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国際関係

国際会議

第110回IPU会議派遣報告

 第110回IPU会議は、2004年4月18日(日)から23日(金)までの6日間、メキシコシティ(メキシコ合衆国)のシェラトン・セントロ・イストリコにおいて、122か国、5準加盟国際議会、29国際機関等から1197名(うち、議員616名)が参加して開催された。

 日本国会代表団(団長・谷津義男衆議院議員、副団長・有馬朗人参議院議員)は、参議院議員3名、衆議院議員7名、衆参事務局職員及び同時通訳員から成る29名をもって構成された。

 本報告書では、参加参議院議員の活動に重点を置きつつ、開会式、評議員会、本会議、参議院担当の持続可能な開発、金融及び貿易委員会等についてその概要を報告する。

1.開会式

 開会式は、4月18日(日)午後7時30分からテオトロ・デ・ラ・シウタードにおいて、ビセンテ・フォックス・ケサーダ・メキシコ大統領臨席の下、開催された。式においては、エンリケ・ジャクソン・ラミレス・メキシコ上院議長による演説、ダニーロ・チュルク国連代表によるアナン国連事務総長あいさつの代読、セルヒオ・パエス・ヴェルドゥーゴIPU議長による演説が行われた後、フォックス大統領より開会が宣言された。

2.第174回評議員会

 第174回評議員会は、4月19日(月)及び23日(金)に開催され、参議院代表団より、有馬団長が評議員として参加した。

 イ IPU加盟資格の問題については、コンゴ民主共和国(旧ザイール)及びリベリアの再加盟が承認され、その結果、IPUへの加盟国数が140か国となった。

 ロ 2003年度会計結果について、内部監査委員の勧告に従い、同年度決算が承認された。剰余金10万6千スイスフラン余の運営基金への繰入れ、米国を含む6か国の未納分担金償却についても了承された。

 ハ IPU規約及び規則の改正については、連続した3回のIPU会議において、同一の性の国会議員のみによって構成される派遣代表団の人数及び投票数を削減することを明文化することを旨とするIPU規約改正案に関し、今次本会議での採決に先立ち、意見聴取を行い、評議員会としての了承を得た。また、現行規約及び規則では、決議案に対する修正案の提出期限が一週間前とされていることにより、女性議員会議として決議案の作成に寄与することができない点が問題となり、これを可能とするための関連規則改正案を次回ジュネーブ会議の際の本会議の場で採決に付すことが了承された。

 ニ 国連との協力については、国連と市民社会との関係に関する国連ハイレベルパネル(カルドーゾ・パネル)の中で、IPUを「市民団体」の一つとして位置付けた上で、IPU以外に各国議会とのチャネルを設ける動きがあることに対し、多くの議員より懸念が表明された。この点を踏まえ、評議員会より各加盟国に対し、自国の国連代表部を通じてそうした懸念を国連に伝えるよう、要求がなされた。

 ホ 今後の主な会議予定について、第111回IPU会議が2004年9月28日(火)から10月1日(金)までジュネーブにおいて、WTOに関する議員会議が同年11月24日(水)から26日(金)までブリュッセルにおいて、第112回IPU会議が2005年4月3日(日)から8日(金)までマニラにおいて開催すること等が承認された。


3.本会議

 本会議は、4月19日(月)、20日(火)、22日(木)及び23日(金)に行われた。

 議題1 会議の議長の選挙

 ジャクソン・メキシコ上院議長が今次会議の議長に選任された。

 議題2 会議議事日程への緊急追加議題挿入要請の審議

 緊急追加議題挿入要請については、レバノン提案とインドネシア提案が一本化された「平和とパレスチナ・イスラエル間の紛争の恒久的な解決を促す環境づくりに向けた暴力行為、分離壁建設の阻止における議会の役割」と、12プラスグループ提案とラテンアメリカグループ提案が一本化された「テロに対する闘いにおける議会の役割:文化と文明間の平和的な対話の促進」の2件が投票に付された。その結果、前者が810票、後者が732票を獲得し、前者が今次会議の緊急追加議題に採択された。日本は、両案に対し、それぞれ賛成20票を投じた。

 議題3 「和解とパートナーシップ」をテーマとした世界の政治、経済及び社会情勢に関する一般討議

 本議題について、19日(月)、20日(火)及び22日(木)の3日間にわたり討議が行われ、119名の各国代表等による演説が行われた。我が国からは、植竹繁雄衆議院議員が演説を行った。同議員は、イラク問題(人道復興支援活動としての自衛隊派遣等)、中東和平、北朝鮮問題(核開発、拉致問題)、WTOに関する課題等について日本の見解を表明し、最後に、紛争の真の解決のためには文明間の対話が重要であり、IPUが自由、民主主義、人権といった普遍的価値に基づく国際関係構築のための中核的役割を果たすべきであると訴えた。

 議題4 「国際的和解の促進、紛争地域の安定化及び紛争後の復興支援」

 平和及び安全保障委員会起草の決議案が23日の本会議に提出され、コンセンサスで採択された(決議の全文は別添参照)。なお、決議の一部のパラグラフに対し、インド及び英国が留保を表明した。

 議題5 「公平な国際通商環境に向けた取組:農産物貿易問題及び必須医薬品へのアクセス」

 持続可能な開発、金融及び貿易委員会起草の決議案が23日の本会議に提出され、コンセンサスで採択された(決議の全文は別添参照)。なお、決議の一部のパラグラフに対し、中国、ラトビア、モロッコ、ブルキナファソ及びメキシコが留保を表明した。

 議題6 「人権を擁護し、人々の和解と国家間のパートナーシップを奨励するための議会制民主主義の促進」

 民主主義及び人権委員会起草の決議案が23日の本会議に提出され、コンセンサスで採択された(決議の全文は別添参照)。なお、決議の一部のパラグラフに対し、インドが留保を表明した。

