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共生社会に関する調査会

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共生社会に関する調査報告(中間報告)(平成15年6月16日)

第一 調査会の調査の経過

 参議院共生社会に関する調査会は、共生社会に関し長期的かつ総合的な調査を行うため、第百五十二回国会の平成十三年八月七日に設置された。

 本調査会における調査テーマについては、前期調査会の設置目的等を踏まえつつ、社会環境が大きく変化する中で、社会を構成している様々な人々が互いにその存在を認め合い共生していく社会の構築を目指していくため、より広い視野から問題を取り上げられるよう、第百五十三回国会において、「共生社会の構築に向けて」とすることとした。

 この調査テーマの下、調査の一年目においては、とりわけ緊急の対応が求められている「児童虐待防止に関する件」を当面の調査事項として取り上げるとともに、平成十三年十月十三日から施行されている「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」についてもフォローアップ調査を行った。

 調査の二年目においては、一年目に行われた調査事項についての調査会委員間の自由討議において提案された「だれもが住みやすく自立できる生活環境及び生活習慣を構築するため障害者と健常者の共生を課題とすべきである」との意見に基づき、「障害者の自立と社会参加に関する件」を調査事項とし、調査を行うことに決定した。また、「児童虐待防止に関する件」及び「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律施行後の状況に関する件」についても引き続きフォローアップ調査を行うこととした。

 第百五十五回国会(臨時会)においては、障害者の自立と社会参加に関する件について、平成十四年十一月二十日に米田内閣府副大臣、増田法務副大臣、鴨下厚生労働副大臣及び大野文部科学大臣政務官から説明を聴取し、質疑を行った。また、十一月二十七日には日本社会事業大学社会福祉学部福祉援助学科教授佐藤久夫氏、東洋英和女学院大学人間科学部人間福祉学科教授石渡和実氏及び全国自立生活センター協議会代表中西正司氏を、十二月四日には桃山学院大学社会学部社会福祉学科教授北野誠一氏、明治学院大学社会学部社会福祉学科教授中野敏子氏及び社会福祉法人日本身体障害者団体連合会会長兒玉明氏をそれぞれ参考人として招き、意見を聴取した後、質疑を行った。

 第百五十六回国会(常会)においては、障害者の自立と社会参加に関する件(バリアフリー社会の実現)について、平成十五年二月五日に加藤総務副大臣、木村厚生労働副大臣、西川経済産業副大臣及び吉村国土交通副大臣から説明を聴取し、質疑を行った。また、二月十二日には東京都立大学大学院都市科学研究科教授秋山哲男氏、株式会社ユーディット代表取締役社長関根千佳氏及び一級建築士事務所アクセスプロジェクト代表川内美彦氏を参考人として招き、意見を聴取した後、質疑を行った。

 平成十五年四月二日には、障害者の自立と社会参加に関する件(障害者の権利)について、桃山学院大学法学部法律学科教授瀧澤仁唱氏、弁護士・日本弁護士連合会人権擁護委員会障害のある人に対する差別を禁止する法律調査研究委員会事務局長野村茂樹氏及び障害者インターナショナル日本会議権利擁護センター所長金政玉氏を参考人として招き、意見を聴取した後、質疑を行った。

 このような障害者の自立と社会参加に関しての政府の取組状況についての説明や参考人からの意見聴取を踏まえ、平成十五年五月七日、本件に対する調査会委員の認識の共有化を図るとともに、今後の取組の方向性を見いだすために調査会委員間の自由討議を行った。この自由討議においては、これまでのバリアフリー化施策に加え、社会全体をユニバーサルデザイン化すること、障害のある人に対する先入観や偏見を取り除くための統合教育や教育関係法制の見直しの必要性、雇用の確保のための法定雇用率遵守の徹底化の必要性、障害のある人の権利を保障し、差別を解消するための一層の法整備の必要性、また障害のある人が社会に合わせるのではなく、社会の側から障害のある人に合わせるという発想の必要性等が指摘された。

 以上のような議論を踏まえ、理事懇談会で協議を行った結果、障害者の自立と社会参加についての当面する課題について意見を集約し、「バリアフリー社会の一層の推進」を始めとする五項目の提言を取りまとめた。

 平成十五年二月二十六日、児童虐待防止に関する件について、鴨下厚生労働副大臣から説明を聴取するとともに、淑徳大学社会学部社会福祉学科教授柏女霊峰氏、朝日新聞論説委員川名紀美氏及び弁護士・日本子どもの虐待防止研究会理事平湯真人氏を参考人として招き、意見を聴取した後、質疑を行った。

 また、平成十五年四月十六日、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律施行後の状況に関する件について、鴨下厚生労働副大臣及び阿南内閣府大臣政務官から説明を聴取するとともに、お茶の水女子大学生活科学部人間生活学科教授戒能民江氏、全国婦人相談員連絡協議会会長原田恵理子氏及び女性の家HELPディレクター大津恵子氏を参考人として招き、意見を聴取した後、質疑を行った。

 さらに、平成十四年九月三日から十二日までの十日間、参議院の特定事項調査議員団として、アメリカ及びカナダにおける共生社会の構築に関する実情調査のため、本調査会委員を主なメンバーとする海外派遣が行われ、その報告を同年十一月十一日の調査会において聴取した後、調査会委員間で意見交換を行った。

 このほか、平成十五年二月十八日から二十日までの三日間、地方における共生社会に関する実情調査のため、兵庫県及び京都府において委員派遣を行った。

 なお、児童虐待防止に関する件については、昨年一年間の調査に引き続き、本年更なる調査を行ったが、本調査会は本問題が緊急の対応を必要としていることにかんがみ、平成十五年六月十六日、立法府は、本問題の早期解決のため児童虐待の防止等に関する法律の見直し等を、また政府においては、更なる児童虐待の防止に向け、八項目にわたる施策について万全の措置を講ずるべきであるとする「児童虐待の防止に関する決議」を全会一致で行った。

 平成十五年二月十二日、本調査会理事会の下に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律の見直しに関するプロジェクトチーム」が設置され、同プロジェクトチームにおいては現在、同法の見直しの検討に向けて、関係者等からの意見聴取等を行っている。

 現在、つえ等を携帯して議場等に入る際には議長の許可が必要となっているが、この携杖許可制度について、議院運営委員会において早期に見直し、歩行補助つえ等の携帯を原則として認めることの検討がなされるよう、平成十五年三月二十四日、本調査会各会派の総意として議院運営委員長に申入れを行った。

 その結果、国会議員及び国会議員以外の出席者にあっては議長に届け出て、これら以外の者にあっては議長の許可を得て、歩行補助のためつえを携帯することができることとする参議院規則の改正が行われた。

第二 調査会の調査の概要

一 障害者の自立と社会参加に関する件

1 政府からの説明聴取及び主な質疑

 障害者の自立と社会参加に関する件について、平成十四年十一月二十日に米田内閣府副大臣、増田法務副大臣、鴨下厚生労働副大臣及び大野文部科学大臣政務官から、十五年二月五日に加藤総務副大臣、木村厚生労働副大臣、西川経済産業副大臣及び吉村国土交通副大臣からそれぞれ説明を聴取し、質疑を行った。その概要は次のとおりである。

(平成十四年十一月二十日)
内閣府

 内閣府は、障害者基本計画の策定・推進に関する事務、内閣総理大臣を本部長とする障害者施策推進本部の庶務を担当しており、関係省庁との連携の下に障害者施策の推進を図っている。障害者の状況は、身体障害者約三百五十一万人、知的障害者約四十六万人、精神障害者約二百四万人となっている。政府は、平成五年策定の障害者対策に関する新長期計画によって、ノーマライゼーションの理念の下、障害者の社会参加を阻む物理的な障壁、制度的な障壁、文化・情報面の障壁、意識上の障壁の除去に向けて各種施策を計画的に推進している。障害者に係る欠格条項については、六十三制度のうち六十一制度の見直しを終え、平成十四年度末までに残る二制度の見直しの終了に努めている。

 また、障害者に対する国民理解の促進に努めるとともに、マスメディアを活用した啓発広報に取り組んでいる。

 平成十五年度からの新たな障害者基本計画とその前期五年間の重点実施計画である障害者プランについては、平成十四年内の閣議決定を目途に検討作業を進めている。

 平成十四年五月の国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)総会において、我が国の提唱により「アジア太平洋障害者の十年」を更に十年延長する決議が採択された。

法務省

 法務省の人権擁護機関は、障害者に対する差別・偏見を解消し人権尊重の意識高揚を図るため啓発活動を実施しており、差別事案についての人権相談や人権侵犯事件の調査・処理を通じて被害者の救済に努めている。平成十三年の障害者問題に係る人権相談件数は二千百七十八件、人権侵犯事件の新受理件数は二百二件である。現在国会に提出している人権擁護法案は、障害者に対する差別や虐待を包括的に禁止し、障害者に対する人権侵害に特別救済措置を講ずることとしている。

 知的障害者、精神障害者等の福祉の充実の観点から、成年後見制度を導入し、禁治産・準禁治産の制度を後見・保佐の制度に改め、軽度の精神上の障害により判断能力が不十分な者を対象とした補助の制度を創設した。

 司法試験については、受験に際し何らかの措置を希望する障害者に対して、障害の種類・程度に応じて受験を可能とするための措置を講じている。

 医療刑務所等に収容されている身体障害者等の機能回復訓練に必要な機器を施設内に整備している。

 障害者に係る欠格条項見直しの一環として、精神障害を有する外国人の上陸拒否事由見直しを含む出入国管理法改正案を平成十五年の常会に提出する予定である。

文部科学省

 文部科学省は、障害のある児童生徒が可能な限り能力を伸ばし、自立し社会参加するための力を培うため、一人一人の障害の状態に応じたきめ細かな教育を行っている。平成十三年五月時点で、盲・聾・養護学校、特殊学級等で教育を受ける児童生徒数は義務教育段階で約十五万七千人であり、これらの特殊教育の対象となる児童生徒数の割合は増加している。障害に対応した施設や設備の整備、弾力的な教育課程の編成等により教育の機会を確保しており、就学猶予・免除率も極めて低い。

 平成十三年一月に取りまとめた「二十一世紀の特殊教育の在り方について」に基づき、第一に、乳幼児期から学校卒業後まで一貫した相談支援体制の整備を行う「障害のある子どものための教育相談体系化推進事業」を実施した。第二に、国が定める盲・聾・養護学校への就学基準について、医学、科学技術の進歩等を踏まえて見直すとともに、市町村教育委員会が特別の事情があると認める場合に、小・中学校に就学させることができるよう就学手続の見直しを行った。第三に、厚生労働省とも連携して、教育委員会や学校における体制面での整備、看護師の配置、教員研修等により、養護学校における医療的ケアの実施体制の整備を図るとともに、教職員の専門性の向上に取り組んでいる。第四に、小・中学校における学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)等の児童生徒への教育的対応のため、指導体制の整備に向けた事業を実施することとしている。

 このほか、特殊教育の改善充実のため、施設・設備の整備に努めるとともに、保護者の負担を軽減し就学を奨励するため必要な交通費等を補助する特殊教育就学奨励費を設けている。

厚生労働省

 厚生労働省は、ノーマライゼーションの理念に基づき、障害のある人が地域で安心して暮らせる社会の実現を目指し、各般における施策を展開している。

 まず、地域生活の支援としては、(1)サービスの利用に関する相談支援体制を構築するための市町村障害者生活支援事業等の推進、自閉症・発達障害支援センターの整備等、(2)在宅サービス等の充実として、ホームヘルプサービス事業、デイサービス事業、ショートステイ事業の充実、通所授産施設の整備等、(3)居住の場の確保として、グループホーム、福祉ホームの拡充を図っている。

 次に、障害者の社会参加の推進としては、欠格条項を見直すとともに、手話通訳派遣等による情報・コミュニケーション支援、スポーツ・文化芸術振興、自動車の改造助成による移動支援等を行っている。

 また、損なわれた身体機能を補完・代償するため、補装具・日常生活用具を給付するとともに、障害の除去、軽減を図るため、更生医療・育成医療の給付を行っている。

 精神障害者施策としては、市町村を主体としたホームヘルプ、ショートステイ及びグループホームの在宅三事業の実施とともに、精神障害者のための生活訓練施設、福祉ホーム、福祉工場、授産施設等の整備を進めている。

 経済的自立の支援としては、障害者が能力や適性に応じた雇用の場に就くことができるよう雇用対策を総合的に推進するとともに、障害年金及び各種手当を給付している。

 新たな取組として、身体障害者補助犬法の施行により、身体障害者の公共施設等の利用を円滑化した。また、従来の措置制度から障害者自らがサービスを選択する支援費制度に移行することとしている。

 このような政府からの説明を踏まえ質疑を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1)ノーマライゼーションに対する社会の共通の理解を得るためにも、その概念を明確にする必要がある。

