本調査会は、第152回国会の平成13年8月7日に設置され、3年間にわたり調査活動を行うこととなった。
我が国は、戦後のめざましい発展により経済的には世界有数の水準に達した。しかし一方で、多くの国民は、これによって持つことができるはずであった豊かさの実感をいまだ持てないでいる。このような状況を踏まえ、国民一人一人が豊かさを実感できる社会とはどのような社会なのか、真に豊かな社会となるためには何が必要なのかという観点から、同年11月、今期の調査項目を「真に豊かな社会の構築」と決定し、調査を開始した。
1年目は、「グローバル化が進む中での日本経済の活性化」及び「社会経済情勢の変化に対応した雇用と社会保障制度の在り方」をサブテーマとして、政府からの説明聴取・質疑、参考人からの意見聴取・質疑、委員派遣等を行い、平成14年7月に中間報告書を議長に提出した。また、同年8月26日から9月4日まで、オーストラリア及びニュージーランド両国の経済、雇用及び社会保障の実情調査等のために海外派遣を行った。
2年目においては、価値観の多様化、ライフスタイルの変化など国民の意識や社会の変化に着目し、生活者の視点から真に豊かな社会の構築に向けた課題を検討するため、「国民意識の変化に応じた新たなライフスタイル」をサブテーマに、参考人からの意見聴取・質疑、政府に対する質疑、委員派遣等を行い、平成15年7月に中間報告書を議長に提出した。
最終年である3年目は、これまでの調査を踏まえ、障害者、健常者、高齢者等の別なく、すべての人が暮らしやすい社会、その能力を発揮できる社会が「真に豊かな社会の構築」のためにとりわけ重要であるとの観点から、「ユニバーサル社会の形成促進」をサブテーマとして調査を行うことを決定した。調査会においては、参考人から意見を聴取し質疑を行うとともに、政府に対し質疑を行った。その後、委員から最終報告書を取りまとめるに当たっての意見表明がなされた。
また、今期の調査会の調査を踏まえ、本会議での会長による最終報告に引き続き、本会議決議を行うべく、当調査会委員の発議による「ユニバーサル社会の形成促進に関する決議案」を提出することとした。
本報告書は、こうした活動を基にその概要と論議を整理するとともに、3年間の調査を踏まえ、「真に豊かな社会の構築」のために重要であり、かつ速やかな取組が求められる事項について11項目の政策提言を取りまとめたものである。
3年目のサブテーマ「ユニバーサル社会の形成促進」について、平成16年3月10日及び4月7日に参考人を招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。
バリアフリーは、特定の人に対する不便さを除去するために町や社会を変えていくことをいうが、ユニバーサルデザイン又はユニバーサル社会は、その人の社会での活躍の可能性又は期待まで踏み込んで社会整備を行うことだと考える。また、ユニバーサルデザインという言葉は、日本では主に物を対象とするが、本来は、思想、考え方、哲学、法律までをも含む幅広い意味を有する。したがって、すべての人が力を発揮でき、かつ支え合うユニバーサル社会を構築するためには、バリアフリーといういわゆる物理的な障壁の除去にとどまらず、人の意識、法律、制度をも変える必要がある。
プロップ・ステーションは、障害のために労働、学習又は生活に強い困難を来している人たちが、自分たちに便利な社会は、すべての人にとってもより良い社会であると考え、ユニバーサル社会の構築を目的として活動する法人である。活動では、キャッチフレーズに「チャレンジドを納税者にできる日本」を掲げているが、チャレンジドとは、挑戦という使命や課題を与えられたという積極的な意味を有するとともに、その人の可能性をすべて世の中に発揮してもらおうという思いも込めた言葉である。
この活動を始めた13年前に全国の重度障害者に対してアンケートを行ったところ、コンピューターのような道具を用いて社会参画し、力を発揮し、自分の力で稼ぎたいという多くの回答が寄せられた。そこで、コンピューターを利用して、その人たちの可能性を最大限に世の中に発揮してもらおうという活動の方向性が決まった。この考え方に対しては、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長を始め、ほとんどすべてのIT業界のトップの方の応援を得、現在では、多くの障害者がコンピューターネットワークでその力を世の中に発揮する状況になっている。
これまでの日本の福祉では、障害者は、弱者であって、何らかの手当てを要する対象とされてきたが、アメリカやスウェーデンでは、40年以上前に国是を変え、福祉の考え方について、弱者を手当ての対象としてとらえるのではなく、社会のメーンストリームに引っ張り出して活躍できるようにすることとした。
ケネディは、大統領になって最初に議会に提出した教書の中で、「大統領として私はすべての障害者を納税者にしたい」旨述べている。アメリカでは、これに沿う形で様々な法整備が行われ、1990年にはADA法が制定されている。
これに対して、日本では、労働でも教育でも、障害者は特別な枠の中でというのが法律の主流となっている。今後は、どうしたら障害者の力を少子高齢社会の中ですべて生かしていけるのかという踏み込んだ議論を、是非政治の場でも行ってほしい。
今後、少子高齢社会の到来に伴う負担を、若くて元気な人たちだけの力に全部覆いかぶせるのか、一人でも多くの人が少しの力であっても世の中にすべて発揮し、誇りを持って支える一員になってもらい、無理なところは支え合いをするというような社会とするのか、日本は分水嶺に来ているのではないか。私自身は、後者であってほしいと強く願う。
現場の中で生み出した実例を次のステップへつなげるために、とりわけ政治の場で、新しい国づくりに向けての議論、発言、そして法整備に向けた行動を取っていただくことが必要だと感じている。
平成11年度から、静岡県政の基本にユニバーサルデザインの考え方を据えているが、それは、以下の四つの課題を打破するのに、それが適当だったからである。
第一は、人権の尊重を徹底するという観点である。静岡県では、平成9年から人権啓発センターを設置し、諸問題の解決を図ったが、県民に対する意識の浸透が進まなかった。第二は、静岡県では、平成8年に静岡県福祉のまちづくり条例を制定し、福祉の観点から住みやすい地域社会を作るための取組を始めたが、取組が全県的に広がらなかった。第三は、障害者の自立を実現するために、非常に発信力の強い、浸透力のある理念や言葉が必要だと考えていた。第四は、男女共同参画社会の形成と今後の少子高齢社会の到来にかんがみ、老若・男女共同参画社会を徹底するために、印象深い表現を求めていた。
静岡県では、平成11年に全国初のユニバーサルデザイン室を設け、5人の専任スタッフを配置するとともに、知事を本部長とするユニバーサルデザイン推進本部を組織した。翌平成12年、ユニバーサルデザイン行動計画を策定し、平成12年から平成16年までの5年間の行動計画を現在実行中である。学識経験者や専門家等8名からなる推進委員会を設立し、この助言、提言を受けながら行動計画の立案、実行に当たっている。具体的な施策の立案に当たっては、必要に応じて、各種の専門委員会を設置している。
具体的な取組事例としては、普及啓発のための諸活動、ガイドラインやマニュアルの作成、アイデアコンクール等の実施がある。
平成11年には、視覚障害者等の意見も聞き、県で使用する封筒を改善した。
また、学校教育におけるユニバーサルデザインの教育の重要性から、教師用の研修テキストや教材を開発してインターネットのホームページで公開したり、小中学校の総合学習の時間にユニバーサルデザインの授業を取り込んでもらう等の施策を実施してきた。
一般のメディアに取り上げてもらうという観点で各種大会も有意義であり、平成13年には、全国の第1回ユニバーサルデザイン大会を浜松市で開催した。これは大変な反響を呼び、翌平成14年から、県内を対象としたユニバーサルデザイン大会を年1回開催している。
県の施設整備においては、エコパという総合運動公園、県営住宅、県立総合病院のサインの改修に当たり、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた。県庁の本庁舎や出先機関等も、既に平成14年度までに、サイン等のユニバーサルデザイン化を完了している。
民間では、県の工業技術センターと木工企業が共同で、ユニバーサルデザインの机及びいすを開発した。
また、県内の市町村にも取組が拡大している。浜松市は、ユニバーサルデザインフェアを実施し、ファッションの中にもユニバーサルデザインの考え方を取り入れようとするとともに、今年度、全国初のユニバーサルデザイン条例を制定した。東伊豆町では、ユニバーサルデザインのまちづくりをメーンに、各種取組を実施している。
ユニバーサルデザインという言葉や内容についての認知度については、平成11年度は県民の31%にしかこのユニバーサルデザインという言葉が理解されていなかったが、平成15年度では66%に拡大している。平成16年度はこれを7割に持っていきたいというのが、我々のユニバーサルデザイン行動計画の目標である。
また、事業者の取組も増加しており、県の総合計画において平成22年の目標で5割まで持っていきたいと努力をしているところである。
私が事務局長を務める障害者の生活と権利を守る千葉県連絡協議会は、国際障害者年の1981年ごろから継続的に、鉄道の駅等を見て回り、障害者の利用に際し不便な点や改善すべき点を検証し、問題点についての要望を行政や関係機関に働き掛け、改善してきた。
ユニバーサルデザインは、高齢者、障害者又は健常者等の区別なく、すべての人が利用しやすいよう配慮したものと言われるが、すべての人に共通する利便を検討するためには、個々人若しくは集団にとってのバリアを明らかにすることが不可欠であると考える。
一、障害の視点。
幅30センチの黄色い誘導ブロックは、弱視者に対する重要な道しるべであり、移動の自由及び歩行の権利を保障するものである。しかし、数年前から、色や形状など様々な点字ブロックが数多く現れている。視覚障害者は、1995年に千葉駅前に敷設された、突起部分のみが黄色の点字ブロックを問題視し、現地の点検や千葉市役所の障害福祉課、特定街路課等に対する要請を重ねたほか、千葉県弁護士会に人権救済を申し立てた。同弁護士会が千葉市に対して要望書を提出した結果、千葉市は、全面が黄色の点字ブロックに改善した。
この点字ブロックも、車いすの障害者にとっては、車いすが揺れて、歩くときの妨げになっている。交差点の段差の解消についても、車いすの障害者にとっては絶対に必要なことであるが、視覚障害者にとっては歩道と車道の境界が分かりにくいものとなる。
バリアフリー化を進めていくためには、障害の種類や程度を超えて様々な意見や要望を出し合い、計画の段階から当事者も参画し、理解を深める必要があり、さらに聴覚障害者や内部障害者、知的障害者、精神障害者、難病患者などの実態や要望などを十分に反映させ、そのバリアを除去する取組が不可欠である。
二、生活の視点。
ハートビル法及び交通バリアフリー法が施行されてもなお、毎日の生活の視点から考えると不十分な点が多い。ハートビル法は、新設の建築物には適用されるが、既存の建築物には適用されず、障害者のバリアを解消するには至っていない。
私も、電車の乗降に際して駅員にうまく引き継いでもらえなかったり、駅のエスカレーターで動けなくなったりしたことがあった。また、駅の障害者トイレに閉じ込められたこともあった。障害者トイレでも、縦の手すりがなくて利用しにくいトイレは多数ある。
また、車いすの生活になって、通い慣れた店や病院に行きにくくなった。車いすで行ける病院等があるかどうか、緊張してうまく治療できるかどうか、不安になる。
三、人生の視点。
障害者の問題は、障害による違いだけでなく、人生の節目ごとに考える必要がある。
私が小学生のころ、小学校にはエレベーターがなく、移動が困難だった。現在でも、小中学校のバリアフリーは遅れており、障害を持つ親が子供の保護者会や授業参観に行くのも困難である。
私は、手術及び入院生活を通じて、人間の生命力及び回復力の強さを一番強く感じた。幸い、費用が出せたので絶好の機会に手術できたが、費用が出せなければ今のような生活はできなかった。正に、金の切れ目が命の切れ目である。
人間として当たり前の生活を取り戻すための住宅改造や、障害を克服しバリアを取り除くための福祉機器等について、国は大幅に援助すべきである。
質疑応答の概要
○ 障害者の自立支援活動に有効なITの特性については、様々な障害の人がITに触れることによって初めてすばらしい道具に進化していくことができる。ITを使って、意思を表明したり、仕事ができるようになったチャレンジドは、ITを単なる道具ではなく、意思や可能性を表現する最大の技術革新であると言っているとの説明があった。
○ ITの促進によるユニバーサルデザイン化への影響については、ITは障害者のコミュニケーション能力を飛躍的に拡大する上で大きな機能を発揮しつつある。今まで表に出しにくかった能力をITの活用によって顕在化させ、社会貢献をする可能性が増大しているとの意見があった。
