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共生社会に関する調査会

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共生社会に関する調査報告(中間報告)(平成12年5月25日 )

第I 調査会の調査の経過

 参議院共生社会に関する調査会は、平成十年六月十六日に議長に提出された「参議院制度改革検討会報告書」の答申に基づき、第百四十三回国会の八月三十一日に設置された。

 今日、我が国を取り巻く社会的環境は大きく変化しており、男性と女性、健常者と障害者、日本人と外国人、現役世代と年金世代など、社会を構成している様々な人々が、互いにその存在を認め合い、共生していく社会が求められている。本調査会は、このような共生社会についての的確な対応を目指し、我が国の社会における人と人との新しい関係を模索すべく新たに設けられたものである。

 本調査会は、まず、男女の共生を中心として調査を進めることとし、「男女等共生社会の構築に向けて」を当面の調査テーマと定め、さらに「女性に対する暴力」と「女性の政策決定過程への参画」を具体的テーマとして取り上げ、一年目は「女性に対する暴力」について調査を行い、第百四十五回国会の平成十一年六月三十日、女性に対する暴力に関する提言を含む中間報告を議長に提出した。

 本報告書の対象とする調査の二年目は、「女性の政策決定過程への参画」を具体的テーマとして取り上げ、調査を行うとともに、初回の中間報告についてのフォローアップ調査、第四回女性会議行動綱領への対応等についての調査を行った。

 なお、第百四十五回国会閉会後、平成十一年九月二十五日から十月三日までの九日間、参議院の特定事項調査議員団として、イタリア、イギリス及びノルウェーの各国における女性の政策決定過程への参画と女性に対する暴力に関する実情調査のため、本調査会委員をメンバーとする海外派遣が行われた。

 第百四十六回国会においては、まず、平成十一年十一月十九日、「女性の政策決定過程への参画についての現状と課題」について総論・導入論的立場から樋口恵子氏(東京家政大学教授・人間文化研究所長)、藤原房子氏(ジャーナリスト・財団法人日本女子社会教育会理事長)を参考人として招き、それぞれ意見を聴取した後、質疑を行った。

 次いで、第四回世界女性会議行動綱領に対する取組について政府から説明を聴取することとし、平成十一年十二月三日、長峯総理府政務次官から説明を聴取した後、同政務次官、小此木文部政務次官及び金田農林水産政務次官並びに政府参考人に対し質疑を行った。

 第百四十七回国会においては、まず、平成十二年二月十六日から十八日までの三日間、男女等共生社会に関する実情調査のため、福岡県及び熊本県において現地調査を行った。

 次いで、女性の政策決定過程への参画についての現状と課題に関する件について、学識経験者から意見を聴取することとし、平成十二年二月二十三日に岩本美砂子氏(三重大学人文学部教授)及び植野妙実子氏(中央大学教授)を、三月一日には、五十嵐暁郎氏(立教大学法学部教授)及び岡澤憲芙氏(早稲田大学理事・社会科学部教授)を参考人として招き、それぞれ意見を聴いた後、質疑を行った。

 平成十二年三月八日、前記の参考人からの意見聴取を踏まえ、本件に対する調査会委員の共通認識や今後の取組の基本方針を確認するため委員間で意見の交換を行った。

 続いて、当面する課題について政府に対して質疑を行うこととし、女性の政策決定過程への参画についての現状と課題に関する件について、小此木文部政務次官、大野厚生政務次官、茂木通商産業政務次官及び人事院、総理府、警察庁、総務庁、経済企画庁、法務省、大蔵省、文部省、厚生省、社会保険庁、農林水産省、通商産業省、労働省及び自治省の政府参考人に対して質疑を行った。

 次に、平成十二年四月七日、女性の政策決定過程への参画についての現状と課題に関する件について、学識経験者及び有識者から意見を聴取することとし、大澤眞理氏(東京大学社会科学研究所教授)及び鹿嶋敬氏(日本経済新聞社編集委員兼論説委員)を参考人として招き、それぞれから意見を聴いた後、質疑を行った。

 本調査会は、一年目の中間報告の「女性に対する暴力についての提言」についてフォローアップ質疑を行うことを決定し、平成十二年四月十七日に警察庁、法務省、厚生省から、また、五月十七日には、総理府、文部省、労働省から、それぞれ説明を聴取し質疑を行った。

 本調査会は、今期テーマ「女性の政策決定過程への参画」の重要性にかんがみ公聴会を開催することを決定し、平成十二年四月二十六日、七名の公述人を招致し意見を聴取し、質疑を行った。

 平成十二年五月十日、これまでの参考人の意見聴取、政府の説明、公述人からの意見聴取等を踏まえ、提言事項の取りまとめに向けて意見を集約するため、委員間の自由討議を行った。

 なお、本調査会は、女性の政策決定過程への参画についての現状と課題に関する調査に資するため、関係省庁に対し「男女共同参画二〇〇〇年プラン」の施策の進捗状況及び女性国家公務員の省庁別、級別在職状況について報告を求めることとし、平成十二年四月二十八日に回答を得た。

 平成十一年十一月十日に、平成十一年九月二十五日から十月三日に実施されたイタリア、イギリス及びノルウェーにおける女性の政策決定過程への参画と女性に対する暴力に関する実情調査のための議員派遣について、派遣議員から報告を聴いた。

 また、平成十二年三月一日には、同年二月十六日から十八日に実施した共生社会に関する調査会委員派遣について、派遣委員から報告を聴いた。

 以上のような論議を踏まえ、理事懇談会で協議を行った結果、女性の政策決定過程への参画についての現状と課題に関する件について、意見を集約するとともに、「女性のエンパワーメントのための環境整備」を始め七項目の提言を取りまとめた。

第II 調査会の調査の概要

一 女性の政策決定過程への参画についての現状と課題

1 参考人からの意見聴取及び主な意見交換

 平成十一年十一月十九日、十二年二月二十三日、三月一日及び四月七日、女性の政策決定過程への参画についての現状と課題について、それぞれ参考人から意見を聴取し、意見交換を行った。その概要は、次のとおりである。

(平成十一年十一月十九日)
東京家政大学教授・人間文化研究所長  樋口 恵子 氏

 男女共同参画社会基本法の前文に男女共同参画ということが最重要課題として位置付けられた。これの意味するところは第一に男女とも自己の個性を最大限に発揮できる社会を形成すること、第二にその社会が公正に形成される必要があるということである。しかるに、本来混声合唱で構成されるべき社会が男声中心で物事が決定されてきたところに問題がある。

 従来から介護問題、環境問題等に長く取り組んできたのは女性の側である。これらの問題が地域・生活行政の柱になるにつれて女性の参画が十分でないといびつな社会になるおそれがある。

 近年、世界の豊かさに関する指標もGDP(国内総生産)中心からHDI(人間開発指数)、GEM(ジェンダーエンパワーメント測定―女性が積極的に経済界や政治に参加し、意思決定に参画できるかどうかを測るもの)等が入ってきている。

 現在まで我が国で男女共同参画型社会が十分形成されないことの大きな理由として、昔からの儒教的な男女観が根強く残っていることが挙げられる。すなわち、女性は男性に従うべき存在であるから自分で物事を決めてはいけない、政治にかかわってはいけないという考え方が社会に染み付いている。また、男は仕事、女は家事という性による役割分業意識が強い。

 こうしたことから、我が国では議員、審議会委員、公務員管理職などに女性の進出が極めて少ない。こうした実情は経済大国の一方で女性参画最小貧国とも言える。

 我が国の代議制において、特に女性層についての代表制が果たされていないことが問題である。

 例えば、選挙はかばん(経済力)、看板(知名度)、地盤(組織力)が必要と言われているが、一般的に女性は男性に比べてそのいずれもが弱い。このため、女性は代議制である議員になかなか出てこられない。しかしながら、最近の選挙では女性の場合、従来のかばん、看板、地盤に代わる市民によるネットワークが組まれつつある。このために、二%台であった女性の議員比率が十数年の間に六%にまで伸びてきている。しかし、まだ体制を変革するところまでには至っていない。

ジャーナリスト・財団法人日本女子社会教育会理事長  藤原 房子 氏

 男女共学を始めとする戦後の教育制度改革のおかげで政策意思決定に参画できる女性が層をなして出てきていいはずであるが実際はそうなっていない。例えば国際会議等の場においても我が国は女性代表がほとんどいない。

 我が国はジェンダー統計が整備されておらず、データの集積という意味からも一歩踏み込んだ対策が必要である。

 また、女性が地方議会議員に出にくい、立候補しにくいという実態がある。

 さらに、女性の就業者のうち四一・六%が専門的、技術的職業従事者であるという政府統計があるが、その中身は低賃金、低職位であるものが多く、こうした職種に女性が集中している。また、会社、団体等の役員の一四・二%が女性であるという統計があるが、その実態は中小の商店や零細企業の場合であり、上場企業等には女性役員がほとんどいない。

 政府統計によれば、小学校教員のうち女性は六二・二%であるが、教頭では二二・五%、校長では一三・八%、中学校では女性の教員が四〇・五%、校長は二・九%、高等学校では女性の教員は二四・七%いるが、校長はゼロというように職位が上がるにつれて女性の比率が少なくなっている。大学教員も全体では女性が一二・三%であるが、学長は六・二%、教授は七%、助教授が一一・九%と低く、女性教員の多くは講師、助手など比較的給料も安く、職位も低いところにいる。

 このほか、国家公務員I種試験の採用率も男性に比べて女性が低く、農協の役員、労働組合の役員等も女性は極めて少ない。

 これに対し、国の審議会委員は二〇〇〇年度末までに女性の比率を二〇%にするという目標があり、これはほぼ達成される見通しであるが、国際的に見ると国連の目標が当面三〇%、究極は五〇%となっており、これと比べると非常に低い。

 さらに、女性のアンペイドワーク(無償労働)が大きな問題である。男性が家庭生活にも共同参加するという視点がない限り、男女の共同参画の実現は非常に難しい。

 なお、国連の女子差別撤廃委員会の一般勧告の中に、アファーマティブアクション(積極的差別是正措置)、優遇措置、クオータ制などをもっと日本に採り入れるべきではないかとの意見が出されている。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)政治の場に男女の声を公正に反映させるためには、男女共同参画の推進が重要である。そのためにも、国会を始め市町村議会に至るまで女性が政策決定の場に進出して、その意見を出していかなければならない。

(2)男女共同参画社会を実現するためには、個人の能力が発揮されることが社会の責任となる。例えば介護の問題を解決する方法について、女性の声が十分反映されなければ、決定されてもそれはひずみのある社会を作る結果になる。

(3)女性だから頼りない、多数の人を引っ張っていくリーダーシップが期待できないという偏見があるため、社会システムの中に女性の顔が見えない結果となっている。

(4)個性発揚のためには、男女の固定的な育て分けをしないような家庭教育の在り方が出発点である。

(5)女性の政治参加を進めるためには政党ごとに、例えば候補者の一定割合を女性とするようなアファーマティブアクションを採り、比例区の場合は候補者名簿に男女を交互に並べるなど、男女の均衡が取れるような仕組みを考えるのが良い。