(2)知的障害者、精神障害者が諸外国と同様に単身で居住することが可能となるよう、地域生活の支援等に取り組む必要がある。

(3)障害者外出支援サービスのガイドヘルプサービスを通学、通勤及び営業での外出にも利用できるように運用基準を見直すことが、障害者雇用の促進にもつながる。

(4)ITを活用した障害のある人の在宅就労が実績を上げている例がある。養護学校におけるハードウェア整備に加え、教員へのIT研修等を拡充するとともに、企業が在宅の障害のある人に継続的に事業を発注した場合には、障害者法定雇用率の対象にすることを検討すべきである。

(5)学校教育法施行令改正による就学指導の在り方の見直しにより、既に介助を受けて普通学級に就学している障害のある児童生徒が通学できなくなることのないよう留意する必要がある。

(6)障害のある子どもが地域の小・中学校で学習するための支援として、教職員定数の見直し、学校施設のバリアフリー化、教職員の理解を得るための研修の充実が必要である。また、普通学級に在籍する障害のある児童生徒も特殊教育就学奨励費の対象とすべきである。

(7)障害のある幼児、児童生徒と一般の幼児、児童生徒が触れ合えるような機会をつくるため、医師の意見等を入れながら、学校のみならず地域全体でサポートするシステムをつくることが重要である。

(8)LD、ADHD及び高機能自閉症の児童生徒への教育的な対応に当たっては、教員の専門性向上に加え、医療と教育の連携、障害者としての認定の要否を考慮する必要がある。

(9)長期療養中の子どものため、国立病院や療養所における学習の機会を確保する必要がある。

(10)就学前の障害のある子どものため身近な公民館等を利用した療育の場を確保することは、保護者にとって切実な問題であり、その充実が望まれる。

(11)養護教諭が子どもの心身のケアを行ったり、訪問看護ステーション在籍の看護師が養護学校を直接訪問できる仕組みをつくるなど、教育と医療の連携を図ることにより、障害のある児童生徒の就学支援に努めるべきである。

(12)知的障害者授産施設が地域の支援を受けスポーツや文化・芸術活動に取り組んだ結果、仕事内容に改善が見られる例がある。厚生労働省は、このような事業を積極的に支援していくことが重要である。

(13)世界では四十か国以上で障害者差別禁止法が作られているが、国連社会権規約委員会の勧告や障害者インターナショナル(DPI)世界会議の求めに応じて、我が国においても障害者差別禁止法の制定を検討する必要がある。

(14)障害者に係る欠格条項見直しの中には表現を変えただけにとどまるものも少なからずあり、どの分野で実効性ある見直しが行われたのかを明らかにする必要がある。

(15)医師及び歯科医師の国家試験については、障害者に係る欠格条項見直しに合わせ、受験資格だけでなく、受験方法についても検討が必要である。なお、障害のある学生の医学課程の履修に際しても特別な配慮が求められる。

(16)年金を受給していない障害者に対して福祉手当を支給するという厚生労働大臣私案が発表されているが、受給額等について明確にする必要がある。

(平成十五年二月五日)
総務省

 情報通信分野においては、高齢者、障害者を含め、だれもがITを容易に利用できるよう、機器及びシステムの開発、普及が重要であり、情報バリアフリー環境の実現に向けた関連施策として、地域におけるバリアフリー型IT利用拠点の整備の推進、障害者・高齢者向け通信・放送技術の研究開発に対する助成等を行っている。また、テレワーク、SOHOの推進に関する調査研究等、IT活用による障害者の就業に貢献するための取組を推進している。

 地方公共団体が行う施策については、障害者、高齢者を始めとするすべての人が生き生きと生活する共生型の地域社会を実現するためのユニバーサルデザインによるまちづくりや交通バリアフリー化等の推進のための地方公共団体の取組に対して、必要な財政措置を講じている。また、障害者等のいわゆる災害弱者に対して、緊急通報体制の充実を図るとともに、携帯電話、電子メール等を活用した、より多くの住民に確実に情報を一斉伝達するための送信装置の標準仕様の策定等を行っている。

 郵便事業の分野においては、点字内容の郵便物、心身障害者団体の発行する定期刊行物等の郵便料金の減免措置を実施しており、平成十五年四月一日の日本郵政公社への移行後も障害者のための郵便料金を引き継ぐこととしている。

厚生労働省

 厚生労働省は、障害者基本計画に基づき、物理的な障壁、制度的な障壁、文化・情報面の障壁、意識上の障壁の四つの障壁の除去に取り組んでいる。

 障害者への理解を深めるための普及・啓発活動については、差別や偏見が根強いとされる精神障害の正しい知識の普及と理解の促進を図るとともに、障害者の職業的自立意欲を喚起し、事業主の関心と理解を深める運動等を実施している。

 建物等のバリアフリーについては、障害者が直接参加するまちづくりの推進、バリアフリー構造の住宅の取得・改良への低利融資を実施するとともに、移動が制約される障害者に対する支援として、運転免許取得や自動車の改造に要した費用への助成等を実施している。

 情報・コミュニケーション支援については、パソコンの利用支援等の総合的サービス拠点である障害者ITサポートセンターの設置、盲聾者通訳や手話通訳の養成・派遣等を行っている。

 雇用・就業の促進については、ハローワークにおける職業相談・職業紹介等の実施、試行雇用(トライアル雇用)、職場適応援助者(ジョブコーチ)、職場環境の改善等に対する各種助成金等による支援を行っている。

 このほか、制度上のバリアフリーについては、障害者に係る欠格条項について平成十三年度に大幅な見直しを行った。また、障害の補完・代替については、身体障害者補助犬法の周知、良質な補助犬の育成等を図ることとしている。

経済産業省

 バリアフリー社会の実現に向け、障害者の自立と社会参加を支援するため、福祉用具の研究開発の促進、用具の安全性及び品質向上のための評価と標準化、ITバリアフリー事業の三分野について施策を行っている。

 研究開発については、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて医療福祉機器の研究開発を推進しており、提案公募形式により毎年十件から二十件の福祉用具の実用化開発を補助している。

 評価と標準化については、障害のある人の体や障害の程度に合った品質の良い製品が供給されるよう、我が国の国家規格である日本工業規格(JIS)、国際標準化機構による国際規格(ISO)の制定が行われている。また、安全性が求められる製品については損害賠償制度を持つSGマークの認定が行われている。さらに、ISOに対して障害者への配慮の必要性についての国際提案を行い、高齢者、障害者のニーズへの配慮指針が作成された。

 ITバリアフリーについては、障害者の社会参加を高めるため、情報通信機器、システム、ソフトウエアの開発等を推進するとともに、産業界に開発を促すための指針を作成している。平成十五年度からは、障害者等ITバリアフリープロジェクトとして、障害者等が屋外で活動する際に位置情報や経路誘導情報等を提供するシステムの開発を予定している。

国土交通省

 障害者を始めすべての人が安全に安心して生活し社会参加ができる生活環境の整備のためには、住宅、建築物、公共交通機関、歩行空間等のバリアフリー化を個別に行うのではなく、一体的に推進していくことが重要である。また、具体的な数値目標を設定しつつ、補助、融資、税制、規制等各種の施策を総合的に推進していくことが重要である。

 公共交通機関については、交通バリアフリー法の施行により鉄道駅等の旅客施設の新設、新たなバス等の車両の導入の場合にバリアフリー化を義務付けている。

 歩行空間については、道路の移動円滑化基準に関するガイドラインを策定し、特に利用者の多い駅周辺等においては、公共交通機関等と緊密な連携の下、バリアフリー化された歩行空間ネットワークの整備を積極的に推進している。

 住宅については、新設されるすべての公共賃貸住宅についてバリアフリーを標準仕様とするとともに、住宅ストック全体についてもバリアフリー化を推進している。

 建築物については、平成十四年七月のハートビル法改正により、バリアフリー対応を推進すべき特定建築物の範囲を共同住宅等多数の者が利用する建築物にも拡大するとともに、設計者向けのガイドラインの作成・周知等により、建築物のバリアフリー化を推進している。

 バリアフリー社会の実現には、ハード面のみならず、ソフト面の施策を併せて実施することが必要であり、バリアフリー情報の提供を推進するとともに、普及・啓発活動を展開している。

このような政府からの説明を踏まえ質疑を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1)高齢者、障害者等が地域で安心して自立した生活を営むため、公営住宅のグループホーム事業への活用を一層推進すべきである。

(2)有料道路における身体障害者割引を、重度の精神障害者の介護運転者に対しても適用拡大すべきである。

(3)周囲の人とのコミュニケーションの手段として、高齢者へのパソコンの普及を一層図るため、高齢者が使いやすい機器の研究開発を促進すべきである。

(4)補聴器に携帯電話を近づけた場合の電波障害を解消するため、携帯電話の電波干渉を受けない補聴器の開発、普及が必要である。

(5)福祉機器等の製品普及のためには、製品が市場に登場した直後に、政府が戦略的に普及をさせたい製品の最初の買い手としての役割を政策的に果たすべきである。

(6)福祉用具を病院や施設だけでなく、一般消費者が使えるよう市場に乗せるための流通上の工夫が必要である。

(7)福祉用具等の開発を行うベンチャー企業が国際的競争力を持つためには、高齢社会におけるノウハウを蓄積し、商品を開発することが重要である。

(8)地域の中での共生という観点から、学校・保育所等への障害のある子どもの受入れを積極的に行うべきである。

(9)トライアル雇用やジョブコーチ制度を始めとした各種施策の積極的な実施により、障害者の法定雇用率の達成を目指すとともに、障害者雇用の場の確保に取り組むべきである。

(10)授産施設等に委託されるような仕事が労賃の低い海外に流出している。官公庁による製品等の積極的な利用促進を通じて、仕事の確保が困難になっている授産施設等を支援すべきである。

(11)筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者等、投票が困難な人が選挙権を行使できるような投票制度が設けられていないことに対して、東京地方裁判所は憲法違反の状態にあるとの判決を下した。選挙の公正の確保を幅広く検討すべきである。

(12)支援費制度施行に伴い、市町村障害者生活支援事業及び障害児地域療育等支援事業が廃止されるが、相談支援についてはすべての地域で整備されるべき一般的、基本的機能であり、地域の実情に応じて弾力的に展開されるべきである。

2 参考人からの意見聴取及び主な意見交換

 障害者の自立と社会参加に関する件について、平成十四年十一月二十七日、十二月四日、十五年二月十二日及び四月二日にそれぞれ参考人から意見を聴取し、意見交換を行った。その概要は次のとおりである。

(平成十四年十一月二十七日)
日本社会事業大学社会福祉学部福祉援助学科教授  佐藤 久夫 氏

 世界保健機関が国際障害分類(ICIDH)を改定して国際生活機能分類(ICF)を制定したが、このICFに基づく障害施策の見直しが必要である。障害者の社会参加に向けた働きかけを総合的に行うため、障害を人間と環境の相互作用としてとらえるICFを活用することが重要であり、現在策定中の新障害者基本計画にもいかすべきである。

 障害者福祉の根拠法の在り方としては、法律と対象者が年齢別、障害種類別となっている現状を改め、障害者福祉法の統合を図るべきである。身体障害者福祉法、知的障害者福祉法及び精神保健福祉法は、異なる目的で出発したが、この十年来の法改正で自立と社会参加という目的を共通して掲げるようになっており、法律そのものの統合を本格的に検討する必要がある。統合的な障害者福祉法の実現は、身体障害、知的障害及び精神障害の各福祉サービス間の格差解消、制度の谷間に取り残されている障害への対応、サービスと環境を整えるというサポート中心の施策への転換という三つの意義を持つ。

 障害者差別禁止法は途上国を含めて既に四十か国以上が制定しており、我が国も同様の法律を制定することが必要である。

 新障害者基本計画に評価活動を組み込み、計画の出発時点、中間見直し時点及び最終年に障害者の総合的な生活実態調査を行い、計画の軌道修正を必要に応じて行うという手法が求められる。

東洋英和女学院大学人間科学部人間福祉学科教授  石渡 和実 氏

 障害者雇用制度は昭和三十五年の身体障害者雇用促進法の制定に始まり、五十一年の同法の改正により雇用率の義務化が導入された。六十二年に知的障害者と精神障害者も対象に含めた「障害者の雇用の促進等に関する法律」となり、平成十年からは知的障害者も雇用率の対象に含めるという義務化が図られた。しかし、精神障害者の雇用義務化はいまだ実現しておらず、障害種別による格差が顕著である。

 厚生労働省の発足により福祉的就労から一般就労への移行の促進が期待されたが大きな変化はない。注目される新しい支援として援助付き雇用があり、ジョブコーチが知的障害者や精神障害者を実際の職場で支援することによって働く場を拡大するという実績を上げている。職場環境を変えることによって就労につなげる有効な手法である。

