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国民生活・経済に関する調査会

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国民生活・経済に関する調査報告(中間報告)(平成9年6月11日)

はしがき

 今日、我が国の経済社会を取り巻く状況としては、少子・高齢化、経済活動等の国際化、情報化の進展等の変化がみられ、その変化は二十一世紀に向けてより一層拡大するものと思われる。
 本調査会は、今期の調査項目を「二十一世紀の経済社会に対応するための経済運営の在り方」と決定し、公正で活力がある経済社会と、豊かで安心して暮らせる国民生活の実現を目指して、「少子・高齢化」、「国際化」、「情報化」等に適切に対応するための経済運営の在り方について検討を進めてきた。
 初年度目は、我が国の経済運営の現状と課題について、政府からの説明聴取、参考人からの意見聴取、さらに国内派遣による実情調査を行い、平成八年六月には、政府からの説明、参考人からの意見を中間的にとりまとめた報告書を議長に提出した。
 二年度目に当たる本年は、社会資本整備及び社会保障の在り方を中心に調査を行うこととし、政府からの説明聴取、参考人からの意見聴取、海外派遣による現地調査、国内派遣による実情調査、さらに委員の意見表明等の活動を行ってきた。
 本報告は、こうした活動を踏まえ、社会資本整備及び社会保障の在り方についてとりまとめ、必要な提言を行うものである。

目次

二十一世紀の経済社会に対応するための経済運営の在り方

I 社会資本整備の在り方

一 社会資本整備の現状

(一)国民生活の視点から見た社会資本整備の現状

 我が国は、国民の努力等によって、戦後五十年の間に他の先進国に比して高い経済的発展を遂げ、国内総生産(GDP)は米国に次ぎ世界で第二位となった。また、一人当たり国民所得も経済協力開発機構(OECD)加盟国中で第三位となるなど、経済大国と呼ばれるようになった。しかし、国民生活の視点からみると、経済力に見合った豊かさを実感できないとの不満も多く、その一因として、生活関連の社会資本整備の後れが指摘されている。
 社会資本は、生活環境や生産活動の基盤となるもので、主として国・地方公共団体などの公的部門でその整備が図られるものである。具体的には、道路、港湾、鉄道、空港、住宅、上下水道、電話、公園、文教施設、社会福祉施設、社会教育施設、廃棄物処理施設などで、豊かな国民生活の実現を図る上で、重要な位置づけをなすものである。
 社会資本整備のために投資された規模(年間)を公的固定資本形成額の推移でみると、昭和三十年度に二兆四千二百億円(平成二年基準)であったものが、平成六年度には三十九兆四千五百億円(同)となり、昭和三十年度の十六倍程度の伸びを示しており、GDPの伸び(九倍程度)をしのぐ高い伸びとなっている。
 また、公的固定資本形成額を対GDP比でみると、昭和三十年代後半から五十年代にかけては8%から10%で推移していたが、昭和六十年には6%台まで低下した。その後は6%台で推移してきたが、平成四年度以降は景気対策として公共事業が積み増されたため7%から8%台と高くなっている。公的固定資本形成額のうち、一般政府固定資本形成額の対GDP比(平成六年度)は6%台でアメリカ、ドイツの三倍程度、フランスの二倍程度になっている。
 公共投資額の分野別の配分の推移をみると、昭和三十年代半ばから四十年代後半にかけての高度経済成長期には、経済成長の隘路打開のために、道路、港湾、通信等の交通通信分野の整備に重点が置かれ、この分野のシェアが高まった。また、四十年代後半以降は経済面のみでなく国民生活面を重視する傾向が強まり、下水道、都市公園といった生活環境分野のシェアが高まった。しかし、昭和五十年代半ば以降公共投資額の分野別の配分比率はほとんど変化しておらず、平成六年度では交通通信の32.0%、生活環境の31.1%、国土保全の7.7%、農林漁業の8.0%、その他の21.2%となっている。
 公的社会資本のストック額をみると、昭和三十年度の三十六兆円(平成二年基準)から平成五年度には約六百十七兆円(同)に増加し、この約四十年間に十七倍になっている。また、平成五年度の公的社会資本のストック額を分野別の構成比率でみると、交通通信28.6%、生活環境26.0%、国土保全9.2%、農林漁業10.4%、その他25.8%となっている(経済企画庁推計)。
 一方、社会資本の整備水準をみると、まず、住宅・生活環境分野においては、例えば、住宅の1戸当たりの平均延べ床面積は、昭和四十三年度の七十三・八平方メートルから平成五年度の九十一・九平方メートルに増加しているものの、一人当たりの平均延べ床面積は、三十一平方メートルで、アメリカの五割程度、ドイツ、イギリス、フランスの八割程度である。下水道の処理人口普及率は、昭和四十年度の8%から平成七年度の54%となり、イギリスやドイツの五割から六割程度となっている。しかし、地域による整備水準の格差は大きく、例えば、平成六年度の政令指定都市の普及率95%に比べ、五万人未満の市町村の普及率は14%となっている。上水道普及率は、戦前から整備が進められていたこともあり、昭和四十年度には69%、平成七年度には95%となっており、イギリス、フランス、ドイツとほぼ同一水準である。住民の一人当たりの公園面積は、昭和四十二年度に二・四平方メートルであったものが、平成七年には七・一平方メートルとなっている。しかし、大都市における公園面積は狭く、特に、東京二十三区では二・九平方メートルとなっており、ワシントンの十六分の一程度、パリの三分の一程度である。図書館と博物館の箇所数は、昭和四十六年度にそれぞれ九百十七箇所、三百七十五箇所であったものが、平成五年度にはそれぞれ二千百七十二箇所、三千七百四箇所になっており、十万人当たりの図書館の箇所数は一・二箇所でドイツの一割弱、フランスの四割程度である。
 また、交通分野においては、例えば、道路の舗装率は、昭和四十年度に7.4%と低い水準にあったが、平成六年度には、72.8%になり、イギリス、ドイツ、イタリアの七割程度となっている。三大都市圏の高速鉄道(JR・民鉄・地下鉄)営業キロメートルは、昭和四十年度の三千四百十五キロメートルから平成六年度の四千三百八十七キロメートルと一・三倍になっている。
 通信分野においては、例えば、百人当たりの加入電話普及率は、昭和四十年に七・五であったものが、平成六年度には四八・一となり、六〇・二のアメリカの八割程度であるが、イギリス、ドイツとは同一水準にある。ケーブルテレビ契約数は、昭和六十一年度末の四十三万契約から平成八年九月末に四百三万契約になったが、アメリカの七分の一、ドイツの五分の一である。
 安全で快適な国民生活を実現するためには、生活を取り巻く住宅や生活環境施設が一定の水準で整備され、それが適切に配置されていることが重要である。
 同時に、今後の国際化や高齢化の進展に対応して、経済社会の安定的な発展と豊かな国民生活を実現するためには、環境への影響なども踏まえ、交通の円滑化、日常生活や国際交流に必要な交通の維持を図っていくことが重要となる。また、情報通信は確実に高度化しており、その活用によって、国民生活のあらゆる面で多様なサービスを提供することが可能になることから、国民誰もが容易に利用できることにも十分考慮し、情報化の進展に対応できる基盤を整備していくことが重要となる。

(二)住宅・生活環境整備の現状
1 住宅

 国民にとって、最も重要な生活基盤である住宅の現状を、平成五年の「住宅統計調査」(総務庁統計局)でみると、全国の住宅数は4,588万戸であり、一世帯当たりの住宅数は1.12戸に達している。我が国の住宅事情は、終戦直後の約420万戸の住宅不足という状況から再出発し、昭和四十三年には全国値で、また四十八年には全都道府県で、住宅数が世帯数を上回った後、量的な面では一応の充足をみている。居住世帯のある住宅は4,077万戸で、空家は約448万戸となっている。なお、全国平均の空家率は9.8%であり、地域別にみても三大都市圏が9.8%、その他の地域が9.7%と地域差はあまりない。
 住宅の形態別では、一戸建59.2%、共同住宅35.0%、長屋建5.3%となっており、共同住宅の比率が伸びてきている。これを地域別にみると、三大都市圏では共同住宅が46.9%と高く、特に、京浜葉大都市圏では共同住宅が51.9%にも達している。また、その他の地域では一戸建の比率が高くなっており、このような地域差は、都市化の状況や住まいの様式の地域差に起因するものであると考えられる。
 住宅規模は徐々に拡大を続けており、平成五年で平均室数四・八五室、畳数三十一・四一畳、延べ床面積九十一・九二平方メートルに達している。これを所有関係別でみると、持家は平均室数六・〇九室、畳数四十・七三畳、延べ床面積百二十二・〇八平方メートルであるのに対し、借家はそれぞれ二・九二室、十六・九四畳、四十五・〇八平方メートルであり、格差が存在しているといえる。地域別一住宅当たりの平均規模について、三大都市圏とその他地域との差をみると、三大都市圏の水準が低くなっており、なかでも京浜葉大都市圏が極めて低い水準にある。
 政府の住宅建設五箇年計画では、住宅整備の目標として居住水準を定めており、そのなかには、すべての住宅が満たすべきシビルミニマム的な水準としての「最低居住水準」(例:四人世帯で住戸専用面積五十平方メートル)と、住宅ストックの質の向上を誘導するための基準である「誘導居住水準」(例:四人世帯の都市型共同住宅で住戸専用面積九十一平方メートル)がある。平成五年に「最低居住水準」に達していないものは7.8%であり、「誘導居住水準」を達成したものは40.5%となっている。いずれの水準も成状況は改善されつつあるが、特に最低居住水準については、なお一層の達成が求められるとともに、水準自体の向上が求められる。
 住宅の所有関係をみると、居住世帯のある住宅4,077万戸のうち、持家が2,438万戸、借家が1,569万戸である。借家の内訳をみると、公営・公団・公社288万戸、民営借家1,076万戸、給与住宅250万戸であり、民営借家の割合が高まってきている。世帯別に住宅の所有関係をみると、「長子が十八歳以上の世帯」及び「三世代同居世帯」の持家率が90%前後と著しく高くなっている。これに対し、「夫婦と六歳未満の子供の世帯」では、持家率は26.4%であり、民営借家の比率が45.3%と高くなっている。また、「高齢者単身世帯」では、持家率は64.8%と同居世帯と比べれば相当程度低い水準となっている。
 住宅の構造をみると、防火性のある住宅の割合が増加してきており、平成五年には、木造住宅が34.1%、防火木造住宅が34.0%、鉄骨・鉄筋コンクリート造をはじめとする非木造住宅が31.9%となっている。また、非木造住宅の増加に伴い、住宅の中高層化も進展している。なお、住宅の老朽度を「危険または修理不能」又は「大修理を要する」住宅の比率でみると、建築時期の古いものほどその比率が高い傾向にある。なかでも木造民営借家の老朽度が際立って高くなっており、維持管理上の課題があることをうかがわせる。
 住宅の寿命を建築時期別の統計から試算してみると、昭和六十三年から平成五年までの五年間に滅失した住宅の平均築後年数は約二十六年、また、現存住宅の「平均年齢」は約十六年と推測される。アメリカの住宅については、「平均寿命」が約四十四年、「平均年齢」が約二十三年、イギリスの住宅については、「平均寿命」が約七十五年、「平均年齢」が約四十八年と推測され、我が国の住宅のライフサイクルは非常に短いものとなっている(建設省「国土建設の現況」平成八年)。
 住宅建設及び流通の動向をみると、新設住宅着工件数は、国民の旺盛な住宅需要と高度経済成長等を背景に戦後増加傾向を示し、昭和四十七年には186万戸とピークに達した(建設省「住宅着工統計」)。その後、二度のオイルショック等による景気の変動もあり増減はあるものの、平成七年度には148万戸に達している。一方、中古住宅の流通量(持家として取得した中古住宅数)は、平成四年で137千戸であり、新規の住宅に比べてかなり低くなっている。こうした新規住宅への偏りは住宅に関するコストを高くする可能性がある。ちなみに、アメリカの中古住宅流通量は、平成四年に352万戸に達しており、我が国に比べてかなり高い水準となっている。
 住宅価格の現状をみると、首都圏における住宅価格の年収に対する倍率は、マンションは平成二年の八・〇倍から、平成七年には四・八倍に下がっており、建売住宅は平成二年の八・五倍から平成七年の六・七倍に下がっているが、まだ依然として高い水準であるといえる。住宅価格に大きく関係する地価の動向をみると、平成九年一月一日現在の公示地価は、全国平均で前年比2.9%下がり六年連続の下落となっており、地価は落ち着いてきているといえる。しかし、国土庁の「第二回世界地価等調査」によると、平成八年の住宅地の地価を東京を一〇〇とした指数でみると、ニューヨークは三・六、パリは七・四、ロンドンは一一・九となっており、東京の住宅地の価格の水準がかなり高くなっている。
 住環境の現状として、日照時間をみると、平成五年の全国平均では、五時間以上59.7%、三時間から五時間20.8%、一時間から三時間9.6%、一時間未満3.0%となっているが、東京や大阪では三時間未満が約二割強にのぼっている。また、敷地の接道状況をみると、平成五年の全国平均では、二メートルから四メートル道路29.6%、二メートル未満道路または接していないが8.0%となっており、住宅建設五箇年計画で定められている住環境の基礎水準である四メートル以上の道路に接していない住宅が約四割弱ある。さらに、通勤時間の現状について、「家計を主に支える者が雇用者である普通世帯」の「家計を主に支える者」の通勤時間をみると、全国平均では三十分未満が53.0%、三十分から五十九分が28.7%、六十分から八十九分が12.5%、九十分以上が3.6%となっている。しかし、大都市圏では通勤に一時間以上かけている割合が高く、京浜葉大都市圏では約32%、京阪神大都市圏では約21%となっている。
 住まいに対する満足度をみると、住まいに「満足している」11.1%、「まあ満足している」53.0%、「多少不満がある」30.6%、「非常に不満がある」4.8%となっており、満足と不満の割合は、過去の調査とあまり変わっていない。住宅の各要素に対する評価をみると、「収納スペース」(57.3%)に対する不満が最も高く、次いで「遮音性や断性」(54.8%)、「台所の設備、広さ」(45.3%)などの住宅の性能、設備に対する不満が高くなっている。また、住環境の各要素に対する評価をみると、「集会所・図書館などの接近性」(48.7%)、「子どもの遊び場・公園などの量、接近性」(43.7%)、「騒音、大気汚染などの公害の状況」(38.1%)に対する不満が高くなっている(建設省「住宅需要実態調査」)。
 このように我が国の住宅は、量的には一応整備がととのってきたものの、特に大都市圏で「高・遠・狭」といわれるように、依然として質が十分とはいえない。また、我が国の中古住宅の流通量は新築に比べて少なく、大量建設・大量廃棄の構造になっている。これはGDPを押し上げる要因になる一方、良質なストック形成が行われないまま、住み替え需要に的確に応じられず、住生活の充実にコストと手間暇がかかる構造になっていると考えられる。このため、居住水準の向上、高耐久化など、質の高い住宅が求められている。

2 生活環境
(公園)

 公園整備の現状をみると、平成七年度末における都市計画区域内の都市公園等の箇所数は、八万三千八十一箇所で、その面積は、八百九十二・七平方キロメートルとなっている(自治省「公共施設状況調」平成七年度)。なお、五年前(平成二年度末)と比較して、箇所数は20.0%増、面積は22.7%増となっている。また、平成七年度末における都市計画区域内の人口一人当たり都市公園等面積は、七・八平方メートルとなっている。人口一人当たり都市公園等面積を地方公共団体別にみると、町村では十・四平方メートル、小都市(人口十万人未満)では八・七平方メートルとなっているのに対し、特別区では四・一平方メートルとかなり低くなっている。都市公園等は良好な都市環境の形成、災害に対する都市の安全性の確保、住民の健康の維持増進、レクリエーション活動や文化活動のニーズの充足など多様な役割を果たす基幹的な公共施設であり、引き続きその整備水準の向上が求められる。ちなみに、政府の経済計画においては、<歩いて行ける範囲の公園の普及率>を平成六年度の54%から、二十一世紀初頭にはおおむね全てにするとしている。

(下水道・上水道)

 下水道整備の現状をみると、平成七年度末における公共下水道の現在排水人口は六千六百八十三万八千人であり、また、農業集落排水施設及び漁業集落排水施設の現在排水人口は、それぞれ百六万五千人、四万四千人となっている(自治省「公共施設状況調」平成七年度)。この結果、公共下水道、農業集落排水施設及び漁業集落排水施設に係る現在排水人口の行政区域内人口に対する割合は53.8%となっている。下水道普及率を地方公共団体別にみると、特別区では100%となっているのに対し、町村では14.5%と低い水準にとどまるなど、地域間の格差がみられる。こうした我が国の下水道整備が本格的に行われるようになったのは戦後であり、欧米諸外国と比べ我が国の下水道普及率は低い水準となっている。下水道事業の目的は、(1)トイレを水洗化するとともに汚水を速やかに排水することにより、住宅地周辺の環境を改善すること、(2)集めた汚水を適正に処理して適切な地点に放流すること、(3)都市内に降った雨水を速やかに排水し浸水の防除を行うこと等であり、快適な生活環境や河川等の水質向上を図るためには、下水道の整備は重要となる。
 また、上水道等普及率をみると、平成七年度末において全国平均は95.7%で、全市町村の71.3%に当たる二千三百二十二団体が普及率90%以上となっており、上水道の整備はかなり進んできているといえる(自治省「公共施設状況調」)。ただ、近年において渇水が頻発しており、平成六年までの十八年間をとれば全ての都道府県で渇水が発生し、その間に渇水にみまわれた年が十一回以上あった地域もある。こうした渇水の要因のひとつとしては、生活水準の向上等により一人当たりの使用水量が増加傾向にあることがあげられる。このため、節水の促進、雨水の循環利用などの渇水対策が求められる。また、水源涵養機能の回復や森林の保全も求められる。

(ごみ処理施設)

 ごみ処理施設整備の現状をみると、市町村は、その区域内における一般廃棄物の処理施設等の整備計画を定め、これに沿って、ごみの収集、処理等の施設整備を進めている。ごみ処理は、焼却、埋立、高速堆肥化等の収集処理のほか、自家処理が行われている。平成七年度中のごみ排出量は、五千三百五十八万二千トンであり、全体の95.0%が収集処理されている(自治省「公共施設状況調」平成七年度)。ごみの焼却及び高速堆肥化処理率(焼却及び高速堆肥化による処理量の総排出量に占める割合)をみると、平成七年度では全体で73.7%となっているが、地方公共団体別では、大都市(政令指定都市)が78.4%と高く、町村では57.0%と低い水準にある。一方、平成五年度の一人一日当たりごみ排出量は千百三グラムと近年あまり変化はないが、一般廃棄物の最終処分場の残余容量は一億四千九百万立方メートルであり、その残余年数は八・一年となっている。新規のごみ処理施設の立地については、地域住民の理解と信頼を得られるよう、環境面への影響等に関する情報公開の拡充を行うとともに、環境への影響負荷を小さくする技術開発の促進が望まれる。また、今後は、排出されたごみをどう処理するかだけではなく、リサイクルの推進等ごみの量そのものを抑える仕組みを考えることが重要となる。

(文化施設)

 文化施設の現状を、文部省の「社会教育調査」でみると、平成五年度の公民館は一万七千三百四十七箇所であり、平成二年度と比べて1.2%増となっている。博物館は三千七百四箇所で24.8%増、文化会館は千二百六十一箇所で24.9%増といずれも顕著な伸びを示している。図書館は二千百七十二箇所で11.4%増となっているものの、町村単位でみた場合の設置率は25.5%と依然低い状況にある。施設の利用状況をみると、平成四年度の公民館の利用者は二億六百三十八万人、博物館の利用者は二億八千三百九万人で、平成元年度に比べて、それぞれ6.2%増、15.5%増となっている。特に、図書館の利用者は平成元年度の七千六百七万人から平成四年度の一億五十万人へと、32.1%増と大幅な伸びをみせており、潜在的な需要が高いことがうかがわれる。一方、「生涯学習に関する世論調査」(平成四年)によると、公立の施設についての希望・要望については、「夜間や休日でも利用できるようにする」39.3%、「誰でも気軽に参加できるような講座や行事、イベントを増やす」34.7%が上位で、「もっと数を増やす」28.1%を上回っており、施設の整備とともに、それをどのように利用できるかに関心が高まっている。

(医療施設)

 医療施設の現状をみると、平成七年十月一日現在の全国の医療施設数は十五万五千八十二施設で、前年に比べて1.7%増となっている(厚生省「医療施設調査 病院報告」平成七年)。そのうち、病院は九千六百六箇所で、前年に比べて1.3%減となっており、平成二年の一万九十六箇所をピークとして減少してきている。病院を種類別にみると、一般病院が八千五百十九箇所で前年に比べて1.4%減少しているほか、精神病院が千五十九箇所、伝染病院が五箇所、結核療養所が八箇所となっている。また、一般診療所は八万七千六十九箇所、歯科診療所は五万八千四百七箇所で、前年に比べてそれぞれ1.7%増、2.1%増となっており、いずれも増加傾向にある。
 医療施設の総病床数は、平成七年十月一日現在、百九十二万九千三百九十七床で前年に比べて0.5%減となっている。このうち、病院の病床数は、百六十六万九千九百五十一床(総病床数の86.6%)で前年に比べて0.4%減となっている。一病院当たりの平均病床数は、平成七年十月一日現在で百七十三・八床となっている。平成七年の一般病床の平均在院日数をみると、三十三・七日であり、前年に比べて〇・九日ほど短くなっている。
 病院の平成七年十月一日現在の従事者総数は、百五十二万五千九百九十一人で、前年に比べて2.9%増となっている。従事者数を業務の種類別にみると、医師は十六万四百四人で、このうち常勤医師は十三万一千三百八人である。また、看護婦(士)は四十三万九千九百八十二人、准看護婦(士)は二十四万四千二百八十九人である。業務の種類別に従事者数を百床当たりでみると、医師は九・六人、常勤医師は七・九人、看護婦(士)は二十六・四人、准看護婦(士)は十四・七人である。
 病床数と医師数を欧米主要国と比較すると、我が国の一病床当たり人口は七十五人であり、ドイツ(旧西ドイツ地域)は八十九人、アメリカは百七十一人、フランスは百七十人である。また、我が国の人口十万人当たりの医師数は百八十三人であり、アメリカは二百十四人、ドイツは二百五十六人、フランスは三百十九人となっている(総務庁「世界の統計」平成九年)。我が国の医療施設は、一病床当たりの人口が世界でもトップクラスになるなど、かなり整備が進んできているものの、医師の数は少ないといえる。