(6)女性が当選しやすいのは比例代表制であり、小選挙区制を中心にすると女性が非常に出にくくなる。

(7)女性の政治参加拡大のためには男性への啓蒙が必要であり、特に女性の政治活動に対する所属政党内における男性の意識改革が望まれる。

(8)選挙の在り方を手弁当主義、草の根選挙にして女性にとっても金のかからない選挙を実現すれば、女性候補者も出やすくなると思われる。

(9)政党とNGOの女性のネットワークを広げることによって、女性の政治参画を推進することも重要である。

(10)女性の政策決定過程への参画を推進するためには一定の条件整備を図る必要があり、育児休業・介護休業の充実、保育所の拡充等について国の責任が重要である。

(11)女性の政策決定過程参画のためには、男性の家庭内の協力が必要であり、このために、労働時間を男女共通で規制する必要がある。

(12)男女共同参画社会基本法を運用するに当たっては、地方自治体における関係条例の制定の促進、女性のための施設設置などの施策の推進、女性団体への助成支援、女性政策推進のための国の行政機関の充実、農山漁村男女共同参画推進指針など具体的施策の実行が重要である。

(13)公共事業の入札に際しては男女共同参画の現状を申込条件にする等、一歩進んだ対策が各自治体について求められる。

(14)女性の管理職が一定比率以上いない自治体には国の補助金を出さないなどの強制的手段も、女性の参画を推進する方法の一つになる。

(15)女性の政策決定過程への参画の実態を把握するためには、統計の整備が必要である。

(平成十二年二月二十三日)
三重大学人文学部教授  岩本 美砂子 氏

 欧米諸国では国家公務員の女性比率は一般の労働力に占める女性比率よりも高くなっているが、我が国では国家公務員の女性比率は約二割であり民間よりも低くなっている。公務員の世界は男女平等などと言われているが、それは建前だけである。

 米国では、議員のみならず、議会及び議員スタッフ、行政官とそのスタッフに白人女性だけでなく黒人女性も多く、我が国の場合とは大分様子が違っている。

 我が国では国家公務員上級職試験において、事実上、各省庁に女性の採用枠があるが、これは女性を優遇するための枠ではなく、女性を閉め出すためのものと言える。政治家の候補生でもある上級職の官僚に女性が少ないということは、女性の政治家のなり手が少ない要因の一つである。

 我が国の国会への女性の進出は、参議院は比較的多いが、衆議院は世界の水準からはるかに遅れている。首長では女性知事が初めて誕生したほか、女性の市町村長は六名で全体の〇・二%に足りない。また、女性の地方議会議員は九九年に五・九%となったが、いまだに九四・一%が男性議員である。

 諸外国では地方議会への女性の進出は国会と同等かそれ以上というのが常識だが、我が国では女性の進出は参議院の方が多く地方議会が少ないという逆ピラミッドになっている。地方に行くほど家父長主義が強く、女性が立候補しにくいということである。

 我が国において、女性政治家が少ない背景の一つに女性は法学部、政経学部、経済学部といった社会科学の分野に進むことが従来少なかったことも指摘できる。

 選挙制度は一般的に小選挙区制よりも比例代表制の方が女性が進出しやすいと言える。ただし、小選挙区制においても、英国、フランス、米国では女性割合を増やす工夫により女性議員が増えてきた実績があり、選挙法の壁は絶対ではない。

 ドイツや英国では政権交代が起こる選挙では女性がキャスティングボートを握っている。また、我が国では現在、若い女性の無党派志向が指摘されているが、これらの層をどの党が取り込み、女性候補をどのように増やしていくのかということは、女性票獲得ということに関して各政党が直面している大きな課題である。

中央大学教授  植野 妙実子氏

 日本国憲法では第十三条で個人の尊重、第十四条で法の下の平等、特に性別による差別の禁止ということが明示されている。しかしながら、一九八〇年代以降になって初めて女性問題の解決が意識されるようになったのはなぜなのか考える必要がある。これは憲法解釈上、一つは合理的差別、すなわち、男女の肉体的差異による異なる取扱いの容認、もう一つは労働者と企業など私人間の人権関係等に対する憲法の直接介入の否定という限界があるためである。判例も男女平等については憲法よりも民法の公序良俗の規定を優先させてきた。また、憲法第二十四条は、家庭生活における個人の尊厳と男女平等をうたっているが、この条文は方針を示したものであり、具体的な権利を導くものではないというのが一般的な解釈であった。

 しかしながら、女子差別撤廃条約には(1)妊娠・出産のみが男女の違いであり、伝統的男女役割分担を廃止する、(2)偏見・慣習などあらゆる差別的慣行の撤廃を目指す、(3)条約の実効性を確保する、(4)アファーマティブアクションを承認するという四つの意義があり、こうした観点から国内法の整備が進んできた。

 さらに、第四回世界女性会議の中でも、女性の経済的自立、人権としての女性の権利、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、平和と平等の確認が行われた。

 フランスでは保育・介護制度の充実などにより、法はもとより意識の上でも男女平等は達成されていると言われるが、こうしたことを背景として、ジョスパン首相の下では閣僚二十六人中十人が女性となっている。

 フランスにおいては、一九八二年、市町村議員候補者リストにアファーマティブアクションを取り入れる法律が違憲判決を受けたことにより、パリテ(男女同数)という考え方が入ってきた。ジョスパン首相はパリテを公約とし、一九九九年いわゆるパリテ条項を挿入することの憲法改正が実現し、二〇〇〇年には候補者リストにパリテを適用するという法律を採択した。

 我が国においてもフランスのようにカンフル剤が必要ではないか。差別意識は固定化しており平等は作り上げていかなければならない。しかしながら、我が国においてアファーマティブアクションを活用することは憲法学者も容認しておらず、難しい面がある。

 我が国では司法の分野において、国際法規の重要性が消極的にしか考えられていない。本当の意味での平等確立のため、国際的な動向によって我が国も変わらざるを得ないという認識が必要である。

 なお、男女共同参画社会基本法ができたが、第五条の政策決定過程への参画について、もう少し強い文言が欲しかった。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)特に地方においては従来から家父長的な風土が強く、女性の政治参加を否定してきたという傾向があり、また、女性もそれに甘えて政治の場に進出していこうという意気込みが足りなかったと言える。

(2)男女差別の問題は基本的には教育の問題である。女性は男性の言うことに従い、消極的な方が良いという考え方が教育の場に染み付いているので、これを改めていかなくてはいけない。そのためには、女性自身が考え、意見を述べ、発表をするというような教育訓練が必要である。

(3)少子化対策としては、女性が安心して子供を産みやすいような環境づくりが必要であるが、家族にかかわる問題は、従来の我が国では教育的にも軽視されてきたきらいがある。男女平等ということは、男性も女性も家族に対して同じように責任を持つということが基本である。

(4)女性が政治の世界に進出するためには、その基礎的条件として経済的自立、政治的自立、身体的自立の三つが必要である。

(5)地方議会においては女性議員が市民運動、生協やPTA活動、消費者団体の活動等を通じて政策をPRする技術を会得して、多く議会に進出してきていると思われる。

(6)女性議員を増やすためには、地域などにおいて女性リーダーを育成していく努力が必要である。また、女性の政策決定を研究しているNGO等を支援し、女性の政治参加促進に活用していくことも有効である。

(7)小選挙区で女性議員あるいは候補者を増やすためには、例えば各政党が全国レベルで女性議員の比率の目標を決めて調整を進める必要がある。

(8)選挙による女性議員比率については結果平等ということはあり得ず、機会均等であるべきである。

(9)我が国では地方議会の女性議員比率は五・九%にすぎず、機会均等が実質的に妨げられている可能性を、結果の不平等から顧みることが必要である。

(10)我が国においては、法の下の平等を定めた憲法第十四条が、性別による差別を禁止しているので、フランスのパリテとかアファーマティブアクション、クオータ制を法的に導入することは難しいと思われる。ただし、目標設定という形を取れば現行憲法下でも可能と思われる。

(11)女性議員比率の目標設定値を男女共同参画社会基本法等の中に入れることは可能であり、そうすれば政党も無視できなくなり、女性議員の進出が進むのではないか。

(12)現行の選挙制度では選挙運動期間が短く、戸別訪問が禁じられていることが女性の新人候補者の名前を浸透しにくくしているので、こうした規制を緩和すべきである。

(13)女性の地方議会議員が増えない大きな原因に地方政治の在り方がある。地方議会議員の主たる仕事が、中央からいかにして補助金を取ってくるか、地方の商工業の活性化を図るかということになっているため、女性の活動と結び付かない面がある。

(14)今後の地方政治は、介護保険制度を始め身近な地域福祉の充実など生活中心型に変わる必要がある。そうすれば女性もその役割を認識して政治の場に進出してくると思われる。

(15)公的分野の意思決定過程への女性の参画については、いわゆる行政職の政策決定の中枢部分に女性が多く進出していくことが重要である。

(16)大学の女性教員採用促進のためには応募者、採用者の男女比などの情報公開が必要である。

(17)地方自治体の女性の政策に関してモデルプランを立て、関係委員の女性比率の目標を設定することにより、女性政策推進に当たっての指針とすることが望ましい。

(平成十二年三月一日)
立教大学法学部教授  五十嵐 暁郎 氏

 我が国の政治の場における女性の参画は世界的に見劣りがする。これは集団を代表するのは男性という文化が我が国にあり、特に首長の場合は女性の知事一名、市長三名、町村長三名で全体のわずか〇・二%を占めるにすぎない。

 政治だけでなく社会全体の重要ポストに女性の姿は少ないが、その背景として儒教的家父長制の社会意識が根強く存在することが挙げられる。例えばPTAの主要メンバーは母親であっても、会長ポストとなると男性が想定される。組織を代表するポストや政治的地位は男性のものであるという常識が存在する。

 八〇年代に社会全体が生産から生活へと重点が移行した結果、利益政治の時代に代わって生きがいを求める政治の重要性が増してきた。その重要課題である福祉、環境、教育などにおいて女性は先駆者的立場にあったため、その変革の必要性を実感して地方議会に進出することになった。その結果、前回の統一地方選挙において女性議員の当選者は従来の一・五倍に増加した。この背景としては地方選挙の支持母体が地域ネットワークに変わってきたことが挙げられる。

 女性議員を増やすためには、比例区が大きな役割を果たしている。そのため、比例区議員定数が減れば女性議員の数は減ると思われる。

 また、地方議会は、欧米の例のように夜間、週末に開催することにより、議員職との兼業が可能となる。これにより、住民の意識を反映した議論が行われると考えられる。

早稲田大学理事・社会科学部教授  岡澤 憲芙氏

 スウェーデンでは意思決定のカテゴリーとして立法部(議会)、行政部(政府)、政党、利益団体(労働組合、経営者団体、消費者団体等)、市民運動(NGO等)、マスメディア、裁判所、宗教界、学術研究団体等があるが、これらにおける女性の進出率が問題となる。