 障害のある人がない人と共に働くことの意義は大きい。障害者本人は人の役に立つことを実感して幸せを感じることができ、さらに障害のない人にとっても職場環境の改善という予期しなかった成果が生まれるなど大きな意味を持つ。また、地域での生活により、障害者本人が地域で生きる力を付けていくとともに、障害のある人が生きられるような社会へと地域を変えていくことになる。このような積重ねにより共生の本質であるノーマライゼーションが実現する。

 経済効率を中心に置く価値規範を問い直し、障害のある人が様々な可能性に挑戦でき、障害を持ったまま生きられるように社会の支援の在り方を変えていくことで、高齢者などだれもが住みやすい社会になっていく。

全国自立生活センター協議会代表  中西 正司 氏

 自立生活運動の考え方は、重度障害者であっても施設ではなく地域の中で介助を受けながら暮らし、自立生活センターで社会貢献をする方が社会的に有益であるというものである。自立生活センターは、障害者が中心となって運営しており、介助サービス、ピアカウンセリング、住宅サービス及び自立生活プログラムの四つのサービスを提供している。

 障害者が福祉サービスの受け手から担い手へと変わり、重度障害者自身がサービス提供者の役割を果たそうとしている。また、自立生活センターは事業体であると同時に、サービスのシステムをつくって施設から在宅の方向へ変えていこうとする運動体でもある。平成八年に創設された国の市町村障害者生活支援事業を受託し、社会福祉法人ではない無認可団体として、ピアカウンセリングと自立生活プログラムを生活支援上の主要メニューにして活動している。

 平成十四年十月にDPI世界会議札幌大会が開催され、同月、大津市で開かれたESCAP最終年ハイレベル政府間会合では「アジア太平洋障害者の十年」の更なる十年の延長を受けて行動計画が決定された。新たな十年は、国際的な障害者差別禁止法と国内の障害者差別禁止法を作ることを目標とする。障害者差別禁止法ができれば、これまで解決できなかった教育の問題と就労の問題に進展が見られるのではないかと期待している。

 今後は、自立生活センターと高齢者の団体が協調して福祉のユーザーユニオンを形成し、福祉をニーズに基づいたものに変えていきたいという希望を持っている。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1)障害者の雇用率を定め企業に義務を課す制度を持つ国は世界的に見て少ないが、我が国ではこれまでは一定の役割を果たしており、当面は必要であると考えられる。

(2)政府は、企業が社会的責任を果たしてより積極的に障害のある人を受け入れるよう、障害者雇用促進法の規定の適用を徹底するとともに、障害者雇用に前向きに取り組んでいる企業についても公表等の措置を検討していく必要がある。

(3)障害のある人の能力を見極め適切な仕事のある企業と結び付けるための情報提供が、各支援機関でなされている。今後、障害者雇用を拡大していくためには、ワークシェアリングの意識を広げていくとともに、障害者雇用のメリットが現れるようなシステムを構築する必要がある。

(4)企業側が障害の程度と仕事への適応を考慮した採用活動を広く行うことは困難であり、支援者側のジョブコーチが職務分析して障害者の雇用につなげていく手法が重要になる。そのためにもジョブコーチの立場を保障する制度が必要である。

(5)経済状況の悪化により聴覚障害者の解雇等の問題が生じており、職場でのコミュニケーションの困難性をサポートするなどの支援が必要である。

(6)障害者雇用機会創出事業による三か月間のトライアル雇用は、障害者の定着率が高く効果的に機能している。

(7)精神障害者の雇用が進まない背景には、精神障害者への差別と、体調に波があるという障害特性がある。障害特性に配慮し、精神障害者がグループで働くなど雇用形態に柔軟性を持たせることにより、雇用機会を拡大できる可能性がある。

(8)障害者差別解消のため、障害のある子どもが一般の学校で共に学ぶことが重要であるが、統合教育に対する反対があることも事実であり、障害者差別禁止法を作って国民の意識を変えることが必要になる。

(9)障害者差別禁止法は、職業・就労・教育の問題を解決するために不可欠である。差別を禁止する義務法は我が国の法体系にないので抵抗が強いが、完全参加の社会を象徴するものとして必要である。

(10)我が国で障害者差別禁止法を作る前段階として、何が障害者差別に当たるのか業種別にガイドラインを作って検討しておくことが必要である。

(平成十四年十二月四日)
桃山学院大学社会学部社会福祉学科教授  北野 誠一 氏

 障害者の地域における自立生活と社会参加・参画の背景には、第一に、権利擁護理念の世界的展開がある。(1)一九六〇年代のノーマライゼーション理念の発展、一九八一年の国際障害者年及び一九八三年からの「国連・障害者の十年」の理念である完全参加と平等、(2)一九七〇年代以降の自立生活運動の展開、(3)一九九〇年の障害を持つアメリカ人法(ADA)に端を発する障害者に対する差別を禁止する法律の国際的展開である。障害者差別禁止法は、規制緩和された市民社会において明確なルールを作るため必要であると考える。

 第二に、少子高齢化社会の展開がある。今後の政策を考える際、二十二世紀には我が国の人口が現在の三分の一以下になるという人口統計学上の数値を勘案する必要がある。また、障害者と高齢者が少数派から多数派になり、社会の主体的な担い手となることから、バリアフリー、ユニバーサルデザインを基調とする地域社会づくりが必要不可欠である。

 第三に、グローバライゼーションと規制緩和、そして社会福祉基礎構造改革がある。高度産業化、高度消費化の中で、地域の支援力・福祉力の低下、障害者・慢性病者の増大、高齢化社会の到来、家族の福祉力・世話力の低下を呼び、全体として福祉ニーズは増大している。措置制度から利用契約に基づく支援費制度へと変わり、指定施設や指定事業者は事業を起こしやすくなったが、その前提として規制緩和に伴う法制度の整備と権利擁護システムが不可欠である。社会福祉基礎構造改革は、利用者保護として一連の政策を提起しているが、規制緩和がもたらす弊害を阻止するための多種多様なルール作りと人権侵害に対する権利擁護のシステムづくりが今なお不十分である。

明治学院大学社会学部社会福祉学科教授  中野 敏子 氏

 障害のある人の生活が施設から地域へとシフトする中で、相互に個性を尊重し支え合う共生社会を構築するため、家族の生活実践から多くのことを学ぶ必要がある。家族への支援は、(1)家族から障害のある人本人を隔離し、専門療育機関が訓練支援をする、(2)本人に加え母親を家族から離し、専門療育機関が母親指導・訓練をする、(3)地域の中に支援の拠点を作り、専門職を中心とした療育サービスを提供する、と変化してきたが、障害のある人とその家族は障害のある人を対象としたサービスを利用することを中心とした暮らしのままであり、家族としての共生社会、近隣の人との共生社会からは程遠いのが実態である。

 現在求められる家族支援は、療育から一歩出た地域生活支援である。身体障害者を対象にした市町村障害者生活支援事業は、社会参加、社会自立を全面に出した事業であるが、知的障害者、重症心身障害児、身体障害児を対象とした障害児・者地域療育等支援事業は、療育という枠組みから出ていない。知的障害者は、児童期と同じように家族が介護をするものととらえられているが、社会参加のために基本的な生活を支えるコーディネーターの役割が必要である。

社会福祉法人日本身体障害者団体連合会会長  兒玉  明 氏

 障害者基本法を始めとして法整備が行われてきているが、真の共生社会の実現に向けて、今後特に重点を置くべき課題は、次の四つである。

 第一に、教育に関しては、障害や障害者に関する基礎的な知識が習得できるよう、一般教育の場で学齢期から相互理解のための適切な教育を行うべきである。

 第二に、バリアフリーに関しては、物理的なバリアについて、現在いわゆるハートビル法、交通バリアフリー法により努力義務となっている施設を完全義務化するとともに、住宅も含めたすべての建築物における一〇〇%のバリアの解消が最終的な目標である。なお、住宅に関しては、障害のある人が地域で安心して暮らすため、グループホームの整備、公営住宅への単独入居条件の緩和を始めとする住宅政策を生活面でのバリアフリー化施策の一つとして検討することが望まれる。

 第三に、雇用・就労の問題に関しては、単に生活を支えていくだけではなく、障害者本人の生きがいを生み出す働く場の確保は、障害者の自立と社会参加を考える場合最も重要な課題の一つである。特に、全国に三千以上ある無認可の小規模作業所については、地域社会の中で長年障害者の自立と社会参加を支援してきた役割の大きさを再確認し、国として支援する必要がある。現在小規模作業所の社会福祉法人化が推進されているが、その多くが資産要件により社会福祉法人格を取得することが困難であることから、国庫補助制度は存続すべきである。

 第四に、障害のある人の権利・人権保障に関しては、人権擁護法案が人権侵害に実際に対処できるか疑問がある。障害のある人の権利・人権保障に関する法整備の在り方について、障害者NGO、政治、行政を含めた国レベルで早急に検討する必要がある。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1)近隣関係が希薄になっている現在の我が国においては、障害のある人が地域で自らの望む形態で暮らすことができるような仕組みを意識的につくる必要がある。

(2)障害のある人の自立生活を保障するため、グループホーム等の整備を行うなど生活の場の選択肢を増やし、暮らし方についての選択の自由を確保するとともに、地域と居住施設の関係を築くことが重要である。

(3)精神障害者の地域生活を可能とするため、住宅の確保、精神障害者地域生活支援センターの充実、ピアグループの育成、精神障害者の支援が可能なジョブコーチの育成等が必要である。

(4)障害のある子どもの学校教育については、校舎のバリアフリー化、障害に配慮した教材、学習支援機器の配備等の環境整備を進めるとともに、教員免許取得時の障害児教育の義務付け等を通じ、統合教育を原則とすべきである。

(5)社会の意識を変えていくため、社会福祉関係学科の学生の多くが卒業後も福祉関係の仕事にかかわることを可能にするとともに、障害のある人との学齢期前からの触れ合いが必要である。

(6)社会的弱者に対するボランティア活動が自然に行えるよう、障害のある人との幼少期からの触れ合いが必要である。

(7)現在家族が行っている程度の医療的ケアをヘルパーに認めることは、レスパイトサービスと考えることもでき、検討する必要がある。

(8)障害者の権利擁護のため障害者差別禁止法を制定するとともに、現在の障害種別の法制度のはざまにある障害のある人も対象とする総合的な障害者福祉法を制定する必要がある。

(9)障害者権利条約の締約国となりこれを担保する国内法を制定する場合には、障害者を支援する際の合理的配慮の義務化、一人の生計者としての人格の尊重等を明記することが不可欠である。

(10)新たな福祉制度を考える中で「障害者」という用語の使用をやめ、新しい用語を考えるべきである。

(11)規制緩和により病院や入所施設に営利企業の参入を認める場合は、監査体制の確立、ルールを遵守させるための法整備及び障害のある人の権利を擁護するシステムづくりが不可欠である。

(12)高次脳機能障害のある人を障害者と位置付け、様々なサービスの受給を可能とする必要がある。

(13)支援費制度は障害当事者等が事業を起こしやすい制度となっているが、必要な支援費が事業者へ渡る仕組みをつくる必要がある。

(平成十五年二月十二日)
東京都立大学大学院都市科学研究科教授  秋山 哲男 氏

 現行の交通バリアフリー法に関しては、実施計画等を経ずに基本構想から事業に移行するなど計画の手順が十分でないこと、法施行に必要な予算確保が困難であること等の課題がある。財源については、交通バリアフリー法事業費として予算措置を行う、基本構想を策定した自治体が自由に資金を使えるシステムをつくる等の対策が求められる。また、公共路面交通は今後混乱が避けられないため、移送サービス(STS)の基本構想の策定を義務付けることが必要である。

 交通バリアフリー法は鉄道やバスを主な対象としているが、鉄道やバスの使えない地域に居住している人が恩恵を受けられるように、STSを強化する必要がある。高齢者・障害者にとって利便性・安全性の高い移動手段(モビリティ)の確保は、活動や社会参加の基礎であり、生存権や生活権としての法的位置付けが必要であるが、我が国は先進国中最も遅れている。

 したがって、(1)財源の確保、(2)自治体による計画策定の義務化、(3)需要の把握、地域に応じた計画立案、運行システムの設計、供給のシステムづくり、評価、(4)STSのコンピュータ支援システムの構築、STSの組合せの検討が必要である。また、更に新しい交通システムである需要応答型交通システム(DRT)の導入の検討、人口低密度地域の居住者のためのバスによる外出支援等の施策が求められている。

 今後重要なことは、都市を高齢者や障害者が動きやすい、生活しやすいまちに変えることであり、環境負荷の軽減とモビリティ確保に責任を持った都市づくりを進める必要がある。

株式会社ユーディット代表取締役社長  関根 千佳 氏

 株式会社ユーディットには、様々な障害のある社員が在籍し、それぞれの才能をいかして在宅のまま働いている。このことは、ITの活用により障害者の就労形態が全く異なった形になることを示している。

