国際関係

外国議会との交流

ニュージーランド国会議長の招待による同国公式訪問及び各国の政治経済事情等
視察参議院議員団報告書

    団長 参議院議員 中曽根 弘文
          同     狩野   安
          同     北岡  秀二
          同     榛葉 賀津也
          同     和田 ひろ子
          同     井上  哲士
    同行 法制局第四部第一課長  村上  たか
        参事              新妻  健一

一、はじめに

 本議員団は、ニュージーランドのハント国会議長の招待により同国を公式訪問し、両国国会議員の交流を通じて両国の友好の絆を深め、相互の理解と親善関係を一層緊密にする目的をもって派遣されたものである。

 両国の議会間交流は、三〇年を超える歴史を有しており、昨年には渡部衆議院副議長がニュージーランドを、ハント議長が参議院の招待により日本をそれぞれ公式訪問している。

 本議員団は、九月十一日に日本を出発して同十七日までニュージーランドを公式訪問し、議会要人等との会談を精力的に行った。また、帰途香港に立ち寄り、当地の政治経済事情等の視察を行った。以下、その詳細について報告する。

二、訪問日程

議長一行は、十月十五日に日本を出発し、同月十七日に帰国した。その日程は以下のとおりである。

  九月十一日(土)
     東京発

  九月十二日(日)
     クライストチャーチ着
     クライストチャーチ発
     ロトルア着

  九月十三日(月)
     ロトルア視察

  九月十四日(火)
     ロトルア発
     ウエリントン着
     アレン・ニュージーランドポスト社長との会談
     ハント議長表敬訪問
     シャーリーACT党院内総務との会談
     中曽根団長主催夕食会

  九月十五日(水)
     ブラッシュ国民党党首との会談
     国会議事堂視察
     教育科学常任委員会との会談
     サティアナンド・アジア二〇〇〇基金副理事長との会談
     ハント議長主催昼食会
     ニュージーランド国会クエスチョンタイム傍聴(参議院議員団の紹介あり)
     労働党バーネット議員からの政治制度に関する説明聴取
     与党労働党との会談

  九月十六日(木)
     ホロミア・マオリ問題担当大臣との会談
     外務・防衛・貿易常任委員会との会談
     ニュージーランド・日本友好議員連盟との会談
     カートライト総督表敬訪問
     ウエリントン発
     オークランド着
     オークランド日本語補習校視察
     日本企業現地駐在員等との懇談

  九月十七日(金)
     オークランド発
     香港着

  九月十八日(土)
     コンテナターミナル視察
     日本企業現地駐在員等との懇談

  九月十九日(日)
     香港発
     東京着

三 議会要人等との会談要旨

 1 アレン・ニュージーランドポスト社長との会談

 中曽根団長とアレン社長の挨拶に続き、ヒースターマン本部長から以下の説明を聴取した。「当社は、一九八七年に郵便業務法に基づき設置された。収益を上げることと郵便事業としての社会的責任を果たすことの両立を目的とする。会社法に基づく企業であり、納税義務等は一般企業と変わらない。経営方針は、政府によって任命された委員からなる運営評議会により決定される。郵政事業改革には各国共通の道筋があり、第一段階は政府の機関、第二段階は公営事業化、第三段階は自由化、第四段階は完全民営化(民間出資)である。当社は百パーセント政府が出資しており第三段階にある。企業である以上被用者の待遇は業績次第であり、人員削減・雇用形態多様化によりコスト削減を図ってきた。また、より付加価値の高いサービスの提供による生き残りを目指すとともに、Eメールの普及等により郵便市場の縮小が見込まれるため、データ管理、金融業務等経営の多角化を図っている。一九九八年の自由化以降他社に奪われたシェアは四パーセント程度である。」

 本議員団から、(1)改革の第四段階に入る予定はあるのか(中曽根団長)、国民から第四段階への移行を求める声はないのか(狩野議員)、(2)他社から競争条件が不平等であるとの批判はないのか(榛葉議員)、(3)過疎地域を含むユニバーサルサービスをどう維持していくのか(井上議員)等の質問がなされ、アレン社長から、(1)第三段階の形態のままで事業を存続していくことができると確信している、複数回のアンケート調査で国民の要望もないことが確認された、クラーク首相もブラッシュ国民党党首も民営化を行わない方針である、(2)自由化により競争条件は民間と同じとなったため不平等との批判はない、(3)全国くまなく配達できることが郵便業務の要であり競争の観点からも最優先事項である、当社は既存の配送ネットワークを利用してこれを維持していける等の回答があった。

2 ハント国会議長表敬訪問

 中曽根団長は、ハント議長のご招待に心から感謝申し上げる、扇参議院議長からハント議長にくれぐれもよろしくお伝えするよう託されてきた旨を述べ、本議員団の紹介を行った。また、中曽根団長は、政府間の交流のみならず議会間の交流も大いに意義がある、今回の訪問ではまずロトルアに滞在して貴国の豊かな自然や文化の一端に触れることができた、ウエリントン滞在中は幅広い方々にお会いして率直な意見交換を行い、実りのある訪問としたい旨述べた。さらに、来年三月に開催される愛知万博にニュージーランド政府が参加を決定したことに対する謝意を表した。

