昇に徐々に歯止めが掛かってきた。

 二〇〇〇年に入ってから一人当たり賃金が低下した背景には、急速に非正規雇用の比率が上昇していることが挙げられ、九〇年代の初めには二〇%程度だったが、最近では三〇%を超えている。例えばパートの時間当たり賃金は平均で正社員の四割程度であり、非正社員が増えるとともに賃金が下がっている。

 また、かつて非正社員はパート、アルバイトが中心であったが、ここ十年ほど派遣社員、契約社員、請負労働者又は委託労働者等が増加しており、非正社員の中でも多様化が起こっている。

 正社員に関しては、いわゆる年功制あるいは終身雇用と言われる日本的雇用慣行について変化が生じている。特に九〇年代終わり以降、早期退職を中心とした希望退職あるいは解雇の件数が増加し、景気が回復している最近においても、その水準が余り低下していない。また、かつての新卒の一斉採用という慣行は、去年今年辺りは回復しているが、以前ほどには戻らず、一方では中途採用も採用方法の一つの在り方として定着してきている。さらに、成果主義賃金の導入により、年功賃金が崩れ、年齢ごとの賃金カーブが徐々にフラット化してきている。

 最近では非正社員の活用のマイナス面として、ノウハウの蓄積や機密保持の面での問題が指摘されており、今年に入ってから正社員の伸び率はプラスに転ずる一方、パートタイマーの伸び率が鈍化している。また、成果主義に対する見直しも起きている。しかし、非正社員の増加、日本的雇用慣行の変質というトレンド自体は不変ではないかと考える。少子高齢化の進行に伴う国内消費市場の伸び悩み、中国及びアジア諸国の工業化の進展等我が国を取り巻く環境が競争激化の方向にあり、企業としても不断の製品開発、事業構造転換を求められているため、人件費の抑制のみならず即戦力の確保という観点等からも多様な労働力を活用していく必要性が高まっているためである。一方、労働者も仕事と家庭の両立の観点から、短時間労働や在宅勤務といった多様な働き方が必要になってきているということもある。

 非正社員増加のプラス面として、就労機会が増加するとともに、働き方の多様化がライフスタイルの多様化、特に仕事と生活の両立を支援するという側面がある。一方、マイナス面は、雇用保障が正社員と比較して不安定であるとともに、能力開発の機会が相対的に不足する懸念があることである。

 非正社員の増加が、勤労者が主体的に働き方を選べるという意味での本当の就業形態の多様化を実現するためには、すべての労働者に対する新たな法的保護体系を構築した上で待遇の均等化を図る必要がある。具体的には、第一に、強固な雇用保障の維持ではなく、相対的に雇用機会の提供や、能力開発の支援に重点をシフトすべきである。第二に、年功賃金を維持するよりは、仕事と家庭生活の両立支援に重点をシフトすべきである。第三に、労働時間規制よりは、安全配慮、健康管理義務の強化にシフトすべきである。第四に、社会保障制度の必要性を下げていく方向として、かつてのウエルフェアからワークフェア、すなわち働くことによって福祉を実現していくという新しい考え方に転換する必要があるのではないかということである。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 利益を生み出すために派遣社員を受け入れる必要がある一方で、会社を成長させるために人材を育成しなければならないという背反する要請に対して、企業経営者はどのような考え方を持っているかとの質疑に対して、企業の中核を担う正社員がいないと会社の維持は困難な一方で、専門性の高い人材を必要とする場合や業務が膨らんでしまった場合等は派遣会社から外部要員を受け入れる、その両方がないと経営はうまく成り立たないとの意見が述べられた。

○ 正社員に対する強い雇用保障が緩和されれば、経営にも変化が生ずるのではないかとの質疑に対して、例えば、五年等の任期で、更新しても正社員にしなくてもよいということであれば、今のパートよりも技能を蓄積することができ、企業にも労働者にもメリットがあるとの意見が述べられた。また、企業にとっては非正社員に対して能力開発を行う合理性が弱いため、イギリスのNVQのような基礎的能力の認定制度を創設する等の政策的支援が必要になってくるとの意見が述べられた。

○ 現在、外国人の非正社員を取り巻く状況はどのようなものかとの質疑に対して、外国人労働者を既に現実に受け入れている一方で全く自由に受け入れている国はなく、仕事の内容を明確化し、その仕事に対して同一の処遇を図る方向で制度の整備をすることが重要な視点になってくるとの意見が述べられた。また、制度をつくり、監督の下に受け入れ、社会保障制度を整備した上で、外国人を入れて活性化した方が日本にとってよいとの意見が述べられた。

○ 外国人非常勤教員の一方的な解雇をどのように考えるかとの質疑に対して、日本人であると外国人であるとにかかわらず、非常勤教員の解雇問題は起こっていると考えられるが、こうした問題は正規職員の教員と非常勤教員という極端な雇用形態の人しかいない職場で端的に起こりやすい問題である上に、外国人教員の場合は、就労ビザの問題が起こることが想像され、そのため大きな問題になってくると思われるとの意見が述べられた。

○ 正社員が減り、非正社員が増加する状況において、正社員の負担が非常に増加して労働強化になっているため、正社員が非正社員に移っているのではないかとの質疑に対して、正社員は雇用調整が困難であり労働時間で調整するため、景気回復期には極端な人手不足となり正社員の労働は厳しいものとなるとともに、技術革新が起こっているときには、新しい仕事に対応できる数少ない正社員に仕事が集中して労働の負担が増加することとなるが、そうした状況を回避するため正社員から非正社員に移る人もおり、もう少し中間の働き方、中間の雇用保障、賃金があれば、そこまで極端な雇用形態の変化を体験しなくともよいのではないかとの意見が述べられた。また、派遣社員の増加により、正社員に対してしわ寄せが行っているということを聞いたことがあるかとの質疑に対して、そうしたことは聞いたことがないとの認識が示された。

○ 雇用が多様化する中での教育訓練はどうあるべきかとの質疑に対して、実際の仕事に役立つような教育、職業訓練制度はもっと必要であるとの意見が述べられた。また、企業内における教育訓練を税制面で支援することは一つの方法であるとともに、教育訓練費用を国が助成するバウチャー制度は、問題点もあるが、教育機関同士の競争が起こり、教育機関の質を向上させるメリットがあり、教育訓練の効果がどの程度であるかを測るのは困難であるという問題もあるが、仕事と関連する訓練を提供した場合は、多くの人はやる気を持って訓練を受け、生産性も上がるということが少しずつ分かってきているとの意見が述べられた。産業界のニーズを反映させつつイギリスのNVQやアメリカのコミュニティーカレッジのような制度を構築することも考えられるし、社会経済生産性本部雇用政策特別委員会は、十八歳以上の若者すべてに対してキャリアパスポートを発行すべきだという提言を行っているが、能力開発に当たり最も重要なことは働くことを通じて学ぶということであり、学んだことを記録することによって能力開発が図られるであろうとの意見も述べられた。

○ 派遣社員の死を過労自殺と認定し、派遣元と派遣先の双方に賠償責任を認めた東京地裁の判決が出たが、この問題についての見解とそれをどのように解決すべきであると考えるかとの質疑に対して、働き過ぎによる派遣社員の死は本来あってはならないことで非常に遺憾だが、派遣契約は時間単位で締結されているので、派遣社員が長時間にわたる労働に従事することは余りないはずであるとの意見が述べられた。

○ 同一価値労働同一賃金について、労使合意で実現を図ることは困難と考えられるため、法的強制力を与えることについてどう考えるかとの質疑に対して、現在の労働法制が時代から乖離している部分があり、現状に対して均等化を進めていくと、企業の雇用需要が大きく減少して失業を増加させる副作用があるため、労働者保護の枠組みを変えると同時に均等化を進めるべきであり、現時点では、均等待遇に対する配慮を義務付けることとし、将来に向けて均等化するのがよいのではないかとの意見が述べられた。

○ 中長期的な観点から我が国のものづくりの強さを維持するためには、現場でのコミュニケーションや企業自身による教育が必要であり、非正社員が増加するというトレンドを一定の時点で切り替える必要があるのではないかとの質疑に対して、産業によっておのずと合理的で妥当な水準があるはずで、製造業のように特に技術の伝承が重要な分野については、非正社員をやや急速に増加し過ぎたことの反省から揺り戻しが生じており、経営者や労働組合が業務や業種の性格等を再度見直して最適な在り方を検討する中で、正社員の比率も回復してくる部分があるものと考えられるとの意見が述べられた。

○ 非正社員が増加した一つの側面は賃金の抑制であったが、現在の労働力全体における非正社員数からすると、その役割は終わったのかとの質疑に対して、九〇年代の不況下では、デフレにもかかわらず、当初は正社員の賃下げがなかなか起こらなかったため、新規採用を抑制してパートに置き換えることにより人件費の抑制が図られたが、就業規則や賃金規定の変更、成果主義の導入等を通じて正社員の賃金変更が可能になったため、人件費を抑制するという部分でのパートの必要性は低下したとの意見が述べられた。

○ 解雇規制の多様化とは、現在よりも容易に解雇できるようにする趣旨なのか、その場合、対象は技術者や管理者ではなく一般社員かとの質疑に対して、現在は、有期の又は期限のない雇用契約のいずれかしかないが、有期の雇用契約と異なり、三年間は労働者はいつ辞めてもよいが、企業は辞めさせられないという縛りを掛け、何回更新しても、更新するかしないかを自由とする、労働者には退職の自由があり、今の非正社員よりは雇用が保障され、正社員ほどの雇用の安定がないという中間的な雇用契約ができるのではないかという提案であるとの説明があった。

○ 派遣契約期間は一年未満が圧倒的に多いが、それは派遣先と派遣社員とのいずれが求めているのかとの質疑に対して、子育てや家事との両立、派遣先の事情がよく分からない等の理由で取りあえず三か月で契約し、その後は契約期間の延長を繰り返すことが多いためであるとの説明があった。

○ 「年金制度を守って企業の雇用インセンティブを低下させるよりも、働く機会を増やして年金制度の必要性を低下させるべき(『ウエルフェア』から『ワークフェア』へ)」とは、具体的にはどのような趣旨かとの質疑に対して、現在の年金制度は、工業社会すなわち男性が働いて女性は家にいるという家族形態と寿命が短いことを前提として制度設計されているが、少子高齢化、産業構造のソフト化、サービス化が進むとともに女性も働くという環境に変わり、また、寿命が長くなり、制度の維持が困難になってきたため、北欧やイギリスにモデルがあるが、能力開発や共働きを支援する制度を構築して多様な働き方を実現することにより、年金制度に対する必要性を低下させようとする考え方であるとの説明があった。

○ 現在は正社員の比率が回復している状況にあるが、今後の派遣事業の見通しはどうかとの質疑に対して、我が国の景気回復に伴い、企業の人手不足は強まっており、一方派遣業界は、単純な一般事務のほか、紹介予定派遣や特殊技能を有する人材の派遣もあり、今後も経済の動きに合わせて必要な人材と働く場所を紹介するということでビジネスとしてはこれからも増えていくとの認識が示された。

○ 今後正社員の比率が回復していくということは、非正社員の比率は伸びないという趣旨かとの質疑に対して、業種や職種によって異なり、製造業の現場では正社員の比率が高まってきており、今後もその傾向は続くものと考えているが、経済全体ではソフト化、サービス化の進展により異なると思われ、恐らく正社員と非正社員という二分法を変え、より中間的形態に変わらないといけないとの意見が述べられた。

○ 企業にとって、雇用の多様化が進むことによるマイナス面は何かとの質疑に対して、技術の伝承や安全性の面で問題が起こるほか、所得格差が拡大するという面がある、格差の拡大の最大の理由は高齢化であるが、若年者世代で正社員とフリーターのような二極分化が始まっており、能力開発の仕組みを全体でどうつくっていくかが非常に重要な問題になってくるとの意見が述べられた。

○ 今後我が国において、NPOが雇用の受皿としてどのように発展するか、またその促進のために税制面を含めどのような支援策が考えられるのかとの質疑に対して、今後、小さな政府を目指す上での公共サービスを代替する組織として、また高齢者や技術革新に対応しない人々のゆったりとした働き方の受皿として、NPOは重要な役割を果たしていくであろうが、そこで働く人々が、雇用者であるのかボランティアであるのかの区別が分かりにくくなり、低賃金で働くボランティアと雇用者の中間的な人々の雇用環境をどのような法的手段で守っていくのかということは非常に難しい問題であるとの意見が述べられた。

○ 人員削減ではなく賃金削減を行うことによって新規採用者を増加すると、企業が成長すると考える根拠は何かとの質疑に対して、中部地方の企業と労働者に対して行ったアンケートによると、企業の成長に最も重要なことは労働者に対して訓練を施し能力を身に付けさせることであるが、労働者数が減少し過ぎると、繁忙のため能力開発ができなくなるとともに、労働者の労働意欲も低下するのに対して、一律である程度の賃金削減であれば、雇用調整を行うよりはまだ意欲がなくならないことが分かったため、少しでも早めに賃金削減をして雇用の減少を防ぐ方が、実は長期的な企業の成長に役立つのではないかと考えるとの意見が述べられた。

○ 個人情報の収集、利用及び提供に関してどのような方針を持っているかとの質疑に対して、人材派遣会社は、顧客企業と派遣社員の双方のプライバシーを取り扱っているため、その取扱いには慎重を期しており、二〇〇二年一月のプライバシーマーク取得を始め、様々な措置を講じているとの説明があった。

○ スウェーデンでは、過去の労働経験が大学に入学した際の単位として認められるため、日本の大学生と比べて平均年齢が高い上に、問題意識が非常に強く、その結果、国際競争力の向上に貢献していると指摘されるが、大学教育と労働政策との関連についてどう考えるかとの質疑に対して、スウェーデンは、戦後、政策的に平等な賃金の設定をし、生産性の高いところに人をシフトするとともに、女性の社会進出を積極的に支援することを通じ、社会保障のコストを相対的に下げながら福祉国家を維持するという、非常に特異な経済政策を取ったが、これは比較的小さな国であるため可能な政策であり、現在の日本のような大きな国にスウェーデンモデルを導入することに関してはかなり議論が必要であるし、大学教育に関しても、大学教育の観点からのみ議論するのではなく、国際的な潮流である生涯教育の観点から、スウェーデンのほかにもアメリカの制度等、総合的に考えていくということではないかとの意見が述べられた。

○ 派遣社員から正社員に転換する割合はどの程度か、また派遣会社に登録している者の年齢構成はどうなっているのかとの質疑に対して、紹介予定派遣においては、派遣後に正社員になる率は六〇%であり、また派遣社員として登録するには就業経験があることが条件なので、年齢的には二十二歳から三十六歳までが非常に多く、男女別では女性が約八〇%であるとの説明があった。

