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国際問題に関する調査会

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国際問題に関する調査報告(中間報告)(平成11年8月6日)

目次



審議経過

 本調査会は、第143回国会の平成10年8月31日(月)の本会議において、国際問題に関し長期的かつ総合的な調査を行うため設置された。
 本調査会においては、理事会等における協議の結果、3年間にわたる調査活動のテーマを「21世紀における世界と日本-我が国の果たすべき役割-」と決定し、調査項目として、アジア及び世界の安全保障の確保、アジア経済及び世界経済の持続的発展の確保、国連の今日的役割、政府開発援助の在り方、我が国外交の在り方等について調査を進めることとした。
 第1年目においては、このテーマの下、次のとおり調査を行った。

 第143回国会

○平成10年9月25日(金)
「国連の今日的役割」について、明石康参考人(広島平和研究所所長・前国際連合事務次長)から意見を聴取した後、質疑を行った。

 第145回国会

○平成11年2月3日(水)
「アジアの安全保障」について、岡崎久彦参考人(博報堂岡崎研究所所長)及び船橋洋一参考人(朝日新聞社編集委員)からそれぞれ意見を聴取した後、質疑を行った。
○平成11年2月10日(水)
「我が国外交の在り方」について、岡本行夫参考人(株式会社岡本アソシエイツ代表取締役)から意見を聴取した後、質疑を行った。
○平成11年4月21日(水)
「朝鮮半島情勢」について、ヤン・C・キム参考人(ジョージ・ワシントン大学政治学部教授)から意見を聴取した後、質疑を行った。また、「コソボ問題」について柴宜弘参考人(東京大学大学院総合文化研究科教授)から意見を聴取した後、質疑を行った。
○平成11年6月4日(金)
「朝鮮半島情勢」について、重村智計参考人(毎日新聞論説委員)及び辺真一参考人(コリア・レポート編集長)からそれぞれ意見を聴取した後、質疑を行った。

 このほか、第143回国会の平成10年10月8日(木)には、金大中大韓民国大統領特別随員である大韓民国国会議員団と「北東アジアにおける安全保障及びアジアの経済危機」について意見交換を行い、平成10年10月19日(月)には、第2回アフリカ開発会議(TICADII)参加首脳歓迎懇談会を行った。
 また、第145回国会の平成11年7月30日(金)、「東アジアにおける米国の安全保障政策」についてトーマス・S・フォーリー駐日米国大使から発言があった後、意見交換を行った。

調査概要

1.アジアの安全保障

 今日、安全保障の確保という観点からアジアを概観すると、極東地域において幾つかの不安定要因を抱えていると言えよう。このような状況の下、我が国の安全保障政策の在り方、朝鮮半島情勢、中国情勢に関する調査を行った。

(1)我が国の安全保障政策の在り方

 我が国の安全保障政策をめぐり、同盟と集団安全保障、日米安保体制とアジアにおける集団安全保障に関する論議が展開された。

(同盟と集団安全保障)

 参考人から、一部に同盟より集団安全保障の方がよいとの議論もあるが、同盟と集団安全保障は180度違うものであり、同盟は仮想敵国を持ち、力のバランスにより仮想敵国を抑止することを目的としているのに対し、集団安全保障は仮想敵国を持たない言わば国内の司法制度と同じである、現状では集団安全保障は同盟を補完するものではあっても代替するものではなく、歴史上これが成功した例もないことから、同盟は不可欠であるとの意見が述べられた。また、日米同盟という掛け替えのない外交的な資産は明確に認識しておく必要があり、日米安保を軸に日本の安全保障を考える以外にないとの意見が述べられた。
 委員からは、軍事バランスを保つことにより平和的解決に導くとの考えには反対であり、そのような考え方が戦争を繰り返してきたのであって、いかにして軍事バランスに依存することなく平和的解決しかないという状況をつくり出すかが最重要課題ではないかとの意見が述べられた。これに対し参考人から、力によらない平和の達成は見果てぬ夢であり、その結果、第2次大戦を招いたと言っても過言ではなく、事実、米国も冷戦の50年間を北大西洋条約機構(NATO)と日米同盟を中心にして軍事バランスを維持し平和を守りきったとの見解が示された。また委員から、見果てぬ夢と言うが、ソ連が崩壊し、東西対立がなくなり、国連が目指す集団安全保障体制を確立する条件が生まれたのではないかとの意見が述べられた。これに対し参考人から、その夢は必ず持たなければならず、現在は不可能であってもいつかは実現しなければならないが、これまで一度も成功していないし、それに頼っていては安全は守れないとの意見が述べられた。さらに委員から、21世紀において米中両国のはざまで我が国は中立を守るのが憲法の精神にも合致するのではないかとの意見が述べられたのに対し、参考人から、非武装中立は国民的な支持を得られず、自己完結的な防衛力を持たないとすればどこかの国と同盟する以外にはなく、我が国の場合、自由と民主主義という価値を共有する米国以外にないとの見解が示された。
 集団的自衛権について、参考人から、日本はその権利を有しており、行使もできるが憲法の精神に従って容易には行使しないと宣言すればよいとの意見が述べられた。委員からは、平和を守ってきたのは日本国憲法を守っていきたいという日本国民の思いからであり、集団的自衛権の行使は憲法違反であると政府も述べてきたではないかとの指摘がなされた。これに対し参考人から、有権解釈は裁判所が行うもので、集団的自衛権と個別的自衛権を区別せず自衛権があるとの判決が出されており、権利がありながら行使できないというのは間違いであるとの意見が述べられた。
 また、我が国の安全保障政策に欠けている点として、参考人から、我々日本人は外の環境変化にどう対応しようかと考えがちであるが、日本自身の変化が国際関係に大変な影響を及ぼすこと、すなわち日本の政策が与件の一つとなることを認識し、近隣地域、世界に対する説明責任、透明性を高めなくてはならないとの意見が述べられた。