(社会福祉施設)

 社会福祉施設の整備の現状を、厚生省の「社会福祉施設等調査」(平成七年)でみると、平成七年十月一日現在の、老人ホームや老人デイサービスセンターをはじめとする老人福祉施設は一万二千九百四箇所、定員は三十一万六千四百二十人であり、二年十月一日現在と比べて施設98.3%増、定員28.1%増といずれも大幅な伸びを示している。高齢化が急速に進むなか、老人福祉施設に対するニーズは高まってきており、今後も施設の整備を着実に進めるとともに、ホームヘルパーなどの人材の確保も重要となる。平成六年十二月には、従来の「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」(平成元年十二月策定)が見直され、「新ゴールドプラン」が策定された。新ゴールドプランでは、平成十一年度までに、特別養護老人ホーム二十九万人分、老人保健施設二十八万人分、ホームヘルパー十七万人等を整備することとなっており、その着実な推進が求められる。
 児童福祉施設の現状をみると、平成七年十月一日現在で三万三千二百三十一箇所、定員が二百一万四千四百九十七人で、二年十月一日現在と比べて、施設数には大きな変動はないものの、定員は2.9%減となっている。児童福祉施設の大部分を占める保育所は、平成七年十月一日現在で、二万二千四百八十八箇所、定員が百九十二万二千八百三十五人で、二年十月一日現在と比べてそれぞれ0.9%減、2.9%減となっている。平成七年十月一日現在の保育所の在所率は87.3%であり、保育所の施設は量的には足りてきているものの、女性の社会進出や共働き世帯の増加などによる多様な保育ニーズに対応するため、質の充実が求められる。平成六年十二月には、低年齢児(〇~二歳児)保育や延長保育の拡充などの目標値を定めた「緊急保育対策等五か年事業」が策定され、平成七年度から実施されているところであるが、こうした施策による子育て支援の充実が求められる。
 身体障害者更生援護施設の現状をみると、平成七年十月一日現在で、千三百二十一箇所、定員は四万五千五百九人であり、二年十月一日現在と比べてそれぞれ27.9%増、16.8%増となっている。また、精神薄弱者援護施設は二千三百十二箇所、定員は十二万二千四百七人であり、平成二年十月一日現在と比べて、それぞれ33.8%増、30.8%増となっており、平成七年十月一日現在の在所率は、身体障害者更生援護施設が92.5%、精神薄弱者援護施設が97.6%と高くなっている。一方、平成三年には、身体障害者が二百八十五万六千人おり、そのうち施設入所者は十三万四千人(うち老人福祉施設に約六万五千人)、在宅の身体障害者のうち障害の程度が一級の者が六十三万八千人である(厚生省「身体障害者実態調査」平成三年)。また、平成二年には、精神薄弱児と精神薄弱者は三十八万五千人、そのうち施設入所者は十万一千人、在宅の精神薄弱児(者)で障害の程度が重度・最重度な者は十二万四千人である(厚生省「精神薄弱児(者)福祉対策基礎調査」平成二年)。このように障害の程度が重い者の数に比べ、施設の整備は十分ではない。
 平成七年十二月に策定された「障害者プラン」においては、身体障害者更生援護施設のうちの身体障害者療護施設や、精神薄弱者援護施設のうちの精神薄弱者更生施設などの充実を図ることとしている。

(三)交通基盤整備の現状
1 道路

 戦後我が国では、モータリゼーションが急速に進み、これに対処するため、道路整備が急速に行われてきた。
 道路整備の現状をみると、平成六年四月一日現在で、一般国道の実延長五万三千三百二キロメートル、都道府県道の実延長十二万三千八百七十七キロメートル、市町村道の実延長九十五万三千六百キロメートルとなっており、一般道路の実延長は合計百十三万七百七十八キロメートルとなっている。整備率(整備済延長を実延長で除した値)をみると、一般国道55.0%、都道府県道47.9%、市町村道47.0%となっている。舗装率は72.8%であり、特に一般国道では98.4%となっているなど、整備は着実に進んできているといえる。また、歩道等の設置されている道路の延長は平成六年度末で十二万四千二百二キロメートルとなる見込みであり、長期的にみて歩道等の設置が必要な道路(市街地や住宅地等の二車線以上の道路及び幹線道路で歩行者が通行する道路等で約二十六万キロメートル)に対する設置率は48%となっている。
 高規格幹線道路の現状をみると、平成八年度末の供用延長(見込み値)で、総延長は六千七百六十八キロメートルであり、そのうち、高速自動車国道が六千百十四キロメートル、本州四国連絡道路が百八キロメートル、一般国道の自動車専用道路が百八十九キロメートルとなっている。
 道路はこのように着実に整備されているが、例えば、国道クラスでも片側二車線が確保されているのは、我が国では9.6%であるのに対して、アメリカ26.4%、フランス20.4%、イギリス12.5%となっている(我が国とイギリスは平成五年。他は平成四年)。また、環状道路整備率(環状道路をもつ都市の割合)をみても、我が国は9%(三大都市圏を含まない、人口三十万人以上の都市及び県庁所在地が対象。平成七年)であるのに対し、アメリカは47%(人口十万人以上の都市が対象。平成四年)、欧州は25%(イギリス、フランス、イタリアの人口十万人以上の都市が対象。平成三年)となっている。
 自動車の保有状況を乗用車でみると、平成七年度末で四千五百七万台となっており、十年前(昭和六十年度末)の二千七百七十九万台と比べて一・六倍となっている。
 このように自動車が増加するなかで、交通渋滞や騒音、大気汚染などが国民生活上の大きな問題となっている。
 そこで、道路の混雑状況をみると、一般国道・主要地方道・一般都道府県道(車道幅員五・五メートル以上の区間)はともに、混雑度一・〇以上(道路の適正な容量を超えた自動車台数が通行している状態)の延長が引き続き増大しており、主要区間での交通混雑は依然深刻なものとなっている(建設省「道路交通センサス」)。混雑による走行速度の低下は、走行時間の増大、燃料効率の低下による走行経費の増大に大きな影響を与えるだけでなく、燃料消費量の増大や大気汚染の原因となるNOx(窒素酸化物)等の排出量の増大にもつながるものであり、全国での渋滞による損失時間を金額に換算すると、約十二兆円にのぼるという試算(建設省推計)もある。
 自動車交通騒音の状況をみると、平成七年度の測定結果では、全国の測定地点(四千三百八十地点)のうち、環境基準が四時間帯(朝・昼間・夕・夜間)すべてで達成されたのは五百五十五地点(12.7%)であり、また、四時間帯すべてで達成されなかったのは二千四百二十三地点(55.3%)、四時間帯のいずれかで達成されなかったのは千四百二地点(32.0%)であり、環境基準を全く達成できない地点が五割を超すなど自動車交通騒音は依然として大きな問題となっている(環境庁「自動車交通騒音実態調査報告」平成七年)。
 自動車排出ガスの状況をみると、平成七年度の測定結果では、一酸化炭素(CO)や二酸化硫黄(SO2)などがすべての有効測定局(年間測定時間が六千時間以上の測定局)において環境基準を達成しているものの、二酸化窒素(NO2)や浮遊粒子状物質(SPM)などは大都市地域を中心に環境基準の達成状況が低い。二酸化窒素は、平成七年度においての有効測定局三百六十九局のうち二百六十局(70.5%)で環境基準を達成しており、平成六年度が三百五十九局中二百四十二局(67.4%)であったことに比べると、環境基準の達成率はやや上昇したが、依然、横ばい状態である。浮遊粒子状物質は、平成七年度の二百十六有効測定局のうち、長期的評価に基づく環境基準を達成したのは七十六局(35.2%)で、六年度の二百十局中六十九局(32.9%)と比べるとやや上昇したものの、依然として低い水準で推移している(環境庁「自動車排出ガス測定局測定結果報告」平成七年度)。
 交通事故の状況をみると、平成八年の交通事故死者数は、前年に比べて七百三十七人減の九千九百四十二人で、九年ぶりに一万人を下回ったものの、依然として多くの尊い人命が失われている。特に、近年は高齢者の事故死者数の急増に加え、平成八年の交通事故発生件数は過去最多となるなど、交通安全対策の推進は重要な課題となっている。
 なお、総理府の「社会資本の整備に関する意識調査」(平成六年七月)によると、居住地周辺の社会的な施設で特に整備してほしいものとして、「道路」(27.2%)を挙げた者の割合が一番高いなど、道路整備に対する国民のニーズは強い。
 しかし、道路整備を進めるに当たっては、騒音や大気汚染などによる生活環境の悪化をできるだけ防ぐ観点から、公共交通機関との連携が必要である。

2 空港

 戦後、我が国において本格的な民間空港の整備が開始されたのは、昭和三十一年に「空港整備法」が制定されてからであった。
 空港整備の現状をみると、我が国には、第一種空港(新東京国際空港、関西国際空港及び国際航空路線に必要な飛行場)が四箇所、第二種空港(主要な国内航空路線に必要な飛行場)が二十五箇所、第三種空港(地方的な航空運送を確保するため必要な飛行場)が四十九箇所、その他の空港が十二箇所と、平成八年九月現在、全国に九十の空港がある。
 航空旅客輸送の推移をみると、国際航空旅客輸送は、昭和六十年度は千七百五十八万人であったが、平成二年度には三千百五万人、六年度には三千八百八十六万人に達している。また、平成十二年度(二〇〇〇年度)には五千五百万人、十七年度(二〇〇五年度)には六千四百四十万人にのぼると予測されている。一方、国内航空旅客輸送も、昭和六十年度で四千三百七十八万人、平成二年度で六千五百二十五万人、六年度で七千四百五十五万人と順調に伸びている。また、航空貨物輸送については、平成七年度の国際航空貨物輸送が二百十二万六千トン、国内航空貨物輸送が七十九万一千トンとなっており、いずれも伸びてきている。
 このように我が国の航空輸送は、時間価値の上昇に伴う高速ニーズの高まりや内外の人的・物的交流の拡大等
を背景として、旅客・貨物ともに急速な発展を遂げている。
 しかし、平成七年度の新東京国際(成田)空港の状況をみると、三十八カ国五十一社の航空会社が乗り入れており、その利用状況は年間発着回数十二万四千回、年間旅客数二千四百七十二万人、年間取扱航空貨物量百五十九万トンに上っているが、現在の滑走路一本による運用では、すでに乗り入れている航空会社からの増便要請や、三十九カ国からの新規乗り入れ希望に対応できない状況にある。また、我が国初の本格的な二十四時間空港である関西国際空港の滑走路も現在は一本であり、残る二本の滑走路の整備は平成十年度末の現地着工が予定されている。ちなみに、マレーシアや韓国などの近隣アジア諸国においては、増大する国際航空需要に応えるべく、大型の国際拠点としての空港の整備が進んでいる。
 また、国内航空輸送の中心である東京国際(羽田)空港の利用状況をみると、全国四十三空港との間で一日二百八十便(五百六十発着)のネットワークが形成され、年間三百万人が利用している。
 我が国が今後増大する航空需要に対応するためには、航空機の騒音問題や空港整備の自治体負担にも配慮しながら、空港の整備と航空輸送サービスの充実を図り、国内・国際ネットワークを充実させる必要がある。

3 港湾

 面を海で囲まれ、エネルギーの約九割、食料の五割強を海外に依存する我が国は、国際海上貨物が日本の貿易量の99.8%、貿易額の約八割を占めており、国際ゲートウェイとしての港湾が、物流の主力を担っている。
 港湾整備の現状をみると、我が国には、全国に港湾法に基づく千百二港の港湾がある。その内訳は、特定重要港湾(外国貿易の増進上特に重要な港湾)二十一港、重要港湾(国の利害に重大な関係を有する港)百十二港、地方港湾九百一港等となっている。港湾は、国と港湾管理者(都道府県、市町村等)によって、基本的施設である防波堤、岸壁、泊地、臨港道路等のほか廃棄物埋立護岸、緑地といった環境施設等が整備されている。国際港湾貨物取扱量の推移をみると、昭和六十年度の八億五千九百万トンから、平成二年度には九億六千九百万トン、平成六年度には十億五千四百万トンになっている。また、平成十二年度(二〇〇〇年度)には十二億三千七百万トン、平成二十二年度(二〇一〇年度)には十四億四千三百万トンになると予測されている。一方、国内港湾貨物取扱量は、昭和六十年度の十九億七千万トンから、平成二年度には二十二億八千三百万トン、平成六年度には二十三億四千四百万トンになっている。
 こうしたなかで、我が国港湾で取り扱われるコンテナ貨物の比率は低下しつつあり、事実、アジアと北米、欧州等とを結ぶ基幹航路のうち我が国に寄港しない航路の割合が増加している。その一方、国際的にみると、海上コンテナ輸送は、更なる合理化・効率化をめざし、船舶の大型化が進められている。このため、欧米等との長距離基幹航路に就航する船舶の主力が大型コンテナ船になりつつあることから、これに対応した大水深コンテナターミナルが必要になってきている。港湾の水深の状況を国際比較でみると、平成五年時点では世界のコンテナ貨物取扱量の多い上位五十港(日本を除く)のうち、水深十五メートル以上の港湾の比率が19%であるのに対し、我が国のコンテナ貨物を取り扱う港湾のうち、水深十五メートル以上の港湾はなく(注:神戸港において、平成八年四月十五日に、大型コンテナ船に対応する我が国初の水深十五メートルの国際海上コンテナターミナル2バースの供用が開始された)、整備が後れているとの意見もある。また、港間競争を強めるだけで過剰整備になるとの意見もある。
 また、我が国のコンテナ一個当たりの港湾費用は高く、シンガポール、釜山(韓国)、高雄(台湾)の二倍前後となっており、アジアの主要港でトップクラスに位置している。こうした状況に対応し、港湾の機能の効率を向上させるには、荷役サービス、港湾にかかる手続きの簡素化、港湾における情報化などソフト面の改善も必要になる。ただし、港湾労働者の雇用と労働条件に影響を与えないようにしなければならない。
 なお、平成七年一月十七日におきた阪神・淡路大震災により、我が国屈指の港湾都市であった神戸港は壊滅的な被害を受けたが、精力的に復旧を進めてきた。これに伴い、神戸港発着の定期航路は八年十月二十一日現在、二百一航路中百七十二航路(新規二十一航路を含む)が再開されており、また、総入港隻数は八年七月で震災前の六年七月に比べて約98%、外航船入港隻数は同じく約88%となっている。貨物量については八年七月で震災前の六年七月に比べて約81%、外貿コンテナ貨物量については同じく約76%にまで回復してきている。

4 鉄道

 鉄道は、大量輸送機関として、エネルギー効率が優れた面があり、環境問題やエネルギー問題等の制約のなかで、その整備は重要なものとなる。
 鉄道整備の現状をみると、平成八年九月一日現在で開業している鉄道事業者はJR七社をはじめとして百八十八社にのぼっており、平成六年度の旅客営業キロ数は二万七千二百十七キロメートルとなっている。鉄道利用者の推移をみると、昭和六十年度は百八十九億八千九百万人、平成二年度は二百二十億二千八百万人、平成六年度は二百二十六億八千万人となっている。
 都市鉄道の現状をみると、大都市圏においては、通勤・通学時の混雑が依然として深刻な問題となっている。混雑の緩和を図るため、JRや大手民鉄等は、近年、新線建設、複々線化、列車の長編成化等、輸送力の増強に努めている。輸送人員と輸送力の推移について、昭和五十年度を一〇〇とした指数でみた場合、輸送人員は平成七年度には首都圏が一三七、近畿圏が一〇三、名古屋圏が一二六となっているのに対し、輸送力は平成七年度には東京圏が一五八、近畿圏が一三二、名古屋圏が一五七となっており、いずれの大都市圏においても輸送力の伸びが輸送人員の伸びを上回っている。こうした輸送力の増強もあり、混雑率は、東京圏が昭和五十年度の221%から平成七年度の192%へ、近畿圏が199%から157%へ、名古屋圏が205%から165%へと下がってきたものの、東京圏では依然として高い水準にあり、国民が豊かさを実感できない要因のひとつとなっている。政府は、ラッシュ時の混雑率を150%(東京圏については当面180%)にすることを目標としている。なお、鉄道の輸送力増強工事を促進するため、昭和六十一年に特定都市鉄道整備積立金制度が創設され、運賃収入の一部を積み立てて工事費に充当することとしている。
 幹線鉄道の現状をみると、新幹線を含む全国主要幹線の表定速度の平均は、時速百キロメートル弱であるが、時間価値の高まり等を背景に、在来幹線の高速化、整備新幹線の整備が課題となっている。在来幹線の高速化については、新幹線と在来線の直通運転化、在来線の高速化及び鉄道貨物の輸送力増強工事に対する長期低利融資制度の創設等、その整備の促進が図られるようになった。整備新幹線については、全国新幹線鉄道整備法に基づき整備計画が定められている。今国会で成立した「全国新幹線鉄道整備法の一部を改正する法律」においては、整備新幹線の建設費に関する国及び都道府県の負担等についての規定が設けられた。
 地方鉄道の現状をみると、中小民鉄、旧国鉄から転換した第三セクターともに厳しい経営状況が続いている。中小民鉄は、地域における重要な生活基盤であったが、経済成長下における過疎化やモータリゼーションの進展による輸送需要の減少等により大部分の事業者が赤字経営となっており、一定の条件の下で鉄道軌道整備法による欠損補助などが行われている。また、地方交通対策の一環として旧国鉄の経営から切り離された転換鉄道は、現在、地元自治体が中心となって設立した第三セクター等によって運営されている。転換後、列車の運行本数を増加し利便性を向上させるなど様々な努力が行われているが、依然としてほとんどの事業者が厳しい経営を余儀なくされている。
 駅施設については、混雑の緩和、危険の防止、乗り換え利便の向上を図るため、通路、階段、ホームを拡幅すること等により、旅客の移動を円滑にすることが重要である。また、平成七年度末のJR、大手民鉄及び地下鉄におけるエレベーター設置駅数は四百六十駅(設置率6.7%)、エスカレーター設置駅数は九百九十六駅(同14.4%)となっているが、高齢者・障害者等の利便性の向上を図るためには、それらの設置をさらに推進する必要がある。なお、政府は、駅等へのエレベーター等の設置についての指針として、「公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者等のための施設整備ガイドライン」(平成六年三月)を策定している。
 また、鉄道の運転事故の状況をみると、平成七年度の事故発生件数は千四十六件であり、死傷者数は八百三十二人となっている。運転事故は、長期的にみると減少してきたが、列車運転の高速化等に伴い一度事故が発生すると、多数の死傷者を生じさせるおそれがあるとともに、列車の遅延を発生させるなど、鉄道輸送に大きな影響を与えることになるためより一層安全対策を進めることが求められる。

(四)情報通信基盤整備の現状
(情報通信基盤の整備状況)

 我が国において電話網が全国的に整備されており、加入電話契約数は、昭和六十一年度末の四千六百七十七万契約から平成八年九月末の六千百三十四万契約になっている。近年、電話網の質の向上が進んでいる。例えば、加入者系交換機のデジタル化は平成九年度に完了見込みである。また、平成七年三月末の光ファイバー網の整備は、人口の約10%をカバーしており、平成二十二年までに整備を完了することとしている。高速通信ができるISDN回線は、昭和六十三年度末の千百九十八回線から平成八年九月末の七十四万四千五十五回線と約六百二十倍に増加している。
 一方、国際電話をみると、国際電話取扱数は、昭和六十一年度の一億三千四百万回から平成七年度の六億八千五百万回になっている。国際専用回線数は、昭和六十一年度末の千百四十九回線から平成七年度末に千六百九十一回線になっている。
 インターネットは、世界中のコンピュータ・ネットワークを接続させたものである。各ネットワークのホストコンピュータ台数をみると、平成九年一月現在、我が国は七十三万四千台で、全世界の一千六百十五万台の4.5%となっており、アメリカの十四分の一である。
 携帯・自動車電話等の移動通信サービスの契約数は、昭和六十一年度末の九万五千契約から平成八年三月末の千六十三万契約と約百十倍に増加している。しかし、携帯・自動車電話用の無線局がない市町村が約20%あり、その利用ができない状況に置かれているとみられる。
 また、ケーブルテレビ契約数は、昭和六十一年度末の四十三万契約から平成八年九月末の四百三万契約になっている。
 なお、NHK受信契約数は、昭和六十一年度末の三千百九十五万契約から平成七年度末の三千五百三十七万契約になっている。また、NHK衛星放送契約数は、平成元年度末の百二十万契約から八年九月末の七百八十一万契約になっている。
 一方、情報通信技術の研究開発をみると、欧米諸国では、情報通信技術を次世代を担う先端分野として位置づけ、この分野の研究を重点的に推進しているといわれる。しかし、我が国の研究開発費や人員等をみると十分な研究開発体制が整備されておらず、情報通信分野の政府負担研究開発費は平成四年度において千三百六十億円となっており、アメリカの五千二百十二億円に比べて低い水準にある。
 他方、情報通信基盤の整備等を担う情報通信産業の成長には、近年著しいものがある。その市場規模をみると、昭和六十年度の十四兆五千億円から平成六年度の二十五兆四千億円に拡大してきており、郵政省試算によると、平成二十二年には現在の我が国の国内総生産の約四分の一にあたる約百二十五兆円にまで拡大する見通しである。情報通信産業の設備投資額は昭和六十三年度の二兆二千億円から平成八年度の四兆八千億円と増加し、全産業の設備投資額四十四兆七千億円の10%となっている。情報通信産業の雇用数は、昭和六十年度の七十二万四千人から平成六年度の百二万九千人になっており、郵政省試算によると平成二十二年には雇用者数は市場規模の拡大にともない約二百四十四万人になると見込まれている。
 なお、国内、国際通話の料金を昭和六十年度と比較すると、国内長距離通話は約四分の一、国際通話は約三分の一になっている。

