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国際関係

重要事項調査

重要事項調査議員団(第一班)報告書

       団長 参議院議員   関谷 勝嗣
           同         太田 豊秋
           同         大石 正光
           同         山下八洲夫
       同行 総務委員会調査室首席調査員   平田 佳嗣
           法制局第四部第一課長     山岸 健一

一、始めに

 本議員団は、平成十八年七月二十九日から八月八日まで、イタリア共和国、英国及びスペインの三か国を訪問し、各国の通信・放送に関する実情並びに政治経済事情等について、政府機関、公共放送機関、通信事業者等を訪ねて調査を行った。その概要は、次のとおりである。
七月三十一日(月)
[イタリア共和国]
 ファストウェブ社
 在イタリア日本商工会議所関係者との懇談
八月 一日(火)
 イタリア放送協会(RAI)
 イタリア通信省
八月二日(水)
[英国]
 JSTV社長との懇談
 サイエンス・ミュージアム(国立科学博物館)
八月三日(木)
 英国文化・メディア・スポーツ省
 英国放送協会(BBC)
八月四日(金)
[スペイン]
 カナル・スール グラナダ支局
 イデアル新聞社
八月七日(月)
 スペイン国営放送機構(RTVE)
 テレマドリード

二、調査内容

(一)イタリア共和国
1 イタリアの放送概況
 イタリアでは、放送は国家の独占の対象とされ、一九四四年にイタリア放送協会(RAI)に免許が付与され、唯一の放送事業者として放送を実施していた。一九七四年、七六年の憲法裁判所判決により、放送のすべての独占は違憲とされたが、民間放送の法制度が一九八〇年代まで整備されなかったことから、無認可の民間放送局が多数誕生し、その離合集散とともに、系列化等が進んで今日に至っている。
 一九九〇年代に入って放送法制は順次整備され、九七年の通信・放送制度改革法では、民間テレビ放送一事業者二チャンネルの制限、独立規制機関AGCOM(通信規制庁)の設置等が定められた。次いで、ベルルスコーニ政権の下、二〇〇二年には、RAIの政府保有株式について法人を含め一人一%以内の所有を上限として売却し、公共放送RAIを段階的に民営化するとともに、マスメディア集中排除規制を緩和すること等を内容とする、ラジオ・テレビ制度改革法(通称ガスパッリ法)が議会に提出されたが、審議は難航し、二〇〇四年五月、ようやく修正成立するに至った。
放送行政については、通信省が所管し、放送政策の策定、認可の付与等を行い、独立規制機関としてAGCOMが、放送周波数の割当計画、放送事業者の認可方針等の策定と適用について所掌している。
 地上波アナログテレビ全国放送については、公共放送RAIが三チャンネルを運営している。RAIの運営経費は、受信料収入と広告収入により賄われている。民間放送は、ベルルスコーニ前首相所有企業傘下のメディアセットが三チャンネル、電気通信事業大手企業傘下のテレコムイタリア・メディアが二チャンネルを、広告収入により無料放送している。このうち、RAIとメディアセットで視聴シェア全体の八割以上を占めており、二強体制となっている。また、約六百にも上る地域局がある。
 地上放送デジタル化は、二〇〇三年十二月に始まった。当初、アナログ放送の終了を本年末に予定していたが、昨年、政府は二〇〇八年末に延期を表明した。現在、RAIは、アナログ放送と同一内容のチャンネルのほかに、新規に双方向サービスを含む二チャンネルを立ち上げている。また、メディアセット、テレコムイタリア・メディアの一部のデジタルチャンネルではサッカー中継等のペイパービュー・サービスを始めている。なお、通信省は、地上デジタル放送とその双方向サービスの普及促進を目的に、接続機器の購入等について、二〇〇五年度において一世帯当たり七十ユーロ(約一万円)を助成している。
 衛星放送については、RAIが独自に、放送衛星を通じて、地上放送の同時放送に加え、独自編成の専門五チャンネルを無料で放送している。イタリア唯一の民間衛星放送で、国際メディア企業ニューズ・コープ系のスカイ・イタリアは、有料ではあるが、およそ百チャンネルの視聴が可能である。スカイ・イタリアに対して、RAI子会社が専門有料五チャンネルを提供し、RAI自身も、放送やインターネットを使った大学遠隔学習ネッツーノの二チャンネルを提供している。なお、衛星放送は、すべてデジタル化されている。
 ケーブルテレビは、高密度な住宅事情や法整備の遅れもあって、普及率は非常に低い。
 ラジオは、公共放送RAIの全国向け五チャンネルのほか、国内でおよそ千五百局の民間ラジオ放送局があり、二十以上のネットワークが形成されている。
 国際放送は、RAI子会社のRAIインターナショナルが、テレビ国際放送については地上放送や独自編成の四つのチャンネルを世界各地域に向けて十三基の衛星を介して送信しており、一部は同社のウェブサイトでも視聴可能である。ラジオ国際放送についても、同社が地上波、衛星、インターネットを通じ、世界各地に向け二十六言語で放送している。
 また、RAIのウェブサイト上で、合弁子会社RAIクリックが、インターネットサービスとして最新ニュースや教養番組等をオンデマンド形式で無料配信している。