(日米安保体制とアジアにおける集団安全保障)

 参考人から、アジア、特に朝鮮半島と台湾海峡においては、武力により既存の国境線を変更しない、交流を深め信頼を醸成する、言論の自由を認めるという欧州の緊張緩和政策を踏襲することは困難であるとの意見、アジアでは信頼醸成、集団安全保障の環境が十分整っていないので、日米同盟を中心として、それをアジア諸国に公共財としての認識を共有してもらうことが極めて重要であるとの意見、日本の海空軍力は極東の軍事バランス上カウントされていないが、これをカウントできるようになれば軍事バランスは一挙に変わり、今後20年ぐらいはアジアの平和は保たれるとの意見が述べられた。また、参考人から、日米安保が実際に稼働するかどうかが、我が国のみならず周辺諸国にとって重要であり、日米安保という強固な同盟の枠組みの存在によって、日本を攻撃すれば大変な反撃を受けるとの印象を周辺諸国が持つ限り、日本の周辺には平和は保たれるとの意見が述べられた。さらに、参考人から、アジア経済危機の中で民族紛争、宗教紛争が一層悪化した場合、アジア太平洋における信頼醸成措置、集団安全保障への動きがとん挫する可能性があり、既にアセアン地域フォーラム(ARF)、アジア太平洋経済協力(APEC)も足止め状態にあるとの意見も述べられた。
 日米安保体制に関し委員から、在沖米軍基地の過密解消には海兵隊の全面撤退か大幅縮小しかないとの意見が述べられた。これに対し参考人から、沖縄に全部押しつけるわけにはいかないが、在沖米軍の急激な変更はすべきではない、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)で決まったものを可能なところから始めるべきであるとの意見が述べられた。

(2)朝鮮半島情勢

 昨夏のテポドン発射事件、本年に入ってからの不審船事件等、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する不信感が増大している。このような状況の下、北朝鮮の核及びミサイルの開発問題、対北朝鮮外交に関する論議が展開された。

(北朝鮮の核及びミサイルの開発問題)

 参考人から、朝鮮半島問題は大きな問題ではあるが、台湾問題を含む今後の中国の問題に比較すれば局地的な問題であるとの意見、朝鮮半島問題は長期的に見れば緊張は減じていくであろうとの意見が述べられた。また、参考人から、テポドン発射事件は、日米安保の抑止力が部分的に崩れたとも考えられ、米ソを中心とした従来型の抑止力が、コミュニケーションも十分でなく、また相手のリーダーシップの構図も意図も分からないという場合、果たして日米安保、即抑止力、即日本の安全と言いきれるのかという重大な問題提起であるとの意見、核の脅威の無力化については軽水炉型原発への移行という方法があるが、ミサイルについては現に保有しており、北朝鮮にとり最後の手段であることから、その脅威を取り除くことは極めて困難であるとの意見が述べられた。さらに、参考人から、軍事的解決という選択はないと思うが、仮に米韓が北朝鮮に対し軍事オペレーションを実施する場合、日本は戦闘行為に参加すべきではない、しかしノドン、テポドンの発射以来、我が国の安全保障は韓国の安全保障と相当程度重なってきており、米韓との政策協議、情報交換の必要性は高まっているとの意見、軍事行動をとった場合、米国単独の判断は望ましくなく、国連などの正当性のある枠組みの中で実施する以外にないが、その際、中国を組み込んだ国際政治の枠組みの中で対処することが重要であるとの意見、テポドン発射について我が国は直接の安全保障上の脅威として、明確な形で抗議をしたことは正しかったとの意見が述べられた。
 米朝交渉の今後について、参考人から、米国から見て最も優先度の高い問題は北朝鮮による核及びミサイルの開発並びにその拡散阻止であり、米国は今後もこれを対北朝鮮政策の最重要課題とし、対する北朝鮮はこれに強く抵抗するであろうから、米朝間の葛藤の構図は基本的に変わらないとの意見、またノドン1号の配備はほぼ完了していると聞いているが、米朝、日朝交渉でこの問題を解決することは不可能と思われ、日本としては「抑止と対話」の中の「抑止」の範疇で適切なる措置を考えるべきであるとの意見が述べられた。さらに、参考人から、米国がペリー報告を必要とするに至った理由は、以前は北朝鮮の早期崩壊を予測していたが、しばらくは崩壊しないと見方を変えたことにより、新たな対北朝鮮政策をたてる必要が出てきたからであるとの意見が述べられた。
 委員からは、北朝鮮が本当に譲歩するかは疑問であり、またミサイル開発は唯一の外交カードであるからこれを諦めることはないだろうとの意見、結局のところ米国は北朝鮮の核保有を認めてしまう方向に進むのではないかとの意見、北朝鮮が既に1、2発の核を持っており、米国はこの核の不拡散を防ぐことに精力を傾けているとすれば、我が国に残された問題は大きいとの意見が述べられた。これに対し参考人から、1、2発は持っているという話はあり、米国は北朝鮮の核保有の可能性を前提にして今の交渉を進めているとの見解が示された。
 なお、参考人から、北朝鮮の国家目標は、現社会主義体制を維持することであり、また、思想と軍事面で強ければ大国になれるという「強盛大国」を数年内に築くとしており、核及びミサイルの開発もその一環であるとの指摘がなされた。