 スウェーデンでは公共部門への女性の進出度が非常に高く、閣僚は二十名中十一名、国会議員は四三%、県会議員は四八%、コミューン議会(市町村議会)は四人に一人が女性であり、国家公務員の女性管理職比率は四四%、地方公務員でも圧倒的に女性管理職が多い。一方、民間部門では意思決定過程への女性の進出は少ない。

 女性の進出の背景としては女性の意思決定過程への参加を阻害する要因を排除してきたことがある。この阻害要因としては女性の選択ミス、社会的偏見、女性の成功恐怖症、伝統的な価値観の支配力、女性の連帯感の欠如、選挙制度のハードル、男性の既得権維持指向、仕事と家事・育児を両立できる環境の未整備、政界イコール男性支配社会の伝統、学校における政治教育の不足、女性リーダー育成環境の未整備、クオータ制など新規参入者のための特別制度の欠如等が挙げられる。

 他方、女性の進出を促進する要素としては、議会政治の長い歴史と選挙による社会改革の伝統、高負担・高福祉政策による政治意識の高揚、比例代表制と政党によるクオータ制の採用、女性共通の問題に対する超党派の連携、情報公開の進展による政界業としてのうまみの欠如、柔軟な議会開会時間と開会場所、参加促進型の選挙制度、早期の社会教育、育児・家事と仕事の両立環境の整備が挙げられる。

 スウェーデンでは、男は仕事、女は家庭という伝統的・固定的な性役割二元論から離脱して出産・育児・家事と仕事が両立するよう環境整備が進められており、このため女性の社会参加が進んでいる。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)我が国はHDIは世界第四位であるが、GEMは世界第三十八位となっており、国際的に見て女性の政策決定過程への参画は非常に立ち後れており、すそ野を広げるための具体的な対応策が必要である。

(2)女性議員を増やす理由は、政治の場に男女の利益と意見が等しく反映されるべきであり、現代の政策課題の中で女性の視点がどうしても必要だからである。

(3)女性議員を増やすには、各政党が候補者の男女比の目標を定め、計画的にその実現を図るようにすることが現実的な方法と思われる。

(4)我が国においては、身近な地方議会から女性が決定に参加していくようにしなければならない。実際に、都市の周辺の地方議会では三〇%台半ばぐらいまで女性議員が増加してきている。

(5)地方議会を変える一つのポイントは、NGOのような特定の問題を地域の中で考えて活動しているグループがネットワークをどれだけ築けるかということである。

(6)我が国でも地方議会の議員定数を増やせば、女性の議員数も多くなるのではないか。また、議員報酬を減らす代わりに議員が兼業しやすいように夜間、週末に議会を開催するように工夫してはどうか。

(7)我が国では、選挙権が二十歳、被選挙権が二十五歳で与えられても、それをいかすような民主主義教育を受けていない。

(8)我が国の場合は、残業問題、通勤問題などがあり、企業の協力がなければ週末議会、夜間議会というものが現実的にはできないのではないか。

(9)スウェーデンでは国と県と市町村の役割がはっきり分かれており、県の役割は医療、健康、保健に特化されている。これらの部門で働くのは圧倒的に女性であり、専門知識をいかした者が議員となるため、議員の二人に一人が女性となっている。

(10)スウェーデンにおいて女性が高負担を受け入れたのは、それまで女性がボランティアとして行っていた介護などのアンペイドワークが、地方公務員として行うペイドワークに変わり、女性の職場が確保されたためである。

(11)スウェーデンでは少子高齢化に伴う労働力不足対策として、外国人労働力の受入れ、女性の社会参画の促進、年金受給開始年齢と定年年齢の引上げという三つの政策を採った。

(12)スウェーデンでは労働時間が非常に短く、休暇も多い。こうして余裕時間を増やす中で選挙権及び被選挙権年齢を十八歳にしたり、郵便投票制を導入するというような形で政治に対する市民の参加の拡大を図ってきた。

(13)我が国において女性の経済的自立を確保するためには、税制、社会保障制度を世帯単位から個人単位に切り替える必要がある。

(14)我が国の女性労働者は著しく不安定、低賃金雇用となっており、政治参加や社会参加も十分にできない。

(15)我が国の高齢化は今後北欧諸国以上に急速に進むことが予想される。これに伴い、新しいビジネスチャンスとして、女性が介護や医療の最前線で培った情報や知識をベースにした新しい事業分野が発展する可能性がある。

(平成十二年四月七日)
東京大学社会科学研究所教授  大澤 眞理氏

 日本社会は高度経済成長期を通じ、一世代の間に農林漁業など自営業中心の大家族の社会から急激に都市化し、サラリーマン社会となった。

 この間、女性が家族従業者として就業していることの多い農業の比重が低下したことにより、女性のいわゆるM字型の年齢階層別労働力率グラフが構成されることになった。

 特に高度経済成長によりサラリーマンの専業主婦世帯が増加した。そのため夫と専業主婦と子ども二人が標準世帯とみなされるようになった。しかし、こうした家族形態は、高度経済成長の結果として登場し、一九七〇年前後の一時期に相対的に多数を占めたにすぎない。

 成長率が年平均一〇%という高度成長は終わるべくして終わり、七〇年代後半から平均四%の安定成長期に入った。この時期に、夫の賃金の伸び悩みを背景として、非労働力となっていた団塊世代の女性は再び労働市場に回帰した。

 九〇年代に入ると経済成長率は年一%にまで低下した。このため、今までの日本型の雇用慣行の維持は困難となり、従来の年功制を維持しようとする企業はまれとなり、男性世帯主の収入のみで世帯支出を賄えるという時代は過去のものとなった。

 現在の我が国の税制や社会保障制度は、夫は仕事、妻は家庭という男女の性別役割分業を前提として世帯単位で構成されており、一定額以下の所得の妻を持つ夫に対しては配偶者控除や配偶者特別控除が行われ、年金でもサラリーマンの被扶養配偶者に対しては保険料を徴収しない第三号被保険者制度が導入されている。

 こうした政策は、女性が就労するとしても、その所得を夫の扶養限度内でとどめるよう誘導するもので、いわば、旧型の既製服に生身の体を縛り入れるようなものである。

 男女共同参画社会基本法の基本理念の一つにもあるように、社会における制度や慣行は、個人のライフスタイルの選択に対し中立であるべきである。

日本経済新聞社編集委員兼論説委員  鹿嶋 敬氏

 総合職の女性の多くは、就職後短期間で退職しているのが実態である。退職の理由は第一に仕事と家庭の両立が不可能なこと、第二に夫の転勤が挙げられる。退職した総合職の女性の多くは退職したことを後悔している。

 しかしながら、仕事と家庭を両立させて働き続けることは困難という非常に厳しい現実があり、男性と同じ基幹労働力として働くという女性の存在が消えざるを得なかったと言える。女性の総合職は男性と同じような労働時間帯で働かなければならないが、家事・育児の責任は一手に彼女たちが担っているという現実の中で働き続けることが難しい。

 一方、一般職の女性は、早期退社が期待され、長期に勤続しても年収はほとんど上がっていかないというシステムになっている。

 正社員比率を見ると、男性の場合はここ十年程ほとんど変わっておらず、九八年度で八九・七%となっているが、女性の正社員比率は六割を切っており、残りの部分はパート、派遣社員、契約社員等周辺労働力化している。

 このような不安定な雇用環境にいる従業員の大半が女性であるという現実を考えると、職場の中でも性別役割分業が定着してきている感じが強い。

 例えば、航空会社の客室乗務員は現在では正社員、契約社員、契約社員の中から正社員となった新正社員、再雇用契約社員、さらには派遣社員と雇用形態が多様化する傾向にあるが、有期雇用の場合、契約更新のたびに条件が悪化しているのが現実である。雇用形態の多様化に応じた労働法制の見直しも必要である。

 パートタイマーに女性が多く、基幹労働力に男性が多いという実態は、男女の間接差別であるという見方もできる。間接差別は欧米諸国でも禁止されており、我が国でも議論されるべき問題である。

 また、派遣社員、パート従業員はそれだけでは生計を維持できないために、複数の仕事を持つ複合就労が増えている。

 今後は家庭と仕事が両立できるような社会づくりが必要であり、女性の自立が掛け声倒れにならない社会の形成が重要である。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)配偶者控除は個人消費を刺激し、また、第三号被保険者制度は専業主婦の老後に対する安心感を与えてくれるものであり、将来に対する不安を持つ現在のような不況の時代にふさわしい税制、社会政策である。

(2)管理職登用に必要な知識や経験、判断力を有する女性が少ないことが、企業における男女共同参画社会を実現する際の最大の障害になっているという指摘がある。

(3)女子学生は男子学生に比べて理工系の比率が非常に低いので、理工系中心へ移行しつつある企業社会の中で女性が取り残されるおそれが強い。

(4)男女共同参画社会の実現に当たっては、我が国固有の伝統文化や道徳観念などとの調和が重要であり、諸条件の異なる国と同じ制度を導入する必要性はない。

(5)男性にとっても男女の固定的な性別役割分業が行われている現在の社会の在り方は問題であり、選択肢の多い幅広い生き方のできる社会の実現が重要である。

(6)転勤の問題は家庭にとっても夫婦にとっても大きな課題であり、企業側に必要な配慮が求められる。

(7)性に中立的な社会の仕組みをつくるために、社会保障制度、税制を世帯単位から個人単位に変えていくことが望ましい。

(8)共働き家庭が増える中で、子供を育てることも家族だけではなく社会の責任という発想が必要である。

(9)男女共同参画を考えるときは、我が国の歴史、伝統を考慮することが重要であるとする男性の意識を変えていくことが今後の大きな課題である。

(10)第三号被保険者制度や遺族年金の問題など、働く女性が不利になったり、不公平を感じる制度の在り方については検討が必要である。

(11)女性の年金受給額が低水準であるという問題を解決するためには、男女間の賃金格差の解消を図ることが前提である。

(12)女性の社会参加を進めるに当たっては、解雇、リストラの規制及び不安定雇用に対する歯止めを進めるために、これらの点に関する法的規制が必要である。

(13)配偶者控除などが女性の低賃金に結び付いているので、税制、社会保障制度全体を見渡した改革が必要である。具体的には社会保障制度の個人単位化、基礎年金への税法式の導入等ライフスタイルの選択について中立的な制度にする必要がある。

2 政府からの説明聴取及び主な質疑

 平成十一年十二月三日、第四回世界女性会議において採択された北京行動綱領に対する我が国の取組状況等について政府から説明を聴取し、質疑を行った。また、平成十二年三月八日、女性の政策決定過程への参画についての現状と課題について、政府に対して質疑を行った。

(平成十一年十二月三日)
総理府

 第四回世界女性会議で採択された北京行動綱領は、一九九六年末までに国内行動計画の策定を各国に要請しており、これを受けて男女共同参画審議会は平成八年六月に男女共同参画ビジョンを内閣総理大臣に答申した。

 男女共同参画推進本部は、平成八年十二月に男女共同参画二〇〇〇年プランを決定し、このプランに沿って、男女共同参画社会づくりのための諸施策を推進している。

 政府は、男女共同参画社会の実現を促進するための枠組みである男女共同参画社会基本法案を国会に提出し、可決・成立の後、平成十一年六月二十三日に施行した。

 現在進められている中央省庁等改革で新たに設置される内閣府に男女共同参画会議が置かれ、内部部局として男女共同参画を担当する局が置かれる予定となっている。

 国の審議会等における女性委員の割合については、平成十二年度末までのできるだけ早い時期に二〇%を達成する目標を掲げているが、平成十一年九月末現在一九・八%となっている。

