質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第七一号

原発避難計画と民間運転手の被ばく基準などに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十一月二十八日

山本 太郎


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   原発避難計画と民間運転手の被ばく基準などに関する質問主意書

一 原子力防災会議連絡会議コアメンバー会議が平成二十五年十月九日にとりまとめた「共通課題についての対応方針」によると、避難行動要支援者を含む住民や入院患者・入所者の避難の際の移動手段について、自治体は民間事業者と協力協定を結び、バスなどの車両と運転手を提供してもらう旨が記載されている。その際、民間事業者の運転手は放射線業務従事者や防災業務関係者とは異なるため、一般公衆の被ばく線量限度である一ミリシーベルトを超えないよう管理するよう規定されている。

 また令和三年十月十九日の「令和三年度第二回道府県原子力防災担当者連絡会議」で配付された「防災業務関係者の放射線防護に関するマニュアル改正案(P119全面改定)」によると、原子力施設の状況により放射性物質の放出に至るリスクが高まった場合、民間事業者は作業を中断して原子力災害対策重点区域外に撤収する旨が記載されている。これはOIL1、OIL2に基づきUPZ内住民が避難・一時移転する際に、一ミリシーベルトを超える被曝の恐れがあることから、実質的にバス事業者の支援が得られないことを意味する。茨城県及び静岡県の令和三年十月十九日「令和三年度第二回道府県原子力防災担当者連絡会議」報告書によると、出席した地方自治体の担当者から既に国の原子力防災会議で了承された緊急時対応内容と矛盾するとの指摘が上がり、これに対して内閣府の担当者は、そのような不測の事態では自衛隊などの実働組織が支援する旨を回答したことが記載されている。

 原子力災害対策指針によれば、OIL1の初期設定値は毎時五百マイクロシーベルト(地上一メートルで計測した場合の空間放射線量率)であり、OIL2は毎時二十マイクロシーベルトとされている。OIL1、OIL2に基づきUPZ内住民が避難・一時移転する際、一ミリシーベルト超の被ばくの恐れなく民間バス事業者の運転手が住民避難を支援することは可能か、見解を示されたい。もし可能であると言うのであれば、その科学的、技術的な根拠も示されたい。

二 令和五年五月十二日「参議院議員山本太郎君提出広域避難計画策定に関する質問に対する答弁書」(内閣参質二一一第六六号)において、政府は、防災基本計画においては、原子力災害対策「指針で示されている原子力災害対策重点区域を管轄に含む地方公共団体については、御指摘の広域避難計画等を策定するものとされている」旨答弁し、地方自治体に広域避難計画等の策定に関する法的義務があると明言せず、原発事故に備えた広域避難計画の策定を自治体に義務付ける法的根拠はない旨を暗に認めている。

 原発事故に備えた広域避難計画については、一般市民を対象とする自治体だけではなく、入院患者や入所者を対象として医療施設や福祉施設についても自治体を通じて策定を求められている。原子力防災会議連絡会議コアメンバー会議が平成二十五年十月九日にとりまとめた「共通課題についての対応方針」によれば、原子力災害対策重点区域内にある病院等の医療機関や社会福祉施設等は、入院患者・入所者の避難に関する計画をあらかじめ作成する旨が規定されている。

 ところで茨城・静岡両県から開示された道府県原子力防災担当者連絡会議の報告書によると、令和五年三月八日の令和四年度第三回会議において、医療・福祉施設に計画の策定を促しても中々進まないため法的に義務付けるよう要望する意見が道府県の担当者から上がったものの、内閣府の担当者が「義務付けによる弊害も考えられる」、「法的に明確に位置付けるのはハードルが高い」として要望を退けるやり取りが記載されている。

 医療・福祉施設に原子力災害に備えた広域避難計画の策定を義務付ける法的根拠はあるのか。あるのであればそれを示されたい。

 この会議報告書で示されたとおり、策定を義務付ける法的根拠がないとすれば、「義務付けによる弊害」とは何かをお答えされたい。

  右質問する。