2 イタリア通信省
 イタリア通信省に、ルイージ・ヴィメルカーティ副大臣を訪ね、意見交換の機会を得た。
 議員団から、RAIの民営化及び地上放送デジタル化の状況についてただしたところ、技術の進歩が著しく、イタリアでも新しいテレビ、ラジオ制度について検討している。RAIの民営化政策は前政権によるもので、現政権は民営化の意図を持っていない。むしろ、RAIの番組の質を高めることに目標をおいている。RAIは、三年ごとに通信省と契約を締結し、公共放送を国の委託を受けて実施しており、その中で、青少年保護等公共放送サービスの義務内容が規定されている、と述べた。
また、地上放送のデジタル化については、完全な移行は更に遅れるとして、二〇一二年となる可能性を示唆するとともに、地上デジタル推進のための補助金は、一般財源によるもので一定の効果はあったが、EUのクレームもあり現在は中止していることを明らかにした。

3 イタリア放送協会(RAI)
 RAIでは、カルロ・ログノーニ取締役等と意見交換を行った。
まず、議員団が、RAI民営化の進捗状況や国会の関与、経営状況についてただしたのに対し、RAIの民営化が失敗した上、ガスパッリ法の主要な内容はいずれも進捗していない。また、上下両院の合同RAI監視委員会が、特に政党の報道に同等の機会を与えているかという観点から目を光らせている。九人の取締役のうち七人については同委員会が任命権を有している。二〇〇四年は経営状況が良く、国に八千万ユーロ(邦貨換算約百二十億円)の配当金を出した。本来なら新技術等に投資をしたいところだが、三年に一度、国とサービス契約を結ぶ時期に重なった。受信料は毎年見直されるが、三年間引き上げておらず、ヨーロッパでは最も低い水準となっている、とした。
 議員団が、受信料の収入割合及び徴収率、国際放送の財源についてただし、また、広告収入による放送の質の低下への影響について懸念を示したのに対して、受信料収入は五~六割を占め、広告収入は四~五割である。受信料の未払は、二十五%程度で、地域によってばらつきがある。広告収入は、RAI設立当初から活用している。視聴率が上がれば広告料を多く支払うだろうから、番組の質が落ちてしまう心配はあるが、視聴者を番組制作の中心に置き、番組の質を守っていく必要がある。EUの規定では、民間放送は一週間に十六万秒以内で広告を放映できるが、公共放送は一週間に七万秒しか放映できない。最近は、民間放送のペイテレビの収入が順調であるが、公共放送が参入することが良いのかという議論もある。国際放送については、RAI子会社のRAIインターナショナルが実施しているが、これに国の予算三千五百万ユーロ程度(邦貨換算約五十三億円)が支出されている、と説明があった。