○ 派遣社員の社会保険への加入を派遣会社に対して義務付けたり、要望したりすべきではないかとの質疑に対して、二〇〇二年に人材派遣健康保険組合が結成されたが、加入していない企業もあるので、派遣社員が安心して働けるようにするためにも、加入を義務付けてほしい、また派遣先企業も社会保険に加入している派遣会社であるかどうかを認識して利用してもらう方が徹底するということが考えられるとの意見が述べられた。

○ 若年者が働く場所がないことが、犯罪を増加させたり、年金制度の維持を困難にしたり、晩婚化・少子化をもたらしたりするとされているが、若年者の雇用についてどう考えるかとの質疑に対して、我が国における不況時における若年者に対するしわ寄せは、他国と比較しても非常に極端であり、不況期に就職した世代は、不満足な職場であることが多いことや若い段階で職業能力を身に付けることができないこと等により生涯損をするという特徴があり、また、IT化が進んで、求人求職がインターネットで行われ、優れた企業に優秀な人からの応募が集中するようになった結果、よい企業はよい人材を完璧に集める一方、少しでも悪い企業には優秀な人が集まらず、優秀な学生は幾つも内定をもらえる一方、内定をもらえない学生は一つももらえないという二極化が進んでおり、さらに優秀な女性の社会進出が進み、女性雇用者全体の賃金が上昇しているため、雇用に向いていなかったが何とか雇用してもらえていた男性の賃金は低下し、職も減っており、こうした事態がニートの問題になっていると考えられ、加えて、卒業時点で就職先がない場合、少年犯罪は特に財産犯が増加する傾向がはっきり出ているほか、フリーターでは結婚できないことも最近の研究により実証的に明らかにされているとの意見が述べられた。また、戦後、企業社会化が進行し、正社員が最良と位置付けられる社会になったが、逆に正社員になれなければ自分のキャリアや将来の展望を描けなくなることから、やる気を失ってしまうという問題も生じており、もう一回職業の価値が多様であることを認識して、例えば正社員と非正社員、正社員と自営業の間の移動の可能性を高めていくことが課題となり、オランダでは、九〇年代の終わりから二〇〇〇年代の初めにかけて若年者の失業率がかなり下がったが、その背景としては、非正社員と正社員の格差をなくし、本当の意味での多様化を進めたことがあり、また、NPOの中で社会貢献していくという意欲をどう再構成していくのか、さらに自営業の形など、多様な働き方を進める中で、それぞれの職業の価値や、働く意味合いを再考して、多様な価値をつくり出していくことが重要であると考えるとの意見が述べられた。

○ ニーズがあるのに労働者派遣業が参入できないのはどのような分野かとの質疑に対して、看護師の派遣は規制が厳しく業務を進めにくいとの意見が述べられた。

○ 規制のため代替人員を配置できない医療職等の専門職について働き方の多様化を進めるためにはどうしたらよいかとの質疑に対して、安全性の問題、規制がある理由を深くは承知していないが、非常勤職員を適切に配置できない場合も多く、派遣社員で対応できれば労働環境の改善をもたらす等のメリットがあるだろうとの意見が述べられた。また、安全性の問題と雇用の拡大のバランスについては個別の議論が必要だが、欧米等ではホワイトカラーの分野での職務の発想があり、これが定着していけば、専門職で多様な働き方が可能になり、政策的には資格制度的なものをつくっていけば、サポートになるとの意見が述べられた。

○ 人材派遣会社がアルバイト募集を一括受託する事業を開始したことについてどう考えるかとの質疑に対して、一括した方がより効率的に募集ができるということであろうとの意見が述べられた。

○ ソニーが導入しているフレックスキャリアスタート制度についてどう考えるかとの質疑に対して、企業が人手不足に対応するための一つの工夫であろうとの意見が述べられた。また、雇用される側が売り手市場になり始めているということかとの質疑に対して、そうであるとの意見が述べられた。

(五)フリーター・ニート等若年者をめぐる雇用問題について

 平成十七年四月二十日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、フリーター・ニート等若年者をめぐる雇用問題について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(特定非営利活動法人「育て上げ」ネット理事長  工藤 啓 参考人)

 十代、二十代の若者支援を考えるに当たって、その年齢の人間が対策を考える行政の委員会に入っていないということに対し非常に違和感を覚え、自分たちの世代として何か意見が言えたらと思い、この仕事をしている。

 フリーター、ニートと言われる若者の共通点として、やりたいことという格好いい社会のメッセージを真に受け、それを探すことが目的になり動けなくなってしまう人が非常に多い。日本には三万職程度の職種があると言われているが、やりたいことのイメージは一つ程度で、統計的に三万分の一が見付かるわけがなく、三万分の一を追い掛けて、これだと思って実際に仕事をし、それが全く違った場合の心の落ち込みようは大きく、もう一度初めから探すことは大変つらい。自分が向いていない、やりたくないと思うものを体験し理解することによって三万分の一の分母をまず減らし、様々な仕事に触れ合い分子を増やすことによって、案外やってもよいことにたどり着く可能性が高まる。そのような意味で、やりたいことというきれいな社会からのメッセージは、若者を実は苦しめているのではないかと思っている。

 職場の人間関係という言葉を非常によく使うが、意外と本人が気付いていないのは、周りが別に無視しているわけではなく、話さなくてもよいと思われていることである。慣れていないため、雑談を交わすことがなかなかうまくできず、仕事はしているのでそのままにしておくと、若者からすると社内のコミュニケーション、人間関係があまり良くなく、ここは自分の場所ではないのではないかと離職してしまうことが非常に目立っている。

 若者支援、ニート支援等は、政府もいろいろ予算を付けて行っており、ジョブカフェも含めて非常によく動いているという印象である。しかし、そこに来る人は自分から一歩踏み出せる人であり、なかなか一歩が踏み出せない人、特にニートと言われる若者に関しては、本当に行けるかどうかはなかなか難しい。ニートと言われる若者が自分たちの場所に来るためにはどのようにすればよいのかと質問されるが、本人たちへの直接的な情報宣伝は効果が薄く、学校の先生、保護者、特に保護者を通して間接的に本人に情報を伝えると、案外本人は安心して、行ってみようかなと思うのが実情であり、保護者やかかわっている人たちを中心に情報を提供していった方がよいと思う。

 職に就いても、当団体を卒業しない者が非常に増えているという課題がある。家と職場という二つの社会的居場所というのは非常に不安定で、社会的な三本目の脚ができると案外安定するため、社会的なかかわれる場所を更に一層増やしていかなければ、安定しないのではないかと思っている。

 全国の引きこもり、ニート、フリーターを支援している民間団体の数は減少している。お金の問題以外に、このような事業は、長期的にかかわりながら支援をしていく必要があるが、その支援者が今非常に疲れてきている。また、支援者は、五十代、六十代のベテランか、二十代の若者であり、その間の三十代と四十代が抜けているため、このまま二十代が育たないと五十代、六十代が引退したときにだれも支援ができなくなってしまう。支援者の疲弊と減少という現実があり、百人のニートを支援するよりは、十人のニートを支援する十人の支援者にも少し目を向けてもらいたいと思っている。

(東京大学社会科学研究所助教授  玄田 有史 参考人)

 フリーターとニートと失業者は、よく若者の雇用問題で登場する言葉であるが、ニートは働いておらず、フリーターは正社員ではないが働いている。失業者は仕事はしていないが就職活動を行っており、ニートは職を探していないという違いがある。このようなニートの若者が二〇〇二年段階で八十五万人存在した。

 ニートが増加した理由を強いて挙げれば恐らく三つある。一つは、不況の影響である。就職活動がうまくいかないと、社会に必要とされていないのではないか、もう就職活動をしても無理なのではないかという気分になる。二つ目は、地域や家庭環境の影響もあり、コミュニケーションに対する強い苦手意識があることである。三つ目は、もしかしたら学校を含めた教育の問題があるかもしれない。今、若い人たちは、すぐ一杯一杯だと言うが、仕事の負担が多くて一杯一杯、人付き合いに一杯一杯だということがあり、加えて、個性がなければ駄目、自分らしくないと駄目ということを学校や家庭、時には職場でも言われ続けると、自分らしさややりたいことがない自分はいい仕事には就けないと思うことになる。家庭や学校の問題、不況の問題、様々な要因が絡み合ってニートが増えており、幅広い分野からのアプローチが必要になると思う。また、なぜ働けないのかという問いに、病気やけがだからと答える人たちが非常に増えている。ニートの半分程度は過去に働いた経験があることから、今の若者の働き方は、仕事のきつさ、難しさだけが強調されて、その中で疲れ切ってしまい働けなくなっているという面もあるのかもしれない。恐らくニートと言われる人たちの大部分は、働かない若者ではなく働けない若者であり、むしろ、働かないといけない、親に迷惑を掛けていてはいけないという思いは人一倍あるような気がする。

 この十年間に、どちらかというと家計が苦しい家庭から働けない若者が増えており、家計が苦しい家庭の子どもほど、やりたいことを見付けるチャンスがないという、言わば社会全体の階層問題、格差問題もニートの背景にはある。単に親がぜいたくをさせている、甘やかしているからニートになる、子どもが無気力で意欲が低いからニートになるという認識は恐らく正しくない。

 対応策として、人付き合いに対する苦手意識をかなり早い段階から解消していく必要がある。その意味で、今年度からスタートするキャリア・スタート・ウィークのような取組には非常に期待をしているが、成功するためには、大人の努力が必要であることを国民が理解する必要がある。また、若者と同じ目線に立って、時に共同生活をしながら、時間を掛けてじっくりと付き合うNPOが、ニートの支援には大変大きな役割を果たしており、その意味で、若者自立塾のような取組も是非成功してほしいと思っている。

 これからの若者支援のキャッチフレーズを、「若者を支援する若者を支援する」と呼んでおり、就職の問題、また学校の問題、時には心の問題、様々な問題に対してきちんと対応できる幅広い知識と経験、また人間性を兼ね備えた若者が必要である。そして、若者に経験やトレーニングを積ませるためには、時間とお金と国民的な理解を必要とし、それを積極的に支援していくことが大人の役割である。

 ニート問題は若者の問題だけではなく、三十代、四十代で働けない者が非常に増えており、生活保護の在り方も喫緊の課題になっている。ニート、フリーター対策のキーワードは三つある。一つは個別的であること、二つ目は持続的であること、三つ目は包括的であることであり、就業対策、教育対策、福祉対策の垣根を越えてどう融合させていくか、そのために大人がどのような形で連携していくのか、その具体的な姿を今の段階からつくり上げていくことが一番重要であると思う。

(兵庫県教育委員会教育次長  杉本 健三 参考人)

 トライやる・ウィークの実施には二つ契機があった。一つは、阪神・淡路大震災であり、今一つは、その二年後の神戸市須磨区の連続児童殺傷事件である。事件後に開催された心の教育緊急会議で、中学校での長期社会体験学習の導入、様々な課題に対する学校、家庭、関係機関等との連携システムの構築の推進という提言があった。この二つのこと及び提言を具現化して、心の教育を充実させ、生きる力をはぐくむことを目的として平成十年に開始し、本年で八年目である。県下の全公立中学校二年生、約五万人が、連続した五日間、地域の中で勤労生産活動、職場体験、福祉体験等の活動を行うものであり、各学校ごとに六月若しくは十一月を中心として行っている。

 子どもの教育を学校だけに任せるのではなく、地域全体で育てるとの機運の下に、このトライやる・ウィークを県民運動として取り組めるようにするために、また五万人の中学生に対して必要な一万五千程度の活動場所を提供できるように、県下全体で取り組む推進体制を構築し、県、市町、中学校区、それぞれの段階で支援体制を整えており、地域住民による受入れ体制の整備、事業所等による生徒の受入れ、指導に至るまで県民の参画と協働の下に実施している。

 学校の特別活動の中の学校行事という形で行っており、事前指導、事後指導は総合的な学習の時間等に位置付けている。全体で三十時間程度で、一日七時間は超えないようにし、労働基準法、児童福祉法に抵触しない形で進めている。年間六十件から七十件程度の事故等があるが、総合補償制度を設けており、破損等に対する賠償もこの補償制度の中で行っている。賠償は年間十件程度、保険料は一人五百七十円、ボランティアにも入ってもらっている。

 不登校生徒の六五%程度が参加し、そのうちの七〇%が五日間とも出席し、その後、四〇%程度の生徒の出席率が向上しており、不登校の改善につながっている面もある。

 生徒は主として活動場所ごとに班をつくり、その数が一万六千班程度、活動場所は一万五千か所程度、一か所当たりの受入れ生徒数が約三人、約二万人のボランティアの協力を得ている。職場体験が全体の七九・二%、福祉体験が七・九%、文化・芸術活動が五・七%、農業、漁業、林業などの勤労生産活動が三・五%である。

 生徒に対するアンケートでは、働くことで仕事の厳しさを知ったり、仕事を仕上げたときの楽しさを通して働くことの大切さを実感したが九割近く、また、指導者との触れ合いが楽しかった、社会のルールやマナーの大切さが分かった、コミュニケーションの大切さを感じたがそれぞれ約七割と、社会性をはぐくむ良い機会となったのではないかと思っている。指導ボランティアからは、素直な姿や可能性にあふれた姿を目にして、地域の子どもの育成に積極的にかかわっていこうという気持ちが持てた等の感想がある。

 平成十四年度に検証委員会を開催し、これをきっかけに、土曜日や日曜日、夏休みに活動が継続できるよう、「トライやる」アクションを推進している。また、高校生は、来年度からこれまでの事業を拡充し、就業体験事業や地域貢献事業に取り組むこととしている。

(千房商事株式会社代表取締役  中井 政嗣 参考人)

 学歴は立派だが学力がない、人の教育は徹底的にやられているが人を育てることができない、知識は豊富だが知恵、工夫が足らない、体格は立派だが体力がない、これらは、体験、経験不足だと思う。新入社員研修で、皆さん、入社されましたが、運が強いと思いますか、弱いと思いますかと聞くと、九九%が運が悪いと言う。考え方が悲観的、行動が消極的である。私の講義が終わった段階で、もう一回聞きますが、皆さん、運が強いと思いますか、弱いと思いますかと聞くと、これはもう一〇〇%が運が強いと答える。研修の十日間の間に入ってきた時とは全く変わった姿を見ながら、人格は環境によって変わっていくということを感じる。

 目標がまだ見当たらない、行き先が分からないという状況は迷子であり、迷子には三つの条件がある。一つは行き先が分からないこと、二つ目は現在地が分からないこと、三つ目は脱出する方法が分からないことである。迷子を抜け出すためには、専門家の話が大事であり、あるいは先生の話、親の言うことを素直に聞きなさいという話をする。今の若者は、考え方が狭過ぎるため、自分が見たもの、あるいは聞いた職業しか考えられない、あるいは気付かない。社会保険、労働条件、週休二日制、週四十時間等、制約されている部分がたくさんあり、人件費を抑えなければならないという中で、なかなか採用しにくいという面もあるが、中小企業は人材を求めている。ニートと聞いたときに、瞬間、格好いいなという気になったが、実はこれは無職で、横文字にすることによって何かそれが格好いいかのような、勘違いをしていると思う。憲法の国民の義務の一つである労働の義務を果たさない、憲法を守らない、この問題の方をよほど重要に考えてもらいたい。

