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国際問題に関する調査会

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国際問題に関する調査報告(最終報告)(平成13年6月20日)

平成十三年六月

国際問題に関する調査報告(最終報告)

参議院国際問題に関する調査会

まえがき

本調査会は、第143回国会の平成10年8月31日に、国際問題に関し長期的かつ総合的な調査を行うため設置された。
 以来、本調査会は、3年間にわたる調査活動のテーマとして設定した「21世紀における世界と日本-我が国の果たすべき役割-」のもと、国連の今日的役割、新世紀の課題と国連、東アジアの安全保障(朝鮮半島情勢・中国情勢)、我が国外交の在り方などについて、参考人等からの意見聴取及び質疑、外務大臣からの報告及び質疑、国連大学等の視察及び関係者との意見交換などを行い、最後に、委員の意見表明及び委員間の自由討議を行って、鋭意調査を進めてきた。その間、平成11年8月3日に第1年目の調査結果を、平成12年5月26日に第2年目の調査結果を、それぞれ中間報告として取りまとめ、議長に提出した。
 本年は、本調査会が設置されて3年が経過する。これまでの諸調査を踏まえ、「21世紀における世界と日本-我が国の果たすべき役割-」について、国連の今日的役割、東アジアの安全保障及び我が国外交の在り方を中心に、それぞれ「主要論議」と「課題と提言」にまとめたので、調査の経過とともに報告する。

目次

一 調査の経過

第143回国会の平成10年8月31日に、国際問題に関し長期的かつ総合的な調査を行うため設置された本調査会は、3年間にわたる調査活動のテーマを「21世紀における世界と日本-我が国の果たすべき役割-」と決定し、調査項目としては、アジア及び世界の安全保障の確保、アジア経済及び世界経済の持続的発展の確保、国連の今日的役割、政府開発援助の在り方、我が国外交の在り方等について調査を進めることとした。
 第1年目の調査は、次のとおりである。

○平成10年9月25日
「国連の今日的役割」について、明石康参考人(広島平和研究所所長・前国際連合事務次長)から意見を聴取した後、質疑を行った。
○平成11年2月3日
「アジアの安全保障」について、岡崎久彦(博報堂岡崎研究所所長)及び船橋洋一(朝日新聞社編集委員)の両参考人から意見を聴取した後、質疑を行った。
○平成11年2月10日
「我が国外交の在り方」について、岡本行夫参考人(株式会社岡本アソシエイツ代表取締役)から意見を聴取した後、質疑を行った。
○平成11年4月21日
「朝鮮半島情勢」についてヤン・C・キム参考人(ジョージ・ワシントン大学政治学部教授)から、「コソボ問題」について柴宜弘参考人(東京大学大学院総合文化研究科教授)から、それぞれ意見を聴取した後、質疑を行った。
○平成11年6月4日
「朝鮮半島情勢」について、重村智計(毎日新聞社論説委員)及び辺真一(コリア・レポート編集長)の両参考人から意見を聴取した後、質疑を行った。

 このほか、平成10年10月8日には、金大中大韓民国大統領特別随員である大韓民国国会議員団と「北東アジアにおける安全保障及びアジアの経済危機」について意見交換を行い、平成10年10月19日には、第2回アフリカ開発会議参加首脳歓迎懇談会を行った。また、平成11年7月30日には、「東アジアにおける米国の安全保障政策」についてトーマス・S・フォーリー駐日米国大使から発言があった後、意見交換を行った。
 以上の1年目の調査を踏まえ、「アジアの安全保障」、「国連の今日的役割」、「コソボ問題」及び「日本外交の在り方」についての調査概要を中間報告として取りまとめ、平成11年8月3日に議決し、同日議長に提出した。

 第2年目は、今期調査活動のテーマの下、調査項目である「アジア及び世界の安全保障の確保」のうち、東アジアの安全保障(中国情勢・朝鮮半島情勢)について引き続き調査を進めるとともに、「国連の今日的役割」については、国連改革と国連の機能強化、国連及び国連諸機関を通じた我が国の貢献、国連とNGOとの関係などについて、多角的観点から重点的に調査を行うこととした。
 第2年目の調査は、次のとおりである。


○平成11年11月24日
東アジアにおける安全保障及び国連問題等に関する調査のため本調査会の理事を中心とした議員団が、第145回国会閉会後の平成11年9月28日から10月5日までの8日間、本院から米国及び大韓民国に派遣されたので、「東アジアにおける安全保障及び国連問題等」について派遣議員から報告を聴取し、委員間の意見交換を行った。
○平成12年2月14日
「国連による平和と安全の確保」について、功刀達朗(国際基督教大学大学院教授)及び大泉敬子(東京情報大学経営情報学部教授)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成12年2月21日
「国連をめぐる全般的問題と我が国の貢献」について、小和田恆参考人(財団法人日本国際問題研究所理事長)から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成12年2月23日
「国連財政及び国連機関の職員問題」について、田所昌幸(防衛大学校教授)及び伊勢桃代(前国際連合人材管理局部長)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成12年3月1日
「国連の経済・社会問題への取組」について、武者小路公秀参考人(フェリス女学院大学国際交流学部教授)から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成12年3月8日
国連大学及び在京の国連3機関(ユニセフ駐日事務所、国連広報センター、UNDP東京事務所)を視察し、ファン・ヒンケル国連大学学長をはじめ関係者と意見交換を行った。
○平成12年4月12日
「東アジアの安全保障」のうち中国情勢について、中江要介(元駐中国大使)及び国分良成(慶應義塾大学法学部教授)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成12年4月21日
「21世紀を迎える国連の将来と我が国の国連政策の在り方」について、横田洋三(東京大学大学院教授)、内田孟男(中央大学経済学部教授)及び藤田久一(神戸大学大学院教授)の3参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成12年5月12日
「国連の今日的役割」について、委員の意見表明を行った。

 以上の2年目の調査を踏まえ、「国連の今日的役割」及び「東アジアの安全保障」についての調査概要を中間報告として取りまとめ、平成12年5月26日に議決し、同日議長に提出した。

 平成12年9月に国連においてミレニアム総会及びミレニアム・サミットの開催が予定されていた。この時期に、本調査会が「国連の今日的役割」について多角的観点から重点的に調査を行ったのは、我が国の国連政策及び21世紀を迎える国連の現状と課題について議論を深めることが有意義であると認識したからであり、各会派間では「国連ミレニアム総会に向けて、本調査会の「提言」のとりまとめを目指す」ことが合意された(平成11年12月3日)。調査会長は、前記各会派間合意と2年目の「中間報告」を踏まえ、更に各般の検討を加えて、平成12年7月6日に「新世紀の国連に向けて(案)」と題する会長試案を各会派に提示したが、全会派一致の成案には至らなかった。そこで、国連ミレニアム総会に向けた本調査会の「提言」は見送ることとし、3年目に「国連の今日的役割」に関する議論を更に深めることとした。
 第3年目の調査は、次のとおりである。


○平成12年11月6日
「国連をめぐる最近の動向と我が国の対応」について、河野外務大臣から報告を聴取し、質疑を行った。
○平成12年11月15日
「経済・社会・文化分野における国連活動と専門機関の関係」について、大芝亮(一橋大学大学院法学研究科・法学部教授)、秋月弘子(亜細亜大学国際関係学部助教授)及び岡島貞一郎(同志社女子大学現代社会学部教授)の3参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成13年2月14日
「国連改革と我が国の対応」について、波多野敬雄(財団法人フォーリン・プレスセンター理事長)、原田勝広(日本経済新聞社編集委員)及び浅井基文(明治学院大学国際学部教授)の3参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成13年2月21日
「国連改革と我が国の対応」について、ラインハルト・ドリフテ(英国ニューカッスル大学教授)、川村亨夫(早稲田大学大学院教授)及び鈴木佑司(法政大学法学部教授)の3参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成13年2月26日
「新世紀の課題と国連」について、緒方貞子参考人(前国際連合難民高等弁務官)及び佐藤行雄政府参考人(特命全権大使国際連合日本政府代表部在勤)から意見等を聴取し、質疑を行った。
○平成13年3月5日
「東アジアの安全保障」について、高木誠一郎(防衛研究所第二研究部長)、中西寛(京都大学大学院法学研究科助教授)及び山岡邦彦(読売新聞社論説委員)の3参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成13年3月7日
「我が国外交の在り方」について、枝村純郎(株式会社大和総研顧問・住友商事株式会社顧問・元駐ロシア大使)、添谷芳秀(慶應義塾大学法学部教授)及び寺島実郎(株式会社三井物産戦略研究所所長)の3参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成13年4月18日
「国連の今日的役割」について、委員の意見表明及び委員間の意見交換を行った。
○平成13年5月23日
「東アジアの安全保障」及び「我が国外交の在り方」について、委員の意見表明及び委員間の意見交換を行った。

二 国連の今日的役割

 「国連の今日的役割」など国連を調査テーマにして参考人からの意見聴取及び質疑を行った調査会は計10回、出席いただいた有識者、研究者、ジャーナリストなど参考人の数は20名に及んだ。この間、国連大学等の視察及び関係者との意見交換を行い、外務大臣から「国連をめぐる最近の動向と我が国の対応」について報告を聴取して質疑を行い、さらに、国連大使からも説明を聴取し質疑を行った。
 昨年9月、国連本部においてミレニアム・サミット及びミレニアム総会が開催された。21世紀を迎えた本年は、国連が創設されて55年、我が国が国連に加盟して44年となる。
 本調査会が、世紀をまたいだこの時期に、国連を調査テーマに設定して、体系的かつ集中的な調査を行い、能動的かつ積極的な議論を行った意義は大きく、このような調査は、国会史上初めてのことである。その主な内容は、国連の理念、平和と安全の確保、経済・社会・文化分野での取組及び専門機関との関係、国連の機構及び財政、国連改革と我が国の対応など広範・多岐にわたった。
 調査の結果、冷戦終結後の世界で国連や国連機関が重要であること、国連改革に向けた加盟国の取組が求められていることなど基本的な点について、委員の認識はおおむね一致した。しかし、国連による平和と安全の確保の取組、国連安保理改革や我が国の安保理常任理事国入りの問題などについては、意見や認識の一致には至らなかった。
 本章では、「国連の今日的役割」など国連をめぐる主要な論議と委員の意見表明を「主要論議」に整理するとともに、これらを踏まえ「課題と提言」にまとめた。

1 主要論議

(一)国連の理念
(国連の在り方と我が国の国連外交)