4 ファストウェブ社
 ファストウェブ社は、一九九九年に、ミラノガス電力設備会社等の出資により、ミラノ市に設立された。当初は、出資企業の光ファイバーを活用して、ミラノ市を中心にブロードバンド・サービスを提供していた。その後、光ファイバー網をイタリア全土の主要都市に敷設しながら、インターネット・プロトコル技術を採用し、一つの回線で固定電話、インターネット、映像配信の三つを統合したトリプルプレイ・サービスをイタリアで初めて提供した。現在では、固定網通信事業トップのテレコムイタリアに次いで第二位の電気通信事業会社としてシェアを伸ばしている。急成長を遂げた背景には、イタリアではCATV事業が進展しておらず、ブロードバンドが発展途上にあるという事情があるものの、提供する映像コンテンツや機能が豊富で魅力があるからだとされている。主要な地上波八チャンネル、衛星放送七チャンネル、ハリウッドの映画会社や衛星放送スカイ・イタリアと提携し映画やサッカー番組、RAIとの共同子会社によってRAIの過去一週間の放送番組等が、ビデオ・オン・デマンドで提供されている。電子プログラム・ガイドやバーチャルVTR機能も好評を博している、という。
質疑応答の中で、同社は、専ら株式市場で豊富な資金を調達し、銀行からの借入れは非常に小さい。携帯電話を含めたクアドルプルプレイの可能性も検討している。今年に入って、五年間にわたる中央・地方政府のネットワークシステムを受注した、などを明らかにした。

5 その他
 以上のほか、イタリア商工団体との交流、進出企業同士の親ぼく等に活発な活動を展開している在イタリア商工会議所の小池泉会頭以下主要なメンバーと懇談をする機会を得た。イタリアにおける通信と放送の利用者としての感想を含め、様々な意見を伺うことができ、大変有意義であった。

(二)英国
1 英国の放送概況
 英国では、受信許可料を財源とする公共放送の英国放送協会(BBC)と、広告収入等を財源とする民間放送の並立体制となっている。
 BBCは、その存立と業務運営の基本的事項が、国王による特許状(ロイヤル・チャーター)と、国務大臣とBBCにより締結される協定書により定められる。特許状は、BBCの存立、目的、権限、責任を定め、一九二七年にBBCが法人として設立されて以来、十年ごとに改訂されてきた。現行の第七次特許状の有効期間は本年末までとされているため、過去三年にわたって、BBCの在り方が国民的な議論に付され、政府によるグリーン・ペーパー、ホワイト・ペーパーの公表を経て、特許状の内容が固まった。協定書は、従来は技術的事項を定めたものに過ぎなかったが、近年では、公共サービスの提供、国内放送の目標、番組基準等が規定され、特許状の決定に併せて締結される。
 民間放送については、一九九〇年放送法が、現在のラジオ、テレビ放送チャンネル体制の基礎を築き、一九九六年放送法は、地上デジタル放送の導入に向けて免許の付与方針等を定めるとともに、メディア集中排除規制の緩和を進め、二〇〇三年通信法は、放送と通信分野に関する既存の独立規制機関を統合したオフコム(通信庁)の設立等を定めた。
 英国の放送行政は、文化・メディア・スポーツ省が所管し、放送政策の策定、BBCの特許状・協定書の付与等を行い、独立規制機関オフコムが、放送事業者に対する免許の付与や放送事業内容に対する規制等について所掌する。
 地上アナログテレビ放送には、公共放送として、BBCが二チャンネル、非営利法人が運営するチャンネル4の一チャンネルがある。民間放送は、十六局がネットワークを組み、サービスを提供しているITVと、英国で五番目に開局したファイブが各一チャンネル、合計五チャンネルが全国放送を展開している。なお、チャンネル4は、一九八二年、放送法に基づく非営利法人が、広告収入によるものの、少数者のニーズにこたえ、革新的な番組を放送するため、英国で四番目に開局された。
 地上デジタルテレビ放送は、一九九八年九月にBBCが世界に先駆けて開始した。その後、地上各社のデジタルによる同時放送とともに、有料放送ITVデジタルがスタートした。しかし、同社は経営難で倒産した。これに代わって、二〇〇二年秋からBBCや放送送信事業者クラウン・キャッスルが中心に、後に衛星・地上テレビ各社も参加して非営利企業DTVサービス社を設立し、フリービューという名称で、BBCが八チャンネル、チャンネル4が五チャンネル、ITVが四チャンネルなど、計約三十チャンネルによるデジタル無料放送が運営されている。接続機器を設置するだけでデジタル放送が受信できることから順調に普及して、五百七十万を超える世帯で受信されている。なお、英国はデジタルへの完全移行を、当初二〇一〇年に予定していたが、二〇一二年への延期を表明している。また、政府は、七十五歳以上の高齢者や重度障害者等の社会的弱者を対象に、接続機器設置等の支援を行っている。
 衛星放送は、国際メディア企業ニューズ・コープ系のBスカイBが、英国の衛星放送事業を独占している。二〇〇一年九月にデジタルに完全移行し、加入契約世帯は百万を突破した。
 ケーブルテレビについては、二社体制だったが、ntlがテレウエストを買収し、固定電話四百三十万、ブロードバンド・サービス加入二百五十万、有料テレビ三百三十万世帯が加入する巨大ケーブル会社が誕生した。
 アナログラジオ放送は、BBCが全国向け五チャンネルのほか、地域向けのサービスを行っており、民間放送は、全国放送三チャンネルのほか、二百七十を超えるローカル局がある。デジタル放送は、BBCがサイマル放送のほか五サービスを追加して、計十一チャンネルの放送を実施しており、民間のデジタル放送も、全国放送八チャンネルでサービスが開始されており、ローカル放送の免許も付与されつつある。
 テレビ国際放送は、BBCの子会社のBBCワールドワイドが十九チャンネル、同じくBBCワールドがニュース専門一チャンネルを、広告料や視聴料により運営している。ラジオ国際放送は、BBCが政府から交付金を得て、BBCワールド・サービスとして英語を含む四十三の言語で全世界に向けて放送している。ウェブサイトも開設し、音声サービス等を行っている。