 仕事はしなくても衣食住が足り不自由しない。しかし、何かやらなければという意識は持っており、やりたいことが見付からない、相談する人がいない、あこがれる人が身近にいない。修学旅行生に対する体験学習の中で話すと、わずか三十分足らずの話で人間関係ができる。どんな思いで話しているのか、これを感じてもらえば有り難いと子どもたちに話すと、それだけでも彼らの目は輝いてくる。子どもは、先生、親の言うことを聞かないが、それは、言っていることとやっていることとが違うからで、子どもは見ている。個性、自由、権利、平等と言い過ぎているような気もする。嫌なことをさせることも大事である。外食産業では、学歴、学業成績は問われないが、人間性を問われる。正に企業は人なり、人育てに始まって人育てが続く、ある意味では教育産業、ともに育つ教育産業だと思っている。人格を磨けば間違いなく人は伸び、その基になっている部分が何よりも大事であり、能力のあるなしにかかわらず、やはり一生懸命な人を人は応援する。今は余りにも怠け者が多いからチャンスであり、少し頑張ったらやれるという話を一生懸命子どもたちにすると、目を輝かせて聞いてくれる。

 ゆとり教育ではなく、ゆとりのある心を育てることが必要であり、心が伴わない、知識だけで仕事をし、暮らしている人たちが世の中を良くすることはできない。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ いったん職に就いてからニートになる若者の話があったが、雇う側の問題として何が解決すべきことなのかとの質疑に対して、一度働いてニート状態になるのはSEとプログラマーが非常に多く、体を壊し、心の病にかかる者が大変多いので、メンタルヘルス等を企業で行ってもらえたらと思うが、会社内にカウンセラーを置いたとき本当に若い人が行くかといえば、その情報が人事に上がることが怖いといった難しい問題があって活用しておらず、相談できる人が会社と家以外にいないことが一番の問題で、雇う側としてできることは彼らの心身面を少しケアしてやることであるとの意見が述べられた。

○ ニートを支援するNPOが減っているとのことだが、NPOに対して、どのような支援が具体的に求められているのかとの質疑に対して、一つは、若いと事業を起こしてもお金が借りられないこと、もう一つは、先進国を見ても若者支援の委員会には必ず三割程度若い人が入っており、鍛えられたり、識者と人脈をつくったりといった出会いが支援者を育てていくと思うので、若い支援者にも大人と触れ合うチャンスをもっと提供してほしいとの意見が述べられた。

○ UFJ総合研究所の調査レポートでは、二〇一一年には中高年フリーター等が百三十二万人に増えるとのことだが、単純に今の若者ニートの年齢が上がっていくだけの現象と見てよいのか、中高年ニート、フリーターという問題の原因と実態、影響や対策についてどう考えるのかとの質疑に対して、中高年ニートが増えた原因は、一概に言いにくいが、いわゆるリストラの影響があり、中高年ニート対策は、二〇〇七年問題と言われる団塊の世代の再就職も含めて、就職や将来の進路を相談できるような相手を若年のみならず中高年にも増やしていくことが大切であるが、一方で、中高年ニートの場合、若者ニートが中年になったケースが少なくないと思われ、生活保護が今後数年間のうちに大きな問題になるので、自立支援、就労支援のようなタイプの生活保護とは具体的にどのような姿なのかを、生活保護、就労支援や心理面のエキスパートが連携してつくり上げていくことがこれから大変重要な対策になると思っており、基本的な人権である生存権が危ぶまれるようなケースがすぐそこまで来ているという危機意識を持って、福祉対策、就業対策を一層連携させて具体的な支援策を考えていく段階に来ているとの意見が述べられた。

○ 若い人たちに生きがい、夢、目標を持たせる中でのコミュニケーションづくりが大事であると思うが、夢を持たせながらコミュニケーションづくりをする環境をつくるにはどのような政策、方法がよいかとの質疑に対して、非常に難しいが、人との出会いしかなく、地域の枠を超えて支援体制をつくらなければ、どんなに大人とのかかわり合いの場を提供しても、彼らはなかなか一歩踏み出せないと思っており、また、社会は、仕事にやりがい、生きがい、夢を求めることが多いが、自分の夢を持つために取りあえず仕事をするという働き方も一つあった方がよいし、仕事と夢がイコールでないといけないということで心理的につらくなる子が増えていると思うので、そうではないという社会的メッセージを発する人、若者受けするようなコメンテーターをつくることもよいのではないかとの意見が述べられた。

○ 中高年のニートにも目標を持たせるという意味でどのようなことを行ったらよいのかとの質疑に対して、目標を持つために必要な働き掛けを一言で言えば、やはり体験であって、余り目標や夢がなくても生きていけることを実感してもらうことが、実は若者、中高年も含めて大事であり、もし若者に目標を持たせるとすれば、本当のことを伝えてほしいし、本当のことを伝えられる大人により社会で発言する機会ができればよいと思っており、中年ニート対策で本当に必要なのは遊びであり、本気で遊べる三つ目の居場所で日ごろの仕事や家庭とは違う人たちと出会う環境をつくることがとても大切であり、その意味で、日ごろ会わない人間関係と出会う場所を作るNPOや地域の活動が必要であり、これを国家戦略として考える状況に来ているのではないかとの意見が述べられた。

○ 小学校からボランティア活動をさせるべきであるという考え方を持っているが、ボランティア活動による地域社会貢献の点からトライやる・ウィークの成果はどうかとの質疑に対して、震災で大変な被害があったが、兵庫県に大きな教訓を残してくれたことを実感したところであり、兵庫の子どもたちは地域との結び付きの大切さを感じており、とりわけ、トライやる・ウィークで、地域の大人と交わる中で、特に昨年度から、「トライやる」アクションという形で、例えば祭りや地域のクリーン作戦といった形で地域とのつながりを継続的にやっていこうという機運も出てきており、さらに高等学校でも何らかの形でそれを継続して、地域のことに積極的に参画できるような子どもたちを地域ではぐくんでいきたいとの意見が述べられた。

○ 若い人に求め、期待するものは何かとの質疑に対して、トップが夢、ロマンを持っているかどうかによって部下が全く違い、同時に、お互いに欠けているものを補い合うのが社会であると思っており、不便だからこそ、その周りにいる人が手を差し伸べる環境が大事であり、また、今若者は冷めて、白けていて、少々のことでは感動、感激しないので、もっと汗をかかせないといけないと改めて思うとの意見が述べられた。

○ 保護者向けの若者就労セミナーを開くことの効果、課題は何か、行政として、親たちの相談窓口づくりも重要ではないかと思うが、現状でどこが足りないか、また、父親に求める役割について伺いたいとの質疑に対して、保護者向けの若者セミナーの役割は保護者同士が仲間をつくること、相談できる相手をつくることであり、そして、父親の役割については、意外と前面に出てはいけないということがあって、基本的に母親のガス抜きとほかの兄弟へのケアであり、また、行政窓口で責任を持って一民間団体を紹介することは恐らく難しいので、例えば一任した民間団体からの紹介という形をとった方が、本来必要な支援を求めている人に必要なところを紹介しやすいのではないかとの意見が述べられた。

○ これからの雇用を考えたときに、ニート問題、失業問題のどちらを社会として優先して取り組むべきかとの質疑に対して、大変難しいが、もし経済を優先するのであれば、恐らく失業対策を優先させるべきであろうが、社会問題として考えればニート対策が優先されるべきであり、別の言い方をすれば、成長を考えると失業対策が最優先されるべきだが、安心を考えるとニート対策ではないかとの意見が述べられた。

○ 「トライやる」では、特に不登校や引きこもりの生徒に対してどういったアプローチをしているのか、その結果どう子どもたちが変わったのかとの質疑に対して、不登校の生徒に対しても、学級担任が何回も家庭訪問をして「トライやる」についての話をし、不登校ぎみの生徒のうちの三分の二程度が「トライやる」に参加し、そのうち七〇%程度は五日間丸々出席という状況にあるが、その理由は、学校へは不登校だが、学校と違うところに行くと、友達も先生もいない、学校でもない、やることも違うということで、結構踏み込みやすい雰囲気があり、その中で何か自分もできるということがあり、今までになかった自分の良さ、自分が知らなかった新しい自分、自分の心の居場所を見付けたり、場合によっては新しい人間関係ができて、その後、学校へ登校できる生徒がかなり出てきているという効果があるとの意見が述べられた。

○ これからの人づくり、ニート問題において親の果たす役割を伺いたいとの質疑に対して、子どもは大変愛に飢えており、大人も愛に飢えており、お互いに関心、興味を持たなければ何をしても面白いことはなく、母賢なればその子賢なり、父賢なれどその子賢ならずという中国のことわざのように、特に母親の影響が大きいとの意見が述べられた。

○ ヤングジョブスポットよこはまが成功した一番のポイントは何かとの質疑に対して、成功のポイントは三つほどあり、一つは、数字を成果としてカウントする行政にこたえるべく数字で結果を出したこと、二つ目は、何回も利用できるように新しい仕組みをつくったことであって、フリーター支援が基本的なコンセプトだったので、どのような支援が欲しいかはフリーターに聞くのが一番であると思い、当時、十八歳から六十八歳までの二十人のスタッフの八割はフリーターにし、そのフリーターも三か月から半年の契約にして、彼らが抜けた後に利用者のフリーターの中からスタッフに引っ張るという若者の思いを持って循環をさせたことが一点で、それによってコストが安く済んだということがもう一点であり、大人が、若者がむちゃな営業をしたり社会性のない発言をしたことに対して責任を取ってくれたが、前面に出ていかなかったという三点が大きく、三つ目は、マスメディアとうまく連携して、利用者がヤングジョブスポットという場所に大変感謝しているという言葉を全国に届けたことであるとの認識が示された。

○ ニートがなぜここへ来てこれだけの数になったのかとの質疑に対して、ニートがこれだけの大きな問題になったのかを一言で言えば、今までは無視されてきたからであり、九〇年代の段階で、失業者の中にフリーターにすらなれない若者が相当いたにもかかわらず、だれも関心を持って考えていなかったし、関心を持っていたとしても、ぜいたくな甘えた若者と勝手に決め付けたことが大きく、そして、問題が深刻になってきた理由は高齢化と階層化であって、すぐには効果を上げることが難しく、だからこそ早い段階で連携して対策を立てなければならないという問題がより浮き彫りになったということが最近の関心の高まり、そして関心を持ち続けなければならない最大の理由であるとの意見が述べられた。

○ 若者を鍛え、育て上げた中でどのようなことを感じたか、また自立させるために何が重要かとの質疑に対して、人間は社会の役に立つために生きており、人のために行ったことに関してやりがいや生きがいができ上がっていき、目標も次第に見えてくるが、目標を持って努力することと目標を持たないで努力することとでは全く異なり、また、外食産業はアルバイト、フリーターといった従業員が半数以上を占めているが、社会保険を労働時間に応じて掛けなければならず、言わば社員と同様の感覚で勤めており、アルバイトの幹部も登用し始めている状況であり、昔ならみんな独立したいと言ったが、今独立を望まない者は三分の一程度、幹部も目指さないという者も出てきており、社長としてしっかり若者をサポートしていけたらという思いのみであるとの意見が述べられた。

○ ニートが相談できる若者をどのように育てるのかとの質疑に対して、スタッフに、ほどほどという意味で、適当にやっておいてと伝えており、困ったときに自分たちの抱えた問題を外の人に相談することによって解決法を得てもいるし、現場の人間や若い人を積極的に出してやることが大事であると思っており、また、スタッフは基本的に一年契約で、自分でやりたいことを見付けたら次へ行っていいよと余り縛らないようにしており、そして、フリーター支援には第三者の支援が必要であると言われるが、ニート支援に関しては、第三者よりも一歩当人に近い人が必要ではないかと思っており、第三者につなぐ役割をあえて同世代の若者が行うのは、大変意味のあることではないかとの意見が述べられた。

○ 貧困がなぜニート問題を引き起こすのかとの質疑に対して、無業の若者は意外と地元志向で、高校を卒業して都会の大学に出すほどお金を払えず、また仕送りもできないため、結果的に地元にとどまり、地元でコネもなく、正社員の仕事はほとんどないため、フリーターに就こうものなら、フリーターには未来がないと言われ、働いてもしようがないのかと思い、子どもの数が少ないので親も地元から出したくないというジレンマの中で結果的にチャンスを失うケースがたくさんあり、また、貧しい家庭ほど、子どもに構っていられないというケースもあり、今は社会が分断化されてつながりを持てず、貧しくても社会のつながりの中でチャンスを得るというケースが非常に難しくなっており、こうした問題が重なって、貧困問題、階層問題が若者を結果的に無業にさせている面が強いとの意見が述べられた。

○ 心の教育や生きる力、新しい人間関係をどうやって短い時間でつくることができるのか、なぜ子どもは短い体験を通してそう感じるのか、長い学校教育と対比してどうなのかとの質疑に対して、わずか一週間のトライやる・ウィークで、心の教育が充実したり、生きる力が付いたりするとは毛頭思っていないが、「トライやる」をきっかけにして、何らかの兆し、展望が見えてきたことは事実であり、教師は、自分たちだけでなく地域の人と一緒に子どもをはぐくんでいくことが大事であるということが少し分かってきて、地域の方も「トライやる」の子どもを受け入れていく中で、大人も何らかの形で子どもにかかわっていかなければいけないと意識が変わるきっかけになっているとの意見が述べられた。

○ アルバイトやパートで、当座自分が必要なものが買えるまで働いて、それを手に入れたらもう働かないということが学生時代に行われ、自分は生涯こうして働いていきたいということを思わない環境が人生の一番大事なときにでき上がってきているのではないかと思うがいかがかとの質疑に対して、人間は独りで生きているが、お互いに影響を受け、与え合って生きており、基本的にはとらえ方、考え方に尽きると思っているとの意見が述べられた。

○ ニートやフリーターの支援に携わる人が辞めていくという話があったが、どうしたらつなぎ止めていけるのかとの質疑に対して、辞めていくことを食い止めるためには社会が応援することであり、今考えている対策を是非続け、より効率的にうまくやっていくことを具体的に積み重ねていくことが一番大事であると思っているとの意見が述べられた。また、NPOにも、本気で経営していこうとするものと、自分たちの思いを一生懸命社会に還元しようとするものの二つがあり、非営利だからお金は要らないという社会の誤解があったりするのでつらいところもあるが、ニートが働けるようになるときに一番必要なのは、経験を積ませる研修内容であり、そのためには実際に仕事をもらわなくてはならず、経営基盤や財政基盤がうまく回るような環境があればよいとの意見が述べられた。