 バリアフリーの概念が、健康な成人男子向けにつくられたまちやものから、女性、子ども、高齢者、障害者等が使いにくい部分を除去することであるのに対し、ユニバーサルデザインの概念は、このような人々が最初から使えるように、まち、もの、情報やサービスをつくっていくことである。

 アメリカではリハビリテーション法五〇四条やADAなどにより、高等教育や就労における障害者差別が禁止されている。また、リハビリテーション法五〇八条は、連邦政府が購入するIT機器は障害者が利用可能なものでなければならないことを定めており、メーカー側もこれに対応して開発を行っている。

 教育面でもアメリカでは統合教育が進んでおり、大学における障害のある学生の受入体制も整えられている。我が国では四年制大学における障害のある学生の割合が〇・〇九%であるのに対し、英米では約七%である。

 立法府に望むことは、(1)人権法の制定、(2)障害者の情報保障のための著作権法の改正、(3)統合教育を支援するための教育関係法の改正、(4)公共調達において高齢者や障害者が使いやすいものを購入の条件とするアクセシビリティの徹底、(5)ユニバーサルデザインの考え方の理解等である。

一級建築士事務所アクセスプロジェクト代表  川内 美彦 氏

 一九九〇年代から我が国でバリアフリーが本格的に広がり始めたが、契機となったのはアメリカでのADA制定であり、背景には我が国の高齢化社会への対応がある。アメリカにおいては、障害を理由にした差別禁止を実現する手段としてバリアフリー化を推進しているのに対し、我が国においては、バリアフリー化についての基本的な概念がなく、技術規定に偏していることが問題である。現行法には、公営住宅法における障害を理由とする入居制限、改正ハートビル法で特定建築物の対象とされた共同住宅のバリアフリー化が努力義務に過ぎないこと、高齢者住宅確保法は障害のある人は対象外であること等様々な限界があり、何もしないことによって差別が起こるという認識が必要である。

 世界の四十か国以上で既に障害に基づく差別を禁止する法律が制定されているが、我が国の障害者基本法は国際的な基準から見ると障害者の差別を禁止する法律ではない。積極的に差別をなくすという価値観を社会に形成するという意思が重要であり、障害者差別禁止法か障害者基本法かという二者択一の議論はあまり意味はない。大きな傘として基本概念を定める障害者差別禁止法が必要であり、その下に障害者基本法、ハートビル法、交通バリアフリー法等の技術的な法律を置くような法体系をつくる必要がある。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1)すべての人を対象とするモビリティやユニバーサルデザインは、今後の高齢社会に対しても有効なノウハウとなる。

(2)ユニバーサルデザインやバリアフリーにより障害者の自立や活動が可能となることによって、公共交通が利用しやすくなり、障害者・高齢者等の生活の質の向上や新たな価値のある社会の形成が可能となる。

(3)過疎地域におけるモビリティの確保のためには、鉄道に固執せず多様な移送形態を検討すべきである。

(4)高齢者や障害のある人にITを普及させるため、ハード・ソフトの組合せ等について助言を行うリハビリテーションエンジニアやそれを支えるパソコンボランティアの仕組みが必要である。

(5)ユニバーサルデザインの精神の下に、障害者用に限定したものを作るのではなく、障害のある人もない人も同一製品を自由に使うという環境をつくることが必要である。

(6)障害のある人をサポートし、高等教育を受けることが可能となる社会のシステムをつくることが必要である。

(7)障害の程度によって仕事は限定されてくるが、職務遂行能力を健常者に合わせて引き上げるのではなく、障害者として独自の能力やノウハウを評価し、市場化していくことが必要である。

(8)障害者法制については、障害者差別禁止法の新たな制定又は障害者基本法の改正という二つの方向性が考えられる。

(9)国として取り組む姿勢を表すためには、障害者法制の基本となる障害者差別禁止法を作るとともに、縦割り行政を克服する必要がある。

(10)法律に関しても、すべての人が理解でき、かつ自由に活用できるものとするため、ユニバーサルデザインの発想が求められる。

(平成十五年四月二日)
桃山学院大学法学部法律学科教授  瀧澤 仁唱 氏

 我が国の障害者法制については、(1)障害者概念が法律によって異なる、(2)障害者が権利主体となっていない、(3)障害者政策が国家への寄与度によって異なりその処遇に差がある等の問題がある。

 人権擁護法案の障害者差別禁止に関する内容については、(1)障害者の定義が障害者基本法同様あいまいである、(2)公務員や事業者による差別禁止の規定が担保されるか疑問である、(3)救済手続において、意思表示が難しい障害者にとって種々の主張をするのは極めて困難であることが十分に考慮されていない、(4)加害者側に差別的取扱いをしていないという挙証責任を負わせる規定がない等実効性に問題がある。

 DPI日本会議の障害者差別禁止法要綱案については、(1)障害者の定義における現行の障害者法制との調整、(2)障害者の家族あるいは保護者の権利の充実、(3)障害者にとって、より身近な苦情解決制度の創設が必要である。

 障害者差別禁止法又は平等化法を早急に制定すべきであるが、障害者が同じ機会を得たとしても、それぞれの能力に差があることを直視して、その機会が十全にいかせる制度的保障が必要であり、社会保障制度を充実させた上で、障害者差別禁止法等を重畳的に適用すべきである。

弁護士・日本弁護士連合会人権擁護委員会障害のある人に対する差別を禁止する法律調査研究委員会事務局長  野村 茂樹 氏

 国連社会権規約委員会が我が国に対し障害者差別禁止法の制定を勧告しており、また既に四十を超える国が障害者差別に関する法律を制定している状況において、我が国の対応は大変立ち後れている。

 障害者の選挙権行使の問題について、日弁連は投票の機会の保障を求める意見書を作成した。我が国の投票制度では、選挙当日に自ら投票所に行き自書することが原則であるが、その例外として不在者投票制度及び代理投票制度がある。しかし、高齢・引きこもり・妊娠等のため投票所に行けない人やALS患者等で自書できない人は投票することができない。「ALS選挙権国家賠償請求権訴訟」についての東京地裁判決では、ALS患者らのような状態の者が選挙権を行使できるような投票制度が設けられていなかったことは違憲状態であるとされた。

 こうした事情を踏まえ、不在者投票制度としての郵便投票において選挙人の範囲を拡大するとともに代理投票や点字投票を認め、巡回投票制度を創設することが求められる。また、電子投票システムの導入に当たっては、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れて設計することが必要である。

 差別には、不利益取扱いと合理的配慮義務違反という二つの側面があり、合理的配慮義務に違反することも正に差別であることを認識すべきである。

障害者インターナショナル日本会議権利擁護センター所長  金  政玉 氏

 平成十四年三月、政府は国会答弁において、(1)我が国においてはADA制定の動きを踏まえて障害者基本法を制定している、(2)障害者等に対する不当な差別的取扱いの禁止については人権擁護法案で手当てされているとの見解を示した。しかし、障害者基本法は、社会参加の機会を恩恵的に与えられる対象として障害者をみる考え方が根強く残っていること、重度の障害があり地域生活が困難な障害者については引き続き施設入所を推進し、地域で暮らせる権利を明確に認めていないこと、義務として定められたのは国における障害者基本計画策定のみで、地方公共団体の計画策定は努力規定にとどまっていること等から、ADAに代わる法律とはなっていない。また、人権擁護法案は、差別の定義がなされていないなど、障害者の差別・人権侵害に対応できるか疑問である。

 新障害者基本計画を受けた新障害者プランについては、居宅介護支援費ホームヘルパーの増員達成数値目標が旧障害者プランの二分の一以下であり、障害の原因となる疾病予防、治療等のリハビリテーションが重点施策の第一に置かれており、障害を個人の問題としてとらえる旧来型の発想にとどまっているなどの課題がある。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1)措置制度から支援費制度に移行したが、障害者が契約に当たって内容、方式等を自由に選択できない状況にあることをまず認識する必要がある。

(2)障害のある人が施設ではなく地域で生活するためには、各種社会保障制度を手厚くし、家族の負担をできる限り減らしていく必要がある。

(3)電子投票制度は障害者の権利行使に有効であるが、投票の秘密に対する不安への制度的対応を検討する必要がある。

(4)障害者差別禁止法と現行の障害者基本法は、両方とも必要であり、それぞれの役割をいかしながら両立させていくことが望まれる。

(5)障害者差別禁止法の配慮義務により事業者等に新たに生じる負担については、免責認定基準等が必要であり、障害当事者を含む第三者機関による検討が求められる。

(6)障害者に対する差別を禁止するためには、障害者基本法等の改正や人権擁護法によって目的を達成することも検討する必要があり、外国の成功例を参考にすることが望まれる。

(7)障害者に対する差別の定義については、差別的取扱いだけではなく、合理的な配慮がなされているかという観点からも考える必要がある。

(8)加害者の意図しない差別については、型どおりの広報活動では解決できないため、法律で明確に禁止をうたうことが重要である。

(9)身体障害者の等級が身体の部位の障害に着目して定められているが、社会環境要因との関係で障害の概念をとらえて見直すことが求められる。

(10)出生前に障害があると判明した場合の親及び胎児の権利について検討することが必要であり、その前提として、障害のある子どもをはぐくむ社会環境の整備等が求められる。

(11)国や地方公共団体の審議会、委員会等に障害のある当事者の参画が必要な場合、その委員の選び方については、公募方式等を積極的に取り入れる必要がある。

3 調査会委員間の自由討議

 政府からの説明及び参考人からの意見聴取を踏まえ、障害者の自立と社会参加に関する件について、調査会委員の認識の共有化を図り、今後の取組の方向性を見いだすため、平成十五年五月七日、調査会委員間における自由討議を行った。そこで述べられた意見の概要は次のとおりである。

(1)高齢化の進行に伴い高齢者、障害のある人が社会に増加することを踏まえ、障害のある人にとっての差別、バリアの現状を直視し、社会全体をバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化していく必要がある。

(2)障害のある人が社会に合わせるのでなく、社会の側が障害のある人に合わせるというユニバーサルな発想の下に必要な法制度を整備すべきである。

(3)既存の公共的建築物については、目標を持って改善計画を作らせ、財政的援助を行うとともに、新たに公共的建築物を造る際には規模による義務付けの除外規定等を外し、ユニバーサルデザインとすることが重要である。

(4)交通バリアフリーについては、公共交通事業者等への指導を強化するとともに、都市部に限らず全地域で障害者等のために便利で安全な移動手段を確保することが重要である。

(5)郵便投票制度の手続簡素化、対象者の拡大、代理投票の導入等投票環境のバリアフリー化を進め、障害者、難病患者等の政治参加の機会拡大を図るべきである。

(6)障害のある子どもとない子どもが幼稚園や小学校の段階から共に教育を受けることにより、一緒に生きているという共生の感覚を養うことが重要である。

(7)地域に身近に通える小・中学校の障害児学級や養護学校等を計画的に増設するとともに、すべての子どもに教育を保障するため、長期療養中の子どもに対する訪問教育や院内教育を充実させることが必要である。

(8)政府は法定雇用率や納付金の引上げ等雇用促進の指導を徹底するとともに、法定雇用率の対象となっていない精神障害者の雇用義務化を図る必要がある。

(9)無認可小規模作業所の社会福祉法人化を進めるとともに、法人格の取得が困難な小規模作業所に対しては国庫補助を行い、また小規模通所授産施設についても補助金を増額し、支援費の対象とすべきである。

(10)授産施設の製品を政府が優先的に購入し、国会が購入状況をチェックしていくことも考えられる。

(11)交通、雇用、教育等あらゆる分野で障害を理由とした差別をなくす法律の制定が不可欠である。

(12)障害のある人を一方的、画一的に保護する措置の対象から、自由な意思に基づき自立支援を受けることができる権利の主体へと転換させる必要がある。

(13)障害ごとに法律、施設体系、福祉施設などが設定されている現状を改め、ICFにより障害者の範囲を拡大し、総合的な障害者福祉法を制定することが求められる。

(14)障害者差別禁止法については、その制定を急ぐとともに、障害者間の能力に差があることを直視し、社会保障制度を充実させた上で重畳的に適用すべきである。

(15)教育における障害者差別を撤廃するため、学校教育法の見直しを検討するとともに、障害者差別禁止法を制定する際には、障害のある子どもとない子どもが共に学ぶという理念を明文化すべきである。

(16)障害のある人の機会の平等の確保のため、障害者差別禁止法を制定する必要性が指摘されているが、包括的な法律である障害者基本法の改正を視野に入れつつ検討する必要がある。