 議題7 IPU規約及び規則の改正

 連続した3回のIPU会議において、同一の性の国会議員のみによって構成される派遣代表団については、代表団の人数及び投票数を削減することを明文化することを旨とするIPU規約改正案が全会一致をもって採択された。

 議題8 第111回IPU会議の議題の採択と報告委員の指名

 次回IPU会議の議題及び報告委員について承認され、その結果、参議院が担当する持続可能な開発、金融及び貿易委員会の議題は「生物多様性の保全における議会の役割」、報告委員はP・ギュンター議員(スイス)、S・ムゲルワ議員(ウガンダ)の2名となった。

 議題9 平和とパレスチナ・イスラエル間の紛争の恒久的な解決を促す環境づくりに向けた暴力行為、分離壁建設の阻止における議会の役割」

 緊急追加議題を審議するために設置された起草委員会の決議案が23日の本会議に提出され、コンセンサスで採択された(決議の全文は別添参照)。なお、決議の一部又は全体に対してイスラエル、イラン、スーダンが留保を表明するとともに、パレスチナが決議の一部に対する懸念を表明した。

4.持続可能な開発、金融及び貿易委員会

 持続可能な開発、金融及び貿易委員会は、4月20日(火)、21日(水)及び22日(木)に開催され、本会議議題5の審議を行った。参議院代表団より大野議員が3日間の審議に参加した。委員会審議に当たっては、前回のジュネーブ会議の際に選任された2名の報告委員(マリ及び英国)が作成した報告書案及び決議案について、各加盟国より、報告書案に対しては提案や批評を、決議案に対しては修正案を会議に先立ち提出することとされており、これらを反映した最終報告書及び各国提出修正案に基づく討議が進められた。日本は、報告委員作成決議案に対する修正案を事前に提出し、審議に臨んだ。

 20日の委員会では、43か国及び1国際機関より計49名の代表が演説を行った。大野議員は、多角的貿易体制の下で多様な農業が共存し、共生していくことの重要性を訴えるとともに、食料の安定的提供は国民に対する責任であること、農業には国土や自然環境を守る多面的な機能があり、いわば地球公共財的性格を持っていること等を指摘し、その上で、農業の持続的発展を可能とするための国際協力における議会人の行動の必要性を訴えた。一方、各国の代表からは、各国議会をWTO活動に密接に連携させることによりWTOの透明性を強化することの必要性、綿花を始めとする農産物や必須医薬品等の分野において、貧困国の開発に関する関心事項に優先的配慮が払われることの重要性等に関する発言があった。

 また、同日の委員会において、日本、ベルギー、ブルキナファソ、カメルーン、チリ、中国、エクアドル、エジプト、スイス、ロシア、ウガンダ及び英国の12か国の代表により構成される起草委員会を設置することが決定された。

 これを受け、翌21日の起草委員会では、冒頭、P・センデ議員(カメルーン)が委員長に、S・ムゲルワ議員(ウガンダ)が委員会への報告者に選任され、引き続き、報告委員が作成した決議案に対し日本を始めとする各加盟国から提出された40を超える修正案について、逐条審議の形での検討が行われた。

 我が国からは大野議員より、「WTO加盟国に対し、農業が食料安全保障、国土保全、動物愛護、生活様式の保護、地方社会の活性化と雇用など多面的な機能を有していることを認識し、さらにWTO交渉において非貿易的関心事項を考慮して、開発途上国を始めとする各国の多様な農業システムが共存できるようにすることを要請する」との新たなパラグラフを挿入することを提案し、了承された。

 また、「開発の遅れに拍車を掛けるあらゆる農業補助金制度を、早急に完全撤廃する」との表現については、より現実的な「段階的に削減する」との表現に改めるよう要求した。これに対し、英国及び中国からは賛同を得たものの、開発途上国などから、政治的により強いメッセージを出す必要があり、原文を維持すべしとの意見が多く出されたため、この点については採択されるに至らなかった。

 起草委員会が取りまとめた決議案は、22日の委員会の場で審議され、コンセンサスを得ることが難しいパラグラフについて、採決が行われた。特に、「農業補助金制度を、早急に完全撤廃する」との表現については、ハンガリーから、「大幅に削減し」に改めるべしとの修正案が提出されたところ(フィンランドも同趣旨の修正案を提出)、採決の結果、ハンガリー案が19対18で採択された。このような修正を経た上で、本会議に提出するための決議案がコンセンサスで採択された。

5.第9回女性議員会議

 第9回女性議員会議は、4月18日(日)及び22日(木)に開催され、70か国から103名の女性議員が参加した。参議院からは、大野議員及び岡崎議員が出席した。

 18日の会議では、冒頭、女性議員会議調整委員会第一副委員長である上川陽子衆議院議員が議長として開会を宣言した後、サウリ・リアンチョ・メキシコ上院議員が会議の議長に選出された。

 その後、「国際的和解プロセスにおける女性の役割」、「紛争後の復興支援における制度構築及び女性の特別なニーズへの取組」の2つのテーマについて討議が行われた。岡崎議員は、後者のテーマに関し、東チモール、アフガニスタン等の紛争地域を訪問した経験を踏まえ、女性の特別なニーズへの対応及び女性の潜在能力を伸ばす取組におけるNGOの役割の重要性、紛争地域において女性の意思決定プロセスへの参加を促すための積極的是正策の必要性を訴え、あらゆる支援プログラムにおいてジェンダーの視点に立ち、リプロダクティブ・ヘルスを始めとする女性の特別なニーズへの対応策を組み入れるべきである旨、発言した。

