質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第一一八号

歴史認識に関わる我が国の政策に関する第三回質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年四月二十三日

神谷 宗幣


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   歴史認識に関わる我が国の政策に関する第三回質問主意書

 歴史認識に関わる我が国の政策に関する再質問主意書(第二百十三回国会質問第五二号)に対して答弁書(内閣参質二一三第五二号。以下「本件答弁書」という。)が送付された。

 現代の国際社会では、特に歴史認識を巡る情報戦が重要なフロントラインとなっている。誤った情報が一度受け入れられると、その誤解が定着する恐れがあるため、迅速かつ継続的な正確な情報提供が重要である。この背景のもと、我々は誤情報に対する積極的な情報発信と迅速な反論を実施する必要がある。

 いわゆる「南京事件」に関する論争は特に顕著である。戦後、南京での出来事は、しばしば犠牲者数が誇張され、広く「虐殺」が発生したと主張されてきたが、政府は、確固たる証拠が提示されていないにもかかわらず、受動的な姿勢を取り続けてきた。

 特に二〇一五年に中国が提出した「南京大虐殺」関連文書が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の記憶遺産に登録申請された際、日本政府は、日中間での認識の相違を理由に、中国側の一方的な主張に基づく登録への反対を表明し、申請の撤回を中国政府に要請し、登録決定後は、日本政府は、「日中間で見解の相違がある…にもかかわらず、中国の一方的な主張に基づき申請されたものであり、…完全性や真正性に問題があることは明らか」で、「記憶遺産として登録されたことは、中立・公平であるべき国際機関として問題であり、極めて遺憾」だとして、ユネスコ事業が政治利用されることがないよう制度改革を求めていくとした。

 しかしながら、国際社会では「南京大虐殺」のイメージが広まり、国際機関による認定と捉えられかねない状況となっている。この経緯は、政府が能動的かつ積極的な対応を怠った結果ではないだろうか。

 また、日本政府は、南京事件における非戦闘員の殺害や略奪行為は否定できないが、具体的な犠牲者数については様々な説があり、明確な数を確定することは困難としている。このような曖昧な立場は、政府が事件の発生を認めつつも、犠牲者数については不明とする印象を与えている。本件答弁書において「戦史叢書 支那事変陸軍作戦〈一〉―昭和十三年一月まで―」(以下「本件戦史叢書」という。)から引用された部分は、前半では、軍紀風紀の維持に努めたものの、不正行為が発生し、法に則って処分が行われたこと、後半は、少数の住民の殺傷があったところ、軍が意図的に住民を殺害したとの文脈でなく、住民が巻き込まれたり、敗残兵が住民に変装して潜伏したという文脈で語られている。

 このように、当時の南京で「数十万人が虐殺された」という一部の主張の規模とは異なる内容である。「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide、一九四八年)」では、集団殺害罪は、国民的、人種的、民族的または宗教的集団を破壊する意図を持って行われる行為と定義されており、この文脈では全く当てはまらない。反対に、本件戦史叢書における「南京事件」の関連する記述によると、事件に関する報告は終戦後になされ、関連する判決で挙げられた非戦闘員や市民の犠牲者数(非戦闘員約一万二千人、避難していた市民約五万七千人など)について、「その証拠を些細に検討すると、これらの数字は全く信じられない」と述べている。また、日本軍が発表した中国軍の遺棄屍体数(約八万~九万)に関しても、「日本軍の戦果発表が過大であるのは常例であったことを思えば、この数字も疑わしい」とし、「これが事件として取り上げられたのは、若干の事実があったからであり、これが誤解、曲解され、さらに誇大宣伝されたためであろう」と指摘している。さらに、諸資料を総合的かつ些細に分析した結果、「南京付近の死体は戦闘行為の結果によるものが大部であり、これをもって計画的組織的な「虐殺」とは言いがたい」と結論づけている。

 さらに、戦争史の諸研究において、「南京事件」について些細に検証しており、大規模な虐殺があったとする証拠は脆弱で、「大虐殺」が実際に発生したと断言するのは疑問が残るという結果が示されている。一方で、政府は、「非戦闘員の殺害又は略奪行為があったことは否定できない」としつつも、具体的な数に関しては「様々な議論があるため断定することは困難」と述べている。

 本件戦史叢書に基づく記述としては、仮にこれが誤りではないとしても、部分的であり、状況の全貌を捉えていないものと思える。歴史認識に関する国際的な情報戦では、迅速かつ正確な情報提供が求められている。特に「南京事件」については、受動的な姿勢から脱却し、不明点については客観的な研究を進めながら、歴史的事実に基づく正確な見解を示すことが重要である。

 以上を踏まえ質問する。

一 本件戦史叢書に記されている「南京付近の死体は戦闘行為の結果によるものが大部であり、これをもって計画的組織的な「虐殺」とは言いがたい」との記述について、政府はこの見解をどのように評価しているか。また、この見解が政府の公式対応や答弁にどのように反映されているのかを具体的に示されたい。

二 政府は、「非戦闘員の殺害又は略奪行為があったことは否定できない」としつつも、本件戦史叢書に記述された「「虐殺」とは言いがたい」との結論には言及していない。政府は、この結論部分について、どのように評価するか。

三 本件戦史叢書では、犠牲者数に関する疑義が示され、「その証拠を些細に検討すると、これらの数字は全く信じられない」と記述されている。この記述について、政府はどのような立場をとるか。また、「犠牲者数に関してはさまざまな議論があり、断定することは困難である」との政府見解に至った根拠と、その根拠資料は何か。

四 二〇二三年四月三日の参議院決算委員会で、当時の林外務大臣は、「外務省のホームページの記載…は関係者の証言や事件に関する種々の資料から総合的に判断したもの」と答弁したが、本件戦史叢書以外の「関係者の証言や事件に関する種々の資料」とは何か、具体的に示されたい。

  右質問する。