(17)戦後続いてきた障害者についての定義、認定、等級、支援という施策の枠組みを抜本的に見直すことが必要である。

(18)情報技術の進歩、医療の革新、価値観の多様化等の社会的変化を踏まえ、これまでの経済的支援中心であった障害者施策を見直していくべきである。

(19)障害にかかわる施策を進めていく際には、必ず当事者の意見を聴く場を設けるべきである。

(20)民間の経済主体、NPO、政府の三者が役割を分担し連携する総合的な障害者施策を検討する必要がある。

二 児童虐待防止に関する件

 児童虐待防止に関する件について、平成十五年二月二十六日、鴨下厚生労働副大臣から説明を、参考人から意見をそれぞれ聴取し、質疑を行った。その概要は次のとおりである。

厚生労働省

 児童相談所に寄せられる児童虐待に関する相談件数は平成十三年度において二万三千件を上回るなど、児童虐待は社会全体で早急に取り組むべき課題である。

 児童虐待を防止し、児童の健全な心身の成長と自立を促していくためには、発生予防から早期発見・早期対応、保護・支援・アフターケアに至るまでの切れ目のない総合的な支援が必要であり、いずれの段階においてもきめ細かな施策を準備することが重要である。

 共生社会に関する調査会の提言に対応して、(1)親の孤立を防ぐ場を確保するためのつどいの広場の創設、(2)母子保健活動の充実のための一歳六か月・三歳児健診への心理相談員・保育士の配置、(3)児童相談所の体制強化のための児童福祉司の地方交付税積算基礎人数の割増し、(4)児童養護施設等の充実のための地域小規模児童養護施設の拡充、(5)里親制度の拡充のための専門里親制度の創設、(6)担当職員の資質向上のための研修の実施等の施策に取り組んでいる。

 また、地域の関係機関や地域住民の幅広い協力体制の構築が不可欠であり、特に予防から自立支援に至るまでのすべての段階で有効な市町村虐待防止ネットワークの設置を積極的に働き掛けている。

 児童虐待の防止等に関する法律(以下「児童虐待防止法」という。)の見直しについては、法施行後の状況について、医療、保健、福祉、法律等の専門的見地から解決すべき課題について整理・検討を行うこととし、社会保障審議会児童部会に児童虐待の防止等に関する専門委員会を設置した。

淑徳大学社会学部社会福祉学科教授  柏女 霊峰 氏

 児童虐待防止法施行に伴い、(1)児童虐待の対応が児童相談所へ集中したことにより児童相談所の業務の混乱を招いたこと、(2)親子分離後の子どもの受皿不足が深刻化したこと、(3)地域支援、在宅支援が不十分なこと、(4)家族の再統合のための親への援助システムがないこと、(5)司法の関与が限定的であることが課題としてもたらされた。これらは、市町村・地域レベルでの援助体制の脆弱さ、援助を受ける意欲に乏しい親子を回復のプロセスに乗せていく仕組みの不在という、児童福祉実施体制の二つの限界を現している。今後は、(1)介入的サービス・システム、(2)親子の心のケアサービス・システム、(3)地域の中での支援システム、(4)子育て家庭の居場所提供サービス・システムを児童福祉実施体制のサブシステムとして備えるべきである。

 近年、市町村児童虐待防止ネットワークが急速に整備されつつあるが、ネットワークの充実に伴い、個別事例に対する具体的援助を展開することが見込まれる。

 現在、児童虐待による親子分離から再統合の過程を進行管理するのは都道府県の児童相談所であり、当該家族が在住する最も基礎的な自治体である市町村は部分的にかかわるだけであるが、児童虐待事例に対し一貫した支援を行うためには、市町村が虐待事例の発見から家族の再統合までを児童相談所と共同して支援する仕組みを構築することが必要である。

 児童ソーシャルワーカーが親の権利と子の権利のはざまで対応に苦慮するのは宿命とも言えるが、ソーシャルワーカーの増員・対応技術の向上が必要であり、児童虐待に関する制度的、社会的支援を実行することが求められる。

朝日新聞論説委員  川名 紀美 氏

 様々な事情で親と暮らせなくなった子どもを受け入れている児童養護施設は、重要な役割を担ってきている。約五百五十か所の施設に約三万人の子どもが暮らしているが、近年は何らかの被虐待の経験を持つ子どもが多くなっている。施設の在り方を大きく転換していく必要があり、四つの提言をしたい。

 第一は、グループホームの推進である。高齢者や障害者の分野では住み慣れた地域で暮らしていくための施策が進められている一方、児童福祉の分野では施設の小規模化、地域へという流れが進んでいない。厚生労働省が進めている地域小規模児童養護施設は平成十四年度で二十か所にとどまっている。少人数の施設では近隣との付き合いを含めた様々な経験を積むことができ、心の傷を持つ子どもも特定の大人に見守られて愛されていると実感できるのである。

 第二は、職員配置基準の見直しである。子どもに十分な対応ができる人員を配置する必要がある。

 第三は、里親制度の充実である。里親としての登録者数は年々減少しているが、里親を支援する仕組みを手厚くし、子育てに喜びを感じるような里親を養成することが重要である。自分の子育てを終えた人の中にはもう一度子育てを経験したい人も少なくないので、研修等で専門知識を身に付けてもらい、子育ての一翼を担えるようにしていくことが必要である。

 第四は、児童養護施設の地域の子育ての核となる施設への転換である。蓄積された子育てのノウハウを地域に還元し、地域の中の子育てセンターとして役割を果たしていくことが望まれる。

弁護士・日本子どもの虐待防止研究会理事  平湯 真人 氏

 児童虐待防止法により行政施策も進んだが、法律内容が初期対応に偏り発生予防から親への援助に至る全体的課題は十分に示されていないこと、児童相談所職員の不足や児童養護施設の不足が顕著になったことが課題として明らかになった。

 日本子どもの虐待防止研究会の児童虐待防止法等改正への提言のうち、主な事項は次のとおりである。

 第一に、児童虐待防止法の目的規定に子どもの人権の擁護と家族への支援を明記する。

 第二に、児童虐待の発生予防・発見、子どもの保護、親への指導等のすべての段階の課題が、国等の責務であることを明確にする。

 第三に、親権を柔軟かつ多様な方法で制約する。子どもを救うためには、現行の親権喪失とは別に、親権の一時停止や一部停止の制度が必要である。

 第四に、親が援助を受ける意欲がないときに、それを動機付けるシステムをつくる。現行の知事から親への勧告制度は一度も活用されておらず、実効性のあるシステムが求められる。

 第五に、児童福祉法や児童虐待防止法の対象とならない十八・十九歳の子どもの保護策を検討する。児童福祉法等の対象年齢を検討するとともに、少なくとも一定年齢以上の子どもに親権喪失宣告の申立権を認めること等が必要である。

 このような政府からの説明及び参考人の意見を踏まえ質疑を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1)母親が育児の悩みから虐待に及ぶことを防止するため、父親も育児の一翼を担っていくことが大切である。職場における父親学級、働き方の見直し等により、育児に対する父親の意識を高めることが求められる。

(2)児童虐待の発生予防のため、周産期における家庭訪問及び周産期医療施設との連携強化において、保健師に加え、助産師も関与するための取組の強化を考えていくべきである。

(3)児童虐待に対する公的な支援、介入については、第三者的な立場で適正に判断する仕組みを設け、支援と介入を結び付けることが必要である。

(4)様々な児童虐待事例に迅速に対応できるよう、児童相談所を中心とするネットワークを構築していくことが重要である。

(5)市町村の役割強化のためには、地域の実情に応じて市町村の保健センター、家庭児童相談室、地域子育て支援センターなどが中心機関となり、児童相談所と連携して虐待事例を一貫して進行管理する体制をつくることが考えられる。

(6)学校における被虐待児への適切な対応のため、教員加配の制度を活用することが考えられる。

(7)里親に対する研修・支援を充実させ、知識や技術を身に付けた専門性の高い里親が問題を抱えた子どもを預かることができるよう予算上の措置も含めた体制を構築すべきである。

(8)援助を受ける意欲のない親への動機付けは困難な課題であり、司法や福祉の手続の中で実効性ある仕組みを考えていく必要がある。

(9)虐待する親への支援は重要であり、早急に親の養育能力回復のためのプログラムを開発すべきである。

(10)民法の親権の規定については、懲戒権を廃止するとともに、親の責任・義務と子どもの人権を調和させる方向で改正すべきである。

(11)児童虐待の問題に対応するための司法体制の環境整備として、法律家の養成課程において家族、子ども、ジェンダー等の問題に関する教育を充実させる必要がある。

三 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律施行後の状況に関する件

 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律施行後の状況に関する件について、平成十五年四月十六日、鴨下厚生労働副大臣及び阿南内閣府大臣政務官から説明を、参考人から意見をそれぞれ聴取し、質疑を行った。その概要は次のとおりである。

内閣府

 男女共同参画会議は、同会議の下に設置した「女性に対する暴力に関する専門調査会」の検討・報告を受けて、平成十三年十月及び十四年四月に、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下「配偶者暴力防止法」という。)の円滑な施行に向けた意見を決定し、その意見を関係各大臣に述べた。

 配偶者暴力相談支援センター(以下「支援センター」という。)については、現在百二施設がその機能を果たしており、平成十四年四月からの十一か月間に支援センターに寄せられた相談件数は三万二千九百七十三件であった。九九・六%が女性からの相談であり、年齢別では三十歳代が最も多い。なお、支援センターの業務内容については一定の水準が確保されるよう担当者の全国会議を開催している。

 被害者への二次被害を防ぐためにも職務関係者に対する研修が重要であり、女性センター等の相談員等を対象とした研修、相談員等を管理する立場にある職員を対象とした研修の実施に加え、地方公共団体等における研修用の教材を作成し、廉価にて販売している。

 また、配偶者暴力防止法の内容等を解説したパンフレット等の作成・配布、様々な媒体を活用した情報提供、毎年十一月に男女共同参画推進本部が実施する女性に対する暴力をなくす運動等を通じた広報啓発を行っているほか、平成十五年度においては相談員等の支援者に関する調査研究、加害者更生に関する調査研究を行う予定である。

 民間団体への援助としては、被害者を支援する相談員等を対象に配偶者からの暴力の特性、相談機関に関する情報等をホームページにおいて提供しており、情報内容の拡充に努めている。なお、平成十四年度において、六都道府県十七市の地方公共団体が延べ三十三の民間団体へ合計約五千二百万円の財政的援助を行っている。

厚生労働省

 婦人相談所及び婦人相談員に寄せられた夫等の暴力の相談件数は、平成十四年度上半期において、来所相談と電話相談を合わせて二万四千七百七十八件であり、相談件数全体の二三・六%を占め、件数、割合のいずれも年々増加している。

 婦人相談所一時保護所においてドメスティック・バイオレンス(以下「DV」という。)被害により一時保護された女性の数は、平成十四年度上半期で千八百二十七名であり、婦人相談所において一時保護した全女性等に占める割合のいずれも増加傾向にある。

 平成十四年度に創設した一時保護委託制度の実施状況については、母子生活支援施設、民間シェルター等を一時保護の委託先として確保し、十五年三月一日現在で民間シェルター三十三施設を含む百二十施設と委託契約を結んでいる。十四年度上半期においては、八百五十五名が委託先において一時保護されている。

 婦人相談所等における一時保護等の円滑な実施のため、休日・夜間の相談体制の強化、婦人相談所の保育備品の整備、心理療法担当職員の婦人相談所及び婦人保護施設への配置、専門職員研修の実施、福祉事務所等との機関ネットワークの整備を行っている。

 また、母子生活支援施設等における自立に向けた支援として、母子生活支援施設における広域入所の促進・夜間警備体制の拡充・心理療法担当職員の配置、小規模分園型母子生活支援施設の創設、母子家庭等就業・自立支援センター事業の実施を行っている。

お茶の水女子大学生活科学部人間生活学科教授  戒能 民江 氏

 配偶者暴力防止法の制定は、DVを許容する社会を変えていく第一歩である点、国及び地方公共団体の責務が明記され行政の責任が明確となった点で意義があったが、幾つかの問題が生じている。

 第一の問題は、法の射程範囲が極めて狭いことである。主な対象が緊急時の一時保護までであることに加え、被害者が逃げるなどの一定の行動をとることが前提となっている。また、暴力の定義が極めて限定的である。DVは身体的暴力に限らない複合的暴力であり、特に精神的暴力の影響を重視すべきである。さらに、離婚後の配偶者や子どもの問題が考慮されておらず、人的対象範囲が限定されている。

 第二の問題は、被害者の安全確保体制が不十分なことである。被害者のみならず、家族、親族、援助者の安全確保も必要であり、また外国籍女性、障害のある人、高齢者等多様なDV被害者への対応が課題となっている。

 さらに、(1)就労、精神的ケア、住宅確保等を含む自立支援の視点が弱いこと、(2)DVの特質を考慮した広域対応、自立支援のための体制整備等が十分ではないこと、(3)支援センターがDV対応の中核機関として位置付けられていないこと、(4)保護命令の対象範囲が限定されている上、申立要件が厳しいこと、さらに保護命令違反者の処分が被害者の安全を考慮して行われていないこと、(5)依然として職務関係者による二次被害が多いことが問題点として挙げられる。