 22日の会議では、女性議員会議調整委員の選挙が行われ、各地域グループを代表する計12名の地域代表及び12名の代表代理が選出されるとともに、それらの代表の中から調整委員長及び2名の副委員長が選出された。

 なお、21日には、女性議員会議との関連で「児童の商業的性的搾取」に関するパネル・ディスカッションが開催され、参議院より岡崎議員が参加した。

6.ASEAN+3会合

 同会合は、4月18日(日)にマレーシアを議長国として開催され、アジア・太平洋地域における信頼醸成討議、「ASEAN+3」東京会議の提案等が行われた。

 2001年春に日本が提案して以来、本会合における継続的な議題となっているアジア・太平洋地域における信頼醸成討議では、前回のジュネーブ会合での合意に従い、海賊の問題が取り上げられた。我が国からは、この問題についての日本の基本的な考え方とアジア海賊対策地域協定作成交渉等についての日本の貢献を紹介し、同協定に対する各国議会の早期承認を呼びかけた。

 また、谷津団長より、「ASEAN+3」東京会議の提案を行ったところ、この開催を基本的に歓迎する旨の発言があり、ASEAN+3会合としての基本的了承を得た。会議の開催時期については、各国から自国の事情等のコメントがあり、我が国は、これらのコメントを踏まえ、時期を再提案し、秋のジュネーブ会議の際に確定することとなった。

7.アジア・太平洋地域グループ会合

 同会合は、シンガポールを議長国として4月18日(日)に開催され、会合に先立ち開催された執行委員会の主要点について、同委員会に参加した日本、中国、タイからの報告を聴取した後、各議題決議案起草委員候補の選出、今次会議において補充される各種役員の選出、緊急追加議題挿入要請への地域グループとしての対応等について協議した。このうち、決議案起草委員候補の選出に関しては、持続可能な開発、金融及び貿易委員会の起草委員候補者として、大野議員と中国からの代表の計2名が選出された。

8.その他

 参議院代表団は、会議期間中、現地において、ジャクソン・メキシコ上院議長への表敬訪問(サウリ・メキシコ上院外務委員会アジア太平洋担当同席)を行い、5月下旬の訪日招待の件について懇談を行ったほか、ASEAN各国代表団、セルビア・モンテネグロ代表団、ナイジェリア代表団等との懇談の機会を持ち、相互理解及び友好親善の促進に努めた。

 また、大野議員及び岡崎議員は、4月20日(火)、メキシコに在住する児童の実情調査として、同国の少数民族オトミ族のストリートチルドレンのためにユニセフ等の援助の下で開設されたNGOの教育施設「社会開発のための相互規律センター」を視察した。



【別添】

第110回IPU会議採択決議
国際的和解の促進、紛争地域の安定化及び紛争後の復興支援

(2003年4月23日、コンセンサス*1 により採択)

第110回IPU会議は、

(1) 国連憲章第2条の規定に従い、加盟国は国際関係において武力による威嚇又は武力の行使を慎むべきであることを想起し、

(2) 憲章第51条に明示的に規定されている自衛の場合を除き、安全保障理事会のみが憲章第7章の定義による兵力の使用を伴う措置について決定する権限を有していることを想起し、

(3) 紛争解決に関する国連憲章第6章の規定により、かつ、特に、紛争当事者はまず交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域機関又は地域的取極の利用その他の当事者が選ぶ平和的手段による解決を求めなければならないということを考慮し、

(4) 国連(憲章第1条に具体化されている)及びIPU(規約第1条に具体化されている)の共通の目的、特に国際の平和及び安全保障を維持し、人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国民及び諸国家間の友好関係を発展させるという目的を強調し、

(5) 武力紛争の根本原因は本質的に多方面にわたるため、武力紛争の防止には包括的かつ統合的なアプローチが必要とされることを確認し、かつ、武力による暴力へと至る紛争は発展にとって最も深刻な障害の一つであることを認識し、

(6) 平和、発展、民主主義の間に存在する明白な関連性及びこの関連性を強化する議会の役割を考慮し、

(7) 民主主義の発展及び人権の享受が、紛争を防止し、戦後または紛争後に信頼と平和を回復する最も確実な手段であると確信し、

(8) 諸国民及び諸国の和解は、至上の平和の実現であり、紛争に勝る手段であることを認め、

(9) 和解は、忘却することなく容赦するという精神で行われるべきであること、また、平和を取り戻し、互恵、平等、寛容の価値観により支えられて共同復興の未来へと歩み始めているどのような社会も和解を特徴としていることを確認し、

(10) 議会は、とりわけ、社会の様々な属性と意見を体現し、この多様性を政治プロセスに反映させ、取り次ぐ機関であり、議会の使命は、社会の結合と連帯を強化するため、多様性と画一性、個人と団体という互いに競合する志向間の、緊張を和らげ、その均衡を保つことにある、ということを想起し、

(11) 世界民主主義宣言(カイロ、1997年9月)の規定及びIPUの基本姿勢に関する情報文書(CONF/108/4- Inf. Doc.1)を想起し、

(12) IPU及びその加盟国議会は、国際的和解を推進することによって、永続的な平和を回復する上で役割を果たすことができ、また果たさなければならないと認識し、

(13) 議会は民主主義を表現する理想的な場であることを想起し、

(14) 武力紛争はしばしば和解の危機及び/又は失敗の結果であることに留意し、

1. 第109回IPU会議に続き、各国政府に対し、「国内紛争の持続可能な解決を実現するための和解プロセスを促進するよう」再度要請する。

2. 第109回IPU会議に続き、各国政府に対し、「真の平和実現に向けた行動を促進する手段としての常設の紛争予防・解決メカニズムの創設を容易にするため、国家レベルで」可能なあらゆる努力を行うよう再度要請する。

