質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第五九号

宗教法人解散要件の解釈変更手続きに関する、令和四年十月十九日早朝の「政府部内の検討過程」と文化庁による宗教法人審議会での合意形成に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年三月一日

浜田 聡


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   宗教法人解散要件の解釈変更手続きに関する、令和四年十月十九日早朝の「政府部内の検討過程」と文化庁による宗教法人審議会での合意形成に関する質問主意書

 令和六年一月三十一日提出の私の質問主意書に対し、政府は二月九日、「「宗教法人の解散命令の事由を規定する宗教法人法第八十一条第一項の解釈」について、令和四年十月十八日又は同月十九日に「閣議を開」いて決定した事実はない」と答弁した(内閣参質二一三第九号)。

 さらに閣議を開かなかった場合の宗教法人法第八十一条第一項の解釈に関する会議の詳細について、「政府部内の検討過程における詳細についてお答えすることは差し控えたい」として回答を拒否した。

 一方、政府解釈変更前後の令和四年十月十九日の岸田首相の一日(午前)は、東京新聞によれば以下のようになっている。

【午前】六時三分、公邸で磯﨑仁彦官房副長官。七時十分、官邸。二十分、磯﨑官房副長官。八時四十八分、国会。九時四分、小西洋之立憲民主党参院議員。十分、参院予算委員会。十一時五十八分、官邸。

 岸田首相はこの十月十九日の参院予算委員会において、宗教法人法第八十一条第一項の宗教法人解散要件の解釈変更手続きに関して、「改めて関係省庁が集まり議論し、政府としての考え方を整理した」旨説明した。同月十八日又は十九日に閣議が開かれていない以上、首相が予算委員会で説明した「改めて関係省庁が集まり議論し、政府としての考え方を整理した」のは、十九日早朝の公邸と官邸での二度にわたる磯﨑官房副長官との協議・打合せ以外に考えられないと思われる。このことを裏付けるように、同年十月二十日付の産経新聞は以下のように報じている(括弧内浜田)。

○「首相が「(政府としての)考え方を整理した」のは同日(十月十九日)早朝、(磯﨑)官房副長官や秘書官らとの打ち合わせだった。この場で、民法も要件に該当するという政府内の検討結果が示され、「それでいきましょう」と決めた」

 このように、宗教法人法の解釈変更をめぐっては、予算委員会前の十月十八日又は十九日に閣議が開かれておらず、十九日早朝に磯﨑官房副長官らとの「打ち合わせ」(会議)しかなかったのだとすると、首相の「改めて関係省庁が集まり議論し」たとの予算委員会での答弁は、小西洋之参院議員が「嘘」と証言する通り、事実と異なると言わざるを得ないのではないか。朝日新聞記者の笹山大志氏が令和五年十月十四日にX(旧Twitter)にアップした写真付きのポストの内容によると、内閣官房は、令和五年四月十三日付で「行政文書不開示決定通知」を出し、同四年十月十九日の首相答弁変更の経緯に関する資料は存在しないとして行政文書不開示の決定をしているところであり、ますます上記「嘘」の疑惑は高まっていると言える。

 また、そもそも政府は、令和四年十月十四日の答弁書(内閣参質二一〇第一一号)において、「憲法の定める信教の自由の保障及び宗教法人法の趣旨を踏まえれば、宗教法人については、所轄庁による関与は抑制的であるべきであり、法人格を剥奪するという極めて重い措置である解散命令の請求については、十分慎重に判断すべきである」「政府としては、宗教法人の解散命令の請求に当たって、(中略)裁判所(注:平成七年十二月十九日東京高等裁判所決定)において示された宗教法人法第八十一条第一項第一号及び第二号の解釈を踏まえてその適否を検討することが必要である」旨閣議決定している。

 内閣総理大臣の指揮監督権限については、内閣法第六条で「内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する」と定められている。この閣議決定に拘束されるという原則は、「ロッキード事件丸紅ルート」最高裁判決(平成七年二月二十二日)においても、「内閣総理大臣の行政各部に対する指揮監督権限の行使は、「閣議にかけて決定した方針に基づいて」しなければならないが、その場合に必要とされる閣議決定は、指揮監督権限の行使の対象となる事項につき、逐一、個別的、具体的に決定されていることを要せず、一般的、基本的な大枠が決定されていれば足り、内閣総理大臣は、その大枠の方針を逸脱しない限り、右権限を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、内閣総理大臣の指揮監督権限は、(中略)内閣の意思として閣議決定された方針を逸脱しない限り、いかなる場合に、どのような事項について右権限を行使するかは、内閣総理大臣の自由裁量に委ねられていると解すべきである」(判決文十六頁)と確認されている。