全国婦人相談員連絡協議会会長  原田 恵理子 氏

 婦人相談員が受ける相談のうち、配偶者からの暴力、夫以外の家族からの暴力、子ども時代の虐待等直接的あるいは間接的に女性に対する暴力に関係している相談が多くなっている。配偶者暴力防止法施行後は、DVとDV以外のケースに相談内容を選別する傾向が出てきており、DVのみならず女性に対する様々な暴力を援助の対象とする必要がある。

 相談内容の選別が生じる背景には、第一に、支援センターの機能が不明確であることが挙げられる。売春防止法に基づく婦人相談所に支援センターの機能を持たせたことが、相談を二つのカテゴリーに選別することにつながっていると考えられ、法の対象をすべての女性とする必要がある。第二に、支援センターの役割の混乱がある。現在は保護命令申立てのための相談機関としてとらえられているが、支援センターをDV対応の中心機関として位置付けるとともに、関係機関との連絡調整、婦人保護施設の広域利用の促進等の機能を法律に明記すべきである。

 また、(1)公的機関と民間団体との対等な関係の確立、(2)暴力の被害を受けた女性が主体的に生活保護等の援助を求めることが可能となる仕組みの構築、(3)DV対応施策検討のためのDV防止委員会、二次被害防止のための第三者機関の設置の検討、(4)保護命令の対象範囲の援助者への拡大、(5)DV被害者が精神障害者グループホームを利用できるようにするなどの精神障害者施策との連携が必要である。

 より良い援助のためには、被害者の権利を法律に明記するとともに、市区町村において具体的な援助ができる仕組みが必要である。また、被害者への長期支援のため、様々な社会資源をコーディネートする役割を担う婦人相談員の設置を市町村に義務付けること等が求められる。

女性の家HELPディレクター  大津 恵子 氏

 女性の家HELPの入所者数は、平成十一年ごろに日本人女性が外国籍女性を上回り、夫からの暴力から逃れるために入所する女性が増えている。女性の家HELPは、高齢者、障害者、外国籍女性も利用しているが、特に在留資格を問わず外国籍女性を優先的に受け入れているシェルターは全国でも極めて少ない。

 外国籍女性と子どもについては、在留資格、子どもの国籍の問題がある。夫が在留資格の申請・更新に協力しない場合、外国籍女性は婚姻しているにもかかわらずオーバーステイの状態となるため、利用できる福祉制度はほとんどない。また、オーバーステイの外国籍女性が妊娠した場合、子どもが日本国籍を取得できるのは胎児認知された場合等に限られている。配偶者暴力防止法に国籍や在留資格を問わず同法が適用されることを明記する必要がある。なお、身体的暴力に限らず、性的暴力、精神的暴力を受けている外国籍女性は多い。

 また、離婚後は配偶者暴力防止法の一時保護等の対象外であるが、離婚後に民間シェルターを利用する危険な状況にある女性が多数いることを認識すべきである。

 一時保護委託制度が創設され、民間シェルターに一時保護委託費が支払われる仕組みができたが、委託費のみでは、民間シェルターの運営は難しい。民間シェルターは、暴力の被害を始め、様々な被害にあった女性を早くから受け入れ、保護・支援を行ってきた。民間シェルターが財政的危機により閉鎖に追い込まれることのないよう、国及び地方公共団体が必要な援助を行うことが求められる。

 このような政府からの説明及び参考人からの意見を踏まえ質疑を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1)DVへの対応における公的機関と民間団体の連携を考える上で、民間団体への有効な財政的支援の仕組みが必要である。

(2)DVを特殊な問題としてではなく、ジェンダーの問題としてとらえ、幼少時からの教育、対応職員の研修等が必要である。

(3)DVへの対応においては、DVを未然に防ぐという視点が重要であり、幼少時から人権尊重、非暴力の理念を学ぶことができるよう学校教育も含めた教育分野における取組が必要である。

(4)DV加害者の典型的な行動様式を把握し加害者の精神的ケアを行うことが、DVを防止するために有効である。

(5)DV加害者の精神病理学的な分析が必要である。

(6)援助を求めた被害者の安全が守られなかった事例について客観的な立場から総合的な調査を行うための第三者機関をつくり、法制度の改善につなげていく必要がある。

(7)配偶者暴力防止法改正を議論する際には、対象範囲の拡大、保護命令制度の見直しとともに、シェルターを出てから自立するまでの間における被害者の生活再建のための援助の在り方を検討する必要がある。

(8)保護命令の対象範囲を広げる必要があるが、保護命令のみでは安全が確保できないという認識も必要である。

(9)DV対応における警察官の役割については、配偶者暴力防止法第八条の「必要な措置」の内容を明確にする必要があり、具体的な対応を法律に明記すること、若しくは運用上のガイドラインを作成することが求められる。

四 海外派遣議員の報告

 平成十四年九月三日から十二日までの十日間、参議院の特定事項調査議員団として、アメリカ及びカナダにおける共生社会の構築に関する実情調査のため、本調査会委員を主なメンバーとする海外派遣が行われた。派遣された議員六名のうち調査会委員は、小野清子会長(団長)を始め、清水嘉与子、千葉景子及び林紀子各議員の四名であり、その報告を同年十一月十一日の調査会において聴取し、調査会委員間で意見交換を行った。その概要は次のとおりである。

小野 清子 会長
(アメリカの障害者の権利・政策)

 一九九〇年に障害者に対し、雇用、公的サービス、民間事業者の運営する公共施設及びサービス、電気通信等に係る差別的取扱いの排除を規定したADAが制定された。同法の受益者は全米で四千九百万人、カリフォルニア州では四百五十万人と言われている。カリフォルニア州では、連邦政府に比べて差別禁止について厳しい対応をしており、例えばADAにおける雇用差別禁止対象企業は雇用者十五人以上であるが、同州では雇用者五人以上の企業を対象としている。

 ADA制定に当たっては障害者団体が大きな役割を果たした。一九七二年に設立され、障害者自立運動のパイオニア的存在である自立生活センターを始め、障害者権利教育擁護基金、世界障害者問題研究所の非営利三団体を訪問し、障害のある子どもとない子どもが同じ学校で学ぶことの重要性、関係団体が連携して議会へ働きかけることの重要性、障害者雇用に向けたジョブコーチ制度の状況、障害者雇用確保の在り方等について意見交換を行った。

(アメリカの児童虐待)

 年間約百万件の児童虐待が確認され、死亡件数は約二千件、虐待の六割近くはネグレクトである。カリフォルニア州では、一九六三年に児童虐待通告法が整備され、通告があった場合には児童家庭サービス所管の部署のソーシャルワーカーが状況を調査し、虐待が確認された場合には子どもを親から切り離し、七十二時間以内に裁判所に保護要請を出す。裁判所が子どもの保護が必要と判断すれば養子、里親、保護施設等に移ることになる。

 このような児童虐待への対応に関し、児童虐待及びネグレクトに関する省庁間調整委員会、ロス・アンジェルス郡児童福祉局及びロス・アンジェルス児童裁判所を訪問し、意見交換を行った。省庁間調整委員会は、児童虐待の予防・証明・治療等の進め方に関して、省庁間の調整を行う郡レベルでは最大のネットワーク機関であり、子どもの虐待の予防に向けたプログラムの開発や支援を行っている。郡児童福祉局は、二十四時間対応のホットラインを設置し、虐待の存在が確認された場合にはソーシャルワーカーが子どもの保護を行う一方で、親の教育や家族再生に向けた取組を行っている。また、児童裁判所は、全米で唯一ロス・アンジェルスにある児童虐待専門の裁判所であり、四歳から十八歳までの虐待を受けた子どもが出廷し、自らの意見を述べることができる。

(アメリカのドメスティック・バイオレンス)

 一九九三年に約四百万人の女性がDVの犠牲になっており、カリフォルニア州においては年間百五十件近い殺人事件も発生している。同州では一九八八年にDV防止法が制定され、一九九三年にはDVに関する刑罰や刑事手続が刑法典に規定されており、年間約十九万七千件のDV関係の禁止命令が出されている。

 初犯の場合は、加害者は刑務所への拘禁の代わりに一年間の加害者プログラムの受講が義務付けられる場合があるが、そのプログラムは民間の非営利団体が実施している。今回は、そのような団体の一つであるマンアライブ及びDVを専門に扱う裁判所等を訪問し、意見交換を行った。マンアライブのプログラムは、男性が社会的観念として持っている、女性よりも優位な存在であるとの信念を、男女は平等であるという信念に再教育するためのプログラムである。また、裁判所で面談した裁判官によると、自ら年間四百件近い保護命令を出し、加害者プログラムの受講者には九十日ごとに出廷させて、プログラムの進ちょく状況について報告させているとのことである。

(カナダの障害者の権利・政策)

 障害者の権利・政策に関しては、州政府が中心的役割を果たしており、ブリティッシュ・コロンビア州では、子ども家庭問題省や人的資源省が中心となって進めている。一九八一年の国際障害者年を契機として「完全参加と平等」の下、介護を必要とする未成年者とその家族に対するプログラムや、障害のある成人が地域社会へ参画するためのプログラム等が用意されている。特に昨年の総選挙における政権交代後は、できるだけ州政府の関与を避け、障害のある人がコミュニティで自立して生活できるよう地域のニーズを把握している非営利の団体等に資金を提供し、そこから個別のサービスを提供する方向を目指している。これに関連して、G・F・ストロング・リハビリセンターを訪問した。

(カナダの児童虐待)

 一九六〇年以降各州で独自の法律が制定されているが、ブリティッシュ・コロンビア州では一九九六年に「子ども家庭コミュニティサービス法」が制定されている。また、対象となる子どもの年齢も各州で異なり、同州では十九歳未満を対象としている。一九九五年の同州の虐待件数は約二万千五百件であり、虐待により家族と生活できない子どもは親の同意や裁判所の命令によって里親やグループホーム等で生活している。また、子どもにかかわる専門家には虐待の通告義務が課せられ、通告を怠った場合には刑罰が科せられる。

(カナダのドメスティック・バイオレンス)

 DVについては特別な法律は持たず、女性に対する暴力として刑法で対応している。カナダ人女性の半数が十六歳以降に少なくとも一回以上の暴力を経験し、その四分の一は配偶者又はパートナーからの暴力である。ブリティッシュ・コロンビア州では民間のボランティア団体を中心としたサポートグループが被害者の支援を担い、被害女性のためのシェルターも民間の非営利団体によるものであるが、その数は不足している。

 訪問した被害女性のサポート団体である被虐待女性サポートサービス及び女性の法的平等を推進している非営利団体ウエストコーストLEAFでは、弁護士費用補助の予算の削減により被害女性が弁護士を雇えず、裁判所での主張が認められにくくなっていること、加害者更生プログラムを実施しても被害女性の危険性は解消されないこと、訴訟等に介入することによって男女平等権を獲得していく方法等について意見交換を行った。

 また、ブリティッシュ・コロンビア州のホッグ子ども家庭問題大臣から、(1)障害者問題については、これまで州政府が基準を定めて提供してきたサービスについて、障害者本人のニーズに合致したサービスを非営利団体等を通じて提供する方式に改める法案を提出する予定であること、(2)児童虐待については、州政府が保護する子どもの七割は片親家庭であり、州政府が子どもを保護した場合には年間四万カナダドルの費用がかかること、チャイルド・センター型の保護政策を、家族や親族を含めた大家族等による家族中心型の保護政策に転換することにより、十五か月の間に州政府が保護する子どもの数が八%減少したこと、(3)DVについては、増加傾向にあり、被害女性のためのサポートグループの育成、加害者である男性を対象とした人間関係の結び方のグループセッション等も行っており、裁判所も初犯についてはこのようなグループに送るようになっていること等の見解を聴取した。

清水 嘉与子 議員

 今回の視察先は、NPOなどのボランティア組織が多く、政府と対等な役割を果たしているという自信と誇りを持っていた。児童虐待や家庭内暴力の件数は我が国と比較してはるかに多く、かつ複雑な様相を呈しているが、それに対応してきめの細かなプログラムが用意されている。特に印象的であったことは、障害のある人が自立して地域で生活し活躍していることである。しかし、このように健常者と平等に扱われることを求めている障害者がいる反面、障害者のホームレスもいるという現実に、真の共生社会の実現の困難性を痛感した。

千葉 景子 議員

 今回の派遣に関して報告したいことは、第一に、障害者、児童虐待及びDVに関する取組において、NGO、NPOを中心とした市民の取組が重要な役割を果たしていることである。付言すれば、財政悪化している公的部門の代替機能を求められている懸念がある。第二に、子ども、女性等の立場に配慮した児童裁判所等のシステムが存在することである。第三に、障害者、児童虐待の問題については家族の役割についての考え方が我が国と異なる面があり、またDV加害者の教育が強化されているが、その効果については評価が分かれていることである。