3. 各国の議会に対し、要請があった場合には紛争または和解の最中にある国の議会への斡旋・協力・支援政策を採るよう要請する。

4. 和解プロセスに関与している国々の議会に対し、会合を開いて共同プロジェクトを策定するよう要請する。

5. 各国の議会に対し、国連、地域機関、下位地域的機関の後援の下で行われる国際的和解努力を支援するよう奨励する。

6. 各国の議会に対し、地域的及び下位地域的レベルの安定、和解、平和的発展を促進する政府間の仕組み、メカニズム、プロセスをサポートするとともに、その議会的次元を高めるよう要請する。

7. 各国の議会に対し、文化・文明間の対話、交流、相互理解を促進するよう要請する。

8. IPUに対し、和平・和解プロセスがうまく機能しない場合には、議会人間の対話を助長するための委員会を設置するよう要請する。

9. 各国の議会に対し、和解プロセスを成功させるため自国政府の外交政策を監督するよう強く要請する。

10. 各国の議会に対し、適宜IPUと連携して、民主化促進活動を展開し、新たに議会制民主主義制度を確立しようと努めている国への技術支援を強化するとともに、このプロセスの中でバランスのとれたジェンダーに関する視点を促進するためその貴重な経験を最大限活用するよう要請する。

11. IPUの国会議員の人権委員会に対し、「真実和解委員会(TRC)」における役割と活動を強化し、人権分野における専門知識をTRCに提供するよう提案する。

12. 国連平和維持活動(PKO)、特に和解のためのイニシアティブへの定期的な参加を勧告する。

13. 各国の議会に対し、必要な場合には法律上の委員会としてTRCを設置し、TRCの委員構成を国民の多様性(女性を含む)を公正に代表するものにし、TRCにその任務の遂行に必要とされる資源を付与し、TRCの活動と成果を公表し、国家元首によるTRCの勧告を検討するよう監視し、TRCの勧告をフォローアップするよう強く要請する。

14. 人権侵害の重大犯罪については消滅時効を認めないよう勧告する。

15. 国際人権規約、特に国際刑事裁判所設立条約(ローマ規程)と国連の設置による特別法廷を批准するよう勧告する。

16. 各国の議会に人権機関を設置するよう提案する。

17. IPUに対し、各国議会の人権機関同士の協力を促進し、国連人権高等弁務官及び地域的な人権メカニズムとの関係を構築するよう勧告する。

18. 国際法上犯罪と看做される行為に時効による大赦を与える現行法または法案を廃止または改正するよう勧告する。

19. IPUに対し、特に民主主義に関する専門知識を安定化・平和維持活動に提供して国連活動参画を増進することにより、平和と安全保障分野における自らの役割と活動を強化するよう奨励する。

20. 各国の議会に対し、国連の後援による平和維持活動に参加し、その資金的支援を行うよう自国政府に圧力をかけるよう勧告する。

21. 議会外交の展開、2国間協力による技術援助、コンソーシアム及び多国間協力プロジェクトへの参加を奨励する。

22. IPU内及びIPUの後援による多国間協力の展開を奨励する。

23. 国民の様々なグループを代表するよう二院制議会制度に特に注意を払うよう提案する。

24. 国連に対し、遅々として進まない脆弱な開発が国情不安定の豊かな温床となっているアフリカ、及び、半世紀以上にわたって近代の最も忌まわしく血みどろの紛争に苦しめられている中東を中心に、世界中で紛争を防止し、平和を維持・強化する努力を遂行・強化するよう奨励する。

25. すべての国々に対し、「女性と平和・安全保障」に関する国連安全保障理事会決議1325(2000年)、北京行動綱領でなされた女性と戦争に関する勧告、北京プラス5国連特別総会の成果文書を実行するよう奨励する。

26. 国際的和解の推進に従事するすべての国際機関、地域機関、下位地域機関、非政府組織に対し、紛争後の復興を通じて紛争が生じやすい地域の安定化と平和の強化に取り組むとともに、失敗や深刻な障害に遭遇してもそうした取り組みを継続するよう奨励する。

27. 紛争後の国・地域の復興活動に携わる諸国に対し、紛争の再発や大量の難民・国内避難民の発生を防ぐため、人道援助から復興・開発へと円滑かつ漸進的に移行していくよう要請する。

28. IPUに対し、以下の手段によって紛争解決への模索と国際的和解の推進により深く関与するよう強く要請する。

(a) 議会人間の対話と所管の国際機関との協力を通じて紛争解決への世界的な協調行動に積極的に参加し、もって平和と安全保障に寄与する。

(b) 紛争が生じやすい国・地域において、グッドガバナンス、人権と基本的自由の尊重、武装解除など、国内の和解を推進する可能性の高いあらゆる努力を奨励する。

29. IPUに対し、以下の手段によって紛争後の復興支援により深く関与するよう強く要請する。

(a) マーシャルプランに倣い、紛争後の国・地域で復興と永続的安定のために必要とされる大規模な経済援助プログラムを実行する能力を有する国際機関及び国々に対し、その実行を勧告する。

(b) 各国政府に対し、その持てる資源を動員して紛争後の復興に必要とされるプログラムを全面的に支援するよう要請する。

30. 各国の議会に対し、平和の概念・文化の促進、ボランティア活動、あらゆる形態の暴力撲滅、テロの非合法化、開発の促進、万人のための教育(人権教育を含む)など、国際的和解の促進に向けた国家的措置を、場合に応じて、助長ないしサポートするよう要請する。

31. また、諸国の議会に対し、復興、武器、特に小型武器貿易や麻薬貿易の削減、社会正義の促進、貧困・汚職・環境悪化の撲滅など、平和と安全保障の強化に向けた措置を、場合に応じて、助長ないし支援するよう要請する。

