団長 参議院議員 尾辻 秀久
同 亀井 郁夫
同 谷川 秀善
同 池口 修次
同 前川 清成
同 山根 隆治
同 弘友 和夫
同行 委員部第七
課長 南川 洋一郎
参事 和喜多 裕一
本議員団は、モンゴル国エンフバヤル国家大会議議長の招待により同国を公式訪問し、両国国会議員の交流を通じて、両国の相互理解と友好親善関係を一層緊密なものとする目的を持って派遣された。
両国の議会間では、昭和四十九年の同国人民大会議議長の招待により、木村睦男参議院議員を団長とする議員団が同国を訪問して以来、活発な相互交流が行われており、最近では、平成十四年に参議院議長の招待により、トゥムルオチル同国国家大会議議長が訪日している。
なお、同国においては、本年六月二十七日に総選挙が行われ、全七十六議席中、人民革命党三十六、祖国・民主連合三十四(民主党二十五、祖国新社会党七、国民勇気共和党二)、無所属三、共和党一、係争中二という二大勢力が拮抗する新議会が構成されており、組閣の最中ではあったものの、新議会との意見交換、友好関係構築という観点から、今回の訪問は時宜を得たものとなった。
以下、訪問日程、議会要人等との会談及び視察の概要について報告する。
九月一日(水) 東京発 ウランバートル着
二日(木) 日本人抑留者慰霊碑訪問
エンフバヤル議長表敬
エンフサイハン民主党党首訪問
オヨン国民勇気共和党党首(副議長)訪問
エルネデバト祖国新社会党党首訪問
三日(金) 第三八幼稚園視察
エルベグドルジ首相表敬
バガバンディ大統領表敬
モンゴル日本友好協会との懇談
第九二番初中等学校視察
ダバン・ボグド社訪問
モンゴル日本関係促進協会との懇談
四日(土) ゴビ・カシミヤ工場視察
テレルジ視察
五日(日) ガンダン寺視察
ザナバザル名称美術館視察
在留邦人との懇談
六日(月) ウランバートル発 東京着
(エンフバヤル議長表敬)
冒頭、エンフバヤル議長より、招待に応じて公式訪問議員団を派遣した参議院議長に謝意が示された後、モンゴル国の民主化と市場経済移行後の同国が最も苦しい時期に最大限の支援を行った日本政府及び国民に対し心からの謝意が述べられた。
また、同国は今後、経済基盤の整備に力を入れていきたいので、自由貿易協定や二重課税防止条約の締結などについての要望が出されるとともに、留学生・研修生の我が国への派遣を増やしていきたいとの意向が示された。
加えて、良好な議会間交流の継続と民間交流の更なる拡大発展を期待する旨の希望が述べられた。
これに対し、尾辻団長から同議長の厚意により同国訪問ができたことに対し謝意を述べた後、よき伝統を有する両国議会間交流の促進と市場経済化に向けた抜本的取組を踏まえた同国の自助努力に対し、必要な支援を行いたい旨述べた。
(エンフサイハン民主党党首との会見)
冒頭、尾辻団長は、様々な困難を克服し、民主化の進展と市場経済化に向けた抜本的な改革を行うため、モンゴル国が対話を重視した穏健な手法で取り組んでいる点は高く評価されている旨述べた。
これに対し、エンフサイハン党首は、同国のトップドナーとなっている日本のODAについて、質の高さを評価し、前年並みの額の確保を要望する一方、ODA以外の民間投資や労働力の受け入れなど、民間分野での協力と発展を期待したい旨述べた。
また、両国の議会間交流は盛んであるが、同様に民間交流も重要であり、その点で日本の大相撲において同国人力士の活躍が果たす役割は大きい旨述べた。
意見交換では、議員団より大連立を組んだ人民革命党と祖国・民主連合の政策の違いについて尋ねたところ、公約に様々な違いはあるが、基本路線において大きな違いはない旨の見解が示された。
(オヨン国民勇気共和党党首との会見)
尾辻団長から、一行の紹介とモンゴル国訪問及び会見が実現したことに対する謝辞が述べられた後、オヨン党首より、同国の選挙制度は小選挙区制であり、二大政党が形成されやすく、そのとおりの結果となったが、今回の総選挙での民主勢力の得票は約四割で、二〇〇〇年の総選挙と変わっておらず、連合を組むことに成功したことが大きい旨の認識が示された。
また、同党首から、民主主義への移行期に日本から受けた援助に対する謝意が述べられるとともに、ウランバートルからほど遠い遠隔地でも日本の援助を見ることができるとの発言があった。
意見交換では、同国国家大会議副議長でもある同党首が女性であることを踏まえ、議員団から同国における女性議員と女性の社会進出の状況について問うたところ、同党首は、総選挙前九名であった女性議員は、選挙後、五名になった、また、女性の社会進出はまずまず進んでいるが、中間ポストまでであり、意思決定に関わる決定権のあるポストについている女性は少ない旨の認識が示された。