(対北朝鮮外交)

 参考人から今後の対北朝鮮外交のための具体的提案として、6段階から成る柔軟的関与政策が提示された。その内容は、[1]米朝基本関係協定交渉の開始、[2]南北首相級会談の開催、[3]南北首脳会談の開催、[4]米朝首脳会談の開催、[5]日中ロ3か国による南北合意、米朝合意への支持表明、[6]日朝首脳会談での日朝国交正常化合意である。この政策は、関与の度合いを柔軟に上向きあるいは下向きにも調整できるとするものである。
 この提案に対し委員から、北朝鮮は合意と拒否を繰り返す瀬戸際外交により核を保有することになり、第2段階に進むことは困難ではないかとの意見が述べられた。これに対し参考人から、そのプロセスは相当の期間を要するが、米韓中朝の四者会談での平和協定づくり、あるいはミサイル問題である程度の進展があれば可能であるとの見解が示された。
 北朝鮮への対応について、委員から、金大中大統領の太陽政策は必ずしも統一を目指すものではなく、むしろ北朝鮮を中国との間の緩衝帯とした方がよいと判断し、統一を前面に出していた従来の政策を方向転換したのではないかとの意見が述べられた。これに対し参考人から、金大統領の太陽政策の中では統一に言及することは極めて少ないが、政経分離の下での交流、協力の推進について言及しており、現段階を統一への3段階構想の第一段階に突入する過程と位置づけているのではないかとの見解が示された。また委員から、日米韓の3か国が協調して中国に北朝鮮のミサイル開発等を抑止するよう働きかけるべきではないかとの意見が述べられたのに対し、参考人からは、中国には北朝鮮に対して様々な配慮の要因があり、日米韓の期待に沿う形での北朝鮮への影響力行使には限界があるとの意見が述べられた。
 また、参考人から、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長が6月3日訪中したが、これは中朝関係修復の着手という象徴外交であり、次回会談の当事者が注目される、また今回の訪中は北朝鮮の国内体制が整ったためであるとの意見が述べられた。委員から、今回の訪中も踏まえ今後の中国の関与の見通しが質された。参考人から、中国は朝鮮半島有事に際し、中朝友好協力相互援助条約に基づき物資あるいは何らかの対北朝鮮支援を行うとの意見が述べられた。一方、参考人から、中国と北朝鮮の関係は必ずしも良好でなく、中国は自国の国境が侵されない限り兵力を使用することはなく、朝鮮半島に絶対戦争を起こさせない政策をとっていくとの意見も述べられた。
 日朝関係について、参考人から、北朝鮮は、現在、対日政策の責任者が空席のため、この秋に予定されている労働党党大会での人事決定を待たなければ対日外交に基本的に取り組めない状況にあるとの意見、我が国は早期に前提条件無しでの国交正常化交渉を再開する用意ありとの立場を表明すべきであり、拉致問題は出口論として正常化交渉と並行して協議を重ね、その解決を目指すべきであるとの意見、また、日米安保協力を強化することは日朝間の接点を模索することと矛盾せず、新ガイドラインは金大中政権の太陽政策を後押しすることになるとの意見が述べられた。
 米韓中朝に日ロを加えた六者会談について、委員から、米国、韓国及び中国に対し我が国を参加させるよう強く主張すべきであるとの意見が述べられた。これに対し参考人から、日本はその努力が足りなかった、六者会談のテーマは朝鮮半島問題を含む北東アジア全般の政治、経済、環境、その他すべての関心事についての討議、意見交換を前提とする形がよいとの意見が述べられた。

(3)中国情勢

 21世紀においては、中国の存在が一層大きくなると予想され、中台関係、今後の米中関係及び日中関係、日米安保体制と中国という問題に関する論議が展開された。

(中台関係)

 参考人から、21世紀においてアジアにおける安全保障上の最大の問題は中国の強大化により極東の軍事バランスが崩れることであるとの意見、中国の台頭は21世紀前半、少なくとも3分の1ぐらいの期間は東アジアにとって最も重要な問題になるだろうとの意見が述べられた。