32. 各国の議会に対し、その復興努力において、モントレイでなされた公約を守るとともに、貧困及び紛争の主因の一つである債務負担を可能な限り軽減または帳消しにするよう自国政府に圧力をかけるよう奨励する。

33. IPUに対し、常設オブザーバーの業務を通じて、平和と安全保障に関わる様々な討議、協調行動、交渉でより有意義な役割を果たすよう要請する。

*2  イギリスは、前文第2パラグラフについて、インドは本文第15、26パラグラフについて留保を表明した。



公平な国際貿易環境に向けての取組
農産物貿易問題及び必須医薬品へのアクセス

(2004年4月23日、コンセンサス*2 により採択)

第110回IPU総会は、

(1) ・IPU規約に記載されているIPUの目的


・ 国際貿易に関する議員会議の最終宣言「自由、公正かつ公平な多角的貿易システムに向けて:議会の視点の付与」(2001年6月、ジュネーブ)

・ 第4回WTO閣僚会議にて採択されたドーハ閣僚宣言(2001年11月、ドーハ)

・ 第5回WTO閣僚会議に際して開催されたWTOに関する議員会議・カンクン会合の宣言(2003年9月、カンクン)

・ アフリカ・カリブ・太平洋諸国グループ(ACP)と欧州連合(EU)との間で、貧困撲滅、持続可能な開発及びACP諸国の世界経済への漸次統合に関し、2000年6月23日にコトヌで調印されたパートナーシップ協定の目標

・ 国際貿易、開発及び貧困削減に関するIPUの諸決議

を想起し、

(2)  ドーハ閣僚宣言では、WTO加盟国の大半が途上国であり、世界貿易が途上国の経済発展のニーズに概ね沿ったものであるべきであると認識されていることに留意し、

(3)  また、G20+、G90(アフリカ連合諸国、ACP諸国、後発開発途上国)及びG33などの交渉グループの関与により、WTOカンクン閣僚会議では途上国の発言が強まったことに留意し、

(4)  上記途上国グループの中には、完全貿易自由化を提唱するものもあれば、一方特別かつ異なる待遇制度の下で特恵関税方式を維持したいとするものもあり、立場の相違があることを認識し、また、WTOの交渉方式の欠点に対し当該途上国グループから向けられた共通の批判を認識し、

(5)  公平かつ透明性の高い国際貿易環境を築くことを可能とするために、全WTO加盟国が賛同する明確なルールに基づくより良い交渉体制を作る必要があることを認識し、

(6)  ドーハ閣僚会議では、公衆衛生上のニーズを満たすための知的所有権の貿易関連の側面(TRIPS)の特別な解釈について合意が成立したことに留意し、

(7)  世界人口の3分の1が必須医薬品を入手できないことを憂慮し、また全世界で4200万人が感染しており、そのうちアフリカが相当な比率を占め、またその9割は薬が手に入らないというHIV/エイズの蔓延を特に懸念し、

(8)  貧しい国々が自国で薬を製造することが不可能である場合、強制実施権の下で、貧しい国がより安価なコピー薬を輸入することを容易にする法的枠組みの改正に関する2003年8月30日のWTO合意を歓迎し、

(9)  各国に十分な保健サービス給付システムを提供することを必要とする特許対象外の必須医薬品について、「エイズ・結核・マラリア対策基金」を通じた支援に留意し、

(10)  貿易歪曲的国内助成・輸出補助金が明らかに途上国を害することを認識しつつ、生産補助金の大規模なデカップリングを伴うEU共通農業政策の改革に留意し、

(11)  途上国が利害を持つ全商品に対する輸出補助金を撤廃するとした、2003年の先進8か国エビアン・サミットでのシラク仏大統領の提案を歓迎し、

(12)  WTO農業協定の「平和条項」はいまや失効し、いかなる国・地域のものであれ、各国は現在、相互の農業補助金に対して行動を起こすためのより大きな自由を有していることに留意し、

(13)  採用されるべき措置は、2002年のヨハネスブルグ・サミットで合意されたように、貧困撲滅とともに、環境・経済・社会問題の3つの構成要素の全てを含む持続可能な開発に、堅固に基づいていなければならないことを認識し、

(14) さらに


・ ドーハ閣僚宣言は、途上国がより公平な世界貿易シェアを確保するのを妨げている主要障害物である、と長い間認定されてきた特定問題に取り組むとした数々のコミットメントを含んでいる。

・ 世界人口の3分の2の人々にとって、また特に途上国においては、農業は生活手段となっているが、サハラ以南のアフリカでは、綿花生産者が全人口のおよそ4割を占めており、綿花が国家輸出の30%近く、またGDPの5~10%に相当する。それゆえ綿花製品には貧困対策上、戦略的重要性がある。

・ 富裕国では、補助金制度により生産者には最低価格が保証されているが、その結果、市場が競争力のない農産品で溢れかえることとなる。さらに米国及びEUが給付している途方もない綿花補助金が、国際貿易のルールに違反し、普遍的な競争原理を歪めている。こうした補助金は、途上国への公的な開発援助総額の6倍以上に相当し、国際貿易システムの行き詰まりを招いてしまっている。なぜなら、これらの補助金は国際自由貿易の基本原則に矛盾しており、価格の歪みをもたらし、また、競争ではなく途方もない補助金によってもたらされる価格・割当制・総量規制・農業輸出品に対する補助金という、途上国の経済的社会的発展にとって不可欠な農業分野に損害を与える諸要因に農産物の国際貿易を結びつけているからである。

・ 途上国にとっては、持続可能な国内農業生産による安定した食料供給を保証するために、自国の市場を段階的に開放する権利を持つことが重要である。


ということに留意し、

1.  途上国交渉団が国際的交渉においてより能力を発揮できるよう、同交渉団への継続的な財政的及び技術的支援の提供を行うことを要求する。

2.  市場開放交渉は、北北交渉、南南交渉、南北交渉が同時に進められるよう勧告する。

3.  農業分野の交渉による改革が、部門に関係なく行われるべきであることを強調しつつ、多くの国、特に後発開発途上国での開発及び貧困削減において、綿花産業は戦略上重要であることを認識する。