(エルデネバト祖国民主新社会党党首との会見)
尾辻団長から、一行の紹介とモンゴル国訪問及び会見が実現したことに対する謝辞が述べられた後、エルデネバト党首より、祖国民主新社会党は一九九八年に設立され、二〇〇〇年の総選挙で初議席を獲得、今回の総選挙では七議席を獲得、係争中の選挙区が確定し八議席となれば、国会内会派を結成できる、同党は十六万人の党員がおり、党員数は第二党である旨の説明があった。
また、同党首は、日本が西側諸国を代表して同国に対する支援国会合をリードしてきたことに対し深い感謝の念を述べるとともに、今後はツースッテプローンや短期サイクルの有償援助の検討及び同国人労働力の受入れについて配慮してほしい旨の希望が述べられた。
意見交換では、議員団より、ウランバートル市内の大気汚染の現状に鑑み、自動車の排ガス規制と健康被害について問うたところ、同党首より、排ガス規制の法令は既にあり、京都議定書も批准しているが、実効性に乏しく、早急に対応しなければならない問題の一つである旨の認識が示された。
(バガバンディ大統領表敬)
冒頭、尾辻団長が挨拶を行った後、バガバンディ大統領は、尾辻議員の参議院日本モンゴル友好議員連盟会長就任への祝意及び両国友好議連の両国関係への貢献、両国議会が一層協力することの重要性を指摘するとともに、いかなる内閣が成立しようとも、対日政策の継続性は揺るがない、外交政策において日本が最重要国である旨の認識が示された。
また、同大統領は、両国関係が総合的パートナーシップに基づき発展していることに対し、満足している旨の所感を述べるとともに、同国の受ける援助総額の約半分を占める日本の支援に対し感謝の意が述べられ、あわせて、援助の継続及び額面の維持について要望が述べられた。
さらに、同大統領は、一九九四年、参議院議長の招待で、民主化後初めて国家大会議議長として日本を訪問した点に触れ、一九九二年の長田議長を最後に途絶えている、参議院議長の同国訪問について、招待状は現在も有効であり、実現に協力願いたい旨の要請があり、あわせて、両国の議会間交流は更に拡大・発展していくと確信している旨の所感が述べられた。
これに対し、尾辻団長は、今回の訪問で、同国の人々が我が国の援助に対し、強い感謝の念を抱いていることを感じたが、そのような思いには応えられるよう努めていきたい旨述べた。
最後に、同大統領から、近年、両国の地方自治体間で交流が盛んになっているが、これを更に進めていきたく、ご支援頂きたい旨要請があった。
(エルベグドルジ首相表敬)
冒頭、尾辻団長より、二度目の首相就任となるエルベグドルジ首相に対する祝意及び挨拶が述べられた後、同首相より、同国が新体制に移行する際に実施された日本の援助は極めて大きな貢献であった、また、両国関係が総合的パートナーシップに到達するレベルまで発展したといえることは大きな喜びであり、これを更に強化・拡大させるとともに、国際社会における協力についても、今後継続的に発展させていくことを希望する旨の所感が述べられた。
また、今回の同国における総選挙結果に関し、同首相は、同国では従来、国が国民を一つにまとめて、統治してきたのに対し、今次結果は、国民が二つの党に団結して施策を行うようにとの選択であった、政策の異なる両党の協調は困難であるが、モンゴル型の大連立のモデルを作り上げたい旨述べた。
これに対し、議員団から、大連立において、両政治勢力の政策をいかにまとめるのか、また、議会において野党不在で批判勢力がなくなる点について認識を問うたところ、同首相は、我が国には貧困問題、環境問題等、解決すべき社会問題が山積しており、今後はこの諸問題を両政治勢力で協力して解決していきたい、批判勢力については、二大勢力のいずれもがお互いの政策に対し批判的に対応するため、相互監視システムが機能すると考える、政策については具体的な合意に達しつつあり、例えばモンゴル国営テレビ・ラジオ局の公共放送化など、かつて政治的な思惑から実現できなかった抜本的改革を実現できる好機になるのではないかとの認識が示された。
また、議員団より、今後の日本に対する期待を問うたところ、同首相は、経済、観光政策、環境保護等の分野、特に環境問題では黄砂問題、環境保護協定の締結、FTA、動植物検疫協定の締結について希望が述べられた。これに対し、議員団より、経済発展と併せて、環境問題を極めて重視している同国の姿勢に対し、敬意を表する旨発言があった。
(関係友好団体との懇談)
モンゴル国訪問に際しては、要人訪問に加えて、民間レベルで両国関係発展に大きな貢献を行っているモンゴル日本友好協会及びモンゴル日本関係促進協会の二団体と懇談する機会を得た。前者は同国が社会主義政権下であった時代から活動を行ってきた歴史ある団体であり、また、後者は設立十周年を迎えたばかりの比較的新しい団体であるが、同国元首相であるソドノム会長を始め、駐日大使経験者等多数の有力者を幹部とする団体である。