2 文化・メディア・スポーツ省
 文化・メディア・スポーツ省では、ステファン・ロッシャー公共サービス放送部長等と意見交換をすることができた。
 英国政府としては、二〇〇八~二〇一二年までに、段階的に地上放送のデジタル化を完了したいとして、具体的な取組状況の説明があった。
議員団から、公共放送の在り方、受信許可料の徴収等についてただしたところ、BBCがサービス提供を継続するためには、特許状を更新する必要があるが、この区切りは、政府にとっても多様な面で抜本的な見直しの機会となっている。特許状の見直しに当たっては、三年間、あらゆる側面から議論を行い、政府が決定した。内容的には、ほぼ現行のとおりであるが、来年以降十年間は受信許可料制度が継続することとなり、他の収入案は否定された。ただし、ガバナンスの方法は大きく変わる。BBCは、受信免許で運営されているが、BBCが英国政府に代わり受信料を徴収している。払わない人の率は限られている。どうしても払わない場合には罰金が課されることがある、とのことであった。
 ガバナンスや国会との関係についての質問に対しては、政府からの独立という重要な原則があり、政府は、BBCその他の放送に影響力を行使してはならない。特許状においても、BBCの本体、番組制作等についてその独立が確保されている。BBCと政府及び議会との関係では、特許状を見直す時期は関与の度合いが高まるが、見直し期間以外では、政府は基本的に関与しない。しかし、BBCは、受信料を効率的に使用しているか議会に対し明らかにする必要がある、とした。
 さらに、議員団が、BBCの国際放送の状況についてただしたのに対し、BBCが受信許可料で賄っているのは国内放送である。国際放送のうち、BBCワールド・サービスについては、政府、具体的には外務省から補助金が出ている、とのことであった。