(情報化の進展と国民生活)

 世帯当たりの情報通信機器の保有率をみると、各機器とも増加傾向にあり、平成八年においては、ファクシミリ20.7%、無線呼び出し(ポケベル)15.0%、パソコン22.3%、携帯電話は24.9%となっている。
 また、パソコン通信利用者に対して今後利用してみたい新しい情報サービスについて調査(複数回答)した結果、「図書館、博物館等のデータベースへのアクセス」41.9%、「在宅勤務等、職場以外での勤務」41.5%、「ホームショッピング」24.1%、「通信教育・遠隔授業の受講」23.2%、治体のオンライン住民サービス」22.7%が上位を占めている(郵政省「情報通信とライフスタイルに関するアンケート」平成八年八月)。
 一方、近年、情報化の進展に伴い我が国の就業形態に変化がみられる。電子メールやパソコン通信等の情報通信を利用し、事務所に通勤するかわりにサテライトオフィスでの勤務や在宅勤務等が可能となる「テレワーク」を導入する例が見られるようになってきている。現在、我が国のテレワーク人口は、約九十五万人と推定されている。テレワークはゆとりある職業生活の実現や高齢者等の社会参加を促進するものと期待される。
 また、消費行動にも変化がみられ、現在、実験的に利用されている電子マネーが将来的には、日常生活における購買活動で従来型の現金と同様に利用されるようになることも予想される。
 平成六年度末において、学校教育面のコンピュータの利用をみると、その設置率は、小学校77.7%、中学校99.4%、高校100%となっており、ここ数年、急速に伸びている。しかし、コンピュータを操作できる教員の全教員に対する割合は小学校25%、中学校40%、高校50%となっており(平成五年度)、コンピュータ教育を行う人材が不足しているのが実情である。米国では小学生がインターネットを使うことができるよう環境を整備するという構想もあり、我が国においても、その段階で情報の入手・加工・発信に関する基礎的な能力を身に付けさせることが求められている。
 行政サービス面の利用をみると、当初、国や地方公共団体自身の内部事務処理の効率化を目的として庁内事務処理の分野から着手されてきた。最近では、情報通信の利用によって、窓口業務の改善など、住民サービスの向上が図られてきており、将来的には、様々な行政サービスが在宅で受けられることになることが期待される。
 他方、情報化の進展は新たな社会的な問題を生じるおそれがある、例えば、インターネットのホームページなど「社会性を有する通信」において、虚偽情報の発信や公序良俗に反する情報の流通やネットワークを利用した犯罪等のおそれがあることである。また、ネットワークを通じて個人情報が流通することによって、本人の同意なしに利用されたり、悪用される等プライバシーの侵害が生じるおそれがあることである。さらに、急速な情報機器の普及に対応できず、高齢者・障害者等が情報通信サービスの利便を享受できない事態が生じかねない。

二 社会資本整備と財政

 我が国の社会資本は欧米の先進国に比べ、その蓄積が後れていた、また、戦後の復興と経済発展を図るため、国の最重要課題の一つとして位置づけられ、長期計画の下に国や地方は積極的に財政資金を投入してきた。

(一)国の財政

 平成九年度一般会計予算総額(当初)は七十七兆三千九百億円で対前年度比3%の増となっている。また、政策経費である一般歳出は、四十三兆八千六十七億円で対前年度比で1.5%の増となっており、昭和六十三年度の1.2%以来の低い伸び率となっている。
 一般歳出のなかで住宅や道路、港湾等の公共事業関係費予算は九兆八千四百六十二億円と対前年度比1.3%の増となり、一般会計予算総額に占める割合は、12.64%となっている。
 主要な公共事業関係費予算の内訳を構成比でみると、治山・治水16.5%、道路整備27.9%、港湾・漁港・空港7.5%、住宅・市街地12.7%、下水道・環境衛生等18.1%、農業農村整備12.6%となっており、この二十年間の事業別シェアはほとんど変わっておらず、公共投資重点化枠が設定された後も、その配分の硬直化はほとんど改善されていない。
 補助金等は、一定の行政水準の維持や特定の施策の奨励等のための政策手段として重要な機能を担うものである。平成九年度の一般歳出補助金等総額は、十九兆二千二十億円で、対前年度比2.5%の増となっている。その内訳を構成比でみると、社会保障関係費44.1%、文教及び科学振興費21.0%、公共事業関係費20.7%となっている。補助金等は、その81.2%が地方公共団体に交付されており、地方財政の中で大きな割合を占めている。しかし、補助金等の割合が高くなることによって、地方行政の自主性が損なわれたり、財政資金の効率的な使用が阻害されかねない等の問題点も指摘されている。
 なお、住宅、高速道路、空港・鉄道等の社会資本整備の資金を供与しているものに財政投融資がある。平成九年度の財政投融資計画においては対象分野・事業が厳しく見直されたため、その規模は三十九兆三千二百七十一億円となり、前年度比で3.0%の減となっている。
 一方、公債をみると、平成九年度の公債発行額は、建設公債が二千六十億円増の九兆二千三百七十億円、特例公債が四兆五千二百八十億円減の七兆四千七百億円となっている。消費税率の引き上げ、特別減税の廃止等による増収が見込まれることから平成八年度における国債発行額(予算上)に比べて、四兆三千二百二十億円少なく十六兆七千七十億円となっている。また、平成九年度末における公債発行残高は約二百五十四兆円に達する見込みであり、国、地方を合わせた長期累積債務残高は、四百七十六兆円程度になると見込まれている。なお、我が国の公債依存度は21.6%と依然高くなっており、主要な欧米諸国と比較すると、公債依存度や公債発行残高の対GDP比は最悪の水準となっている。

(二)地方財政

 国民生活に密接に関連する行政は、その多くが地方公共団体の手で実施されており、国の財政と同様に地方財政は極めて重要な地位を占めている。
 平成九年度における地方財政の規模を地方財政計画でみると、八十七兆五百九十六億円で対前年度比2.1%増と低い伸びになっている。歳入の構成比をみると、地方税42.5%、地方交付税19.7%、国庫支出金(補助金)15.2%、地方債13.9%となっている。一方、歳出の構成比は、投資的経費35.7%、給与関係経費26.7%、一般行政経費が20.6%、公債費11.1%である。
 社会資本整備に関連する平成九年度の投資的経費は、総額三十一兆六百九十二億円で、前年度に対してわずか四十億円の増加となった。このうち、地方単独事業は、前年度の同額の二十兆千億円となっており、国の直轄事業と補助事業における地方負担額は前年度に対して四十億円増の十兆九千六百九十二億円となっている。
 近年、地方財政の財源不足を補填するため、地方債の発行額は増加傾向にあり、平成九年度は、十二兆千二百八十五億円が見込まれている。この結果、地方債依存度は、13.9%になると見込まれ、依然として高い水準にある。地方債残高は、平成八年度末の約百三十六兆四千億円から平成九年度末には約百四十六兆円を超えると見込まれており、ここ五年間で倍増するなど地方財政の借り入れ依存体質は一段と高まっている。

三 社会資本整備の基本的方向

(一)社会資本整備の基本的視点

 我が国は、国民の努力等によって、戦後五十年の間に他の先進国に比して高い経済的発展を遂げた。しかしながら、国民生活の視点からみると、この経済力に見合った豊かさが実感できていないという不満があり、その要因の一つとして、日常生活と密接に結びついた社会資本整備の立ち後れが指摘されている。
 このため、今後の社会資本整備の在り方としてより国民生活の視点に立った整備の実施が求められる。また、我が国の経済社会においては、少子・高齢化、国際化、情報化の進展等の変化がみられ、その変化は二十一世紀に向けて、より一層加速するものと予想される。このため、こうした変化を視野に入れ、社会資本の整備を実施していくことが必要である。
 豊かな国民生活を実現するためには、日常生活圏が安全で快適なものでなければならない。このため、良質な住宅ストックの形成、公園、下水道、図書館等の生活関連施設の充実、憩いと安らぎを与える緑、きれいな空気、おいしい水等の豊かな自然環境が確保されることが重要である。同時に、我が国は、水害、地震等の自然災害が発生しやすいことから、治山、治水、海岸等の国土保全施設の整備や都市防災の観点から、広域避難地としての防災公園等を整備するとともに防災対策に十分配慮した都市再開発等を推進していくことが必要である。
 また、少子・高齢化の進展に対処するためには、加齢等に伴う身体的機能の低下に対処でき、高齢者等が生涯を通じて安心して生活できる住宅の整備、地域社会において高齢者等が安全かつ円滑に行動できるよう、交通機関、公共施設、道路等の整備、ソフト面を含めた医療・福祉施設の整備等を図る必要がある。
 一方、近年、諸外国との間において、人、物、情報等の交流が飛躍的に拡大し、世界との相互関係が深まっていることから、国際的な視野に立った交通・情報通信基盤の整備を図っていく必要がある。このため、大量な人と物の交流と輸送コストの低減ができるよう国際拠点となりうる空港、港湾の整備を図る必要がある。また、大量な情報の交流と通信コストの低減ができるよう光ファイバー網、通信衛星等の高度情報通信基盤の整備を図る必要がある。特に、高度情報通信基盤は、知的生産活動をはじめとする産業全体の生産性の向上をもたらすとともに、新たな産業や新規雇用を創出するものと期待されている。加えて、就業形態や医療、教育、余暇活動、文化・芸術活動等の広範な国民生活に便益をもたらすものと予想されるものである。
 さらに、二十一世紀において、より深刻になることが予想される地球環境問題に適切に対応していくため、社会資本の整備にあたっては、環境に影響を及ぼす負荷の低減、自然と人間との共生の確保、エネルギー利用の効率化等に努める必要がある。特に、社会資本整備が環境に及ぼす影響について計画段階から調査予測・評価を行い、その結果に基づいた十分な保全対策を行う必要がある。
 以上のように今後の社会資本の整備にあたっては、国民生活の視点に立った実施が求められるが、同時に、現下の厳しい財政状況においては、無駄をなくし、効果的、効率的な公共投資を行うことが必要である。このため、経済社会の変化に応じて公共投資の配分を見直していかなければならない。また、公共投資における国と地方の役割分担等についても不断に見直しを行うとともに、民間事業者の活用、費用便益分析の手法の確立、公共事業のコスト低減等の課題にも取り組み、公共投資の効率性を高めていくことが必要である。

 (一律的な概算要求基準「シーリング」の見直し)

 当初予算における公共事業関係費の省庁別・事業別の比率は、毎年ほとんど変化せず、硬直化している。その要因の一つとしては、一律的な概算要求基準(シーリング:大蔵省が各省庁の概算要求に先立ち一般歳出について設ける上限に関する基準)があげられる。第二次石油危機以降、財政状況の悪化に対応するため、昭和五十五年を「財政再建元年」として財政改革が行われた。昭和五十七年にはゼロシーリングが設定され、この頃から、公共投資の配分比率に変化が見られなくなった。
 シーリングは確かに、各省庁の公共事業の予算要求を抑えるのに効果があったが、経済社会の変化によって必要となる予算も不必要になった予算も適正に査定することができにくくなり、その時々の社会資本に対する国民のニーズや充実すべき分野に対して、重点的に資金を投入することができなくなった。二十一世紀に向けて、国民生活における質的なニーズが一層高まると同時に、少子・高齢化、国際化、情報化の進展等が、経済社会に大きな影響を与えると考えられることから、時代の変化にあわせた公共投資の配分を行う必要がある。そのためには、一律的な概算要求基準の見直しを含め、予算の編成システムの在り方を見直す必要がある。

 (費用便益分析の手法の確立)

 公共投資の効率性を確保するためには、より少ない費用でより大きな効果が期待できる事業を優先的に選択していくことが重要である。公共投資によって整備される社会資本の効用には多様なものも含まれているが、具体的な投資箇所の選択に当たっては、可能な限り客観的な費用便益分析を行った上で、投資の優先順位を付けていくことが必要であり、そのための手法を確立する必要がある。
 また、費用便益分析の中立性確保の観点から、分析に係る情報の開示が不可欠である。

 (各省庁間の連携強化)

 公共投資は各省庁ごとに実施しているため、効率性に欠け、期待された投資効果が発揮されていない面がある。例えば、港湾整備と港湾へのアクセス道路の整備に連携がとれていない等同一地域の事業における省庁間の連携不足等によって投資効果が不十分なものとなっている。また、道路と農道や下水道と集落排水施設のように、複数の事業で機能や目的が類似した施設を建設している場合もある。十分な事前調整がなく、各種事業を実施すれば、重複投資や非効率な投資につながる。こうしたことから、公共投資に当たっては、各種事業の連携と整合性が確保され、総合的な整備が可能となるよう配慮することが必要である。

 (公共事業の高コスト是正)

 公共事業の建設コストを米国と比較すると、労務費、資材費、機械費等がいずれも高いことを反映して、我が国が一割から四割程度高くなっている。こうしたことから、政府は平成九年一月に、全閣僚を構成員とする公共事業コスト縮減対策関係閣僚会議を設置し、四月に、公共工事コストを平成十一年度末をめどに少なくとも10%以上縮減することを目標とする行動指針を決めた。政府はこの目標が達成されるよう努めるとともに、毎年、コスト削減の結果を公開していくことが必要である。
 また、我が国の公共事業の発注は、長年にわたって指名競争入札で行われてきた。これは公共事業を受注するに相応しくない業者(請け負った工事を行う技術力がない業者)を排除するため、予め適格と思われる業者数社を指名し、価格競争によって落札者を決定する仕組みであるが、不適格な業者を排除できる反面、入札参加業者が限定されることから、談合等の問題が指摘されている。こうした指摘に応え、手続の透明性を向上させるため、平成六年度から、一定金額以上の工事については、予め業者の指名を行わずに入札に参加させる一般競争入札によることとされた。一般競争入札は、必ずしも直接的なコスト低減に結びつくものではないが、公共事業の受注の競争性が高まることによって、コスト低減につながっていく可能性がある。このため、今後とも、入札制度の改善等に努める必要がある。

 (公共施設の効率的活用)

 従来、我が国においては、社会資本の量的不足に対応するため公共施設の新設に主力が注がれてきた。しかし、量的には一定水準に達したことや更新経費すなわち維持管理費用の増大が見込まれることなどから、従来のような施設の新設は期待できない。このため、既存施設の効率的な活用や利用者の多様なニーズに応えうる質の高い管理・運用が求められる。既存施設の活用としては、例えば、学校教育施設の空きスペースの福祉施設への活用等が考えられる。また、利用者の多様なニーズに応え、利用率を高めるためには、利用者への的確な情報の提供、情報通信技術を活用した利用の効率化、利用時間延長、ボランティアによる指導などレクリエーション施設等における利用者と管理者が一体となった運営などソフト面の充実も必要である。

 (国の役割 、地方公共団体の役割)

 国民のニーズに沿って、効率的、効果的な公共投資を実施するため国と地方公共団体の役割を明確にする必要がある。
 国の役割としては、国際空港、高速道路、幹線道路等の基幹的なものに限定することも考えられる。また、基礎研究など民間ベースになじみにくい公共財の供給に徹した市場補完的なものに限定するとの考え方もある。
 一方、地方公共団体の役割としては、地域のニーズや実情に応じ、個性豊かな地域社会が実現できる基盤となる生活環境等の生活関連社会資本を分担することも考えられる。
 地方公共団体が実施する社会資本整備に係る財源については、地方公共団体毎に様々な創意工夫ができる独自の財源を確保することが重要となる。しかし、現在の国と地方間の財源配分をみると国・地方財政は、歳出・最終支出ベースで国と地方の比率が概ね一:二に対し、租税収入の配分においては、国と地方の比率は概ね二:一となっており、その間に大きな乖離が存在している。このため、国と地方の税財源配分の在り方等を見直す必要がある。

 (民間の役割)

 経済社会の変化に伴い、社会資本整備における民間の役割は変化してきており、民間主体による社会資本整備が増えてきている。民間の役割については、多様化・高度化した国民のニーズに対応して、一定の収益性を確保しつつ、社会資本を担っていくことが求められる。

(二)快適な生活環境の整備

 快適な生活環境を整備するためには、良質な住宅ストックの形成、公園、下水道、図書館等の生活関連施設の充実、憩いと安らぎを与える豊かな自然環境の確保、高齢者や障害者等が安心してくらせる環境の整備が重要である。

(良質な住宅)

 国民が豊かさを実感できるような生活環境を形成していくためには、国民の重要な生活基盤である住宅の質を高める必要がある。このため、政府の定める誘導居住水準の達成割合を高めていくとともに、最低居住水準の見直しを行う必要がある。また、住宅が量的に充実しつつある現状を踏まえると、今後は、単に新規住宅の供給だけに着目するのではなく、既存の住宅ストックの質の向上を図るなど、新築・既存を含め住宅全体を視野に入れた供給の在り方を検討する必要がある。
 住宅政策においては、今後の本格的高齢社会に備えて、高齢者や障害者が可能な限り住み慣れた地域社会で安心して生活できるようにすることが重要な課題となっている。このため、新たに建設される住宅の設計と、既存の住宅のリフォームに当たっては、一定の身体機能の低下があった場合においても、そのまま安全で快適に住み続けることが可能となるような仕様にすることが基本となる。具体的には、(1)段差がなく、手すりの設置が可能であること、(2)玄関、浴室、居間、高齢者等の寝室等が、できる限り同一階に配置されていること、(3)浴室、トイレは、できる限り介助可能な広さを確保すること等である。こうしたことは、介護の労力の節減にも寄与するものであり、社会的な介護費用の節減に資するという点からも望まれる。
 また、国民がゆとりのある生活を実現するためには、その基盤となる住宅の確保を容易にする必要がある。住宅関連支出は国際的にも高い水準となっており、その低減、特に、住宅価格・家賃の低減が重要である。このため、規制の緩和、住宅生産・流通の合理化などによって、住宅に関するコストの低減・適正化をさらに推進していく必要がある。また、既成市街地における土地の有効利用、計画的な市街地開発などによって住宅・宅地の供給を積極的に行うほか、定期借地方式など多様な土地利用手法を活用していく必要がある。
 公共住宅については、広さや耐久性などの住宅の質を高めるとともに、公営住宅を必要とする者がそのサービスを公平に享受できるよう、施策対象層の適格化を図っていく必要がある。具体的には、本格的高齢社会を踏まえ、特に住宅を必要とする高齢者・障害者等の世帯について一層の優遇措置を講じていく必要がある。また、少子化の現状を踏まえ、子育て世帯の優先的入居も図っていく必要がある。
 一方、我が国は、新規の住宅建設に比べ中古住宅の流通量が少ない傾向にある。しかし、二十一世紀においては、投資余力の低下が懸念されることに加え、環境共生の観点から、資源の節約や廃棄物の低減等の要請が高まると考えられる。このため、耐用年数の長い住宅ストックを充実する必要がある。耐用年数の長い住宅ストックは、流通市場の充実のためにも必要である。しかし、耐用年数が長いだけでは住生活の変化に伴う国民のニーズに対応できなくなるおそれがある。そこで、内部のリフォームが容易となる間取りや仕様が可変性に富んだ住宅を充実させる必要がある。
 なお、住宅のなかでマンション(中高層分譲集合住宅)のウェイトが高まっており、都市居住ニーズに応えていく上から、ますますその役割は大きくなると見込まれる。二十一世紀には、大規模修繕や建て替え時期を迎えるものが増大することから、区分所有者の合意形成、経済的問題などに対応しながら、長期的に円滑なマンション管理が行われるようにしていく必要がある。

 (生活関連施設等の充実)

 豊かな国民生活を実現するためには、日常の生活圏が安全で快適なものであることが重要であり、このため生活を取り巻く生活環境施設の重点的な整備が重要となる。このため、まず、整備が後れている都市公園や下水道などの生活環境施設については、予算を重点的に配分し、集中的に整備を進める必要がある。
 一方、生活水準の向上、自由時間の増大等を背景に、多様で個性的な文化をより高い水準で身近に求めようとする気運が高まってくると思われる。国民一人一人が音楽や絵画等の優れた芸術・文化を鑑賞でき、かつ、自らが主体的に新たな文化・学習活動を展開できる基盤の整備及び環境の醸成が求められる。このため、図書館、美術館、博物館、公民館等の文化施設については、それぞれの施設を有効利用できるよう、広域的な利用を踏まえた立地を図るとともに、運営面でも施設間の連携を深める必要がある。また、専門化・高度化したニーズに対応するためには、文化活動に携わる人材の養成や文化に関する総合的な情報を提供する必要がある。
 文化財等については、我が国の歴史、伝統、文化等を次世代に継承するなど、その積極的な活用を図っていく必要がある。このため、文化財の修復や適切な保存等に必要な施設の整備を図るとともに、伝統芸能などソフト面についても広義の社会資本として位置づけていく必要がある。

 (自然環境の保全)

 国民の生活の豊かさは、日常生活のなかでどれだけ身近に自然の緑や水辺空間に接することができるかといったことにも関連するものである。このため、自然がもたらす潤いややすらぎといった面を経済的に評価するとともに、自然を活かした公園緑地等の整備を進める必要がある。
 また、水は国民の生活や生命に関わるものであり、安全でおいしい水を確保することは、快適な生活環境にとって重要である。このため、水道水源の水質の維持に必要な森林資源の保全に努める必要がある。
 同時に、きれいな空気を確保することは、良好な生活環境を実現する上で重要である。このため、自動車の排出ガスによる大気の汚染を防止する必要がある。そのためには、中心市街地へのマイカー流入を抑えるためのパーク・アンド・バスライド方式の推進や、ライト・レール・トレイン(LRT)などを積極的に図っていく必要がある。また、電気自動車などの低公害車の普及促進も必要である。

