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第50回国連女性の地位委員会の際の議会人会合派遣報告

 第50回国連女性の地位委員会の際の議会人会合は、IPUと国連女性の地位向上部との共催により、2006年3月1日(水)、ニューヨーク(米国)の国連本部において、「ジェンダーの平等:議会を通じた変革」をテーマとして、64か国、7国際議会等から133名の議員の参加を得て開催された。

 参議院代表団は、本議会人会合のほか、国連女性の地位委員会日本政府代表団(団長:目黒依子上智大学教授)の顧問として、2月27日(月)及び28日(火)には国連女性の地位委員会及び関連サイドイベントに出席した。また、会議場外で外国議員団との会談を積極的に重ねた。

 なお、議会人会合の開催に先立つ2月27日(月)、同じく国連本部内会議室において、IPUの主催による女性議長会議が開かれ、12か国の女性議長又は副議長が参加した。

 議会人会合及び本代表団の活動の詳細については、既に配付済の「第50回国連女性の地位委員会の際の議会人会合概要」に譲ることとし、本報告書ではその概要を報告する。

1.議会人会合

 本会合は、国内事情を理由に欠席のカジーニIPU議長に代わってジョアン・フレイザーIPU女性議員会議調整委員長(カナダ)が主宰し、第1セッション「ジェンダーの平等:議会人の貢献」及び第2セッション「変化をもたらす:議会の役割」の各テーマに沿って、あらかじめ指名された国会議員、大学教授及びシンクタンク代表より基調報告を聴取した後、各国代表が発言する一般討議を行った。

(1)開会式

 IPUを代表してマーガレット・メンサ・ウイリアムズIPU副議長(ナミビア議会副議長)及び国連女性の地位向上部を代表してキャロリン・ハナン国連女性の地位向上部長が開会演説を行った。

 メンサ・ウイリアムズIPU副議長は、世界の議会における女性議員の割合は着実に増加しているが、その歩みは遅々たるものである、我々は男性とパートナーシップを組みつつ女性の政治進出を更に促進していかねばならないと訴えた。ハナン国連女性の地位向上部長は、女性議員の数が過去最高を示し、特に紛争後の国々の多くが復興プロセスへの女性の参画を重視していることを指摘しつつ、依然として政策決定における男女の参画には大きな開きがあり、議会人は北京行動綱領やミレニアム開発目標の実施において重要な役割を果たすことができると述べた。

(2)第1セッション「ジェンダーの平等:議会人の貢献」

 右テーマに沿って、ピッパ・ノリス・ハーバード大学教授、アンダース・カールソン・スウェーデン議会労働市場委員会委員長、マリー・ウィルソン・ホワイトハウスプロジェクト(NGO)代表、アンヌ・マリー・リザン・ベルギー上院議長及びヌトロイ・モツァマイ・レソト議会議長より基調報告を聴取した後、一般討議に入った。

 ノリス・ハーバード大学教授は、議席割当制、法定クオータ制及び任意的クオータ制という女性の議会進出を促す方策について説明した上で、それらは適切に実施されれば短期間に効果を得る可能性もあるが限界もあり、一夜にして女性の地位を変える万能薬とみなすべきではないと述べた。カールソン・スウェーデン議会労働市場委員会委員長は、スウェーデン議会では各常任委員会においてジェンダー平等を実現することが期待され、ジェンダー平等のみを扱っている委員会は存在しない、社会の様々な局面で男女が均等に代表され、同等の立場で意思決定していくことが重要であると述べた。ウィルソン・ホワイトハウスプロジェクト代表は、男性優位の文化を変えるためのひとつの参考事例として、娘を父親の職場に連れて行くと多くの男性(父親)が初めて父親として見られていることを自覚し、それによって家庭における父親の役割を自覚したという調査結果を紹介した上で、女性の政治的野心を促しつつ、男性の協力を得ることが不可欠であると述べた。リザン・ベルギー上院議長は、女性の議会進出のための最良の方法はクオータ制であるとしつつ、女性議員の数が増えればジェンダー平等の理解度が高まるとは単純に言い切れず、いかに政界全体でこの問題の認識を高めていくかが課題であると述べた。また、ベルギーの成功の秘訣としては女性議員の超党派的な協力及び1996年にベルギー上院に設置されたジェンダーに関する諮問委員会の存在を挙げた。モツァマイ・レソト議会議長は、女性は現実の問題にジェンダーの視点を加えることや困窮した女性の要望に応えることに適しており、貧困、健康、暴力、人権等の諸問題を法案審議の俎上に載せるためには女性がその場にいることが重要である、ジェンダー平等の実現には政治的な意思が必要であり、女性議員はあらゆる機会を通じて声を上げていくべきであると述べた。