 中台関係について、委員から、中国が武力行使をしないと宣言した途端に台湾が独立するから武力行使をしないと言えないのではないかとの指摘があった。これに対し参考人から、中国から見れば台湾を独立させないことと世界の平和のどちらが重要かという選択の問題であり、同時に台湾の民意が重要であるとの意見、統一がどのような形にせよ、両岸の中国人同士が相互に納得する方法で行われるのであれば、日本として支持できるとの意見が述べられた。

(米中関係)

 参考人から、中国の軍事力増大により極東の軍事バランスが変化した場合の最大の焦点は台湾問題であるが、クリントン大統領が訪中の際に述べた「3つのノー」は上下両院で認めないとの決議が可決されたことにより、米国の政策とはなり得ない、一方、中国は武力行使を放棄しないと述べており、どちらかが政策転換しない限り衝突する危険があるとの意見、米国は冷戦構造崩壊後、異なる体制、価値観を持ち併存する世界に対するグロ-バル・ストラテジーを持っていなかったので、対中政策も首尾一貫しないとの意見が述べられた。
 この点に関し、委員から、中国に民主主義が根付かない限り、米中関係が劇的に好転することはなく、基本的には米中の対立関係は続くのではないかとの意見が述べられた。これに対し参考人から、米国は台湾関係法を重要な基本文書とみなし、同法においては台湾の自由と民主主義を守る現在の仕組みを堅持することが唱われており、米中間に戦略的パートナーシップが果たして生まれるかどうか疑問であるとの意見が述べられた。

(日中関係)

 参考人から、欧米には日本の衰退を予測した上での米中二極化という考え方も出始め、こうした米中関係を背景に、中国が新たな対日政策を打ち出してくる可能性があるとの意見、対中円借款を環境と省エネに絞るなど安全保障だけではなく総合的なアプローチが必要であるとの意見が述べられた。また参考人から、中国は民主主義に信を置いておらず、日本の民主主義を見ても軍国主義の意識があるのではないかとの先入観を持っており、過去の問題は現在そして将来の問題として存在し続けるとの意見、中国が国際的なルールを守り、世界の潮流である民主主義の方向に向かうよう支援することが日中関係改善の最大のポイントであるとの意見が述べられた。
 中国の対日外交について、委員から、周恩来世代には日本に対する賠償を免除、友好を第一とし、過去の問題についての批判は少なかったが、江沢民世代は常に過去の問題を取り上げるとの指摘があった。これに対し参考人から、威信、正当性、カリスマ性の欠如から政治的に過去の問題を使おうとしており、共産党体制、イデオロギー、経済がうまくいかない場合、台湾や日本を標的にしてナショナリズムの高揚を図ることも考えられるとの意見が述べられた。また委員から、日米中トライアングルという考え方が米中にあり、日本でも同様のことが言われ始めているが、これをどのようにとらえるかと質された。これに対し参考人から、日米は安全保障を委ねる同盟関係にあり、3国の関係は正三角形ではない、日中関係強化を模索すべきではあるが、中国が嫌がるからといって日米間の特殊な安全保障関係がことさら目立たないよう対応することは、かえって問題を大きくするとの意見が述べられた。

(日米安保体制と中国)

 まず委員から、軍事的にも台頭してきた中国と我が国との間に何らかの紛争が生じた場合、米国が反撃しないと判断する可能性もあるのではないかとの意見が述べられた。これに対し参考人から、冷戦時代そのような懸念もありフランスは自ら核武装したが、核武装しない日本の場合、実際に米国が反撃するか否かはそのときまで分からないとの見解が示された。同様に参考人から、尖閣列島のように米国が沖縄の施政権を持っていた時代には日米安保の適用範囲内であると言っていたにもかかわらず、沖縄を手放した途端に、そうとは言いきれないという態度で身を引いてしまうという例もあるとの指摘がなされた。
 参考人から、米中衝突を回避するには、一つは中国が台湾問題の平和的解決を認めること、もう一つは軍事バランスを保つことにより信頼醸成措置、軍縮を可能にするという方法しかないとの意見が述べられた。また参考人から、中国は湾岸戦争の際、米国のハイテク・パワーなどに対する脅威感、米国一極構造に対する脅威感を持ち、日米軍事同盟が中国を標的にするのではないかとの危惧を持ったとの指摘がなされ、中国が米国のプレゼンスと日米安保は地域の安定にとり脅威となり得ると判断すれば、これらが安定機能を持つとする日米との間に矛盾が生ずるとの意見、米中二極化が進展した場合、中国が日米安保を一つの照準として見定め、周辺事態に台湾が含まれるか否かという問題にとどまらず、日米安保から台湾除外を明確にすべきであると圧力をかけてくる可能性があるとの意見、新ガイドラインが日中関係に短期的にマイナスの影響を及ぼしても、長期的にはオペレーションのハウツーとしての新ガイドラインが加わったことにより、そのプロセスがアジア太平洋の安定に役立つと中国が認識すれば、中国は考えを変えるとの意見が述べられた。