 国連の役割について、委員から、国連憲章の精神に立ち戻るべきで、21世紀に人類から戦争をなくすことを真剣に考える必要があるとの意見、国連憲章の原則と目的を守ることが、とりわけ国際の平和と安全を守る上で肝要であるとの意見が述べられた。これに対し、参考人から、国連憲章は、国連が武力行使を行うことを完全には禁じておらず、明らかな侵略行為を武力行使で停止させることも、時により必要であるとの見解が示され、委員から、国際連盟の失敗の轍を踏まないために安保理や拒否権の仕組みがあり、国連の改革には国際的な秩序の確保について実効性のある担保的な手段が用意されるべきとの意見が述べられた。
 国連と他の国際機関や組織との関係をめぐって、委員から、G8のような組織やNATOのような機構が国連の権威を低下させていく傾向にあるのではないかとの指摘がなされ、地球環境や資源のように多面的な解決が必要な問題では、国連が世界の経済成長の枠組みを定めるようにならないと循環型の地球は維持できないとの意見が述べられた。
 我が国の国連外交について、委員から、日本が国際社会や国連の中で持つべき基本的価値観はアジアの価値観であるとの意見が述べられたのに対し、参考人からは、アジア的価値観が西欧の価値観と対抗するとの見方は余りに一般化された議論であり、共通の普遍性があるものを共通の価値観のベースに据えてこそ、国連における共通の価値観に基づいた公益の追求が可能になるとの見方が示された。
 委員から、我が国は、日米基軸、アジア中心、国連中心主義という従来からの3原則で外交を進めることがなかなか難しくなってきており、米国の国連回帰を促すことが必要であるとの認識が示され、米国の国益中心主義に基づく外交の現実を直視し、我が国が国連や国際機関を通じた国際協力を強く提案していくべきとの意見が述べられた。また、委員から、米国が国連を積極的に活用するよう、我が国は国連を中心とする米国の平和維持活動に積極的に協力し、米国重視と国連中心主義を両立させるべきであるとの意見が述べられたのに対し、自衛隊はPKOという名目で米国の行う軍事行動にかかわっていこうとしており、軍事力による国際貢献は憲法上認められないので反対であるとの意見も述べられた。
 委員から、日本は90年代に、PKO協力法を制定し、人間の安全保障を基軸とする国際協力を推進するなど、これまで不得手であった多国間外交や多国間協力への取組を遅まきながら強化し始めたとの意見が述べられたのに対し、参考人は、日本が20世紀最後の10年に行った努力を評価するものの、NGOの数や緊急事態に出動して働くことのできる陣容も少ないと指摘し、開発や紛争の現場に人が一層出てくれば、いろいろな形での貢献は更に生きてくるとの意見を述べた。

(二)国連による平和と安全の確保
(集団安全保障)

 国連が想定した集団安全保障は、東西冷戦により本来の機能を果たすことができなかった。参考人からは平和確保の主体としての国連は五大国の協調を基礎にしているとの見方、国際関係をつくり出す国々が相互に共同責任に基づいて協調していく時代に入ってきており、これが集団安全保障のエッセンスであるとの意見が示された。委員からは、集団的自衛権を規定する憲章51条に基づく安全保障体制にとどまらず、国連の本来の集団安全保障体制が効力を発揮するように努力すべきであるとの意見が述べられたのに対し、地域的取極を活用した紛争処理が現実的かつ効果的であるとの意見、安保理を含めて国連を改革するためには国際的な秩序の確保について実効性のある担保的な手段が用意されなければならないとの意見が述べられた。また、国連の集団安全保障メカニズムがその実効性を発揮し得るよう、特に安保理決議の履行の確保などに対して、我が国は引き続き可能な限りの協力を行うことが必要との意見が述べられた。
 また、委員から、軍事的な安全保障のみならず、環境、食糧、教育等の国民生活に直結する様々な問題について話し合う北東アジア総合安全保障機構を設置し、これを国連の傘の下で全世界に拡大すべきであるとの意見、北東アジア非核地帯条約を締結するべきとの意見、世界の各地域において、共通の市場、通貨、議会を有し、安全保障面での力を持つEUのような機構ができれば、一つの紛争解決策になるのではないかとの意見、紛争予防のための早期警戒策として、国連による紛争当事者からの意見聴取や人道被害を受けている者の個人通報制度も有用であるとの意見、国連待機軍を創設するべきとの意見、必要に応じて緊急対応部隊等の創設について検討すべきであるとの意見が述べられた。

(国連憲章と武力行使)

 NATO軍のユーゴ空爆について、参考人から、国連憲章に違反する行為であるとの意見が述べられた。参考人から、このことは単に法技術的な議論ではなく、国際社会における秩序の維持という見地から考えるべき問題であり、主権国家から成り立つ現在の国際社会の仕組みの現実と、今日のグローバルな社会における価値をいかに守るかという問題とが抵触したコソボの状況は、過渡期の大きなチャレンジであったとの見解が示され、委員からは、国連の授権がなかったとはいえ、人道的な配慮から民族浄化を食い止めるという国際情勢にかんがみ、米国のとった態度は誤っていないとの意見、米国主導で国連決議を得ずに軍事行動を起こすという国連軽視の動きをどう食い止めるかが大きな課題であり、拒否権を有する大国間の衝突の場合に国連はほとんど無力であるとの認識のもと、国連の安全保障における機能上の弱点を補うための外交的な努力が求められているとの意見が述べられた。
 これに対して、委員から、国連憲章の定めた平和のルール、50年余の国際社会の中で確認されてきた平和の秩序を守ることが肝要であるとの意見、他国への軍事介入は明白な国連憲章違反であるにもかかわらず、これを新たな国際法の形成途上にあるなどとしてあいまいにすることがあってはならないとの意見、国連からの授権を得ていない特定の国が紛争に介入することは憲章上許されず、国連の威信低下にもつながるとの意見、安保理の決定のもとに国連が介入した場合でも、一歩誤れば主権侵害になりかねないという意見が述べられた。

(軍縮と不拡散)

 軍縮と不拡散について、委員から、国際的な緊張のレベルを低下させるため、核不拡散・核軍縮に関する現実的かつ具体的な措置を積み重ねるとともに、生物・化学兵器の問題やミサイル等の運搬手段に関する問題、紛争の発生や激化を防ぐ観点から対人地雷や小火器の問題にも取り組むべきとの意見が述べられたのに対し、速やかな核兵器廃絶の誓約を求める新アジェンダ連合提出の決議の採択は、核拡散防止条約(NPT)再検討会議における核兵器全廃への明確な約束の表明ともあいまって、核兵器廃絶に向けた国際世論が高まったことを意味するとの認識が示された。
 また、委員から、国連の機構として、軍縮、特に核軍縮に取り組んでいくことが大切であり、国連に軍縮問題の理事会を設置すべきとの意見、米露によるSTARTIIやIIIなどの二国間交渉では核廃絶につながる可能性は低いので、国連の場で核軍縮を中心とした軍縮を進めるべきとの意見、国連による核の管理を行うべきとの意見が述べられた。

(国連の平和維持活動)

 国連の平和維持活動の本質について、参考人は、当事者の同意、活動の公正、自衛以外の武力の不行使のPKO3原則、すなわち「非暴力」が本質であり、これを積極的に国連のピースオペレーションズ(平和活動)の中に位置づけるべきとの見解を示した。
 また、委員から、国連の平和維持活動を冷戦終結後の紛争に適用する際の限界についての意見が求められた。参考人は、PKOは「非暴力」たり得ない状況には適用できないとの認識を示し、「非暴力」で対応できる局面では、国連がピースオペレーションズという大きな枠組みをつくり、紛争予防、平和的交渉、平和維持活動、ピースビルディング等を組み合わせて行動していくべきであるとの意見を述べた。
 PKOと地域機構との関係について、参考人から、人道的介入や強制力を持つ活動は、地域機構等との協力分担関係を持ち、ある種の政治的な合意がなされたときにPKO3原則による多機能型PKOを派遣するという役割分担が重要になるとの見解が示され、委員からは、人道問題が起こる場合の「超暴力」の役割を地域機構に丸投げするのではなく、国連の権威のもとで管理するべきではないかとの意見が述べられた。これに対し、参考人は、丸投げということではなく、国連が管理するシステムの中にNATOのような軍事同盟的なものも含む地域機構を組み込み、総合的なピースオペレーションズという形で再構築する必要があるということであり、それによって国連の権威失墜にも歯止めがかけられるとの所見を述べた。

(我が国のPKO活動への協力)

 我が国のPKO活動への協力について、委員から、今日、PKOの任務は軍事部門から行政部門まで拡大しており、また、国連平和活動検討パネルにおいて紛争後の平和解決を組み込んだ複合型のPKOがうたわれていることにかんがみ、我が国も可能な協力を行うべきであるとの意見、PKO協力法が制定されて既に8年余が経過し、これまでカンボジア、ゴラン高原、東チモールなどで着実に協力の実績を積み重ねてきたことやPKO協力は既に国民の幅広い理解と支持を得ていることを踏まえ、PKF本体業務の凍結解除や必要な法整備を早急に行い、PKO活動への人的貢献を一層強化し、人道支援、復興支援を引き続き行っていくべきであるとの意見が述べられた。
 これに対して、委員から、我が国がPKOのために軍事要員を海外に派遣することは日本国憲法との関係で問題があるため反対であり、派遣された要員が軍事的衝突にかかわることになれば、軍事的な解決のために際限なく自衛隊を派遣する危険性を持つものであるとして、国連の場において、協力できない分野を明確にしておくべきであるとの意見が述べられた。また、委員から、国益に関係しない場合の危険を伴う国連活動への参加について、いかに自国民に説明すべきかとの指摘がなされた。
 また、参考人から、我が国ではPKFという独立した概念がPKOと対立するかのような議論が行われているが、国連ではPKFという概念は存在しないとの指摘があった。

(人間の安全保障)

 紛争、貧困、難民、人権侵害、エイズ等の感染症など様々な問題への取組において、参考人から、国家の安全保障だけではなく、個々の人間の生存、生活、尊厳を確保するという観点から、人間を中心に考える人間の安全保障に着目し、国の利益も最終的には人間を守るためのものとの認識で動くようになってきているとの見方が示された。
また、委員からは、人間の安全保障の考え方はますます重要になっており、我が国はこれを外交の柱に据えるべきとの意見、我が国が国連に設けた人間の安全保障基金への拠出により、個々人に直接成果が行き渡る事業の実施支援を更に拡充強化していくべきとの意見、人間の安全保障を政策概念として整理し、各国の政策立案や実施に役立つ実際的な手段に発展させることが求められているとの意見、人間の安全保障は日本のユニークさをいかすことのできる政策概念であり、世界に通用するスタンダードをつくり、それを多国間外交でいかせれば国際社会をリードできるとの意見が述べられた。
 参考人からは、人間の安全保障の概念自体は明確でないが、国際安全保障と人間安全保障問題の概念は必ずしも対立するものではないとの認識、現在の傾向として人道的介入という言葉が使われているが、介入とはいえ軍事行動であり、軍事行動によって実現しようとする目的よりもそれによってもたらされる被害の方が大きいのではないかとの認識が示された。
 委員から、現在の国際秩序の中において、人間の安全保障の考えに基づく軍事介入は、まだ受け入れられる考え方ではなく、国家主権を尊重しつつも、包括的な非軍事的手段による紛争予防のより果敢な政策の実現が課題であるとの意見、民族・部族対立という問題を上手に解決していくために我が国及び国連並びにNGO等との連携は極めて具体的かつ重要な課題であるとの意見が述べられた。

(三)国連の経済・社会・文化分野での取組
(経済・社会・文化分野での国連活動)