 一般討議において、我が国参議院を代表して山東昭子議員は、我が国における男女共同参画型社会形成への取組を紹介しつつ、かつては社会風土の在り方として控えめな女性が褒められた時代があったものの、現在では働く女性の職種が多様化し、ハードな作業現場から金融ディーラー、自衛官などまで広がっていると述べた。その一方で、世界に目を向け、恵まれない環境で社会的に自立できない女性を支援する必要性を強調し、今回の会議を通じて世界の女性の地位向上に結びつけるよう呼びかけた。

 各国の代表からは、それぞれの国における女性の政治進出の状況及び女性の政治参加を高めるための自国の取組について報告がなされた。多くの国より、女性の進出は進みつつあるもののその歩みは遅々たるものであり、男女の平等な参画という理想の実現に向けて取組を強化する必要性が強調された。成果を挙げている事例として、国会内に超党派の女性議員ネットワークを作り、市民団体と協力しつつ、各党及び政府に働きかけを行う(韓国等)、常任委員会としてジェンダー平等に関する委員会を設置し、政策や法律の実施状況を監視する(ボスニア・ヘルツェゴビナ等)、育児休暇の男性枠を設け、男性の家事への関わりを促進した(アイスランド等)、従来夜まで行っていた国会審議を女性議長のイニシアチブにより夕刻前に切り上げるようにして女性が働きやすいようにした(ウルグアイ)等が紹介された。候補者リストに一定の女性枠を設けるクオータ制については、韓国より右導入によって女性議員の数が大きく上昇したとのポジティブな報告がなされる一方で、スペイン、ポルトガル及びアイスランドからは男女の完全な平等を確立するものではない等として反対する意見が示された。

(3)第2セッション「変化をもたらす:議会の役割」

  第2セッションの開会に当たり、ヤン・エリアソン国連総会議長(スウェーデン元駐米大使)及びカルメン・マリア・ガラルド・ヘルナンデス国連女性の地位委員会委員長(エルサルバドル国連代表部大使)の演説を聴取した。続いて、右テーマに沿って、モニカ・サビエル・ウクライナ上院議員、コフィファ・インダル・パラワンサ・インドネシア国会議員、ブリット・ボーリン・オルソン・スウェーデン国会議員より基調報告を聴取した後、一般討議に入った。

 エリアソン国連総会議長は、スウェーデン首相の発言を引用しつつ、「女性の解放は男性の解放にもつながる」と述べ、意思決定過程への女性の参画の重要性を強調した。また、国連が現在取り組んでいる課題に関し、我々の使命は苦しんでいる人たちを助けることにある、世界は不信感に満ちているが、グローバルな解決を図ることが大切であり、効果的な国際協力は国益にもなる、その意味で各々が国際機関を更に強める方向で努力してほしいと訴えた。ヘルナンデス国連女性の地位委員会委員長は、意思決定の場で女性の力を発揮させていくことの重要性を強調し、右目標に向けた国内努力とともに多国間の対話によって変化を促していくよう求めた。サビエル・ウルグアイ上院議員は、ウルグアイ議会におけるジェンダー平等に向けた取組を紹介するとともに、議会はただ法制化を行うのみでなく、政府機関のあらゆる政策の実施を監視するよう呼びかけ、数値上の目標を達成したとしても、目に見えない差別もあり、気を緩めてはならない、この問題を継続的にIPUで取り上げていくことも重要であると述べた。パラワンサ・インドネシア国会議員は、インドネシアの現状を説明するとともに、議会における女性の代表を強化するため、また政府への圧力を強化するため、女性議員の団結及び市民団体等の協力を強化することが求められる、女性の政治進出に関して質と量の両面があるとすると、まずは量が重要であると述べた。ボーリン・オルソン・スウェーデン国会議員は、スウェーデン国会内に設けられたジェンダー平等に関する作業グループが確立した15の原則について説明した。それは、(1)議会内の平等促進を目的とする計画を各任期ごとに作成する、(2)右計画は議会役員会の承認を得ることとする。計画の実施の責任を担う事務官1名を指名する、(3)議員に対して定期的に詳細なインタビューを行う、(4)学界・研究者との継続的なコンタクトを確立する、(5)議会のホームページにジェンダーに関する統計情報を掲載する、(6)ネガティブな扱いを受けたと感じる議員に対して専門家によるサポートを提供する、(7)この分野の情報交換を政党間で行うためのスペースを国会内に用意する、(8)各委員会の活動計画の策定に当たっては各議員の議員活動と家庭との両立を考慮する、などである。スウェーデンにおいて女性議員候補者の増加トレンドができた理由としては、女性団体の声が大きかったこと、福祉国家の発展により育児環境が整備されて女性の進出が容易であったこと、70年代初めに当時のパルメ首相がジェンダー平等に向けて大きな政策を取ったことを挙げた。一方で、議員の数だけ見れば平等が達成されたが、これで安心してはいけない、ジェンダー平等はよく定量的に測定されるが、男女が本当にそれぞれの価値観や経験を生かしているかを見極める必要がある、真剣にジェンダーの主流化を考えるとまだまだ多くの分野で改善が必要である、社会のすべてのレベルで男女が率先してリーダーシップを取らねばならないと述べた。