2.国連の今日的役割

 21世紀を目前に国連の在り方が内外で論じられている。国連中心主義を外交三原則の一つに掲げる我が国が、国連に対する貢献のみならず、国際社会の新たなニーズを満たし得る国連を構築する上でのいかなる役割を果たすべきかとの観点から調査を行った。

(1)安全保障

 参考人から、90年代に入り国連は新しい期待がかけられ、ガリ事務総長報告「平和への課題」に見られるような野心的な取組も行われたが、ソマリアやルワンダでの失敗により、一時的に膨らんだ夢はやや小さくなったとの見解が示された。
 委員からは、国連憲章に規定されたとおりの集団安全保障体制の確立が難しい現状の下で、国連と地域機構との協力、地域機構の在り方が質された。これに対し参考人からは、地域機構とは国連憲章第8章(地域的取極)に基づき基本的に安全保障理事会に属する機構であり、NATO、ワルシャワ条約機構、日米安保条約は個別的・集団的自衛権を規定する憲章第51条に基づいてつくられた冷戦時代の所産であって、国連憲章の本来意図するところとは異なるが、分裂した世界で安全を守るために必要であったとの意見が述べられた。また、委員から、国連憲章に基づく集団安全保障体制の確立は今も課題であるが、その声がほとんど聞かれなくなったことは、集団安全保障体制が、実際上、実現困難であり、新しい状況に合った安保体制が必要との考え方かと質された。これに対し参考人からは、国連憲章第7章(平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略)の体制は一部しか機能していないが、我々は希望を捨てるべきではなく、より安定的かつ世界的な体制を構築する努力を続けるべきであるとの意見が述べられた。
 また、委員から、我が国は国連決議のない米国による他国の攻撃を支持するだけではなく、憲章の無理な解釈により理論化もしているが、国連憲章の解釈に曖昧さがあってはならないとの意見が述べられた。これに対し参考人からは、第6章(紛争の平和的解決)及び第7章を規定する国連憲章が全体として実現を目指す方向を見失うべきではないとの見解が示された。
 参考人から、90年代になり国連は宗教的、人種的、民族的紛争に直面し、内政問題に関係させられたため混乱があり、旧ユーゴにおいては合意、中立性、非強制というPKO原則では処理しきれない状況に直面したとの見解が述べられた。我が国のPKOへの協力は、国際平和協力法(PKO協力法)に基づき、参加五原則に則り行われているが、委員から、こうした五原則から見て国連PKOの実態はいかなるものか、また我が国のPKO協力の在り方はいかにあるべきかが質された。これに対し参考人からは、内戦の下で同意原則、武力不行使原則の弾力的な解釈・適用が増えていることを認めた上で、在来型PKOは国連憲章第6章に属する事柄で、軍人が従事するが役割は外交官的なものなので、我が国は全面的な参加に躊躇すべきでなく、PKO協力法においてPKF本体業務への参加を凍結する必要はないとの見解が示された。さらに、参考人から、自衛隊のカンボジアにおける活動は平和の維持であったが、他国の軍隊との信頼醸成及び日中両国の軍隊の交流の面からも有意義であったとの見解が示され、こうした経験を踏まえ、アジアにPKOの共同訓練所をつくり、日本の自衛隊、中国、韓国、東南アジアの軍隊が共同でPKOの訓練を行うべきであるとの意見が述べられた。
 委員から、冷戦構造崩壊に伴う国内紛争の増加を踏まえ、こうした紛争を防止する予防外交への我が国の関与はいかにあるべきかについて質された。参考人から、ポスト冷戦期、国連憲章で予想されなかった事態に国連が直面し苦慮していることを認めた上で、予防外交の活用の一端として、マケドニアにおけるPKOの予防的展開について言及があり、我が国に対する期待として、PKO予防展開へのより積極的な貢献、カンボジアにおけるPKO実績や東ティモール、ミャンマー、アフガニスタン問題に見られた安保理内外での積極的な外交の推進、ARFの活用によるアジア全体の信頼醸成の推進及び予防外交の強化が挙げられた。

(2)国連の改革

 国際社会が抱える諸問題に対し、国連が効果的に対処していくことが期待されてきたが、更なる改革の必要性が叫ばれている。このような観点から国連の改革をめぐり、安全保障理事会の改革、経済社会理事会等の活用、国連財政に関する論議が展開された。

(安全保障理事会の改革)

