質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第六五号

パンデミック条約の訳に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年三月六日

須藤 元気


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   パンデミック条約の訳に関する質問主意書

 我が国は、世界保健機構(以下「WHO」という。)に加盟しており、WHOが推進する「パンデミックの予防、備え及び対応(PPR)に関するWHOの新たな法的文書(以下「パンデミック条約」という。)」の締結に向けて取り組んでいる。

 厚生労働省及び外務省によるとパンデミック条約は、パンデミック条約と呼んではいるもののそれが条約なのか、あるいは同意書なのかという立ち位置すら明確ではない法的文書であるとして、憲法第七十三条第三項における「条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする」国際約束かどうかは確定していないと説明してきた。

 それをもって以下質問する。

一 パンデミック条約の正式名称の原文を当たると、英語表記で「WHOCA+:WHO convention, agreement or other international instrument on pandemic prevention, preparedness and response(PPR)」となっており、「新たな法的文書」と読める部分は一切ない。「convention, agreement or other international instrument」を新たな法的文書と訳すのは、完全な誤りであり、国民をミスリードしかねない責任問題が発生する度合いの誤訳あるいは意訳である。

 小説や物語で利用される意訳や超訳を法的文書で用いるべきではないというのは、国際法務では常識であり「逐語訳」を用いるべきである。外務省の誤訳を修正すべきだと考えるが、政府見解はいかがか。

二 二〇一二年七月に参議院外交防衛委員会調査室が発表した論文(以下「本論文」という。)「条約の国会承認に関する制度・運用と国会における議論―条約締結に対する民主的統制の在り方とは―」によると、「国際法上、条約(treaty)とは、その表題を「〇〇条約(treaty)」としているものに限らず、憲章(charter)、規約(covenant)、条約(convention)、協定(agreement)、議定書(protocol)、規程(statute)、取極(arrangement)、交換公文(exchange of notes)、宣言(declaration)、声明(statement)などの名称を有するものを含み、広く国家間における法的な合意文書を言う。」とされている。

 それを勘案すると、国際約束であるパンデミック条約の原文名称 である「WHO convention, agreement or other international instrument」の部分は「WHOの条約、協定あるいはその他の国際的法律文書」と訳すのが適当だと考えるが、政府見解を示されたい。

三 本論文によると、いかなる名称であれど、国際法上では国家間における法的な合意文書を条約と言い、大平三原則によると、①法律事項を含む国際約束、②財政事項を含む国際約束、③日本と相手国の間、あるいは国家間一般の基本的な関係を法的に規定するという意味において政治的に重要な国際約束であって、それゆえに発効のために批准が要件とされているものは憲法第七十三条第三項において国会承認を必要とする国際約束であることが指摘されている。

 パンデミック条約においては、我が国の憲法に抵触する可能性があり、国会での審議無しに国内法との整合性が取れない国際約束を行政のみで取決めようとする流れは非民主的な手続きであるといえる。名称の誤訳を修正し、非民主的な手続きを修正し、民主的に早急な国会審議が必要とされるべきと認識しているが、政府見解はいかがか。

  右質問する。