○ ニーズとシーズを双方向で結び付けるシステムの必要性については、一人一人が自分はこのようなものが世の中に存在すればこういうふうに行動できる、発揮できるということを発信し、発言し、それを受け止めて科学技術やITや政治に生かすことが求められている。技術はそこまでできるところへ来ているので、それを受け止めてどうするかという議論が重要な段階に来たと思うとの意見があった。
○ 障害者をチャレンジドと呼ぶことによる環境変化については、その人のマイナス部分でなく、可能性に着目するという意識の変化が重要であり、そのような文化を広げるため、この言葉を使っていただきたい。言葉が文化を変え、同時に法整備もされていくことが重要であるとの意見があった。
○ 障害を有する子供を普通学級に通わせるべきか、十分な支援体制がある学校、学級に通わせるべきかについては、知的や身体の障害児童だけでなく、様々な人が多様な教育システムを選ぶことができ、状況に応じて移動していくシステムを教育のユニバーサルと思っており、固定せず新しいものも生み出していくことがこれからの教育には必要であるとの意見があった。特殊教育諸学校を独立校で分散させる方式とともに、既にある健常児の通っている学校の中に分教室、分校として同居させる方式も推進している。一方で健常児の学校と言われたところでも問題が起きているので、今後は選択肢を増やして、保護者、子供が選べるようにしていきたいとの意見も出された。子供がどの学校に行くかについては、その子供の発達、生活状況、家庭状況、どんな力を付けるのか、どうしたら伸びていくのかを総合的に判断して決めていくことが必要である。普通学級にいる支援が必要な子供を教育するためには、教員を増やす必要がある。養護学校も特殊学級も必要な教育条件を整えていくことが求められているとの意見も述べられた。
○ 豊かさとは何かについては、重度の障害を持つ娘を授かった後の方が、今まで見えなかったもの、分からなかったことを知ったことで、経済的に豊かになるよりも幸せであるとの意見があった。富国有徳を唱えており、富国については、自然環境や文化的環境も含めて豊かでなくてはならないと目標を定めて、推進している。有徳については、人として備えるべき徳をすべて備えたもののふを目指す、そういう人たちが互いに分かり合い、力を合わせながら良い地域をつくっていこうと取り組んでいるとの意見も出された。豊かさとは人間が自分の力を発揮できることである。すべての人が希望や力を出せる社会を作っていくために多様な手助けをする社会であってほしいとの意見も述べられた。
○ 障害者の就労権保障については、障害者が力を発揮できる職場を確保するために、社会が応援すべきである。特に企業における障害者の雇用率は、大企業ほど法定雇用率を達成していないので、改善措置を講ずるべきであるとの意見が述べられた。
○ 障害者として絶対にしてほしくないこと、是非してほしいことについては、障害の有無という分け方をもうやめたい、人間はできる部分とできない部分があるので、できる部分を出し合い、できない部分は支え合うことを社会システムにしていくことがユニバーサルであり、それに向けての力を借りたいとの意見があった。障害者はできないと考えないでほしい、互いが同じ人間だと理解したとき、平等な関係ができるし、障害者も負担を感じない。話し合ってこそ共通理解ができるのであり、ユニバーサル社会を作り上げていく段階から障害者と一緒に話し合っていただきたいとの意見も出された。
○ ユニバーサルデザイン関連施策の実施費用等については、問題はJR等の公共交通機関の駅舎のユニバーサルデザイン化であり、これには国庫補助制度があるので国に期待している。ノンステップバスにも国の補助制度があるので拡充を期待している。その他は最初からユニバーサルデザインの考え方で整備していけば、出費増は微々たるものであるとの説明があった。
○ 政治に対する要求・期待については、国民がモデルを生み出し、制度、政策にしてくださいと政治家に提案する。制度ができたときには、それを公務員が推進していく。こういう政治、行政、国民の循環ができる分岐点に来ている。現場で多様なモデルを生み出してきた者が伝えたことを受け止めて、制度作りに生かしていただきたいとの意見があった。我が国を運営していく上での国、都道府県、市町村の三段階の行政機構の在り方にとどまらず、司法も含めて抜本的に見直しをしていただきたい。分権が行われると、真の意味で豊かさが実感できる地域社会ができてくる。特色ある地域が形成されて、切磋琢磨しながらいい日本が構築できる。国会の中でも、分権を国家の在り方全体から発想して議論し、断行していただきたいとの意見もあった。昨年度から障害者福祉制度が措置制度から支援費制度に変わり、行政の責任が後退した。国は社会保障予算を大幅に増やし、責任を果たしてほしい。障害者が豊かに生きられる社会は予算的裏付けがあって初めて実現するとの意見も出された。
○ 活動を続けてきた信念については、多様なチャレンジドと出会い、気の毒だというマイナスではなく、プラスの可能性を見付けて全部引き出すことが重要であり、そのような社会を形成するために自分が各方面をつなぎ合わせる役をできないかと考えて活動を行ってきた。その人の持てる力を出し合い、対等にチームワークを組んでいくこの活動そのものが、ユニバーサル社会の縮図であるとの説明があった。
○ IT及びユビキタス技術を生かして障害者の社会参画に先進的に取り組んでいる諸外国の事例については、アメリカでは国防総省内にCPAという組織があり、最高の科学技術を生かして最重度のチャレンジドを政府職員、企業のトップリーダー等にするための教育をし、社会へ送り出している。スウェーデンでは40年前に国策で大規模な福祉工場が作られ、現在2万8,000人のチャレンジドが就労しているとの説明があった。
○ 県による市町村との連携については、一つ目は市町村への啓発、二つ目は情報の提供及び技術的な助言、三つ目は助成事業を通じた普及の定着であるとの説明があった。
○ 障害の内容、程度及び種類によって考え方や要望が異なる場合の取組方法については、条件を変えて、多様な障害に対応できるか考え、計画段階から意見を出し合うことが必要である。ユニバーサルデザインは大事であるが、バリアフリーの観点を見失ってはいけないとの意見が述べられた。
○ 社会を変える原点である教育に対する見解については、静岡県では学校教育だけでなく、県民に対する啓発、社会教育も重要視して取り組んでいるとの説明があった。
○ 暮らしやすい社会を作るため、行政に意見を伝える機会については、インターネットでパブリックコメントを募集しているが、一般の人々、特に障害者は閲覧しにくい。声を出しにくい障害者の声を聞くことが大事である。措置制度から契約制度という支援費制度に変わって、声を届けにくくなっている。障害者の意見をもっと聞くシステムを作っていくべきであるとの意見が述べられた。
○ 社会をもっと豊かにするための方策については、すべての人が持てる力を発揮し、その力で支え合いをするユニバーサル社会を実現するために、最高の科学技術を超高齢社会に導入する。アメリカは科学技術やITをビジネスだけでなく、国民生活をスムーズかつ豊かにしていくことにも使ってきた。最高の科学技術をチャレンジドや未来の高齢化社会に使うのかというテーマも議論の中に入れていただきたいとの意見があった。
○ ユニバーサルデザイン関連事業による県民意識の変化については、ユニバーサルデザインの根底には、障害者だけでなく、子供、高齢者、外国人にとっても暮らしやすい地域をつくろう、だれが使っても使いやすい物を作ろうという考え方がある。この考え方で行動をし、物を作り、仕組みも作っていくことが必要であるという意識はかなり広まりつつあるとの説明があった。
あまり一般的な言葉ではないが、視覚及び聴覚に障害を有する者を盲ろう者と言い、日本には2万人前後いるものと考える。私自身は、9歳で視力を失い、23年前に18歳で聴力を失って盲ろう者となった。そのとき自分は、まるで何も映らない暗黒の真空の無音の世界に置かれたような状況となり、非常に衝撃を受けた。まるで宇宙空間に放り出されたような感じがした。
一番つらかったのは、周囲の人と話ができなくなった、すなわちコミュニケーションが取れなくなったことである。話すことはできたが、相手の話が聞こえないため、不思議と話をしようという気持ちが起きなかった。コミュニケーションは相互的なもの、お互いが言葉を発して語り合わないと成立しないものと言われるが、本当にそのとおりだと感じた。
家族とコミュニケーションを取るために点字で筆談をしたが、用件を伝えるだけで会話と言えるものではなく、非常に寂しくつらい思いをした。しかしその後、指点字という方法で周囲の人とコミュニケーションを取ってみると、非常にうまくいった。盲ろうという大きなバリアが私の前に立ちふさがっていたが、コミュニケーション手段を得たことは、私の人生におけるバリアが取り除かれた第一段階であった。第二段階としては人の存在、すなわちコミュニケーションを使って実際にかかわりを持つ身近な他者との関係により除去された。そして、第三段階としては制度としてのサポート、個人的なかかわりから支援グループ、最終的には福祉制度、あるいは大学に勤めるようになってからは大学の組織的な取組により除去されてきた。
バリアフリーとユニバーサルデザインとの関係について、私なりの整理としては、まず用語の定義として、バリアフリーは、物理的な障壁の除去という狭い意味のほか、情報と文化のバリア、心や意識のバリア、法律や制度のバリアの除去という、広い意味を有する。一方、ユニバーサルデザインは、元々は商品や品物の設計に係る発想で、すべての人が使えるようにするという趣旨であり、ユニバーサル社会もすべての人が参加できる社会という広い意味で使われていると思う。すなわち、バリアフリーは、特定の困難な課題を乗り越えていくという課題解決型の発想であるのに対し、ユニバーサルな発想は、すべての人の参加、利用又はアクセスを可能とする環境を作っていこうという発想である。この発想は普遍性があるが、やや静かで固定的な面がある。また、バリアフリーは、特定の課題を解決するため積極的に取り組むという面もあるが、ややもすると対症療法的な側面もある。これは、恐らくどのような領域の営みでも両方必要なものであり、バリアフリー、ユニバーサルデザインの両方が必要と考える。
障害とは、野球のグラウンドのコンディションのようなものと考えている。障害者は、相対的にハンディを抱えており、コンディションをよくすることも必要だが、重要なことはどんなプレーをするかだと思う。小さいとき、非常に悪いコンディションの中で野球をしても感じた、人生の輝きとも言えるはじけるような喜び、それと似たようなことが、障害その他の心身の諸条件とその人が生きる人生の在り方との間にあるのではないか。確かに条件や環境の整備は必要だが、与えられた条件や環境の中でいかに生きるかという方がより本質的であり、私の障害と人生についてのイメージである。
自治体が目指すべき地域社会のビジョンに共通して言えることは、すべての人がいかなる属性によっても差別されず、平等に生きる権利を保障されるべきだということである。まちづくりの面でも、高齢化が進み、何らかの障害を有する人の数が顕著に増加する傾向の中で、だれにも優しいまちづくりへと、大きく考え方を変えざるを得ない状況がある。
三鷹市では、1970年代からコミュニティー行政を進め、地域の課題の発見及びその解決に市民が参加してきた。こうした取組の中で、市民は、相互のバリアを乗り越えることこそが地域の防災力、安全度を向上させることだと気付いてきた。そこで三鷹市では、一昨年から昨年にかけて、障害者や交通関係者も含めた多くの市民の参加の下、バリアフリーのまちづくりの取組を進めたところである。
近時、バリアフリーの概念について、物理的障壁にとどまらず、制度的な障壁、文化や情報面の障壁、意識上の障壁を除くという趣旨が広く包含されるようになっている。ユニバーサル社会の形成のためには、心のバリアフリーを具体的にまず地域から広げていくことが重要である。それがひいては、社会参加、教育、人々の意識、情報利用等あらゆる分野でのバリアフリー化の基礎になるのであって、例えば、三鷹市では、健康・福祉の観点からも、市民会議方式による検討を経て健康・福祉総合計画2010をまとめている。
このバリアフリーの推進に係る市民会議の取組の中から、市民、事業者、行政の各々の役割が明らかになるとともに、三者が一体となってこそバリアフリーが進むことが確認された。その役割分担を現実化する方策として、三鷹市では、障害者が障害者を、高齢者が高齢者を、子育て中の人が子育て中の人をサポートするという取組を開始している。行政が全面的にサービスを提供するのではなく、行政が市民のニーズと必要なサービスをつなぎ合わせるコーディネーター役を果たすことでユニバーサル社会化が進むのではないかと実感している。
情報バリアフリーの確保については、55歳以上の高齢者で構成されるNPO法人へのIT講習会の委託、市のホームページの整備及び音声読み上げ機能の付加、広報紙の全戸配布等により、情報の共有を進める努力をしている。