3 英国放送協会(BBC)
 BBCを訪問し、ビル・ホワイト公共政策担当部長等と意見交換の機会を得た。
 まず、BBCの概況について、BBCは高い視聴シェアを誇り、受信料は年百三十一・五ポンド(邦貨換算で約二万七千六百円)で、受信料収入は三十一億ポンド(同約六千五百十億円)、BBCワールド・サービスに外務省から交付金として二億四千万ポンド(同約五百四億円)、商業活動収入等が六億二千万ポンド(同約千三百二億円)ある、と説明があった。
 また、三年前からBBCの在り方について国民的議論が展開されてきた。二〇〇四年、BBCは、デジタル時代にふさわしい公共的価値の構築を目的として、将来ビジョンを発表し、完全デジタル化に寄与するとともに、経営委員会の改革や新たな評価システムの導入などの目標を掲げ、BBCの活動を支える財源として受信許可料制度の維持を主張してきた。本年三月、政府からホワイト・ペーパーが示されたが、特許状により、次の十年間は受信許可料制度が存続し、BBCは現行のサービス規模と範囲を維持し、政府から独立して運営をすることができる。視聴者のニーズに沿って適切な説明責任を負う独立機関としてBBCトラストが設置され、その発行するサービス免許に基づいて、BBCの各サービスが実施される。放送サービスは、市場価値と公共価値のバランスの上に成り立っているが、新たに公共価値テストを受けなければならないこととなった。BBCには、デジタル化に必要なインフラの整備、デジタルTVやオンデマンドTVの実現、創造的で質の高いサービスの提供、地域サービスの推進等の四つの重要な任務が示された。デジタル化の支援、高画質テレビの推進等に取り組み、放送後一週間に限り番組をインターネットで視聴できるキャッチ・アップ・サービス、過去の番組・映像資産の提供とともに、携帯電話への配信等新しいサービスにも取り組んでいきたい、と説明があった。
議員団が、公共放送と国際放送の財源についてただしたのに対して、BBCが公共目的を果たすための用務については、公共のお金で賄うべきで、受信許可料は、英国で広く承認されている。すべての政党、民間放送局も、この点については反対していない。国際放送にも同じ原則が適用されるべきで、公共的な仕事であれば、政府から交付金を得ることは全くおかしくない。アラビア語放送は、ラジオ国際放送でしか行ってこなかったが、交付金を得て、二〇〇七年からテレビ国際放送で行うことになった、とした。

4 その他
 ヨーロッパから中東、北アフリカに及ぶ地域を対象に、二十四時間、日本語衛星放送を実施しているJSTVの本社がロンドンにあることから、急きょJSTVの秋山紘社長と懇談の機会を得た。欧州の視聴料は英国で月三十ポンド、その他の国で五十ユーロ(邦貨換算で六、七千円台)、視聴料収入のほか、広告収入その他が十五%程度、受託放送委託料が二十五%程度を占めるが、事業としてはようやく黒字となり、累積赤字を減らしているところである、と説明があった。また、ロンドンではサイエンス・ミュージアム(国立科学博物館)を訪問し、近年、人気を博している立体映像アイマックス3Dによる映画「鮫」を見る機会を得た。迫力に満ちた映像技術は、教育等への活用が期待される。