 冷戦後の国連においては、国際協力、特に経済・社会分野での国際秩序の形成を進めていくことが必要であるが、環境破壊、内戦、難民の大量流出、エイズ等の感染症、資源・エネルギーの枯渇など国家間の地球規模問題への取組と協力を推進するためには、国連及び国連関係機関の果たす役割は大きいとの意見が述べられた。
 また、委員から、経済社会理事会(経社理)の実効性を高め、経済・社会・文化分野の国連改革の推進に今後一層努力していくべきであるとの意見、安保理と経社理の二つがより有効に連携し合い機能することが大切であるとの意見、経社理の実質的な機能強化のために、例えば、専門機関に対する予算、人事あるいは政策調整等の面で権限を持たせることが効果的ではないかとの意見が述べられた。さらに、委員から、経社理とNGOとの協議関係を強化していくことが重要であるとの意見が述べられた。
 国連システムにおける経済社会協力の調整については、委員から、開発関係の国連機関の間や本部と現地レベルでの調整を図り、国連とIMF・世銀やNGOとの間の連携を一層強化する必要があるとの認識が示された。参考人から、まず国連システムの加盟国がそれぞれの政策を調整するべきとの意見、国連及びブレトンウッズ機関で第2位の経済的貢献をしている我が国は、双方の政策の歩み寄りに努めるべきとの意見が述べられ、そのためには個々の国連機関を担当する国内行政の縦割りの政策を調整すべきとの意見が述べられた。

(グローバリゼーションへの対応)

 委員から、グローバル化に対応するため、安保理同様に拘束力を持つ決定を行える経済安全保障理事会をつくるべきではないかとの意見が述べられた。また、委員から、多国間のより効果的な援助調整と、資金あるいは技術の流れを確保するため、世界銀行・国際開発協会とUNDPの三つを統合し、新たに国連開発公社を設立すべきではないかとの意見、国連は地球環境を今後の最大課題として取り組み、世界の経済成長や経済活動をコントロールしなければ、人類や生物の存亡にかかわるとの意見、環境問題を扱う国連機関は既に幾つかあるが、環境の視点から「世界環境機構(WEO)」の設立が必要ではないかとの意見、クローン問題について生命倫理の観点から国際的な統一見解を国連の場でつくり出していくことが必要ではないかとの意見が述べられた。
 冷戦構造の崩壊以降、国際社会の中でグローバリゼーションが一層進み、一種の経済中心の合理主義が地球上を覆う中で、委員から、デファクトスタンダードに基づいて行われる競争に敗れた人に対するセーフティーネットの問題には国家が必要であるが、環境、福祉、人権などについて国連の役割は非常に大きいとの意見、IT(情報技術)の発達に伴うデジタル・デバイドについては、国連として取り組んでいくべき課題ではないかとの意見が述べられた。また、知的財産については、先進国が比較的独占する傾向があり、我が国としてリーダーシップの発揮の観点から南北格差を拡げない方向で考えていく必要があるとの意見が述べられた。

(人道支援)

 委員から、地域紛争の発生や天災地変による難民・避難民の発生など人道面での緊急事態への対応は重要な課題であり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などを中心とする取組を引き続き積極的に支援していくべきであるとの意見が述べられた。
 冷戦後、国内の紛争が増加したことやPKOが拡大し多様化したことに伴って、PKO要員や人道援助要員の死傷者数は増加してきた。参考人から、国連の仕事は現場にあり、職員の安全確保に関連する予算を強化するべきとの認識が示され、国連要員等安全条約の適用範囲の拡大、安全確保のためのセキュリティ・オフィサーの配置、通信手段の確保が必要であるとの意見が述べられた。

(文化の摩擦と対話)

 冷戦後の地域紛争多発の背景には、人種、宗教、文化の複雑な対立があり、グローバリゼーションの進行に伴い文化の摩擦が生じやすくなっており、文化の多様性への配慮が不可欠である。
 委員から、我が国は国連の文化面での取組を強化し支援する必要があるとの意見、文明間の対話という考えを我が国としても広めるべきであるとの意見、21世紀を異なった文化や文明が共存できる時代にするに当たって、自由や民主主義といった価値を共有し、それを欧米と異なった方法で実現してきた我が国の経験をいかして、アジアの声を代弁することや、アジアの国とともにアイデアを出すべきであるとの意見が述べられた。

(四)国連の機構及び財政
(国連総会の機能強化)

 国連総会の機能強化について、委員から、財政問題の解決等について総会で決定できることが重要であるとの意見、総会と安保理との関係について議論を深め具体的な提案をするべきであるとの意見、市民活動の活力を取り入れるため、NGOの意見をくみ上げられる組織にすべきとの意見が述べられた。
 市民社会の意見を総会に反映させるフォーラムとしての第二総会の設置について、委員から、第二総会の設置には賛同するが、総会の自己否定につながるのではないかとの意見、安保理が承認するかどうかも大きな課題であり、安保理改革や総会の機能強化を併せて行うことが不可欠ではないかとの意見が述べられた。これに対し、資格等の問題はあるが、市民参加によって国連は活性化するとの見方が示され、第二総会を設置し、そこで集約された意見を総会に反映させるべきであるとする意見が述べられた。また、委員から、一人一人の各国民衆が参加できる国連民衆フォーラムを創設すべきであるとの意見も述べられた。

(信託統治理事会)

 信託統治理事会については、廃止すべきとの意見が述べられる一方、同理事会の役割は事実上終わったが、自力で政府を構築できない事態も発生しており、破綻国家における国連暫定統治機構の活動を監視する機関として同理事会の模様替えをして対応してはどうかとの意見が述べられた。

(国連事務総長)

 委員から、国連の機能強化のために、安保理と総会との関係、事務総長の在り方について議論を深め、政府あるいは議会として具体的な提案をすべきであるとの意見が示された。

(旧敵国条項)

 国連憲章の旧敵国条項については、条項削除の手続の着手を求めた国連総会決議が1995年に採択され、次の国連憲章改正の際に関連部分を削除することについて合意が得られている。委員から、国際情勢の変化により時代にそぐわなくなった条項であり、本来であれば20世紀中に改正すべきものであったとの意見、次の憲章改正時に必ず改正するよう加盟各国に強力に訴えるべきとの意見が述べられた。これに対し、委員から、政府は第二次世界大戦の反省をしているとは思われず、旧敵国条項の削除には反対であるとの意見が述べられた。

(国連の財政)

 国連が幅広い活動を行っていく上で安定した財政基盤は不可欠であるが、加盟国による未払等により国連の財政は深刻な危機に瀕している。
 委員から、国連予算の効率化の推進が重要であり、安定した財政基盤確保には、まず主要国がその滞納を解消する努力を払うべきであるとの意見、米国に対し分担金の支払を説得していくべきとの意見が述べられた。また、委員から、外国為替取引に国際税を課すトービンタックスを含めた国連の財源確保の在り方について指摘があり、参考人から、国連の財政問題の解決に役立てようとするものではあるが、株式操作や為替レートの変化により利益を得る経済の仕組みを変えなくては、国連に財源が集まっても効果的に使えないとの意見が述べられた。
 我が国の通常予算分担金の支払について、委員から、我が国は通常予算分担金の支払という国連憲章上の義務を果たすとの立場であり、経済力に応じた公平な負担と権限に応じた公正な負担という二つの観点が重要であるとの意見、国連が我が国の国益に非常に重要であり更に利用すべきとの視点が出てくれば、分担金に対する消極的な考え方は払拭されるとの意見、日本の発言力と財政負担との均衡の観点及び我が国の最近の財政事情等から、国際機関への財政負担問題について積極的な国会論議が必要であるとの意見、分担金等を黙々と払うのではなく、国連に支出の削減を強く主張することで我が国の地位を高めるべきとの意見が述べられた。これに対し、参考人から、国会が予算審議のプロセスを通じて国連予算の問題を真剣に議論することは望ましいが、国連憲章の義務違反となる分担金の不払によって国連に圧力をかけるのは日本のとるべき道ではなく、冷戦時代に定められた途上国割引制度のような仕組みの再検討が必要であるとの意見、国際公共財たる国際機関を維持していくことは先進国の責任であり、仮に選択的な関与をするにも個々の機関の活動を調査・分析することが前提であるとの意見が述べられた。

(五)安保理改革と我が国の対応

 国連は、国際社会の課題の解決を求めて各国が共同作業を行う場であり、安保理はその中で国際の平和と安全を守る中心的役割を担っている。紛争、貧困と開発など21世紀の国際社会が直面する様々な課題への取組において、国連が主要な役割を果たすには、安保理の構成は、国際社会の政治的・経済的な勢力関係が大きく変化している現実を十分には反映していない。また、冷戦後の国際社会における紛争の性格や形態の変化により、伝統的な安全保障の分野のみならず、人道、開発等の分野でも安保理の重要性が高まっており、軍事面のほか経済・社会分野で貢献できる国の役割が増大している。こうした状況を背景に、特に冷戦後、国連で安保理改革の議論が続けられている。
 参考人から、最近は、安全保障を論ずるにはその背後にあるすべての問題の論議が必要であり、国連が扱うすべての問題が安保理で討議されているとの認識、国連難民高等弁務官が安保理への出席を頻繁に求められるなど安保理は国内紛争に対処せざるを得なくなっているとの認識が示された。これに対し、参考人から、複雑かつ多様な国際問題を、安保理で無理やり国際の平和と安全として議論することは安保理の本来の機能をゆがめるとの意見が述べられた。
 また、参考人から、安保理の改革は、その実効性と正統性を高めるものでなければならないとの認識が示され、委員から、我が国は、安保理改革の実現に向け積極的に働きかけていくべきとの認識が示される一方で、21世紀の国連が第二次世界大戦の結果から脱し新たに出発することが安保理改革に必須の要件であるとの意見が述べられた。
 冷戦が終結した今日の五大国の拒否権の在り方について、参考人から、実際には常任理事国といえども拒否権を簡単には行使できないが、拒否権の存在によって手続がゆがめられる事実は残っているとの認識、委員からは、常任理事国による拒否権の行使を制限する方向に進める努力が必要であるとの認識が示された。
 我が国の常任理事国入りについて、委員から、我が国は常任理事国になるべきであり、あらゆる外交の場をとらえて常任理事国入りの意思を明確に表明すべきであるとの意見、常任理事国入りを国連外交の中で最優先すべきとの意見が述べられたのに対し、常任理事国入りを求めるのは自然と考えるが国連活動の最重要課題とせず中長期的な戦略とすべきとの意見、常任理事国入りには反対であるとの意見が述べられた。
 また、委員から、国連に多大な貢献をしてきた我が国がその責務に合った国際社会の期待にこたえるには、国際の平和と安全に能動的かつ積極的に取り組める地位を与えられるべきとの意見、我が国は貿易や資源の面で世界中の国々とかかわりを持ち、各地で多発する紛争の影響を直接間接に受けているとの認識、北東アジアの多国間安保など我が国周辺の国際安全保障に対しても常任理事国の地位を得て発言することはその議論に重みを増し国益を守る上で望ましいとの認識が示された。
 常任理事国入りと国連の軍事行動について、委員から、常任理事国入りによって日本が国連の軍事力行使の指揮に責任を負うことは憲法の平和原則に反するとの意見、湾岸戦争のような事態が再び起きたとき日本が軍事的貢献を求められる可能性もあるとの意見が述べられたのに対し、すべてのPKOに参加する必要はなく、物資補給や医療など戦闘にかかわらない分野でできる限りのことをするということも可能であるとの意見が述べられた。
 常任理事国入りの姿勢について、委員から、常任理事国は、推されて受け身でなるものではなく国益にのっとり自らかち取るべきものとの意見、常任理事国入りの意思を明示しなくては日本外交の顔は見えないとの意見が述べられた。これに対して、委員から、我が国の常任理事国入りを当然と考えるが、官僚主導の偏った常任理事国入り運動が国のイメージを悪くしており、開かれた国連づくりや拒否権をなくす運動を着実に行っていくべきとの意見、慎重な対応が必要であり、またアジア太平洋地域を代表する立場からこれら諸国の合意を得ることが前提であるとの意見が述べられるとともに、世界から推されて平和な国の日本という形で自然に入っていくことが今後の活動のためにも極めて大切であるとの意見、自然体で尊敬される国になるべきで、援助をちらつかせ工作に走るべきでないとの意見も述べられた。
 我が国の常任理事国入りが国連や国際社会に何をもたらすかについて、委員から、非核3原則を国是とし、戦争をしないことを明言している我が国が、国連の中枢部で平和、軍縮・核不拡散を議論することで核廃絶の達成に寄与することができるとの意見、第二次世界大戦の戦勝国以外の国が加わることが安保理の正統性を高め、21世紀にふさわしい国連をつくることができるとの意見、紛争の防止や紛争原因の除去への取組の中で、人間の安全保障を外交の柱とする日本の果たせる役割は大きいとの意見、グローバリゼーションの過程で生ずる問題に対処するため、NGOも交えた国連改革の論議を進める上で、南と北の双方の期待を背負う我が国が果たせる役割は大きいとの意見、アジア諸国の立場を安保理に反映させることができるとの意見が述べられた。これに対して、委員から、米国の戦略や行動に確固たる自主的な態度や行動がとれない我が国の常任理事国入りには疑問を持つとの意見が述べられ、日本は本当にアジアの代表になれるのかとの疑問が示された。また、常任理事国入りにより米国追従の判断はできなくなるとの認識も示された。
国連の安保理改革作業部会での議論が始まって7年余りが経つが、委員から、常任理事国入りに向けた今後の取組について、国連創設60周年に当たる2005年を目標に改めて具体的な戦略の詰めを行うべきとの意見が述べられた。また、常任理事国たるにふさわしい実績をつくるとの観点から、2002年の非常任理事国選挙には立候補するよう政府に求めるとの意見が述べられた。