また、三鷹市への来訪者に対するもてなしの観点から、交通機関や道路について、改めて住民の視点以外の視点で見直しを進めることも可能となっている。予算面では、今年度予算において、心のバリアフリーを実現するための予算を計上した。これは、障害者、高齢者を始めすべての人が自己実現が可能な地域社会、職業以外の場を開くことによって力を発揮することが可能な社会を構築することが必要な状況において、高齢者、障害者又は子育て中の女性であるがゆえに、当該社会に参画しにくい地域であってはならないという考え方によるものである。心の壁を取り除き、出会いの多い地域社会にすることにより、偏見を防ぎ、ともに尊重し合うまちづくりが可能と考えている。
最近、自治体では、行政と市民、事業者がともに役割と責務を担い合うという概念として、協働という言葉をよく使うようになった。これを普通の市民が実践するためには、何よりも行政が開かれたものでなければならず、情報が分かりやすく提供され、いろいろな組織が出会うためのコミュニケーションが活性化されなければならないと考える。
国際ユニヴァーサルデザイン協議会は、国際ユニバーサルデザイン会議2002が成功裏に終えたことを受け、その理念と成果を継承発展させるべく設立された任意団体であり、テーマ研究、事業開発、そして活動成果の発信という三つの事業を柱として活動している。
我が国は世界一の高齢化先進国であり、急激な技術革新は、高齢者、障害者に新たな格差を生み出している。我々は、年齢、性別、人種、能力の相違等により、生活に不便さを感じることのないものづくり、社会づくりが必要だと実感しており、できる限り多くの人々が利用可能となるよう最初から意図して、機器、建築、身の回りの生活空間等をデザインすることをユニバーサルデザインと定義している。そして、その実践は、企業にとってはユーザー層の拡大と顧客満足度の向上につながるとともに、行政にとっては様々な立場の人々とともに真に豊かなまちづくり、社会づくり、さらに国づくりを進める礎となると考えている。これは、国民のみならず、全世界のすべての人々にとっても有益なことだと認識している。こうした認識の下、国際ユニバーサルデザイン会議2002では、官学産の垣根を越えて国内外の専門家が一堂に会し、ユニバーサルデザインをより高い水準へ到達させようという目的意識で、これまでに蓄積されたユニバーサルデザインの成果の発表、そして情報の共有化と人的交流を行った。最終日には国際ユニバーサルデザイン宣言2002を発表し、使い手と作り手との関係を再構築することで、ものづくりにとどまらず、社会のすべての面に適用されるべき使い手中心の仕組み作りを急ぐことの重要性を確認した。こうした経緯から、ユニバーサルデザインの更なる普及と実現を通して、日本経済の活性化と社会の健全な発展に貢献するために、また日本発のユニバーサルデザインを広く世界に発信し、ひいては人類全体の福祉向上に寄与することを願い、国際ユニヴァーサルデザイン協議会を設立した。
日本では、いまだユニバーサルデザインという概念の理解、ましてやユニバーサルデザインという言葉すら、その認知度は低い。理由としては、ユニバーサルデザインにかかわる側からの情報発信量の少なさ、そして、それは日本固有の謙虚さに起因しているのではないかとも考えている。つまり、ユニバーサルデザインという言葉の持つ役割とか責任が社会的に非常に重いものであるがゆえに、その技術やノウハウ、あるいは考え方がある一定レベル以上のものであるにもかかわらず、会社基準あるいは内部基準として言葉の露出、つまり情報発信を控え目にしてきたのではないのかと考えている。国際ユニバーサルデザイン会議2002では、展示会を開催したが、海外から参加した有識者から、日本のユニバーサルデザインに関するきめ細かく質の高い取組に大きな称賛をいただき、情報発信の大切さを改めて認識した。
本来、ユニバーサルデザインは、広く世に問い、フィードバックを掛けて社会基準にまで持っていくべき性格のものではないか、そして、社会への基盤技術であるとともに、企業の経営理念に反映すべき理念であり、社会的責任として、企業の果たすべき役割の一つと言っても過言ではないと考える。
最終的にはユニバーサルデザインという言葉が一般化し、この協議会が解散できるレベルにまで引き上げていきたいと考えているが、そのためには、官学産一体となった取組が必要であり、今後ともユニバーサルデザインの更なる普及と実現のために御指導願いたい。
質疑応答の概要
○ 真の豊かさとは何かについては、マニュアルがあるのではなく、各人が作っていくことが重要であり、障害の有無、性別の差、民族その他の属性にかかわらず、各人が自分の豊かな人生を追求できる条件が整えられて、各人がそれぞれ追求できること自体が恐らく真の豊かさであるとの意見、ものづくりに対するバリア、心のバリアがない社会ではないかとの意見、一人一人の誇り、尊厳が確認できる、そういう機会が用意されていかなければならず、物理的な豊かさを目指す社会よりも私たちの正に創意工夫が必要であり、政治家の出番ではないかとの意見があった。
○ 盲ろう者を取り巻く諸課題については、ヘレン・ケラーが社会的に活躍できたのは、言葉と出会い、その言葉を提供するサポートの人がいたからであり、同じことが多くの盲ろう者にも言える。アメリカにはヘレン・ケラー・ナショナルセンターという盲ろう者のためのリハビリセンターがある。日本は、盲ろう者が法的に位置付けられておらず、盲ろう者へのサービスがあまり認知されていないので、考える機関ができれば良いとの見解が示された。
○ 福島参考人の東京大学先端科学技術研究センターにおける研究テーマについては、バリアフリープロジェクトを主宰しており、二つのテーマで研究を進めている。一つは文理融合、文系、理系を超えた異なる専門分野の人たちが集まり、異質なアカデミックなバックグラウンドを生かした研究である。もう一つは当事者の視点、欠落をしていた障害を取り巻く当事者性を持ち込んで、当事者の視点を学問や科学研究の中に導入することによって、これまでになかった新しい視点で研究を進めているとの説明があった。
○ 障害が重い人、あるいはユーザーが非常に少ない場合における、経営理念とユニバーサルデザインとの関係については、ユニバーサルデザインという考え方を最初から企業の経営理念として導入しておけば、コストが掛かるものでもなく、それをうまく事業化していけば利益にもつながっていくととらえているとの意見があった。
○ 日本版ヘレン・ケラー・センターの具体的なイメージ、実現のための具体的な条件については、法的位置付け及び大規模でなくても継続的な財政支援が必要であり、入所施設ではなく、一時的なサービス提供機関として位置付けられるべきである。今の日本は様々な障害種別を総合してサービスを提供するという流れであり、これはコスト面では良いが、特殊なニーズに対応した機関が必要だろうとの意見があった。
○ 三鷹市バリアフリーのまちづくり推進協議会やNPO法人シニアSOHO普及サロン・三鷹のような組織の実際の担い手と運営上の課題については、バリアフリーのまちづくりの基本構想をまとめる市民会議では、交通事業者、学識経験者には市役所で依頼するが、市民公募の枠を設けている。NPO法人の担い手は最近多様化し、例えば、NPO法人シニアSOHO普及サロン・三鷹の場合は、退職を控えた方が自主的に集まった。最近顕著なことは、退職者が新たに地域のコミュニティービジネスやボランティア活動の取組を起こす、あるいはこちらが用意した機会に出てくるというケースが増えているとの見解が示された。
○ 優れたデザイナーを育てるために必要な人材教育の内容と行政や国の役割については、デザインは、感性をベースにした技術、アナログ型の技術であり、感性であるがゆえに定量的にできず、人材育成という面では非常に難しい領域と考えている。そうした中で、デザインという学問体系がないということが大きな課題だととらえている。技術士にもデザインという科目はなく、大学では、基本的に工学士や芸術工学士の範囲であり、デザイン学の資格制度というものはないので、是非、官としては取り組んでいただきたいとの意見があった。
○ ユニバーサル社会の実現のために国が最優先で取り組むべき課題については、ユーザビリティーデザイン、アクセシビリティーデザインなど言葉の乱立である。行政の指導で、例えば、定義の明確化、プラットホーム化、階層付けといった整理を始めないと、バリアフリーとユニバーサルデザインもそうであるが、国民の理解を得られないのではないかとの意見があった。
○ 盲ろう者のためのセンター作りを実現化する際に行き当たる壁については、盲ろう者は人数も少なく、全国に散らばっているので、効果的に声を発信できず要求運動等が組織しにくいという問題があるが、最近テクノロジーの発展で、コミュニケーションが可能となったことが一つの大きな転機になったと思う。しかし、優れたテクノロジーがあっても使いこなせないという問題がある。もう一つは盲ろう者の就業問題や通訳者などの福祉制度の矛盾や問題があるので、是非御協力いただきたいとの意見があった。
○ 市長の立場と議会との関係における苦労については、平成13年に定められた基本構想、基本計画の中で、最重点課題の一つにバリアフリーのまちづくりを掲げている。この基本構想は、地方自治法上は議会の議決事項だが、その基となる案は、初めての試みとして、白紙から市民参加で行ったものであり、当時、議会では全会一致で可決された。今まで市長として提案した議案は、すべて可決されており、丁寧に議会に説明し実行していくということで、是々非々で支持してもらえると思うとの見解が示された。
○ 発展途上国におけるユニバーサルデザインに対する理解については、国際ユニヴァーサルデザイン協議会として、そうした国々に対する取組について結論は出ていない。日本が考えるユニバーサルデザイン、その理念、考え方、企業が取り組む製品例により、それを世界に発信することによって理解を求めようと考えているとの見解が示された。
○ 諸外国における思い掛けない視点での成功例や参考になる町については、日本の日本らしい取組の方が逆に外から見て優れているのではないかと感じている。日本の伝統的な間、心の奥に深く刺さるような感情のやりとり、あうんの呼吸といったものの考え方が日本のものづくりのきめ細かなところに反映されており、外から見て、日本を優れたものづくりの国だと理解したとの見解が示された。
○ 感性を磨くためのコツについては、個人の資質にかかわる問題が大きいと思っている。とにかく外を歩き、物を見る、好奇心を持って物を見ることである。好奇心がないと感性は高まらず、デザイナーとしての仕事もこなせないのではないかとの意見があった。
○ ボランティア活動を行っている人達との接し方については、ボランティアの動機付けの中に善意が全面に出て、場合によっては独り善がりや余計なお世話になることはあると思う。しかし、最近では多様な広がりがあり、これまでの取組の中で、対等性、パートナーシップで他者に役立つのが真のボランティアではないかという風土がだんだん築かれている。対等な関係こそ真のボランタリーな精神であり、それを行政も市民も心掛ける中で、独り善がりや自己主張の強さが淘汰されてくるとの意見があった。
○ 生活の中で必要だと思うロボットなどの技術については、障害を持つ立場からサポートをして欲しいテクノロジーの可能性はいろいろあるが、人間か機械かという二分法ではなく、両方必要だと思っている。人間の力とロボットを含めたテクノロジーの力が相互に補うサポートの在り方が重要だとの意見があった。
○ 遊びにおけるユニバーサルデザインの開発については、真に豊かな生活の重要なファクターはコミュニケーションだと考える。コミュニケーションエードでコミュニケーションが広がることもあり、コミュニケーションエードのテクノロジーは重要である。人間は遊ぶことが大事であるので、レクリエーションを助ける技術が大事であるとの見解が示された。
○ 子供事故防止センターの設置と事故防止のための子供の教育については、三鷹市では子供事故防止センターは設置していないが、児童館や小学校の一部で子供が自ら暴力から自分を守るためのワークショップを実施している。また、子育て支援センターに子育て中のお母さんが自由に出入することによって、子供を虐待の危険から防ぐ取組をしている。バリアフリー、ユニバーサル社会を考える上で、声が出しにくい赤ちゃんや子供の視点で考えていくという指摘に共感するとともに、そういう視点を更に重視していきたいとの意見があった。
○ オーダーメードのデザインを併せ持ち、消費者が可変できるようなユニバーサルデザインの開発については、メニュー作りが重要ではないかと考える。多品種少量生産的な考え方でメニュー作りをし、個々のお客様のニーズに合わせたものづくりをするというのがユニバーサルデザインの一つの企業側からの取組であるとの意見があった。
○ ユニバーサル社会の構築のための基本法制定については、障害者基本法だけでは不十分である。障害者も含めて、様々な属性や条件を持った人が社会を活性化させていくという基本理念の下に、予算的裏付けも含め、施策に反映できる拘束力を持った法律を作っていくべきである。包括的で実効性のある強力な法律で、一見財政的負担があるように思えても、持続的な発展のために必要な投資として、様々な属性を持った人たちが一緒に生きていく、そういった元気が出るような法律を作っていただきたいとの意見、自治体での仕事は、横割りで連携をしながら取り組まなければいけない課題が頻繁にあり、ユニバーサル社会の構築にかかわる基本の在り方について規定されれば、自治体も横割りの共通の分野への取組に具体性が出て、根拠を与えられるという感じがする。障害者福祉問題、高齢者問題それぞれの基本法をきちんと作ることは基本的なことであるが、対象者の類型を超えて社会の中で一定のビジョンを展開していくときには、ユニバーサルという概念が有効なものになるのではないかとの意見、IT社会においては操作系が複雑化する中で使い勝手を高めることが、また、ユビキタスという観点では、常時監視から人間らしさを取り戻すような取組も必要である。高福祉化社会では、だれもが使えることが必要であり、IT、ユビキタス、高福祉はすべてユニバーサルデザインに通じるものの考え方であるととらえており、基本法を制定されることは有り難いとの意見があった。