 ハント議長から、中曽根団長をはじめ参議院議員団の訪問を心から歓迎する、両国は長年にわたるパートナーであり、議員間交流が重要である点は強く共感する、昨年九月に私が参議院の招待により日本を訪問した際には充実したプログラムと温かいもてなしで迎えていただき感謝している旨の挨拶があった。

3 シャーリーACT党院内総務との会談

 シャーリー院内総務の挨拶及び中曽根団長の挨拶と議員団の紹介の後、本議員団から、政府介入縮小・競争原理徹底による経済の効率化を目指す同党の政策に関して、(1)郵政事業改革(榛葉議員)、(2)アジア諸国との関係(北岡議員)、(3)エネルギー政策(榛葉議員)、(4)政党としての今後のビジョン(中曽根団長)等について質問がなされ、シャーリー院内総務から、(1)ニュージーランドポストは成功を収めているが、その配当を国だけが受けるのは不合理であり完全民営化を行うべきである、(2)ニュージーランドは英連邦に属してはいるが環太平洋アジア諸国の一員と自覚しており、特に貿易の面で関係強化を図っている、(3)エネルギーの安全保障は大変重要な問題であり、非核政策を維持しつつ核技術の利用の可能性を探るべきである、(4)ACT党は中道右派であり、政権をとるために政策を妥協することはないとの回答があった。

4 ブラッシュ国民党党首との会談

 ブラッシュ党首の挨拶及び中曽根団長の挨拶と議員団の紹介の後、中曽根団長が、日本の経済状況、構造改革の進行状況、教育改革の必要性、憲法改正の動き等について説明を行った。また、本議員団から野党第一党である同党の政策に関して、(1)半年後の選挙で与党労働党との違いを訴える上での重要な争点(榛葉議員)、(2)労働党と国民党の経済改革についての取組みの違い(北岡議員)、(3)ニュージーランド国会では女性議員が約三分の一を占めるとのことだがクォータ制のような手法を講じたのか(和田議員)等の質問がなされ、ブラッシュ党首から、(1)現在我が国経済が非常に好調な点は労働党に有利であるが、その基礎を築いたのは国民党政権下の政策であることを主張したい、また、労働党に対する批判のポイントは、教育システムの問題、国民の福祉依存体質、マオリとの関係、オーストラリアとの生活水準格差等である、(2)大規模な改革はほとんど過去に行われたものであり、現在の労働党政権はなんら建設的な取組みをせず雇用の分野については逆行している、国民党は経済改革をさらに推進し、特に環境関連の規制は迅速に撤廃しなければならないと考えている、(3)クォータ制を採用したことはない、世界で初めて女性の参政権を認めた我が国であるが最初の女性議員が誕生するまでかなりの期間がかかった、個人的にはクォータ制は最良の人を政治家として選ぶというプロセスになじまないものとして賛成しかねる、比例代表制の下では各政党ともより有効に選挙民に訴えるため自ら多くの女性候補者を立てることになるとの回答があった。

5 教育科学常任委員会との会談

 ドネリー委員長の挨拶及び中曽根団長の挨拶と議員団の紹介の後、同委員長から一九八九年に行われた教育改革について以下の説明があった。「従来教育省、教育委員会、各学校の三層構造であったものを教育委員会をなくして二層とし、各学校ごとに五人の父母代表・校長・教師代表(中学校レベルでは生徒代表も)からなる運営委員会を設置し、これが校長の選任その他学校の運営を行うこととした。カリキュラムの大枠は教育省が作るが教え方については運営委員会に委ねられている部分が大きい。全体的にこの教育改革は成功したと考えられる。」さらに、大学について、九〇年代にはより多くの人に高等教育を普及することが課題であったが、現在は大幅に増えた学生の数や質をどうコントロールするかが課題となっていること及び研究成果に応じて資金を投入するための評価を行っていること等についても説明があり、また幼児教育、技術教育等についても説明があった。

 北岡議員から、教育改革により何を変えようとしたのか、大学の評価については科学技術分野等すぐには結果が出ないものも多いため困難なのではないかとの質問がなされ、ドネリー委員長から、従来は官僚主義や資金の無駄遣いの問題があり、改革により教育費用がすべての子どもに行き届くようにした、大学の評価については一応評価のベースラインができたという認識であるとの回答があった。その他質疑応答が行われ、最後に、中曽根団長が、ニュージーランドと比較しつつ、日本の教育の今後の展望について意見を述べた。