 (福祉のまちづくり)

 高齢者や障害者をはじめ、妊婦や子どもなど、国民誰もが安心して生活を楽しめるようにするためには、福祉的な視点を踏まえたまちづくりがより一層重要である。
 ハード面では、建築物の出入り口の段差の解消、安全で快適な移動ができる幅の広い歩道の整備、低床バスの普及等の公共交通の改善、駅等のエレベーターやエスカレーターの設置、絵や点字、音による案内板、誘導標識などの施設を含めた、まち全体の面的整備が必要である。また、高齢者や障害者等の社会参加を進めていくためには、文化活動やスポーツ交流等の情報等が容易に得られるよう、行政等による情報の収集・提供体制の充実を図るなど、ソフト面の整備を図る必要がある。
 こうした福祉のまちづくりにあたっては、高齢者や障害者などに対して個別に施策を考えていては十分ではない。視覚障害者のための点字ブロックの設置が、高齢者のつまずきの原因になることがあるなど、高齢者あるいは障害者などに対象を限って対応をすることは無理が生じることもある。こうしたことに対処するためには、これまでのバリアフリー空間の実現度をチェックするなど、これまでに整備されたものが実際にどのように使われ、どのような点に問題があるか点検するとともに、すべての人にとって快適で安全なユニバーサルデザインを開発することも重要である。

 (都市づくりへの住民参加)

 今後の都市づくりにおいては、地域の特色をいかしたものとする必要がある。そのため、単に個々の施設を機能面から充実させるだけではなく、固有の伝統、文化等地域の個性・特性をいかすことが重要である。また、住民のニーズに的確に対応した生活環境整備を進めるためには、それぞれの地域における住民の意向等を適切に把握し、反映していくことが重要である。
 住民の多様なニーズを反映し、地域色の豊かな都市づくりを進めるためには、都市計画の作成段階での住民の参画を促進することが望まれる。現在の都市計画法においては、都道府県知事又は市町村は、「都市計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする」としており、常に公聴会の開催が行われるわけではない。都市計画の作成に当たって住民の意見が最大限に反映されるよう、公聴会の義務づけを行う必要がある。

(三)総合的な交通ネットワークの整備
(総合的な交通ネットワークの整備と行政機関の見直し)

 二十一世紀初頭以降においては投資余力の減少が見込まれている。こうしたなかで、効率的な輸送体系を構築するためには、道路・空港・港湾・鉄道の各交通機関の連携がとれた総合的な交通ネットワークを整備していく必要がある。
 交通部門においては、今後一層進展すると思われる国際化に対応するためには、人と物の輸送について、単に我が国と世界を結ぶという視点のみならず、中継的な意味を含めて我が国が世界の一拠点としての役割を果たすことが可能となる国際的なネットワークを形成する必要がある。そのためには、ネットワークの中核的な施設となる国際ハブ空港や国際ハブ港湾の整備について検討する必要がある。国際ハブ空港や国際ハブ港湾の設置は、我が国の利便性・国際競争力を高め、外国企業などの誘致に資するとともに、アジアの情報センターや金融センターとしての地位を確保することにもつながるという意見がある。我が国と立地が競合しかねないアジア諸国においては、国際ハブ空港や国際ハブ港湾の建設あるいは構想が進んでいる。国際ハブ空港や国際ハブ港湾が、我が国の経済にとって必要であるかどうか明確にしなければならない。そのためには、海外との比較も含めた費用便益分析によって、その費用対効果をはっきりさせる必要がある。また、国際ハブ空港や国際ハブ港湾が国際競争力をもったものとするためにはサービスなどソフト面の充実も図っていく必要がある。
 一方、国土の均衡ある発展を図り、多極分散型の国土を形成するためには、地域間の交通の利便性の格差を是正することが課題となる。また、阪神・淡路大震災の経験から、交通ネットワークに対する信頼性・安定性を確保することが重要な課題であることが明確になった。このため、代替性が確保された交通ネットワークを整備していく必要がある。
 また、交通渋滞の緩和を図るためには、リアルタイムでの道路交通情報の提供など総合的な渋滞対策を推進する必要がある。さらに、交通の安全を確保するためには、環状道路の整備などを図りながら、都市内交通と通過交通との分離を図るなど、道路の機能が適切に分担されることが必要であり、同時に、歩道の整備、自転車道の整備、交差点改良、道路照明の設置等が求められる。
 総合的な交通ネットワークの整備を行うためには、運輸省、建設省道路局、警察庁交通局に分かれている現在の交通関連の行政機関を見直し、統合することも検討に値する。また、効果的な整備を進めるためには、費用便益分析によって整備の優先順位を明確にする必要がある。さらに、情報通信の高度化が進むなかで、人や物の移動に関して、交通と通信の代替関係も起きてくることが予想されるため、そうした点も含めて整備の在り方を検討する必要がある。

(交通基盤整備の財源)

 交通基盤整備の財源としては、揮発油税・地方道路税、石油ガス税、自動車重量税、航空機燃料税といった、税収の全部または一部について使途が道路や空港に特定されている財源がある。交通ネットワークの整備をバランス良く進めて行くためには、特定財源の使途を見直し、交通基盤整備の財源となるよう、一般財源化の検討を進める必要がある。また、交通基盤の建設コスト・維持管理コストの低減に努めるとともに、整備の必要性とコストに関する情報の開示を充実し、利用者の十分な理解を得るようにしなければならない。
 以上のほか、高速自動車国道に関しては、これまで比較的採算性の高い路線から順次整備されてきたが、整備が一応整ってきたことから、今後は比較的採算性が低い路線の整備も進められるものと思われる。高速自動車国道の整備の財源には、料金のプール制が採用されていることから、今後は採算性が低い区間の整備に対する利用者の負担が過大なものとならないように配慮しなければならない。
 鉄道に関しては、新線開通などによって生じる開発利益の還元策についても検討を進める必要がある。また、通勤混雑の緩和を図るためには混雑料金の導入も検討し、料金の上乗せ分を複々線化や新線建設の財源に充てることも考えられる。
 なお、空港整備の財源としての空港使用料などについては、国際競争力を確保するためにも国際的な水準を考慮する必要がある。

(四)高度情報通信基盤の整備
(高度情報通信基盤の整備)

 高度情報通信基盤の整備を図ることは、あらゆる産業分野において生産性の向上が可能になると同時に、情報通信を活用した新しい産業・雇用の創出にもつながることも期待される。また、オンラインショピングや遠隔医療等新たなサービスを国民に提供していくことが期待される。このため、大容量の通信が可能となる光ファイバー網や通信衛星を始めとする高度情報通信基盤の整備を計画的に推進することが必要である。
 基盤整備については、公正な競争の下に民間主導で進められるべきであるとの意見もあるが、一部企業の独占になるとの意見もある。いずれにしても、基盤整備には多大の経費と時間を要することが多く、将来における技術動向やサービス需要をある程度予見し、民間における先行的・積極的な基盤整備を支援することが重要となっている。特に、情報化の進展の中で、情報密度の低い地域での光ファイバー網等の整備の後れが、新たな地域格差を生じさせることがないよう、これら地域において、高度情報通信基盤の整備を進める必要がある。

(情報通信技術の研究開発の推進)

 我が国の情報通信分野における政府負担研究費は、アメリカの四分の一程度である。また、電気・通信分野における国の研究機関の研究者数は極めて少なく、国の研究開発体制は十分とはいえない。
 しかしながら、情報化の進展の中で、情報通信の研究開発は、二十一世紀における我が国の経済発展にとって重要なものである。このため、新技術の創出を目指した基礎的な研究開発のうち民間による実施が期待できないものについては、研究開発施設や設備の高度化を図る必要がある。また、ベンチャー企業の中には、独創的な発想は持っているが、資金力に欠ける面があることから、高価な研究開発装置や設備を必要とする研究開発を行うことが困難なものも多い。民間活力を活かし、我が国の総合的な研究開発力の向上を図るためには、大学・公的研究機関が有する先端技術の公平な開放や、ベンチャー企業等と公的研究機関との共同研究、公的研究機関による共同利用可能な施設の開放を積極的に行う必要がある。
 一方、情報化の進展の中で、情報通信機器に十分対応できない高齢者等が社会生活上不利になりかねないと懸念されているところである。このため、誰にでも利用しやすい機器やソフトウェアの開発にも十分配慮する必要がある。
 また、情報通信機器に関してその標準化や互換性が望まれる。

(情報通信の高度化に対応した人材の育成等)

 高度情報社会をより一層発展させるためには、ハードウェア整備やソフトウェア開発のための専門的かつ創造的な人材を育成する必要がある。また、初等中等教育の段階から情報の入手・加工・発信に関する知識を習得させるための積極的な取り組みを進めることが必要である。このため、学校における情報通信機器、ソフトウェアの整備や教員に対するコンピュータの基礎的な知識・技術の修得等を図る必要がある。
 なお、公共職業能力開発施設等においても、情報通信の高度化に対応できる能力を身に付けた人材の育成にも取り組む必要がある。

(情報通信の利用者保護のための制度の整備)

 情報通信の高度化に伴い、プライバシーの侵害、虚偽情報の発信、公序良俗に反する情報の流通、消費者問題、ネットワーク犯罪の発生等新たな社会的な問題が生じるおそれがある。このため、情報通信の利用者保護のため必要なセキュリティガイドラインの策定あるいは法制度の検討を行う必要がある。またその際には、情報通信サービスの国際化に対応し、国際的なルール化の検討も必要である。

II 社会保障の在り方

一 社会保障の現状

(一)経済社会の変化と社会保障の現状

 我が国は、世界に例を見ないスピードで高齢化率(総人口に占める六十五歳以上の高齢者の割合)が上昇し、高齢社会となった。また、今後も合計特殊出生率(女性が一生のうちに生む平均子ども数)の低下や平均寿命の伸長によって高齢化率は更に高まり、二十一世紀には本格的な少子・高齢社会が到来するものと予想されている。急激な人口構造の変化や長寿命化等によるライフサイクルの変化は、社会保障にとどまらず、就労、消費生活、居住環境、教育、文化など経済社会全般に影響を与え、今後の高齢化の進行によってその影響は一層拡大していくものとみられている。
 我が国の総人口は、昭和二十五年から平成七年までの四十五年間に、八千四百十二万人から一億二千五百五十七万人と約一・五倍になっている。また、同様に六十五歳以上の高齢者人口は、四百十六万人から千八百二十六万人と約四・四倍に急増している。特に、七十五歳以上の後期高齢者人口は百七万人から七百十七万人と約六・七倍になり、その増加はなお一層顕著となっている。総人口に占める後期高齢者の割合は、戦前から昭和三十年代前半まで1.5%以下で推移した後、高齢者人口の伸びを上回る率で急激に後期高齢者人口が増加したため、平成七年には5.7%を占めるまでになっている。また、高齢者人口の約四割は後期高齢者が占めている。今後、少子化によって、総人口は平成十九年(二〇〇七年)の一億二千七百七十八万人をピークに減少に転じるものと予想されているが、高齢者人口は今後半世紀にわたって増加するものとみられており、第一次ベビーブーム世代が六十五歳以上の高齢者になる平成二十七年(二〇一五年)には、平成七年に比べ、高齢者人口と後期高齢者人口はそれぞれ約一・七倍、約二・一倍になるものと予想されている。
 また、高齢化の要因である長寿命化は、戦後の結核などの感染症の克服、乳児死亡率の低下、栄養・住居などの改善による死亡率の低下によって実現したものである。平均寿命についてみると、昭和二十二年に五十歳に達した後急速に向上し、平成七年には男七十六・三八歳、女八十二・八五歳と、わずか五十年の間に三十歳もの伸びを示し、男女とも世界最高の水準に達している。高齢者が長期化した高齢期において、経済的に自立し、豊かな生活を実現するためには、所得の確保を図ることが重要となる。また、貴重な自由時間を無為に過ごすことなく、知識や経験を活かし、生きがいを持って過ごすことができるよう、社会参加の場を積極的に確保することも重要となる。さらに、個人差はあるものの加齢による身体機能の低下は避けられないことから、国民が生涯を通じて健康で豊かな生活を確保できるよう、生涯の各段階に応じた生活全般にわたる健康の維持と生活環境の整備が重要となる。特に、家族形態や国民の意識の変化によって家族の扶養機能が低下するなかで、要介護者の増加が見込まれることから、介護基盤の早急な整備が重要となる。
 一方、高齢化の要因の一つである少子化についてみると、出生数は、昭和二十二年に二百六十八万人であったが、平成七年には史上最低の百十八万人まで減少した。また、合計特殊出生率は昭和四十年代半ばまでは二・一程度でほぼ推移していたが、現在の人口を維持するのに必要な二・〇八を昭和四十九年に下回ってから低下を続け、平成七年には一・四二にまで落ち込んだ。今後、合計特殊出生率は平成十七年に一・二八まで低下するとの予想もある。現在の出生率がこのまま継続するとすれば、若年人口の減少を招き、経済社会の活力が失われかねない。特に、労働力人口は、平成二年(一九九〇年)の六千三百八十四万人から十二年(二〇〇〇年)には六千八百四十六万人へと増加するが、二十二年(二〇一〇年)には若年労働力(十五~二十九歳)が大幅に減少し、六十歳以上の高齢者の就業増加を見込んでも、約百万人減少するものと見込まれている。
 こうした少子化の要因には、非婚化、晩婚・晩産化、DINKS(子どもを持たない共働き夫婦)があり、その背景には、結婚観に対する人々の意識の変化、あるいは就業女性の増加や就業年齢の上昇などの生活スタイルの多様化、さらには仕事と育児の両立の難しさや子どもを生み育てる経済的負担などがあるといわれている。
 もとより結婚するか、しないか、あるいはまた、子どもを持つか、持たないかは個人の自由な選択であるが、育児に対する負担感を減らし、職業生活と家庭生活の両立を図るなど、子どもを生み育てやすい環境を整備していくことが重要となる。
 一方、社会保障給付費の動向をみると、平成六年度の給付費総額は六十兆四千六百十八億円で、このうち、年金三十一兆二十四億円(51.3%)、医療二十二兆八千七百四十六億円(37.8%)、その他六兆五千八百四十九億円(10.9%)となっている。社会保障給付費の対国民所得比は、昭和四十年代後半から五十年代前半にかけて6%弱から12%へと二倍以上の伸びを示したが、その後、平成四年まではほぼ14%前後で比較的安定して推移してきた。しかし、近年において再び上昇傾向を示しはじめ、平成六年度では16.2%となっている。また、社会保障給付費総額のうち高齢者関係給付費は三十七兆三千五十八億円であり、内訳は年金二十八兆六千百八十八億円、老人保健(医療分)七兆七千八百四億円、老人福祉サービス九千六十六億円となっている。社会保障給付費総額に占める高齢者関係給付費の割合は昭和四十八年度では24.9%であったが、五十五年度43.4%、平成六年度61.7%と上昇傾向にある。
 また、国民の公的負担を示す指標として、租税負担率(国民所得に対する国税と地方税の合計額の割合)と社会保障負担率(国民所得に対する社会保険料の割合)を合計した国民負担率がよく用いられる。国民負担率の動向をみると、昭和四十五年度に24.3%であったものが、平成五年度には36.5%となり、平成九年度(見込み)では38.2%となっている。
 国民負担率の上昇は経済活力に影響を与える懸念がある。また、今後、高齢化が一層進展すれば、年金、医療、福祉などの社会保障給付費の増大は避けられない。経済社会の変化に応じて、社会保障制度の在り方を公平性、効率性の観点から常に見直していくことが重要となる。また、その見直しにおいて、仮にその増大を抑えるために公的な社会サービスを抑制するような政策を採れば、その分は家族介護等の数字に現れない私的な負担が増大することになり、負担の合計が減るわけではないこと等も考慮しつつ、社会保障が国民の基礎的ニーズに的確に応え得るものとなるよう、国民の公的負担の在り方についても検討していくことが重要となる。
 我が国の社会保障は、昭和三十六年に国民健康保険制度と国民年金制度が創設されたことによって、国民すべてを対象とする「皆保険・皆年金」の体制が整った。また、その後の経済社会の変化に対応してその内容も改善されてきた。しかし、近年の急速な少子・高齢化がこのまま推移すれば、社会保障に係る負担の一層の増加、介護需要の急速かつ大幅な増加等、将来の我が国の社会保障の在り方に深刻な影響を与えることが懸念される。このため、少子・高齢化の進展を視野に入れた対応が求められ、特に子育て環境、あるいは高齢期の生活環境の整備が求められる。

(二)子育て環境の現状

 総人口に占める年少人口(十五歳未満)割合の将来推計をみると、平成七年の16.0%から減少を続け、平成十五年(二〇〇三年)には14.3%となり、その後も減少が続き、平成四十二年(二〇三〇年)には12.7%になるものと見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(中位推計)平成九年一月)。
 こうした少子化の進展は、労働力人口や社会保障など経済社会全体に影響を与え、二十一世紀に向けて経済社会の活力を低下させる要因になりかねないとも考えられる。
 一方、子育ての負担感の軽減や支援に関し、公的機関が優先して取り組む課題について、財団法人こども未来財団が平成六年十月に調査した「子育てに対する社会的支援に関する調査」(複数回答)によれば、「育児休暇、労働時間の短縮などによる、男女とも仕事と子育てとが両立できるような雇用システムの確立」(77.3%)、「保育所での乳児保育、時間延長保育など多様で利用しやすい保育サービスの提供」(61.9%)、「子育てについての、気軽に利用できる総合的な相談支援サービスの充実や子育てに関する親同士の地域ネットワークづくりの推進」及び「児童手当、税制などによる育児に対する経済的支援の充実」(ともに28.1%)が挙げられている。
 子どもを生み育てやすい環境づくり(保育サービス、子育てと就業、子育てと地域社会、子育て家庭の経済的負担、教育環境)を進めることは、二十一世紀の経済社会の活力の維持と豊かな国民生活の実現を図る上からも重要である。

1 保育サービス

 夫婦の共働き世帯の増加、核家族化の進行、就労構造の変化、都市化の進展などから、家庭や地域の子育て機能は低下し、また、保育に対する需要は増大し、多様化してきている。
 結婚している女性の就業割合をみると、平成七年は51.2%であり、約半数は何らかの職業についており、昭和三十七年からの推移をみてもその割合は40%台後半から50%台前半となっている(総務庁「労働力調査」)。
 また、昭和三十年から平成七年までの家族類型別世帯数の変化をみると、世帯総数は二千七百万世帯増加し四千四百万世帯となっており、このうち、核家族世帯は千六百万世帯増加し二千六百万世帯に、単独世帯は一千四十万世帯増加し一千百万世帯に、三世代世帯を中心とする「その他の親族世帯」は特に変化はなく七百万世帯前後になっている。家族類型別世帯数割合は、核家族世帯は60%前後で変化はなく、単独世帯は3.4%から25.6%に大幅に増加し、三世代世帯を中心とする「その他の親族世帯」は36.5%から15.4%に大幅に減少している(総務庁「国勢調査報告」)。
 一方、保育所は、全国で二万二千四百五十二か所、定員は百九十一万八千百七人となっている(平成八年四月一日現在 厚生省報告例)。入所児童数は、少子化が進展するなかで、就学前の児童数が減少しているにもかかわらず、低年齢児(〇~二歳児)の入所児童数が増加傾向にあることから、入所児童数全体では大きな変化はなく、百六十一万六十四人となっている(同)。このうち、四歳以上児が約半数で、一歳・二歳児及び三歳児はともに約20%ずつ、〇歳児はわずか約3%となっており、定員数に占める入所児童数は83.9%となっている(同)。
 こうしたなかで、政府は、平成六年十二月に文部・厚生・労働・建設の関係四省大臣の合意によるエンゼルプランを、またその具体化の一環として、大蔵・厚生・自治三省大臣合意による緊急保育対策等五か年事業をそれぞれ策定している。
 エンゼルプランは、概ね十年間を目途として子育てに対する社会的支援を総合的かつ計画的に推進することとし、保育、雇用、教育、住宅などの施策について、基本的方向及び重点施策を盛り込んでいる。施策の基本的方向として、(1)子育てと仕事の両立支援の推進、(2)家庭における子育て支援、(3)子育てのための住宅及び生活環境の整備、(4)ゆとりある教育の実現と健全育成の推進、(5)子育てコストの軽減、の五項目を掲げている。
 緊急保育対策等五か年事業では、平成七年度から十一年度までの五年間に推進すべき保育対策等の具体的目標を定めている。第一に、多様な保育サービスの充実としては、(1)低年齢児(〇~二歳)保育を平成七年度四十七万人から十一年度六十万人に、(2)延長保育が同じく二千五百三十か所から七千か所に、(3)一時的保育が同じく六百か所から三千か所にすることなどが主な内容となっている。また、第二に、乳児保育・子育てサークル支援等の多機能化の保育所の整備を二百か所から千五百か所に、第三に、子育て支援のための基盤整備として、地域子育て支援センターを三百五十四か所から三千か所にすることとしている。
 他方、平成五年に日本労働組合総連合会(連合)が調査した「働く母親の保育制度への要望」(複数回答)によると、その要望は上位から「保育費の負担大・負担の不公平の是正」(51.0%)、「早朝保育・延長保育の充実」(48.7%)、「産休明け保育所の増加」(39.7%)、「入所時期の柔軟化」(38.3%)、「軽い病気のとき預かってほしい」(29.0%)となっている。
 政府は、今国会に「児童福祉法等の一部を改正する法律案」を提出している。その主な内容は、(1)従来の措置制度ではなく、保護者が希望する保育所を選択できること、(2)所得に応じた保育料の負担方式ではなく、年齢等に応じた保育サービス費用に基づく負担方式にすること、(3)保育所において地域住民からの子育て支援に応じられるようにすることであり、この法案は平成九年六月三日成立をみた。
 保育所の入所率は約八割で定員を大きく下回っているが、夫婦の共働き世帯が増加していること等から、多様な保育ニーズに応え得るサービスの充実など質的な向上が求められている。