 一般討議において、我が国参議院を代表し、林久美子議員は、参議院における共生社会に関する調査会や内閣委員会の取組、政府における男女共同参画社会基本法制定以降の取組等を紹介しつつ、議会への女性の進出については、人々の意識や社会的な仕組みを主たる原因として低い水準にとどまっている現状を説明した。その上で、急速に少子高齢化が進む中で、子育てや介護に関する国民の意識が高まっており、議会がそうした国民のニーズを適切に反映する場とするためには女性の参画を拡大する必要がある、そのためにあらゆる機会を活用して男女の意識改革に向けた啓発活動に努めていきたいと述べた。

 この他、各国の代表から、議会内におけるジェンダー平等問題の取扱いについて報告がなされた。大きく分けて、ジェンダーの平等を専門とする委員会を設置している国(ルーマニア、エジプト、スペイン、韓国等)と設置していない国(スウェーデン、デンマーク、ナイジェリア等)とに分かれた。カナダは、下院に女性の地位に関する委員会(常任)を設置して連邦政府から女性団体に対する資金配分、女性に対する差別や暴力等について審議を行い、上院では人権に関する委員会を設置して政府による国際条約の義務の履行状況をフォローアップしていると述べた上で、各常任委員会はそれぞれの所管分野において責任を有しており、その責任においてジェンダー平等を実現すべきであり、ジェンダー平等に関して特別な委員会を設けるべきでないとの議論があると述べた。エジプトは、大統領の下に女性評議会が設置され、右評議会が女性に関する公共政策や女性の地位向上計画の作成、女性に関する政策実施のモニタリング、法案が提出される場合には各政党やNGOと密接に協力しての審査等を行い、大統領に直接報告するシステムを作ったと述べた。また、ナミビアからは同国において議会とNGOが協力して行っている50-50運動(男女同数の代表選出を目指す運動)について、イラクからは新憲法に家庭内暴力の禁止に関する条項が設けられたり議会の4つの委員会で女性が委員長を務めるなどフセイン政権時代にはなかった明るい面が生まれていることについて報告がなされた。

 討議を終えて、フレイザー委員長は、各国政府に議会の視点の重要性を理解させ、国連のあらゆる会議に議会の視点を含ませることが必要であり、各議員ともそのための働きかけを強めるよう呼びかけ、本議会人会合は閉会した。

 なお、フレイザー委員長は、3月3日(金)の国連女性の地位委員会全体会合において、本議会人会合の結果について報告を行った。

2.会談及び視察

 本代表団は、3月1日(水)、会議の合間を縫って、今回の会合に出席している国のうち、特に国会における女性議員の割合の高いスウェーデン、ノルウェー及びカナダの議員団と個別に会談を行った。話題は各国におけるジェンダー平等に向けた取組や選挙制度、政治経済情勢一般に至るまで多岐にわたった。

 また、2月27日(月)には、主に開発途上国の女性の地位向上に関するプロジェクトを推進している国連婦人開発基金(ユニフェム)のノエリーン・ヘイザー事務局長(シンガポール人)を同事務局長室に訪ね、ユニフェムの活動状況を始め、日本及び各国における家庭内暴力の状況、外国人妻の状況、女性の地位向上のための方策等について意見交換を行った。

 2月28日(火)には、国連本部に程近い国連国際学校(主に国連職員の子弟が通う学校(幼稚園から高校まで))、及びNPOがニューヨーク市当局の支援を受けて現地在住の中国系移民を中心とするお年寄りのために運営するデイケアセンター(プロジェクト・オープンドア・シニアセンター)を訪問し、現地の学校教育及び老人福祉の現場を視察した。