 政府は、民間団体との連携を図るため、男女共同参画推進連携会議を平成八年に発足させるとともに、女性二〇〇〇年会議に向けた、日本国内委員会を開催した。また、国際協調の精神にのっとり、東アジア女性問題国内本部機構上級担当者会議を平成八年から開催している。

 女性二〇〇〇年会議のため、国連が各国における取組状況を求めてきたのに対し、政府は、個人、民間団体等からの意見を踏まえ平成十一年四月に回答を提出した。

 このような政府からの説明を踏まえ、質疑を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)二十一世紀に向けて社会がより成熟していくためには、男女共生社会の実現が必要である。

(2)国際比較において、我が国の女性の能力は非常に高いが、政策決定、意思決定の場への女性の進出度は低い。女性の能力は十分に活用されるべきである。

(3)男女共同参画社会を築いていくためには、幼少時の家庭や社会を通じて人間の尊厳あるいは平等を強く教えるような教育が大事である。

(4)政府は、男女共同参画社会の形成について、国、地方公共団体、国民が一体となって取り組んでいけるよう積極的に努力すべきである。

(5)政府は、男女共同参画社会の理念、その在り方、問題点、これからの具体的な取組方向について認識を深めていくことが必要である。

(6)男女共同参画社会基本法に基づいて制定される自治体の条例に対する様々なサポート体制を、政府は積極的に進めるべきである。

(7)農山漁村における女性の地位向上を図るためには、農業経営における女性の役割を適正に評価して社会参画、経営参画を推進していくことが重要である。

(8)農業経営に携わる家族の意欲と能力が十分に発揮される環境作りのためには、家族経営協定の締結を推進することが重要である。

(9)事業主、企業は、男女共同参画社会実現のための責務、責任があるので、積極的に取り組んでいくことが重要である。

(10)労働者が仕事と育児、介護を両立させ、生涯を通じて豊かな人生を送れるよう企業に対する指導・啓発を実施することは、政府にとって大きな課題である。

(11)政府は、家族的責任を有する労働者に配慮した労働環境をつくるための施策を推進すべきである。

(12)一定規模以上の事業主に対し、女性の採用、登用状況などについて報告義務を一律に課すアファーマティブアクションを導入すべきである。

(13)一定以上の要件を満たし、女性や障害者を積極的に採用している企業に優先的に公共事業を任せるアファーマティブアクションを導入すべきである。

(14)戸籍において、婚内子の場合は長男、長女、次男、次女、婚外子の場合は男、女と表記される続柄欄の差別は撤廃すべきである。

(15)政府は、その各種政策が男女共同参画にどのような影響を及ぼすかについて、様々な実態調査を積み重ねる必要がある。

(16)政府が行う実態調査に基づいて、男女を問わず国民各階層の意見が国政の場に具体的に反映されるようにしなければならない。

(平成十二年三月八日)

 政府に対する質疑の概要は、次のとおりである。

(1)学校教育においては、ジェンダーの視点に立って教育課程を編成し、ジェンダーフリー教育を各教科、教科外活動、性教育の中で進めていく必要がある。

(2)教員の男女比率、教科書の内容、学校生活の環境などに潜んだジェンダーバイアスが隠れたカリキュラムとして機能しているため、子どもに性差別を植え付けるなどの影響を与える場合がある。

(3)学校での男女別名簿によって男子優位の観念が無意識に植え付けられる面があるので、男女混合名簿の採用が望ましい。また、教科書検定におけるジェンダーフリーへの配慮も必要である。

(4)教育機関における女性の管理職割合は低く、男女共同参画社会の実現の視点からは女性割合の増加が望まれる。

(5)男女共生という理念実現のためには経済的自立の論議が不可欠である。特に高齢女性の国民年金未納、未加入者の発生防止のため、その普及啓発活動は重要である。

(6)離婚後の養育費については、米国に児童養育費強制履行制度があるのに比べ、我が国では男性が支払わないケースも珍しくない。離婚等に伴う女性の権利を周知徹底する必要がある。

(7)男女共同参画社会基本法の趣旨を踏まえ、警察は、実質的な権限を持つ幹部職員を育てる努力をするなど、女性の登用を図る具体的施策に取り組むべきである。

(8)男女共同参画宣言都市奨励事業は、女性の政策決定過程への参画の促進に貢献しており、これを積極的に推進することが求められる。

(9)国の審議会の女性割合については、男女均等の委員構成が望ましい健康問題に関する審議会の中にも、当面の目標の二〇%に達していないものがある。政府は早い時期に国際的目標の三〇%が達成できるよう、具体的計画を立てて努力する必要がある。

(10)国家公務員の管理職の女性比率は民間企業よりも低く、級別在職者数を見ると女性は男性と比べて低いところに集中している。差別を是正するため、各省庁の男女別の昇任、昇格の実態に関する情報開示に取り組むことが重要である。

(11)大学の教員への女性の採用には差別があることが指摘されており、女性の積極的な採用に配慮していく必要がある。国の審議会のように大学の教員についても、女性割合の数値目標を掲げることを検討すべきである。

(12)女性起業家を育成、支援する施策を積極的に進め、その広報にも努めていく必要がある。

(13)農山漁村における男女共同参画の推進のため、男女共同参画推進指針の策定、女性参画への取組を補助事業の採択基準とすることなどの施策が採られたが、更に女性の参画を促進する措置を講じていくべきである。

(14)男女共同参画二〇〇〇年プランについての各省庁の進捗状況を項目別に把握する必要がある。

(15)男女共同参画二〇〇〇年プランにおける性中立的制度等の課題への大蔵省の取組が、男女共同参画白書に報告されていないのは問題であり、重視して対応すべきである。

3 調査会委員間の自由討議

 参考人からの意見及び政府からの説明聴取を踏まえ、女性の政策決定過程への参画についての調査会委員の認識や今後の取組の方向性を見いだすため、平成十二年三月八日及び五月十日、調査会委員間における自由討議を行った。そこで述べられた意見の概要は、次のとおりである。

(平成十二年三月八日)

(1)男女共生社会の実現のためには、税制、社会保障制度を見直し、女性の経済的自立を確立する必要がある。そのためには、社会制度の世帯単位から個人単位化、労働時間短縮、育児、介護への支援体制の整備、同一職種同一賃金の徹底等男女とも働きやすい環境を整備することが今後の課題である。

(2)我が国の国会議員、自治体首長等における女性の比率の低さは、民間各種団体を含めた社会全体の問題であり、男性社会から共生型社会への転換が求められる。男女の共生のためには相互の特性の理解が必要であり、女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツも保護・育成されなければならない。

(3)結果平等に限りなく近い機会均等が共生社会の基本である。政治家の役割は、機会均等をいかに作っていくかにある。

(4)女性国会議員を増やすために、クオータ制を導入している政党に政党助成金を多く分配するなどの配慮が必要である。

(5)平成元年参議院選挙から女性議員数の伸びが停滞しているのは、女性議員の役割が明確でないことに原因がある。女性が主要閣僚に就任する、超党派での取組によって何らかの成果を出す等の目に見える活動が必要である。

(6)女性の政策決定過程への参画は、政治の場だけでなくあらゆる分野で進める必要があるが、特に公的部門において非常に遅れているため、まず情報公開を行うとともに、立法府においても男女共同参画基本計画の中で抜本的な対策を採るよう調査・提言していく必要がある。

(7)男女がお互いに尊重し、自立し、協調していくためには、教育が重要な役割を果たすと思われる。

(8)男女共同参画二〇〇〇年プランには、各省庁の実施すべき政策が書き込まれているが、総理府から出される報告書は、何が検討され、何が実施され、何が実施される予定かという形式になっていない。調査会において、同プランの実施状況について確認する作業を行う必要がある。

(9)我が国の国家公務員の女性管理職比率は一%台であり、四〇%以上ある欧米と大きな差があることに注目していくことが重要である。

(10)男女雇用機会均等法以降、大企業で男女間賃金格差は拡大し、女性管理職の登用はむしろ後退している。異常な長時間労働が放置されている結果、男性が家庭責任を負えず、政策決定過程へ女性が参加できない現状がある。

(11)共生を考える上では、女性のみならず男性のアンペイドワークも研究することが必要である。

(12)国会は、男女共同参画社会基本法の総括をするとともに、各種法案、施策のジェンダーチェックをする機能を持つべきである。

(13)あらゆる分野に女性が参画することで、それ以前とは全く異なった利点が出てくることがあり、社会全体のレベルアップが期待できる。

(14)文学などの分野は従来男性社会であったが、現在は女性の進出が著しい。大学は非常に遅れており、クオータ制などのアファーマティブアクションを実施すべきである。

(15)学校教育の中で、男女は家庭の仕事も分業しかつ平等にやるという原則を徹底的に教育すべきである。

(16)男女平等ということは、男性がやればできることをやらないために、結果的に女性の負担を増やし、その人の自己実現を妨げることがあってはならないということである。

(17)地方に行くと男性と女性の役割は全く違い、家庭内でも男性が女性を怒鳴っても女性はうまくかわすという状況があるが、これこそがある意味で共生であり、共生と平等とは異なる概念である。

(18)女性と男性が共に働く場合、男性の子育てへの積極的な参画が必要となる。また、学校においても、男女が経済的に自立し、その上で共生していくことを教育すべきである。

(19)社会が男女共同参画促進で平等になっても、家の中では、男性が厨房に入れば女性にとってストレスになるという場合がある。我が国では女性は女性らしさ、男性は男性らしさが大切であって、本当の意味での社会における役割分担を基本とする必要がある。

(平成十二年五月十日)

(1)女性の政治参画に関するアファーマティブアクション導入の法制化は、憲法との関係で疑問があり、女性という理由だけで何らかの特別扱いをすることには消極的にならざるを得ない。あくまでも、選挙は機会平等で、それが結果平等になることを目指すべきである。

(2)候補者の選定については、各政党の自由な方針にゆだねるべきであり、女性が一定の枠を割り当てられて政治に参画するのでなく、力を付けた人材のすそ野を広げ、ボトムアップ型の参画を進めるべきである。

(3)女性の政策決定過程への参画は、長期的には子供のころから男女共生の心を実感として身で覚えること、また、短期的には審議会の委員に女性を多く登用することが必要である。

(4)衆議院の小選挙区制は女性にとって不利な制度となっており、比例代表選出議員定数はこれ以上減らすべきでない。

(5)選挙期間中の戸別訪問は、新人女性候補者が選挙民との対話によりその支持を拡大できるようにするため解禁すべきである。

(6)女性議員が、児童買春・ポルノ禁止法などの重要な人権問題、ドメスティック・バイオレンスなど女性問題及び各政党の中でのアファーマティブアクションの導入について、党派を超えて連帯できる活動を見付けていくことが大事である。