○ ユニバーサル社会形成のための365日、24時間対応できるような社会システムの必要性については、自分自身のエンパワーメント、他者との協力関係、そして社会という、すなわち自助、共助、公助の三つの階層がそれぞれ補い合うことにより、非常に重層的な波及効果をもたらすとの意見、ユニバーサル社会形成のためには、郵便局、消防団や町会等も含め、重層的に役割を担っていくことに意義があるのではないかとの意見、365日、24時間対応できるような社会システムは確かに必要ではあるが、逆に常時監視されているという心理的な圧迫感も生活者側にはあるので、このようなことをハード、ソフト含めて意識させないものづくり、あるいは機器の在り方というものが必要ではないかとの意見があった。
○ 21世紀は、義理人情、すなわち人間関係が社会の中心に据えられるべきであり、ユニバーサル社会構築における個々の努力の在り方については、義理とは、例えば人権であり権利であり義務であり、人情とは、ヒューマニティーや共感、シンパシーである。すなわち、一方で権利関係や人権があって、他方で生身の人間の温かさや共感という両方が必要であるとの意見、ユニバーサル社会形成の上で、情報通信技術の進展は重要な基盤になっており、幅広い情報共有、意見の交流ができるという方向がユニバーサル社会の基盤でもある。集中か分散かというよりは、キーワードは共有であり、共有や交流ということにユニバーサル社会の在り方は考えられるとの意見、ITが進展すると、どうしても機能や効率が重視されるが、技術はハイテクであったとしても、操作性はやはり人間に近い、アナログ的な操作感が必要であり、人間の心理、深層に刺さるようなものづくりをしていかなければいけない。また、いかに個人の能力を引き伸ばすかによってその企業の力が付いていくということで考えれば、むしろ集中から分散、分化の方向ではないかとの意見があった。
○ 知的障害者を含む障害者の解放を目指す上での国や行政の役割については、障害を持つ立場でボランティアの支援を受ける中で感じてきたことは、個人的なつながりは非常に重要であるが、限界があるということである。やはり法的な規定に基づいた行政施策、さらに公的なサービスとしての、職業人としての福祉サービスは必ず必要である。つまり、ボランティア精神は重要であるが、ボランティアを強調するだけではなく、一方できちんとミニマムの部分は公的に保障することが重要であるとの見解が示された。
○ ユニバーサルサービスやデザインを重視したまちづくりを町全体に広げるために必要な取組については、例えば、実際に車いすに乗って障害者の困難を体験するなど、頭ではなく、体で理解をする体験学習やワークショップが有効ではないかとの意見があった。
○ インフラ整備や社会的整備における国際ユニヴァーサルデザイン協議会の今後の取組については、当協議会は、昨年末に発足して、現在本年度の事業計画を作成したところであり、今後は、会員を拡大して、事例を増やし、分野ごとの標準化、あるいはガイドライン作りをしていこうと考えている。それが社会インフラの整備にもつながり、その結果、社会づくり、まちづくりに生かしていけるのではないかとの見解が示された。
○ 全国の首長に対する情報発信の必要性については、昨年10月、全国市長会等の主催による全国都市問題会議で「誰にもやさしいまちづくり」というテーマで発表を行った。今回は本調査会で是非という依頼もいただいた。今後も是非、小さな自治体の事例ではあるが、紹介させていただくことで正にユニバーサル化されて、全国的な理念に結び付いていけば有り難いし、参議院を通じて国の新しい取組にも反映していただければこの上ない幸いとの意見があった。
○ 三鷹市のすばらしいまちづくりについては、地域福祉ということが今の大きな流れになっており、厚生労働省でも、とにかく国の施策には限界がある、住んでいる地域、市町村の施策が重要であるという議論になる。実際の制度もそのようにシフトしてきているので、市長が三鷹市で展開されている取組は非常にすばらしいとの意見があった。
3年目のサブテーマ「ユニバーサル社会の形成促進」について、平成16年4月21日、関係省庁に対して質疑を行った。
質疑応答の概要
○ ユニバーサルデザインに係る政府の取組については、すべての人にとって住みやすい快適な障害のない環境を作っていくことが国の大きな方針だと考えている。高齢者、障害者向けの対策は、高齢社会対策大綱、障害者基本計画の中で具体的な施策も盛り込んでいるが、これを更に発展させて共通の一つの大きな施策の柱、体系を考えていかなければならない時期に来ているのではないかとの答弁があった。
○ ユニバーサルデザインという考え方の広報啓発については、ユニバーサルデザインを促進するため、施設等の整備というハード面の取組とともに、人々の意識向上というソフト面の取組も併せて総合的に推進することが必要である。ソフト面の取組では、内閣府として、具体的には、バリアフリー化の推進に功績のあった団体等に対する表彰制度を設け、毎年秋に内閣総理大臣表彰及び内閣官房長官表彰を行っている。また、障害者施策に関しては、毎年12月9日の障害者の日に「障害者の日」記念の集いを開催し、全国から募集した心の輪を広げる体験作文、障害者の日のポスターに対する内閣総理大臣表彰を行っている。さらに、テレビ、新聞等を活用した広報啓発に取り組んでいるとの答弁があった。
○ ユニバーサルデザイン推進のための会議の設置については、平成12年3月にバリアフリーに関する関係閣僚会議を設置したが、ここしばらく開催されていない。政府の取組姿勢を強く国民にアピールする、施策を推進するとの観点からも、時宜に応じて閣僚会議を開いていくべきであり、努力したい。会議の名称変更は、バリアフリーよりもユニバーサルデザインの方が思想的にも、ものの考え方としても広い観点に立っているので、流れとしては恐らくそういう方向にあろうが、ユニバーサルデザインに対する認識、理解が一般に広がっていないので、状況を十分見ながら、適切に対応していきたいとの答弁があった。
○ ユニバーサルデザイン、ユニバーサル社会の考え方を普及・定着させるため、ユニバーサルデザイン等の定義を明確化することについては、使用する用語、その用語の定義について、国民の間における定着度等も考慮して、今後検討していきたいとの答弁があった。
○ 障害者の就労と福祉サービスの在り方については、働く障害者が通勤等に必要な介助への支援費の適用は、私企業等の事業に関連したサービスであり、現行制度ではなかなか難しい課題だが、障害者の就労支援は障害者福祉政策の最重要課題であり、福祉政策と雇用政策のバリアフリーが必要であることから、現在、障害者の就労、働く場の確保の問題について、省を挙げて検討している。障害者の就労支援について、障害者のほか、自治体や企業等の関係者から意見を聞き、幅広い角度で検討したいとの答弁があった。
○ 支援費の使途拡大については、支援費制度も財源等の問題を抱えている中で、なかなか難しい課題だと率直に言わざるを得ないが、障害者の働く場の確保、就労環境の整備は大切な課題なので、いろいろな角度から検討したいとの答弁があった。
○ ユニバーサル社会の形成のため、地域が個性を発揮できるような仕組み、支援の必要性については、地域の特性に応じて標準的な行政が確保されなければならず、そのため、地方交付税で財源を保障する仕組みを取っているところであり、地域での行政需要について必要経費をきちんと積算していきたいとの答弁があった。
○ ユニバーサルデザインを取り入れた自動回転ドアの安全基準に関するガイドラインの作成については、国土交通省及び経済産業省の共同で自動回転ドアの事故防止対策に関する検討会を設置し、3か月程度で設計者、管理者が守るべきガイドラインを整備することとしており、既に4月8日に第1回の検討会を開催した。検討会には高齢者団体、障害者団体、子供の安全に関する団体の代表、建築物のユニバーサルデザインの専門家にも参加いただいており、ユニバーサルデザイン7原則の考え方も取り入れながら検討を進めていきたいとの答弁があった。
○ 安全確保のための情報収集等の仕組みの検討については、従来から地震、火災や事故により建築物に重大な被害が生じた場合に、都道府県の建築部局から国土交通省に情報提供するよう要請しているが、自動回転ドアについては事故の発生が建築行政サイドに伝わっていなかったことが問題であり、今後、建築基準法の定期報告制度を活用して、事故情報についても地方公共団体の建築行政部局が建築物の所有者や管理者からの報告に基づいて事故情報を把握できる仕組み、あるいは消防機関、消費生活センター等の情報を都道府県等の建築部局が収集して、重大事故のおそれのある情報をできる限り事前に把握できる仕組みを併せて検討していきたいとの答弁があった。
○ 携帯電話のユニバーサルデザイン化については、各メーカーとも消費者の意見、希望を聞きながら、製品開発をしているのが実態であり、多機能、高性能という要求、他方でシンプルでいいものを、簡単に使いやすいものをという消費者の要望にこたえた形の製品開発をメーカーに促していきたいとの答弁があった。
○ JIS規格におけるユニバーサルデザインの反映については、経済産業省では、平成12年にまとまった障害者、高齢者のための情報処理機器のアクセシビリティ指針を拡充したものを策定しており、この中で高齢者や障害者を含め使いやすい情報通信機器、そのための設計の指針を示している。あわせて、現在ユニバーサルデザインの考え方を取り入れたJIS規格の策定準備を進めているとの答弁があった。
○ 道路標識をユニバーサルデザインに配慮したものとする必要性については、各方面から道路案内標識が分かりづらいとの指摘を受けており、一般利用者等から意見を聞き、それに合わせて直している。国道と都道府県道以上が交差する主要な交差点1万8,000か所のうちの64%ぐらいしか路線番号や路線名を標示できていないので、平成19年までに達成できるよう全力を挙げたい。平成12年の交通バリア法の施行に併せて標識令の改正を行い、歩行者系の案内標識を抜本的に改め、絵文字を導入した。歩行者系の道路では、地図を用いた案内標示板の中に英語、中国語、ハングルが入ったものを作り始めている。足りないところは多々あろうが、いろいろな指摘も踏まえながら、徐々に改善して充実させていきたいとの答弁があった。
○ 郵便局ネットワークの有効活用については、現在全国に2万4,700の郵便局があまねく設置され、郵便、郵便貯金、簡易保険といった国民生活に密着した基礎的なサービスを提供しており、近年では、独居老人に声を掛けるひまわりサービス等も行われている。郵便局のネットワークを有効活用し、今後とも、高齢者、障害者も含めて、地域住民に基礎的なサービスを安定的に提供していくことが大切であるとの答弁があった。
○ 政策評価へのユニバーサルデザインの観点の導入については、平成14年4月施行の行政機関が行う政策の評価に関する法律に基づき、政策評価を実施しており、対象政策の特性に応じて、政策の必要性、有効性、効率性を始めとして適切な観点を選択して総合的に評価することとなっている。ユニバーサルデザインの考え方についても、政策の特性に応じて、特に公平性の観点を評価のポイントとして取り組んでいきたいとの答弁があった。
○ 女性や高齢者に配慮した農業機械の開発状況及び今後の取組については、我が国農業従事者の中で女性や高齢者が大きな割合を占めていることから、農林水産省としても、農業機械の改良普及を業務とする独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構による農業機械のユニバーサル化へ向けた取組に対して支援を行うなど、女性、高齢者に配慮した安全で操作しやすい農業機械の開発に取り組んでいる。今後とも、農業機械のユニバーサルデザイン化への支援を通じて、だれもが使いやすい安全な農業機械の開発普及を促進していきたいとの答弁があった。
○ 音声翻訳システム機器の開発状況及び一般に利用可能なポータブルな通訳機器の開発普及の見通しについては、日英、日中、日韓の3か国語の翻訳技術の研究開発を実施しているが、現在の研究レベルは、日英は一般旅行会話であれば支障なく会話が行える翻訳技術が確立されつつあり、日中、日韓翻訳についても、平成17年中の技術確立を目指しており、平成18年ごろに実用的なポータブルの自動翻訳機器が民間企業で商品化されるのではないかと期待しているとの答弁があった。