(二)スペイン
1 スペインの放送概況
 ラジオは一九七七年まで、テレビも一九八八年までは、現在のスペイン国営放送機構(RTVE)のスペイン国営ラジオ(RNE)とスペイン国営テレビ(TVE)が、それぞれ唯一の放送局であった。一九七五年以降のフランコ体制の変革後、放送分野の基本法令であり、RTVEの組織・運営について定めた放送法が制定されたのは一九八〇年に至ってからであった。
 地上波アナログテレビ放送において、国営テレビ放送(TVE)は二チャンネルを有し全国放送を行っているが、受信料等は徴収しておらず、政府等からの助成、広告・商業収入を主要な財源としている。しかし、一九八八年制定の「民間テレビジョンに関する法律」以降、民間放送の多数参入による広告収入の減少から、累積債務は邦貨換算で一兆円を超え、RTVEの改革が大きな課題となっている。民間放送は、電気通信事業大手のテレフォニカが主要株主のアンテナ3、イタリアのメディア企業メディアセットが主要株主であるテレ5、さらに衛星放送を経営するソヘカブレ社が運営するカナル4の三社が、各々一チャンネルの全国放送を実施している。そして、特徴的であるのは地域放送で、全国十七自治州のうち八州で地域公営テレビ放送が実施されている。さらに、地域民間放送局が九百局近くあると言われている。
 地上テレビ放送のデジタル化については、政府の旧計画に基づき、二〇〇〇年五月、民間有料放送キエロTVが先行して、英国、スウェーデンに次ぎ三番目にデジタル放送を開始した。キエロTVは、十四チャンネル体制で、インターネットを利用した双方向機能を特徴としたが、衛星放送との競争に敗れ、二年後に放送停止し、事業体を清算した。一方、二〇〇二年四月からは、既存のTVE、民間放送三社、テレマドリード等一部の地域公営テレビに各々一チャンネルが割り当てられ、アナログ放送の同時放送が開始された。さらに、政府は、キエロTV割当チャンネルを再配分し新計画を定め、TVEに五チャンネル、既存の民間放送三社に各々三チャンネル、新規に参入するネットTV等三社に各々二チャンネルを割り当て、十一月から地上デジタルテレビ放送が二十チャンネル体制で再出発した。なお、アナログ放送は当初二〇一一年末までに停止する予定であったが、政府は、これを前倒しして、二〇一〇年四月には完全にデジタルへ移行するとしている。
 衛星放送は、ソヘカブレ社が経営するデヒタル・プルスのみとなり、加入世帯約百七十八万を対象に、七十チャンネルの放送を行っている。
 ケーブルテレビについては、ONO社が、約百十二万の加入世帯を対象にケーブルテレビの実施を事実上独占している。
 ラジオ放送は、国営放送のRNEが、全国放送で四チャンネルとカタルーニャ地域向け一チャンネルの放送を行っている。このほか、多数の民間放送局が設置され、全国的なネットワークも展開されている。地上デジタルラジオ放送は、その大半がアナログ放送の同時放送であるが、二〇〇〇年八月に政府の計画に基づき十一局が放送を開始している。
 国際放送については、テレビ国際放送は、TVE国際放送子会社が、アメリカ向け等五チャンネルの放送を実施しており、ラジオ国際放送は、RNEが「REE」という呼称で七言語による短波放送を行っている。
 なお、放送事業については、産業・観光・商務省の電気通信・情報社会庁が所管し、政策立案、法案作成等を行っており、放送事業の公正競争等については電気通信市場委員会の所掌となっているが、日程の都合等から、残念ながらいずれも訪問をすることができなかった。

2 スペイン国営放送機構(RTVE)
 RTVEは、スペイン国営ラジオ(RNE)とスペイン国営テレビ(TVE)を傘下において、一九六五年に設立された。RNEは、ラジオ国際放送も行っている。TVEは、一九五六年の放送開始から本年で五十周年を迎えた。RTVEは、株式会社形態をとっているが、産業出資公社が百%所有する国営企業であり、放送部門子会社としてはこのほかに、衛星番組供給会社及びテレビ国際放送会社がある。衛星番組供給会社は、専門デジタル四チャンネルを供給している。放送部門以外にも交響楽団、合唱団、出版社、音楽レーベルの子会社を持っている。
 RTVEグループの会長は政府が任命し、経営の最高機関である経営委員会は十二人で、各政党が国会での議席数に比例した人数の有識者などを委員に指名する。経営委員は、国会の放送委員会等の求めに応じ、経営や会計について説明する義務を負っている。RTVEグループ全収入のうち、政府及び公共団体からの助成金は十%弱であり、広告収入やコンテンツ等の売上げを含む商業売上げが八十五%前後を占め、視聴者から徴収する受信料等の制度はない。
 RTVEの累積赤字は、二〇〇五年には七十五億ユーロ(邦貨換算一兆一千億円)に達した。このため有識者諮問委員会が設置され、債務額の削減、公共助成金比率の引上げ、番組の自社制作の強化、質の高い番組の提供、スペイン文化等の海外向け普及の強化を骨子とする提言がまとめられた。これらを踏まえて、二〇〇六年六月に国営テレビ・ラジオ放送法が制定され、現在、改革の第一段階として、人員整理などが実行段階に入っている。
 議員団は、コンスタンティノ・モンタネール国際技術部長等と意見交換の機会を得た。
 議員団からは、広告収入の商業的影響による番組の質の低下や公的助成による政治的な中立性確保への懸念が示されたのに対し、歴史的に財源体系としてできあがったもので、番組の質の低下や政治的中立性の確保について懸念は全く当たらない、とのことであった。
 その他、質疑応答の中で、制作番組の外部売却などによる商業的収入が二十%程度を占めていること、人員整理は、現在の九千三百人を五千人程度の体制にしようとする大幅な削減内容となること、などが明らかになった。