(7)男女共同参画を進める上で、我が国はジェンダーの視点を取り入れた統計が不足している。各省庁の女性職員、女性管理職の比率等に関する情報公開が必要である。

(8)子供を産み育てながらでも、社会的な地位、活動に不利益とならないことが保障される、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの充実は、女性の社会参画に欠くことができない。

(9)我が国の政策決定過程では、NGOとの幅広い協力が不足しているが、NGOの活動を通じての政治的関心の高まりが、国民の意識や世論を発展させ、女性議員を生み出す力になる。

(10)公務員の採用に当たっても、数値目標を設定するアファーマティブアクションを採る必要がある。

(11)地方議会を休日や夜間に行えば、多様な分野からの人材が地域の政治に参加することができ、女性が出やすくなる。

(12)地方議会に女性議員が定着するまでの間、議員執務休暇制度や立候補休暇制度等を立法化することも考えられる。

(13)地方議会での、休日、夜間開会が女性が進出するための条件とは思えない。行政が目標を立てて、様々な分野で女性が進出できるような環境整備をしなければならない。

(14)大学、公的機関のしかるべきところに対しては、一定割合、一定期間の期限を付けて、アファーマティブアクションを導入すべきである。

(15)政治が、自分たちの学校生活、暮らしに将来にわたってどのような影響があるのか、小学生のときから教育の場で教えなくてはならない。

(16)アファーマティブアクションの導入により、一時期のレベルダウンがあったとしても、男女共にパワーアップしたときに、国としてのレベルが上がるところまで、長期展望を持つことが必要である。

(17)本調査会から各省庁に対して、男女共同参画二〇〇〇年プランの施策の実施状況に関する報告を求めたが、税制、社会保障の問題及びリプロダクティブ・ヘルス/ライツについて明確な回答がないなど、検討課題が残された。

4 公聴会

 平成十二年四月二十六日、女性の政策決定過程への参画についての現状と課題について、計七名の公述人から意見を聴取し、意見交換を行った。会議は運営上の都合から前半三公述人、後半四公述人に分けて行った。

 その概要は、次のとおりである。

(前半)
財団法人21世紀職業財団理事長  太田 芳枝 氏

 昭和六十一年に男女雇用機会均等法が施行され、女性労働者は量的に増大したのみならず、新しい職域へも進出している。

 日本企業の現在の雇用システムにおいては、昇進によって責任や権限が増していくため、勤続の持つ意味は大きい。企業が女性活用の問題点として挙げるのは勤続年数の短さであり、その結果、男性は基幹的な仕事、女性は補助的な仕事と分けられることになる。したがって、女性は仕事を辞めず働き続ける意思を持つことが、参画を進めるために重要である。

 企業の雇用管理・人事管理においても男女雇用機会均等法の理念は建前としては浸透しているが、一人一人の意識においては、まだ性別役割分担意識が強く、女性の登用を進める上での壁となっている。また、企業においては、トップの考え方が重要であり、トップが女性の活用に本気で取り組むことが必要である。

 21世紀職業財団においては、セクシュアル・ハラスメント防止の講習を実施するとともに、企業において男女労働者間の格差是正のためのポジティブアクションの実施を推進するため、啓発・教育活動を行っている。

新日本婦人の会副会長  笠井 貴美代 氏

 政策決定への女性の参画を広げるためには、議会、審議会等あらゆる場に女性を増やすとともに、女性のエンパワーメントが必要である。女性が政策決定過程に参加し、どれだけ女性の意見が反映されたかが政策の内容と実効性を左右する。前大阪府知事のセクシュアル・ハラスメント問題、ダイオキシン問題や愛知万博開催に伴う環境問題等において、NGOや女性運動は多くの成果を上げている。

 女性が関心を持ち運動している分野は、女性の問題にとどまらず雇用、育児、介護、環境問題等多岐にわたっている。女性の願いと運動が政策の各分野にわたっていかされることが必要であり、このことが住民参加型の政治と民主主義を強める確かな力となる。

 女性の政策決定過程への参画を進めるためには、グローバルな視点や情報公開が求められている。

 各種報告や基本計画にもっと女性の実態やその直面している問題を反映させるため、審議会等におけるNGOの代表を増やすこと及び公正な選任が必要である。

財団法人市川房枝記念会常務理事  山口 みつ子氏

 経済先進国の中で日本女性の国会・地方議会への進出が下位となっている理由としては、高度経済成長下における経済効率主義と社会構造的なジェンダーが考えられる。

 一九九九年四月の統一地方選挙において、全地方議会女性議員の比率は前回より一・八ポイント増の五・九%となった。しかし、四四・二%の議会では女性議員がいない状態である。

 女性の社会進出の遅れは、高度経済成長の下で法制度は平等であったが、社会の仕組みとしては男は仕事、女は家庭という性別役割分業が深化したことに起因する。また、女性の政治参画を阻害する要因については、各種組織に女性ポストがないという組織的要因、選挙資金の不足といった経済的要因、議会の開催が昼間であるといった制度的要因、家庭内の反対等の社会的・文化的要因が挙げられる。また、女性が立候補を決断するときの障壁としては、政治的経験不足等が挙げられる。

 女性が議員となると、生活体験をいかした活動ができるため、住民にとって政治が身近になるといった効果があり、現在の閉塞的な政治を改革するかぎとなる。女性議員を増やすためには、政党内におけるクオータ制の採用、政党交付金による政策学習・訓練の実施、女性の政党幹部への登用、補助金を受けている団体に対する女性管理職登用の義務付け等が効果的であると考えられる。

 今後の少子・高齢化時代においては、女性の政治参画の拡大が社会に与える影響は大きい。

 このような公述人の意見を踏まえ、調査会委員と公述人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)民間の社会福祉施設などにおいて、女性の就業と子育て等の両立支援策を実効あるものとするためには、国、自治体が、産休・育休時における代替要員の養成や教育訓練等を行う支援機関を作るなど、働く場のバックグラウンドを整備することが必要である。

(2)女性の自立のためには、性に中立的な税制等の社会制度が前提となるべきで、例えば百三万円の壁は、女性の自立意識を抑制しているので、納税システムを個人単位にすることが望ましい。

(3)女性を議会のみならず、行政、司法、企業等の中枢へ押し上げるためには、法学部、経済学部、理工系等の分野に進み、各種資格を取得するようになっている女性を積極的に登用するような措置が不可欠である。

(4)女性議員比率が低い地方において女性議員を増やすためには、地域婦人会が引退した男性の後任に女性を入れるための積極的な活動を行ったり、政党が女性候補を擁立する等、男性と女性が一緒になって人材を発掘する活動が必要である。

(5)近年地方において男女共同参画条例づくりなど、女性の能力を適正に評価しようという動きがあるが、地方自治体がモデルを示すことは企業に対しても大きな影響がある。

(6)女性の政策決定過程への参画を進めるためには、男女とも長時間労働に法的な歯止めをかけることが必要であり、労働者が個人的な事情をクリアして働き続けることができるような職場環境の整備を進めていかなければならない。

(7)不況下で低賃金の不安定雇用の女性労働者が増える等の新たな性別役割分担が進行しており、解雇を規制して雇用を守り、パート労働者に正当な権利を保障する等の措置が必要である。

(8)豊かな社会においては、多様な選択肢が個人の責任で選べるようにするべきであり、税制や企業の各種家族手当制度を見直し、女性労働者に不利にならないものに改める必要がある。

(9)無所属の女性議員が地方議会に増えてきているが、政党所属の議員も増えるべきである。政党は党派性を薄め、地域に根ざした活動を行い、現在無所属で出ているような候補者を取り込んでいくことが必要である。

(後半)
東京生活者ネットワーク女性部会メンバー  中田 慶子氏

 女性の政策決定過程への参画には、政策決定段階だけでなく、その基になる調査の段階から参画し、調査の手法、調査対象を選ぶ段階から女性の視点をいかすことによって、新しいデータを発掘し、その結果を基に政策提言を行うことが必要である。さらに、経済的な基盤が弱い女性は情報弱者でもあるので、図書館などの公的な場所での情報アクセスの確保、マルチメディアを活用できるようなトレーニングが支援策として必要である。

 現行選挙制度は、告示期間が短いことや政策を記したチラシが告示期間中に配布できないなど時代に即応しておらず、結果的に女性の政治参加を阻んでいる。戸別訪問の解禁、政策を伝える制度の新設などを検討する必要がある。

 若い人の政治への関心を高めるためには、小中学校での実践的な政治教育が大切である。北欧では実践的な政治教育が行われ、投票率も高い。我が国でも子どものときから政治が身近であれば、女性の政治家志望者も増えると思われる。

女性政策研究家・法政大学法学部講師  三井 マリ子氏

 女性議員を増やすため、「全国フェミニスト議員連盟」、「女性連帯基金」、「99女性と政治キャンペーン」において活動を行ってきたが、その過程で我が国では女性が候補者になること自体が困難であることを痛感した。

 ノルウェーでは、物事を決定する場に女性が少ないのは民主主義に反するという考えが定着しており、ほとんどの政党がクオータ制を採っている。女性閣僚は政権が替わっても四割を超えているし、地方議会でも既に八〇年代から三分の一が女性となっている。

 我が国において女性の政治への進出が遅れている最大の原因は選挙制度にある。女性議員の多い北欧諸国は死票が少なく民意が確実に反映される比例代表制を採っている。ノルウェーのクオータ制は、比例代表制選挙という土壌があったからこそいきたと考えられる。逆に小選挙区制度では、新人の女性が現職に取って代わるということは極めて困難である。

 ノルウェーでは、政党が候補者擁立決定プロセスにおいて、特定層のみから候補者を選ぶことのないよう慎重に候補者リストを作成する。リストは党のシンボルであり、男女のアンバランスを解消しない政党は有権者を引き付けない。我が国でも、政党が政党助成金を使ってクオータ制などの女性議員輩出策を実行していく必要がある。

女性議員をふやすネットワーク「しなの」会長  樽川 通子氏

 女性議員をふやすネットワーク「しなの」は、選挙のノウハウや政策に関する学習活動を中心に啓発活動を行ってきた。長野県では女性議員が昨年の統一地方選挙後に九十七名から百四十六名と大幅に増え、大きな役割を果たすことができた。

 女性が立候補する際に一番困難なことは、夫の説得であり、次に家族、親族、地域、資金の問題がある。さらに長野県の場合、地域推薦という慣習が今も存続しており、女性の立候補を妨げる大きな要因となっている。

 女性の連帯と協調があれば簡単に社会の機構を変えることができるはずであり、女性の一票を女性のために使えば男女半数ずつの議会は簡単にできると思われるが、なぜそれができないのか解明すべき課題の一つである。

 「99女性と政治キャンペーン」では、女性議員を五〇%に、女性を議会にというデモンストレーションを行い、県内に大きな反響を呼んだが、人々の関心を呼び起こすようなこの種の手法も大切である。

 本年十月、長野市において二回目の全国女性議員サミットを開催する。開催を決意したのは、女性議員の数を増やし、その質を高めるために我が国の女性たちは何をなすべきなのか、議員の果たすべき役割は何かを全国的なネットワークの中で共に学び、語り、育っていくことの必要性を感じたためである。女性を政策決定の場に多数送るためには、女性が女性に温かく、優しくあること、女性が女性を育てていく努力をすることが肝要である。