 安保理改革は、93年12月に設置された総会直属の作業部会において論議が行われてきた。98年の総会においても、改革推進派加盟国と先送り派加盟国との間で激しい外交が繰り広げられた。
 参考人からは、国連改革の中で最も進展していないものが安保理改革であるとの見解が示され、その原因として、新常任理事国になるための客観的な基準の欠如、常任理事国数に関する米国とその他の国との認識の相違、新常任理事国への拒否権の付与の適否が挙げられた。また、日独の常任理事国入りは大多数の国が賛成しているが、両国以外にどの国を新たに常任理事国に入れるかで紛糾しており、安保理改革は停滞しているとの見解が示された。
 委員から、常任理事国入りの現状打開策、国会議員による取組の有効性について質されたが、参考人からは、我が国の常任理事国入りへの障害として、一部の国の国連大使による活動があり、そのような国についてはバイラテラルな説得も方策であり、国会議員による接触も政府との密接な協力の下で行われれば、状況によっては有効であるとの意見が述べられた。また、委員から、我が国の常任理事国入りの論議に常任理事国として何をなすべきかとの視点が欠けているとの指摘がなされた。これに対し参考人からは、常任理事国入りにより日本が何をしようとしているのかは必ずしも明確でなく、国際社会に日本の常任理事国入りは米国の安保理における投票数の増加になるに過ぎないとの懸念が存在するとの指摘もなされたが、我が国が日米関係を損なわず、例えば核軍縮・核不拡散で米国と必ずしも同じでないイニシアチブをとり意見を表明することはあり得る、我が国がミレニアム特別総会(1000年期特別総会)の予定される西暦2000年を目指した国連改革を国際的に呼びかけるのも一つの手段であるとの見解が示された。また、参考人から、我が国が常任理事国として行動する上での理念、哲学として日本国憲法、非核三原則、武器輸出三原則、ODA大綱等が安保理における行動に大きな政策的枠組みを提供することになるとの見解が示された。

 委員から、我が国が拒否権のない常任理事国になれば、義務や分担金の増額のみを伴うことになるのではないかとの懸念が表明された。これに対し参考人からは、大国を国連に残留させる安全弁、他の国連加盟国が大国との戦争に巻き込まれないための安全弁としての拒否権の有用性を認めた上で、新たな常任理事国が現在の常任理事国と同様に拒否権を持つことは、影響力を行使する上でやはり必要であるとの意見が述べられた。また、参考人から、かつての拒否権の多用・悪用にかかる問題はほぼ解決し、拒否権の適用範囲の縮小が問題であり、今後拒否権は国連憲章第7章の武力の行使に関してのみ適用する方向へと国際社会を導いていくべきであるとの見解も示された。

(経済社会理事会等の活用)

 経社理は、国連の主たる目的の一つである経済的・社会的国際協力の促進の任務に当たるが、委員から、経社理の強化により資本主義ルールの全世界への浸透が必要であるとの意見が述べられた。参考人からは、日本の経済力及び開発途上国重視策は世界の注目するところであり、経社理の活用は我が国の経済力をいかす上でよい観点であるとの見解が示され、また、信託統治地域の消滅により休業状態となっている信託統治理事会を活用し、人類の共通財、環境問題、人権問題といった国連憲章のつくられた時あまり考慮されなかった関心事を取り上げる新しい理事会を創設する案があることが紹介され、NGOや有識者の意見を参照しつつ我が国が具体的な提案を行うのも一つの道であるとの意見が述べられた。

(国連財政)

 深刻な状況の続く国連の財政問題について、参考人からは、国連の分担金は、各国のGDPを中心にした支払能力の基準に基づき決められているが、国連が国際的な政治機関として成長するためには、特定の国が突出した分担金を支払うのは問題であるとの見解が示された。また、国連を各国政府による分担金に依存した国際機関にしておくことが国際平和のためによいのかとの見地から、ごく一部であれ国連予算に直接課税の形をとるべきとの提案もなされていることが紹介され、国際的な運賃及び取引への課税のような例が挙げられた。