両団体との懇談では、政府レベルでの協力に加え、民間レベルでの経済や人的交流を促進することの重要性が指摘された。
(日本人抑留死亡者慰霊施設)
第二次大戦後の一九四五年、旧満州地域から連行された日本人約一万二千人がモンゴルに抑留され、強制労働に従事したが、帰国するまでに死亡した約千六百人が同国内十七か所の日本人墓地に埋葬された。今回の訪問では、そのうちウランバートル市近郊にあるダンバダルジャー墓地を訪れ、慰霊のため献花を行った。なお、遺骨については、既に厚生労働省が日本へ持ち帰っている。
(第三八番幼稚園)
第三八番幼稚園は、ウランバートル市の北側に位置するソンギノハイルハン区第一〇地区に一九九九年に建設された同地区内唯一の幼稚園である。建設当初は五十人の園児を収容する施設であったが、ウランバートル市への人口流入に伴い、入園希望者が増加し、施設拡張の必要性が指摘されていたものに対し、我が国の「草の根・人間の安全保障無償資金協力」により拡張工事を行い、更に五十人の園児を収容することが可能となったものである。
本件への供与額は約五百四十五万円と、援助としては決して大きなものとは言えないが、同市内でも貧困層が主に居住する同地区にとっては大きな意味を持つものであり、現地では園長を始め、多くの関係者から深い感謝の念が示された。
(第九二番初中等学校)
第九二番初中等学校は、第三八番幼稚園と同様、ウランバートル市への人口流入に伴う収容生徒数の増加により、一日三交代制で授業が行われるなど、生徒たちは劣悪な教育環境におかれていた。これに対し、我が国は「一般プロジェクト無償資金協力」により、ウランバートル市内の計十六校を対象に、一九九九年度から三か年で約八億円を供与、百八十二教室、付帯施設の建設と関連機材の整備を行ったが、同校はこのうち第三期(二〇〇一年度)の協力対象校である。
本事業の実施に伴い、同初中等学校では、一日二交代制で授業を実施できることとなり、我が国の援助が同国の将来を担う子どもたちの教育環境改善に役立てられている状況を確認できた。
(タバン・ボグド社訪問)
タバン・ボグド社は、製粉、印刷、投資等を主力事業とするモンゴル国における新進気鋭の企業であるが、特筆すべきは、同社社長のバータルサイハン氏が、我が国での留学経験を基に大きな成功を収めた点である。同社長は、社会主義政権下であった昭和六十三年、ソ連、東欧等へ留学が主流であった中、国費留学生として六年間、我が国の東京電気通信大学で情報工学を学んでいる。
懇談の中で同社長は、留学先が日本であったことは、その後のモンゴルの民主化、市場主義経済への移行を考えると、結果として有意義なものとなった、日本経済はたいへん刺激的であり、その印象は現在訪問しても変わらない、留学で受けた刺激などを糧に事業を展開し、一定の成果は得たが、まだまだ満足していない、国内での競争も今後厳しくなってくると思う旨の所感を述べた。
なお、同社は複数の日本企業との提携を行っており、商品販売のほか、社員研修など人事交流を行うことで、日本的企業経営のノウハウを吸収するための取組も行っている。
(その他の視察先)
モンゴルの実情、伝統文化等に関する理解を深めるため、我が国の経済協力により工場建設、生産機材援助及び技術供与が行われたゴビ・カシミヤ工場、一般牧民の生活に触れるためウランバートル近郊のテレルジ、民主化後、民族文化復興の気運の高まりを受けて再評価されているチベット仏教において、中心的存在といえるガンダン寺等を視察した。
近年、大相撲におけるモンゴル人力士の活躍などにより、我が国で関心が高まっている同国であるが、両国関係は、我が国が最大援助供与国である現状を踏まえつつも、「総合的パートナーシップ」を実現すべく、関係強化を図っているところである。
また、同国の持つ中央アジア諸国等への独自のネットワークは、今後、我が国がアジア外交を進める上においても有意義なものと思われる。そのことは、今般、本議員団のほか、環境大臣、外務大臣等が相次いで同国を訪問したことからも推察することができる。
今回の訪問で、議員団は訪問先各所で心温まる歓迎を受け、また、我が国に対する心からの感謝の念、信頼を感じることができた。このことから、今回の交流が両国関係の更なる発展の一助になったことを確信するものである。
最後に、今回の派遣に当たり多大なるご協力をいただいた外務省、在外公館及びモンゴル国国家大会議関係者各位に対し、改めて感謝の意を表し、派遣報告を終える。