○ 通訳・介助員の現状及び今後の取組については、手話通訳者は、都道府県、市町村の手話通訳者養成事業、手話奉仕員養成事業により養成が行われており、平成14年度末現在で活動可能な登録者数は、手話通訳者が約5,000人、手話奉仕員は約1万3,000人となっている。盲ろう者のための通訳・介助員は、全国盲ろう者協会、都道府県により養成が行われているが、平成14年度末現在、活動可能な登録者数は約2,000人である。聴覚障害者、盲ろう者が社会参加しやすいよう、今後とも手話通訳者養成事業、派遣事業の充実に努めていきたいとの答弁があった。
○ 重度の知的・身体障害児のためのコミュニケーション技術の開発状況及び今後の取組については、内外のメーカー等により各種コミュニケーション支援機器の開発が行われており、国立特殊教育総合研究所等では教育場面での利用方法についての研究開発が行われている。また、国立特殊教育総合研究所では、平成16年度より情報手段活用による教育的支援指導者講習会を実施し、コミュニケーション支援機器等による教育的支援等の専門的知識や技能を高め、その指導力の向上を図ることとしている。今後とも、国立特殊教育総合研究所と連携を図りながら、コミュニケーション技術の充実、活用について一層努力していきたいとの答弁があった。
○ 養護学校における医療的ケアの現状及び今後の取組については、文部科学省では、平成10年度から行ってきた調査研究の成果を踏まえ、平成15年度から厚生労働省との連携の下、養護学校における関係者の連携、医療・福祉等関係機関及び都道府県の関係部局間の連携、並びに看護師と教員の連携の在り方など、養護学校における医療的ケアの体制整備を図るためのモデル事業を行っている。本モデル事業では、看護師の常駐等、一定の体制の下で教員がたんの吸引等を行うことが認められているが、事業実施に当たっては看護師資格者の配置が条件となっているので、地域の実情に応じた工夫がなされている。厚生労働省では、本モデル事業の成果を踏まえ、養護学校において障害を持つ児童生徒に対し適切なケアを提供するにはどういう体制で、どのような手続を踏んで、どういう関係者が連携をしていくかということについて検討をするということで進めているが、本問題についての結論をできるだけ早く得たいとの答弁があった。
○ 障害児の生きる力をはぐくむ教育の現状及び今後の取組については、平成14年度から実施されている盲・ろう・養護学校の小中学部の学習指導要領において、障害の重度・重複化に対応して、障害の状態を改善、克服するための指導領域である養護・訓練の目標や内容を改善するとともにその名称を自立活動に変更したり、重複障害者の指導に当たって、児童生徒一人一人にきめ細かな指導が行われるよう個別の指導計画を作成するなどの改善を図った。今後とも学習指導要領の趣旨の徹底に努めるとともに、障害のある児童生徒の指導に関する教育研究に取り組むなど、教育内容の充実に努めていきたいとの答弁があった。
○ 障害者に対するJRの運賃割引制度の在り方については、昭和25年に障害者に対する運賃割引制度が創設され、その後、割引対象者の拡大等の拡充を図ってきた。特急料金への割引の拡大について、JRに対して検討を要請するとの平成9年の運輸大臣答弁の趣旨を踏まえ、再三理解と協力の要請を行ってきたが、JRでは、現行以上の割引制度の拡充は更なる減収を伴うことから、困難であるとしている。割引制度は、基本的には、鉄道事業者の経営上の判断にかかわる問題であり、今後も引き続き、鉄道事業者に対して理解と協力の要請を行っていきたい。また、本件については、国の社会福祉政策的な観点からの位置付けも視野に入れた議論が必要ではないかとの答弁があった。
○ 障害者の雇用率を引き上げるための取組については、実雇用率の低い企業に対して雇入れ計画作成命令、勧告、特別指導等を行った上で、なお改善が見られない場合、企業名公表をもって臨むということで対応している。雇用率達成指導とともに、平成14年度から指導対象企業の範囲を拡大し、毎年6月に定期的に公表を行うこととしており、今後とも、未達成企業に対して厳正に指導していきたいとの答弁があった。
○ 小規模作業所に対する補助金の在り方については、平成16年度予算で、民間団体の補助金を1割カットするという政府全体の方針に沿い、252か所が補助対象外になった。小規模作業所に関連する8団体と厚生労働省で意見交換会を本年2月に設け、去る4月20日にその意見交換の結果を取りまとめた。障害者の就労の在り方全般について、省内に検討会を設けて検討を行っている。懇談会の報告、省内の検討結果等を踏まえて、障害者に対する就労支援全体の在り方を再検討し、支援策についても積極的なものにしていきたいとの答弁があった。
○ 放課後児童健全育成事業における障害児受入れに係る補助加算の在り方については、平成13年度に、障害児を4人以上受け入れた児童クラブに対して加算するということで障害児加算が創設されたが、15年度からは補助要件を2人以上に緩和し、障害児を受け入れた場合に非常勤職員1人当たり程度に相当する助成金を加算するという仕組みに改めた。障害児を1、2人受け入れる学童保育が多く、3人以上の受入れは比率の上で圧倒的な数ではないという実態がある。人数比例の加算は、こうした実情も見ながら考えていくべきではないか。また、障害児の1人受入れに対する加算の適用は、障害児を受け入れた場合の体制についていろいろ検討すべきことがあろうかと思うので、なお検討の余地があるかどうか、幅広くこれから少し研究をしてみたいとの答弁があった。
3年間の調査を踏まえ、平成16年4月21日、3年目のサブテーマ「ユニバーサル社会の形成促進」を中心に委員から意見表明が行われた。
21世紀の成長産業は旅行、観光、通信、カード産業だと言われている。同時に、日本では現在50歳以上の人口が5,000万人であるが、2007年から2010年には6,000万人になると予測されている。そうした人たちはあらゆる面からゆとりのある人たちが多いようである。
最近は高齢者やチャレンジドのために随分気配りがされ、旅もしやすくなってきた。しかし、改善されたとはいえ、IT化時代ではまだまだパソコンの配列や操作方法なども複雑である。Eメールも、アドレスのカードを差し込み、発音すれば届くような高齢者に親切な製品をメーカーも是非作ってほしいと思う。
また、昔と違って、官僚の若手も企業で営業の研修も受けているようであるが、ユニバーサルデザインについても行政マンがもっと議論できるような、経験と感性を養うような環境整備を行うべきではないか。
思いやりのある社会やまちづくりを多くの人たちとともに作り出していきたいと思う。
私たちは科学技術を発展させ、高度な文明社会を作り上げることに成功した。技術者も研究者も生活をより豊かにしようとして努力を重ねてきた結果ではあるが、単に物質的な豊かさを追求する活動は、アノミー現象と呼ばれる自己喪失感や精神的不安感を伴う社会的な価値が見失われた混乱状態を引き起こしている。精神活動が限界に近づきつつあるのではないかと感ずる。
これからの技術革新の方向性や有限な地球資源の活用について考えるとき、精神的な豊かさの中に幸福を求めていくべきではないかと思う。何が幸せであるか、豊かであるかに考え方を収れんしていくことで、だれもが安心して幸せに暮らせるという精神的な視点や人間性を大切にした社会構造へと変革することを目標に、社会のパラダイムを大胆に変えていく必要があると考える。
ユニバーサル社会という言葉が社会に浸透し、親しみを持って共通の概念の下で語られるように発展していくことを願う。郵政事業に照らして考えてみると、どこでもだれにでも同じサービスが行き届くようにすることをユニバーサルサービスと呼んできた。これもユニバーサル社会の一つだと思う。ユニバーサル社会を創造していくためには、365日、24時間対応できる社会システムも欠かせない。また、人間は社会的な存在であり、その中で生きていくには自助、公助、共助の確立が重要である。自助、公助には限界があり、地域や職場の人々が互いに支え合う共助が必要になる。共助には無限の可能性が秘められているとすら思う。自助、公助、共助という重層的な社会システムを構築していくことが、ユニバーサル社会形成の早道と考える。
経済社会の進歩とともに、社会組織や研究分野が細分化され、専門性を強めている。専門分野を有機的につなぎ合わせ、フィードバックしていくことが大切である。また、科学技術の進歩発展と効率性だけを中心に考えてきた結果、暮らしていく上で最も重要な他人への思いやり、他人への愛を見失ってきたと感じている。これからの社会では義理人情的なコミュニケーションが重要になってくると考える。義理人情という人間を大切にした日本文化もユニバーサル社会の形成を支える精神的支柱の一つとして再認識されるべきではないかと考えている。
ユニバーサル社会は、一般的には障害の有無にかかわらずだれもが自由に安心して暮らせる社会と解されるが、その人の社会での活躍の可能性又は期待まで踏み込んで社会整備を行うことだと解釈できる。この考え方は、障害者をチャレンジド、すなわち挑戦という使命や課題を与えられた、あるいは挑戦というチャンスや資格を与えられたというポジティブな意味でとらえることと軌を一にしている。このように、前向きに物事をとらえ、積極的に社会に働き掛けていく姿勢は大変にすばらしく、公明党としても、ユニバーサルデザインの考え方、思想を強く支持し、その考え方が息づいている社会、すなわちユニバーサル社会の形成促進を積極的に推し進めたいと考えている。
ユニバーサル社会を形成するためには、物理的障壁を取り除くという狭い意味でのバリアフリーの政策を推進することにとどまらず、人の意識、法律、制度までもユニバーサルデザインの考え方に沿って変えていく必要がある。具体的には、チャレンジドだけでなく、子供、高齢者、外国人など、だれにとっても暮らしやすい地域づくり、国づくりをし、またものづくりをし、さらに情報受発信の環境を整え、社会的自立と社会参加を保障し、それらの人々が積極的に自己実現の機会とその能力を場合によっては仲間の支援を受けながら獲得できるようにすることが重要になる。あわせて、それらを可能とする法制度の整備も怠りなく進め、「チャレンジドを納税者にできる日本」が実現するよう全力で取り組む必要がある。
参考人の方々の貴重な意見等も踏まえ、個人として、以下、ユニバーサル社会形成促進のための意見を述べる。
(1)ユニバーサル社会形成推進基本法(仮称)の法制化の検討を急ぐべき。(2)ユニバーサル社会、ユニバーサルデザインの定義を明確にし、その普及啓蒙を強化すべき。(3)障害者をチャレンジドと呼ぶことを普及啓蒙すべき。(4)物理的バリア、情報・文化のバリア、心のバリア、法制度のバリアの除去に積極的に努めるべき。(5)ユニバーサルデザインのまちづくりを推進すべき。(6)ユニバーサルデザイン条例の制定など地方での取組を評価する。(7)ユニバーサルデザインに配慮したものづくりを推進すべき。(8)チャレンジドのコミュニケーション方法の開発を促進すべき。また、通訳・介助サポートの充実を図るべき。(9)盲ろう関係者の総合拠点、日本版ヘレン・ケラー・センター(仮称)の早期設立に期待する。(10)静岡県で開催される予定の2007年ユニバーサル技能五輪国際大会の成功に期待する。
すべての人々に共通する利便を検討するには個々人若しくは集団にとってのバリアを明らかにすることが重要であり、バリアフリーとユニバーサルはどちらか一方ではなく両方必要なものである。障害者や高齢者が安心して生き生きと生活できる社会を形成する上では、現実に直面している問題についてあいまいにせず、一つ一つ解決していくことが大切である。その人が希望と可能性を発揮していこうという意欲を培い、それを支持する取組もユニバーサル社会として必要である。
その上で、第一に政治の在り方が重要である。政治が早急にイニシアチブを発揮し、障害者の意見や要望を十分に反映させ、予算と体制も付けてバリアフリーを進めていかなければならない。また、点字ブロックやエスカレーター、障害者用トイレの改善、ハートビル法の適用範囲の問題、教育機関のバリアフリーの遅れ、障害者の就労権の保障、盲ろう者に対する専門機関の設置、住宅改造や福祉機器への助成などの政府に対する要望は早期に実施すべきである。
第二は、企業、とりわけ大企業の責任の問題である。大企業が先頭に立って障害者の働く場を確保し、法定雇用率を達成することなどを強く求める意見が参考人からは表明された。また、JRなどの急行割引率の改善拒否は、障害者の社会的参加を促す上でもユニバーサル社会形成にとっても余りにも無理解であり、即刻その改善を強く求めたい。
以上のように、ユニバーサル社会の形成は真に豊かな社会の構築の重要な提起であると考える。
第三に、真に豊かな社会とはどうあるべきかについてである。真の豊かさとは、物質的豊かさとともに、すべての人々がその能力の発揮と活動の全面的発達の機会が保障され、ゆとりと安心感がある下で精神的豊かさも十分に共有できることだと実感している。
経済大国と言われながら、今の日本の社会は、企業倒産の増大、失業者の大幅増加、過労死や過労自殺の急増、児童虐待、家庭崩壊、そして、極度に競争的な教育制度のストレスによって子供の発達がゆがみにさらされるなど、豊かな社会にはほど遠い現実となっている。
日本共産党は、日本の物質的な繁栄を大企業だけのものにしないで、国民に還元をする民主的なルールを作ることを提案している。すべての国民の人としての全面発達のために、豊かな生産力による労働時間の短縮などは既にヨーロッパでは実現を見ており、日本でもできないことはないと考える。