4.  L・デルベス議長が第5回WTO閣僚会議へ提出した文書の中で触れられている綿花に対する分野別のイニシアティブを支援する。

5.  EU・米国・中国に対し、綿花補助金を廃止するよう強く要求し、また一次産品共通基金(CFC)に対し、すべての綿花補助金の漸進的な廃止及び後発開発途上国における綿花部門を支援する補償メカニズムの創設を目的とした、マリ・ベナン・ブルキナファソ・チャドの政府・議会のコットン・イニシアティブを支援する方策を提案するよう要求する。

6.  アフリカの綿花部門の問題解決に向けた模索が、ドーハ開発ラウンドの枠組み内において、優先事項であるとみなされるよう要求する。

7.  開発の遅れに拍車を掛けるあらゆる農業補助金制度を大幅に削減し、開発途上国からの輸入品に課せられる関税・非関税障壁を削減するよう要求する。

8.  TRIPS協定及び公衆衛生に関するドーハ宣言パラグラフ6の履行についての2003年8月30日のWTO一般理事会の決定が、各国議会による国内法の制定を通じた、当該決定の迅速な履行を要求していることを強調する。

9.  各国議会に対し、上記のWTO決定の履行を確保するため、特に(後発開発途上国を除く)すべての国が医薬品に関する製品特許の導入を完了するよう求められている期日である2004年12月31日以降、政府と製薬企業の双方の行動を仔細に監視することを奨励する。

10.  WTO及びWTO加盟国に対し、必要とする国に対して技術援助を提供すること、またTRIPS協定及び公衆衛生に関するドーハ宣言パラグラフ6の適正な実施を確保するよう強く要求する。

11.  診断用の機器、病状モニタリング用の機器、抗レトロウィルスHIV/エイズ薬の購入資金調達のため、特別基金が設置されるよう要求する。また、交易を促進し、その結果コピー薬の競争を促し、抗エイズ薬の価格を下落させるために、WTO条項を強化することを要求する。

12.  すべての国の議会に対し、医薬品の分野における製造能力をほとんど又は全く持たない開発途上国及び後発開発途上国に対する、生命を脅かす疾患に用いる特許医薬品輸出のための強制実施権を導入する、2003年8月30日のWTO決定を履行するための法律を成立させ、それらの国々が規制を受けることなく当該医薬品を輸入できるようにすることを要求する。

13.  さらに、各国議会に対し、抗レトロウィルス薬及びHIVの母子感染予防薬を、単に価格を下げるだけではなく、HIV/AIDS患者が確実に自由に入手できるようにするための政府の行動を促すよう要求する。

14.  関係団体に対し、HIV/AIDSに関係する健康問題が安価な医薬品のみで解決できないならば、開発途上国に適した医薬品についての医学研究を支援するよう強く要求する。

15.  各国政府に対し、国内の保健制度を強化するための国家のHIV関係プログラムを制定すること、一般的な疾病の診断を容易にするため、手頃な価格で必要な設備を提供することによりその他の深刻な疾病への対策を講じること、適切な栄養価のある食料の供給を促すこと、及び保健インフラを整備することを要請する。

16.  様々なWTO交渉において締結された協定が、世界貿易における格差・不平等の是正に大きく貢献し、また貧困国の開発に関する関心事項に優先的配慮が払われることを期待する。

17.  WTO加盟国に対し、農業が食料安全保障、国土保全、動物保護、生活様式の保護、地方社会の活性化と雇用など多面的な機能を有していることを認識し、さらにWTO交渉において非貿易的関心事項を考慮して、開発途上国をはじめとする各国の多様な農業システムが共存できるようにすることを要請する。

18.  IPU加盟国議会に対し、上述の方針に対する政府の対応ぶりを監視するよう要求する。

19.  カンクン会合の議会宣言においてなされた要求を、以下のとおり改めて表明する。「WTOの透明性は、各国議会をWTO活動により密接に連携させることによって強化されるべきである。さらに我々は、すべてのWTO加盟国に対し、今後の閣僚会議への自国の公式代表団に議会人を含めるよう要求する。」

*2 中国は、本文パラグラフ5について、WTOへの加盟後に綿花補助金を撤廃したという事実にかんがみ、留保を表明した。ラトビアは、本文パラグラフ7について、今後数年間の暫定措置として自国の農業補助金を保持する必要性を考慮し、留保した。モロッコ及びブルキナファソは、本文パラグラフ7について、農業補助金のみの早急な削減には反対であり、すべての補助金の全廃を支持することを理由に、留保を表明した。またメキシコも、本文パラグラフ7に関し、補助金は段階的に撤廃されるべきであり、本件についてどのように実行するかを決定するのは、各国の自由であるべきとして、留保を表明した。



人権を擁護し、人々の和解と国家間のパートナーシップを
奨励するための議会制民主主義の促進

(2004年4月23日、コンセンサス*3 により採択)

第110回IPU総会は、

(1) 人権の促進・擁護と効果的な和解を確保するためには民主主義が正しく機能することが決定的に重要であることを認識し、

(2) 人権の完全な享受によって人は自由、平等、人間の尊厳の尊重に基づく生活を送ることができるのであり、すべての国及び国際社会は人権の完全な享受を保護しなければならないということに留意し、