(3)新たな国連の在り方と我が国の貢献

 参考人から、我が国は国連において地味ではあるが非常に真摯な態度で諸問題に調停者として行動し、開発、アフリカ、軍縮、環境、人口等の問題で大きく貢献しており、多くの加盟国により認められている、今後、過去にもまさる政治問題、経済問題、社会問題その他の面での貢献が期待されているとの意見が述べられた。
 委員から、20世紀は戦争の世紀であったが、21世紀は平和の世紀とすべきであり、国連は第2次世界大戦の結果を捨て、核を持つ5つの国が常任理事国として国連を事実上牛耳っている状況を改め、日本やドイツのみならず、第2次大戦に関係のなかった開発途上国が新たな常任理事国になることが必須の条件であるとの意見が述べられた。これに対し参考人からは、20世紀に戦争がしばしば行われた事実のみならず、戦争の犠牲者に無辜の民衆が増えてきたという意味で人類がむしろ退歩しているとの意見、1945年に採択された国連憲章は戦勝国中心のものであるとの意見が示された。また、参考人から、国連憲章は国際連盟規約に比べ軍縮に力点を置いていないが、第1回国連総会では軍縮に関する決議が採択されるなど、国際社会の現実と国連憲章とに乖離が始まり現在に至っており、加盟国の認識が全く新しい革新的な国連をつくらなくてはいけないというところまでには進んではいないとの意見が述べられ、1945年の国連は変えなくてはならず、核兵器をつくる能力があるにもかかわらず政治的な決意としてつくらない日本やドイツのような国が新たな常任理事国になることに賛成であり、その意味でインドの核実験は不幸な事件であったとの意見が述べられた。さらに参考人から、我が国は国連の現状に満足せず同憂の国と新しい雰囲気をつくり革新的な力になるべきであり、今までの連合国を中心にした国連を敵に回すのではなく、また、国の能力を武力や分担金の額だけで判断する国連外交はすべきではないとの意見が述べられた。
 国際社会の主体としてNGO、多国籍企業、個人などの重要性が認識されてきている。この点に関し、参考人から、国連は基本的には、主権国家がつくるものであるから、各国政府が国連の主人公である状況は当分続くが、一国の中で政府の役割が制限され、市民社会及び市場の役割が大きくなっていることに対応して国際社会が変化し、今後、NGO、職能団体、マスコミ、専門家集団の果たす役割は大きくなるだろうとの見解が示され、また、各国議会に外交政策やビジョンをつくることを期待し、国会議員団が大きな意味での応援団として、スカンディナビア諸国やカナダのように、超党派的に国連外交の展開を視察し国連外交に参加することも有用であるとの意見が述べられた。
 委員から、21世紀の国連を考える上で、主権国家論の克服は重要な課題であるとの意見が述べられたが、参考人からは、内政不干渉の原則は、国連50数年の歴史を通じ様々な意味で狭く解釈される傾向にあり、各国の人権蹂躙行為に対してはもはや内政干渉ではないという解釈が確立しているとの見解が示され、また、世界人権宣言採択以来50年の間に国連人権高等弁務官の設置に至った人権問題の推移を一例に、一種の「おせっかい主義」が21世紀には大きな流れとして強くなるとの意見も述べられた。
 我が国の非軍事的な国連への貢献について、参考人からは、ODAの活用、途上国からの人材招請による日本の発展の学習がその最たるものとして示され、我が国の経済援助、技術援助は成果を生みつつあり、日本の交流計画に参加した人材がそれぞれの国において枢要な地位を占めているので、先見性のある外交が非常に重要であるとの意見が述べられた。
 なお、国連事務局における日本人職員及び管理職たる中堅クラスの日本人職員を増員する必要性について、参考人からは、日本は様々なハンディを負っているが、一方行き過ぎた支援策には問題があるとの指摘もなされ、日本人職員増員のために、人材ネットワークの構築等により、対処していくことが必要であるとの意見が述べられた。

3.その他

(1)コソボ問題

 NATO軍による空爆を契機に深刻さを増したコソボ問題に対し、我が国がどのように対応するべきか等について調査を行った。
 コソボ問題とは、基本的にはユーゴスラヴィア連邦共和国のセルビア共和国に属するコソボ自治州のセルビア人とアルバニア人との民族紛争問題である。奪われた自治権の回復を要求するアルバニア人に対し、セルビア人であるユーゴのミロシェビッチ大統領が軍事的弾圧や「民族浄化」を行っていることについて、これを人道問題であるとして、本年3月24日、NATO軍がユーゴに対し空爆を開始した。
 参考人から、コソボ問題はバルカン地域の複雑な歴史に伴う解決の非常に厳しい問題であり、基本的には空爆というような軍事力により民族問題を解決することは困難であるとの意見が述べられた。また、参考人から、今回の空爆はセルビア人によるアルバニア人への民族浄化に対し人道的な見地から行われたものであるが、アルバニア人を保護するという所期の目的がほとんど達成されていないのみならず、60万人もの難民を出すという更に悪化した状況を産み出しているとの指摘がなされ、また、空爆の目的が最近ではミロシェビッチ政権の打倒に変化しているように見られるが、空爆によって逆にミロシェビッチ政権の基盤が強化され、この目的も達成できないのではないかとの意見が述べられた。
 委員から、国際社会ではユダヤ人虐殺に対する反省から人権問題や民族問題は国内問題でありこれに口を挟むべきではないという考え方が否定されるようになってきており、今回コソボでは民族浄化が進行し内戦状態となり、結局NATOが軍事介入を行わざるを得なくなったということではないかとの意見が述べられた。これに対し参考人から、一般住民の虐殺については国際的、中立的な検証はされておらず、検証の必要性があるとの意見、NATOは空爆によりコソボ問題をどのように最終的に解決しようとしているかが重要であるが、少なくともコソボの独立は国際的には認めることはできないので、自治権の回復が最も望ましい解決方法であるとの意見が述べられた。また、停戦のためには空爆停止とコソボからの治安部隊の撤退を同時に行う形の提案が行われるべきであるとの意見が述べられた。
 我が国の貢献については、委員から、難民の援助、医師の派遣等を行うべきであるとの意見、NATOの空爆を名誉ある形で停止し、民族浄化の検証を行わせるためには国連等の機関を動かすべきであり、そのための貢献ができるとの意見、国連を通じてのある程度の対応はするとしても、我が国のこの地域への関与は深くはないので、国連を通じた貢献には限度があり、常任理事国でもない我が国が常任理事国並の資金負担等を求められることについては十分に考慮するべきであるとの意見が述べられた。これに対し参考人から、コソボ以外にもマケドニア等はより深刻な民族問題を抱えており、関係国によるバルカン・サミット等の会議が行われてはいるが、資金不足が大きな問題となっているとの指摘がなされ、我が国としては難民に対する援助等を行うのは当然であるが、政府間だけではないNGOや地方自治体も含めた形の国際会議、平和の会議の準備や費用負担を積極的に行うべきであるとの意見が述べられた。
 委員から、今回の空爆は国連憲章違反であり許されないのではないかとの意見が述べられたのに対し、参考人からは、空爆は安保理の許可がなく国連憲章違反であるとの見解が示されるとともに、NATOが前面に出ていて国連がこの地域で活動できないという事態は国連の危機であり、国連の意義そのものが問われているとの意見が述べられた。