林 紀子 議員

 我が国の児童虐待防止法は虐待されている子どもの救出に力点が置かれているが、アメリカではその後の生活について司法の場で決定されるシステムとなっており、児童虐待防止法の見直しの必要性を感じた。また、DV被害者がアメリカ人の夫と離婚しても永住権を失うことのないよう法改正がなされているが、同様の問題は我が国にもあり、配偶者暴力防止法の見直しに向けた検討課題の一つである。障害者の就労に関しては、健常者と同じ資格で同等に競争することで問題の解決が可能なのか、疑問を感じた。

 このような海外派遣議員からの報告を踏まえ、調査会委員間で意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1)知的障害のある子どももない子どもと一緒に学校で学ぶことは重要であるが、重度の子どもについては養護学校が望ましいとの意見もあり、十分検討していく必要がある。

(2)自己選択、主体性、尊厳をキーワードとして踏まえ、障害のある人が地域で自立し、自らの仕事により収入を得て、納税者として権利義務を果たしていくことが求められる。このためにも自立の機会を平等に開くことが必要である。

(3)日本版ADAの制定については、日本の実情に即してどのような形態にするのが最も効果的であるかを検討すべきである。

(4)アメリカの児童裁判所では四歳以上であれば自分で意見を述べる方途が開かれ、また判事も十分な研修・訓練を受けている。

(5)子どもの将来についてどのような方向がよいかをソーシャルワーカーも参加して議論する児童裁判所のような法廷は、児童虐待への対応の一つとして参考になる。

(6)DV被害者のため、公的住宅の供給、職業訓練制度等の自立支援プログラムが必要である。

(7)DVに関しては、アメリカではカウンセリングが重要視されるのに対し、カナダでは刑罰による対処が中心であるという印象を受けたが、両国における対応の違いについては評価が難しい。

(8)DVによる殺人事件が発生した場合、その経緯等を調査するイギリス型の第三者機関が必要である。

(9)配偶者暴力防止法の立法に際して、加害者更生プログラムの効果について資料の収集を行ったが、非常に効果があるという意見と全くないという意見に二分されており、更なる調査が必要である。

(10)DVの原因は男性優位思想であり、初犯で加害者更生プログラムを受講することにより考え方が百八十度転換する事例もある。マンアライブが実践しているようなジェンダー的視点を持つ加害者更生プログラムはアメリカでも少数であり、更なる開発が必要である。

(11)アメリカ、カナダにおいて我が国と明白に異なる点は、障害があっても能力を認め一般の社会で自立させていくという政策が進展していること、公的な機関とNGOの連携の仕組みが確立していること、児童裁判所・DV裁判所等問題を抱えた人の立場に立つ機関が整備されていること、カウンセリング等についても新人カウンセラーを現場に出し経験を積ませていくこと等である。

(12)アメリカにおけるNPOに対する州政府の資金援助及びその活用の手法は我が国の地方分権化政策の参考となるが、その前提となるNPOの成熟度に差があり、我が国においてはその活動を見守りつつサポートしていくことが重要である。

(13)アメリカにおけるNPOは、行政の下請ではなく独立独歩で活動している。マンアライブはプログラム受講済みの加害者に講師となる機会を与える等の独自の活動を行っている。

(14)DVへの対応におけるNGOの活動については、我が国においてはシェルター活動等の被害者救済が活発であるが、アメリカやカナダにおいては被害者の救済と並んで加害者の更生が重要視されている。我が国でも加害者更生プログラムが今後の課題である。

五 派遣委員の報告

 平成十五年二月十八日から二十日までの三日間、兵庫県及び京都府において、共生社会に関する実情調査を行った。

 兵庫県は、障害者福祉に関しては、圏域アクションプログラムを策定し、重度心身障害者の医療費を公費で負担する等各種施策を実施している。DVに関しては、配偶者以外の問題が複雑に絡んでいる事例や、女性からDVを受けている男性からの相談事例もあること等が紹介された。児童虐待に関しては、平成十四年一月に児童虐待防止プログラムを取りまとめている。説明聴取の後、支援費制度に係る市町の施策、障害者相談員の処遇、こころのケア研究・研修センターの概要、精神障害者の社会復帰推進策、ボランティアの在り方、盲導犬の育成、配偶者暴力防止法の見直しの内容、縦割り行政の改革等について質疑が行われた。

 このほか、神戸市にある社会福祉法人プロップ・ステーション及び県立総合リハビリテーションセンターを視察し、その運営の概況等について、それぞれ説明を聴取するとともに、車いす・福祉用具の試用体験を行った。

 京都府は、障害者福祉に関しては、重度身体障害者に対するデイサービス事業の実施、全国初となる全国手話研修センター誘致等各種施策を実施している。児童虐待に関しては、平成十四年十月に児童虐待ゼロを目指す「ストップ・ザ・児童虐待宣言」を行い、市町及び府全域を調整するネットワーク会議を設立した。また、民間による児童養護施設建設、福祉基金設立の計画も進んでいる。DVに関しては、配偶者暴力防止法施行当初に比べ相談件数が六・五倍、一時保護の件数も三倍近くに増加しており、婦人相談所の相談体制の強化等を図っている。説明聴取の後、障害者雇用におけるノーマライゼーション施策の内容、民間企業が福祉分野に参入する際の問題点、「ストップ・ザ・児童虐待宣言」の意義及び効果、児童虐待対策における周産期・周生期への留意の必要性、一時保護を行う民間シェルターに対する財政支援の在り方、支援センターの位置付け等について質疑が行われた。

 また、社会福祉法人太陽の家京都事業本部、京都市聴覚言語センターをそれぞれ視察し、その運営の概況等について説明を聴取するとともに、障害者の勤続年数及び定年、障害者雇用と景気動向との関連、職場のノーマライゼーション、障害者雇用促進のための方策、聴覚言語障害者が医療サービスを受ける際の問題点等について質疑が行われた。

 さらに、真言宗総本山東寺を視察し、車いす用トイレやスロープ等のバリアフリー化への取組等について説明を聴取した。

第三 障害者の自立と社会参加についての提言

 障害のある人がない人と同じように生活し、活動する社会を目指すノーマライゼーションの理念が誕生して半世紀が経過した。

 我が国においては、昭和五十六年の国際障害者年を一つの契機として「完全参加と平等」を目標に各種施策が推進されてきており、平成五年に改正された障害者基本法では、障害者の自立と社会、経済、文化その他のあらゆる分野の活動への参加を推進することが目的として規定された。また、同年から始まった「障害者対策に関する新長期計画」においては、物理的な障壁、制度的な障壁、文化・情報面の障壁、意識上の障壁の四つの障壁という考え方が打ち出され、ノーマライゼーションの理念の下、その除去に向けて各種施策が展開されるとともに、平成十五年を初年度とする新たな障害者基本計画も策定されたところである。

 しかし、社会においてはいまだ障害のある人を保護の対象として考え、障害のある人が権利の主体として活動できる状況には至っていない。そのために障害者の差別を禁止する法律の制定を求める声も高まっている。さらに、今後の高齢社会の進展を踏まえ、障壁の除去にとどまらず、社会全体をユニバーサルデザイン化していくことも求められている。

 このような中、本調査会は、障害のある人とない人が同じ社会の構成員として相互に尊重され、充実した生活を送ることができる共生社会の実現に向けて議論を行い、その課題を明らかにするとともに、解決への採り得る諸施策について鋭意検討を進めてきた。

 このような取組を経て、本調査会として当面の課題について、次のとおり提言する。

一 バリアフリー社会の一層の推進

1 障害の種類を問わず、障害のある人が安心して暮らすことのできる住まいの不足、道路やまちにおける各種障壁の存在、教育や雇用における機会が十分に確保されていないなど、障害のある人が社会において自立した生活を営むための環境がいまだ十分に整備されていない現状にある。障害のある人が地域で暮らすことができるよう、バリアフリー、ユニバーサルデザインを基調とするまちづくりを推進し、ユニバーサルデザインの考え方を社会全体に浸透させる必要がある。

2 既存の公共的建築物のバリアフリー対応の促進を図るため、改修方法等の技術的な助言等積極的な支援に努めるとともに、新たに建築する公共的建築物については、ハートビル法の施行状況を踏まえつつ、バリアフリー対応の一層の強化を検討すべきである。

3 高齢者・障害者にとって利便性・安全性の高い移動手段の確保は、活動や社会参加の前提条件となるものであり、都市部だけでなく鉄道やバスの使えない地域に居住している人を含めすべての人の移動を保障するため、STS(スペシャル・トランスポート・サービス)等による外出支援サービスの充実を図る必要がある。また、移動の連続性を保障するため、一体的、連続的な空間の整備を一層推進すべきである。

4 知的活動を補助するIT(情報技術)の進歩は、障害のある人の自立・社会参加に大きな役割を果たす可能性がある。障害のある人にとって利用しやすい機器やソフトウエア等の開発・普及、及びこれらの機器等の活用を促進するための施策を一層推進するとともに、IT教育についても、内容の充実と対象者の拡大を図るべきである。

5 障害のある人等の選挙権の保障については、投票所等に行くことも自書することも不可能な人に投票の機会を保障するための制度を速やかに創設する必要がある。

二 教育・就労環境の整備

1 ノーマライゼーションの理念の下、障害のある子どもとない子どもが幼少時から地域において共に活動することにより、障害の有無にかかわらず共に助け合いながら生きていくという共生の感覚を育てるとともに、障害のある子どもにとっては将来社会の中で生活していくための力を付けていくことにもつながる。学校施設等のバリアフリー化を始め、障害のある子どもとない子どもが交流・理解し合うための環境整備及び障害のある子どもの教育の保障に努めるべきである。

2 在宅医療技術が進歩してきている現在、重度のあるいは重複した障害のある児童生徒でも、可能な限り地域における学校教育が受けられるよう、適切な医療的配慮等が求められる。また、長期療養のため通学が困難な児童生徒に対する病院等の施設における学習機会の確保のため、当該施設等における学習の場の確保や、子どものニーズに応じた授業が提供できるよう、訪問教育の充実を図るべきである。

3 深刻な不況により就労の場を狭められている障害のある人の働く場を確保するため、障害者の法定雇用率遵守の徹底化を図るとともに、障害者雇用に積極的に取り組んでいる企業を顕彰するなどにより企業の意識を変えていく必要がある。また、精神障害者に対する障害者雇用率制度の適用については、人権に配慮した対象者の把握・確認方法の確立等の課題を解決することにより、早期に実施されるよう努めるべきである。さらに、ITの進展を踏まえ、ITの活用による障害のある人の多様な就業機会の可能性を広げる方策について推進すべきである。

4 近年、安価な製品の輸入が増えているため、障害者の活動の場である授産施設や小規模作業所等で作られる製品との間に競合が生じ、仕事の受注の減少を余儀なくされている。障害のある人の地域生活を支える上で重要な役割を果たしている小規模作業所への補助を行うとともに、調達の拡大等により障害者の授産施設等の製品の販路拡大を図る必要がある。

三 障害のある人の権利

1 障害のある人が、生涯を通じてあらゆる分野で機会の平等が確保され、障害のない人と同等の権利が保障されるよう、障害を理由とする不当な差別を禁止するための法制の整備に努める必要がある。その際、障害のある人の能力に差があることに留意するとともに、社会福祉制度を充実する必要がある。

2 措置制度から支援費制度への移行に伴い利用者本位のサービスの確保に努めるとともに、障害のある人を権利の主体と位置付け、差別解消のためには法律や制度の整備のみならず、合理的配慮が必要であることに留意しつつ、総合的な障害者施策の推進に努めるべきである。

四 福祉機器等の流通の促進

 近年、障害のある人等の生活環境の改善に資する、新たな福祉機器等が開発されている。このような製品の開発に当たっては障害のある人等のニーズを踏まえるとともに、その普及、流通を一層促進するため、政府調達の見直し等を図るべきである。

五 障害のある人等の政策決定過程への参画

 障害のある人のニーズや要望を的確に把握し、それらを踏まえて障害者施策を推進するためには、障害のある人を中心に、障害者施設や障害者団体の関係者など、障害のある人等の政策決定過程への参画が不可欠であり、その一層の推進を図る必要がある。


第四 児童虐待の防止に関する決議

 親等の保護者からの虐待により、心身の健全な育成が阻害されることはもとより子どもの生命までが危険にさらされる児童虐待については、平成十二年十一月の「児童虐待の防止等に関する法律」施行によって、その防止に向けた対応に一定の前進が見られるものの、悲惨な事件は後を絶たない。

 児童虐待が発生する背景としては、家族の抱える経済的要因のみならず、近年の都市化に伴う核家族化、家庭の内外における人間関係の希薄化等の社会的要因も指摘されるところである。これらは現代の家族の在り方や地域社会の在り方とも密接に関係する問題であり、児童虐待の根本的解決のため、世代間の暴力の連鎖を断ち切るとともに、次世代を担う子どもを、社会全体としてどのように育成していくかという観点に立った幅広い検討が求められるところである。