2 子育てと就業

 近年、女性の高学歴化の進展、労働に対する能力の向上や意識の高揚、あるいは平均出生児数の減少に伴う育児期間の短縮、さらには家電製品の普及による家事の省力化などから女性の就業者の数は増加を続けている。
 女性の就業者数の推移をみると、昭和四十年から平成七年までの三十年間に七百三十六万人増加し、二千六百十四万人(全就業者数の40.5%)となっており、このうち、雇用者は約八割の二千四十八万人(全雇用者数の38.9%)となっている(総務庁「労働力調査」)。
 また、平成七年の女性の労働力率を年齢階級別にみると、二十~二十四歳層と四十五~四十九歳層がそれぞれ74.1%、71.3%と高く、三十~三十四歳層が53.7%と低く、いわゆるM字型曲線を描いている。これを十年前の昭和六十年と比べると、十五~十九歳層で低下がみられる以外、どの年齢層においても労働力率は高まっている。特に、二十五~二十九歳層(12.3%)、五十~五十四歳層(6.1%)、五十五~五十九歳層(6.0%)が際だっており、三十~四十歳層の伸びが低くなっている(総務庁「労働力調査」)。これは、主に出産・育児による就労の中断が考えられる。
 末子の年齢別にみた妻(五十五歳未満)の就業率をみると、末子の年齢が三歳未満である場合で、28.2%となっているが、その年齢が上がるにしたがって上昇し、十二~十四歳時では72.7%となっている。その就業形態をみると、パート労働者の割合がもっとも高くなっている(総務庁「就業構造基本調査」平成四年)。
 また、育児休業取得者の割合は、出産した女子労働者で48.1%、配偶者が出産した男子労働者では、わずか0.02%となっている(労働省「女子雇用管理基本調査」平成五年度)。
 一方、我が国における女性の出産と就業に関する意識をみると、「子どもができてもずっと職業を続けるほうがよい」及び「子どもができたら職業をやめ、大きくなったら再び職業を持つ方がよい」と答えた者が男女ともに増加している。なかでも、「子どもができてもずっと職業を続けるほうがよい」と答えた女性は急速に増加してきている(総理府「男女共同参画に関する世論調査 平成七年七月」等による)。
 このように、女性の労働に対する意識には高揚がみられるが、子育てと仕事との両立が難しい状況にあることがうかがえる。
 ちなみに、厚生省の「働く女性の出産」調査(平成八年六月)によれば、就業している母(常勤者)のうち、育児休業を取得していない者は約二割で、その理由としては、「職場の雰囲気や仕事の状況」が48%と約半数を占めており、「経済的問題」が24.6%、「仕事に早く復帰したかった」が12%となっている。また、平成二年度の職業別合計特殊出生率をみると、無職である女性が二・九六であるのに対して、就業している女性が〇・六〇となっており、就業女性が子どもを持ちたくても持ちにくい就労環境や保育環境になっていると考えられる。
 平成八年十二月に施行された労働者派遣法に基づき、育児休業制度の普及促進を図るため、育児休業取得者の代替要員の派遣が行われることになったが、今後さらに育児休業の取得が容易となるような雇用環境の整備が重要である。また、出産後、いったん離職しても、希望によって再就職が可能となるような雇用環境の整備が求められる。

3 子育てと地域社会

 核家族化、少子化、都市化、価値観の多様化などにより、子ども同士・親同士や世代間の交流の機会、あるいは、子どもの遊びや活動の場が減少している。また、地域社会のつながりが希薄化するなかで、世代を通して子育てを学びにくくなった親たちは、子育てに対する不安を増大させ、特に、近隣との接触が乏しいことから、児童虐待などの問題を生じさせている。
 保育環境や父母の就労環境の整備が必ずしも十分ではないなかで、健全な子どもの育成のために地域社会が果たす役割は重要となっている。
 子育て支援の基盤を形成するため、子育て家庭の育児負担の相談や子育てサークルへの支援を行うと同時に、地域の保育所間との連携を図る「地域子育て支援センター事業」が実施されている。また、全市町村の約三分の一では、地域の実情に応じた放課後児童クラブが運営されている。さらに、先述の「児童福祉法等の一部を改正する法律」においても、児童相談所の機能強化や児童家庭支援センターの創設などの施策が盛り込まれている。
 子育ては家庭のみでそのすべてを行うことは難しく、子育てを支援する地域社会の協力が不可欠と思われる。このため、地域社会における子育て・児童の健全育成に関する子育てネットワークづくりが重要となる。
 また、出産や育児に係る心理的負担を軽減できるよう、地域社会における母子保健対策が重要である。現在、母子保健対策として、結婚前から乳幼児期を通じて体系的かつ総合的に健康診査が行われている。母子医療対策や子育て支援施策にも重点がおかれ、心身障害発生防止対策、市町村の母子保健事業の育成や地域母子保健活動の充実などが進められている。妊産婦死亡率は昭和二十二年の一六七・五に比べて著しい改善がみられ、平成七年には出生十万対六・九となっており、また、乳児死亡率は出生千対四・三で、欧米諸国と比較しても最高の水準にあるが、今後も母子保健対策の一層の充実が求められる。

4 子育て家庭の経済的負担

 厚生省人口問題研究所「出生動向基本調査〈第十回〉」(平成四年)によれば、平均理想子ども数は、平均予定子ども数に比べて〇・四六人高くなっている。また、妻が理想の数の子どもを持とうとしない上位第三位までの理由(複数回答)は「一般的に子どもを育てるのにお金がかかるから」(30.1%)、「高年齢で生むのはいやだから」(29.6%)、「子どもの教育にお金がかかるから」(28.3%)となっている(厚生省人口問題研究所「日本人の結婚と出産 平成六年」)。このように、子育てに要する経済的負担が理想の子ども数を持とうとしない理由の大きな要因となっている。
実際、子どもが成人するまでの子育てに要する費用は、約二千万円と試算されている(平成八年版厚生白書)。特に、多額の費用を要するとされる教育費を民間調査でみると、学校教育費や補助教育費(学習塾、家庭教師等に要する費用)は、仮に幼稚園から大学までのすべてが国公立であった場合では一千九十三万円、すべてが私立であった場合では一千九百十四万円、高等学校と大学が私立であった場合では一千四百三十二万円が必要とされている(三和銀行調べ)。
 一方、子育てに係る経済的支援の主な内容をみると、まず、出産の時においては、被用者として仕事に従事している女性に対しては、健康保険制度から出産育児一時金として三十万円、また出産休業期間については、出産手当金として標準報酬の六割が支給されている。ちなみに、地方公共団体によって金額は異なるが、八百三十九団体から「出産祝い金」が支給されている。また、出産後、育児休業を取得すれば、育児休業基本給付金及び育児休業者職場復帰給付金が支給され、その育児休業期間中の健康保険及び厚生年金保険の被保険者本人負担分の保険料が免除されることになっており、育児休業期間中の給付等をあわせれば、休業前の給与の約四割程度の経済的支援が行われていることとなる。
 また、児童手当は、第一・二子には五千円、第三子以降には一万円が支給されている。この支給期間は三歳未満となっており、平成七年度においては、支給児童数約二百二十二万人である(特例給付の支給児童数を含む)。
 さらに、育英奨学事業において、日本育英会を例にとると、大学の場合、貸与人員は約三十万人、貸与月額は自宅通学の場合、国公立が三万八千円、私立が四万七千円、また自宅外通学の場合、国公立が四万四千円、私立が五万七千円となっている(平成八年度 文部省調べ)。
 有子家庭と無子家庭との間に大きな負担格差が生じることがないよう、子育てに要する経済的負担の軽減を図ることが求められる。

5 教育環境

 いじめや登校拒否等に代表されるように、現在の教育をとりまく環境は極めて深刻な状態にある。
 いじめはその発生件数(全国の公立小学校・中学校・高等学校等の合計数)が平成六年度において約五万六千件となっている。また、登校拒否は、平成七年度において、年三十日以上欠席した児童生徒数が小学生・中学生の合計で約八万一千人に、同じく年五十日が約六万六千人にのぼり、年々増加する傾向にある。さらには、体罰、校内暴力や高等学校中途退学者が年間約十万人にものぼるなど、子どもの教育環境は憂慮すべき状況になっている。
 いじめや登校拒否等の問題は家庭や学校、地域社会で生じる様々な事象が複雑に絡み合って生じている。このため、今後は、政府はもとより、家庭や学校、地域社会が児童の健全育成のために積極的な役割を果たしていくことが求められる。

(三)高齢期の生活環境の現状

 総人口に占める六十五歳以上の高齢者人口の割合は、平成七年十月現在14.5%で、今後も増加する傾向にあり、平成六十一年(二〇四九年)には32.3%と、国民の約三人に一人が高齢者になるものと見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(中位推計)平成九年一月)。
 平成七年における六十五歳時の平均余命は、男十六・四八年、女二十・九四年になり、昭和六十年の男十五・五二年、女十八・九四年と比べて、それぞれ〇・九六年、二・〇〇年伸び、高齢期が長期化してきている(厚生省「生命表」平成七年)。
 また、高齢者の一人暮らし世帯数が急増して、昭和六十年の百六十一万世帯から平成七年には二百二十万世帯となり、二十二年には四百六十三万世帯に増加するものと見込まれている(厚生省「日本の世帯数の将来推計(平成五年十月推計)」)。これは、少子化によって子どもが独立した後の期間が長くなったこと、あるいは年金等の社会保障が充実してきたことなどによると考えられる。
 一方、平成五年九月の総理府「高齢期の生活イメージに関する世論調査」によれば、高齢期の生活に対する不安(複数回答)では「自分や配偶者の体が虚弱になり病気がちになること」(49.4%)、「自分や配偶者が寝たきりや痴呆性老人になり介護が必要になったときのこと」(49.2%)、「老後の生活資金のこと」(35.5%)、「配偶者に先立たれた後の生活のこと」(27.4%)、「子どもや孫などと別居し、孤独になること」(13.0%)が上位に挙げられている。
 活力ある二十一世紀の経済社会を構築するためには、多年にわたって社会に貢献してきた高齢者が、高齢期を不安なく、豊かに過ごすことのできる環境を整備することが重要である。特に、公的年金、雇用、生きがい対策、介護はその中核となるものである。

1 公的年金

 我が国の公的年金制度は、昭和三十六年に国民年金法が施行され、国民皆年金制度が確立して以降、経済社会の変化に対応して、給付水準の引き上げ、物価スライド制の導入や標準報酬の再評価の導入、基礎年金と報酬比例年金の二階建て年金制度への再編など、逐次見直しが行われてきた。
 平成六年には、本格的な年金の支給開始年齢を六十五歳とすること、六十歳代前半の年金については平成十三年度(二〇〇一年度)から段階的に報酬比例部分相当の老齢厚生年金に切り替えることなどの改正が行われたところである。
 平成七年度末における公的年金の加入者数は、国民年金、厚生年金保険及び共済組合を合わせて六千九百九十五万人となっており、また、老齢年金受給者数は二千五十四万八千人となっている。
 平成九年度の老齢年金の給付水準をみると、国民年金(基礎年金)は年額七十八万五千五百円、厚生年金は二百四十八万二千八百円(平成七年度の男子の新規裁定平均年金額)となっている。
 一方、厚生省の国民生活基礎調査によれば、平成六年における高齢者世帯の平均所得金額(年額)は三百三十二万二千円となっている。これを所得の種類別にみると、「公的年金・恩給」が百八十二万九千円で最も多く、次いで、「稼働所得」が百十一万一千円、「家賃・地代の所得」が十八万三千円となっており、所得に占める「公的年金・恩給」の割合は55.1%となっている。また、所得に占める公的年金の割合が100%の世帯が高齢者世帯数の半分を占めるなど、高齢者世帯における公的年金の重要性が一層増している。
 高齢者が、現役引退後の生活に不安を抱くことなく、安心して暮らしていける生活を確保するためには、高齢期の生活の基礎的部分を支える公的年金を適正な給付水準に維持するとともに、制度の長期的安定を図っていくことが必要である。
 他方、近年の経済活動の国際化の進展に伴い、就業者の世界的規模での移動が日常化している。海外で就労する邦人は平成二年の約三十七万四千人から七年の約四十六万人に約25%増加し(外務省「海外在留邦人数調査統計」)、また、国内で就労する外国人も平成二年の二十万三千人から七年の二十六万二千人に約30%増加している(法務省「出入国管理統計年報」)。海外で勤務する者については、原則として勤務地の制度が適用されることとなる。しかし、海外勤務中の期間のみでは外国の年金の資格要件を満たすことができず保険料が掛け捨てになる場合があるほか、海外勤務中も本国企業等との雇用関係が継続している場合、自国の年金制度との間で二重適用が生じ保険料が二重払いとなっている。今後、さらに諸外国との人的交流の活発化が予想されることから、早急に二重適用の回避を図るとともに、資格期間の通算等を図り、高齢期における適正な給付水準を確保していく必要がある。

2 雇用

 高齢者雇用の現状をみると、従業員三十人以上の企業で一律定年制を定めている企業の定年年齢別割合は、五十九歳以下11.7%、六十歳80.4%、六十一~六十四歳1.7%、六十五歳以上6.2%となっている。また、勤務延長や再雇用を希望すれば何らかの形態で六十五歳まで働ける企業の割合は、全体の20.4%となっている(労働省「平成八年の雇用管理調査報告」)。さらに、六十~六十四歳の有効求人倍率の推移をみると、平成四年〇・一六、五年〇・一〇、六年〇・〇八、七年〇・〇八となっている(労働省「職業安定業務統計」各年十月)。このように、高齢者の雇用環境は厳しく、特に六十歳を過ぎてからの再就職は極めて困難で、意欲と能力を有する者に就業の機会が必ずしも確保されていない状況にある。
 一方、二十歳以上の男女が「何歳まで働きたい」と考えているか、その高齢期の就業意欲をみると、「働けるかぎりずっと」33.5%、「七十歳くらい」6.0%、「六十五歳くらい」17.6%、「六十歳くらい」23.2%等となっており、全体の57.1%が六十五歳程度まで働きたいとの希望を持っている(総理府「勤労意識に関する世論調査」平成四年)。
 また、六十から六十四歳層の男子の不就業者のうち、就業を希望する者の希望勤務形態をみると、「普通勤務」24.4%、「短時間勤務」38.4%、「近所や会社などに頼まれたりして、任意に行う仕事」15.9%を希望するなど、高齢期における希望勤務形態は多様化している(労働省「高年齢者就業実態調査」平成四年)。
 高齢者の雇用・就業機会の確保に関しては、これまで六十歳定年の法的努力義務、定年の引き上げ要請、計画の作成命令、計画の変更勧告等によって、六十歳定年の定着が図られてきており、平成十年度からは六十歳定年が義務化されることとなっている。
 また、六十五歳までの継続雇用の推進を図るため、六十五歳までの継続雇用努力義務、継続雇用に関する計画の作成指示、計画の変更勧告等が法定されるとともに、高年齢者雇用環境整備奨励金等の助成金制度等が講じられている。
 近い将来、若年人口が急速に減少し、労働力人口に占める六十歳以上の高齢者の割合が平成十二年に15%、平成二十二年に20%となると予想されることから、我が国の経済社会の活力を維持していくためにも、高齢者が長年培ってきた経験や能力を十分発揮できる場を確保していくことが必要である。

3 生きがい対策

 高齢社会においては、高齢者が各種の地域活動にも主体的に参加し、社会から疎外されることなく自立した市民として活動することが重要である。また、高齢者が孤独や無為に過ごすことなく、生きがいを持って充実した生活を送るためには、それまで培ってきた知識、経験、技術等の能力を発揮できる機会を確保する必要がある。
平成六年三月の総理府「高齢期の生活イメージに関する世論調査」によれば、高齢期における社会活動として(複数回答)、「スポーツ、レクリエーション活動」(47.5%)、「文化・教養活動」(37.7%)、「ボランティア活動」(32.9%)、「町内会、自治会活動」(24.3%)が挙げられている。
 現在、高齢者の生きがい対策として、高齢者の多様なニーズに応じたスポーツ活動を実施する高齢者スポーツ活動推進事業、高齢者の多様化・高度化する学習要求に応えるための生涯学習関連事業、高齢者自らの教養の向上及び社会奉仕活動等を行う老人クラブ活動に対する助成事業、高齢者の社会活動についての啓発事業、就労斡旋や相談活動を行う高齢者能力開発センターの運営及び高齢者健康スポーツ祭を主な活動とする全国健康福祉祭(ねんりんピック)などが行われている。
 また、総理府「高齢期の生活イメージに関する世論調査」によれば、社会参加しやすくするために必要なこととして(複数回答)、「一緒に活動に参加する仲間がいること」(59.8%)、「身近に活動の場があること」(41.9%)、「家族など周囲の理解が得られること」(40.5%)、「参加するのにあまり費用がかからないこと」(36.0%)、「時間や期間にあまり拘束されないこと」(35.1%)、「よき指導者がいること」(31.6%)、「自分の経験や技術が生かせること」(25.3%)、「活動のための施設が整備されていること」(23.3%)、「参加を呼びかける団体、世話役がいること」(22.7%)、「活動などについての情報提供があること」(21.0%)が挙げられている。
 一方、総務庁の「高齢者の地域社会への参加に関する調査」(平成五年)をみると、高齢者の社会参加活動の状況は、一年間活動に参加していない者が57.7%となっている。これらの者が活動に参加しなかった理由(複数回答)としては、「家庭の事情がある」(34.2%)、「健康・体力に自信がない」(31.6%)、「特に理由はない」(19.7%)、「どのような活動が行われているか知らない」(8.1%)が挙げられている。このため、高齢者が生きがいを持てるよう社会活動に参加しやすい環境整備が求められる。
 生きがいのある生活を送るためには、健康の維持が重要となる。高齢社会の到来とともに、我が国の疾病構造は、がん、心臓病、脳卒中などのいわゆる成人病が中心となってきた。過去十年間に心臓病、脳卒中等の患者は一・五倍に急増している。これらの疾患は、幼年期からの生活習慣等が密接に関連しており、病気の予防のため、また高齢になっても寝たきりや痴呆など介護を必要とする状態にならないよう、保健サービスなどの対策が極めて重要である。
 政府は保健事業第三次計画(平成四年度~十一年度)において、健康診査の受診率を平成十一年度までに基本健康診査については50%、胃がん検診については30%、子宮がん検診については30%までに高めることとしている。また、この計画の中で、平成五年度の目標をそれぞれ38%、18.0%、18.5%としていたが、全国平均受診率は35.6%、14.0%、16.1%にとどまっている。疾病の予防を始めとする健康増進を図るための健康づくり対策として、保健事業第三次計画の着実な推進が求められる。
 なお、り患した場合にかかる医療機関の状況をみると、全国の医療施設数(病院、一般診療所及び歯科診療所の合計数)は十五万五千八十二施設で、病床数は百九十二万九千三百九十七床となっている(平成七年十月現在)。これを人口一万人当たりの病床数で国際比較すると、アイスランド百六十三・六床、フィンランド百五十五・五床、日本百五十五・一床、スウェーデン百四十八・一床、フランス百六・九床、イギリス八十五・六床、アメリカ五十八・六床となっており、日本は高い水準にある。
 しかし、病院と一般診療所の役割分担が不明確なことや、専門医・医療検査機器などの医療情報が入手しづらいことなどから、患者が大きい病院に集中する傾向がみられ、長い待ち時間や短い診療時間など、医療サービスの低下を招いている。患者の疾患の状況に応じた適切な医療が受けられる体制の整備が求められている。