2 課題と提言

1 新世紀の国連の課題と我が国の役割

 冷戦の終結は平和の時代の到来を期待させたが、民族、宗教等に起因する国内あるいは国家間や地域の紛争が多発し、多くの難民・避難民が発生し、また、地球環境の悪化、大規模自然災害の発生、ヒト・モノ・カネ等の不法な移動などの国際犯罪、テロ、感染症の蔓延、人権抑圧など、21世紀を迎えた国際社会は、従来の国家単位の枠組みでは対処できない様々な問題に直面している。さらに、最近の情報通信技術の飛躍的進歩等によるグローバリゼーションの加速は、貿易・投資など国境を超えた経済活動を増大させ、世界的規模での経済の効率化を進め、異なる文化間の交流を促進するなど、全体として豊かさをもたらす一方で、その恩恵の配分が均等でない結果、貧富の差を拡大し、社会や文化の多様性に影響を及ぼす例もあるなど深刻な問題も生んでいる。
 このような問題への取組に国連やその関連機関は欠くことのできない存在であるが、国連が冷戦後の国際環境の変化や新世紀の課題に対応し得る機構となるためには、その現状を検証し、改革や行動を果敢に行うことが必要であり、国連に集う189の加盟国によるたゆまざる努力が求められている。そのような中にあって、我が国は、国連憲章に基づく平和と安全の確保を主要な任務とする普遍的国際機構である国連の意義や目的を改めて確認した上で、2000年9月に採択された「ミレニアム宣言」に沿って、新世紀における国連の改革と機能強化に、可能な限りのあらゆる貢献と努力を行い、国際社会における役割を果たすべきである。

2 我が国の国連外交

 国連が新世紀の諸課題に適切に対処することは、自国の繁栄の基盤を世界に依存する我が国にとって極めて重要であり、また、普遍的国際機構である国連は外交の場としての有用性が極めて高い。これまで我が国は、国連大学、国連の行財政改革のための賢人会議、アフリカ開発会議における包括的開発アプローチ、人間の安全保障の考え方に基づく取組などにイニシアティブをとってきたが、国連に対するアイデアなどの概念的貢献はまだまだ不十分である。21世紀の国際社会が直面する問題の解決のためには、資金や人だけでなく、政策形成や実行手段における新しいアイデアが必要とされる。そこで我が国は、これまで必ずしも十分でなかったルールセッティングやアジェンダセッティングを含む知的イニシアティブの能力を高め、そのアイデアによる提案や具体的行動を通じて加盟各国を動かし、我が国の国連中心外交を更に実のあるものにするよう努めるべきである。

3 人間の安全保障

 21世紀を迎えた国際社会は、貧困、環境破壊、薬物、国際組織犯罪、エイズ・結核・マラリア等の感染症、難民・避難民の増加、対人地雷など様々な問題に直面している。また、女性や児童などの社会的弱者や少数者の権利と生活が十分に確保され、尊重される状況には至っていない。そこで、こうした問題への取組において、個々の人間の生存、生活、尊厳を確保するという観点から、人間一人一人を中心に置く「人間の安全保障」という考え方がますます重要になっている。
 我が国は、21世紀を人間中心の世紀にするため人間の安全保障を外交の柱に据え、国連に設けた人間の安全保障基金への拠出及びそれに基づく事業の実施支援に力を注いでいるが、先進国間で、また先進国と途上国間で人間の安全保障に関する認識に差違が認められ、共通の認識が十分に得られていない状況にある。
 このため、我が国は、人間の安全保障委員会での論議の活性化や人間の安全保障に関する研究機関の設立などを通じて、人間の安全保障の政策概念を整理し、世界に通用する基準をつくり出すとともに、国家主権を尊重しつつ、紛争の予防や解決のため、国連や各国、さらにNGO等に代表される市民社会との間の建設的なパートナーシップを構築するなどの取組を更に拡充強化すべきである。

4 国連と市民社会との連携

 国連の活動には、加盟国政府だけでなく、NGO、職能団体、専門家集団、企業、自治体など市民社会との協力・連携がますます重要になっており、経済・社会分野における政策実施面を中心に築かれてきた国連と市民社会との協力関係を、国連のより多くの分野での政策決定、実施、フォローアップにまで広げ、市民社会の参加プロセスを一層恒常的なものにし、新しいパートナーシップを形成すべきである。
 我が国の国連外交においても、このような認識に立って、NGOなど市民社会の動向を政策形成に反映させるよう努めるとともに、NGO等の市民社会による政策形成への参画の在り方についての検討を深めるべきである。

5 平和と開発への取組

 冷戦終結後、紛争の性格は大きく変化してきており、広い形で平和や安全の問題を考えることにより、永続する平和を地域や社会の中に創り出すことが課題になっているが、国連はそうした課題に必ずしも有効に対処できていない。紛争の予防から平和維持・平和構築、さらには貧困など紛争の潜在的要因の除去、紛争の解決までの各段階に応じた対応が必要であり、平和と開発とのリンケージや地域の実情に応じた対応が必要である。
 このため、ODAは、貧困の軽減や飢餓の解消、社会集団間の不平等の解消や対立の緩和など紛争の原因の除去に役立てるべきであり、そのための幅広い対話や協議を行う必要がある。また、紛争後の平和構築においては、緊急人道援助から長期的な開発援助までの空白を解消し、紛争の再発を防止するため、国際支援を途切れなく行うべきである。この観点から、紛争後の平和構築を組み込んだ国連の活動には、我が国も可能な協力を行うべきである。さらに、内戦等によって、お互いに恐れや恨みを抱く人々が共に生きられるよう、共生の基盤づくりが求められているが、こうした取組には国際社会の息の長い支援が必要であり、我が国は、UNHCRの共生プロジェクトなどに幅広い支援を継続すべきである。

6 国連の人的基盤の強化と日本人職員

 国連がその任務を遂行するには、国連事務局の人的基盤の強化が不可欠であり、総会決議で採用と昇進等に関する客観的な評価基準を定めるなど、総合的かつ明確な人事政策の確立が必要である。
 国連事務局には、2000年末現在、110名の日本人職員が勤務しているが、通常予算分担率その他の条件を加味した「望ましい職員数」の下限である257名の半分にも満たない状況にあり、しかも、政策決定にかかわることのできるP5(課長職)以上の職員のうち日本人は16名と、その3%に過ぎず、日本人職員の増加に加えて政策決定に参画できるポストの獲得が課題である。このことは国連関連機関についても同様である。
 日本人職員の採用や採用後の昇進について、国連代表部を先頭に政府全体での取組を更に強化するとともに、政府及び民間部門(大学院・研究機関・企業及び経済団体)が協力して、国際機関で活躍できる人材の養成と発掘に計画的に取り組むことが必要であり、特に、国際機関で通用する経営管理の考え方の習得、指導力やコミュニケーション能力の向上、英語力の強化や英語教育の抜本的改革が求められている。

7 国連関連情報の国民への提供

 政府は、多国間外交の場である国連の重要性にかんがみ、1970年代半ばまでは「国連情報」や「国連時報」のような刊行物を通じて国連の主要な課題や我が国の国連外交に関する情報を提供していた。現在、その種の刊行物は発行されておらず、国連及び国連関連情報へのアクセスは、国連のホームページや公式会合議事録、外務省のホームページや同省の刊行物「国連総会の事業」などによって可能ではあるが、最近におけるNGOなど市民社会の国連に対する関心の高まりにかんがみれば、国連や我が国の国連外交に関する情報の提供としては必ずしも十分とは言えない状況にある。
政府は、国連外交に対する考え方、国連における我が国の提案や総会での投票行動、それらに対する他国の反応など国連における外交活動に関連する情報を、インターネット等を通じて広く国民に提供し、今後重要性を増す多国間外交の中核である国連に対する国民の理解を深める情報提供に努めるべきである。そのために必要な広報予算等の拡充を図るべきである。

8 国際機関等への拠出と国会の関与

 国連をはじめとする国際機関や基金等に対する我が国の拠出金・分担金・出資金の歳出総額は、平成10年度に3588億円に上っているが、これら拠出金等と国際機関や基金等が行う事業(特に政策決定や新規プロジェクト)との関係について、政府全体として注意と関心を払い、我が国の政策全体との整合性をとり、政策的な評価を行って、国民に対する説明責任の向上を図る体制は必ずしも十分とは言えない。
 政府は、国際機関や基金等への資金提供に当たって、我が国の政策との整合性の観点から関連する情報の一元的把握に努め、拠出等の必要性や事業実施の状況等について、国民や国会への情報開示を積極的に行うとともに、国会の関係委員会においても、所管事項の審査及び調査を進める中でこれらの問題について関心を強めることにより、納税者である国民への説明責任を果たすべきである。