 同時に、児童への虐待が子どもの人権を侵害する行為であることに留意するとともに、児童の権利に関する条約の趣旨を踏まえ、児童が人権の享有主体として尊重され、その心身の健全な成長が図られるような社会環境の実現をも視野に入れつつ、虐待防止に向けた取組を進めていくことは、我々立法府並びに政府の責務でもある。

 このような観点に立ち、本調査会は昨年一年間児童虐待の防止に関する調査を行い、その結果を中間報告として取りまとめ、虐待の発生原因・予防、虐待の早期発見・早期対応、被虐待児への支援体制の確立等について提言を行ったところであり、本年においても引き続き、児童虐待の防止に向けた更なる調査を行った。

 立法府は、本問題の早期解決に向け、懲戒権を含む親権の在り方や児童の人権尊重の理念の明文化を始めとして、児童虐待の防止等に関する法律の見直しとともに、性的虐待に対する刑事法的介入の在り方を含め、関係法律の検討を早急に行うこととする。

 また、政府においては、本調査会の提言の諸施策を含め、次に掲げる事項について予算上の措置を含め、万全の措置を講ずるべきである。

一 虐待の原因の一つとなる育児における親の孤立化を防ぐため、地域子育て支援センター・子育て支援ネットワークの周知及び拡充に努めるとともに、父親も子育てに対する参加と責任が果たせるよう労働時間の短縮を始め、父親の育児教室の推進等子育て支援策の充実に努めること。

二 虐待の予防には早期の把握や対応が重要なことから、妊産婦健診、周産期診療、乳幼児健診等の充実・強化に努めるとともに、これらの時期に母親等と接触する機会の多い保健師、助産師等の役割の重要性を踏まえ、教育・研修等の実施により保健師、助産師等の資質の向上を図ること。
 また、虐待を防止する予防的な教育の一環として、学校教育において児童自らが自分自身の身を守るような教育の推進に努めるとともに、関係教職員の研修等を通じた資質向上により、学校における児童への適切な支援が行われるようにすること。

三 児童相談所に求められる役割の変化を踏まえ、その機能強化を図るとともに、児童虐待相談件数の急増に適切に対処するため、児童相談所職員の増員、児童福祉司の専門性の向上、児童養護に豊富な経験を持つ人材の児童相談所での活用等について検討を行うこと。また、一時保護所や児童養護施設等における居住性の向上、被虐待児への個別対応を図るため、これらの施設の充実、関係職員の資質の向上及び増員に努めること。

四 被虐待児の適切な保護等のため、裁判所の積極的関与が図られるよう、司法手続上の整備を含めて引き続き検討を行うこと。

五 国及び地方における虐待防止ネットワークの構築をより一層推進するとともに、住民に最も身近な市町村レベルのネットワークが地域の関係機関や住民との間で協力体制を取り、児童相談所と協同して虐待の予防、早期発見、さらには事後の虐待事例へのフォローにも対応できるようにすること。

六 児童福祉施設等における児童への虐待や二次的被害の防止のため、関係機関の職員の研修等を通じ、資質の向上を図るとともに、虐待を受けている児童が相談しやすい環境をつくるための体制の整備を図ること。

七 期間に弾力性を持たせた里親や専門的な心理ケアを行う里親制度の拡充・多様化を更に進めるとともに、里親の認定から委託後のフォローまでの各段階を通じて、里親への支援の充実に努めること。

八 虐待する親に対しては、治療的なアプローチが不可欠であり、親の養育能力を回復させるための治療・指導プログラムの開発・研究を進めるとともに、援助を受ける意欲のない親への動機付けの方途について、司法的関与の在り方を含め検討すること。また、分離された親子の再統合に向けてのプログラムの研究・開発についても検討を進めること。

   右決議する。



○参議院共生社会に関する調査会委員(平成十五年六月十六日現在)

会長 小野 清子 (自由民主党・保守新党) 理事 有馬 朗人 (自由民主党・保守新党)
理事 清水 嘉与子 (自由民主党・保守新党) 理事 橋本 聖子 (自由民主党・保守新党)
理事 羽田 雄一郎 (民主党・新緑風会) 理事 山本 香苗 (公明党)
理事 林  紀子 (日本共産党) 理事 高橋 紀世子 (国会改革連絡会
(自由党・無所属の会))
有村 治子 (自由民主党・保守新党) 大仁田 厚 (自由民主党・保守新党)
大野 つや子 (自由民主党・保守新党) 小泉 顕雄 (自由民主党・保守新党)
後藤 博子 (自由民主党・保守新党) 段本 幸男 (自由民主党・保守新党)
南野 知惠子 (自由民主党・保守新党) 山下 英利 (自由民主党・保守新党)
岡崎 トミ子 (民主党・新緑風会) 神本 美恵子 (民主党・新緑風会)
郡司  彰 (民主党・新緑風会) 鈴木  寛 (民主党・新緑風会)
千葉 景子 (民主党・新緑風会) 風間  昶 (公明党)
弘友 和夫 (公明党) 吉川 春子 (日本共産党)
福島 瑞穂 (社会民主党・護憲連合)      


(参考)

1 主な活動経過

 (一年目)

第百五十二回国会  
平成十三年八月七日 共生社会に関する調査会設置
第百五十三回国会  
平成十三年十一月五日 調査テーマを「共生社会の構築に向けて」に決定
「共生社会の構築に向けて」のうち、共生社会について調査会委員間の自由討議
十一月十九日 「共生社会の構築に向けて」のうち、児童虐待防止に関する件について、松下内閣府副大臣、岸田文部科学副大臣及び南野厚生労働副大臣から説明聴取、質疑
十一月二十一日 「共生社会の構築に向けて」のうち、児童虐待防止に関する件について、横内法務副大臣、警察庁及び最高裁判所から説明聴取、質疑
十二月三日 「共生社会の構築に向けて」のうち、児童虐待防止に関する件について、参考人日本弁護士連合会子どもの権利委員会幹事・東京弁護士会子どもの人権と少年法に関する委員会委員・弁護士磯谷文明氏、国立小児病院・小児医療研究センター小児生態研究部長谷村雅子氏及び大阪府中央子ども家庭センター所長萩原總一郎氏から意見聴取、質疑
第百五十四回国会  
平成十四年二月十三日 「共生社会の構築に向けて」のうち、児童虐待防止に関する件について、参考人駿河台大学法学部教授吉田恒雄氏、筑波大学心身障害学系教授宮本信也氏及びエンパワメント・センター主宰森田ゆり氏から意見聴取、質疑
二月十八日
   ~二十日
共生社会に関する実情調査のため、香川県及び岡山県に委員派遣
二月二十七日 「共生社会の構築に向けて」のうち、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律施行後の状況に関する件について、松下内閣府副大臣、横内法務副大臣、狩野厚生労働副大臣、警察庁及び最高裁判所から説明聴取、質疑
四月三日 「共生社会の構築に向けて」のうち、児童虐待防止に関する件について、参考人東京大学大学院教育学研究科教授汐見稔幸氏、徳永家族問題相談室室長・保健師徳永雅子氏及び日本弁護士連合会子どもの権利委員会委員・東京弁護士会子どもの人権と少年法に関する委員会委員・弁護士坪井節子氏から意見聴取、質疑
四月十日 「共生社会の構築に向けて」のうち、児童虐待防止に関する件について、狩野厚生労働副大臣、岸田文部科学副大臣、横内法務副大臣、内閣府、警察庁及び最高裁判所に質疑
五月八日 「共生社会の構築に向けて」のうち、児童虐待防止に関する件について、調査会委員間の自由討議
六月十二日 共生社会に関する調査報告書(中間報告)を議長に提出することを決定

 (二年目)

第百五十四回国会閉会後
 
平成十四年九月三日
    ~九月十二日
共生社会の構築に関する実情調査のため、アメリカ及びカナダに海外派遣
第百五十五回国会  
平成十四年十一月十一日 海外派遣議員から報告聴取、調査会委員間の意見交換
十一月二十日 「共生社会の構築に向けて」のうち、障害者の自立と社会参加に関する件について、米田内閣府副大臣、増田法務副大臣、鴨下厚生労働副大臣及び大野文部科学大臣政務官から説明聴取、質疑
十一月二十七日 「共生社会の構築に向けて」のうち、障害者の自立と社会参加に関する件について、参考人日本社会事業大学社会福祉学部福祉援助学科教授佐藤久夫氏、東洋英和女学院大学人間科学部人間福祉学科教授石渡和実氏及び全国自立生活センター協議会代表中西正司氏から意見聴取、質疑
十二月四日 「共生社会の構築に向けて」のうち、障害者の自立と社会参加に関する件について、参考人桃山学院大学社会学部社会福祉学科教授北野誠一氏、明治学院大学社会学部社会福祉学科教授中野敏子氏及び社会福祉法人日本身体障害者団体連合会会長兒玉明氏から意見聴取、質疑
第百五十六回国会
 
平成十五年二月五日 「共生社会の構築に向けて」のうち、障害者の自立と社会参加に関する件(バリアフリー社会の実現)について、加藤総務副大臣、木村厚生労働副大臣、西川経済産業副大臣及び吉村国土交通副大臣から説明聴取、質疑
二月十二日 「共生社会の構築に向けて」のうち、障害者の自立と社会参加に関する件(バリアフリー社会の実現)について、参考人東京都立大学大学院都市科学研究科教授秋山哲男氏、株式会社ユーディット代表取締役社長関根千佳氏及び一級建築士事務所アクセスプロジェクト代表川内美彦氏から意見聴取、質疑
二月十八日
     ~二十日
共生社会に関する実情調査のため、兵庫県及び京都府に委員派遣


二月二十六日 「共生社会の構築に向けて」のうち、児童虐待防止に関する件について、鴨下厚生労働副大臣から説明聴取、参考人淑徳大学社会学部社会福祉学科教授柏女霊峰氏、朝日新聞論説委員川名紀美氏及び弁護士・日本子どもの虐待防止研究会理事平湯真人氏から意見聴取、質疑
四月二日 「共生社会の構築に向けて」のうち、障害者の自立と社会参加に関する件(障害者の権利)について、参考人桃山学院大学法学部法律学科教授瀧澤仁唱氏、弁護士・日本弁護士連合会人権擁護委員会障害のある人に対する差別を禁止する法律調査研究委員会事務局長野村茂樹氏及び障害者インターナショナル日本会議権利擁護センター所長金政玉氏から意見聴取、質疑
四月十六日 「共生社会の構築に向けて」のうち、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律施行後の状況に関する件について、鴨下厚生労働副大臣及び阿南内閣府大臣政務官から説明聴取、参考人お茶の水女子大学生活科学部人間生活学科教授戒能民江氏、全国婦人相談員連絡協議会会長原田恵理子氏及び女性の家HELPディレクター大津恵子氏から意見聴取、質疑
五月七日 「共生社会の構築に向けて」のうち、障害者の自立と社会参加に関する件について、調査会委員間の自由討議
六月十六日 児童虐待の防止に関する決議
共生社会に関する調査報告書(中間報告)を議長に提出することを決定

2 携杖許可制度の見直しについての申入れ

 議院運営委員長  宮崎 秀樹 殿

 携杖許可制度の見直しについての申入れ

 本共生社会に関する調査会は、現在、障害者の自立と社会参加をテーマに調査を進めているところであります。

 我が国の障害者施策は、障害のある人もない人も共に生活し活動できる社会の構築を目指すノーマライゼーションの理念の下に、障害のある人の自立と社会参加を推進することを目的に総合的に進められておりますが、残念ながら障害のある人が社会生活を送る上で直面する様々な障壁が存在しております。

 ノーマライゼーションの理念を社会的に定着させることは国民から負託を受けた国会としても積極的に取り組むべき課題でありますが、現在、議場又は委員会議室に入る者が、つえを携帯する場合には参議院規則第二〇九条但し書によって議長の許可を得ることになっております。また、車いすの利用についても参議院規則を準用する形で同様の措置が採られているところであります。これらは会議の秩序の維持のために採られた措置でありますが、今日、障害のある者にとって、つえや車いす、さらには既に傍聴人だけには原則認められている身体障害者補助犬などは、障害により失われ、または損なわれた機能を補完・代替する用具等として、日常生活上の便宜を図るものであり、必要不可欠な身体の一部であるといえます。

 このような観点に立ち、国会警備上の問題に留意しつつも、つえのうち、歩行補助のつえ及び盲人安全つえの携帯については原則として認める方向での別紙(別紙は略)のような参議院規則改正について、早期に議院運営委員会において検討がなされるよう、本調査会各会派の総意として申し入れるものであります。

  平成十五年三月二十四日

共生社会に関する調査会
会長 小野   清子
理事 有馬   朗人
理事 清水 嘉与子
理事 橋本   聖子
理事 羽田 雄一郎
理事 山本   香苗
理事 吉川   春子
理事 高橋 紀世子
委員 福島   瑞穂