4 介護サービス

 長寿命化に伴い、高齢者人口は急速に増加し、寝たきりや痴呆といった介護を必要とする高齢者も増加している。要介護高齢者の発生率は、加齢に伴い増加し、六十五~六十九歳では1.5%程度であるが、八十~八十四歳では11.5%、八十五歳以上では24%と推計されており、要介護高齢者は平成十二年には二百八十万人、三十七年には五百二十万人に達するものと見込まれている。また、実際に寝たきりとなった場合の寝たきり期間も長く、三年以上が47.3%、一年以上三年未満の26.8%と、全体の四分の三以上は一年以上の寝たきりとなっている。
 一方、家族類型別世帯数割合をみると、核家族世帯は60%前後で変化はなく、単独世帯は3.4%から25.6%に大幅に増加し、三世代世帯を中心とする「その他の親族世帯」は36.5%から15.4%に大幅に減少している(総務庁「国勢調査報告」)。平均世帯人員数も昭和二十八年に五人であったが、四十年には三・七五人、平成七年には二・九一人まで減少し、さらに二十二年には二・五五人に達すると見込まれている。また、家族介護者の年齢階級別構成をみると、七十歳以上が22.9%、六十~六十九歳が28.0%と高齢化が進み、心身両面の負担が大きくなっている(厚生省「国民生活基礎調査」平成七年)。さらに、厚生省「家族機能基本調査」(平成七年)によれば、現に介護している者を対象とし、主たる介護者と従たる介護者の状況について調査した結果、従たる介護者がいない者は約四割にのぼっており、また、世帯の誰かが介護を要する場合どうするかをみると、「家族・親族が面倒をみる」とした者はどの年代においても約二割となっている。こうしたことから、家族の介護負担が大きいことや介護力の低下が著しいことがうかがえる。
 特別養護老人ホームを始めとする各種施設サービスやホームヘルプサービスを始めとする各種在宅福祉サービスの整備を図るため、昭和六十三年に「長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え方と目標について(福祉ビジョン)」が、平成元年に「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」が策定され、六年にはゴールドプランを大幅に見直し、新ゴールドプランが策定された。
 新ゴールドプランは、平成十一年度末までに、在宅サービスとしてホームヘルパー十七万人、ショートステイ六万人分、デイサービス・デイケア一万七千か所、在宅介護支援センター一万か所、老人訪問看護ステーション五千か所を、また施設サービスとして特別養護老人ホーム二十九万人分、老人保健施設二十八万人分、高齢者生活福祉センター四百か所、ケアハウス十万人分を整備することとしている。
 しかし、ホームヘルパーの整備目標である十七万人を、六十五歳以上人口十万人当たりの数でみると、七百七十七・三人となっており、これは一九八九年のスウェーデンの五千八十三人、イギリスの八百三十三人にも遠く及ばないものである。
 ちなみに、平成六年度までの実績(達成率)は、ホームヘルパー七万九千六百八十九人(46.9%)、ショートステイ二万七千百二十七人分(45.2%)、デイサービス・デイケア三千九百九十三か所(23.5%)、在宅介護支援センター一千七百七十七か所(17.8%)、特別養護老人ホーム二十一万七千四百十七人分(75.0%)、老人保健施設九万三千九百九十四人分(33.6%)、高齢者生活福祉センター百五十八か所(39.5%)、ケアハウス九千八百八十九人分(10.0%)となっている。
 一方、現在の福祉サービスは、市町村がその内容を決定するシステム(措置制度)となっている。現状では福祉サービスの基盤整備が不十分であることなどから、利用者がサービスを選択をすることができず、サービス内容も画一的になりがちである。また、特別養護老人ホームへの待機者や一般病院への長期入院者が増加する傾向にある。さらに、サービス利用に際して、所得調査が行われることから心理的抵抗感があるといった問題も生じている。
 このように、在宅・施設介護と公的・民間サービスの両面における高齢者自らの自由な選択、従来の医療保険、老人保健、社会福祉制度における矛盾の是正などが求められている。このため、加齢に伴って要介護状態となり、介護等を要する者について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行う公的介護制度の導入が検討されている。
 公的介護制度が導入されれば、要介護者が介護給付を受けられることから、これまで家族に担われていた介護が新たな介護需要として顕在化するものと考えられる。このため、新ゴールドプランに基づくサービス基盤の整備では供給量が不足する可能性があることから、公的介護制度が導入されるまでの間に、在宅・施設サービスの一層の充実が求められる。また、要介護認定が全国均一に行われるよう、判定指針や市町村で介護認定を担当する者に対する研修を行うことも必要である。
 障害者に対しては、平成五年十二月には「障害者基本法」が制定されたこともあり、ノーマライゼーションの理念は徐々に浸透してきているものの、地域における障害者の生活を支援するためのサービスは質・量ともに十分でない。このため、七年十二月に「障害者プラン」が策定され、その中で平成十四年度末の整備目標としてグループホーム・福祉ホーム二万人分、重症心身障害児(者)等の通園事業対象施設一千三百カ所、精神障害者生活訓練施設六千人分、ホームヘルパー四万五千人上乗せ、身体障害者療護施設二万五千人分などの具体的数値を示し、その着実な推進が図られているところである。なお、障害者の高年齢化あるいは高齢期における脳血管疾患や心臓疾患などの慢性疾患の増加により、身体障害者の半数は六十五歳以上の高齢者となっている。

5 介護と就業

 核家族化の進展、寝たきり期間の長期化等に伴い、家族介護者の精神的、経済的、身体的負担が重くなっている。
 五十五歳以上の要介護者を抱えている家族を対象に、現在困っていることを調査した結果(三つ選択回答)によると、「介護者の精神的負担が大きい」(61.0%)、「介護のため生活の見通しがたたない」(56.2%)、「介護の肉体的負担が大きい」(43.1%)、「介護の時間や労力が増えている」(30.2%)が上位を占めている(連合「要介護者を抱えている家族についての実態調査」平成七年)。
 また、寝たきり高齢者と同居している主な介護者の年齢階級別構成をみると、五十~五十九歳が28.1%、四十~四十九歳が15.3%、三十九歳以下で4.1%となっている(厚生省「国民生活基礎調査」平成七年)。
 高齢者がいる三世代世帯における家族介護者の男女別にみた就業率(厚生省調査)をみると、女性の就業率は、三十~三十九歳で要介護者のいない場合に〇・六〇六、寝たきり高齢者がいる場合に〇・三七五、虚弱老人がいる場合に〇・四〇〇と、同様に四十~四十九歳の場合、それぞれ〇・七〇〇、〇・四二九、〇・四九一となっている。これは、要介護者がいない場合に比べて、要介護者がいる場合に就業率が低いことを示している。ちなみに、男性(五十歳未満)の就業率は、要介護者がいる場合でも、特に変化がみられない。
 一方、介護と仕事を両立させることができるよう、介護休業を規定した「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護法)」が制定され、平成十一年四月に施行されることになっている。その主な内容は、連続する三月の期間を限度として、常時介護を要する家族一人につき一回の介護休業を取得することができるとするものである。また、平成七年十月から介護休業を早期に普及させるための助成事業が行われている。さらに、平成八年十二月に施行された労働者派遣法に基づき、育児休業取得者と同様、介護休業取得者についても代替要員の派遣が行われている。
 独自に介護休業を採用している企業の割合は、従業員数五百人以上で51.9%、百~四百九十九人で22.5%、三十~九十九人で14.2%となっており、全体ではわずか16.3%である(労働省「女子雇用管理基本調査」平成五年)。
 なお、介護休業の取得者に対して、介護をしている時に困ったことを調査した結果(三つ選択回答)、「介護のために収入が減った」(51.4%)、「ストレスや精神的負担が重い」(45.9%)、「十分な睡眠がとれない」(39.0%)が上位を占めている(連合「介護休業・短時間勤務制度取得者実態調査」平成七年)。
 こうしたことから、介護休業を取得しやすい環境の整備を進めるとともに、介護休業取得者の負担の軽減を一層図る必要がある。

6 介護と地域社会

 平成七年における六十五歳以上の在宅の要介護者数は八十六万一千人で、そのうち寝たきり者数は二十八万四千人となっている。また、寝たきり高齢者を介護している者のうち、85.1%は女性であり、年齢も六十歳以上が半数以上を占めている(厚生省「国民生活基礎調査」平成七年)。さらに、連合の「要介護者を抱える家族の実態」に関する調査(平成六年十~十二月調査)によれば、「要介護者に対し憎しみを感じたことがある」と回答した者が約三分の一を占め、また「要介護者に対して虐待したことがある」と回答した者は半数にものぼっている。こうしたことから、家族介護者の心身両面にわたる負担が大きくなっていることがうかがえる。
 現在、介護サービスの整備が不十分であること、あるいは介護者の就労環境の整備も必ずしも十分でないことから、介護における地域社会が果たす役割は重要となっている。
 こうしたなかで、家族の介護を支援するボランティア団体の活躍が近年めざましい。全国社会福祉協議会の調べによれば、活動者数は昭和五十五年度に百六十万人であったものが、平成七年三月には五百五万人と約三倍に増加し、団体数も一万六千グループから六万三千グループに約四倍となった。活動者を職業別にみると主婦が45.7%を占め、その活動対象は高齢者が40.5%、障害者が23.1%となっている。
 今後、高齢者の在宅において自立した生活を継続できる環境を整備するため、ボランティア活動を行う団体を支援していくことが必要である。

(四)情報化の進展と社会保障

 近年、情報化の進展はめざましく、情報通信は国民生活において欠かせないものとなってきている。パソコンやインターネットの加入者は急速に増加し、携帯電話も普及してきている。情報通信は教育、交通等あらゆる分野で積極的に活用されており、社会保障分野においても在宅医療支援、高齢者等緊急通報システムなど医療の支援、安全の確保が図られたり、また、テレワークの活用などにより高齢者の社会参加が促されるなど、情報通信技術に対する期待は高まっている。しかし、こうした社会においては、特に情報弱者になりやすいと考えられる高齢者や障害者に配慮する必要がある。
 一方、二十一世紀の少子・高齢社会への対応を図る上で、国民が住み慣れた家庭や地域社会の中で、健やかで豊かな生活を送ることができるようにしていくため、保健医療福祉など社会保障に係る情報化の推進は重要となる。
 現在、保健分野については、地域保健法により、身近な市町村に権限が委譲され、地域住民に一元的な保健サービスが実施されている。しかし、近年、若い頃からの健康づくりや病気の予防などの国民の健康意識の高まりから、健康相談の充実や健康生活情報の提供などが求められている。また、医療分野においては、国民の多様な高度化したニーズに応えられるよう、遠隔医療技術の開発など質の高い医療サービスが、さらに福祉分野においても、特に、介護サービスに対する要介護者と施設等との連絡調整などの支援が求められている。
 こうした保健・医療・福祉分野については、家庭や地域社会において効率的・総合的なサービスを提供していくことが求められる。このため、保健・医療・福祉が連携したサービスが提供されるよう、地域の保健所や在宅介護支援センターなどを拠点とした情報ネットワークの構築が必要である。
 なお、保健や医療、福祉をはじめとして、国民が必要とするサービスにおいて、その窓口がわかりにくく、その利用手続が煩雑となっている。このため、窓口の一元化を図るとともに、ICカードの活用など情報の一元化を進めていくなかで、手続を簡素でわかりやすいものとすることが求められる。

二 社会保障と財政

 平成九年度における社会保障関係費(生活保護費、社会福祉費、社会保険費、保健衛生対策費及び失業対策費)をみると、一般歳出の33.2%を占めており、十四兆五千五百一億円となっている。これを部門別にみると、医療関係が六兆五千七百八十五億円、年金関係が四兆一千五百十七億円、福祉・その他が三兆八千百九十九億円となっている。高齢化の進展に伴い年金等に係る国庫負担等の当然増が約八千億円と見込まれているが、この当然増分は大幅に削減され、平成九年度の社会保障関係費は前年に比べて二千六百二十二億円増(対前年比1.8%増)となっている。
 また、地方財政における社会福祉系統経費(民生費、衛生費、労働費)をみると、平成七年度歳出総決算額の19.2%を占めており、十八兆九千九百五十四億円となっている。これを部門別にみると、民生費十一兆九千七百九十九億円、衛生費六兆四千七百四十五億円、労働費五千四百十億円となっている。社会福祉系統経費の伸び率は、平成七年度は5.7%の増となっているが、新ゴールドプランの実施等による経費が増加していることを考えると、その財源確保は厳しい状況にあると思われる。
 社会保険の財政状況をみると、年金保険については、平成六年の年金財政計画において、現在と将来の現役世代の負担の公平を図るため、一定水準の積立金を保有し、その運用収入の活用を通じて最終保険料負担を軽減するとともに、保険料率を適切に段階的に引き上げることにより、最終保険料負担を30%以内に抑えるとの考え方に基づき、平成三十七年の厚生年金の保険料率を29.8%に、年度末積立金の年間年金給付額に対する割合を二・九にすることとした。同様に、国民年金の保険料月額を二万一千七百円(六年度価格)に、年度末積立金の年間年金給付額に対する割合を二・八にすることとした。厚生年金保険は、この計画で、五年ごとの保険料の引上げ幅を2.2%から2.5%に引き上げたが、年度末積立金の年間年金給付額に対する割合は平成七年の五・七から平成三十七年の二・九に低下し、厳しい財政運営となっている。
 また、平成七年度の医療保険の状況をみると、健康保険の赤字組合数は一千百三十七組合(全体の62.5%)で、その総額は一千二百二十二億円にのぼっている。また、市町村国保の赤字保険者数は二千百五十七市町村(全体の66.4%)で、その額は一千六十九億円、また法定外の一般会計繰入金は二千九百十六億円となっている。
 社会保障関係の総費用をみると平成六年度の実支出額は七十兆二千六百四十四億円となっている。この主な支出額は、「公的扶助」一兆四千二百八十一億円、「社会福祉」三兆四千八百二十九億円、「社会保険」五十四兆四千二百十億円、「公衆衛生及び医療」四兆七千九百五十七億円、「老人保健」八兆三千二百二十八億円である。また、実収入額は八十二兆九千五百九十三億円となっており、この主な収入額は、「国庫負担」十九兆五千六百三十八億円(23.6%)、「地方負担」七兆五千三百二十二億円(9.1%)、「保険料」四十四兆九千四百三十五億円(54.2%)、「運用収入」九兆一千七百七十八億円(11.1%)となっている。
 国、地方及び社会保険の財政状況が厳しいなかで、国民の負担がどのようになっているかをみると、平成九年度の国民負担率(見込み)は38.2%となっている。ちなみに、先進諸国の国民負担率をみると、「高福祉・高負担型」といわれるスウェーデンが70.2%となっているほか、フランスは57.9%、ドイツは55.9%、イギリスは42.5%、アメリカは36.3%となっている(平成五年)。
 「二十一世紀福祉ビジョン」(平成六年三月)における社会保障に係る給付と負担の推計によれば、現状制度のままの場合で平成十二年度の給付率は19~20%、負担率は20~20.5%となり、三十七年度には給付率、負担率とも28.5~32.5%になるものと見込まれている。また、年金・医療制度改革、介護対策や児童対策の充実を加味した場合で平成十二年度の給付率は20~20.5%、負担率は21~22%となり、三十七年度の給付率は28~31.5%、負担率は27.5~31%になるものと見込まれている。

三 社会保障の基本的方向

(一)社会保障の基本的視点

 戦後の我が国の社会保障制度は、生活困窮者等に対する事後的な救済制度を中心とするものであったが、その後の高度経済成長等による国民の生活水準の向上に伴い、国民一般を対象にした医療や年金等の社会保険制度が整備され、生活保護を中心とした社会福祉から皆保険・皆年金を基本にするものとなった。また、高度成長期においては、国民所得が飛躍的に増大したこと等から、社会保障制度も経済成長の成果を享受でき、経済社会の変化によって生じる多様な国民のニーズに対応して、その給付水準や給付内容の見直しが行われる等、制度は発展的に改革されてきた。しかしながら、近年の我が国経済は、かつてのような高い成長を期待できず、社会保障制度が経済成長の成果を享受し、その給付を拡大することは困難な状況にある。
 一方、国民の社会保障制度に対するニーズはますます高まってきている。人口の高齢化は急速に進み、二十一世紀初頭には世界一の高齢社会になると予想されている。また、家族形態は、核家族化が進行し、世帯人員の減少や、高齢者の単独世帯や夫婦のみ世帯の増加が見られる等、多様化・小規模化しており、家族の老親扶養意識も変化してきている。他方、平均寿命の伸長に伴い、六十五歳以上の高齢者人口が大幅に増加すると予想されるなかで、女性の結婚年齢の上昇や社会進出の増大、あるいは子供の養育費についての負担感などから、少子化が一層進行すると見込まれている。少子化の進行は、高齢化の進展を一層加速させるばかりでなく、将来の経済社会を担う若年世代の減少を招き、我が国の社会保障制度、さらには経済社会の発展にも大きな影響を及ぼしかねない。また、七十五歳以上の後期高齢者の増加によって、介護需要は増大しているが、ノーマライゼーションの理念の浸透等から、在宅介護へのニーズも高まってきている。
 社会保障は、その時々の経済社会の構造によって、国民のニーズが変化することから、長期的視点を踏まえ、その在り方を早急に検討する必要がある。なかでも、高齢者や障害者に対する介護や福祉サービス、あるいは保育等の児童福祉や育児支援に重点をおいた施策の展開が必要である。

(二)子どもが健やかに生まれ育つための環境整備

 先進諸外国における少子化の特徴を合計特殊出生率と女性の労働力率の関係でみると、出生率が高いスウェーデンやアメリカ、カナダにおいては、労働力率が高くなっており、イタリアやドイツにおいては、出生率が低く、労働力率も低くなっている。また、イギリスやフランスにおいては、出生率、労働力率ともに、中間的な値を示している。このように、女性の労働力率が高い国においては、おおむね出生率が高く、仕事と家庭との両立が可能な状況、すなわち、女性の労働環境などの整備が進んでいると推測される。
 スウェーデンやフランスにおいては子育てに対する公的な支援体制が確立しており、また、アメリカやカナダ、イギリスでは、公的なシステムが必ずしも十分ではないが、家族、企業、地域社会等の支援システムが発達していることから、仕事と子育ての両立を可能にしていると考えられる。スウェーデンにおける育児休業期間は原則一歳半までであるが、部分就労の場合は最高八歳までとなっており、最初の三百六十日の間に父親と母親が育児休業を最低一か月ずつ取得することが義務づけられている。また、児童手当の支給対象児童は第一子からで、その支給額は約八千五百円(平均給与のおおむね4%相当)(ただし、平成七年十二月以前に生まれた児童については、第一子・二子が約八千五百円、第三子約一万一千円、第四子約一万六千円、第五子以降約一万八千円)で、支給期間は原則十六歳未満までとなっている。フランスにおける育児休業期間は原則一歳まで、最長三歳まで延長できることとなっている。また児童手当の支給対象児童は第二子からで、その支給額は約一万三千円(同おおむね8%相当)、第三子以降約一万六千円 となっており、支給期間はスウェーデンと同様である。一方、アメリカでは、コミュニティセンターや教会等によるベビーシッターの派遣などの育児支援システムが発達しており、資格の有無にちがいはある(我が国は保母資格を有している者が大半)ものの、ベビーシッター費用は我が国の二分の一程度である。
 このように、国によって歴史や文化等に違いがあり、単純に比較はできないが、出生率の高い国においては相対的に子育て環境は進んでいると思われる。
 子どもを社会全体で育てていくという合意形成に努める必要がある。その観点に立って、子どもを持ちたい人が安心して生み育てることができるよう、子育てと仕事との両立支援、子育ての経済的負担の軽減、地域における子育て支援などの環境整備を一層進める必要がある。
 子育てと仕事の両立支援に関しては、夫婦共働き世帯が増加していること等から、まず、育児休業期間を延長することが求められる。また、多様な保育ニーズに応えていくため、就業時間等を考慮した早朝保育、延長保育等の保育サービスの充実を図る必要がある。
 さらには、こうした保育や育児に関する公的制度の充実に加えて、家族の支援を容易にするためのシステムを構築することも重要である。我が国においては、核家族化の進展、あるいは育児休業取得者の大半が母親であることを考慮すると、夫の協力が不可欠である。このため、両親の育児休業の同時取得や時間単位の育児休業の取得を可能にするなど、育児休業制度の弾力化を図るとともに、労働時間の短縮や勤務時間の弾力化を進めることが必要である。
 なお、育児休業を取得することによって、処遇上のデメリット等が生じることがないような雇用環境づくりも求められる。
 このほか、子育てのために、いったん離職した人が容易に職場復帰できるような環境整備が重要である。また、再就職が可能となるよう、円滑な再就職のための情報の提供、あるいは職業能力開発などの雇用環境の整備・充実が必要である。これらは、広義の意味で、子育てと仕事の両立支援と位置づけられると考えられる。
 子育ての経済的負担の軽減に関しては、我が国の児童手当の支給額は、第一・二子には五千円(平均給与の概ね1%相当)、第三子以降には一万円が支給され、支給期間は三歳未満である。扶養控除の有無など他の制度との比較もあり、単純に比較はできないものの、先のスウェーデンやフランスなどと比べてみてもかなり低い水準にあると考えられる。
 子どもを社会全体で育てていくという観点に立って、有子家庭と無子家庭との経済的負担の公平を図ることは重要である。このため、児童手当の支給期間の延長、あるいは増額を検討する必要がある。また、奨学金の増額等についても検討する必要がある。
 地域社会における子育て支援に関しては、児童の生活の場は地域が中心であることから、児童の健全育成に果たす地域社会の役割は極めて重要である。また、理想の子どもの数を持とうしない理由の一つとして、子育て不安がある。これは、核家族化の進展等によって、親から身近に子育てに関する知識を得ることや、容易に家族の協力を得ることができないことなどによるものである。このため、子育て・児童の健全育成に関する子育てネットワークづくりが必要である。
 また、保健所の機能を強化するなど地域における母子医療保健対策の一層の充実も必要である。
 なお、理想の数の子どもを持とうとしない理由の一つとして、「家が狭い」ことが挙げられている。このため、ゆとりある住宅の整備・充実が求められる。