○ 結論的にはニートは甘えており、学校教育や家庭教育にニートを生み出す原因があるのではないかとの質疑に対して、ニートの中で甘えている子がいないとは言わないが、甘えているといって切り捨ててほうっておくと、ホームレスにしかならなくなり、そうでなければ人から奪うか盗むしかないので、社会的な問題を考えて、甘えていると思っていても言わないようにしているとの意見が述べられた。また、是非知っておいてほしいのは、テレビに登場するニートやフリーターはかなり特別であって、現実とは若干離れていると思っており、学校教育や家庭教育の問題で、結果的に社会に依存がちになってくる若者を甘えという言葉で切り捨ててしまうようなことにならないようにしていきたいとの意見が述べられた。

○ ニート、フリーターで、就業支援センターに来られない人、来ない人の対策をどうするのかとの質疑に対して、就業支援センターが、足を運ばせるように努力をしたのかが問題であって、親向けに行ってほしいと言っても実際に取り組んでくれたセンターは一つもなく、それでも、若者向けに一生懸命考えて取り組んでいるが、効果が出ない、来ないから支援対象に当たらないという判断をセンターがしてしまうことの方が怖いことではないかとの意見が述べられた。また、一部のNPOでは、同年代の人たちが実際に家に通いながら、子どもたちを上手に家から引き出して親との引き離しをするというノウハウや経験を持っているところもあるが、お金を出してNPOや第三者に頼める親ばかりではないという事実もあり、子どもが直接足を運ぶことは大変なエネルギーを必要とするので、足を運ばない場合に、親のプライバシーを守りながら、親が真剣に子どものことを相談できる機関をつくっていかないと、現状では難しいとの意見が述べられた。

○ フリーター対策には、正社員になることを勧める方法と、フリーターの立場でありながらもその処遇を上げていき、同一価値労働同一賃金、社会保障といった面を拡充する方法があるが、どちらに重点を置く方がよいのかとの質疑に対して、絶対に正社員の方で推していく方がよく、その理由は二つあり、特に二十代後半の六割から七割の若者が正社員を希望していることが一点であり、もう一点は、社会も大分労働形態の広がりを認めていると思うが、うちの息子だけは正社員、うちの娘は公務員という保護者の意識がまだあり、親と一緒に住んでいるフリーターが多いため、親の意向がやはり大きいことであるとの意見が述べられた。

○ 昔であれば地域コミュニティーがあり、そこでいろいろなコミュニケーションを取る力が育ってきたが、地域コミュニティーの再生を考える上で、どのような対策を取ればニート対策にもなるのかとの質疑に対して、若者は、コミュニケーション力がないと過剰に自分で思っている、ないしは思い込まされていると考えているが、自分でも何とかなるということを実感させることが重要なので、キャリア・スタート・ウィークは非常にすばらしいと思うが、金額にせよ、方法にせよ、全く不十分であり、また、十四歳の十一月は荒れて、精神が非常に不安定になるので、そのときに、大人が本気になって、地域で子どもたちを受け入れる一週間にするなど大規模な企画が必要であると思うが、そうでなくとも、例えば地域の祭りや農業体験など、地域で子どもたちに期待し、役割を持たせることを上手に大人が行うことであるとの意見が述べられた。

○ 兵庫県の取組は、最初の体験者は、もう二十一、二歳で、そろそろ就職のときであると思うが、未経験者に比べて就職に対する意識がどう変わっているのかとの質疑に対して、実際に就職し、働いてみて、「トライやる」はどうだったのか、また「トライやる」を経験していない子どもたちとどう違うのかといったことについては、現時点では検証できていないので、是非、十年目の検証のときにこれらも含めて行いたいとの意見が述べられた。

○ 若者を育てる経営者の輪を広げていく仕組みについて何か考えているかとの質疑に対して、どんな思いで接しているのかということは敏感に感じ取るが、余り真剣、深刻に考えるよりも楽しみながらやっていくという部分から切り込んでいった方がよいような気がするとの意見が述べられた。

○ 仮に二百十三万人の社員がニートであるとして、社長、経営者として意欲を持たせ、力を付けさせていくためにどのような方法論があるのかとの質疑に対して、少しでもやる気のある人間を核にしながら、ニートをニートが世話するようなことがよいと思うとの意見が述べられた。

○ ニートは悪戦苦闘能力不足ではないかと思うが、若者が若者を支援していく、また団体がニートを支援していく方策についてアイデアがあれば伺いたいとの質疑に対して、なぜ失敗経験、負ける経験がないかについては、家庭、親の問題が大きく、子どもが小さいときに失敗経験をさせるように政策的に親を変えることは大変難しい問題なので、もう一つの期待は学校の先生だが、先生に過大な負担を掛けることは現実には難しいので、スクールカウンセラー的でもあり、ソーシャルワーカー的でもあり、キャリアコンサルタント的でもあるような資格を持った若者をつくっていくことが必要であると思っており、学校の先生や親ばかりに期待しても現実的には難しいとの意見が述べられた。

○ 労働という国民の義務を果たさないのではなくて、果たせないという言葉を使う感覚はなかなか理解できないものがあるが、ニートの時代背景、経済背景、共通点は何かとの質疑に対して、社会的な背景としては、大人はだれも二十歳の若者を成人だと思って扱っておらず、少なくとも二十歳が大人とみなされない以上、三十歳程度までは迷いがあっても当たり前という社会的な背景が大事であり、成長における背景として余り怒られてこなかったので苦労もしていないことがあるとの意見が述べられた。

○ 家庭でニートを抱えて、悩んでいる両親に対して、具体的に何かよいアドバイスはあるかとの質疑に対して、自分がなぜ働いているのか、子どもにどうなってほしいのかということをより的確、正直、誠実に伝えることであるとの意見が述べられた。また、役場やハローワークに行って、最近、若い人を支援する窓口ができたそうだが、それはどこにあるかと聞いてもらいたいと言っており、そして、子どものせいにしたり家庭だけで抱えても問題は解決しないので、専門家のところに相談に行き、インターネットが使えるのであれば支援するNPOを探し、子どもが引きこもりであると思ったら引きこもりの親の会を探してほしいが、どのような若者支援のNPOがあるか、内閣府にも、多分厚生労働省にもリストは存在しないので、大至急調べて、ここに相談に行けばこれぐらいのことをしてくれるという情報リストを作成し、だれもが無料で入手できるようにすべきであるとの意見が述べられた。

(六)経済社会の変化に対応した人材育成の在り方について

 平成十七年五月十一日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、経済社会の変化に対応した人材育成の在り方について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(早稲田大学ビジネススクール経営専門職大学院教授  梅津 祐良 参考人)

 MBA(経営専門職大学院)は、ロースクールと並び実務的な教育を行うことが目的であり、様々なビジネス上の問題、状況にぶつかったときに適切な意思決定ができるための訓練、将来経営のリーダーシップを担うことができる若手人材の育成を目標に教えている。MBAの学生は、平均年齢二十八歳程度で、マネジャーの前程度の者に非常に実践的な教育を行っている。

 ケースや実例を使って意思決定力を鍛えるが、戦略、状況分析、環境分析、財務、会計、人事、組織、セールス、マーケティング、バリューチェーン、ロジスティックス、起業、倫理、ガバナンス、ビジネス関係の法律などの分野を広く取り上げ、討論をしながら意思決定をしつつ問題解決を図っていく。最適のプラクティスを一緒に勉強しているということになるかと思う。経営学は理論あるいは学問として確立していないと考えており、そのため各分野で実務的な面を重視して教えるという教育になっているかと思う。

 一九九〇年以降、世の中の変化は激しく、ビジネスも急速に変化し、MBA教育はそれに対応していく必要があり、新しいビジネスモデル、考え方もたくさん出てくるため、経済社会の変化に常に注目していかなければならないと思っている。

 MBA教育についてはアメリカが先進国であり、一番古いビジネススクールであるウォートン・スクールは一八五〇年代に創立されており、現在、全米で約六百校のMBAと称している学校があり、そのうち信頼できる学校が百五十校から二百校程度ある。大変な数のMBAホルダーが卒業してビジネス界で活躍している。ようやく日本でもMBA教育が始まったが、キャッチアップには相当に時間が掛かりそうであり、アメリカのMBA教育を参考にしていかなければならないと考えている。

 企業内教育の人材育成については、入社後研修、階層別経営研修、技術伝承訓練、キャリア開発の四分野を掲げた。入社後研修は、日本企業は非常にしっかりした教育を行っており、しかも、多くの部門を経験しながら企業について学ぶということでは大変優れた教育が行われていると思う。階層別教育も概して日本企業では非常にしっかりした教育が行われていると思うが、例えば係長、課長、部長に昇進した後すぐ研修を受けるため、訓練すべきことをしっかりつかんでいるのかという疑問が若干ある。内容というよりは心得が重視されているという感じがする。トップマネジメントと管理者、マネジャーとのせめぎ合いというか、相互で磨くというか、この辺はとてもいい研修かと思う。技術伝承の問題については、団塊世代の定年退職による技術伝承は、定年延長を図って何とか体系的につなげていくという課題を各企業とも抱えているが、体系的に行えばできない相談ではないと考える。キャリア開発については、日本企業のキャリア開発はよく機能していると思うが、一つだけ問題点を申し上げると、かなり若い層から大胆にリーダーを登用していく、活用していくということが大変重要な課題かと思う。

(ジャーナリスト  多賀 幹子 参考人)

 一九九五年から二〇〇一年までロンドンに暮らしたが、女性の学力上位が盛んに言われていた。GCSEという十六歳全員が受けなくてはならない全国共通の義務教育修了試験があるが、全科目で女子学生の成績が上という結果が出た。男女の学力格差が開いているので、当時のブランケット教育相が、男子生徒の奮起を何とか促したいということで、一つは、サッカー、フットボールが大変活発な国なので、教材にサッカーなどを取り入れること、もう一つは、小学校、中学校に男性の教師をもっと入れることを行ったが、全く成績は変わらず、効果がなかった。

 その際、女子は成熟度が早いので、その時期を過ぎれば男子が抜き去るに違いないという、十六歳という年齢からくるものだという意見があったが、大学の首席の数や二十代の弁護士数では女性の方が多く、大学の助教授でも男女がほぼ同数という数字があり、そうとも言えなくなった。

 そして、男子の方を底上げするよりも、教育界の男女平等を社会にこそ持っていくべきだというような発想の転換をすべきだという意見が出てきた。考えてみれば、サッチャーという女性首相が一九七九年に出ており、もう半世紀もエリザベス女王を頂いているような社会であるが、教育界の平等を社会にまで伸ばそうということが今イギリスの最先端で言われている。

 ギャップイヤーは、高校を出て大変な入学試験を頑張り、大学に合格したときに、入学資格を持ったまま一年間の猶予期間が与えられる制度である。これで何をやるかというと、アルバイト、旅行、ボランティアの三つである。入学試験の疲れをいやし、リフレッシュして、自分がなぜこれから勉強するか、大学で何を勉強するか、何のために勉強するかということを非常にはっきりつかまえて戻ってくる。非常にいきな計らいというか、道草の効用というか、真っすぐ直線で行くだけがよいとは限らず、一年間遊んでおいでと言いながら、その子どもを信用し、成長させて帰ってくる。寿命が延びた今、日本もこんなことができたらなかなかよいのではないか。

 先日イギリスに行ったときに面白いと思ったものは、恐らく世界初と言われている父親向けに創刊された、その名前も「ダッド」という育児雑誌である。ハウツーものが全然なく、男、父親とは何か、自分に対する人生の環境の新しい局面にどのように上手に適応していくかにページを割いている。日本でも父親が家に帰って一体何をするんだ、どういうことをするのが父親の育児休業かということを是非しっかり言っていただいて、父親としての在り方という父親哲学を一回是非打ち出すべきだと考えている。

 長男八歳、長女五歳という二人の子どもを連れて、八三年から八八年まで五年間ほどニューヨークの経験をしたが、本当にすばらしい体験だった。アメリカの教育の基本はセルフエスティームという、自尊の心、自分を愛する心、自分を大事にする心を養うことだと思う。自分を愛せない子が他人を愛せるわけはないし、自分を大事にできない子どもがほかの子どもを大事にできるわけがない。

 日本に帰ってくると全部減点法で、あれが悪いこれが悪いとずっと言われ続けて、ぷしゅんとなることがとても多い。日本の子どもと取材で話をしても、どうせ自分なんかという言葉が出る。日本は昔から子どもは豚児とか妻は愚妻と言われてきた国だが、本当にこんなところがすばらしいのよと、そんな子どもを肯定する教育、これがアメリカのいろいろな弊害を起こしているという言い方もできるかもしれないが、取りあえず子どもが前向きに何でもチャレンジしたり、勇気を持って挑戦していく力は、自尊、セルフエスティームというところから生まれているのではないか。

(お茶の水女子大学文教育学部教授  耳塚 寛明 参考人)

 本日のテーマに高卒無業者問題を切り口としてアプローチしたい。高卒無業者とは、高校卒業後、就職も進学もしない者、フリーターやニートと重なる若者である。彼らに注目することは、若者が学校から職業の世界へ、青少年期から成人期へという移行の仕組みに注目することである。

 従来、若者は学校から職業世界へと間断なく移行するのが普通であった。一九八〇年代までの高校卒業者の進路は、上級学校への進学、就職の二つであった。ところが、九〇年代以降、事態に変化の兆しが表れるようになる。高卒者に占める無業者の比率は九二年の四・七%がボトムで、以後は漸増し、二〇〇四年には十三万二千人余り、一割強を占めるに至った。この数値は、大都市圏で突出して高く、進学に続く第二の進路として定着していると言ってもいい状況である。ただ、地方郡部でも二〇〇〇年代に入って、拡大傾向が見られる。

 八〇年代までは、職業社会からの強いプル、学校からの強いプッシュもあって、青少年は学校から職業社会へと直接入っていけた。ところが、九〇年代以降はこのメカニズムが作動しなくなって無業者空間が生まれた。その原因は、プル要因では、高卒労働市場が求人難から著しく小さなものとなってきたことである。プッシュ要因では、八〇年代以降、個を生かす、生きる力、新しい学力観、ゆとり教育が強調されるようになり、希望・自己選択を重視すること、進路を強制しないことが高校教員の進路指導理論として優勢になったことである。

 学校生活の比重が小さくなってきたことも高卒無業者の増加にかかわっている。家で勉強する習慣、欠席しないことという生徒としての基本的な役割の遂行にすら問題が見られるようになってきた。一方で、アルバイト経験が豊富であり、経済的に見ると一人前の消費生活人である。時々生徒という役割を演じるという意味でパートタイム生徒と私は呼んでいる。

 相対的に低い階層の出身者がより高い確率で高卒無業者やフリーターになりやすいという調査結果が出ている。その原因の一つは、社会階層が学力や高校階層構造を媒介として職業社会への移行と関連していることである。もう一つは、社会階層が階層下位文化によって特定の進路選択を促すことである。