杵築市各種女性団体連絡会議議長  綿末 しのぶ氏

 政策決定過程への女性の参画について、最も簡単な方法は審議会の委員を必ず男女同数又はそれに近い数にすることである。これは国、自治体とも法律や条例の改正を必要とせず、すぐに実施することが可能である。審議会で国民の考えに即した審議が可能となれば、その結果できる法律や条例が現実的に実効性を持つことになる。さらに、審議会委員を一般公募することにより国民の考えに即した審議が可能となる。

 政策決定過程への女性の参画のためには、議員の数を増やすことも大切である。選挙制度において、比例代表制の候補者を政党が男女同数にし、名簿にも男女交互に掲載すれば女性議員の数は増え、子育て中の女性も国会に出ていくことが可能となる。

 このような公述人の意見を踏まえ、調査会委員と公述人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)女性議員の増加は、あくまでも民意の反映という形で実現すべきで、比例代表制やクオータ制の導入など、選挙制度を変更することにより、作為的に実現するべきではない。

(2)東京生活者ネットワークのように交代制で女性議員を出すシステムは、ごく普通の女性が選挙に出ることを可能とする効果がある。また、政治家を出せるような出身母体のリーダーに女性を増やしていく必要がある。

(3)女性の進出のためには、まず各種審議会の女性委員を増やす必要がある。女性が選挙に出ようとする場合は、マスコミのポジティブな報道も重要な要因である。

(4)地方議会において若い層の女性議員が活動する場合の制約条件としては、議員の多忙さ、不規則さ及び資金の問題がある。

(5)選挙の戸別訪問解禁は、資金に恵まれない女性が政治進出するに当たって大きな手助けとなる。

(6)女性の社会参画の基本は経済的自立である。そのためには、同一価値労働同一賃金という基本的な考え方の導入、パート労働者の労働条件の整備等を行い、男性と女性が地域活動と仕事をしながら家事や子育てを共に担うような社会の実現が必要である。

(7)今後男女共生社会の実現を進めるためには、年金制度及び税制の改革、国会において女性に関する問題を議論する組織の充実、地域の女性団体等の活性化などが必要である。

(8)全国女性議員サミットの開催を通じて、女性が議会に出て社会を変えていくといううねりを作っていく必要がある。

(9)東京生活者ネットワークにおける、女性議員の交代制は、新しい人が育ち、普通の人でも議員になれるという長所がある反面、議員活動における有形無形の経験の承継が難しいという短所があるが、皆が力を付けていくためのベターな選択である。


二 女性に対する暴力の現状と課題

 平成十一年六月に本調査会が議長に提出した中間報告における「女性に対する暴力についての提言」に関し、政府の対応、関連する施策の取組状況等について、平成十二年四月十七日に警察庁、法務省及び厚生省から、また、五月十七日に総理府、文部省及び労働省からそれぞれ説明を聴取し、質疑を行った。その概要は、次のとおりである。

(平成十二年四月十七日)
警察庁

 警察は、平成十一年十二月に「女性・子どもを守る施策実施要綱」を制定し、女性が被害者となる犯罪を未然に防止する対策を推進するとともに、被害者に対する相談対応、被害回復への支援等を推進している。

 本調査会の中間報告に対応する警察の取組としては、第一に被害者に対する支援体制の整備がある。

 関係機関、団体とのネットワークの確立については、全都道府県に被害者支援連絡協議会を設立し、刑事司法機関、民間ボランティア団体、福祉関係機関等の相互の連携を強化するとともに、産婦人科医師会等とのネットワーク構築を推進している。

 女性に対する暴力に関する窓口の整備及び周知については、すべての都道府県警察本部に設置した性犯罪被害一一〇番などの相談電話や、女性相談交番などで相談受付を行っている。性犯罪捜査強化月間には、ポスター、新聞・雑誌への広告、テレビ・ラジオ・インターネットの活用、イベント・キャンペーンの開催などの広報活動を実施している。

 被害者支援体制の整備については、警察署に被害者支援係を設置するとともに、指定被害者支援要員制度の運用を推進している。また、カウンセリング体制の整備に努め、電話及び面接によるカウンセリングを実施している。

 取組の第二としては、ドメスティック・バイオレンスへの対応がある。

 夫から妻に対する犯罪の検挙状況の推移は、平成七年以前は四百件台、平成八年から平成十年は五百件台、平成十一年は六百四十四件と増加傾向にある。

 基本的対応要領の作成、徹底については、平成十一年三月末に、夫婦間という特性に配意しつつ、現場の状況等に応じ被害者の救護、現行犯逮捕等の所要の措置を採ることにより、被害者の納得のいく措置を的確に講ずるよう全国警察に示達を行った。また、平成十一年十二月、刑罰法令に抵触しない事案についても、事案に応じて、防犯指導、婦人相談所などの関係機関への紹介、相手方に対する指導、警告等の措置を採るよう示達を行った。さらに、女性警察職員を担当者とする女性に対する暴力対策係の各警察署への設置を進めるよう指示している。

 取組の第三の女性に対する暴力についての関係職員に対する教養については、性犯罪捜査等に従事する職員に対する教養、夫から妻への暴力事案の認知時の措置などについての教養を実施している。

法務省

 女性に対する暴力の問題に関する法務省における取組としては、犯罪被害者保護のための二法案の国会への提出がある。

 刑事訴訟法及び検察審査会法の一部を改正する法律案は、証人尋問手続における証人の負担軽減のため、ビデオリンク方式による証人尋問等の制度を導入するとともに、親告罪である強姦罪等の性犯罪の告訴期間を撤廃し、被害者による意見陳述を制度化するなどの措置を講じようとするものである。また、犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律案は、犯罪被害者等の公判手続の傍聴に対する裁判長の配慮義務を定めるとともに、刑事事件の係属中であっても犯罪被害者等による公判記録の閲覧等を可能とする制度及び民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解の制度を導入するものである。

 女性に対する暴力についての課題については、平成十一年にアンケート方式による被害者等の意識等に関する調査を実施し、平成十二年二月に犯罪被害実態調査を実施した。

 暴力被害者に対する支援体制としては、検察庁において、被害者を支援する業務を行う被害者支援員の配置、被害者等からの照会等を受け付ける「被害者ホットライン」の設置を進めている。人権擁護機関では、全国の法務局等において、女性の人権特設相談所の開設、専用の電話相談窓口「女性の人権ホットライン」の設置を進めている。

 収容の少ない婦人補導院のシェルターとしての活用については、現在検討している段階である。

 刑事司法に携わる法務省職員の研修については、今後も研修を一層充実させるなど教育と啓発に努めていく。

 暴力の予防、啓発については、矯正施設における被収容者への個別指導等、保護観察における効果的な処遇を行い、また、人権擁護機関において女性の人権尊重の周知のための啓発活動を行っている。

 ドメスティック・バイオレンスについては、検察当局において厳正に対応している。妻に暴力を振るう夫に対する接近禁止などを求める裁判所の仮処分命令は、無担保、無審尋で迅速に発令することも可能であり、救済手段として一層活用することが期待される。

厚生省

 本調査会の提言を踏まえた厚生省の対応としては、まず、女性に対する暴力についての調査研究に関して、平成十一年度の総理府における男女間における暴力の実態調査に協力を行った。

 暴力被害者に対する支援体制への対応としては、婦人相談所を中心とした暴力被害者支援ネットワークの構築、都道府県を越えた広域措置の推進、精神保健・ケア対策にも配慮した保護・援助の実施、暴力被害女性が入所した場合の配慮、子育て支援短期利用事業における助成を行っている。母子生活支援施設においては、平成十一年四月、広域入所促進事業を創設し、夫の暴力から避難し保護を必要とする母と子の広域的受入れの促進を図っている。

 シェルターの在り方への対応は、婦人相談所、婦人保護施設へ暴力被害者を受け入れることを平成十一年四月の通知によって明確化した。総理府の男女共同参画審議会においても、関係省庁と共に総合的対策の検討が行われている。

 関係職員の研修については、夫等からの暴力に対するテーマを重点に厚生省等主催の研修を実施している。

 暴力の予防、啓発については、婦人保護事業の広報活動として広報誌の配布、講演会の実施、巡回相談等を行っている。

 経済的自立支援策としては、母子家庭に対し、児童扶養手当の支給、就労支援、母子寡婦福祉貸付金の活用、母子相談員による相談など、総合的自立支援策を実施している。

 このような政府からの説明を踏まえ、質疑を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)総理府が実施した男女間における暴力に関する調査で、被害の潜在化の状況が明白になった。夫婦間の暴力については、警察や公的機関などが解決に向けて努力すべきとの回答が多かったが、このような国民の期待にこたえていくことが重要である。

(2)婦人相談所に女性に対する暴力を取り扱う機関としての法的根拠を与えるべきである。現に暴力被害を受けた女性の保護に大きな役割を果たしている婦人相談所に関して、新たな法的措置によって新しい役割を規定することが求められる。

(3)ドメスティック・バイオレンスに関して、警察官の逮捕義務、医療機関の警察への通報義務等を盛り込んだ法律の制定が必要である。

(4)意思決定が困難な性犯罪の被害者が告訴期間内に告訴に踏み切れなかった事例は相当数あると考えられており、告訴期間を撤廃することは意義がある。

(5)現状ではドメスティック・バイオレンスに対する一般の意識は非常に低いので、テレビなど様々な媒体を通じた広報啓発活動を展開していく必要がある。

(6)女性に対する暴力についての警察庁における取組は、全体的施策担当の生活安全局と事件捜査の指導担当の刑事局にまたがっているが、一つの部局が統括して責任を持つ体制が重要である。

(7)産婦人科医師会とのネットワーク構築や精神的被害回復のための援助など、警察の被害者支援に対する取組が重要である。

(8)ドメスティック・バイオレンスに対する警察の対応要領を第一線に立つ現場の警察官に周知徹底するよう指導すべきである。

(9)売春を行うおそれのない者の割合が八割を超えているという婦人相談所の相談件数の実態からすると、売春防止法を根拠とした現行の婦人保護事業でドメスティック・バイオレンスに対処するのには限界がある。

(10)婦人相談所等への措置件数は増加傾向にあり、広域措置推進の方針もあることから、一時保護所、婦人保護施設、母子生活支援施設の人員、施設とも拡充していくべきである。

(11)公的施設でカバーできない多くの人たちが、民間シェルターによって救われているという実態があることから、民間シェルターへの公的補助を前向きに検討すべきである。

(12)夫等の暴力から逃げてくる女性の抱える問題は、精神的、身体的、経済的と広範多岐にわたっているため、関係機関の密接な協力が必要であり、暴力被害女性支援ネットワークの構築が急務である。

(13)女性に対する暴力に対して各行政機関が取り組んでいるにもかかわらず、件数が増えている状況がある。官民含めた関係機関が、さらに有機的に連携して対処していくことが重要である。