(3) 対話と平和的な紛争解決の場を提供する上で議会及び議会間機関の果たす役割を確認し、

(4) 和解は、形式的、法的な紛争解決に勝るものであり、かつ、プロセスであると同時に目標でもあることを確認し、

(5) さらに、真の和解は、訴追、調停、真実の告白、補償を通じた過去の犯罪の認識及び処罰と密接に関連していることも認識し、

(6) また、多様な「真実和解委員会(TRC)」が設置されているなど、紛争から抜け出したばかりの国々で様々な和解への取り組みが行われていることからも分かるように、唯一の和解モデルというものは存在しないということも認識し、

(7) 紛争の予防、平和の回復、和解の促進で国会、地方議会、IPU、国連が重要な役割を果たすことを確認し、

(8) 紛争の予防と解決及び平和の構築で女性が重要な役割を果たすことを強調し、

(9) この点に関して、紛争に関与しているか紛争の影響を受けているすべての当事者に直接的な対話の機会を提供し、紛争後の状況における過渡的な議会の強化を支援し、また、国会議員の人権委員会を介して、紛争後の状況の中で議会人に影響を及ぼす人権問題に対処する上で、IPUの為す貢献を想起し、

(10) 関連のIPU決議、特に以下の決議を再確認し


・ 「人権の促進及び擁護において役割を担う国内組織、制度及び社会機構の強化」(コペンハーゲン、1994年9月)

・ 「戦争後の新興諸国における紛争の防止及び平和と信頼の回復、難民の本国帰還、民主化過程の強化、並びに、復興の促進」(ヴィントック、1998年4月)

・ 「外国人労働者を含む民族的、文化的、宗教的マイノリティーの各国内における寛容を宗とした平和的共存と彼らの人権の完全な尊重に対する各国議会の貢献」(ベルリン、1999年10月)

・ 「安全保障を確立し、平和のための国際協力を行う多国間機関を支援するための議会の役割」(ジュネーブ、2003年10月)

A. 効果的な和解プロセスのための基盤造り

1.  各国に対し、国際紛争によって惹起された国内紛争及び国内危機の持続可能な解決を実現するための国内和解プロセスを制定し、促進し、実行するよう再度要請するとともに、初期の段階で和解プロセスを紛争後の復興へと構築していくことが重要であることを強調し、かつ、和解は人権侵害の蔓延という負の遺産を抱えている社会で民主主義を強化・深化させることにも資する可能性があるということを指摘する。

2.  紛争当事者同士が和解努力を行えるよう、相互信頼の環境を生み出すべく信頼醸成手段を講ずる必要性を強調する。

3.  和解プロセスは真に包括的なものである時にのみ持続が可能であることを確信し、諸国に対し、男女双方が平等な立場でプロセスに参加し、また社会の全構成員がプロセスに参加するよう要請する。

4.  和解の必要性及び形式に関する国民の合意を確保し、そのためになされる取り決めを監視し、それを実行するために必要とされる法律を整備し資源を提供する上で、議会が極めて重要な役割を果たすことを確認する。

5.  各国の議会に対し、様々な形態の司法(地域社会での賠償措置を含む)と並んで、あらゆる可能な和解手段、特に真実告白、賠償、治療、教育について検討するよう奨励する。

B. 和解プロセスの実施

1.  各国に対し、難民・国内避難民の早期かつ自発的な帰国・帰郷、再定住、社会復帰、元戦闘員(特に児童兵士)の武装・動員解除とそれに伴う再教育と市民生活への再統合、心に傷を負った人々(特に女性と子供)のリハビリを確保するよう奨励する。

2.  各国に対し、紛争の過程で生じた国際人道法及び人権への侵害に対処する適切な形式の司法を確立するよう求める。この中には、可能かつ有益な場合には、 (i) 国民の多様性を公正に代表するとともに男女のバランスをとった委員構成、(ii) 十分な資源の提供、(iii) 明確に規定された権限及び実施に必要とされるメカニズム、に基づいて、TRCを設置することも含まれる。

3.  各国の議会に対し、公聴会や進捗状況報告の検討、あるいはTRCが設置されている場合には、その活動や勧告の公表・実施を確保するなどして、和解プロセスの進捗状況についての討議やその推進に積極的に参加するよう要請する。

4.  IPUに対し、紛争後の国・地域で活動している議会及び議員の比較可能な経験から引き出された教訓を収集、分析、提供するよう要望する。

C. 和解を強固なものにし、紛争を防止するための民主主義、人権、平和・寛容の文化の推進

1.  各国に対し、暴力的紛争の構造的原因を取り除き、将来の紛争を防止する効果的な政策及び立法を実施するよう奨励する。

2.  真に自由で公正な選挙を実施することは、国民の多様性を反映した議会を確立する上で常に最も重要なことであり、かつ、特に暴力的紛争から抜け出したばかりの国の場合には、和解プロセスを強化・推進する上でも極めて重要であることを強調する。

3.  各国の議会に対し、野党の政治的権利と報道の自由を尊重するよう要請する。

4.  また、各国の議会に対し、様々な国民一般によって共有されている健康や教育などへのニーズに対処し、その充実を図ることに優先的に取り組みつつ、社会の多様なニーズと欲求を明瞭に表現することも要請する。

5.  多様性に対する精神を培う上で議会人とその属する政党の持つ責任を強調する。

6.  議会制民主主義が真の意義を持ち得るのは、女性が法律上も実際上も男性と完全に平等に議会に代表を送り込める場合のみであることを再確認し、各国議会に対し、 暫定的な特別措置の採用などにより、完全な男女平等を実現するよう強く要請する。

7.  世界中の国々が国際人権規約や国際人道法を批准することが重要であることを強調し、これらの条約を未だ批准していない国の議会に対し、その理由を調査し、可能な限り早期に批准を検討するよう要請する。