(2)日本外交の在り方

 参考人から、現在の日本外交を取り巻く世界情勢は、ソ連の崩壊後、急激に変化しており、その要因は、国際政治の主体が国際機関、NPO等国家以外のものがプレーヤーとなり始めていること、東西対立のたがが外れ、かえって世界が不安定になっていること、米国の力が突出していること、中国が躍進していること等のためであるとの指摘がなされた。このような状況下における日本外交を支える体制は、外務省による外交のほか、議員外交等があるが、参考人からは、現在の外務省体制が他国より小さいため、目に見えないところで日本外交の弱さとなっているとの意見が述べられた。また、国会は外交論議をもっと行うべきであり、そのためには機構的なインフラ整備を行うべきであるとの意見も述べられた。
 委員からは、外務省の体制強化は必要であるが、外務省の行う外交は基本的には国益を増進する外交であるから、外務省以外のチャンネル、例えば議員外交やNPO等の民間外交も支援し、お互いに協力する方策が必要であるとの意見が述べられた。これに対し参考人から、外交の一元化は必要だが、重層的なかかわりが必要であり、議員外交は積極的に推進すべきであるとの意見が述べられた。また、委員から、北朝鮮のように議員外交がほとんどできない国については、米国式にNGOやスポーツ・チームを活用したルート作りが必要であるとの意見が述べられ、国際政治のプレーヤーであるNPO、民間組織、個人等を国際関係の中でいかに育てるかについて言及があり、参考人からは、NPO等の活動を政府、国会が制度としてバックアップするべきであるとの見解が示された。
 委員から、冷戦崩壊後に我が国が主体的に国際貢献を行う上で、国際平和というような漠然としたものではなく、より明確な国益の定義を行うべきであるとの意見が述べられた。これに対し参考人から、国家は自国民の利益の極大化を目指すことが国益を考える上での原点であり、例えば日米関係においても個別具体的に考え行動することが必要であって、ミャンマー、イラン等に対しても独自の政策があってもよいとの意見が述べられた。また、ODAについては参考人から、国民的理解を得るためには我が国にどのような利益があるかを考えるべきであって、政策だけを切り離して考えるべきではなく、我が国が重点的に支援すべき国を考え、実施していくことが必要であるとの意見が述べられた。さらに、委員から、21世紀に米中が屹立するはざまで、我が国は中立を守ることこそ国益にかなうことになるとの意見、外交上の国益を考える上で「正義」、「人道」という感覚を持つことが必要であるとの意見が述べられた。これに対し参考人から、自国のことを考えるのが国益であり、現下の日本を取り巻く状況の中では同盟が唯一の選択肢であり、その相手は基本的価値観を共有する米国以外にはない、また「正義」という感覚は大事な意味を持ち、座標軸として価値判断を避けないことが一番の基本であるとの見解が示された。
 委員から、日本外交の基本に据えるべきものは国連憲章であり、このことは日米安保条約に対する評価がいかなる立場であろうと一致できるのではないかとの意見が述べられたのに対し、参考人からは、国連が強化され、集団安全保障体制に世界全体が移行していくことが理想であるが、残念ながらそうなってはいないとの意見が述べられた。
 また、参考人から、我が国が国際紛争の平和的解決ということのみに固執すれば、他の国が平和的でない解決方法をとらなければならなくなり、巨額な資金協力を行っても国際社会では二流国扱いしかされないので、我が国自身が国を守るという明確な姿勢を各国に示すべきであり、平和的解決しかオプションがない国家では外交でも十分な役割を果たし得ないとの意見が述べられた。
経済外交について、委員から、我が国が目指すべき最後の座標軸は自由貿易体制であり、経済外交が大事であるが、省庁間の利害対立があり現体制はうまく機能していないので、中央省庁再編による内閣府の創設を含む機構改革が必要ではないのかとの意見が述べられた。これに対し参考人から、経済外交において外務省は最も重要なプレーヤーであるが、外務省だけでは無理であり我が国の国益に収斂させるためのメカニズムが必要であるとの意見が述べられた。
 さらに、委員から、我が国の外交戦略を考える上で、日中関係が重要であるが、我が国が有利な交渉条件をつくるために、インドに対しより積極的な対応を行うべきであるとの意見が述べられた。参考人からは、インドとの関係については核実験に対する制裁措置をとったことにより、我が国が一番関係を悪化させているが、これが賢明な策か否かは再考を要するとの見解が示された。