(14)夫から妻に対する傷害の検挙件数が増加傾向にあるのは、事件総数の増加のためか、事件が顕在化するようになったためか、分析して実態を把握する必要がある。

(15)ドメスティック・バイオレンスに対処するため、早急に新たな立法措置が必要である。

(16)ドメスティック・バイオレンスに対して保護命令を規定する法律がない現状でも、警察は国民の生命、身体、財産を守るという観点から女性保護のため踏み込んだ対応をすべきである。

(17)我が国では、妻に対して暴力を振るう夫が婦人相談員に対して危害を加える事例もあり、相談員・カウンセラーに被害が及ばないような体制を整える必要がある。

(平成十二年五月十七日)
総理府

 男女共同参画審議会は、平成九年六月に、内閣総理大臣から女性に対する暴力に関する基本的方策について諮問を受けて、平成十一年五月に、「女性に対する暴力のない社会を目指して」を答申した。

 同審議会は、平成十一年八月から答申後の調査審議を行い、平成十二年四月、同審議会女性に対する暴力部会が、女性に対する暴力について幅広く各方面から意見を求めるため、「女性に対する暴力に関する基本的方策についての中間取りまとめ」を公表した。この中間取りまとめは、総理府の実施した実態調査の結果も踏まえ、夫・パートナーからの暴力、性犯罪等の暴力の形態ごとに、関係機関の取組状況、現行の女性に対する暴力に関する様々な法的措置について記述するとともに、今後において期待される取組について検討している。

 総理府は、全国レベルの調査としては初めてとなる「男女間における暴力に関する調査」を実施し、平成十二年二月に公表した。調査結果によれば、夫から命の危険を感じるくらいの暴行を受けた経験のある妻が四・六%であり、身体的被害を受けた女性で警察などの公的な機関に相談した者はごくわずかであった。また、嫌がっているのに性的な行為を強要された経験のある女性が六・八%で、同じく、警察に相談した者はそのうちのわずかであった。今回の調査により、女性に対する暴力の実態が社会的に大きな問題であり、また潜在化している状況が明らかとなった。

 女性に対する暴力についての予防・啓発活動としては、その現状と今後の課題を明らかにし、社会の意識啓発を図るとともに、関係者との連携を図るため、女性に対する暴力の根絶を考えるフォーラム及び女性に対する暴力に関するシンポジウムを開催している。また、本年より従来の社会の風紀、環境を浄化する運動を見直し、新たに女性に対する暴力をなくす運動を関係省庁と連携して実施することとしている。

文部省

 女性に対する暴力のない社会を実現するためには、人々の男女平等の意識をはぐくむことが大切であるため、学校教育においては、小中学校及び高等学校を通じて、児童生徒の心身の発達段階に応じ、社会科、家庭科、道徳及び特別活動等において、男女の平等及び相互の理解・協力について適切に指導することとしている。

 学校における性教育では、人間尊重を基盤として、児童生徒の発達段階に応じて性に関する科学的知識を理解させるとともに、児童生徒が健全な異性観を持ち、これに基づいて望ましい行動がとれるようにすることをねらいとして、体育科、保健体育科、特別活動などを中心に、学校教育活動全体を通じて指導することとしている。

 学校における人権教育の取組としては、小中学校及び高等学校において、児童生徒の発達段階に即して、各教科等それぞれの特質に応じ、学校の教育活動全体を通して人権尊重の意識を高める教育を行っている。

 女性に対する暴力のない社会を実現するためには、女性のエンパワーメントが不可欠であることから、女性団体等が男女共同参画の視点から地域社会づくりに参画し、その過程を通じて女性のエンパワーメントに資する事業などを実施している。さらに、家庭教育手帳、家庭教育ノートの作成、配布等、家庭教育への支援を通じて、男女で共に取り組む子育てなどについての普及啓発を行い、家庭における男女共同参画を推進している。

 社会教育において人権教育を推進するため、公民館などの社会教育施設等を拠点とした学級・講座の開設など人権に関する学習機会の充実に努めるとともに、人権感覚を持って行動できる人材を育成するための先導的な人権学習プログラムの開発、人権教育に関する指導者の養成、指導資料の作成等の施策を推進している。

 セクシュアル・ハラスメントの防止対策等としては、人事院規則の制定を受け、文部省においても、職員によるセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する規程、文部省訓令を制定し、平成十一年四月一日から施行している。

労働省

 労働省においては、女性に対する暴力に関する施策として、職場におけるセクシュアル・ハラスメント防止対策に取り組んでいる。職場におけるセクシュアル・ハラスメントは、女性労働者の個人としての尊厳を不当に傷つけるとともに、女性労働者の就業環境を悪化させ、能力の発揮を阻害するものである。また、企業にとっても、職場秩序や円滑な業務の遂行を阻害し、社会的評価に影響を与える問題である。このため、男女雇用機会均等法において、事業主は、職場におけるセクシュアル・ハラスメント防止のために雇用管理上必要な配慮をしなければならないとされ、配慮すべき事項については、指針が定められている。

 都道府県労働局雇用均等室においては、女性労働者からの相談に対応するため、専門的セクシュアル・ハラスメントカウンセラーを配置し、防止のための措置を講じていない事業主に対し、是正指導を実施するとともに、企業に対しては、具体的な取組ノウハウを提供する講習会を実施している。

 都道府県労働局雇用均等室に寄せられた相談の状況を見ると、セクシュアル・ハラスメントに関する相談件数は年々増加の一途をたどっており、平成十一年度は九千四百五十一件の相談が寄せられた。企業からの相談では、セクシュアル・ハラスメント防止対策に関するもの、相談・苦情への対応に関するものが多く見られる。また、女性労働者からの相談では、セクシュアル・ハラスメントを受けているがどう対処したらよいか、会社を訴えたが十分に対応してもらえないので指導してほしいという内容のものが多い。

 財団法人21世紀職業財団が行った調査によると、男女雇用機会均等法において事業主の雇用管理上の配慮が求められている方針の明確化と周知・啓発、相談・苦情への対応、事後の迅速かつ適切な対応の三項目すべてに対応している企業は二九・四%にとどまっている。企業規模別では、大企業での取組が進んでいるのに対し、小規模企業での取組に遅れが見られる。

 このような政府からの説明を踏まえ、質疑を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1)女性に対する暴力が潜在化している背景には、これが人権に直接かかわる深刻な問題でありながら、その重大性が国民に十分認識されていないということがある。このため、被害女性が相談しやすい環境を整備し、広報啓発活動を推進していく必要がある。

(2)従来は、法は家庭に入らずと言われてきたが、家庭の中にあっても一人一人の尊厳は守られなければならず、女性に対する暴力の問題について公的機関の関与が必要である。

(3)女性の人権が尊重され、女性に対する暴力のない社会を実現するためには、男女平等の理念に基づく教育について、家庭、学校、地域が一体となって取り組んでいく必要がある。

(4)ドメスティック・バイオレンスについては、我が国の現在の法体系では十分に対応できない部分がある。既存の法律で対応できる点を精査した上で、新たな法律の枠組みを検討する必要がある。

(5)セクシュアル・ハラスメントカウンセラーは全国で三十名配置されているが、男女雇用機会均等法に規定されたセクシュアル・ハラスメント対策において重要な役割を果たすものであり、更に充実を図るべきである。

(6)女性に対する暴力については幼少時からの教育が重要であり、性にとらわれず、一人一人が個性を認め合う、本当の平等な教育を行っていく必要がある。

(7)政府が女性に対する暴力について様々な対策を実施するに当たり、その効果等を検証するため、女性に対する暴力に関して定期的な実態調査を行う必要がある。

(8)夫・パートナーからの暴力については、被害者への対応だけでなく、加害者への対応も図るべきであり、再発防止のための教育、啓発が重要である。

(9)中小企業においては、セクシュアル・ハラスメント防止対策の必要性についての認識が遅れているため、事業主が、セクシュアル・ハラスメント防止のため雇用管理上配慮すべき事項について重点的に周知徹底を図る必要がある。

(10)ドメスティック・バイオレンス被害者のための民間シェルターは、その多くが公的機関と連携しているにもかかわらず、公的補助を受けていない。民間シェルターの厳しい経営実態も考慮して、公的補助を前向きに検討するべきである。

(11)就職に際しての女性差別あるいはセクシュアル・ハラスメントの実態について、一歩踏み込んだ実態把握、改善に努めるべきである。

(12)大学内におけるセクシュアル・ハラスメントについては、実態調査の実施、相談窓口の設置基準の策定など、被害根絶に向けた踏み込んだ対策を検討する必要がある。

(13)女性に対する暴力の問題は、多くの省庁にかかわるものであるが、この問題については、連絡会議を設置するなどして各省庁と連携を取りながら、総理府が強力なリーダーシップを発揮していくべきである。

(14)夫が被用者保険に加入し、妻がその被扶養者となっている場合、妻は夫から暴力を受けてけがをしても、その治療に関して保険の適用を受けることができないという問題がある。


三 海外派遣議員の報告

 平成十一年九月二十五日から十月三日までの九日間、参議院の特定事項調査議員団として、イタリア、イギリス及びノルウェーの各国における女性の政策決定過程への参画と女性に対する暴力に関する実情調査のため、本調査会委員をメンバーとする海外派遣が行われ、その報告を同年十一月十日の調査会において聴取した。

 派遣された調査会委員は、石井道子会長(団長)を始め、釜本邦茂、仲道俊哉、岡崎トミ子、輿石東、大森礼子、八田ひろ子及び福島瑞穂各議員の八名であった。

1 イタリア
(一)男女平等・政策決定過程への参画

 一九七〇年代に離婚法、妊娠中絶法の成立など、カトリックの教義に反する女性解放の動きが見られたが、男女平等、機会均等を推し進める動きは八〇年代になってから起こり、第二回世界女性会議での行動計画を受け、八四年に男女平等機会均等国家委員会が設置されたのを皮切りに、男女雇用機会均等法の制定や機会均等担当大臣の任命等がなされ、九七年には、首相府の下に機会均等庁が設置されている。

 しかし、女性の大学進学率等が男性より高いにもかかわらず雇用機会には恵まれず、就労分野も限られているのが現状で、社会活動やボランティア活動に進出している割には、政策決定過程への参画度はまだまだ低く、閣僚は二十七名中の六名であるが、国会議員は上院で八%、下院で一一%強を占めるにすぎない。

 ボニーノ欧州議会議員との意見交換では、女性の政治参加を促進するためには、クオータ制のような保護ではなく、女性が活躍している実例を作ることが大事との認識が示された。

(二)女性に対する暴力

 近年、法制面の整備は急激に進展し、九六年には性暴力対策法、九八年には売春・ポルノ・買春防止法が制定されたほか、家庭内暴力対策法案、セクハラ防止法案、人身売買禁止法案が議会で審議中である。

 性暴力対策法は約二十年の審議を経て可決されたが、その成立の過程で中核的役割を担った、元下院議員のバッスィ弁護士とムッソリーニ下院議員との意見交換では、法制定の原動力となったのは党派を超えた女性議員の結束であったこと、従来の強姦罪と強制わいせつ罪は性暴力罪として統合され、その位置付けも公序良俗に対する犯罪から人間に対する罪に変わったこと、最低刑も三年以上から五年以上に引き上げられたため、それまでは初犯の場合は執行猶予となる例が多かったが、新しい法律では実刑となること、等の説明がなされた。