(三)高齢者が自立して生活するための環境整備

 人生八十年時代を迎え、国民のライフスタイルや意識は大きく変化してきている。特に、長期化した高齢期において、安心して豊かに暮らすことのできる生活環境をいかに確保していくかが重要な課題となっている。このため、雇用と年金の連携、雇用・社会参加機会の確保、医療の充実、健康の保持、介護基盤の充実等の環境整備が求められる。
 雇用と年金の連携に関しては、被用者年金の支給開始年齢が、平成十三年から現行の六十歳から六十五歳に段階的に引き上げられることとなっていることから、高齢期の生活の安定を図るため、六十五歳以上の定年制又は継続雇用制度を有する企業及びこれらの制度を採用する予定がある企業の割合など、六十歳代前半の高齢者雇用の状況を踏まえ、公的年金の支給開始年齢について再検討する必要がある。
 また、年金財政は、長寿命化の進展に伴い、受給者数の増加、受給期間の長期化が進む一方、少子化の進展に伴い、保険料を負担する現役世代が減少しており、厳しい状況にある。年金財政の長期的安定を図るとともに、現役世代に過度の負担を強いることとならないよう、年金世代の所得や資産の保有状況なども視野に入れて、給付と負担の在り方について検討する必要がある。
 雇用機会の確保に関しては、現在努力義務となっている六十五歳までの継続雇用制度を義務化する必要がある。また、六十五歳以降も高齢者の意欲と能力に応じて、可能な限り就業できるシステムを構築する必要がある。同時に、その普及に必要な事業主に対する六十五歳以上の高齢者の年齢別雇用数に応じた高齢者雇用関係助成金の支給や健康保険・雇用保険の保険料の負担軽減について検討を進めるべきである。なお、高齢者の就業のニーズに対応するため、フルタイムの普通勤務のほか、短時間勤務や短期間勤務、複数の高齢者で一つの職務を分担して遂行する「ワークシェアリング」など多様な就業機会を用意する必要がある。
 社会参加に関しては、その活動の促進を図るため、国、県、市町村の連携を一層強化する必要がある。また、できるだけ自宅の近くで気楽に立ち寄れる活動の場の確保、様々な活動の内容や役割を調整するコーディネーターの養成と地域における有用な活動情報の提供の一体化が必要である。
 なお、高齢者といっても、個々の高齢者の身体的・精神的・経済的・社会的状況や価値観は多様である。仮にハンディキャップがあっても、それに応じた社会参加ができるようなシステムをつくる必要がある。
 医療に関しては、患者が医療機関を適切に選択できるよう、その専門分野等についての情報を国民に提供するシステムを確立する必要がある。また、診療内容等についての十分な説明に基づく患者の判断が尊重されるインフォームド・コンセントの徹底を図る必要がある。さらに、近年、国民医療費に占める老人医療費の割合が増加しており、今後も高齢化が進展すると見込まれることから、医療保険財政の安定的な運営を確保するため、早急に診療報酬体系、給付と負担の在り方等制度全般にわたって検討を進める必要がある。
 健康の維持に関しては、母子保健や老人保健に係る保健サービスは市町村が、少年期、青年期及び壮年期の健康管理は学校や職場が実施しており、少年期等に行われた保健サービスの内容が高齢期の保健サービスに必ずしも生かされない状況になっている。長期化した高齢期を健康に過ごすためには、人生の各段階を通じて保健サービスが一元的に管理されるシステムの構築が求められる。また、痴呆の原因の一つである脳血管障害等を対象とした早期リハビリの重要性が増していることから、地域に密着したリハビリテーションの実施体制を強化する必要がある。
 介護に関しては、仮に要介護状態となった場合においても、尊厳のある自立した生活が可能となるよう、二十四時間対応の介護体制の整備、ボランティア団体の活動など在宅サービスの一層の充実を図るとともに、社会的に孤立しないための地域のネットワークを構築する必要がある。また、介護休業制度の普及に努め、家族が介護休業を取得しやすいようにするため、介護休業期間等の弾力化や、介護休業給付、介護休業期間中の健康保険及び厚生年金保険の被保険者本人負担分の保険料の免除等の経済的支援を講じる必要がある。
 さらに、痴呆となった場合の自分の財産管理に関する高齢者の不安を解消するため、加齢による精神的又は身体的な障害によって、判断能力が十分でなくなった高齢者に対して、すべての行為能力を一律に制限するのではなく、本人の残された能力に応じて高齢者の財産管理などを保護する制度、いわゆる成年後見制度の創設について検討を進める必要がある。
 このほか、住宅の高齢化への対応や福祉のまちづくりは、高齢者が自宅や地域において生きがいを持った生活をする上での基礎となるものであり、介護費用の軽減等にもプラスの効果が期待されると思われることから、その積極的な推進が必要である。
 なお、導入が検討されている公的介護制度は、その給付対象を加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等としている。しかし、障害者の高年齢化や高齢期における脳血管疾患などの慢性疾患の増加によって、身体障害者の半数が六十五歳以上となっていることから、障害者と高齢者の施策の緊密な連携が求められており、障害者も介護給付の対象とする方向で検討する必要がある。

III 提言

 本調査会は、二十一世紀の経済社会に対応するための経済運営の在り方についての二年度目のまとめとして、社会資本整備及び社会保障の在り方について検討してきた。以下、特に重要と考えられる点について提言を行う。政府並びに関係方面におかれては、この趣旨を理解され、実現に努められるよう要請するものである。

(社会資本関係)

一、公共投資の重点的配分
 我が国は、一人当たりの国民所得がOECD諸国で三位になる等目覚ましい発展を遂げ、国民は生活の量から質の充実を求めるようになってきている。同時に経済社会においては、少子・高齢化、国際化、情報化の進展等の変化がみられ、その変化はより一層加速するものと予想される。公共投資によって整備される社会資本は、生産活動や生活を営むうえで欠くことができない基盤であり、その整備は国民のニーズや経済社会の変化に対応するものでなければならない。しかし、公共投資の分野別配分比率は約二十年間ほとんど変化なく、国民のニーズや経済社会の変化に十分応えていない。
 豊かな国民生活を実現するためには、日常生活圏が安全で快適なものでなければならない。このため、公共投資は良質な住宅、公園、下水道等の住宅・生活環境分野に重点的に配分されなければならない。同時に、今後の国際化や少子・高齢化の進展に対応して、経済社会の安定的な発展と豊かな国民生活を実現するためには、交通の円滑化、日常生活や国際交流に必要な交通の維持が求められる。また、情報通信は、その活用によって、国民生活のあらゆる面で多様なサービスを提供することが可能になることから、国民誰もが容易に利用できることにも十分考慮し、情報化の進展に対応できる基盤を整備していくことが重要である。
 なお、公共投資基本計画の総額についても見直しを検討する必要がある。

二、公共事業の在り方
 公共事業の効果的・効率的な実施を確保するためには、客観的な指標で事業間の優先度を決めることが重要である。従って、具体的な投資箇所の選択にあたって、費用便益分析を行い、投資の優先順位を決めることが必要である。
 また、公共事業は各省庁ごとに実施されているため、効率性に欠け、投資効果が十分に発揮されていない面がある。公共事業実施にあたっては、総合的な整備が可能となるよう各種事業間の連携と整合性を確保する必要がある。

三、地方の役割と財源の確保
 個性豊かな地域社会を実現するためには、その基盤となる生活環境等の生活関連分野については地域のニーズや実情に応じた実施が望まれる。このため、地方公共団体は独自の財源を確保することが重要であり、国と地方の税財源配分の在り方等を見直す必要がある。

四、良質な住宅の確保
 住宅は、国民にとって最も重要な生活基盤である。我が国の住宅は、量的には一応の充足をみていることから、今後は、広さ、耐久性といった住宅の質を向上させていかなければならない。特に、住宅の質の向上を図るためには、政府の定める誘導居住水準の達成割合を高めていくとともに、最低居住水準の引き上げを行う必要がある。
 また、本格的高齢社会に備えて、高齢者や障害者が可能な限り住み慣れた地域社会で安心して生活できるようにすることが重要な課題である。このため、新たに建設される住宅の設計と、既存の住宅のリフォームに当たっては、一定の身体機能の低下があった場合においても、安全で快適に住み続けることが可能となるような仕様が求められることから、融資面、税制面の優遇措置を拡充する必要がある。

五、快適な生活環境の形成
 快適な生活環境を形成するには、日常の生活圏が安全で快適なものであることが重要であり、生活を取り巻く生活環境施設の重点的な整備が求められる。このため、整備が後れている都市公園や下水道などの生活環境施設については、予算を重点的に配分し、集中的に整備を進める必要がある。道路・公園等のオープンスペースを確保することは、防災の観点からも重要である。
 また、都市づくりや生活環境整備に当たっては、地域住民の意向等を適切に把握し、反映させていくことが重要である。このため、都市計画の作成段階における住民の参画を義務づける必要がある。

六、自然環境との調和
 国民が、健康に暮らしていくためには、水や緑、空気といった自然環境との調和が図られる必要がある。
 水は国民の生活や生命に深く関わるものであり、安全でおいしい水を確保することは、快適な生活環境にとって重要なものとなる。上水道の整備は全国的に相当程度進んできているが、近年においては、渇水が頻発しており、安定的な水の供給に支障が生じている。このため、水源涵養機能の回復や森林の保全が必要である。また、生活水準の向上等により一人当たりの使用水量が増加傾向にあるため、雨水の利用を含めた水の循環利用や、節水に積極的に取り組む必要がある。
 また、自動車やごみ処理施設等からの排出ガスによる大気汚染は社会的な問題となっている。このため、電気自動車等の低公害車の普及や、都市内交通と通過交通との分離を促進する必要がある。また、ごみ処理施設については、機能を高度化し処理能力の向上を図るとともに、リサイクルの推進等によって、ごみの排出量を抑制することが必要である。

七、総合的な交通ネットワークの整備
 効率的な輸送体系を構築するためには、道路・空港・港湾・鉄道の各交通機関の連携がとれた総合的な交通ネットワークを整備していくことが必要である。なお、交通ネットワークの整備をバランス良く進めていくためには、揮発油税・地方道路税等の特定財源について、その使途の見直しを検討することが課題となる。

八、交通機関のバリアフリー化
 高齢者や障害者をはじめ、妊婦、子どもなど、国民誰もが安心して生活を楽しめるようにするためには、移動の手段となる公共交通機関の確保を図るとともに、バリアフリー化を推進しなければならない。そのためには、低床バスの普及、駅のエレベーターの設置などを積極的に進めていく必要がある。また、移動の円滑性、安全性を確保するには、幅の広い歩道の整備、自転車道の整備、交差点の改良、道路照明の設置なども進める必要がある。

九、情報通信技術の研究開発
 情報通信の技術の研究開発は、二十一世紀における我が国の経済発展にとって重要なものである。このため、国の研究開発施設や設備の高度化を図る必要がある。また、ベンチャー企業等の民間活力を活かし、我が国の総合的な研究開発力の向上を図るためには、大学・公的研究機関が有する先端技術の公平な開放や、ベンチャー企業等と公的研究機関との共同研究、公的研究機関による共同利用可能な施設の開放等を積極的に行う必要がある。
 また、情報化の進展は、情報通信機器に十分対応できない高齢者等が社会生活上不利になるという懸念がある。このため、誰もが利用しやすい機器やソフトウェアの開発にも十分配慮する必要がある。

十、情報通信の利用者保護
 情報化の進展は、プライバシーの侵害、虚偽情報の発信、公序良俗に反する情報の流通、ネットワークを利用した犯罪等の新たな社会的な問題を生じるおそれがある。このため、情報通信の利用者保護のために必要なセキュリティガイドラインの策定や法的整備を検討する必要がある。なお、国際化に対応し、国際的なルール化も検討する必要がある。

(社会保障関係)

一、少子・高齢社会に対応した社会保障制度の再構築
 我が国は、人口の高齢化の急速な進展に伴い、二十一世紀初頭には世界一の高齢社会になると予想されている。また、家族形態は、核家族化の進行等によって多様化・小規模化しており、家族の老親扶養意識も変化してきている。他方、六十五歳以上の高齢者人口、特に七十五歳以上の後期高齢者人口が大幅に増加すると予想されるなかで、女性の結婚年齢の上昇などから、少子化が一層進行すると見込まれている。
 一方、少子化の進行は、高齢化の進展を一層加速させるばかりでなく、将来の経済社会を担う若年世代の減少を招き、我が国の社会保障制度、さらには経済社会の発展にも大きな影響を及ぼしかねない。
 こうした我が国の経済社会の変化や新たな国民のニーズに的確に対応していくためには、従来の制度の枠組みにとらわれることなく、他の施策や制度との整合性を図るなかで、新たな社会保障制度を構築していくことが必要である。

二、高齢期における所得の安定
 高齢期における所得の安定を確保するためには、雇用と年金の連携及び雇用機会の確保が必要である。
 雇用については、六十五歳まで就労できる企業は全体の約二割にとどまっているのが現状であることから、六十歳代前半の雇用を確保することは喫緊の課題となっている。このため、現在努力義務となっている六十五歳までの継続雇用を義務化する必要がある。
 また、六十歳代前半の高齢者雇用の状況を踏まえ、公的年金の支給開始年齢を再検討することも必要である。

三、高齢者の就業環境の整備
 高齢者の就労意欲は高く、また、近い将来、若年人口が急速に減少すると予想されている。こうしたことから、我が国の経済社会の活力を維持していくため、高齢者の意欲と能力に応じて可能な限り就業できる環境を整備する必要がある。
 このため、高齢者の就業のニーズに対応するため、フルタイムの普通勤務のほか、短時間勤務や短期間勤務、複数の高齢者で一つの職務を分担して遂行する「ワークシェアリング」など多様な就業機会を用意する必要がある。なお、事業主に対する健康保険・雇用保険の保険料の軽減、六十五歳以上の高齢者の年齢別雇用数に応じた高齢者雇用関係助成金の支給について検討すべきである。

四、保健・医療の充実
 患者が医療機関を適切に選択できるよう、その専門分野等についての情報を国民に提供するシステムを確立する必要がある。また、医療保険財政の安定的な運営を確保するため、早急に診療報酬体系、給付と負担の在り方等制度全般にわたって検討を進める必要がある。
 長期化した高齢期を健康に過ごすためには、人生の各段階を通じて保健サービスが一元的に管理されるシステムの構築が必要である。また、痴呆の原因の一つである脳血管障害等を対象とした早期リハビリの重要性が増していることから、地域に密着したリハビリテーションの実施体制を強化する必要がある。

五、社会参加活動の充実
 高齢社会においては、高齢者が各種の地域活動に主体的に参加し、それまで培ってきた知識、経験、技術等の能力を発揮できる機会を確保することが必要である。また、社会参加活動の促進を図るためには、国、県、市町村の連携を一層強化するとともに、できるだけ身近で容易に利用できる活動の場の確保、活動の内容や役割を調整するコーディネーターの養成と地域の有用な活動情報の提供の一体化が必要である。

六、介護基盤の充実
 高齢者人口の急速な増加に伴い、寝たきりや痴呆といった介護を必要とする高齢者が増加すると見込まれている。高齢者が、仮に要介護状態となった場合においても、尊厳のある自立した生活が可能となるよう、早急に介護基盤の充実を図る必要がある。
 また、有料老人ホームの運営の安定は重要である。このため、施設の健全運営の確保に努めるとともに、万一、運営に支障が生じた場合でも入所高齢者に不利益を生じさせないよう、適切な措置を講じる必要がある。
 さらに、公的介護制度の導入が検討されているが、要介護者に対する要介護状態に該当することの審査及び判定は、全国一律の基準に基づいて実施する必要がある。そのため、判定指針の策定や介護認定を担当する者に対する十分な研修を行うべきである。

七、ボランティア団体支援
 現在、介護基盤の整備が不十分であることに加え、介護者の就労環境の整備も十分でない。こうしたことから、高齢者が在宅で自立した生活を継続できる環境を整備するためには、ボランティア活動を行う団体を支援していくことが必要である。このため、こうした組織の活躍を一層促進するための支援措置を講じる必要がある。

八、成年後見制度の創設
 加齢に伴う心身機能の低下に伴い、判断能力が十分でなくなった高齢者に対してすべての行為能力を一律に制限することは人権上問題がある。このため、本人の残された能力に応じてその財産管理などを保護する制度、いわゆる成年後見制度の創設について検討を進めるべきである。

九、子育ての経済的負担の軽減
 子どもが成人するまでの間に要する費用は、約二千万円と試算されている。また、理想の子どもの数を持とうとしない理由の一つに、子育てに要する経済的負担がある。少子化が経済社会に与える影響を考慮した場合、子どもを社会全体で育てていくという社会的な合意形成が必要である。その観点に立てば、有子家庭と無子家庭との経済的負担の公平を図ることが必要である。このため、児童手当の支給期間の延長、あるいは増額を検討する必要がある。また、奨学金の増額等についても検討する必要がある。

十、育児・介護と仕事の両立支援
 育児、介護と仕事の両立支援を図ることは重要である。就業形態の多様化に応じた早朝保育、延長保育等の保育サービスの充実、介護休業期間中の経済的支援が必要である。また、こうした公的支援に加え、家族が協力して育児、介護ができるよう、育児・介護休業期間の延長、休業制度の弾力化を図るとともに、労働時間の短縮や勤務時間の弾力化を進める必要がある。

十一、地域社会における子育て支援
 児童の健全な育成を図るためには、地域社会の果たす役割が重要である。保育の社会化や父母の就労環境の整備が不十分であることなどから、子育てに対する不安が増大している。このため、地域社会における子育て・児童の健全育成に関する子育てネットワークづくりが重要である。また、出産や育児に係る心理的負担を軽減できるよう、地域社会における母子保健対策も必要である。

十二、情報の一元化と手続きの簡素化
 保健・医療・福祉の窓口がわかりにくく、その利用手続が煩雑となっている。利用者の視点に立ち、社会保障サービスが国民に利用しやすいものとなるよう、窓口の一元化を図るとともに、ICカードの活用など情報の一元化を推進し、手続を簡素でわかりやすいものとする必要がある。

参考

一、図表

 目次

  • 第一図 公共投資等の範囲
  • 第二図 公共投資の対GDP比率
  • 第三図 公共事業関係費の内訳の推移
  • 第四図 国及び地方の債務残高の対GDP比の国際比較
  • 第一表 社会資本の整備水準と国際比較
  • 第二表 社会資本の整備目標
  • 第五図 総住宅数と総世帯数の推移
  • 第三表 首都圏の住宅価格の年収倍率の推移
  • 第六図 航空旅客実績と予測
  • 第七図 港湾の水深の国際比較
  • 第八図 三大都市圏の最混雑区間における平均混雑率等の推移
  • 第四表 交通機関のアメニティ施設の整備実績
  • 第九図 情報通信の動向
  • 第十図 平成九年度一般会計予算と社会保障
  • 第十一図 地方財政における社会福祉系統経費の財源内訳の推移
  • 第五表 平成六年度部門別社会保障給付費
  • 第十二図 社会保障給付費の部門別推移
  • 第六表 租税負担及び社会保障負担(国民所得比)の国際比較
  • 第十三図 先進諸国における六十五歳以上の人口割合の推移
  • 第十四図 平均寿命及び六十五歳時の平均余命の推移
  • 第十五図 出生数と合計特殊出生率の年次推移
  • 第十六図 有配偶女性の就業状況の推移
  • 第十七図 年齢階級別女性の労働力率
  • 第十八図 妻が理想の子どもの数を持とうとしない理由
  • 第十九図 女子(二十五~三十四歳)の労働力率と出生率(一九九〇年)の国際比較
  • 第七表 諸外国の育児休業制度
  • 第八表 諸外国の児童手当制度
  • 第二十図 一般世帯数、高齢世帯数及び平均世帯人員数の推移
  • 第二十一図 寝たきり・痴呆性・虚弱高齢者の将来推計
  • 第二十二図 定年年齢別企業割合の推移
  • 第二十三図 六十歳定年制及び六十五歳継続雇用制度の普及状況
  • 第九表 高齢世帯の所得と支出
  • 第二十四図 高齢者世帯における総所得に占める公的年金・恩給の割合

二、調査会委員名簿

(一)平九・六・一一現在における委員
会長 鶴岡  洋 理事 小野 清子 理事 大島 慶久
理事 牛嶋  正 理事 日下部 禧代子 理事 笹野 貞子
理事 聽濤  弘 委員 大野 つや子 委員 太田 豊秋
委員 片山 虎之助 委員 金田 勝年 委員 鈴木 省吾
委員 中島 眞人 委員 橋本 聖子 委員 平田 耕一
委員 三浦 一水 委員 海野 義孝 委員 小林  元
委員 林 久美子 委員 水島  裕 委員 三重野 栄子
委員 朝日 俊弘 委員 一井 淳治 委員 堂本 暁子
委員 小山 峰男        

(二)平八・六・一八~九・六・一一までに当調査会に所属したことのある委員((一)の委員を除く)
理事 太田 豊秋 理事 片山 虎之助 理事 清水 嘉与子
理事 片上 公人 理事 水島  裕 理事 上山 和人
理事 三重野 栄子 理事 朝日 俊弘 理事 筆坂 秀世
委員 阿部 正俊 委員 石井 道子 委員 上杉 光弘
委員 岡野  裕 委員 笠原 潤一 委員 清水 嘉与子
委員 中原  爽 委員 野村 五男 委員 宮崎 秀樹
委員 吉村 剛太郎 委員 石田 美栄 委員 魚住 裕一郎
委員 木暮 山人 委員 都築  譲 委員 浜四津 敏子
委員 菅野  壽 委員 日下部 禧代子 委員 角田 義一
委員 山本 正和 委員 菅野 久光 委員 千葉 景子
委員 前川 忠夫 委員 松前 達郎 委員 水野 誠一

三、調査会の活動状況(平八・六・一八~九・六・一一)

調査項目・二十一世紀の経済社会に対応するための経済運営の在り方
(1) 調査会

 第百三十九回国会

○ 平八・一二・一三
海外派遣議員の報告

 第百四十回国会

○ 平九・二・一二
大蔵省・厚生省・労働省・自治省から説明聴取・質疑
(政府委員)
大蔵省主計局次長 林  正和 君
厚生大臣官房総務審議官 中西 明典 君
厚生大臣官房審議官 江利川 毅 君
厚生省児童家庭局長 横田 吉男 君
厚生省年金局長 矢野 朝水 君
労働大臣官房長 渡邊  信 君
自治省財政局長 二橋 正弘 君
○ 平九・二・二五
経済企画庁・国土庁・運輸省・建設省から説明聴取・質疑
(政府委員)
経済企画庁総合計画局長 坂本 導聰 君
国土庁計画・調整局長 塩谷 安英 君
運輸省運輸政策局長 相原  力 君
建設大臣官房総務審議官 村瀬 興一 君
○ 平九・三・一九
参考人から意見聴取・質疑
(参考人)
『社会資本整備の在り方と財政の課題』
一橋大学経済学部教授 石  弘光 君
上智大学経済学部教授 山崎 福寿 君
派遣委員の報告
○ 平九・四・九
参考人から意見聴取・質疑
(参考人)
『社会保障の在り方と国民経済』
中央大学法学部教授 貝塚 啓明 君
専修大学経済学部教授 正村 公宏 君
○ 平九・四・一六
参考人から意見聴取・質疑
(参考人)
『住宅・生活環境に関する社会資本整備の在り方』
日本経済新聞社論説委員会論説委員 井上  繁 君
摂南大学工学部建築学科教授 田中 直人 君
『交通・通信に関する社会資本整備の在り方』
東京大学大学院経済学研究科教授 金本 良嗣 君
大阪学院大学経済学部教授  
大阪大学名誉教授・同先端科学技術共同研究センター客員教授 鬼木  甫 君
○ 平九・五・七
参考人から意見聴取・質疑
(参考人)
『国民のニーズの変化と社会保障の在り方』
朝日新聞社編集委員兼論説委員 有岡 二郎 君
関西大学経済学部教授 一圓 光彌 君
○ 平九・五・二八
各委員意見表明
牛嶋  正 君 (平成会)
三重野 栄子 君 (社会民主党・護憲連合)
笹野 貞子 君 (民主党・新緑風会)
筆坂 秀世 君 (日本共産党)
堂本 暁子 君 (新党さきがけ)
小山 峰男 君 (太陽)
○ 平九・六・一一
中間報告書の提出を決定