真に豊かな社会の構築に向けて、本調査会の調査を踏まえ、全力を尽くす所存である。
我が国は「豊かさ」を目指して欧米先進諸国を目標に努力を続け、経済的、物質的には世界有数の水準に達した。しかし、その一方で、多くの人々は精神的なゆとりを失い、心の豊かさを実感できないでいる。これからの社会においては、国民一人一人がゆとりや生きがいを持ち、生きる喜び、真の豊かさを実感できる社会を構築していかなくてはならない。
このような観点から、3年間の調査を踏まえ、次のとおり提言を行う。政府及び関係者におかれては、その主旨を理解され、これらの実現に努められるよう要請する。
都市と農山漁村との交流は、それぞれの地域に住む生活者が互いに有機的な連携の中で共存していることを認識する契機になるとともに、ゆとりある生活、多様なライフスタイルを実現する方策として、極めて重要である。
都市と農山漁村との交流を促進していくためには、農山漁村における取組と都市側からの働き掛けがかみ合うことが重要である。農山漁村においては、省庁横断的な規制緩和による地域活動の活発化や地域におけるコーディネーターの育成等が必要であり、都市側からの働き掛けを促すためには、農山漁村における体験学習や体験活動、住宅の取得等を容易にするための施策、さらには長期休暇の取得を容易にする施策等について、その拡充を図る必要がある。
また、農業の多面的な機能に対する費用負担の在り方について更に検討を深めるべきである。
都市からの情報の発信量に比較して農山漁村からの情報は少なく、両者の間には情報量の格差が存在している。今後は、農山漁村の文化や芸能、史跡等を含む地域の様々な資源に関する情報を、より積極的に都市生活者に対して発信していく情報ネットワークの充実・強化が必要であり、そのための人材育成について積極的な措置を講ずるべきである。
社会状況、国民意識の変化を背景に、生きがいや自己実現を重視する傾向が強くなるとともに、社会参加意識が高まり、ボランティア活動を行う人々が増えている。
しかし、ボランティア活動に対する理解が必ずしも定着しているとは言えず、また、ボランティア活動に対して時間、情報、心理的要因等の制約があるとも言われている。
このようなことから、ボランティア活動に対する理解が社会全体において深まるよう積極的な啓発を行うとともに、年齢、性別、職業等を問わず、だれでも自分の意思に基づいて自由に、かつ容易にボランティア活動に参加できる仕組みを更に整備していく必要がある。特に、若者がボランティア活動を体験するための機会の提供をより拡充するとともに、ボランティア活動の経験のある者の就業に対する積極的な支援、勤労者に対するボランティア休暇制度の導入等、ボランティア活動の促進策について制度的な措置も含め、施策の充実を図るべきである。
NPO(民間非営利団体)は、ボランティア活動を支える上で大きな役割を果たすとともに、新たな社会サービスの担い手として期待されており、このようなNPOを中心とする民間非営利活動を活性化していくことが、豊かで柔軟な社会を構築していく上で重要である。
NPO法人(特定非営利活動法人)については、特定非営利活動促進法の改正により、活動分野の拡大、法人格取得手続の簡素化、みなし寄附金制度の導入等の見直しが行われたが、今後はこれらの定着を図るとともに、NPO活動が一層活発に行われるよう、法人制度の見直しについて更に積極的な措置を講ずる必要がある。
仕事と家庭生活を両立できるようにするとともに、多様なライフスタイルを可能としていくことが、ゆとりや生きがいを実感しながら生活していく上で、また少子化対策にとっても重要である。しかし、現状においては雇用形態や勤務形態、労働時間の短縮、休暇の取得、育児・介護の支援の抜本的改善等において、なお課題が残されている。そのため、これからはパートタイム労働者の雇用環境の整備、サービス残業の根絶、ヨーロッパ並みの失業者対策の充実など雇用と働く条件の整備、男性の育児参加、女性も含めた能力開発のための機会の確保、保育・学童保育施設の整備等を進めていく必要がある。
長時間労働については、その是正に向けた積極的な啓発を行うとともに、時間外労働の削減、年次休暇及び長期休暇の取得促進のための環境整備、ワークシェアリングの実施に向けた支援の強化等について、新たな仕組みの創設等制度的な措置を含め、一層の施策を講ずるべきである。また、過重労働による健康障害防止のための総合対策の推進に更に努力すべきである。
これからの社会においては、障害者、健常者、高齢者等の別なく、すべての人が持てる力を発揮でき、かつ支え合う社会、すなわちユニバーサル社会を形成していかなければならない。そのためには、施設や設備等のバリアフリー化の推進はもとより、現在の法律や制度、更に社会の意識をも変えて行くことが必要である。すべての人がそれぞれ対等な社会の構成員として、互いにその人格を尊重しつつ、生涯にわたって経済的のみならず人間的な精神的豊かさを実感できる社会でなければならない。そのような社会を形成していくためには、社会的弱者と言われる人々が社会の中で自立した生活を営むことが可能となるような支援体制等総合的な社会環境の整備、すなわち施設、設備等の障害の除去のみならず、必要な法制上及び財政上の措置を含め、ユニバーサル社会形成への取組を一層推進していくことが必要である。
ユニバーサル社会、ユニバーサルデザインという言葉は、いまだ社会に浸透しているとは言い難い。これらの言葉の定義の明確化や用語、用法の整理を早急に行い、人々の間に広く浸透、定着していくことが期待される。同時に、ユニバーサル社会の形成促進のためには、政府が一体となって取り組むことが不可欠である。そのために関係閣僚で構成される推進会議を設置し、ユニバーサル社会形成のための総合的、体系的な取組を推進すべきである。
また、政策評価においては、ユニバーサル社会形成の観点に十分留意すべきである。
ユニバーサル社会形成のためには、自助、公助、共助が有機的に連携する重層的な社会システムを構築していくことが必要である。そのためには既にある社会の仕組みを有効に活用して、これからの社会を支えていくことが重要である。例えば、どこでもだれに対してもユニバーサルサービスを供給している郵便局ネットワークは、人々の生活の中に定着している貴重な国民の財産であり、ユニバーサル社会形成にはこうしたネットワークを有効に活用すべきである。
ユニバーサル社会の形成促進のためには、地域住民に身近な地方公共団体の役割が極めて重要である。現在、既に多くの地方公共団体においてユニバーサル社会の形成を目指して諸施策等の見直しや地域づくり、まちづくりが行われており、こうした取組が全国に広がることが、我が国のユニバーサル社会の形成にとって不可欠である。
国はこのような地方公共団体の取組に対し、支援の拡充に努めるべきであるが、その際、具体的な施策等は取り巻く環境や条件によって異なるものであり、各地方公共団体がその地域の実情に合致した施策等を展開できるよう十分に配慮すべきである。
障害者の就労を通じた自立への支援は、障害者福祉政策及びこれからのユニバーサル社会形成の上から極めて重要な課題である。このため、法定雇用率達成のための指導の強化、小規模作業所に対する支援の拡充を行うとともに、支援費による柔軟な対応についての検討を含め、働きやすい環境の整備に積極的に取り組むべきである。
また、障害者割引制度の拡充について、JRを始め交通機関各社に対し検討を要請するとともに、国の社会福祉政策としての観点からの検討を行うべきである。
さらに、コミュニケーションが困難な障害者の社会参加を促進するため、コミュニケーション方法の開発、通訳・介助員の養成、確保等について一層の促進策を講ずるべきである。
ユニバーサル社会の形成促進に関する決議案
21世紀を迎えた今日、我が国は少子高齢社会の急速な進行を始め、経済社会のあらゆる面においてかつて経験したことのない深刻な変化に直面している。特に科学技術中心の経済社会の発展は、物質的な豊かさをもたらす一方、人々の精神活動やライフスタイルに大きな影響を及ぼすようになってきている。
今後これらの変化や課題に対応していくには、障害者や高齢者が安心して生活できるよう施設や設備等のバリアフリー化を進めていくのみならず、更にその考え方を深めて社会の制度や仕組みにおいても、障害の有無、年齢等にかかわりなく、国民一人一人がそれぞれ対等な社会の構成員として、自立し相互にその人格を尊重しつつ支え合う社会、すべての人が安心して暮らすことができ、その持てる能力を最大限に発揮できる社会、すなわちユニバーサル社会の形成を目指していかなければならない。
このような真に豊かな社会の基礎となるユニバーサル社会を実現していくためには、障害者、健常者、高齢者等の別なく、すべての人々が平等に参加し、だれに対しても開かれた社会を構築していくよう、我々の意識を変えていかなければならない。
このような社会の形成を目指し、そのための総合的な社会環境の整備を進めることは、国会及び政府の重大な責務である。
我々は、その責務を果たすために全力を尽くすことを決意する。
政府は、本院の意思を体し、ユニバーサル社会の形成促進のため、その推進体制を確立するとともに、ユニバーサルデザインの考え方の啓発、障害者及び高齢者に対する支援体制の整備、ユニバーサルデザイン化による製品や施設等の普及及び利用の促進等総合的な社会環境の整備について、必要な法制上及び財政上の措置を含め、その取組を一層強化推進すべきである。
特に、地方公共団体や民間非営利団体(NPO)によるユニバーサル社会の形成を目指した地域づくりやまちづくりに対する支援の拡充、バリアフリー化の推進、障害者及び高齢者と子どもとの交流の促進、障害者の就労を通じた自立に向けた法定雇用率達成のための指導強化、小規模作業所への支援の拡充等働きやすい環境の整備、交通機関の障害者割引制度の改善、障害者の社会参加促進のためのコミュニケーション方法及び介護等の福祉機器の開発、通訳・介助者の養成、確保については、重点的に取り組むべきである。
こうした取組が成果を上げることのできるよう、国民各位の理解と協力を併せて求めるものである。
右決議する。
会長 | 勝木 健司 | 理事 | 魚住 汎英 | 理事 | 山東 昭子 |
理事 | 山内 俊夫 | 理事 | 朝日 俊弘 | 理事 | 伊藤 基隆 |
理事 | 渡辺 孝男 | 理事 | 西山 登紀子 | 委員 | 加治屋 義人 |
委員 | 小斉平 敏文 | 委員 | 佐藤 昭郎 | 委員 | 田村 耕太郎 |
委員 | 伊達 忠一 | 委員 | 月原 茂皓 | 委員 | 藤井 基之 |
委員 | 松村 龍二 | 委員 | 松山 政司 | 委員 | 谷 博之 |
委員 | 辻 泰弘 | 委員 | 和田 ひろ子 | 委員 | 藁科 滿治 |
委員 | 福本 潤一 | 委員 | 松 あきら | 委員 | 畑野 君枝 |
委員 | 島袋 宗康 |
会長 | 直嶋 正行 | 理事 | 中原 爽 | 理事 | 山本 保 |
理事 | 鶴保 庸介 | 理事 | 中島 啓雄 | 理事 | 内藤 正光 |
理事 | 日笠 勝之 | 理事 | 太田 豊秋 | 理事 | 北岡 秀二 |
理事 | 森 ゆうこ | 委員 | 加納 時男 | 委員 | 岸 宏一 |
委員 | 久世 公堯 | 委員 | 久野 恒一 | 委員 | 小泉 顕雄 |
委員 | 鴻池 祥肇 | 委員 | 斉藤 滋宣 | 委員 | 日出 英輔 |
委員 | 吉村 剛太郎 | 委員 | 浅尾 慶一郎 | 委員 | 佐藤 泰介 |
委員 | 山本 香苗 | 委員 | 松岡 滿壽男 | 委員 | 大渕 絹子 |
委員 | 鈴木 政二 | 委員 | 榛葉 賀津也 | 委員 | 本田 良一 |
委員 | 山本 正和 | 委員 | 岩本 司 | 委員 | 神本 美恵子 |
委員 | 郡司 彰 | 委員 | 小林 元 | 委員 | 齋藤 勁 |
委員 | 鈴木 寛 | 委員 | 千葉 景子 | 委員 | 藤原 正司 |
委員 | 山根 隆治 | 委員 | 弘友 和夫 | 委員 | 山口 那津男 |
委員 | 大江 康弘 | 委員 | 池口 修次 | 委員 | 中島 章夫 |
委員 | 円 より子 | 委員 | 加藤 修一 | 委員 | 山本 一太 |
委員 | 世耕 弘成 | 委員 | 岩本 荘太 |
調査項目・真に豊かな社会の構築
(1) 調査会(手続のためだけに開かれた調査会を除く)
国会回次 | 年月日 | 活動内容 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
153回 | 平13・11・21 |
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11・28 |
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154回 | 平14・ 2・13 |
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2・27 |
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3・ 6 |