9 国連総会への国会議員団の派遣

 毎年9月に開会される国連総会には、政府代表団のみならず、各国の国会議員や各種NGOが国連本部を訪れて、国連総会等を傍聴し、諸外国の政府代表や国会議員、国連関係者、他のNGOとの意見交換を行っているが、そこに日本の国会議員の姿は極めて少ない。
 国民の代表である国会議員が、国政の立場から国連外交の現状を視察し、国連関係者、各国の政府代表や国会議員、国際的NGO関係者などと積極的に意見交換を行うことは、国連中心の我が国外交にとっても有意義であると考えられるので、国連総会開催時に超党派の国会議員を派遣する方策について、関係各機関での検討を要望する。

10 ユネスコ

 東西冷戦終結後、民族、宗教、文化等の違いに根ざした複雑な対立や地域紛争が頻発する中で、多様な文化や価値観に配慮し、共生することのできる世界を目指していくため、教育、科学、文化等の分野での国際協力に携わるユネスコの役割はますます重要となってきている。
 このため、我が国は、ユネスコに対し財政・人材面での一層の役割を果たすとともに、共通の人類益となるようなユネスコの事業をより有意義に展開していくための知恵を提示し、国家・地域間の相互理解が促進されるよう積極的なイニシアティブの発揮に努めるべきである。また、我が国は、1984年以来ユネスコから脱退している米国に対し、あらゆる機会をとらえて、その復帰を促すべきである。

11 国連大学等の活性化

 国連大学は、国連システムの中で果たすべき役割と責任を明確にして、その地位の向上を図り、国連の「知」の担い手として、21世紀には文明間の対話促進に貢献し得る機関への発展を目指すべきである。そのためには、次世代の若い研究者や大学院生の力を得て研究と教育の両面から活性化を図るとともに、本部と世界各地の八つの研究・研修センターの活動との連携を一層深め、また、国連の諸機関や世界各国の大学・研究機関との連携・協力関係を更に密接にし、そのネットワークを拡充すべきである。その際、国連大学憲章の改正の必要性の有無についても検討するとともに、その財政基盤の強化に、日本はもとより加盟各国が協力すべきである。
 国連大学の存在意義と活動状況を日本国民に周知する活動を強化する必要があり、国連大学をはじめ国連諸機関の駐日事務所では、各機関の性格に配慮しつつ、研究者、市民、自治体、企業などからのアクセスを容易にする施策を進めるべきである。このことは、国連広報センターについて特に望まれる。

12 難民等に対する支援の強化

 冷戦終結後、地域・民族紛争が多発し、しかも、その多くは国内の紛争であるなど紛争の形態が変化している。これに伴い、難民等の数は2600万人まで急増し、2000年末でも2200万人に上っており、国内で難民化した人々も増加している。UNHCRは難民問題に包括的に取り組む唯一の国連機関としてその任務を遂行しているが、新世紀の国連にとって、難民問題への取組とその改善は重要かつ喫緊の課題である。
 我が国は、難民等に対する人道支援を国際貢献の重要な柱に位置付けており、国民レベルでも難民問題への貢献とUNHCRへの協力を継続し、強化すべきである。難民の半数近くは18歳以下の子供たちであり、UNHCRに新設された難民の中等教育のための「難民教育基金」への協力もその一つである。

13 沖縄への国連機関の誘致

 アジア・太平洋地域における国連の地域活動の実効性を高めるとともに、国連の政策決定にアジアや日本の視点を反映させるため、国連側のニーズ及びバンコクのアジア・太平洋経済社会委員会の活動との競合に配慮しつつ、この地域の中心に近い沖縄に国連機関の事務所を設置することの検討を提唱する。新設の事務所では、将来的には、環境、開発、人権、軍縮・不拡散などの問題にも取り組み、沖縄が「国連シティ」として発展することを期待している。

三 東アジアの安全保障

 本章では、朝鮮半島情勢など「東アジアの安全保障」をテーマにした5回の調査会に加えて、3年間に議論されたアジアや我が国の安全保障に関する論議と委員の意見表明を「主要論議」に整理するとともに、これらを踏まえ「課題と提言」にまとめた。

1 主要論議

(一)東アジアの安全保障環境

 東アジアは、日本の平和と安定そして繁栄にとって極めて重要な地域であるが、政治経済情勢は必ずしも安定せず、常に将来への期待と不安が交錯している地域でもある。この地域の安全保障で最も懸念される問題は、南北が対立する朝鮮半島情勢及び台湾との関係を含む中国情勢である。また、分離主義の台頭などにより不安定さを増すインドネシア情勢にも見られるように、東アジアは、民族、宗教、領土など固有の様々な不安定要因を抱えている。
 委員から、東アジアには、NATOや欧州安全保障協力機構(OSCE)のような集団安全保障のメカニズムが存在しないが、そのメカニズムが成立しにくい根本的な原因は、アジアの多様性にあるとの見方が示された。参考人からは、アジアにOSCEのようなものができればよいが、中国が台湾の武力解放を言っている限りは不可能との見解、アジアでは信頼醸成や集団安全保障の環境が十分に整っていないとの見解が示された。
 また、委員から、北東アジアに関しては、南北朝鮮の対峙、中台間の対立、ロシアの動向という要素に、唯一の超大国である米国の国益に基づく東アジア戦略が強く作用しているとの意見が示された。参考人からは、朝鮮半島と中台関係の二つの問題は冷戦の産物であるが、冷戦の終えんは問題を複雑化こそすれ、問題の解決を容易にするものではないとの見解が示された。

(二)朝鮮半島情勢

 朝鮮半島においては、98年から99年にかけて、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の弾道ミサイルの発射や核施設疑惑などにより緊張が高まったが、その一方で、北朝鮮は次第に積極的な外交活動を展開するようになった。昨年6月、初めての南北首脳会談が実現し、南北和解が大きく進展した。しかし、その後の南北間の和解と交流に向けた動きは足踏みの様相を見せている。また、本年1月に誕生した米国のブッシュ新政権は、対北朝鮮政策の見直しを行っている。

(1)北朝鮮の外交・内政

 北朝鮮の外交について、委員から、朝鮮半島で長年続いてきた対立構造が短期間に平和と安定の構造へ転換するという性急な期待を抱くことはできず、その先行きはいまだ不透明との意見、北朝鮮は依然として軍事力による瀬戸際外交という手法を本質的には変えていないとの意見が述べられた。参考人からは、北朝鮮は自国の体制の脆弱性を強く認識し、現体制の保障と生き残りを図る瀬戸際外交を続けているが、これまでの交渉過程で見られたような前向きな約束を取りつけつつ、南北の平和共存による朝鮮半島の平和定着という最終的な望ましいゴールに向けて更に努力していく必要があるとの見解が示された。
 北朝鮮の政治体制について、委員から、北朝鮮は民衆の力で政権が倒れる国ではなく、危機的な経済状況も以前からのものであるため当分は崩壊しないとの意見、北朝鮮が多くの国と国交を回復し交流を進めていくと体制崩壊の可能性が高まるのではないかとの意見が述べられた。参考人からは、周辺国はいずれも北朝鮮の崩壊を望んでおらず、国内的にも金正日総書記に対抗する勢力がないため、北朝鮮の現体制は当分継続するだろうとの見解、経済の回復や成長により社会的動因が生じたとき、体制崩壊の一つの重要な素地ができるとの見解が示された。

(2)南北関係

 委員から、金大中韓国大統領の「太陽政策」などにより、南北首脳会談が実現したとの認識が示されるとともに、「太陽政策」を支持するとの意見が述べられた。
 北朝鮮が南北和解に前向きな姿勢を示す一方で、ミサイルの配備は継続していると見られ、委員から、南北の和解は本物ではないのではないかとの懸念が示された。参考人からは、首脳会談以降、朝鮮半島の和解の潮流は起きているが、軍事的緊張緩和が進んでいないために和解と交流に向けたプロセスは依然もろさを内包しており、朝鮮半島に恒久的な平和を定着させるには、朝鮮休戦協定に代わる取決めが必要であるとの見解、今回の南北和解の波は過去3回の波とは違い、首脳が署名した文書を発表していることから、若干の停滞はあってもしばらくは続いていくだろうとの見解が示された。

(3)米朝関係

 米国のブッシュ新政権の対北朝鮮政策について、委員から、クリントン政権とは異なり若干強硬な姿勢を見せており、日本の対北朝鮮政策に変化を求めてくることもあり得るとの意見、ペリー報告の扱いなどが前政権と異なるものになりつつあることは様々な影響を与えているとの意見が述べられた。参考人からは、ブッシュ政権はクリントン政権の基本路線を否定はしないが、実質的な意味での安全保障上の変化が見られない限りは早急に動くことはないとの姿勢を示していると理解でき、北朝鮮に対し「太陽政策」をとる韓国との関係が問題になるとの見解が示された。
 また、日米韓三国の政策調整について、参考人から、米国では新政権の下で北朝鮮政策の再検討が行われているが、韓国では南北首脳会談以後の南北交流を踏まえた国内の調整が必要になっており、日本では日朝国交正常化交渉が停滞し日朝関係を再構築する必要が生じているので、3か国の調整作業も再構築すべきであるとの見解が示された。委員からは、日米韓三国の共同歩調は北朝鮮のより開かれた外交姿勢を生み出した最も大きなファクターであり、ブッシュ政権が日韓両国との同盟重視を鮮明にしていることは3か国の連携を深めていく好機となるが、それぞれ二国間の関係に難しい問題があるため、3か国の連携は試練を迎えるのではないかとの意見が述べられた。これに対し、参考人は、北朝鮮あるいは北東アジアの将来について望ましい共通の政策目標を設定し、そのために必要な手段や政策を繰り返し協議していく姿勢が重要であるとの見解を示した。

(4)日朝関係

 我が国の対北朝鮮政策について、委員から、「太陽政策」と「北風政策」との二者択一ではなく、その中間で柔軟かつ具体的なドクトリンをつくっておくことが必要との意見、基本的には「対話と抑止」のスタンスをとってきたが、日本独自の抑止のシステムを有しているとは言えないとの意見が述べられた。
 日朝関係について、委員から、ペリー報告を作成した米国、「太陽政策」を打ち出した韓国と比べて、日本は後れた側面があり、現在停滞している日朝国交正常化交渉を前進させることが求められているとの意見、北朝鮮との早期和解と友好政策を推し進めるべきであるとの意見が述べられた。参考人は、日朝国交正常化には、[1]地域の安定と繁栄への貢献、[2]北朝鮮における対日感情の好転、[3]過去の清算、の三つの意味があるとの認識を示した上で、日朝国交正常化は、欧州諸国等と北朝鮮との国交正常化とは全く異なり、相当の経済協力が伴うという側面があることに加え、日本としては軍事的脅威を残したまま国交を正常化することはできず、日本が立ち後れているとは思わないとの見解、日本は正常化のメリットを真剣に考え、北朝鮮にとって日本との関係を深めていくことがプラスになるという側面を強調することが重要であるとの見解を示した。
 また、委員から、日朝間の大きな課題は、ミサイルの開発・配備の問題と日本人拉致問題であるとの認識が示された。ミサイル問題について、参考人は、北朝鮮が日本に届くミサイルを保有した場合には国交正常化はしないとの外交方針を明確に伝えるべきとの見解を示した。拉致問題について、これまでに日本政府は、北朝鮮による拉致の疑いのある日本人の数は7件10人と判断していると国会に報告している。参考人は、この問題を残したまま日朝国交正常化はできず、その問題の解決を強く北朝鮮に主張し続けることが重要であるとの見解を示した。委員からは、交渉の入り口に困難な問題を置いて、これが解決しなければ対話に進まないとの手法はとらない方がよいとの意見、いわゆる拉致疑惑について、政府は直接の証拠がないことを認めており、捜査の到達点の現状に立って、それにふさわしい交渉による解決が必要との意見が述べられた。