8.  各国の議会に対し、人権や国際人道法の重大な侵害に対する訴追への消滅時効その他の法律上の障害をなくすよう要請する。

9.  すべての国に対し、国際刑事裁判所設立を定めたローマ規程に未だ加盟・批准していない場合には、同条約への加盟・批准を検討するよう要請し、かつ、同裁判所の管轄に属する犯罪を定める上で、同規程はレイプ、性的隷属、強制売春、強制妊娠、強制不妊その他のいかなる形態による性的暴力も、戦争犯罪であるとともに、市民への広範囲又は組織的な攻撃の一部として犯された場合には、人道に対する犯罪でもあると定義していることを想起する。

10.  女性が紛争の予防、管理、解決及び平和構築活動で重要な役割を果たすことを考慮し、すべての国に対し、女性、平和、安全保障に関する国連安全保障理事会決議1325(2000年)を実行するよう奨励する。

11.  人権は、議会の人権委員会及び内外で人権を推進・擁護するオンブズマンなどの国家機関の設置によって向上を図ることができることを強調し、諸国の議会に対し、この種の委員会や国家機関が未だ存在していない場合には、設置するよう要請する。

12.  諸国の議会に対し、人権及び国際人道法の尊重強化の分野や関係機関による決定の実施コントロールの面で、より積極的に活動するよう要請する。

13.  民主的な教育のために学問が重要であること、及び、学問は若者が暴力文化に染まるのを防止する上で重要であることを考慮し、諸国の議会に対し、寛容、人権、平和の文化及び国際人道法の規範・原則に関する教育を正規及び非正規教育に含め、促進するよう強く要請する。

14.  IPUに対し、議会制度の持つ役割と責任を効果的に果たす実質的及び技術的な能力を強化するため、過渡的議会、制憲議会、その後継議会など、始まったばかりの議会制度への支援を適宜強化するよう要請する。

15.  IPUに対し、議会選挙の監視・観察に関与し、もって選挙から生まれる議会の正当性に寄与するよう要請する。

*3 インドは国際刑事裁判所に関する本文C-9パラグラフについて、留保を表明した。当該裁判所の管轄はテロリズムにまで及んでいないとして、本決議案については支持するものの、本パラグラフは支持できないとした。



平和とパレスチナ・イスラエル間の紛争の恒久的な解決を促す環境づくりに向けた
暴力行為、分離壁建設の阻止における議会の役割

(2004年4月23日、コンセンサス*4により採択)

第110回IPU会議は、

(1)  第104回ジャカルタ会議(2000年10月)、第106回ワガドゥグ会議(2001年9月)、第107回マラケシュ会議(2002年3月)及び第109回ジュネーブ会議(2003年10月)において採択された、中東地域における緊張状態と暴力の停止を求めたIPU決議を想起し、

(2)  国連安全保障理事会の関連決議、特に決議242(1967年)、338(1973年)、1397(2002年)、1515(2003年)、及びその他の関連する国連決議、マドリッド原則、並びに両者によって署名されたその他の合意に基づく、パレスチナ・イスラエル間の紛争の公正かつ恒久的な解決に向けたIPUの支援を考慮に入れ、

(3)  「カルテット」(米国、国連、EU及びロシア)により提案されたパレスチナ・イスラエル間の紛争の永続的な二国家解決に向けたロードマップを、パレスチナ自治政府及びイスラエルが完全に受諾したことを認識し、

(4)  パレスチナ占領地域で起こっており、大抵の場合、無実のパレスチナ・イスラエル市民の間に多数の死傷者をもたらしている痛ましい出来事を深く憂慮し、

(5)  また、主にパレスチナ・イスラエル市民及びその他の世界中の人々に影響を与えるテロリストの活動が増加していることを深く憂慮し、

(6)  パレスチナ住民から移動の自由を奪い、また彼らが通常の生活を送ることに悪影響を及ぼすフェンス・壁を建設するというイスラエルの政策に対する懸念を改めて表明し、

1.  パレスチナ・イスラエルの国民に対するすべての暴力行為の停止を強く要求する。

2.  暴力の悪循環を永続化させ、和解の可能性を減少させる標的を定めた暗殺及び自爆テロを非難するとともに、強く遺憾の意を表明する。

3.  交渉の場に戻るための手段として、イスラエル及びパレスチナが前向きな行動をとらなければならないことを認識するとともに、イスラエルに対し、パレスチナの占領地における壁・フェンスの建設を中止するよう要求し、またパレスチナ・グループに対し、イスラエル市民に対する暴力行使を放棄するよう要求する。

4.  イスラエル及びパレスチナに対し、両国家が平和かつ安全に共存するという構想を実現するため、ロードマップに基づき、各々の義務を履行するよう要求する。

5.  また、IPU及び各国議会に対し、関連する国連決議に基づき、また両者間で既に成立した合意事項に従った、イスラエル・パレスチナ間の紛争を恒久的解決へ導くロードマップの履行の促進において、その役割を強化するよう要求する。

6.  パレスチナ及びイスラエルに対し、関連する国連決議及びパレスチナ自治政府・イスラエル間で成立した合意事項に基づき、イスラエル・パレスチナ間の紛争を終結させるため、交渉の場に戻るよう勧告し、また、国連に対し、引き続きこの問題に取り組み、両者が永続的な和解を達成することを支援するために必要なあらゆる行動をとるよう強く要求する。

7.  国際社会に対し、パレスチナ及びイスラエルに、ロードマップの目的を達成するための機会を与え、支援を提供するよう要求する。

*4 イスラエルは、本文パラグラフ2の表現について留保を表明した。イランは、イスラエルの承認を意味すると解釈しうる部分について、留保を表明した。スーダンは、決議全体について留保を表明した。パレスチナは、本文パラグラフ3について懸念を表明し、「壁」という文言を「分離壁」に変えること、パレスチナ市民に対する攻撃に関して言及することを要求した。 。