 特に前者については、関東地方十二都市の公立小学校の児童を対象とした算数の学力調査の結果で、家庭での学習時間が学力と結び付いている一方で、父親が大卒である方が学力が高いという結果が出た。注目すべき点は、家で全く勉強しない子どもの得点は、父親が非大卒階層の場合は約七〇%であるのに対して、父親が大卒階層の場合は約八〇%で、約一〇%ポイントの差があることである。家庭的な背景が子どもの学力を左右している。

 以上のように、相対的に低い階層を出自とする子どもが高卒労働市場逼迫の直撃を受け、さらに経済的理由や家庭的背景から学力と進学機会を奪われるという二重の機会の喪失の末に高卒無業者となって、学校と職業世界のはざまにさまよい出ていく。このことは何を意味しているかというと、第一に社会的に対応を要する問題ではないかということであり、第二に機会が均等である中での不平等な現象であると考えられるということである。学力形成や進路選択の過程に隠れている家庭の経済や文化の影響力を平準化しなければ問題は解決しない。そのためには教育的な支援が不可欠である。エリート層を伸ばすことも重要であるが、家庭的な背景ゆえに学力に低下を来し、あるいは特定の進路選択を強いられてしまう層の子どもに対して手厚くなされるべきだと考える。今や日本社会においても社会階層間の格差は不可欠な視点ではないかと思う。

 高卒者の就職支援の問題については、職業的成熟と職業的能力を高める必要があると考えている。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ イギリスでは、女子の方が男子よりも成績がよい一方、賃金は男性の方が女性よりも高く、女性の役員がいる大企業は七%であり、また、父親が育児休暇を取っているわけでもないという状況をどうとらえたらよいのかとの質疑に対して、社会に出ると両立は大変難しいが、二〇〇〇年にブレア首相が育児休暇を取得したことを機に、二週間の給付金が父親に出る育児休暇がスタートするなどの結果、副産物として出生率も一・六四から一・七一まで回復しており、完璧ではないができることはどんどんやっていこうということで、これからどのように両立が進んでいくか注目して見ていきたいとの認識が示された。

○ イギリスのギャップイヤーはよい制度にもかかわらず利用率が二〇%と低いのはなぜかとの質疑に対して、今、利用率は二五%程度になっており、まだ階級社会が色濃く残っているため、高校によって大きく違うが、ギャップイヤーを高校と大学の間ではなく、大学卒業と就職の間や働いて三年たったところで取るなど、広がりを見せているとの意見が述べられた。

○ ロンドンにおいて、生徒を褒めることでセルフエスティームを持たせ成功した学校の事例について伺いたいとの質疑に対して、自分を大事にする気持ちをまず植え付けて、そうすれば他人を大事にして尊ぶことになり、何か起きたときに自分を尊ぶ心が物を言うことがあるであろうとの意見が述べられた。

○ これからの経営者に言いたいことは何かとの質疑に対して、日本の経営者のクオリティーは一般的には大変高いものの、グローバル化の観点からは少し足りないが、最近、成功している企業の経営者はアメリカやヨーロッパの法人の社長をした方が多く、国際的な感覚を持つ大変優れた経営者が出てきており、優れた経営者の下で優れた業績が生まれているのではないかとの意見が述べられた。

○ 日本は男女共同参画社会の法律ができて、よくなると思っていたにもかかわらず、バックラッシュがたくさんあり、うまくいっていないが見解を伺いたいとの質疑に対して、イギリスでは、ワーキングマザーへのバッシングが起きているが、女性の社会進出と同時に、どうしてもバックラッシュは出てくるように思われ、それを乗り越えるしかなく、バックラッシュであるということは言葉に出してよいと思うとの意見が述べられた。

○ 三位一体改革の中で、教育に対して財政力のある県とそうでない県のギャップが出てくるのではないかと心配しているが、日本の教育の将来をどう考えるかとの質疑に対して、地方あるいは現場の自立を高めていく方向は基本的に賛成であるが、同時に、クオリティーを保持する仕組みも押さえておかなければならず、財務は国が権限を握り補助金の形で配分すべきという考えと、財務は自由にし、教育課程の基準さえ国が持っていれば大丈夫ではないかという考えがあるが、どちらかというと、自治体間の格差は開いていくと思っており、教育は事後評価のみならず、条件をきちんと整えてやることが必要な社会制度と思われるので、財政まで地方の自立性に任せる方向は否定的にとらえているとの意見が述べられた。

○ ガバナンスとマネジメントの分離が進み始める中で、企業の人材開発における注意点は何かとの質疑に対して、日本では、オフィサーとボードのチェアマンの役割が分離しておらず、概念、実践としても定着していないので、きちんと分けることが必要であり、育成についても、どういう道でトップ層の教育をしていくのかという方向付けをして育てていくべきだとの意見が述べられた。また、日本企業でガバナンスが機能しない理由は何かとの質疑に対して、ガバナンスという考え方自体がまだ日本で非常に新しく、機能させるためには、ボードの強化、監査役機能の強化、オフィサーとボードのしっかりした区分けが必要であるとの意見が述べられた。

○ 日本でもギャップイヤーを導入すればニートの増大に歯止めが掛けられるのか、ニートとギャップイヤーの関係はどうかとの質疑に対して、ギャップイヤーは高校と大学の間だけであったが、就職前や就職三年後でもよいと非常に広がりを見せているので、ギャップイヤーを取ってもう一度自分を見直していくことは十分に可能であり、ニートもパーソナルアシスタントと話し、いろいろなことを聞いて自分の将来を決めていくので、自分探しということでは、両者は重なる部分が十分にあるのではないかとの意見が述べられた。

○ 社会階層の視点を持った教育的支援をする上で、学校教育、家庭教育及び地域教育の連携が重要と考えるが、その際の留意点は何かとの質疑に対して、教育的支援は不可欠で、その際にはエリートセクターを伸ばすことが重要であると同時に、家庭的な背景ゆえに学力低下や特定の進路選択をせざるを得ないような子どもに対して、手厚くなされる必要があり、具体的には、学校、家庭、地域の連携という、ミクロレベルでの問題解決を図ることと、よりマクロな社会政策において格差をできるだけ小さくする政策や教育政策上の工夫が必要であり、もっと国全体として学力をどう定義するのかを考えるべきではないかとの意見が述べられた。

○ JR西日本の問題なども対比して、社会的責任や雇用の確保という点における経営者のリーダーシップの在り方を伺いたいとの質疑に対して、JR西日本については、財務的な目標に目を向け過ぎたような気がしており、その後の改革の方向性は間違っていないと思うが、風土や文化を改革することはとても骨が折れるので、真剣に取り組み、その上で気働き、EQを導入したらよいのではないかとの意見が述べられた。

○ アメリカ及びイギリスにおいて、自分や夢を大切にする教育と就職指導はどのように連携しているのかとの質疑に対して、アメリカでは子どものときからアイデアで稼ぐのがとても大事なことだと言っており、職業指導を行っている感じであるが、イギリスではまだ階級があり、職業訓練学校を休まないと学校からお小遣いが与えられる、ボランティアで職業訓練をさせる、インターンシップでコミュニケーション能力や忍耐力を養うなど、階級を超えていかに労働者階級の子どもにも職業の自由を与えるかというような感じであり、実践的なところが非常によく見られるとの意見が述べられた。

○ 教育における今の進路指導を変えるべきなのか、あるいはそれが生きるように社会を変えるべきなのかとの質疑に対して、バリューとポシビリティーの両方の視点が重要であり、バリューだけあって実現可能性が考慮されないような選択は無意味で、人々、青少年の選択は機会構造の中で制約された範囲で行われるにすぎず、ポシビリティーだけが重視されたら、人々はその職業に自負、誇りや熱意を持つこともできず、継続することも不可能になるので、既存の機会に唯々諾々と従うだけではなく、できるだけ人々が意欲や誇りを持てるような仕事を創出する努力も同時に必要になるのではないかとの意見が述べられた。

○ 最近、企業が利に走り過ぎている事件が続いているが、経営者の倫理と責任をどう考えるのかとの質疑に対して、企業にはステークホルダー、企業を取り巻く利害関係を持つ人たちがおり、かつて日本の企業にその順位付けを聞くと、顧客か人材が一番で、社会、行政、銀行であったが、このごろはグローバル競争に巻き込まれ、利益を上げないと仕方がなく、日本の経営者もつらい立場に置かれているが、やはり従業員や顧客などの優先順位を高めて経営してもらいたいとの意見が述べられた。

○ イギリスではニートが減ってきているとのことであるが、我が国のニート対策をどう考えるのかとの質疑に対して、子どもが働く意欲がないというのは必ずしも当たっておらず、非常に意欲にあふれ、何かをしたいという気持ちを結構持っている人がいるのに、親が見栄っ張りでつぶしてしまい、子どもをニートにしていると思うので、親に対するペアレンティングクラスのようなものを大学や地区に置いて、大学の単位で行われるとよいとの意見が述べられた。

○ 具体的に高卒無業者をどう教育し、労働市場へ復帰させるのかとの質疑に対して、職業的成熟と即戦力としての専門的な能力の二つの質を高めることが必要であるが、新規高卒者と競合するのは、大卒者よりも中途採用の労働者で、新規高卒者は、協調性、会社への忠誠心、勤続意欲の堅さ、生活のために働く姿勢など職業的な成熟が欠けており、問題の根っこは、青年期と家族の依存関係であるとの意見が述べられた。

○ アメリカのMBA教育について、日本のMBA教育と比べて進んでいる点及び日本の中小企業大学校のような実学の教育機関のカリキュラムに取り入れるとよい点等を伺いたいとの質疑に対して、日本のMBA教育はアメリカに一生懸命追い付こうとしているのでだんだんギャップは埋まっていると思うが、リスクテーキング面が少し欠け、また、中小企業大学校に相当する機関を承知していないが、アメリカのMBA教育では新しく企業を起こすことを一生懸命実施しているとの意見が述べられた。

○ 「ビジネスで取り組む諸分野」について、特にこれから若い人材に求められていく資質の中で優先順位を付けるとどのようになるか、逆に言えば、日本のこれからを引っ張っていく経営リーダーに欠けているもの、必要とされるものは何かとの質疑に対して、MBA教育で最も重要なのは戦略的思考であり、状況を読んで、どういう方向に自分たちは向かわなければならないのかということをきちんとつかめる人材をつくりたいとの意見が述べられた。

○ リストラをする場合には、ただ単に定年退職やリストラにより人件費を減らすだけでは長期的には駄目であり、全体として例えば五%程度総人件費を圧縮しながらも、若い新規雇用を継続的に行う企業が成長し、このことによって技術伝承がなされているという主張は、学問的に実証されているのかとの質疑に対して、リストラだけ行って新規事業を起こさないところ、適切な投資をしないところ、若い人材を採らないところは長期的に衰退に向かうと考えているとの意見が述べられた。

○ ワーキングリンクスについて詳しく説明してほしいとの質疑に対して、イギリス政府と民間会社が一体で再就職問題に全面的に取り組んでおり、失業期間が長い人は、なかなかもう一回働きたいという動機付けが難しいようで、十年後はあなたは何をしていると思うか、あなたの子どもさんがお父さんは何をしていますかと聞かれたら何と答えるかというような心理学者の質問を通じた動機付けから入っているようであり、また政府からお金が出るため、まず散髪に行く、スーツを買う、靴を買う、携帯電話を持つということから始め、面接の練習をするなど非常に手厚い感じがしたとの説明があった。また、ワーキングリンクスにおける官の役割は何かとの質疑に対して、政府は、民間会社が失業者の再就職を成功させた場合に成功報酬を支払うだけであるとの説明があった。

○ 今の日本では博士号を取っても、大学に残ったり研究所に進んで研究したりすることができるのは半分程度だそうだが、MBAを取ると就職率がどうなるのかとの質疑に対して、MBAの修了者はかなり就職については有利に進めており、企業から派遣された人は最近では二割程度で、あとは大体会社を辞めるか休職して来ており、卒業するとほとんど私企業にまた帰るが、同じ会社の場合もあるし別の会社の場合もあり、その他コンサルティング会社や、国際機関へ就職する人も最近増えてきているとの説明があった。

○ 高等専門学校の卒業者はほぼ一〇〇%就職が決まるが、工業高校の卒業者は七〇%から七五%と少し低くなる、つまり工業高校は少し中途半端なので、例えば高等専門工業高校のように両者を一緒にして四年制程度にしてしっかり教えるようにするとかなり就職率も上がるのではないかとの質疑に対して、専門的能力等を高めて雇用可能性を高めることにつながるような新しいタイプの学校の創設であるならば、是非実現した方がいいが、第一にこれ以上上級学校への進学にすべての者が堪え得るというわけではないこと、第二に教育年限を延長することによって果たして専門的能力が高まったり雇用可能性が高まるか、問題が高校卒業の段階からその上の段階に移るだけで、同じ現象が起こってしまうのではないかといった辺りが問題になろうかと思うので、もう少し慎重に考えてみたいとの意見が述べられた。

○ NPO法人「育て上げ」ネットの工藤理事長は、ニートになっている人たちはコミュニケーションが取れず、社会の入口で立ち止まっているものの、少しの大人のおせっかいがあればすぐ社会に溶け込んでいくと話していたが、ニートになった人たちをどう手助けしていくのかとの質疑に対して、社会科学を専攻する者としては、そのようには認識しておらず、若者の多様性と彼らを区分するときの仕方にもう少し慎重でなければならず、我が国では、ニートという言葉がある種の者たちに限定して使われる傾向があってそれが誤解を招いているのではないか、本来は雇用されてもいないし、教育機関にもいないし、訓練機関にもいないという意味であって、その中には様々な人々が含まれており、その一部にパーソナリティーや個人の問題で職業世界に入りにくいようなタイプの若者がいると理解すべきで、ニートの中には職業世界に入っていくことを支援することによって功を奏すタイプの若者もいるかもしれないが、元々やる気は持っているけれども、機会構造の問題として入っていくことができない若者もおり、ニートという言葉をもう少し丁寧に使い、いろいろなものがそこに含まれていて、それぞれ必要な支援が違うということを考える必要があろうとの意見が述べられた。

○ 社会的な問題を起こした経営者が自ら責任を持って解決をするということについてはどうしても限界があり、できるだけ早く責任を取って、新たな形で新たな立場の人が取り組んでいくことが必要な部分もあるのではないかと考えるが、経営者自身の倫理観ということも含め見解を伺いたいとの質疑に対して、倫理観は皆持っていると思うが、トップが現場から離れ過ぎたことと、官僚主義で上から下という命令系統が働いており下から上へつながっていないため、下から悪いニュースが上がってこないということが少し問題であるとの意見が述べられた。