(三)中国をめぐる情勢

 中国は、近年、経済成長に伴い、軍事力の近代化を進めている。また、国内的には、WTO加盟への期待が高まる一方、国内企業の倒産、失業者の一時的増大というデメリットの克服という課題を抱えている。加えて、昨年3月、台湾独立を唱える民進党の陳水扁氏が総統選挙に勝利する前後に、中国首脳が「武力行使も辞さぬ」との発言を行い、また、米国のブッシュ新政権は中国を戦略的パートナーではなく競争相手とする見方を表明している。

(1)中国の動向

 今後の中国について、委員から、経済発展が更に進むと、アジアにおける中国の存在感はますます大きくなるとの見方、中国の台頭によって、周辺諸国に対する影響力は非常に大きくなってくるとの見方が示された。参考人からは、将来の中国について考えるばかりではなく、今日の中国との付き合い方を真剣に考えることが10年後の中国と付き合うことにつながってくるとの見解が示された。
 中国の国内事情について、委員から、中国はWTO加盟を目指し世界経済に積極的に参加する意思を示しており、改革開放政策を推進し、国際環境の安定を志向するものと期待されるが、これに伴う失業問題の深刻化や一党支配に根ざす腐敗の構造化など深刻な国内問題を抱えているとの認識、中国の社会主義市場経済は巧妙な手法だが、それも限界に近づき、民主化や改革が必要になっているとの見方が示された。これに対して、参考人から、ある種の閉塞状況が中国国内で広がってきているが、WTO加盟を突破口にして経済や政治の分野でも変化していき、透明性の増した社会に移行することを待つほかないとの見解が示された。

(2)米中・日中関係

 委員から、東アジアの安全保障を決定づけるのは米中関係であり、今後の米中関係は、「協力と競争」が混在する形となろうとの見方が示された。ブッシュ政権の対中政策については、冷戦の再来と思わせるほど強硬路線をとり始めているとの見方、コンテインメント(封じ込め)とエンゲージメント(関与)とを合わせたコンゲージメント(封じ込め及び関与)政策をとり、競争的共存関係を求めてくるだろうとの見方が示された。これに対して、参考人は、ブッシュ大統領は、クリントン政権の対中政策を変えたと一部では理解されているが、経済的には中国を重要な存在であるとし、その意味では変えていないとも言えるとの見方を示した上で、米国は、中国を[1]核保有国、[2]兵器拡散国、[3]台湾との関係、の三つの点で脅威として強調する側面があるのは確かであるとの所見を述べた。
 日中関係について、参考人から、中国は日本に対して、政治的には過去の問題を中心に抑え込み、安全保障上はできるだけ小さな脅威にし、経済的には日本から最大限の利益を得るという政策をとり続けるだろうが、日本はそれに反発するのではなく、日本自身の戦略を持つことが必要であるとの見解、中国が国際的なルールを守り、世界の潮流である民主主義の方向へ進むことを支援していくことが日中関係改善のための最大のポイントであるとの見解が示された。
 また、日米中3か国の関係について、委員から、米中関係を良好に保つために日本は、日中友好と日米同盟の強化が矛盾しないことを踏まえ、米中間の「橋渡し役」「調整者役」を果たすべきとの意見、正三角形の「日米中トライアングル」を目指し、まず民間レベルでの協力(セカンドトラック)を進め、次第に政府レベルでの協力(ファーストトラック)に強化していくべきであるとの意見が示された。これに関し、参考人からは、日米には同盟関係があるため、日米中3か国の関係が正三角形であるとの見方には賛成できず、中国との関係強化はそのことを踏まえ模索すべきであるとの見解が示された。

(3)台湾問題

 委員から、中国と台湾との間の緊張関係が、今後のアジアの行方、そして日米を含めた関連諸国に、大きな影響を与える要因になり得るとの見方が示された。参考人からも、台湾海峡は国際的な海峡であり、主要海上交通路である上、中国は台湾の統一に武力行使の選択肢を放棄しておらず、米国が台湾の安全保障にコミットしていることから、この問題は地域安全保障上の重要な問題になることもあり得るとの見方が示された。その一方で、参考人からは、中国が台湾に武力行使した場合のコストは非常に高く、台湾の人心の離反、台湾の大きな荒廃と、それ以上に対米関係、対日関係に大きな衝撃をもたらし、中国として得るところは非常に少ないとの見方、米国その他の国が余計なことをしなければ、台湾当局も中国の北京政府も力に訴えて何かしなければならぬとの立場には全く立っていないとの見方も示された。
 台湾問題に関する我が国の立場について、委員から、「一つの中国」の原則は明瞭であるとの意見、日中共同声明の立場を堅持し、統一の方法は中台の自主性に任せるべきとの意見が述べられた。参考人からは、台湾海峡を挟む問題は、日本にとっては中国の内政問題であり、国際的に見れば米中間の問題であるとの見解が示された。
 また、我が国のとるべき対応については、委員から、中国が武力を行使して統一を図ろうとした場合は、日本は強硬に反対するべきとの意見、中国は長期的な視点に立って、武力解放政策を捨て、平和的に民族の融和を図るとの意思を表明すべきであり、日本はその側面支援を行うべきであるとの意見が述べられた。

(四)東アジアの安定と安全保障政策

 東アジアには冷戦後も幾つかの対立関係が存在するが、その一方で、安定を求める新たな動きも起きている。この地域では、80年代半ば以降の「東アジアの奇跡」と言われた急速な経済成長と97年の金融危機の経験を踏まえ、安全保障にとって経済の安定がいかに重要であるかが十分に認識され始めている。また、安全保障政策を冷戦構造の枠組みでとらえることが困難になってきており、ASEAN地域フォーラム(ARF)など地域安全保障の重要性が徐々にではあるが認識され始めている。こうした中、昨年10月、米国防大学国家戦略研究所から「米国と日本-成熟したパートナーシップに向けて」(アーミテージ・レポート)が発表された。

(1)東アジア経済と地域安全保障

 東アジアの経済と安全保障との関係について、委員から、東アジアでは経済的な相互依存の高まりにより地域の一体感が生まれつつある、この一体感を強化し、経済的にも繁栄させるためには、地域の安定化が不可欠であるとの意見、東アジアの安定を確保するためには、その前提となる、[1]貧富の差をなくすための住民の生活の向上、[2]人治のシステムから法治のシステム確立への誘導、[3]第一次産業の安定した基盤の構築などの諸条件の整備が重要であるとの意見が述べられた。参考人からは、97年の金融危機で大きな打撃を受けたインドネシアに見られるように、経済、特に金融や通貨は破壊力を持っており、その混乱は社会問題、政治問題、民族問題に発展し、ナショナリズムを噴出させる危険があるとの見解、ARFなどの信頼醸成措置は安定した経済基盤がなければ積み上げられないとの見解が示された。また、委員から、東アジアの平和・安定と繁栄のための具体的措置として、中国、台湾、南北朝鮮を含めた自由貿易圏あるいは経済共同体を日本のイニシアティブのもとで創設すべきとの意見、多様性の存在を認めつつ共同のコミュニティー意識を醸成することが必要であり、各国の経済レベルをできるだけ近いものにすることが必要であるとの意見が述べられた。
 また、地域安全保障について、委員から、ARFはこの地域を網羅する唯一のフォーラムであり、将来はこれを進化させ、アジア版OSCEに育てていくことが、東アジアの最も現実的な安保システム構築の道筋であるとの意見、平和と安全のための対話機構としてARFを重視するとともに、経済問題のみならず安全保障・政治的イニシアティブを強めているASEANプラス3(日中韓)という枠組みも注目すべきであるとの意見、ARFが今後重要な役割を担っていくと思われるが、日本としては、日米安保体制を基軸としつつ、ARFにおける相互理解の増進と信頼関係の醸成に努めていくべきであるとの意見が述べられた。また、委員から、[1]日本、韓国、北朝鮮、モンゴルによる北東アジア非核地帯条約の締結、[2]日本政府による不戦国家宣言、[3]自衛隊を災害救助隊・国際協力隊に改編、縮小という三つの柱に基づき、「北東アジア総合安全保障機構」を構築すべきとの意見が述べられた。

(2)日米安全保障体制

 日米安全保障体制に関し、委員から、日本が憲法の制約の中で米国の期待に本当にこたえられるのか、対応が不十分だと日米関係が危険にさらされることはないかとの懸念が表明された。この点に関し、参考人から、米国が日本に期待し、それが果たされない場合に生じる失望感は懸念されるべき問題である、広い視野の中で問題を位置づける姿勢が不可欠であり、米国の期待に漸進的にこたえていくことが長期的に見て日米関係に重要であるとの見解が示された。また、参考人から、米国は自らの世界戦略と米国民の世論の支持の枠内でしか日本を守らないとの指摘がなされ、我が国は米国との軍事協力関係を再設計すべきであり、基地の段階的縮小や地位協定の見直し、東アジアの安定のための日米の軍事協力、アジアにおける軍事分野の多国間協力が重要であるとの見解が示された。
 また、極東における米軍のプレゼンスの問題に関して、委員から、米国が中国を競争的相手として位置づけ、またロシアを引き続き牽制する意味においても、米国の世界戦略にとって在日米軍基地、特に沖縄の地政学的価値は潜在的に高まるとした上で、日本が米国独自の軍事戦略に一方的に巻き込まれることは絶対に避けるべきであるとの意見が述べられた。また、委員から、21世紀の東アジアにおける平和と安定を築いていくためには、日米両国の自制とリーダーシップが欠かせず、また、我が国が平和憲法を守ること、在日米軍の大幅削減が必要であるとの意見が述べられた。参考人からは、米軍の削減はこの地域の脅威の縮小に見合ったものでなくてはならないとの見解、米軍の前方展開10万人体制がオーバープレゼンスであるか否かの判断は難しいとの見解が示された。
 弾道ミサイル防衛(BMD)に関しては、従来から内外で、それが核軍縮・廃絶に結びつくのか、それとも核軍拡をもたらすのか議論がなされてきた。委員から、実現可能性の議論は別にして、外交上の抑止力となるという点で戦域ミサイル防衛(TMD)研究への参加は日本の国益にかなうのではないかとの意見が述べられた。これに対し、委員から、米国の国家ミサイル防衛(NMD)計画は東アジアの平和と安全に寄与するどころか、軍拡に拍車をかける危険性があり反対である、米国はTMD推進を日本に勧め、日本に軍事的役割の増大を求めており、これが軍拡に拍車をかけることになるとの意見が述べられた。この点に関し、参考人から、日本が研究段階に加わることが将来の一つのオプションとなり有利になるとの意見、NMD、TMDが軍拡を促進する危険性はゼロではないが、これらがなくても軍拡は進み、研究を推進する段階で軍拡につながることはないとの見解が示された。