3 地方公営テレビ放送(テレマドリード、カナル・スール)
 一九八三年に制定された「テレビジョンの第三のチャンネルの規制に関する法律」により、全国十七の自治州に独自のテレビ局開設が認められ、このうちカタルーニヤ、アンダルシア、マドリード等八州で地域公営テレビ放送が運営されている。番組の共同制作、放送権の共同購入、外国通信社からの共同受信、各局の番組素材の交換等を行う必要があるため、自治州放送機構連合(FORTA)が組織されている。地方公営テレビ放送も、財政的には自治州等からの助成、広告収入や商業収入を主要な財源とし、視聴者から受信料等は徴収していない。
 今回、訪問したのは、アンダルシア州によるカナル・スールのグラナダ支局と、マドリード州設立によるテレマドリードの本社であった。このうち、カナル・スールのグラナダ支局訪問は、アントニア・アラネガ・ヒメネス上院議員の尽力がなければ実現できなかった。あわせて、地元紙イデアル新聞社への訪問も実現いただいたことに、改めて感謝を申し上げたい。
 カナル・スールは、アンダルシア自治州により一九八九年に設立され、二十四時間の総合放送を実施している。教養放送の第二テレビ局や、併設されているラジオ局などとともに、アンダルシア州ラジオ・テレビ公社の下にある。本社はセビージャにあり、三百万世帯の視聴者を対象にしている。財政は、大まかに広告収入が三割、州からの補助金が七割で、そのほか商業収入がある。グラナダ支局では五十人程度の職員により、テレビ、ラジオの県域ニュース、地域の番組をすべてデジタルで制作していた。
 テレマドリードは、マドリード州が一九八九年に設立した二十四時間の総合放送である。第二放送であるラ・オトラ、ラジオ局のオンダ・マドリードとともに、マドリード州ラジオ・テレビ公社の下で、六百万人の視聴者を対象に放送を運営している。いずれもデジタル化され、インターネットによる放送も行われている。従業員は千四百人程度である。財政収入は、州からの補助金と広告収入がおおむね半々となっている、との説明を受けた。
 議員団は、アルバロ・レネド・セダノ同公社会長に会い、意見交換の機会を得た。会長は、テレマドリードは、何よりも質の高い番組を提供するよう努めており、特に都市における放送を重視し、中でもニュース番組に力を入れている。ニュース番組は二十四時間放送中五時間程度にも上り、固定カメラを市内に十四台設置するなど速報性を高める工夫をして、ニュース番組には定評がある、と強調した。
議員団からは、広告収入の商業的影響による番組の質の低下への懸念が示されたのに対し、広告主からの要請はあるが、公共放送としての質の確保、中立性の維持が必要であり、守らなければならない。地方公営放送としては、既に補助金の形で市民から負担をいただいており、これ以上市民に負担を強いるわけにはいかない、とのことであった。

三 終わりに

 今回の調査に当たっては、多忙な中、快く意見交換に応じていただいた訪問先の関係者、また熱心な御協力をいただいた在外公館等の関係者に対し、心から感謝の意を表したい