○ 日本で男性が育児に積極的にかかわるようになるためにはどういう条件が必要かとの質疑に対して、育児休業を取得する男性の代替要員の確保についてのアドバイザーを企業に置くとよい、さらに、どうして子どもがいる人だけ休めるのかという不公平感の高まりに対応して、育児のほか介護などでも休めるような柔軟な働き方が全般に及んでいくようになることが期待されるとの意見が述べられた。

○ 九〇年代以降職業社会から学校へのプルが弱くなった具体的な理由は何かとの質疑に対して、バブル経済崩壊などの景気の問題、高等教育への進学率の上昇を背景として徐々に高学歴へとシフトしていった求人、非正規労働市場の拡大、つまりこれまでであれば正社員として雇用していたのに、それをパートやアルバイトによって便利な労働力を調達するようになってきていることの三つであるとの説明があった。

○ 「作動しない調整システム」の内容は何かとの質疑に対して、学校の中でいえば進路指導、就職あっせんの仕組みで、もう少し広くとらえれば就職慣行と言われている慣行であり、新規高卒者の場合、指定校制、校内選考、一人一社制といった独特の慣行があり、これらは、求人も求職も大量にあって、そのマッチングをするときには大変うまく機能していたという意味で調整システムとしてはよくできたものだったが、求人数自体が著しく小さくなってくると、このような就職慣行があること自体がむしろ逆の問題を起こしてしまうということになり、調整システムもうまく作動しなくなるような時代になってしまったということであるとの説明があった。

二 政府からの説明聴取及び質疑応答

(一)構造改革と経済財政の中期展望及び新産業創造戦略について

 平成十六年十一月十日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、構造改革と経済財政の中期展望について内閣府から、新産業創造戦略について経済産業省から、それぞれ説明を聴取し、質疑を行った。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 国民が景気の回復を感じられない理由は何かとの質疑に対して、地域間のばらつきが非常に大きいこと、非製造業、中小企業の業況感が改善しないことから回復感が浸透せず、また、労働分配率が下がり、家計部門で所得が向上したという実感を持ちにくく、加えて正規雇用が増えないため回復が実感されないが、消費も投資もすべて堅調に伸びており、この観点からは順調に回復していると考えているとの答弁があった。

○ デフレ対策は効果を上げているのかとの質疑に対して、デフレ克服と経済活性化のため、金融、税制、規制、歳出の改革を進めており、依然として緩やかなデフレ状況ではあるが、骨太の方針二〇〇四に基づき、この成果を地域あるいは中小企業に浸透させ、併せて、日本銀行と一体となり、集中調整期間終了後におけるデフレからの脱却を確実なものにするために努力をしたいとの答弁があった。

○ 地域の活性化、新産業形成のためのインキュベーターの形成に関し、都道府県の取組と経済産業省の戦略がどのようにリンクするのかとの質疑に対して、新産業創造戦略の施策の重点の一つが研究開発であり、地域の特色ある研究機関の活躍に期待し、都道府県の拠点整備についてはできるだけの支援を行いたいとの答弁があった。

○ 地方交付税の七・八兆円削減という考え方は、地域経済に大きな影響があり、目先の国の収支にこだわるべきではないと考えるがどうかとの質疑に対して、国も厳しく一般歳出を見直すという方針で予算編成作業に取り組んでいると承知しており、地方財政計画の在り方についても議論があるが、国と地方が歩調を合わせて財政構造改革に取り組んでいくという基本的なスタンスは変わらないとの答弁があった。また、国と地方を合わせたプライマリーバランスという考え方は、国の財政規律の歯止めとして機能していないのではないかとの質疑に対して、程度については議論があると思うが、機能していないということはないとの答弁があった。

○ 「改革と展望」の期間における年度別及びトータルの租税弾性値をどのように想定しているのかとの質疑に対して、特定の弾性値は想定していないが、データから計測される弾性値は過去の減税等の効果込みのものであり、それに比べると制度改正を前提としない場合の弾性値は、特に所得税については高めのものになるとの答弁があった。また、事後的に算出される税収弾性値はいくらかとの質疑に対して、時期によっても違うが、印象では一・二程度であるとの答弁があった。

○ フリーター等を対象に人材投資減税が行われることも重要であり、国の政策効果によって人材投資が増えていくとの観点が必要ではないかとの質疑に対して、企業に対する人材投資減税を要求しており、税の理論からは個人に対する所得税減税はなかなか難しいと承知しているとの答弁があった。

○ 「改革と展望」の試算では定率減税の廃止を想定しているのか、またその影響をどのように考えているのかとの質疑に対して、明示的に見込んだ試算は行っていないが、基礎年金の国庫負担割合の引上げについては、家計負担で引き上げるという想定を置いており、定率減税の廃止はマクロ的には同様の効果があると考えるとの答弁があった。

○ ものづくりの現場では、いわゆる派遣や請負が非常に増え、ものづくりのスキルを身に付けられず、濃厚なチームワークも形成されないという問題があり、このような雇用状況、雇用政策は見直す必要があるのではないかとの質疑に対して、派遣労働ではものづくりの強さは出ないとの研究結果もあり、産業界でもようやくそのような認識になってきたとの答弁があった。

○ 「改革と展望」が想定している二%の経済成長率は、ほどほどの経済を考えているのか、少し過熱するような経済を考えているのかとの質疑に対して、おおむね二%程度の成長率であれば潜在的な成長率に沿った動きになると考えられ、ほどほどの成長率であるとの答弁があった。

○ 二〇〇四年度に不良債権問題を終結できるのかとの質疑に対して、終結させる方向で進んでいると考えるとの答弁があった。

○ ジョブカフェ事業によって三か月間で約三千人が就業できたとのことであるが、これは当初の予定どおりの数字か、また、来年度以降地域を拡大していくのか、その場合、現在の十五地域はどうなるのかとの質疑に対し、数値目標はなかったがよい成果であり、また、予算の増額を要求しているが、モデル事業であるため四十七都道府県全部に広げるというものではないとの答弁があった。

○ 国際競争に打ち勝つためには産業人材の育成が大事であり、財政状況は厳しいが積極的に予算化することを要望するがいかがかとの質疑に対して、全体の予算をできるだけ充実させ、また、政府を挙げて取り組むべきであり産業界もこれに協力する用意があるなどの提言を日本商工会議所と経団連がまとめており、日本全体で取り組む体制もでき上がってきたとの答弁があった。

○ 新産業創造戦略の説明には、我が国は地球温暖化、廃棄物問題等の環境制約、あるいはエネルギー等の資源制約に直面しているとされ、それに対応した将来の方向が記述されているが、この検討過程で環境省と議論したのかとの質疑に対して、環境省と議論をしたかは分からないが、環境政策に関しては環境省と日ごろから議論をしており、民間中心で進めるということについては一致するところが多いとの答弁があった。

○ 第三次産業、サービス業で働いている人の職場がなくなったときに、地域で雇用の循環を果たすことができるのかとの質疑に対して、介護、福祉の分野は、他の産業に比べ地方に需要の多い期待できる成長分野だと思っており、新産業創造戦略の大きな成長分野を担うと理解しているとの答弁があった。

○ 小中高校、大学における産業人材育成の具体策を伺いたいとの質疑に対して、小学校段階から学校で勤労意識、職業意識を持つような内容を取り入れてほしいと考えており、来年度是非予算化をしたいとの答弁があった。

○ ベンチャービジネスの現状はどうかとの質疑に対して、新産業創造戦略の中のすべての分野について、技術革新と産業起こし、雇用のかなりの部分は創業、ベンチャーに期待をしているとの答弁があった。

○ 伝統文化にかかわる技術の後継者が育っていないが、今後どのようにしていくのかとの質疑に対して、後継者問題、材料問題、技術問題は、今すぐ成果が上がるということではないかもしれないが、引き続き取り組んでいく課題であるとの答弁があった。

(二)雇用対策基本計画及び若年者に対する就業支援について

 平成十六年十一月十七日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、雇用対策基本計画について厚生労働省から、若年者に対する就業支援について文部科学省から、それぞれ説明を聴取し、質疑を行った。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ シルバー人材センターについての今後の考え方はどうかとの質疑に対して、現在、七十六万人の会員がおり、ボランタリーな団体として、仕事の開拓その他できるだけ自立して行うため、先般の高齢者雇用安定法の改正でも、短時間の就業について労働者派遣事業も行えるよう事業範囲を拡大するなどの対応を行っているとの答弁があった。

○ 若者自立・挑戦プランの成果はどうかとの質疑に対して、日本版デュアルシステムでは九月までに約一万三千五百人が標準五か月間の短期訓練を受講し、十月からは一年又は二年の長期訓練がスタートしたところであり、二週間程度のマナー講習等は約千四百コースで三万五千人が受講しており、若年者の就職基礎能力を公証するYES―プログラムは五百五十五講座、百四十四試験を認定しており、若者トライアル雇用では約八割が就職し、ジョブカフェは七月までに設置を予定している都道府県すべてで開設したとの答弁があった。 また、日本版デュアルシステムは、ドイツにおけるマイスター制の見直しも考慮したものかとの質疑に対して、ドイツを参考にはしているが、今の現実のニーズに対応して行っていくとの答弁があった。

○ キャリア教育の説明の中の一週間程度の職場体験は、カリキュラムの中で行うのか、夏休みを使うのかとの質疑に対して、教科の授業で実施する場合や総合的な学習の時間を使う場合、特別活動で行う場合もあり、まとまった方が教育効果は高いと考えているので、五日間程度をまとめた形で教育活動の中で取り組んでいくようにしたいとの答弁があった。

○ 外国人労働者のうち単純労働者の受入れについて慎重に対応するとした理由、背景を具体的数字を踏まえつつ伺いたいとの質疑に対して、二〇〇三年と二〇一五年の労働力人口の差が約七十万人、この間に仕事の高度化、合理化、生産性向上を行うことで、推計では国外から労働者を受け入れる必要はないとの答弁があった。また、雇用労働者数は約三百七十万人減るが、様々な施策によって労働力人口が三百万人プラスになり、結果としてマイナス七十万人になるとのことであるが、その裏付けと考え方を伺いたいとの質疑に対して、高齢者雇用安定法の改正は二〇一三年までに退職年齢を六十五歳に引き上げたいとの内容であり、女性の労働力率については解決しなければならない課題であると認識しており、若者の問題は一人一人の指導とミスマッチ対策を行っていかなければならないが、将来の労働力の供給面からはポテンシャルであり労働力率を引き上げるよう努力しなければならないとの答弁があった。

○ 若年者就職支援のためのYES―プログラムの概要とメリット、若者への浸透状況はどうかとの質疑に対して、今年度からスタートした制度であり、就職基礎能力修得証明書は発行件数六件で緒に就いたところであるが、認定講座数は五百五十五講座、試験数は百四十四試験を実施しており、浸透し活用してもらえれば、若者、企業の双方にとって非常に大きなメリットがあるため、周知徹底を図りたいとの答弁があった。

○ 来年度から実施される高等学校卒業程度認定試験の趣旨を各自治体、企業に徹底されたいがどうかとの質疑に対して、経済団体や地方公共団体に対し、試験の合格を高等学校の卒業と同等に扱うように要請し、また、より多くの若者がこの試験を進学や就職に活用できるように、その周知に努力したいとの答弁があった。

○ 若者の雇用問題は、働く側の若者への援助と雇う側の企業の対策が必要と考えるが、雇う側の認識が施策にどのように位置付けられているのか、また、雇う側の問題が若者の雇用に対する意識、状態にどのような影響を及ぼしているのかとの質疑に対して、働く側も採用する側も相手のことを十分理解できていないため足踏みしているが、トライアル雇用による常用移行率は約八割であり、働き手と経営者の相互理解が大切であるとの答弁があった。また、若者の勤労観、職業観の涵養の観点から、インターンシップ等実際の体験が重要になってきており、企業も若者を受け入れ一緒になって育てていくことが必要であって、地域ぐるみで施策を講じ、企業の意識、若者の意識もそのような方向に向かうことが非常に重要であるとの答弁があった。

○ 若者の雇用問題については、働きたくとも働く場所がないことが地方の実態ではないかとの質疑に対して、地域雇用創造バックアップ事業、地域提案型雇用創造促進事業等の市町村と連携した職場づくりを実施しているが、これは地域全体で受け止める体制を作り、そこに若者の受皿になることも含む雇用を導き出そうというものであり、意欲ある市町村が提案することを要請していきたいとの答弁があった。また、若者の再就職の状況をどのように考えるのかとの質疑に対して、三年以内の在職期間別離職率を見ると、大卒三六・五%、高卒五〇%、中卒七三%であり、若者の職業観、勤労観等をはぐくむキャリア教育と、社会の受入れ体制の整備の両方が必要であるとの答弁があった。

○ 専門高校の教育内容については、せっかく学んだにもかかわらず教育内容に合う就職先がないという実態があるが、その対策をどのように考えているのかとの質疑に対して、時代の大きな変化に専門高校の教育内容が対応していく必要が生じてきているとの答弁があった。

○ 女性の労働力について、M字型カーブが近年どのような傾向にあるのか、条件整備、環境整備、社会や会社の意識改革など様々な課題に今後どのように対応していくのかとの質疑に対して、医療、福祉、サービス業等、女性が力を発揮できる分野の雇用が増えており、子育てとの両立なども育児・介護休業法の改正その他で着実に進んできているが、様々な局面に丁寧に対処しなければ、目標は達成しないとの答弁があった。また、育児中の女性に対するITを利用した自宅での教育訓練が必要ではないかとの質疑に対して、e―ラーニングを使って能力開発を行うシステムを現在開発中であるとの答弁があった。

○ 雇用対策基本計画の説明には、足下の課題として、不安の払拭に努める、緊急雇用対策の実施との記述があるが、失業、雇用創出の課題、目標などについて確たるものがあるのかとの質疑に対して、政府の経済全般に対する見通しとそれほどそごしていないが、それに加えて、フリーター、ニート対策など即時に対応すべきものも多々あり、長期的なもの、短期的なものの両方について的確な政策を行いたいとの答弁があった。

○ いろいろな学習をしながら自分の進路、職業観を醸成していくのが高校総合学科と認識しているが、総合学科は全国でどの程度設置されているのか、また、高校再編の中で総合学科を積極的に設置する考えはあるのかとの質疑に対して、平成十五年の総合学科は二百十四校で、当面、五百校程度の設置を目標に施策を進めてきており、各地域はニーズに応じながら、今特色を判断しているとの答弁があった。

三 派遣委員の報告

 平成十七年三月二日、派遣委員の報告が行われた。その概要は次のとおりである。

 平成十七年二月十七日及び十八日に、京都府において、経済・産業・雇用に関する実情調査を行った。

 派遣委員は、広中会長、加納理事、北岡理事、朝日理事、辻理事、松理事、小野委員、小泉委員、西島委員、松村委員、小林委員、広田委員、和田委員、浜田委員、井上委員、渕上委員の十六名であった。