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4・10 |
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4・17 |
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4・24 |
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5・22 |
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7・17 | 中間報告書の提出を決定 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
155回 | 平14・11・13 | 海外派遣議員の報告 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
11・27 |
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156回 | 平15・2・12 |
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2・26 |
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4・2 |
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5・14 |
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5・28 |
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7・2 | 中間報告書の提出を決定 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
159回 | 平16・3・10 |
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4・7 |
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4・21 |
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6・14 |
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(2) 海外派遣
国会回次 | 期間 | 派遣地等 | |||||||||||||||||||||
154回 閉会後 |
平14・8・26 ~9・4 |
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(3) 委員派遣
国会回次 | 期間 | 派遣地等 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
154回 | 平14・2・19 ~21 |
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156回 | 平15・2・18 ~20 |
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(4) 近郊視察
国会回次 | 期間 | 視察目的等 | ||||||||||||||||||||||||
155回 | 平14・12・ 4 |
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○ 山東 昭子君 21世紀の成長産業は旅行、観光、通信、カード産業だと言われております。同時に、日本では現在50歳以上が5,000万人、2007年から2010年には6,000万人になると予測されております。そうした人たちはあらゆる面からゆとりのある人たちが多いようでございます。
最近は高齢者やチャレンジドのためには随分気配りがされ、旅もしやすくなってまいりました。しかし、改善されたとはいえ、IT化時代ではまだまだパソコンの配列や操作方法なども複雑でございます。Eメールも、アドレスのカードを差し込み、発音すれば届くような高齢者に親切な製品をメーカーも是非作ってほしいと思います。
また、昔と違って、官僚の若手も企業で営業の研修も受けているようですが、ユニバーサルデザインについても行政マンがもっともっと議論できるような、経験と感性を養うような環境整備を行うべきではないでしょうか。
思いやりのある社会やまちづくりを多くの人たちとともに作り出してまいりたいと思います。
以上でございます。
○ 伊藤 基隆君 民主党・新緑風会の伊藤でございます。意見を申し上げます。
21世紀を迎えて、我が国の経済社会は一段と急速な変貌を遂げようとしております。これまでの人口増加社会は2007年からは人口減少社会に転じ、文字どおり高齢社会に突入しようとしています。
その一方で、いわゆるグローバル化が一段と進み、物も金も情報も、そして人の動きさえもが更に活発になり、こうした面からも私たちの社会、国民生活は大きく変わろうとしています。
確かに、我が国は物質面では世界でも有数の豊かな国になりました。しかし、今日の私たちの生活を振り返ってみると、更により便利なものを手に入れるために、またより多くの金をもうけるために、そして洪水のように押し流されてくる情報によって、肉体的に疲れ切り、精神的なゆとりや豊かさを見失っている人々の姿を見ることは決して少なくありません。
私たちは、科学技術を発展させ、高度な文明社会を作り上げることに成功しました。技術者も研究者も人間の生活をより豊かにしようとして努力を重ねてきた結果ではありますが、単に物質的な豊かさを追求するだけの活動は、一方でアノミー現象と呼ばれる自己喪失感や精神的不安感を伴う社会的な価値が見失われた混乱状態を引き起こしています。私は最近の新聞紙上をにぎわわせている事件の数々を見ていると、重大犯罪はもとより軽微なものにも共通するのは、人間の精神活動が限界に近づきつつあるのではないかと感ずるのであります。
これからのあるべき技術革新の方向性や有限な地球資源の活用について考えるとき、根源的な意味で、精神的な豊かさの中に人間の幸福を求めていくべきではないかと思うのであります。何が人間にとって幸せであるか、豊かであるか、そこに考え方を収れんしていくことで、単に物量やスピードだけを競うのではなく、だれもが安心して暮らせる、幸せに暮らせるという人間の精神的な視点や人間性を大切にした社会構造へと変革することを目標に、行政、製造、流通等を始め、社会のパラダイムを大胆に変えていく必要があるのではないかと考えます。
調査会では、ユニバーサル社会の形成促進について、6名の外部の参考人から、また本日は政府参考人からも御意見を伺いました。
障害者の方々は、現在、社会のあちこちに残っている障害物を取り除き、安心して人間らしい生活ができる社会にしてほしい、つまりバリアフリーを実現してほしいという心の叫びを述べられました。その具体的な問題の所在の鋭い指摘に、これまで、障害者の視点からは不十分な社会の在り方や構造を再認識させられ、その主張には胸を打たれるものがありました。
また、行政の立場からは、現在展開しているユニバーサル社会を形成していくための施策や今後の方向性などを伺いました。どんな社会にしたら県民や市民が暮らしやすいユニバーサル社会になるかを考え、そこに住む人のみならず、訪れる方々にももてなしの気持ちで迎え入れる、外に開かれたユニバーサル社会にしていきたいという行政の立場からの考えを伺いました。
重度の障害児を持つ参考人からは、今後のあるべき社会に転換していくためには、私たちがこれまで障害者や高齢者に対して向けてきたまなざしや考え方そのものを180度転換していくことが必要であるという、ある意味では衝撃的な話を伺いました。
さらに、企業においてユニバーサルデザインに携わっている参考人からは、ユニバーサルデザインとはすべての人のデザインであり、本来の物づくりの姿であることを伺い、感銘を受けました。
これまでユニバーサル社会という言葉そのものになじみのなかった私たちにとって、各参考人が向き合っている問題や取り組んでいる課題の中で語られたユニバーサル社会像は新鮮なすがすがしいものとして受け止めることができました。しかし、ユニバーサル社会という言葉の中身は語る人によって微妙な違いを抱えているようにも感じられました。
今後は、このユニバーサル社会という言葉が広く社会の中に浸透し、人々の間で親しみを持って共通の概念の下で語られるように発展していくことを願うものであります。
私は、私がこれまで携わってきた郵政事業に照らして考えてみると、全国津々浦々、どこでもだれにでも同じサービスが行き届くようにすることを私たちはごく自然な発想でユニバーサルサービスと呼んできました。これもユニバーサル社会の一つだと思います。利益だけを追求したら全国で2万4,700の郵便局ネットワークを維持することはできません。ましてや、過疎地域で郵便配達員が独居老人に声を掛けて御用聞きを行うひまわりサービスは、スピードだけを重視したらとてもできるものではありません。130年間にわたり公的な郵政事業を営んできた郵便局の現場では、無意識のうちに人間に対するサービスなのだという共通の認識ができていたと経験的に思うところですが、こうしたユニバーサル社会を創造していくためには、365日、24時間対応できる社会システムも欠かせません。基礎の部分、例えば最低限、消防や救急がなければ安心して何もできないように、現実には公的な役割、私的な役割が多角的、重層的に、様々な事態に対応できる仕組みが有効に機能し合って初めて今日の社会が成り立っていることを忘れてはなりません。
私たち人間は社会的な存在として生きていますが、その社会の中で生きていくには自助、公助、共助の確立が重要です。申すまでもなく、自助とはまず自分の力で何事もやってみることですが、個人の力には限界があります。そのときには行政など公の力をかりる、すなわち公助を受けることになります。公の役割は欠かせませんが、行政にも予算の制約等の限界が出てまいります。その際に、周囲の地域や職場の人々が互いに支え合う共助が必要になると思うのであります。楽観的に過ぎるかもしれませんが、共助には無限の可能性が秘められているとすら思っております。自助、公助、共助という重層的な社会システムを構築していくことが、すなわちユニバーサル社会の形成の早道なのではないかと考えるものであります。
経済社会の進歩とともに、社会の組織や研究分野が細分化され、それぞれの分野がますます専門性を強めております。細分化と専門性、それ自体は社会の進歩にとって必要なことではありますが、それだけでは社会の中で有効に機能していくとは思われません。個々の専門分野を有機的につなぎ合わせ、社会の中にフィードバックしていくことが大切です。すなわち、分散と集中、これをつなぎ合わせていく仕組みを作ることが重要だということです。
私は、これまでの経済社会の発展はサイエンステクノロジーに偏り過ぎてきたと思います。科学技術の進歩発展と効率性だけを中心に考えてきた結果、私たちは社会の中で暮らしていく上で最も重要な他人への思いやり、他人への愛というものを見失ってきたと感じています。その意味において、科学技術が発達すればするほど、これからの社会の中では義理人情的な人間同士のコミュニケーションが重要になってくると考えるのであります。
参考人が述べられた、IT技術の進歩で、余りに反応速度の速過ぎる駅の切符販売機や銀行の自動預け払い機が、果たして私たちの感性に合っているかという疑問には印象的でした。人間性を決して忘れずに、義理人情という人間を大切にした日本文化もこれからユニバーサル社会形成を支える精神的支柱の一つとして再認識されるべきではないかと考えておりますことを申し上げまして、私の意見表明を終わります。
ありがとうございました。
○ 渡辺 孝男君 公明党の渡辺孝男でございます。公明党の委員を代表して意見を述べさせていただきます。
第153回国会の平成13年8月7日に設置されました第六期の参議院国民生活・経済に関する調査会は、調査項目を「真に豊かな社会の構築」とし、これまで約3年にわたって調査活動を行ってまいりました。
初年度は、グローバル化が進む中での日本経済の活性化と社会経済情勢の変化に対応した雇用と社会保障制度の在り方をサブテーマとして調査を行いました。
公明党からは松あきら委員がまとめの意見表明をし、真に豊かな社会の構築のためにはある程度の社会保障を含めた経済的裏付けが必要であり、厳しい国際競争を勝ち抜くためには様々な規制緩和や大きな構造改革が急務と主張しました。また、人材育成、教育投資の充実、男女がともに働きながら家庭を支えていく時代に対応した就業スタイルの多様化や子育て支援策の充実、男女共同参画社会の構築、夫婦別姓も視野に入れた広い意味での改革の必要性も訴えました。さらに、地方分権や都市再生の推進、ベンチャー企業や中小企業支援のための金融支援の充実、倒産後にも再起可能な社会構築の必要性も強調しました。
その他の委員からは、ワークシェアリングの導入の検討を行うべき、研究開発促進税制の導入を図るべきといった意見が出されました。