2 課題と提言

1 南北和解の潮流定着への支援

 昨年6月、朝鮮半島分断後初めての南北首脳会談が行われ、半世紀にわたり厳しい対立状況が続いてきた朝鮮半島に平和到来の期待が生まれた。しかしながら、共同宣言にうたわれた金正日総書記のソウル訪問が首脳会談から1年以上経過した現在に至っても実現しないなど、南北の和解と交流に向けた動きは足踏みの様相も見せている。南北和解の潮流が定着し、朝鮮半島に真の平和がもたらされるように、我が国としても積極的な支援をしていく必要がある。

2 日朝国交正常化交渉の推進

 日朝国交正常化には、北東アジア地域の安定と繁栄に寄与すること、これまでの不正常な関係を正すこと、日朝間の様々な懸案における進展を図ること、という意味合いがある。これらを踏まえて、国交正常化交渉に粘り強く取り組み、これを更に推進していくことが重要である。

3 日中の相互理解の深化

 日中関係は、我が国にとって最も重要な二国間関係の一つであり、新世紀における日中関係の発展は、アジア太平洋地域のみならず、世界の平和と繁栄にとって極めて重要な意味を持つ。そこで、平和と発展のための友好協力パートナーシップを確固たるものにするため、両国間で合意された諸文書を踏まえ、あらゆる分野・レベルにおける対話を一層充実させ、両国民の間の真の意味での相互理解を深めることが求められる。

4 「東アジア平和研究所(仮称)」の創設

 我が国は、東アジア地域との歴史的な関係を踏まえ、この地域の平和と安定を維持しその繁栄を図るため、これに係る積極的な活動をすべきである。そのために、既存の研究機関の拡充やネットワーク化を含め、中国、朝鮮半島を専門に調査研究する「東アジア平和研究所(仮称)」を創設すべきである。なお、同研究所においては、外国の研究者を招へいするなど、幅広い角度から研究を進めるべきである。

四 我が国外交の在り方

冷戦後の世界の情勢は、地域紛争の多発や宗教、民族主義に根づく対立の激化による世界の不安定化、米国の力の突出と中国の躍進、市場経済の規模の拡大、情報通信革命などに伴うグローバリゼーションの急速な進展など大きな変化が生じている。それに伴い、我が国外交を取り巻く問題も多様化、複雑化してきている。
本章では、「我が国外交の在り方」をテーマにした2回の調査会に加えて、3年間に議論された我が国外交の在り方に関する論議と委員の意見表明を「主要論議」に整理するとともに、これらを踏まえ「課題と提言」にまとめた。

1 主要論議

(一)我が国外交の基本
(1)外交の理念
(外交と国家像)

 参考人から、我が国は、国益と国際社会の利益との調和を意識しつつ多国間外交を重視するミドルパワーを目指すべきとの意見が示され、委員から、ミドルパワーであるという現実と自らをそう名乗って内外に発信することとは異なるとの指摘がなされた。これに対し、参考人は、漠然とした大国意識が結果として国民の不満を募らせ、国際協調主義的な戦後日本外交の実態や国際社会への建設的な貢献が「大国のレンズ」で見られることによって違った評価を受けたと指摘し、日本をミドルパワー的視点からとらえ直し、そこから外交体制の立て直しを始めたらどうかとの意見を述べた。委員から、国家像がない中で日米安保や憲法9条を軸にした政治は、政治の思考停止であり、我が国は21世紀の国家像をきちんとつくるべきとの意見が示され、参考人からは、国家の役割が縮小・特定化されていく世界的な流れがあり、増大する市民社会との整合性の問題など、グローバルな視点を加味した国家像の議論が求められているとの見方が示された。
 委員から、我が国のチャームが低下している状況で、多元化外交に向かうための戦略はいかにあるべきかとの指摘がなされた。これに対し、参考人は、チャームの低下はアイデンティティーの崩壊が原因であり、自己を革新できる理念を固めれば、我が国には技術、人材、資金が備わっており、これらを活用し国としての総合設計力を持てばチャームは回復するとの認識を示した。

(理念や価値観の発信)

 委員から、外交の理念や原則を明確にし、国際社会に発信していくべきとの意見が述べられ、参考人から、国際関係においては、軍事力や経済力のような力だけでなく、精神的な吸引力や文化的な魅力すなわちソフトパワーが極めて重要な要素であるが、我が国にはソフトパワーが欠けているとの認識が示された。
 参考人から、国際社会を長期的に展望すると、グローバリゼーションの行き着く先は、石油をはじめとする資源争奪戦になるであろうとの見方が示され、委員からは、環境破壊や貧困問題はより深刻になるとの見方が示された。参考人は、いたずらに物質的な豊かさを求める価値観を転換し、人類の破滅を回避するために英知を出すことが、歴史や伝統のある日本のような国の責任の一つであるとの意見を述べた。委員から、新しい思想の発信の一例として、我が国のODA原則をより攻撃的・能動的なものにすべきとの意見が述べられたのに対し、参考人から、我が国の最も顕著な国際貢献の手段であるODAを、国際統合の流れに取り残される後発国の立場に立ち、日本の経験をいかした独自の開発理論によって進めていけば、外交上の力を得るとの見方が示された。
 また、委員から、「揺らぎ」のような我が国のよさを否定せず、理念としていかすべきとの意見が述べられ、参考人から、外交が力を持つためにも、優れてはいるが余りにも玄妙な我が国の伝統や思想の理論化、体系化に衆知を集めて取り組むべきとの意見が述べられた。

(2)外交のアプローチ
(外交の方向性と姿勢)

 外交の目指す方向性について、委員から、世界平和と安定こそが最大の国益であり、我が国は世界平和のために主体的かつ積極的に取り組む必要があり、まず国連中心の平和外交と国連改革を推進すべきであるとの意見、米国に対して自主的な外交を展開し、我が国外交における一層のダイナミズムを追求すべきであるとの意見、アジアに外交の軸足を置き、自主独立の外交を貫くべきであるとの意見が述べられ、参考人から、外交の役割は異なる価値観の間を調整し、橋渡しをすることではないかとの見方が示された。
 求められる外交上の姿勢について、委員から、我が国だけが常に受益者の立場で自己中心の経済的豊かさを追求できる時代は終わったとの認識に立ち、「志のある外交」を進め、謙虚にして誇り高い国として繁栄を維持すべきであるとの意見、日本の視点を更にアピールし、メッセージを送ることが非常に重要であるとの意見、国民の立場に立ち、国民の利益を擁護する自主的な外交を行うことが重要であるとの意見が述べられた。
 また、委員から、これまでの我が国外交においては、あいまいな対応や、穏便に処理するために対立や摩擦、政治問題への発展を殊更に避けるような外交姿勢が見受けられたが、真正面から問題解決に努力する姿勢が必要であるとの意見、我が国の外交交渉で、相手国との問題が解決しなければ交渉を開始しないとの態度は過ちであるとの意見が述べられた。

(外交課題への取組)

 外交上の課題への取組について、委員から、地球温暖化、エネルギー問題、貧困、難民、食糧問題、感染症等の地球規模問題群について、国益、人類益の両者を追求しつつ、信頼と評価を得るように努力すべきであるとの意見、最終的に我が国が目指す座標軸は自由貿易体制であり、輸出相手国を確保するためには経済外交が重要になるとの意見、平和憲法を持つ国として軍縮に取り組み、世界で唯一の被爆国として核廃絶のイニシアティブをとるべきであるとの意見が述べられた。
 我が国外交を強化するための具体策について、委員から、リーダー自らが主導する首相外交を強化するため、パブリック・ディプロマシーを推進するとともに、首相外交と経済外交等との総合的なリンクを開発すべきであるとの意見、外交上の「抑止」のシステムを確立するため、経済制裁の機動的発動を可能とする体制を整備し、軍事目的に転用される民生技術の流出を防止する体制をつくるべきであるとの意見が述べられた。

(北方領土問題)

 北方領土問題をめぐる外交について、委員から、四島返還を踏まえた日露協力を推進すべきとの意見、返還交渉における二元外交、外交秘密主義を排し、その上で日露各般の協力関係と相互理解の促進への努力を継続すべきであるとの意見が述べられた。また、参考人から、交渉の基盤に据えるべきは93年の「東京宣言」であり、同宣言の「歴史的・法的事実に立脚し」との文言からすると、同宣言で言及され両国が合意している「日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集」が非常に重要であるとの意見が述べられた。

(二)外交と安全保障
(同盟と集団安全保障)

 委員から、我が国は、戦後、冷戦構造の中で平和憲法を堅持しつつ、米国との間に安全保障条約を結び、外交、安全保障の面でその判断と責任の多くを米国に依存してきたため、国際社会への貢献に際して、日本外交は全体として顔が見えず後手に回る対応に終始してきたとの見方が示された。委員から、二国間同盟の時代から地域的な集団安全保障の時代に来ているとの意見、冷戦終結によりアジア太平洋全体の危機管理の側面を有するようになった日米安保を、包括的な二国間同盟から多国間協調体制へ移行すべきとの意見が述べられた。
 参考人から、同盟と集団安全保障は全く性質の異なるものであり、集団安全保障は同盟を補完するものではあってもこれを代替するものではなく、歴史の上で成功した例もないことから、同盟は不可欠であるとの意見が述べられた。委員から、日米安保体制は、朝鮮半島情勢の悪化防止や中国の覇権的行動の抑止のためにも、東アジアの安定装置、すなわち公共財として機能し、日米同盟をあらゆる側面で深化させるべきとの意見、米中関係の中で我が国としてどう対応するかが問題となるが、日米同盟の強化は不可欠であるとの意見、軍事面のみならず経済面や文化面を含む幅広い日米協力関係を基軸として国際社会の諸問題の解決を推進すべきとの意見が述べられた。
 これに対し、委員から、日米安保条約をなくし日本が自主独立の外交を行うことが東アジアの平和のためにも重要なことであるとの意見、日米安保条約に対する評価がどういう立場であろうと日本外交の基本に据えるべきは国連憲章であるとの意見が述べられた。参考人から、米国との同盟関係が必要ないような集団安全保障体制の確立が理想ではあるが、それまでは現在の日米同盟関係が唯一の選択肢であるとの見解、同盟は運命ではなく選択すべきオプションであり、相手国が持続しようとする関係を21世紀にどのようにつくるかが重要であるとの見解が示された。
 参考人から、我が国が自己完結的な防衛力を持たないとすれば、どこかと同盟を組むことが唯一の選択肢であり、組む相手は自由と民主主義という価値を共有する米国以外にはないとの見解、日米同盟というかけがえのない外交的な資産は明確に認識しておくべきとの見解が示される一方、日米安保を手放せない日本は伝統的な意味での大国ではなくミドルパワーであろうとの見方、日本の主体性のなさは安全保障問題にあり、安全保障の軸足を根源的なところで定めることができれば、その他の領域における主体性も同時に高まるとの意見が示された。

(集団的自衛権)