 初めに、京都府から京都府の経済・産業及び雇用の現状と課題について、また京都商工会議所から京都における観光産業振興及び中小企業振興への取組について、それぞれ説明を聴取した。

 京都府からは、ベンチャー企業等の販路開拓を支援する創援隊が紹介されるとともに、中小企業を資金面で支援するための小規模企業おうえん融資の創設やあんしん借換融資の延長等について説明を聴取した。

 京都商工会議所からは、京都・観光文化検定試験の実施、小倉百人一首文化財団の設立、京都ブランドの確立を目指した京都創造者憲章の策定等産学公連携を踏まえた民間の立場からの取組について説明を聴取した。派遣委員からは、中小企業を対象とした融資制度の利用状況、外国人観光者数の増加等を見据えた京都の歴史的な景観整備の在り方等について質疑が行われた。

 次に、株式会社島津製作所を視察した。まず、カスタマーサポートセンターにおいて、各種の計測・分析機器について説明を聴取し、特にたんぱく質の質量分析装置については、二〇〇二年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一フェローから説明を聴取した。派遣委員からは、技術開発から製品化までに要する時間、製造個数、価格等について質疑が行われた。また、同社のメディカルセンターを視察し、高度な技術が生かされた先端医療機器を視察した。

 次に、滋賀喜織物株式会社において、西陣織の伝統を受け継ぎ、高い技術に裏打ちされた昔ながらの作製方法により格調高い帯を作る過程を視察した。

 次に、西陣織会館を視察した。同会館からの説明において、西陣織の出荷額が近年大きく減少した要因として外国から類似製品が流入していることが挙げられ、より厳しい原産地表示を義務付けてほしい等の要望が示された。派遣委員からは、西陣織に携わる労働者数の推移等について質疑が行われた。

 次に、京都工芸繊維大学地域共同研究センターのインキュベーション・ラボラトリーを視察した。同大学発のベンチャー企業を支援する同ラボラトリーでは、抗酸化物質の探索及び活性の評価と数値化のための研究開発等独創的な研究について説明を聴取した。派遣委員からは、産学公連携を踏まえ、学生や研究者等における民間人の割合やその雇用形態等について質疑が行われた。

 最後に、京都府若年者就業支援センターを視察した。京都府では、若年者の就業支援について全国に先駆けてワンストップサービスを提供することを通じ、目覚ましい成果を上げているとのことであった。派遣委員からは、大学等と企業との間のインターンシップの実態、就職した学生の会社における定着率、同センターを訪問するに至らない若年者に対する支援の在り方等について質疑が行われた。

四 委員間の意見交換

 平成十七年五月十八日、委員間の意見交換が行われた。その概要は、次のとおりである。

(一)意見表明
(自由民主党)

 バブル経済が崩壊して十数年の間、我が国経済は非常に厳しい状況にあった。その原因の一つは、急速に進展したグローバル化であり、また、経済社会環境の急激な変化にもその要因を求めることができる。一刻も早いデフレからの脱却が求められているが、特に強調しておきたいのは金融面からの厳しい問題である。地域の現状は厳しいところも多く、今後の我が国経済に残された一つの大きな問題点が地域金融機関の経営問題であり、都市と地域との経済格差を是正することが今求められているのではないだろうか。きめ細かい地域の発展を進めていく上では、地域の特性に合った施策を行うことが不可欠であり、そのため、国の権限でなくてはならないものだけを中央政府に残し、残りの部分は地方政府に権限と財源を併せて移譲していくことが必要ではないかと考えるし、このことによって地域の発展もまた可能になるのではないか。

 日本経済の活性化は、中国の動向が重要なかぎを握っている。確かに政治的には難しい問題を抱えてはいるが、我が国経済産業にとって中国の発展は脅威や制約要因では決してなく、成長の機会、持続的成長への好機を提供するものである。

 国際競争力の強化は、科学技術創造立国と貿易立国の二つが基本的要件であり、科学技術、生産技術の発展が国際競争力の源泉であると同時に、技術開発による新産業の創出が新たな雇用の受皿になる。そのため、先進技術の研究開発とその産業化を促進するための持続的な投資、高コスト構造の是正、自由貿易体制の強化が肝要である。特に、高付加価値が創造できるものづくりを追求すべきである。また、研究開発投資促進のための税制も、現行制度の継続、より有利な制度が強く求められている。そして、今年度から実施の人材投資促進減税に大いに期待したい。こうした中で、日本でも基礎研究が製品に結び付かない、いわゆるデスバレー現象が生じており、企業は、是非ともこれを乗り越えていってほしい。

 フリーター、ニート等の増加は、少子化の一層の進展、社会保障制度の脆弱化、社会不安の増大等を引き起こし、我が国経済に影響を及ぼすことが懸念されている。政府は、若者自立・挑戦プランを取りまとめ、昨年度から本格的に着手しているが、このプランは平成十八年度で終了するので、若年者の就職支援活動の場であるジョブカフェやヤングジョブスポットの設置拡大、トライアル雇用やインターンシップ制度の拡充強化を始めとして、若年者をめぐる雇用問題への取組を一層強化することが必要である。さらに、各種施策の効果を見極めつつ、必要に応じてより踏み込んだ施策を大胆に講ずることも重要である。

(民主党・新緑風会)

 民主党が目指している社会の基本理念は、市場万能主義と福祉至上主義の対立概念を乗り越え、ゆとりと豊かさの中で人々の個性と活力が生きる新しい社会を創造することである。

 物質的豊かさから精神的豊かさへ、経済的価値から文化的価値へと価値観の転換が叫ばれ、進行しているが、それでもなおかつ経済は国民生活向上のためにあり、経済成長によってこそ得られる雇用の安定や物質的豊かさ、高い生活水準、社会の安定性、公平性などがあることも十分認識すべきである。さらに、忘れてならないことは、日本が資源なき通商国家、貿易立国という宿命を背負っていることである。国際的な競争に勝つことを抜きにして国の発展、繁栄はないことを深く肝に銘じなければならない。

 経済成長の担い手は民間であり、政府はそれを支援すべく、民間活力の活用、経済的規制の緩和を推進するとともに、限られた財源は少子高齢化への対応、次世代育成、競争力の強化、ものづくり基盤の継承・発展、キャリア教育などに重点的に投資していくべきである。同時に、生命、労働、安全、衛生、環境、医療など、人間存在の基本にかかわる社会的規制は不可欠であり、競争、規制緩和、民営化万能の風潮には警鐘を鳴らし、見直しを求めていく必要がある。

 また、社会保障給付費の伸びを経済成長の伸び率の範囲内に管理するという経済本位、経済優位の考え方は採用することなく、人間本位、人間優位の政策を確立していかなければならない。グローバル化、市場競争万能の風潮の下で進行しつつある社会的格差の拡大にも十分留意しなければならない。

 経済社会の明るい展望につなげるためには、デフレからの脱却が急務であり、個人消費の回復が不可欠である。当面の政策として、(1)定率減税の縮減・廃止の二〇〇六年実施については経済状況に応じて弾力的に対処すること、(2)社会保障制度の抜本改革を行い、国民の信頼回復と、安心・安定の確保を図ること、(3)低下傾向にある労働分配率の回復に努めることの必要性を指摘しておきたい。少子化対策に全精力を投入するとともに、借金財政を克服すべく行財政全般にわたる改革を断行することが今後の経済社会の浮沈にかかわる喫緊の課題である。

 調査会において、経済活性化と産業競争力強化のための施策として、産学共同、起業・ベンチャー支援、ものづくり支援、後継者の育成、中小企業・商店街振興対策、大学院生の登用、インターンシップの拡充などが、多様化する雇用への対応策として、労働時間の長短を通じた均等待遇の実現、仕事と家庭の両立支援、技術の伝承・ノウハウの蓄積などの見地からの長期雇用の再評価、能力開発への支援などが、若年者雇用への対応策として、「若者を支援する若者を支援する」ニート、フリーター対策、若者自立・挑戦プランに基づくジョブカフェ、トライアル雇用、日本版デュアルシステム、キャリア教育の推進などが提示されたが、いずれも積極的に推進されるよう切望する。

 最後に、内閣府が財務省、厚生労働省と共同で「改革と展望」の策定に当たること、日本二十一世紀ビジョンに目標達成のための具体策を明示すること、時代に合わなくなっている第九次雇用対策基本計画を早急に改定することを強く求めておきたい。

(公明党)

 成熟社会の強みと弱みを十分に認識するとともに、国民の意識の変化も踏まえつつ、生活にゆとりを感じる充実した社会を目指していかなければならない。そのためには、当然、経済の活性化は欠かせず、持続性のある経済成長を実現することが必要であり、価値観の多様化、少子高齢化、国際化、情報化など、社会経済状況の変化を日本経済の潜在力を引き出すチャンスととらえることが重要である。

 健康、環境、安心、ゆとりなどをキーワードとして、生活の質を向上させる新しい時代の潜在的な需要にこたえる産業、事業を育成し、高齢者、女性、若者を含め、ベンチャーやマイクロビジネスを起業、創業しやすい環境を整えることが重要である。

 経済の再生には、中小企業の安定と発展が欠かせず、地域経済の活性化の観点からも、中小企業の振興は重要であり、地域の特性を踏まえた資金循環のグランドデザインが求められ、また優れたマーケティング力や技術開発力を備えるための支援が必要である。参考人からは、資源の乏しい我が国にとっては科学技術、生産技術の発展が国際競争力の原点であり、その強化策は、国による支援と税制による研究開発投資の促進、産学官の連携強化、ベンチャー育成、人材育成、知的財産であるとの指摘があったが、同感である。

 雇用形態の多様化は今後も進んでいくとの印象を受けたが、その際、重要なことは、各人の能力と努力に応じて多様な挑戦が可能なモビリティーの高い活力ある社会の実現である。そのためには、やり直しが容易な社会である必要があり、セーフティーネットや教育訓練機会の拡充を図る必要がある。また、同一労働同一賃金という均等待遇の原則を実現していくことが求められる。

 今回の調査を通じて、喫緊の課題であると痛感したのは若年者の雇用問題である。請負労働者の半数近くは若者であり、非正規雇用拡大のしわ寄せが若者に行き、使い捨てのような働き方をさせられている現実がある。このような働き方ではスキルアップやキャリア形成も図れず、個人にとっても社会にとっても大きな損失である。

 ニート、フリーターは、その問題の深刻さを考えると、早急にできる限りの対策を講ずる必要があり、例えばNPO、官と民が一体となって取り組み、一対一でいろいろな相談ができるイギリスのメンター制、ワーキングリンクス等を大いに参考にし、若者に対する就業支援を行うNPOに対する支援や、若者とNPOをつなぐための方策の整備、ニートに対する相談支援体制の強化、学校教育における就業体験の一層の充実など、十分な施策を講ずることが求められる。

 社会に出て仕事をするということは日々の営みであり、勤勉さや忍耐力、節制などが求められる。若者がとかく権利ばかり主張して義務を逃れるという指摘があるが、しっかりした生活習慣や考え方をまず身に付け、その上で自分なりの個性を発揮していくのが順序であり、そこから自立心や責任感、向上心や挑戦意欲、コミュニケーション力、創造力などが生まれてくるのではないかと強く感じている。

(日本共産党)

 第一に、リストラや不安定雇用の促進が日本経済の基盤と日本のものづくりの優位性を掘り崩していることを直視し、日本経済の未来を見据えた抜本的な転換を図ることが必要である。

 政府参考人は、リストラの時代にコスト削減を理由として派遣労働者を増やしたことは、国際競争に生きていく強い製造業をつくるという意味ではマイナスだと述べ、日本経団連からの参考人も、リストラでの人員削減や有期雇用従業員の増加によって、技術の伝承もままならず、現場の人材力が低下していると述べている。経済界が日本経済全体の問題として雇用に対する社会的責任をどう果たすのか、真剣に検討し、転換することが求められている。

 政府は、不安定雇用を拡大する政策を進めてきたが、安定した雇用を拡大する雇用政策への転換、労働者が安心して働くことができるルールの確立こそ今求められている。

 第二は、青年の雇用対策についてである。その責任を若者が自立していないことに求めるのではなく、雇用する側や教育環境を含めた社会の在り方の問題としての対策への転換が必要である。フリーターやニートの急増への対応について、政府の対応の中心は雇用される側の若者対策であるが、雇用する側への対策が必要である。日本経団連も、多くの企業の雇用調整が若年層の雇用問題を深刻化させた可能性は否定できないとしている。

 若者の雇用の深刻化は、社会全体の問題であると同時に、日本経済の未来にとっても重大な問題であり、若者の雇用の面での社会的責任を企業に積極的に果たさせる必要があり、政府も社会的に必要な分野での雇用の確保などに取り組む必要がある。

 また、求人の拡大と同時に、働く環境の改善も重要である。正社員になっても、合理化、効率化の名の下に企業内教育の予算が大幅に減らされ、十分な人材育成がされないまま即戦力として働かされ、一方、派遣や請負など劣悪な環境で働いている若者も少なくなく、こうした働き方こそやめさせる必要がある。

 次に、より若者の実態に合わせた対策の必要性である。ニートの支援には若者と同じ目線に立ち、時間を掛けて付き合わなければならず、支援するスタッフや財政の問題など、その果たしている役割の大きさを考えれば、NPO等に関しては実態に即した支援を一層強化する必要がある。

 さらに、参考人からは、相対的に低い階層出身の子どもたちが高卒無業者となっているという指摘があったが、家庭的な背景ゆえに学力を低下させたり、特定の進路選択を強いられてしまう層の子どもたちに対して、手厚く教育的な支援をする必要があるとともに、就職支援の点でも、職業的成熟と職業的能力という二つの側面から質を高める支援をする必要があると考える。

(社会民主党・護憲連合)

 アメリカ型グローバルスタンダードによる市場経済、競争原理に基づく小泉内閣の構造改革の推進は、デフレ不況をますます深刻化させ、雇用崩壊が一層進む結果となっている。日本経済を活性化し、人と地域を元気にするためには、中小企業を中心とした経済活性計画が必要であり、働くことを希望する人が希望に合う条件で働けるという雇用の創出のためにも、中小企業の経済回復策に早急に取り組むことが重要である。

 現在の政府の経済政策は、企業の経営責任をあいまいにしたまま、個人に対しては必要以上の自己責任を押し付ける構造をつくり出していると言わざるを得ない。リストラの結果、失業者を増やすような政策を実行し、企業の存在のみを救おうと国を挙げて奨励しているかのようであり、人に対しては、付け足しのような失業政策をセーフティーネットと称しているにすぎない。また、行き過ぎたリストラによる現場レベルでの熟練労働者の大幅減少によって、技術の継承がスムーズにできないという問題が深刻化している。特に、コンピューター技術の発展によりブラックボックス化されているものが多く、部品交換だけの補修作業が増え、ますます技術レベルの低下を招いている。