 内閣総理大臣の指揮監督権限が閣議決定に拘束されるというこの原則に鑑みると、令和四年十月十九日の予算委員会で、岸田首相が述べた「組織性等があれば民法の不法行為も「法令に違反」に含まれる」旨の説明は、同月十四日に「内閣の意思として閣議決定された方針(刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するものを「法令に違反」と解釈した裁判所の見解を踏まえる旨)を逸脱」していると言わざるを得ないのではないか。

 そもそも、令和五年六月十三日付の朝日新聞で文科省幹部は、旧統一教会への解散命令請求について次のようにコメントしていた。

○「(請求の可否を判断する時期は)政治判断で決めるものではない。あくまで証拠に基づいて判断するもの」

 ところが、同年十月十三日、文部科学省より世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令請求が東京地方裁判所に提出された際、同日付の産経新聞は「文化庁危機感「内閣飛ぶ」」という見出しで、以下のように報じている。

○「宗教法人審議会の内部では、請求ありきの進め方に異論もあったとされ、文化庁側は「内閣が飛んでしまう」と訴えて合意形成を図った」

○「一夜でひっくり返った法解釈に、宗教界は「信教の自由」への影響を憂慮した。それでも文化庁は審議会で「(教団に何もしなければ)内閣が飛んでしまう」と呼びかけ、請求の前提となる質問権行使の正当性を訴えた。/文化庁側は合意形成に向けて、審議会の委員に地道な説明も続けた。質問権行使には審議会の了承が必要だが、場合によっては、審議会開催前に文化庁の担当者が委員の自宅などを訪問。詳細な資料を使って今後の質問内容などを説明」

 文科省幹部が令和五年六月に「政治判断で決めるものではない」と発言したこととは裏腹に、文化庁が「内閣が飛んでしまう」と宗教法人審議会に呼びかけたのであれば、まさに解散命令請求ありきの「政治判断で決め」ようとした表れではないか。「解散命令の是非は宗教法人法の純粋な法的解釈であるべきなのに、それが政治マターのように扱われていることには、法曹として、強い違和感を禁じ得ません。法治国家であれば、法律に則って解散命令の是非が判断されるべき」(中山達樹「拝啓 岸田文雄首相 家庭連合に、解散請求の要件なし」)であるのは言うまでもない。

 上記、令和四年十月十九日早朝の「政府部内の検討過程」と、文化庁による宗教法人審議会での合意形成についての指摘を踏まえた上で、以下の質問に答えられたい。

一 答弁書(内閣参質二一三第九号)において、「令和四年十月十八日又は同月十九日に「閣議を開」いて」いない旨答弁している。同月十四日に閣議決定をしているにもかかわらず、十九日には同閣議決定された方針を逸脱する答弁を行っている。なぜ閣議決定後の十五日以降、十九日までに閣議を改めて開かなかったのか、その理由を示されたい。

二 答弁書(内閣参質二一三第九号)において、閣議を開かなかった場合の会議について、「政府部内の検討過程における詳細についてお答えすることは差し控えたい」と答弁した。なぜ「差し控えたい」のか、その理由を示されたい。

三 閣議を開かなかった場合の会議について、令和四年十月十九日早朝、公邸と官邸での磯﨑官房副長官らとの会議が、「関係省庁が集まり議論し、政府としての考え方を整理した」会議に該当するということで間違いないか否かを示されたい。

四 令和四年十月十八日又は十九日に閣議が開かれておらず、宗教法人法の解釈変更をめぐっては十九日早朝に磯﨑官房副長官らとの会議しか行われていなかったのだとすれば、首相の「改めて関係省庁が集まり議論し」たとの答弁は、事実に反する(実際には、改めて関係省庁が集まり議論していない)と言わざるを得ないのではないか。このことの当否を示されたい。

五 令和五年十月十三日付の産経新聞が報じたように、文化庁が宗教法人審議会で「「内閣が飛んでしまう」と訴えて合意形成を図った」ことや「審議会開催前に文化庁の担当者が委員の自宅などを訪問。詳細な資料を使って今後の質問内容などを説明」したというのは事実か否かを示されたい。

六 文化庁が審議会で「内閣が飛んでしまう」と訴えていたならば、首相官邸から文化庁に対して解散命令請求ありきの「政治判断」が求められていたと思われるが、これが事実か否かを示されたい。

七 令和四年十月十九日の参院予算委員会において、岸田首相が宗教法人法第八十一条第一項の宗教法人解散要件の解釈を大きく変更させた。この解釈変更は、同月十四日の閣議決定を踏まえず、内閣法第六条(「内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する」)に違反しているか否か、政府の見解を示されたい。

八 内閣総理大臣の指揮監督権限と閣議決定の原則(前掲「ロッキード事件丸紅ルート」最高裁判決参照)に基づいて考えるならば、前記七に記した解釈変更を伴う岸田首相の答弁(令和四年十月十九日)は、同月十四日に「内閣の意思として閣議決定された方針を逸脱」しているか否か、政府の見解を示されたい。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。