 委員から、集団的自衛権の行使は認められるべきであるとの意見が述べられた。行使の根拠については、国民の意識の変化などを見極めながら、憲法の解釈の変更でなく改正によって認められるべきであり、また行使に当たってはアジア各国との信頼醸成が何よりも重要であるとの意見が述べられた。これに対し、委員から、平和を維持できたのは日本国憲法を守っていきたいという日本国民の思いからであり、集団的自衛権の行使は憲法違反であると政府も述べてきたではないかとの指摘がなされた。この点に関し、参考人から、日本は集団的自衛権を有しており、行使できるが憲法の精神に従って容易に行使しないと宣言すればよいとの意見が述べられた。
 また、委員から、アーミテージ・レポートは日本に平等な関係を求めているが、それが武力行使のレベルの平等性を意味するのか日米間で十分に話し合い、日本の考えを明確に示すべきであるとの意見、同報告に記された集団的自衛権の行使は、我が国の憲法で禁じられており、絶対に容認できないとの意見、集団的自衛権の行使は、有事法制化と併せて極めて危険なものであるとの意見が示された。これに対し、参考人から、日本国憲法を最も厳密に解釈することは国連憲章が機能していない状況では難しいとの見解が述べられた。また、参考人から、自衛権は国の固有の権利として認められているものであり、現在の政府の解釈は、憲法の理念を尊重する立場からこれを行使しないという政治的決定であるとした上で、同盟関係というのは一方で巻き込まれの危険を伴うが他方で見捨てられる危険もあり、そのどちらが大きいかは判断の問題であるが、現在の日米関係においては、巻き込まれの危険よりもむしろ日本が米国から見捨てられる危険を重視すべきであるとの見解が述べられた。

(三)外交と文化

 参考人から、外交上、精神的な吸引力、文化的な魅力が極めて重要な要素であるが、日本は人を引きつける力に欠けているとの指摘がなされた。委員からは、外交に文化の力を最大限に活用する戦略をとるべきであるとの意見、高い文化水準は尊敬の対象であり、紛争の原因となる対立を乗り越えるためにも文化交流は重要であるとの意見が述べられた。
 また、委員から、それぞれの国が歴史の中で培ってきた伝統、文化、技術を人類共通の遺産として共有すべく国際交流を進めるべきとの意見、民衆があらゆるレベルで交流して相互理解を深め、相互の文化と伝統を尊重し、信頼の醸成に努めていくことが求められているとの意見、文化や芸術は外交政策のようなフォーマルな形ではなく人々の中に入っていくことができるとの意見、日本のサブカルチャーや若者文化を含めた新しい文化交流を打ち出すべきとの意見が述べられた。

(四)ODAと外交

 ODAと外交の関係について、委員から、ODAの戦略的な活用を進め、政治的・外交的発言を増やしてめり張りをつけるべきとの意見が述べられた。参考人からは、ODAは我が国外交の有効な政策手段であり、単に人道主義的に対外援助をするというだけでは国民の理解が得られず、国益を考えて重点的に支援することが必要であるとの意見、ODAの理念に余り政治的な要素を加えるべきではなく、より後発国の立場に立った援助が必要であるとの意見が述べられた。
 また、委員から、我が国は世界最大のODA供与国として今後とも貢献すべきであるとの意見が述べられた。これに対し、委員から、我が国のODAは依然として大型のインフラ支援に偏り、顔の見える小規模支援への取組も不十分であり、贈与より借款に重点が置かれているため、重債務貧困国ではその焦げ付きが問題化しているとの意見、ODA大綱の策定により平和、人権、環境、基礎教育や保健等に配慮されるようになったが、実行段階での透明性は十分とは言えず、ODAの情報公開はなお今後の課題であるとの意見、経済協力が各国民の利益になるように必要な見直しを行うことも課題であるとの意見が述べられた。

(五)対米関係

 委員から、ブッシュ政権が発足し、米国の対日政策はより緊密な関係を求めるものになっているとの見方が示された。対米外交については、委員から、軍事面のみならず、経済面、文化面を含めた幅広い協力関係を築くべきであるとの意見、我が国外交において日米関係が基軸であることは論を待たないが、より我が国の自主性を重んじた外交にすべきとの意見、米国との外交は密接な政治的経済的な関係から重要であることは言うまでもないが、対等平等の友好関係を発展させるべきであるとの意見が述べられた。参考人からは、経済関係における日米協力の深化は重要であり、日米間をより親密にしていくため、投資、貿易を含む包括的な構想が必要であるとの意見が述べられた。
 また、参考人から、戦後の日本外交は米国と付き合うことをもって外交と言いかえているような部分があるが、これからは、外交軸の多元化や多角化が必然的な流れであるとの見解が示された。

(六)アジア外交

 委員から、世界の人口の6割を占めるアジアは21世紀に大きな飛躍が期待されており、政治・経済・安全保障の対話が進みつつある中でアジアに軸足を置いた外交は一層重要になっているとの意見、アジア地域においては特に国民相互の理解を一層深め、その平和と安定の維持に全力を挙げ、経済、開発、環境等の諸問題の解決を積極的に推進すべきであるとの意見が述べられた。
 中国について、委員から、2050年の人口は約20億人と予想され、改革開放路線に沿って経済発展が更に順調に進み、WTOへの加盟が実現すれば、アジアにおける中国の存在感はますます大きくなるとの見方が述べられた。参考人からは、中国の台頭は21世紀の日本の進路に横たわる与件として存在するとの意見が述べられた。
 また、委員から、日中・日朝関係は、歴史的・地理的に密接な関係にあり、将来にわたって両国との共存共栄を図っていくべきであるとの意見、アジア地域における日本と米国の国益は完全に一致するものではないとの意見が述べられた。
 さらに、委員から、インドは地政学的にも人口・資源の点でも大変大きな力を持っており、中国に対する牽制という意味でも、我が国の外交戦略にインドを十分視野に入れるべきとの意見が述べられた。
 アジア諸国との歴史認識については、戦後50周年に当たる1995年8月の村山総理大臣談話の中で、我が国は歴史の事実を謙虚に受け止め、アジア諸国の人々に対して痛切な反省の意と心からのお詫びの気持ちを表明する旨が述べられている。
 参考人から、日中間の歴史認識の原点は、カイロ宣言、ポツダム宣言、日中共同声明、日中平和友好条約及び日本国憲法第98条であるとの意見、十分な知識や理解、反省がない日本側の発言や行動等に中国は不満を感じており、共同声明や平和友好条約などを理解した上で中国と議論すべきとの意見が述べられた。委員からは、過去に日本が中国に侵略的な行為を行ったことは否定できない事実であり、日本の政治家としてこれを真摯に受け止め、反省しておくことが必要であるとの意見、日中の友好関係推進のため、過去の清算を行うことが重要であるとの意見、過去の誤りを率直に認めなければ、21世紀には日本はアジア諸国から孤立してしまうとの意見が述べられた。
 委員から、中国、韓国、東南アジア諸国と共同して、正しい歴史認識を共有するための「歴史認識共同プロジェクト」を立ち上げるべきであるとの意見、日本、中国、韓国それぞれの主張を調整し、統一的な理念を創造することが重要であるとの意見が述べられた。
 アジア諸国に対する戦後賠償問題について、委員から、政府間で法律上解決済みとしているが、ODAで賠償の埋め合わせをしているとも受け取られる手法は、戦争被害者個人にとっては納得がいかず、今後とも引き続き課題となるとの意見が述べられた。

(七)外交と市民社会

 参考人から、国際政治の担い手は非常に多様化し、国家だけではなく自治体やNGOが重要な位置を占めてきているとの見方、国際政治における主体は、今後、国家のみならず、地域機関、国際機関、NGOさらには個人などが担っていくとの見方、外交分野において、政府としてNGO等の市民社会の動向を政策形成の上で更に反映させていくことが重要であるとの認識が示された。
 委員から、外務省の行う外交は、基本的に国益の増進を目指したものであるため、NGOや議員外交などのチャンネルも使い、これを補完していく必要があるとの意見、海外に友人をつくり交流を図るような国民外交の啓発が必要であるとの意見、NGOの果たす役割は非常に大きいが、我が国は育成や支援の面で後れており、日本国内のみならず、海外においてもNGOに対する支援について幅広く検討すべきであるとの意見が述べられた。

(八)外交の基盤

 外交の基盤について、参考人から、外交インフラの充実なくして外交戦略はないとの意見、専門家集団としての外務省、国民の代表で構成される議会、良質なマスコミの三者で外交政策を決めていくことが重要であるとの意見が述べられた。
 委員から、我が国は調査研究と情報の調達能力が十分でないとの意見、参考人からは、「民」の力を結集し多様なサポートを得たシンクタンクを育てる必要があるとの意見が述べられた。これに対し、委員から、外交戦略の立案に資するため、中国、朝鮮半島を総合的に研究する「東アジア平和研究所」を設立すべきとの意見、既存の研究所の機構を拡充強化し、外国から研究員を招き研究の層を厚くすべきとの意見が述べられた。また、委員から、我が国に欠如している情報インフラの整備は必要であり、これと報償費の問題とを混同してはならないとの意見が述べられた。
 外交強化のための人材育成について、委員から、我が国ではシンクタンクにおける研究と人材や人的ネットワークを拡充強化する必要があるとの意見が述べられた。参考人からは、外交強化のためには、グローバリゼーションという潮流の中で、本当の意味での総合戦略を設計することのできる人材の育成を図るべきとの意見、国際発信力を育てるため、自分で物を考え自分の意見を言う教育及び語学教育を子供のときから行うことが重要であるとの意見が述べられた。

2 課題と提言

1 外交基盤の強化

 外交を進めるに当たっては、外交組織の専門性、議会の活発な議論、多様な調査研究などが必要である。とりわけ、世界の情報の収集や分析に当たる研究機関は外交基盤の一つとして重要な役割を担うが、我が国においてはこうした外交上の調査研究や情報力の基盤は十分とは言えない。そこで、これらの調査研究を充実し情報力を強化するための外交基盤の整備を図り、その成果を外交にいかしていくべきである。

2 外交における文化の力の活用

 国際関係においては、精神的な吸引力や文化的な魅力も極めて重要な要素である。それゆえ、外交には文化の力を最大限に活用すべきである。我が国の伝統的な文化に、サブカルチャーや若者文化を加えた幅広い文化交流を行い、相互理解によって国際社会の信頼を得る努力をしていくべきである。

あとがき

 本年は21世紀の最初の年である。本調査会は、世紀をまたぎ3年間にわたって「21世紀における世界と日本-我が国の果たすべき役割-」についての調査を行った。このテーマのもと、当初、アジア経済及び世界経済の持続的発展の確保、政府開発援助の在り方も調査項目に挙げていたが、具体的な調査には至らなかった。その主な要因は、国会開会中の日程的制約の中で、2000年9月の国連ミレニアム総会及びミレニアム・サミットに向けて、国連の今日的役割について重点的に調査を進め、3年目も国連に関する論議を深めたからである。
 政府開発援助の在り方については、前期の国際問題に関する調査会の最終報告において、「ODA基本法案の骨子」がまとめられており、ODA基本法の立法化の推進について、本調査会では参議院の各会派及び各会派間の取組を注視することとした。なお、委員の意見表明では、ODA基本法の制定を改めて真剣に検討すべきとの意見があった。
 参議院改革の一環として創設された調査会制度は、本年で5期・15年が経過した。本調査会が本年4月18日及び5月23日に行った委員の意見表明及び委員間の自由討議では、今期調査会の活動等を踏まえた調査会の在り方やテーマ設定等についても活発な意見交換があったことを付記しておく。
 最後に、本報告に掲げた「課題と提言」については、内外の関係各方面において十分な検討の上、諸施策に反映されるよう要望する。