2年目は、地域社会での住民の、あるいは国民のライフスタイルの変化に着目し、生活者の視点から真に豊かな社会の構築に向けた課題を検討するため、国民意識の変化に応じた新たなライフスタイルをサブテーマと決定し、調査を行いました。
公明党からは松あきら理事がまとめの意見表明をし、日本社会はエゴが横行し他者の存在や生命を軽視するライフスタイルのもたらす犯罪により社会不安が増加し、また環境汚染も日常化しており、これらを改善するためには、まず大人が、我々は地球共同体の一員であることを認識し、人類益、地球益に立ち、正義と平和の確立に努力し、生命を尊厳する社会を構築する必要があると主張しました。また、日本は少子高齢化の真っただ中にあり、高齢者や障害者への福祉施策の充実並びに少子化社会に対応したライフスタイルの確立と実践が重要であることを指摘しました。また、教育改革は教員からという視点に立った教育改革の推進や、国際化に対応した人材の育成の重要性を訴えました。特に、日本人としての誇りと世界市民としての自覚を併せ持つ高邁な人格の涵養が新しいライフスタイルの形成につながるとの認識を示しました。
その他の委員からは、高齢社会の進展を踏まえ、歩いて暮らせるまちづくりを推進することや、都市住民がいやしの場として農山漁村との交流を深めることの重要性を指摘する意見が出されました。
3年目は、ユニバーサル社会の形成促進をサブテーマと決定し、個人の自立と豊かなライフスタイルの実現、ユニバーサル社会の形成のための課題と施策などを中心に調査を進めることになりました。
ユニバーサル社会は、一般的には障害の有無にかかわらずだれもが自由に安心して暮らせる社会の意味と解されますが、参考人としておいでいただいた社会福祉法人プロップ・ステーション理事長竹中ナミ氏の言葉をおかりすれば、すべての人が力を発揮できてなおかつ支え合って構築するような社会と表現されます。この違いは、同氏の次の言葉により一層明確になります。
ユニバーサル社会とバリアフリー、ユニバーサルデザインとバリアフリーとどこが違うんですかということをよく聞かれるんですが、私が考えているバリアフリーというのは、こういう人たちにとってこの部分が困るので、町とか社会をこのように変えていきましょうということなんですが、ユニバーサルは、もう一歩進んで、障害がなくなることによってその人がどういうふうに社会で活躍できるのかと、あるいは社会で活躍してもらおうというところまで踏み込んで社会整備を行うというのがユニバーサルだというふうに感じています。
つまり、その人の社会での活躍の可能性又は期待まで踏み込んで社会整備を行うことだと解釈できます。この考え方は、障害者をチャレンジド、すなわち挑戦という使命や課題を与えられた、あるいは挑戦というチャンスや資格を与えられたというポジティブな意味でとらえることと軌を一にしています。
このように、前向きに物事をとらえ、積極的に社会に働き掛けていく姿勢は大変にすばらしく、公明党としても、ユニバーサルデザインの考え方、思想を強く支持し、その考え方が息づいている社会、すなわちユニバーサル社会の形成促進を積極的に推し進めてまいりたいと考えています。
ユニバーサルデザインという言葉は、物を対象とするばかりでなく、本来広く、思想、考え方、哲学、法律までを含む広い意味を有しており、ユニバーサル社会を形成するためには、したがって、物理的障壁を取り除くという狭い意味でのバリアフリーの政策を推進することにとどまらず、人の意識、法律、制度までもユニバーサルデザインの考え方に沿って変えていく必要があります。
ユニバーサルデザインの考え方に従えば、具体的には、チャレンジド(障害者)だけでなく、子供、高齢者、外国人など、だれにとっても暮らしやすい地域づくり、国づくりをし、また物づくりをし、さらに情報受発信の環境を整え、社会的自立と社会参加を保障し、それらの人々が積極的に自己実現の機会とその能力を場合によっては仲間の支援を受けながら獲得することができるようにすることが重要になります。当然のことながら、それらを可能とする法制度の整備も怠りなく進める必要があります。そして、竹中ナミ参考人が目標に掲げた「チャレンジドを納税者にできる日本」が実現できるよう全力で取り組む必要があります。
同じく参考人でおいでいただいた、社会福祉法人全国盲ろう者協会理事であり、東京大学先端科学技術研究センター、バリアフリー分野助教授の福島智氏は、指点字で通訳・介助者と会話をしながら私たち委員に対して朗々と意見を述べてくださり、大きな感動を与えてくださいましたが、盲聾者となり、やみと無音に包まれた真空の宇宙空間の世界に閉じ込められてしまったときに、この苦境から脱出できたのは、氏の母がたまたま発見した指点字という新しいコミュニケーションの手段のおかげというお話をお聞きし、我が子を思う母の深い愛に再び感動させられました。
このような経験をさせていただいたおかげで、ユニバーサル社会形成がいかに大切なものかよく分かりました。
そのほか、おいでいただいた多くの参考人の方々の貴重な御意見等も踏まえまして、以下、ユニバーサル社会形成促進のための意見を述べさせていただきます。ただし、この部分は私個人の意見とさせていただきたいと思います。
1、ユニバーサル社会形成推進基本法(仮称)の法制化の検討を急ぐべき。2、ユニバーサル社会、ユニバーサルデザインの定義を明確にし、その普及啓蒙を強化すべき。3、障害者をチャレンジドと呼ぶことを普及啓蒙すべき。4、物理的バリア、情報・文化のバリア、心のバリア、法制度のバリアの除去に積極的に努めるべき。5、ユニバーサルデザインのまちづくりを推進すべき。6、ユニバーサルデザイン条例の制定など地方での取組を評価する。7、ユニバーサルデザインに配慮した物づくりを推進すべき。8、チャレンジドのコミュニケーション方法の開発を促進すべき。また、通訳・介助サポートの充実を図るべき。9、盲聾関係者の総合拠点、日本版ヘレン・ケラー・センター(仮称)の早期設立に期待する。10、静岡県で開催される予定の2007年ユニバーサル技能五輪国際大会の成功に期待する。
以上です。
○ 西山 登紀子君 日本共産党としての意見表明をいたします。
本調査会は、「真に豊かな社会の構築」をメーンテーマに、3年間にわたり調査活動を行い、今期はユニバーサル社会の形成をサブテーマとして調査を進めてきました。
ユニバーサルデザインというものがまだ十分に社会や多くの国民に浸透していない下で、今後のユニバーサル社会を形成する上で認識を深める有意義な調査となったと考えます。とりわけ、障害をお持ちのお二人の参考人から御意見を聴取できたことは、正に当調査会がユニバーサル社会の形成に向けた実践的な調査の場となった画期的なことであると考えます。
私は、参考人質疑と政府への質疑を通じて、第一に、ユニバーサルデザイン及びその社会とはどういうものか、そして、バリアフリーとのかかわりはどう考えたらよいのか、第二に、障害を持つ方々が日本という社会の中で個々の生き方も含めて様々な障害に直面している問題、第三に、現実に直面している問題の解決とユニバーサル社会の形成に向けて国や地方自治体、企業などが果たしていく役割と姿勢はどうあるべきなのか、そうした問題と課題が出され、概略整理されたのではないかと思います。
ユニバーサルデザイン並びにその社会について、各参考人の御意見は、バリアフリーとの対比など含め、ほぼ共通したものであったと思います。バリアフリーは、車いす用のスロープを付けるなど物理的なバリアの除去、そのほかに、情報と文化のバリア、心や意識のバリア、法律や制度のバリアなどの除去であること。一方、ユニバーサルデザインは、主に製品や商品などの設計などで、年齢、性別、障害、人種や能力の違いなどによって生活に不便のない物づくりや社会づくりを前提に、機器、建築、生活空間をデザインするというものであり、そして、みんなが参加でき、いかなる属性によっても差別されず、だれもが平等に生きる権利が保障された社会であるということです。
特に、バリアフリーとのかかわりでは、すべての人々が共通する利便を検討するには個々人若しくは集団にとってのバリアを明らかにすることが重要であり、また、バリアフリーとユニバーサルはどちらか一方でなく両方必要なものであるという指摘は、今後のユニバーサル社会を形成する上でまず念頭に置かなければならないことであると考えます。
そして、障害を持つ方や高齢者の方々が安心して生き生きと生活できる社会を形成する上では、現実に直面している問題についてあいまいにせず、一つ一つ解決していくことが大切です。
9歳のときに目が見えなくなり、18歳で耳が聞こえなくなるという二重障害になられた福島参考人が、一番つらかったことは他者と話ができなくなったこと、コミュニケーションができなくなったことだと述べられました。その後の御家族の努力もあり、指点字という方法でコミュニケーションを取ることができるようになり、それを通じて、他者とのかかわり、そして支援グループや福祉制度などへかかわるきっかけとなり、人生におけるバリアから解放されたという意見は、生きる希望を培う上で人と人とのコミュニケーション、福祉制度がいかに重要であるかを認識させるものでした。
その人が希望と可能性を発揮していこうという意欲を培い、それを支持する取組もユニバーサル社会として必要であると言えます。
その上で、第一に政治の在り方が重要です。ユニバーサル社会の形成を目指しながらも、政治が早急にイニシアチブを発揮し、予算と体制も付けてバリアフリーを進めていかなければなりません。
その際に、障害を持つ人たちが障害の種類や程度を超えて様々な意見や要望を出し合い、計画の段階から当事者として参加し、理解を深め、実態や要望を十分に反映させてバリアを除去すべきとの参考人からの提起は、今後、国や自治体などがユニバーサル社会の形成を進めていく上でかぎになるものだと考えます。この点で、市民参加の三鷹市のバリアフリーのまちづくりの取組は大変参考になるものです。
また、様々な点字ブロックが弱視の障害のある人に利用しにくいこと、駅などのエスカレーターや障害者トイレの利用しにくいこと、ハートビル法が既存の建物には適用されていない問題、大学や小中高等学校のバリアフリーの遅れ、また、障害を持つ人の就労権の保障、盲聾者などのサービスや教育などを行う専門機関を作ること、住宅の改造や福祉機器への助成など、障害を持つお二人の参考人から出された政府に対する要望は早期に実施すべきです。
第二は、企業、とりわけ大企業の責任も問題です。
産業界の参考人がユニバーサル社会の形成にとって企業の社会的責任、CSR、コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティーが欠くことのできないものであると指摘したことは極めて重要です。小泉内閣が産業再生法などで後押しする大企業のリストラ合理化の影響は、一般の労働者のみならず、障害のある人の解雇が急増しています。参考人からは、大企業が先頭に立って障害のある人の働く場を確保し、法定雇用率を達成することなどを強く求める意見が表明されました。
JRなどの急行割引率の改善拒否は、障害ある人々の社会的参加を促す上でもユニバーサル社会形成にとっても余りにも無理解であり、即刻その改善を強く求めたいと思います。
以上のように、ユニバーサル社会の形成は真に豊かな社会の構築の重要な提起であると考えます。
第三に、真に豊かな社会とはどうあるべきなのかについてです。
各参考人からは、豊かさについて、物質的豊かさと精神的豊かさの両方が大事、人間が自分の力を発揮できること、すべての人が希望や力を出し、手助けができる社会、障害、性別、民族などの有無や違いがあっても、自分の豊かな人生を追求できる条件が整えられていること、一人一人の誇り、尊厳が確認できることなどなど出されました。
私は、3年間、各参考人の方に豊かさについての認識を伺ってまいりました。そのことを通じて、真の豊かさとは、物質的豊かさとともに、すべての人々がその能力の発揮と活動の全面的発達の機会が保障され、ゆとりと安心感がある下で精神的豊かさも十分に共有できることだと実感しております。
この3年間の調査は、雇用や日本経済の問題、男女ともに仕事も家庭も両立できるライフスタイルについてなど、参考人質疑、国内外の派遣調査を通じて、真に豊かな社会の構築に向けて何をなすべきか、そのヒントや方向をつかむことができたのではないかと思います。
経済大国と言われる日本でありながら、今の日本の社会は、中小企業を始めとする企業倒産の増大、若者を中心とした失業者の大幅増加、過労死や過労自殺の急増、児童虐待、家庭崩壊、そして教育現場では、国連子どもの権利委員会が2度にわたって勧告しているように、極度に競争的な教育制度によるストレスのために子供が発達のゆがみにさらされていることなど、豊かな社会にはほど遠い現実となっています。
私たち日本共産党は、日本の物質的な繁栄を大企業だけの繁栄のものにしないで、国民に還元をする民主的なルールを作ることを提案しています。すべての国民の人としての全面発達のために、豊かな生産力による労働時間の短縮などは既にヨーロッパでは実現を見ています。日本でもできないことはないと考えます。
真に豊かな社会の構築に向けて、本調査会の調査を踏まえ、全力を尽くす所存であることを申し上げて、意見表明といたします。