 調査会において、京都西陣織を視察し、歴史にはぐくまれた伝統産業を担う誇りを感じ、最先端技術開発の現場では、躍進する企業の強さをうかがい知ることができた。いずれにしても、中小企業、地域経済の再生なくしては日本経済の再生はないと確信することができた。このため、地域の特色を生かした自立型経済を支援する政策に取り組んでいくことが喫緊の課題であると考える。具体的には、地域の社会資本整備、産業振興、中心市街地の活性化等に関する政策面での支援、事業再生など、地域経済全体の安定化に寄与する政策が地域の力となるようにしていくことである。

 また、雇用の多様化と言われた場合、働き手の意思で契約内容を選択しているようにとらえられがちだが、フリーターやアルバイト、契約社員、嘱託、派遣労働といった労働契約を必ずしも働く側が好んで契約しているわけではない。二〇〇三年版国民生活白書のフリーター調査では、フリーターのうち正社員になりたいと考えている人は七二・二%で、多くが正社員を希望していることが明らかである。つまり、これらの労働契約は、雇用調整のしやすい雇用形態であり、雇用の多様化とは、使用者側にとって都合の良い雇用形態であることに注意を払うべきである。

 参考人も述べていたように、働く者が主体的に働き方を選択できるという意味では、正規雇用、非正規雇用の待遇の均等化を図っていくことが何よりも必要であるが、そのために労働基準法を変えることには大きな疑問を感じる。したがって、現在の労働時間を規制した労働基準法の見直しのための研究会が立ち上げられ、二〇〇七年の国会提出を目指す動きがあるが、余りにも大きな問題をはらんでいることを喚起しておきたい。

(二)意見交換
(成熟社会)

○ 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」の冒頭に「成熟社会における」と付けた時代認識、問題意識を見えやすいようにした方がよく、今年か来年が人口減少社会の初年度になると思うが、転換点に来ているという認識は明確に出しておくべきであろうとの発言があった。

○ 「成熟社会」は、経済・産業構造の点でも、人口構成の点でも、今までの右肩上がりとは違うという意味で使ったと思うとの発言があった。

(経済)

○ 移行期だから格差があるのか、それとも今後格差はどんどん広がっていく社会になっていくのかについて意見を伺いたいとの発言があった。

○ 調査会が発足した折に、テーマとして格差も取り上げていこうということがあったと思うので、二年目のテーマに取り上げてほしいが、約二十年間に所得税率の累進構造がかなりフラットになり、それが一つの要因ではないかという分析もあるとの発言があった。

○ 都市が集めた富がうまく再配分されて、日本型の金融制度で地方が何とかやってきた面があると思うが、今回の金融再編はそういったことを根底から覆して再編をしたという思いがあり、今までのような、地方がまた好況になれば復活していけるということとは大分違ってきているように思われるので、このことをもう少し勉強したいとの発言があった。

○ 日本の社会はいろいろな分野で格差が生じつつあり、格差の問題を政治家として、国会としてどうとらえてどう対応していかなければならないのかは、非常によい問題提起であり、世界の中で一番、日本は格差のない社会という表現をかつてはされていたが、その状況をどこまで打破したらよいのかはこれから模索すべきであり、新しい基準を見付けていかなければならず、また、政治の世界や国民の認識の中で結果平等とチャンス平等の切り分けができていないので、政治や社会の中でこれからどう切り分けていくかということも、格差の問題や結果責任の中で政治的、行政的にどう対応していかなければならないのかということに非常に関連してくる問題であろうとの発言があった。

○ 競争、規制緩和の中にも、そこにセーフティーネットをどうつくっていくのかという議論がされていない気がしており、次の機会に議論ができればよいと思うとの発言があった。

○ 安全な社会のシステムづくりが立ち後れており、自己責任論と罰則的なもので世の中を計り、極端に言えば排除するような社会がやはり格差社会を生んでいく条件になってきているので、社会の安全システムづくりについて、議論していくことが非常に大事なことであるとの発言があった。

○ チャンスのスタートラインに立つ前に希望そのものを持てなくなっている若者がおり、結果やチャンス以前の問題として、そのような若者が少なくなく出てきているという事実と、なぜそうなっているかという点も今後大いに研究をしていくべき課題ではないかとの発言があった。

○ チャンスであれ、結果であれ、平等には作為的なものがあり、根本にあるのは価値観の変遷だと思うが、戦後から四十年代後半ぐらいまでは、豊かさを求め、経済成長に合致した成長社会であったわけで、成熟社会と付けたのは、成長社会は終わったという意味であると思っており、その後は快適さ、気持ち良さという価値観が根本に流れるようになってきて、格差が広がってきたが、今後は、個人としての成熟を目指すことが価値観ではないかとの発言があった。

○ 様々な格差の議論で考えなければならないことは、余りにも結果の平等がモラルハザードになっていることであり、その点をもっともっと厳しくやっていかなければならないとの発言があった。

○ 平等については、個人に差があること、結果は努力しても違うことがあることも教えていくことが対策になるように感じたとの発言があった。

○ 格差は、自由経済の中において必要なことでもあるとの発言があった。

○ 競争社会の原理を超えていける成熟社会をどのようにして目指していくかということをもう少し国会で議論を深めていくべきであるとの発言があった。

○ 近代日本は、少なくとも百年で欧米諸国に追い付いたため、かなりの無理があり、同時に、かなりの押し付けをあらゆる面で行ってきたので、いろいろなひずみ、モラルハザードなどの要因が今噴き出してきており、反省していかなければならないという感じを持ったとの発言があった。

○ 自分たちが育った共同体、コミュニティーをどう守り、持続可能であるべきか、過疎化が進み、若者が減ってコミュニティーが維持できなくなっており、産業、経済、雇用によってコミュニティーがいかに持続可能になっていくのか、また、変えていかなければいけない格差は、官と民だと思われ、地域をつくっていかなければいけない人たちの間でギャップが生じているが、官と民の格差は給与面等を含めてあるため、調査研究をしたいと思うとの発言があった。

(少子高齢化)

○ これからの経済・産業・雇用を考えると、少子高齢社会調査会はあるが、その内容も含む参考人からの意見聴取、委員間の意見交換等も進めていくべきであるとの発言があった。

○ 将来における労働力を確保しなければならないことを考えれば、今、少子化の問題を本当に真剣に考えなければならず、これからのこの国を支えていく子どもたちを考えたときに、また、社会保障制度の脆弱化等様々な影響があり、大変重要な問題であると思っているので、取り上げてほしいとの発言があった。

(雇用)

○ 少子高齢社会調査会に遠慮していたところがあるが、高齢者雇用、特に、六十五歳から七十五歳の前期高齢者の雇用、社会参加の在り方という視点もあってよかったとの発言があった。

○ 企業で教育も受けていないのに戦士として働かされてしまう、子どもがニートになってしまう、熟成、充電期間をきちんと置いた社会、ギャップイヤー、一対一の相談相手がある社会、そんな社会をつくっていけたらという思いがするとの発言があった。

○ ニートを解消していく必要があり、子どもを社会の中に一定期間入れることで非常に生き生きしていたという報告があり、また、豊かになり、結果平等もあり、生きていく力が大変必要であることを教えることを忘れてきているという感じがするため、ニートを生み出してきた背景を掘り下げて、場合によってはそれが教育にあるかも分からないが、そうなれば、そういうことも検討していくことも必要であろうとの発言があった。

○ 小中学校の教育の現場で、競争を全く無視した形の中で教育が行われているが、社会は競争の世界であり、社会に適応できない子どもをたくさん生み出してきた結果がニート等の問題になってきたのではないかとの発言があった。

○ ニートの背景には豊かさ、教育の問題があり、平等と公平の感覚がずれたために生まれているのではないかと思われ、そのことを教育システムの中にどう生かしていくのか、ニートをこれからどう社会に導いていくかも重要であるが、基本的にはニートを生み出さないような仕組みを考えなくてはいけないとの発言があった。

(人材育成)

○ 新時代を迎えるに当たり、日本の将来を見据えた上で、どういう人材育成をしていくかは非常に大きなテーマの一つであることを改めて認識したとの発言があった。

○ 歴史に学ぶこと、教育が大変大事であって、一小学校区一公民館で、みんなが集まって話し合う場所が犯罪を防ぐことにもなるし、就職情報にもなり、教育の中でも生涯学習社会の構築が非常に大切になると思っており、是非考え方の中に取り入れてほしい、また、いかに教育が大事か、みんなで情報を共有する、そのような社会をつくることを是非要望しておきたいとの発言があった。

3 提言

 本調査会は昨年十月に設置されて以来、調査項目を「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」と決定し、鋭意調査を進めてきたところであるが、初年度の調査を踏まえ、特に緊急を要する若年者の雇用問題について、以下のとおり提言を行う。

 政府及び関係者においては、その趣旨を十分に理解され、これらの実現に努められるよう要請する。

 景気の緩やかな回復を背景に平成十六年平均の完全失業率は四・七%と改善傾向にあるものの、若年者とりわけ十五歳から二十四歳までの完全失業率は九・五%と依然として厳しい状況にある。また、近年、若年者世代においてフリーターやニートが急増している。この背景には様々な事情が考えられ、要因ごとのきめ細やかな対策が必要である。生き方についての価値観の多様性は認めつつも、国際競争力への影響、所得格差の拡大、人材の質的な低下等、今後の我が国経済・社会に与える懸念も大きい。さらに、フリーター、ニートの増加は今後の社会保障制度の在り方にも大きな影響を与えるとともに、経済的理由等による晩婚化、未婚化が広がり、少子化を一層進行させる要因の一つになりかねない。このような影響の深刻さにかんがみ、政府等においては、経済の活性化に努め、雇用情勢全般の改善を図るとともに、若年者の雇用問題に関し、次の事項について一層取組を強化すべきである。

一、 若年者の就職支援活動を行う通称「ジョブカフェ」や「ヤングジョブスポット」の設置を一層拡大するとともに、その周知徹底、施策の充実を図ること。

一、 現行のトライアル雇用、インターンシップ制度の拡充強化を図ること。

一、 フリーター、ニート等の就職支援活動を積極的に行っているNPO法人との連携を強化するとともに、財政上、税制上の支援の在り方について検討すること。また、若年者の就職支援を行うNPO法人の一覧リストを作成し、公開するよう努めること。

一、 ニートについては、各分野の専門機関の連携を強化し、相談、支援体制の整備を図るとともに、イギリスで実施されている「パーソナル・アドバイザー」の導入について検討すること。

一、 若年者に対する勤労観、就業観の育成の重要性にかんがみ、義務教育段階からの就業体験の一層の拡充を図ること。

一、 若年者の労働環境の一層の整備に努めること。また、多くの若年者が働いている製造業における請負業務の実態把握に努めるとともに、いわゆる違法派遣については、その取締りを強化し、厳正に対処すること。

(参考)

○ 調査会委員

一 調査会設置日(平成十六年十月十二日)
会長 広中 和歌子 理事 加納 時男 理事 北岡 秀二
理事 椎名 一保 理事 朝日 俊弘 理事 辻  泰弘
理事 松  あきら 委員 小野 清子 委員 大野 つや子
委員 岡田  広 委員 小池 正勝 委員 小泉 昭男
委員 中島 眞人  委員 西島 英利 委員 野村 哲郎
委員 松村 祥史 委員 足立 信也 委員 小林 正夫
委員 谷  博之 委員 広田  一 委員 藤原 正司
委員 和田 ひろ子 委員 浜田 昌良 委員 井上 哲士
委員 渕上 貞雄      
 
二 報告書提出日(平成十七年六月十三日)
会長 広中 和歌子 理事 加納 時男 理事 北岡 秀二
理事 椎名 一保 理事 朝日 俊弘 理事 辻  泰弘
理事 松  あきら 委員 小野 清子 委員 大野 つや子
委員 岡田  広 委員 小池 正勝 委員 小泉 昭男
委員 中島 眞人 委員 西島 英利 委員 野村 哲郎
委員 松村 祥史 委員 足立 信也 委員 小林 正夫
委員 谷  博之 委員 広田  一 委員 和田 ひろ子
委員 浜田 昌良 委員 井上 哲士 委員 渕上 貞雄
委員 又市 征治      
 

○ 主な活動経過

国会回次及び年月日 活動内容
第百六十一回国会  
平成十六年十月十二日  調査会長を選任した後、理事を選任した。
十一月十日  調査項目「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」の選定について会長から報告があった。
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、構造改革と経済財政の中期展望について西川内閣府副大臣及び政府参考人から説明を聴き、新産業創造戦略について保坂経済産業副大臣及び政府参考人から説明を聴いた後、政府参考人に対し質疑を行った。
十一月 十七日  「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、雇用対策基本計画について藤井厚生労働大臣政務官及び政府参考人から説明を聴き、若年者に対する就業支援について塩谷文部科学副大臣及び政府参考人から説明を聴いた後、藤井厚生労働大臣政務官及び政府参考人に対し質疑を行った。
第百六十二回国会  
平成十七年二月十六日
「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、成熟社会における経済活性化に向けた方策について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
内閣府経済社会総合研究所長 香西   泰 君
日本労働組合総連合会(連合)副事務局長 久保田 泰雄 君
社団法人日本経済団体連合会専務理事 矢野  弘典 君
二月 十七日
~十八日
 経済・産業・雇用に関する実情調査のため、京都府に委員派遣を行った。
二月二十三日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、地域経済の活性化について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
法政大学経済学部教授 黒川 和美 君
社団法人全国地方銀行協会会長
株式会社東邦銀行取締役頭取
瀬谷 俊雄 君
日本政策投資銀行地域企画部参事役 藻谷 浩介 君
三月二日
 派遣委員から報告を聴いた。
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、日本経済の国際競争力の強化について参考人から意見を聴いた後、両参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
オリンパス株式会社代表取締役会長 岸本 正壽 君
株式会社三菱総合研究所主任研究員 後藤 康雄 君
四月六日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、多様化する雇用への対応について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
大阪大学社会経済研究所教授 大竹 文雄 君
テンプスタッフ株式会社代表取締役
社団法人日本人材派遣協会会長
篠原 欣子 君
株式会社日本総合研究所調査部主任研究員 山田  久 君
四月二十日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、フリーター・ニート等若年者をめぐる雇用問題について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
特定非営利活動法人「育て上げ」ネット理事長
工藤  啓 君
東京大学社会科学研究所助教授 玄田 有史 君
兵庫県教育委員会教育次長 杉本 健三 君
千房商事株式会社代表取締役 中井 政嗣 君
五月十一日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、経済社会の変化に対応した人材育成の在り方について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
早稲田大学ビジネススクール経営専門職大学院教授
梅津 祐良 君
ジャーナリスト 多賀 幹子 君
お茶の水女子大学文教育学部教授 耳塚 寛明 君
五月十八日  「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」について意見の交換を行った。
六月十三日  経済・産業・雇用に関する調査報告書(中間報告)を提出することを決定した。
 経済・産業・雇用に関する調査の中間報告を申し出ることを決定した。