6 労働党バーネット議員からの説明聴取

 バーネット議員から、ニュージーランドの政治制度の概要、特徴(成文憲法の不在、先住民たるマオリ族との条約締結、マオリ選挙区等)及び最近の動き(比例代表制の導入によりアジア系、ポリネシア系等を含む多様な議員構成となったこと、議員の政党間移動が大きな問題となり、これを禁ずる法律ができたが、その当否が現在最高裁で争われていること、できるだけ簡単に投票できるようファックスによる在外投票等を認めており、インターネット投票についても検討中であること等)の説明を聴取し、質疑応答を行った。

7 与党労働党との会談

 労働党のペティス院内総務、アシュラフ議員及びチャドウィック議員の歓迎を受け、中曽根団長の挨拶と議員団の紹介の後、幅広く意見交換を行った。チャドウィック議員から、HIV医療に関し日本から多大な援助を得ていることに関し感謝が示された。アシュラフ議員から労働党は環境問題に熱心に取り組んでいるとの発言があり、これに関連して榛葉議員から今後のエネルギー政策について質問がなされ、アシュラフ議員から、水力、風力、太陽光、地熱等の自然エネルギーの開発を推進するとの回答があった。これに対し、これ以上ダムを増設することは可能なのか(中曽根団長)、エネルギーの安定供給の観点から火力を増やすかあるいは原子力発電の可能性を探るという方向はあるのか(榛葉議員)との質問がなされ、アシュラフ議員からは、原子力利用はあり得ない、ダム建設については様々な議論がある、石炭資源が比較的豊富なので安定供給の点では深刻な問題はないが、自然エネルギーを利用する企業等に見返りがあるように制度を作っていきたいとの回答があった。また、中曽根団長及び和田議員から出生率について質問がなされ、ペティス議員等から、ニュージーランドでも晩婚化に伴い出生率は下がっている、学歴の高い女性はそれを活かしたいと考えるが他方で出産や育児を支援する法律や環境がまだ不十分であるという問題がある、現行制度では育児休暇は四月間であるが労働党としてはこれを六月間に延長したいとの回答があった。

8 外務・防衛・貿易常任委員会との会談

 ダン委員長からの歓迎の挨拶と各委員からの自己紹介及び中曽根団長からの挨拶と本議員団の紹介の後、本議員団から、(1)アジア太平洋地域の一員としての外交の基本的なスタンス(中曽根団長)、(2)ニュージーランド軍は海・空軍を縮小して陸軍を強化する方向との報道があるがこれは今後国際的な平和維持活動により積極的に参加する趣旨か(榛葉議員)、(3)ニュージーランドでは最近従来の非核政策を見直す動きが一部にあるともきいているがどうか(井上議員)等の質問がなされ、ダン委員長及び各委員から、(1)小国でありつつ世界で認められるためにユニークな特色を打ち出していくことに努力しており、特にバイオテクノロジー、IT、芸術活動等のクリエイティビティの三分野に重点を置いて発信している、(2)陸軍強化は老朽化していた設備のリニューアルという側面が強い、以前から近隣諸島の平和維持に協力しており今後遠方へ出ていく可能性もなくはない、(3)非核政策を変更することはない、この点は与野党を問わず一致しており国民からも非常に高い支持があるとの回答があった。

 また、国民党のカーター委員から、ニュージーランドの一次産品の日本への輸出に関し関税障壁を除くよう希望する発言があり、これに対し中曽根団長及び和田議員から、日本は食料の自給率がカロリーベースで三六パーセントであり、関税を引き下げて輸入を増やした結果農地が工業用地等に変更されれば自給率はますます下がって回復困難となるため、食料の安全保障の観点からは難しい問題である旨意見を述べた。

9 その他

○アジア二〇〇〇基金を訪問し、サティアナンド副理事長等から日本関連事業や文化交流プログラムについて説明を聴取し、意見交換を行った。

○ホロミア・マオリ問題担当大臣を訪問し、マオリの伝統文化の継承と教育水準の向上への取組みについて説明を聴取し、質疑応答を行った。

○ニュージーランド・日本友好議員連盟のメンバー(ウィリアムソン議員及びブラウンリー議員)と面会し、国際的な平和維持活動への両国民の理解等について意見交換を行った。

○カートライト総督を表敬訪問し、狩野議員が総督に対し第百五十九回国会において提出された共生社会調査会の報告書を手交した。

四、おわりに

本議員団は、ニュージーランド国会及びニュージーランド内務省の周到な準備と誠意ある接伴により、充実した各種会談等を行うことができた。今回の訪問が日本とニュージーランドとの友好関係を一層促進することにつながるものと確信する。

 本報告を終わるに当たり、ハント議長をはじめとするニュージーランド国会のご厚情に深く感謝申し上げる。また、齋藤大使をはじめとする在ニュージーランド大使館、鈴木総領事をはじめとする在オークランド総領事館及び北村総領事をはじめとする在香港総領事館の行き届いたサポートについても、ここに特記し、厚く御礼申し上げる。