(2) 海外派遣

 第百三十六回国会閉会後

調査目的- 先進諸国における社会資本整備に関する制度・施策の調査のため
派遣委員- 団長 鶴岡  洋 太田 豊秋 牛嶋  正
  山本 正和 聽濤  弘  
派遣地- ドイツ、デンマーク、イギリス及びフランス
派遣期間- 平八・七・三〇~八・一一

(3) 委員派遣

 第百四十回国会

調査目的- 社会資本整備、社会保障等国民生活・経済に関する諸問題の実情調査
派遣委員- 会長 鶴岡  洋 理事 小野 清子 理事 大島 慶久
  理事 牛嶋  正 理事 日下部 禧代子 理事 笹野 貞子
  理事 聽濤  弘 委員 片山 虎之助 委員 小林  元
  委員 朝日 俊弘 委員 小山 峰男    
派遣地- 広島県及び愛媛県
視察先- 広島空港及び周辺地域視察、公立みつぎ総合病院、ひろしま西風新都、アイテムえひめ、愛媛県生涯学習センター、愛媛県花き総合指導センター等
派遣期間- 平九・二・一七~一九


(参考)海外派遣議員の報告(平八・一二・一三調査会)

 それでは御報告申し上げます。
 平成八年度海外派遣特定事項調査議員団第二班は、先進諸国における社会資本整備に関する制度・施策の調査のため、去る七月三十日から八月十一日まで、ドイツ、デンマーク、イギリス及びフランスに派遣されました。
 派遣議員は、本調査会の鶴岡洋会長を団長として、太田豊秋議員、山本正和議員、聽濤弘議員と私、牛嶋正の五名であります。
 今回の派遣目的は、先進諸国における社会資本整備に関する制度・施策の調査でありますが、短い日程の中での調査であるため、主に住宅・生活関連、交通関連及び福祉関連の社会資本等について調査を行ってまいりました。
 現地におきましては、在外公館から説明を聴取するとともに、資料の収集、高齢者福祉施設等関係施設の視察を行いました。
 以下、調査の概要を御報告申し上げ、今後の調査の参考に供したいと存じます。
 まず、ドイツですが、ベルリンの壁が崩れ東西ドイツが統一してから六年になります。現在、ドイツが直面している最大の課題は、旧東独地域の復興と失業問題であります。旧東独地域の復興は、通信インフラ分野においては着実に進展が見られますが、輸送インフラ面では依然として弱い。また、同地域の住宅の維持修繕の問題も大きな課題であります。
 それでは、ドイツの社会資本の整備状況等について申し上げます。
 まず、住宅・生活関連基盤でありますが、住宅の整備状況及び居住水準を見ると、依然として旧東独地域の住宅の立ちおくれが見られます。住宅政策として連邦及び州は、一定金額未満の収入の世帯に対して家賃補助を行い、それとは別に一般世帯のマイホーム取得のために補助金、優遇税制などの措置がなされております。
 また、ドイツが住宅政策で直面している最大の課題は、旧東独地域の住宅問題であります。旧東独では、財源上の問題から住宅の維持修繕が十分になされていなかったため、住宅の建設のみならず、既存住宅の維持修繕が大きな問題となっております。首都ベルリンだけでも、過去二十年間に旧東ベルリンに建設され七十万人が住むプレハブ住宅があり、この維持修繕に今後二十年間で百七十億マルクの費用が必要とされ、さらにそれ以前に建設された建物も数多くあり、その維持修繕も多額の費用を要すると言われております。ちなみに、百七十億マルクでございますが、今一マルク七十円で換算いたしますと、約一兆千九百億円ということになります。
 次に、交通関連基盤であります。
 欧州では、欧州連合統合の推進のため、交通網の整備を急いでおります。その中で、省エネルギー、環境保全の観点から高速鉄道網の整備が重視されております。
 ドイツにおいても、連邦政府は、輸送需要への対応と環境への負荷の小さい交通機関として鉄道の整備を重視して、一九九二年に九二年連邦交通網計画を策定し、その中でICEなど全国的な高速鉄道網の整備が重点項目の一つとされ、計画期間、一九九二年から二〇一二年までの鉄道インフラへの投資額は二千百三十六億マルクと見積もられており、現在、この計画に基づきケルン-フランクフルト間のICEの新線建設等が進められております。また、二千百三十六億マルクは十四兆九千五百二十億円になります。
 また、現時点での緊急の課題としては、旧東独地域内及び東西を連絡する幹線鉄道の近代化であり、複線化、電化、高速化のための整備が行われているところでございます。
 次に、情報通信基盤についてであります。
 本年七月、新電気通信法が議会を通過し成立したことにより、本年夏よりドイツテレコムにかわる代替インフラの設置、運用が自由化されるとともに、九八年一月からは電話サービスの自由化が行われることになりました。
 なお、ドイツは、九〇年のドイツ統一に当たって旧東独の電気通信インフラを西独並みに整備するためのテレコム二〇〇〇計画を策定し、九七年までに総額六百億マルクを投資することとしております。旧東独地域の通信インフラ整備には計画を上回る進展が見られ、時代おくれの通信設備の残存がかえって幸いし、一足飛びに光ファイバー等の先端技術導入によるインフラ整備が進み、旧東西ドイツ地域の格差は九六年末には解消すると言われております。
 次に、福祉関連基盤についてであります。
 ドイツでは、介護に関しましては、在宅介護サービス、施設介護サービスとも公費負担による日本の措置制度に相当する制度は存在せず、利用者とサービス事業者の間の契約に基づいてサービスが提供され、費用についても利用者の自己負担が原則とされておりましたが、九四年四月に第五番目の社会保険として要介護リスクの社会的保障に関する法律、介護保険法が成立し、在宅介護サービス、施設介護サービスとも社会保険で給付されることになり、在宅介護サービスについては九五年四月から、施設介護サービスは本年七月から保険で給付されることになりました。
 要介護度は、介護の必要に応じて三段階に分類され、要介護判定はMDK、州単位で疾病金庫が共同で設置する独立の審査機関の職員が被保険者の住宅を訪問し、統一指針に従って行うことになっております。介護サービスの供給主体は、公的セクターに限定されず、地方公共団体のほかに民間福祉団体、教会等の民間の非営利団体や営利団体等多岐にわたっております。民間福祉団体としては、労働者福祉団、ドイツ・カリタス等の六つの大きな団体があり、これらの団体がドイツ全土にネットワークを有し、福祉サービスの中核的役割を担っております。
 在宅サービスの担い手としては、ソーシャルステーションがあり、ソーシャルステーションが訪問看護、在宅介護、家事援助、相談等の保健、医療、福祉にわたり総合的にサービスを提供しております。ドイツ全土で約三千九百カ所のソーシャルステーションが設置されております。
 施設サービスといたしましては、老人居住ホーム、老人ホーム、老人介護ホーム、老人複合施設などがあります。
 マンパワーの確保につきましては、介護関連職種としては看護婦それから看護士、老人介護士等の資格制度があるが、社会的評価の低さ、待遇面での問題から絶対量が不足しているようであります。特に、専門的な知識、技能等を必要としない業務につきましては、徴兵拒否者が社会奉仕に従事するツィビルディーンストやボランティアが大きな役割を担っているとのことであります。
 次に、ボン市内での視察先の概要について申し上げます。
 最初に、ソーシャルステーションについて申し上げます。
 ボン市内にある十二のソーシャルステーションのうち、民間福祉六団体の一つである労働者福祉団が経営するソーシャルステーションを訪問いたしました。そのソーシャルステーションは、介護人を自宅に派遣し、要介護者の身体衛生、食事、移動等のサービスを提供し、介護保険の在宅介護給付の担い手として機能しております。
 まず、同ステーションの概要について事務長から説明を聞きました。
 労働者福祉団は公益法人で、ボン市内で在宅ケア、施設ケア両方を行っている。そのソーシャルステーションでは、現在、看護婦四名、介護士六名、ツィビルディーンスト一名、その他パート等で要介護者九十四名に介護サービスを提供しているとのことでありました。
 議員団からは、介護認定、ケアプランの作成、人材確保、介護保険実施後の状況、職員の給与等についてただしたところ、介護認定はMDKが行う、ケアプランは、患者のニーズを聞き、ソーシャルステーションでつくっている。人材確保は口コミもあるが、介護学校や実習生の中からも採用している。介護保険が導入されてから夜間、週末のサービス利用がふえた。現物給付がふえたのは家族が専門家に任せた方がよいと考えるようになったからではないか、給与は労働協約により一定の給与が保障されている旨説明がありました。
 なお、提供できる介護サービスは、全身洗浄等二十六種類あるとのことでした。
 次に、ヴィルヘルミーネ・リュプケ・ハイムについて申し上げます。
 本施設は、我が国の養護老人ホーム、特別養護老人ホームに相当するボン市立の施設で、老人ホームと老人介護ホームから成る老人複合施設であります。この施設では、高齢者に対して食事、身の回りの世話等生活全般についてサービスを提供し、要介護高齢者に対しては介護サービスを提供しております。この施設の定員は百四十人、そのうち四十六人分の介護用ベッドが用意されているとのことであります。
 まず、議員団は副所長の案内で施設を視察いたしました。この施設は現在改築中であるため、入所者から騒音やほこりなどについて苦情が出るということでございました。
 最初に、老人介護ホームにヴァイラーさんという方がおいでになりまして、そのヴァイラーさんの部屋を訪問いたしました。ことし九十五歳になる彼女は、七十四歳で夫と死別し、昨年十月にこの施設に入所したんですが、子供が六人、孫十二人に恵まれているということでございます。部屋の中には施設の備えつけのベッド、洋服ダンス、棚がありますが、そのほかの物の持ち込みも可能とのことであり、彼女は家族の写真や絵を置き、花で飾るなど自分の家で生活しているような雰囲気でした。彼女にホームでの生活について聞いたところ、糖尿病を患っているが快適に暮らしている、楽しみはテレビを見ることと毎週一回みんなと一緒に歌を歌うことであるとのことでした。
 なお、施設には夜眠れない者のために夜間の喫茶室を整備しているとのことでした。
 次に、同じ建物の中の一階にある老人ホームの居住室及び食堂等を視察いたしました。
 部屋は個室になっており、ベッド、洋服ダンスなどは施設の備えつけでありますが、そのほかは持ち込みが自由であるとのことでした。また、ホームでの食事のメニューは、入居者の代表と料理長が協議して決めている、一般的にはドイツの家庭料理が多いとのことでありました。
 なお、ベルリンにおきましては、現在フンボルト大学日本語学科の附属施設となっております森鴎外記念館に立ち寄った際、ボランティアで同館の維持に努めている日本の女性から、日独文化交流のため同館の維持について要望がございました。
 次に、デンマークについて申し上げます。
 住宅・生活関連基盤に関し、デンマークの高齢者住宅について申し上げます。
 世界で最も福祉の進んだ国と言われるデンマークは、一九八七年に高齢者住宅の設計指針、国、自治体の補助、融資等を内容とした高齢者身体障害者住宅法を制定しております。同法の設計指針によれば、面積は廊下などの共有面積を含めて六十七平方メートル以下で、バス、トイレ、台所がついており、車いす対応、二十四時間緊急通報システム、平家でない場合はエレベーター設置が条件となっております。
 高齢者住宅は、地方自治体、非営利住宅協会、年金協会が建築主となり経営し、国による補助及び自治体による無利子融資が行われているということでございます。政策のスローガンも「いつまでも、可能な限り自分の家で」を掲げ、施設から在宅ケアへ転換し、老人介護施設、プライエムの新設をストップし、高齢者住宅建設に力が注がれております。
 次に、交通関連基盤に関してであります。
 デンマークの鉄道は国鉄が路線の約80%を、民鉄が地方線を主として約20%を受け持っております。
 現在、計画中のものといたしましては、一九九七年の夏にデンマークの国土を二分する大ベルト海峡を橋と海底トンネルによる連絡鉄道が開業する予定となっております。この計画は、デンマークの三大架橋計画の一つで、首都コペンハーゲンのあるシェラン島とユトランド半島をつなぐグレートベルト連結計画で、八八年着工、完工は鉄道九七年、自動車道は九八年の予定となっています。現在、ヨーロッパ大陸側のユトランド半島とシェラン島の間の鉄道輸送は、フェリーに列車を積み込んで行われておりますが、連絡鉄道の完成により、海峡をわずか七分で渡れるようになり、一時間以上の時間短縮が見込まれるとのことでありました。
 次に、福祉関連基盤についてであります。
 デンマークは、地方分権が徹底しており、高齢者保健医療福祉システムは県と市によって運営され、医療分野は主として県が、福祉分野は主として市が責任を負っており、その財源はどちらも租税をもって賄われております。
 デンマークの高齢者保健医療福祉については、一九八二年に打ち出された継続性の原則、自己決定の尊重、残存能力の活用の三原則によって、これまでの施設サービス重視から在宅サービス重視へと政策の転換が行われております。その結果、現在ではプライエムの新設は禁止され、その一方、在宅サービスの充実が進められております。
 デンマークの九四年現在の高齢者福祉施設数は、全国で千七百八十九施設、登録利用者数約二十万四千人、職員数九万一千人となっており、利用者対職員数の比が約二対一というように非常に手厚い介護が行われております。
 次に、議員団はコペンハーゲン市内にある高齢者福祉施設「ディ・ガムレス・ビュ」、「老人の街」と言われておりますけれども、を視察いたしました。御報告いたします。
 最初に、看護婦長から施設の概要について説明を聞いた後、老人性痴呆症者用の住宅を視察いたしました。
 この施設は、一八八二年にコペンハーゲン市によりナーシングホームとして開園され、百年以上たっております。「老人の街」の総面積は約九ヘクタールで十一棟の建物から構成されておりますが、一九九〇年から高齢者集合住宅として改築中であり、改築に当たっては、市の政策としてバスつき、二部屋住宅ということになっているとのことであります。
 現在の住宅は、一般高齢者用、身体障害者用、アルコール中毒者用、老人性痴呆症者用に分かれておりますが、そのほかにショートステイの棟も併設されており、各棟には棟つきの看護婦、看護アシスタント、ヘルパーがいるが、配置職員の数は居住棟の種類によって異なっております。居住者は一般高齢者三百九十名、老人性痴呆症者百十名、アルコール中毒者三十名、計五百三十名であり、職員は看護婦、ヘルパー、療法士など一部パートを含めて総職員七百三十名である。また、「老人の街」には郵便局、教会があり、施設の中にはキオスク、職員のための幼稚園もあるとのことでした。
 なお、議員団から入居希望者の待機期間、年金受給額、費用負担、入居者の平均年齢などについて質問がありました。
 次に、イギリスについて申し上げます。
 イギリスについては、住宅・生活関連基盤に関し、同国の住宅政策について申し上げます。
 イギリスの住宅政策は、サッチャー政権の誕生後、保守党の持ち家政策の重視、財政の逼迫等により公営住宅の維持管理費の節減等を目的として、公営住宅建設戸数の大幅削減、公営住宅の払い下げの促進、民間賃貸住宅の家賃補助制度の導入など、住宅供給における公共部門の役割が相対的に後退しております。持ち家取得促進政策としては、住宅購入のローンの利子に対する所得税の軽減措置を実施しています。
 また、八九年に策定されたロンドン都市計画の戦略的方針によると、二〇〇一年までに26万戸の住宅建設を目標とし、これは主として民間でございますが、主にインナーシティーの再開発によって必要な住宅を供給できるよう開発規制を緩和していく方針をとっているが、ロンドン郊外のグリーンベルト、宅地開発規制区域における無秩序な市街地の拡大は避けることとしております。
 次に、視察先のミルトン・キーンズ・ニュータウンについて申し上げます。
 まず、イギリス政府環境省ニュータウン開発委員会から、ミルトン・キーンズ・ニュータウンの概要について説明を聞きました。
 ニュータウンは、ロンドンの北西約八十四キロのところに位置し、面積九千ヘクタールで、山手線内面積の約一・五倍、多摩ニュータウンの約三倍の面積を有するニュータウンであります。一九七〇年に政府は開発計画を策定し、バッキンガム州の三つの町と十三の村を統合いたしました。計画の目的は、ロンドンのベッドタウンというよりも、職住近接を目指すとともに、職・住・遊・学の多機能を備えた自給自足型都市の建設を目指すことでありました。開発は、開発公社を設立し、公社が借入金で土地を買収し、道路、上下水道のインフラ整備を行い、造成した宅地用地や産業用地を分譲することによって経営する独立採算方式でありました。
 ニュータウン内には、一キロメートルごとに格子状に幹線道路が通り、この格子が都市づくりのフレームとなっております。歩道、自転車道は区別してつくられ、建物、工場等は幹線道路からは見えないように工夫した、住宅については一般の住宅や高齢者対応住宅、省エネ住宅等の先駆的な住宅建設にも取り組んでいるところでございます。
 ニュータウンの現状は、人口約十五万人、住宅約6万戸で、将来さらに人口六万人、住宅3万戸、雇用四万から五万人の増加を見込んでおるとのことでした。
 なお、日本からの進出企業は二十社、日本人学校は八七年に開校した暁星国際学園があります。その他、大ショッピングセンター、スポーツ施設などすばらしい生活環境を有しております。
 次に、フランスについて申し上げます。
 まず、住宅・生活関連基盤に関し、フランスの住宅政策について申し上げます。
 同国では、一九七〇年代に住宅政策の転換が行われ、住宅建設の促進を目的とした建設援助から、既存住宅の効率的利用を図る家賃補助を強化することとされました。ミッテラン政権では、住宅政策推進のため都市住宅省を設置し、住居費補助率の引き上げや住宅援助貸し付けの貸付枠の拡大を図り、シラク政権では、賃貸住宅居住者の持ち家取得を一層促進するため、住宅援助貸付制度を改正し、融資限度額を低くし融資対象層の拡大を図り、さらに住宅融資金融機関をフランス不動産銀行一行から全金融機関へと拡大を図っております。
 次に、交通関連基盤について申し上げます。
 フランスのTGV整備計画と現状について見ますと、一九八一年に南東線、パリ-リヨン間で最初のTGVの運行が始まり、その後、大西洋線等が順次開業し、九六年一月現在、開業しているTGV、ユーロ・スターを含む、は五路線であります。九五年十一月にシャルル・ドゴール空港駅が開業し、リール、リヨン方面からパリを経由せずにTGVで直接空港へのアクセスが可能となりました。
 今後のTGV整備計画は、九一年五月に国土開発関係閣僚会議で決定された国内高速鉄道基本計画によると、現在開業中の五路線に加えて新たな東線など十六路線を建設し、最終目標として、二〇一五年から二〇二五年ころには総延長四千七百キロメートルの整備を行う計画となっております。
 次に、福祉関連基盤について申し上げます。
 フランスの高齢者保健福祉サービスは在宅介護を基本としております。在宅サービスとしては、家事援助、在宅看護、緊急通報サービスなどがあり、施設サービスとしては、高齢者住宅、老人ホーム、長期療養施設があります。在宅看護を提供する在宅看護サービスセンターは全国に千四百カ所あり、約五万二千人が受給しております。
 次に、視察先のパリ郊外にあるレオポルド・ベラン老人医療センターについて申し上げます。
 まず、センターの所長から施設の概要について説明を聞きました。
 この老人医療センターは、公益法人で老年者の医療活動を主に行っております。施設は、長期療養施設、在宅看護、それから医療全般を扱う医療センターから構成されております。また、高齢者の自立確保のため、予防健康センターも設けております。さらに、本年九月からショートステイを開始する予定とのことでした。
 入所者は軽度から重度までおり、症状に応じて対応しております。ベッド数は長期看護用三百十四床のほかにアルツハイマー入所者用のための百六十床、それから職員は医師、看護婦等で二百名であります。在宅看護は現在六十四名受け持っております。施設では、医療を行うだけでなく、入所者の外でのレクリエーションにも力を注いでおりますが、昨年の九五年は百五十人のボランティアの応援を受けたとのことでした。
 このセンターの医療体制は、すべての病気を診る内科医二人が常駐し、二十四時間対応しております。また、高齢者は歯に問題が多いので、老人歯科の経験豊かな医師が週一回来ているとのことでした。そのほか、車いすのまま診療が行える眼科室や泌尿器科診療室が設けられております。
 次に、アルツハイマーの高齢者四十名が入所している一階の棟を視察いたしました。議員団から家族の面会についての問いに対し、身寄りのない高齢者が多い、また子供の方も高齢化していて面会はそう多くないとのことでした。
 なお、そのほか、議員団から、長期療養施設、在宅看護、ショートステイ、予防健康センターのサービスエリア及び費用負担について質問がありました。
 そのほか、ラ・ヴィレット再開発、パリ環状大下水道を視察いたしました。
 以上が調査の概要であります。
 社会資本整備に関しては、国によりその歴史や自然的、社会的条件の違いはあるものの、これら先進諸国の社会資本の整備に比べ、我が国の社会資本の整備はおくれております。我が国は、戦後目覚ましい経済的発展をなし遂げてまいりましたが、国民生活の実感からすると、経済力に見合った豊かさとゆとりを実感できないという不満も多い現状があります。その一因として、生活関連等の社会資本の整備のおくれが挙げられていることからも、これらの整備促進を一層図っていく必要があることを実感いたしました。
 終わりに、今回の調査に当たり多大な御協力をいただいた関係省庁、在外公館及び視察先の関係者各位に対し心から感謝申し上げ、報告を終わります。