2 イギリス
(一)男女平等・政策決定過程への参画

 七五年に成立した性差別禁止法により、性や婚姻上の地位を理由とする差別が禁止され、その範囲も雇用の分野のみならず広範な分野に及び、伝統的に男社会とされてきた政治の分野でも、近年の急激な女性進出により、閣僚では二十二名中の五名、下院議員ではその一八%と過去最多となっている。

 全雇用者に占める女性割合は五割弱であるが、その約半数はパートタイマーで、育児休暇制度は昨年末から発足しているが、介護休業制度はなく、保育所も大幅に不足している。

 内閣府には、内閣の女性政策全体をサポートするための組織として、女性ユニットが設置されている。

(二)女性に対する暴力

 女性に対する暴力の問題が民間女性の草の根的な運動から始まったのは、七〇年代以降で、シェルターは七一年にその萌芽が見られる。そのため暴力問題への関心は早い時期から高く、七六年から八三年までの間に、ドメスティック・バイオレンス及び婚姻事件法等の四法律がドメスティック・バイオレンス対策特別法として成立、九六年には、これらを強化、統合した新法が制定されている。この法律では、裁判所は、暴力行為禁止命令と居住権命令の二つの差止め命令を出すことができ、緊急差止め命令も可能となっているほか、警察の逮捕権限も強化されている。

 民間の被害者援助組織であるビクティムサポートは、七四年に地方都市のブリストルに設立されたのが始まりで、警察との連携を図りつつ全国に組織を展開し、ボランティアによる事件直後の危機介入や各種の指導、助言、事件処理の進捗状況等に関する情報提供等の活動を行っており、政府からも多額の援助がなされている。

3 ノルウェー
(一)男女平等・政策決定過程への参画

 女性の政治参加が大きな課題となったのは、フェミニズムの影響を受け、女性運動が盛んになった六〇年代以降で、その結果、女性の社会進出は急激に進展し、七八年には男女平等法が制定されている。この法律は、数次の改正を経て強化されているが、八八年改正では、公的機関が四名以上からなる委員会等のメンバーを選任する際は、それぞれの性が四〇%以上選出されなければならないという形で、クオータ制が導入されている。

 九〇年代に至ると、特に公的部門を中心に女性の政策形成過程への参画は確固たるものとなり、現在、国会議員の三六%強、閣僚では十九名中の八名が女性となっている。九三年には育児休暇制度に四週間の父親割当制度が導入されたため、以前では二%程度であった父親の取得率は約八割にまで伸びている。

 フオッスム、ヴァッレ両議員との懇談では、女性の政治進出の発端について、七〇年代に高等教育を受けた女性が社会に出てそれを実践するために保育園の確保が問題となったが、当時の男性議員の関心は、橋であったりトンネルであったため、女性自身が、直接政治に参加する必要性を感じるようになった等の説明があった。

 児童家庭省との意見交換では、七〇年代の初頭より、両親の労働と家庭責任との調和が強調され両立が可能となった結果、働く女性の数と出生率の双方が増加しているが、まだまだチャレンジが必要との認識が示された。

 また、男女平等法の運用を監視するために男女平等オンブッドが設置され、同じく独立機関である男女平等センターは男女平等を推進するための機能を担っている。

(二)女性に対する暴力

 男女平等の進んだノルウェーにおいても、多くの女性が暴力や虐待のために医療機関に通ったり、シェルターに避難しているのが現状で、この問題が、十分社会的に認知されているとは言い難い状況にある。

 シェルターは、七六年の女性への犯罪を告発する国際会議を契機に七八年に発足しているが、これも、最初はボランティアベースであったものが、超党派の女性議員の取組により徐々に公的なものとなっている。

四 派遣委員の報告

 平成十二年二月十六日から十八日までの三日間、福岡県及び熊本県において、男女等共生社会に関する実情調査を行った。今回の委員派遣では、男女共同参画に対する取組状況を中心に調査を実施した。

 福岡県は、女性行政を総合的に推進するための庁内の横断的組織として「福岡県女性行政推進会議」を設置し、知事の助言機関として民間有識者からなる「福岡県女性政策懇話会」を設置するとともに、県の女性政策課には約四十名の兼務職員を配置し、女性関係行政推進のための企画連絡調整を行っている。また、平成十一年六月に施行された男女共同参画社会基本法に基づき、平成十二年度末を目途に、県の男女共同参画基本計画を策定する予定であり、現在そのための基礎資料として「男女共同参画社会に向けての意識調査」を実施するとともに、女性政策懇話会において、基本理念、方針及び推進体制等について審議を行っている。同県の女性副知事である稗田副知事との意見交換を行ったのち、調査会委員と県担当者との間で、審議会等委員への女性の登用を促進するための女性有識者データベースの内容、女性職員の採用と管理職への登用状況、女性起業家支援講座の実施状況、等について質疑がなされた。

 次に、福岡県大野城市役所において、市当局者から、男女共同参画に対する取組状況について説明を聴取した。

 大野城市は、平成五年に「大野城市女性計画」を策定し、男女の自立と共同参画のコミュニティ都市づくりの実現を目指して様々な事業を展開している。平成九年六月には市議会の決議により「男女共同参画都市」を宣言し、平成十年には総理府と共催で男女共同参画宣言都市事業を実施した。平成十一年度において、審議会等委員への女性の登用状況は、三二・九%となっており、目標である三〇%を既に達成し、今後の目標を四〇%としている。調査会委員と市担当者との間では、男女共同参画都市宣言を行った経緯、審議会等委員の女性の登用率について目標を早期に達成できた理由、市職員研修の効果、等について質疑がなされた。

 熊本県においては、県の総合計画の中で男女共同参画社会の形成を重要なテーマの一つとして掲げ、平成六年度には女性行政推進のための総合的指針である「ハーモニープランくまもと」を策定し、男女共同参画社会の実現に積極的に努めており、現在、平成十三年度からの新総合計画を策定中である。調査会委員と県担当者との間では、県職員の女性割合と管理職への登用状況、女性が働きやすい県である理由、等について質疑がなされた。

 続いて、平成十一年三月に全国で初めての民間出身の女性として副知事に就任された潮谷副知事との意見交換を行った。副知事からは、男女共同参画社会の形成に向け、人権に根ざした性別が関与しない社会を目指すことを基本的な考えとする必要があるとの認識が示された後、男女共同参画社会の形成や女性の政策決定過程への参画のためには、女性自身による状況の変革、家庭責任の男女の共同負担、女性の職業能力の向上、構造的・社会的慣習による男女間の不平等の克服が必要である、等の意見が述べられた。調査会委員と副知事との間では、インターネット整備の取組状況、審議会等委員に女性を登用する際の問題点、等について意見交換が行われた。

 また、熊本県内女性団体の代表者からその活動概況、女性の社会進出に必要な条件、等について説明を聴取した後、女性団体相互のネットワーク作りの必要性、男女共同参画に関する学校教育の必要性、地方議会に女性議員が増えたことによる変化、農家における家族経営協定の締結状況、等について意見交換を行った。

第III 女性の政策決定過程への参画についての提言

 我が国における女性の政策・方針決定過程への参画は、国際的に見ても公的分野、私的分野共に極めて遅れている。このような実情が早急に改善されなければ、真の意味で男女が共生する社会は実現されない。

 こうした観点から、本調査会は女性の政策決定過程への参画について、広範な論議を行い、問題点と課題を明らかにするよう努めてきた。

 これらの取組を経て、今回、本調査会として当面する課題について、次のとおり提言する。

一 女性のエンパワーメントのための環境整備

1 女性の自立

 女性の社会進出支援の観点から、雇用の分野における男女平等の実現及び女性労働者の能力発揮促進のための取組を積極的に進める等、あらゆる分野における施策の充実を図るとともに、職場生活と家庭生活との両立を支援する施策を一層拡充するため、保育所等の整備、各種子育て支援策の充実、男性も含め過度の長時間労働や深夜労働等が行われることのないよう、環境の整備に努める必要がある。

 特に農林水産業における女性の経営参画を促進するための取組を進める必要がある。

2 生涯にわたる女性の健康と権利

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)が保障されるよう総合的な施策の推進を図るとともに、出産・育児をしても社会的な地位や活動に影響が及ばないような施策の充実が必要である。

二 アファーマティブアクションの導入・強化

1 我が国における女性の政策・方針決定過程への参画は非常に遅れていることから、国、地方公共団体、政党、企業、教育・研究機関、各種団体等のそれぞれが、こうした状況を早急に改善するため、有効かつ適切な措置を講ずるよう努めるべきである。

2 国の審議会メンバーに占める女性比率については、男女共同参画推進本部が三〇%を目標としつつ、当面の目標を二〇%とし、平成十二年度末までのできるだけ早い時期にこれを達成するよう努めることとしている。平成十一年九月末現在で国の審議会に占める女性の割合は一九・八%であり、当面の目標はほぼ達成される見通しにあるが、今後は国際的な目標である三〇%を早急に実現するとともに、更に引き上げることについても検討すべきである。

3 我が国の国家公務員(行政職)に占める女性の比率は増加傾向にあるものの、いまだに二〇%にも満たない。特に女性の管理職職員は極めて少なく、女性職員の多くは下位級に集中している現状にある。女性の政策決定過程への進出を促進するため、幹部要員を含めた女性職員の採用に努めるとともに、積極的な登用を行うよう一層の配慮が必要である。

三 税制・社会保障制度の在り方の検討

 現行の税制・社会保障制度は世帯単位を前提としているため、女性の経済的自立を阻害する要因となっており、制度は個人のライフスタイルの選択に対して中立的であるべきであるとの指摘もあることから、配偶者控除・配偶者特別控除制度、国民年金の第三号被保険者制度等について幅広く検討を行う必要がある。

四 選挙制度についての検討

 女性が立候補しやすくするためには、比例区定数の拡大、戸別訪問の解禁、選挙運動期間の長期化等が必要であるとの指摘もあることから、こうした観点から選挙制度について検討を行う必要がある。

五 ジェンダー教育の充実

 我が国には家父長制などの影響を受けた男女の性別役割分担意識が根強く存在し、これが女性の政策決定過程への進出の遅れの大きな要因と考えられる。男女の意識を改革し、共生をより可能とするためには、男性の家庭責任についての啓発に努めるとともに、男女の育て分けをしないような家庭教育並びに学校及び社会におけるジェンダー教育の充実を図る必要がある。

六 ジェンダー統計の充実と情報の公開

 現在の我が国の統計においては、男女間格差の状況の把握や改善につながることを認識して作られたジェンダー統計は極めて少ないので、ジェンダーの視点を踏まえた統計の充実を図るとともに、情報公開の促進が必要である。

七 NGOとの連携

 NGOは政治や行政を含む様々な分野で国民・地域と密接な活動を行っており、この結果、女性の政策決定過程への進出に貢献しているという指摘もあるので、NGOとの協力・連携の方法を検討することが必要である。