質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第一六号

松野博一内閣官房長官が見当たらないとする朝鮮人等虐殺事件に関する「政府内」の記録に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十月二十日

石垣 のりこ


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   松野博一内閣官房長官が見当たらないとする朝鮮人等虐殺事件に関する「政府内」の記録に関する質問主意書

 今年は大正十二年の関東大震災の際に発生した朝鮮人等虐殺事件から百年の年に当たる。

 同事件に対する政府の受け止めに関して、松野博一内閣官房長官は去る八月三十日の記者会見において、「政府として調査した限り、政府内において事実関係を把握することの出来る記録が見当たらない」と答えた。

 また、これまでも国会審議や質問主意書において具体的な文書や資料を提示して質問しても「政府内に記録がない」との答弁が繰り返されている。

 その一方で、国立国会図書館は朝鮮人等虐殺事件に関する文献や資料を数多く所有しており、私自身大正十二年九月五日付け「鮮人ニ対スル迫害ニ関シ告諭ノ件 内閣告諭第二号」を確認している。また、公文書に該当するような文書の写し等も含まれる。

 さらに、国立公文書館においても朝鮮人虐殺に関係する閣議決定文書や内閣告諭文等を保有していることを確認している。

 これらを踏まえて、以下、政府の所見を伺う。

一 松野博一内閣官房長官による政府内に記録がないとの発言や過去の答弁における「政府内」とは、立法府である国会及びその国会に属する唯一の国立の図書館である国立国会図書館、そして、司法府である最高裁判所を始めとする裁判所は含まれず、あくまでも行政府である各府省の内部という意味での「政府内」ということなのか、所見を伺いたい。

二 中央防災会議の下に設置された「災害教訓の継承に関する専門調査会」が平成二十一年三月に公表した報告書の中で、「関東大震災時には横浜などで略奪事件が生じたほか、朝鮮人が武装蜂起し、あるいは放火するといった流言を背景に、住民の自警団や軍隊、警察の一部による殺傷事件が生じた。」との記載がある。内閣総理大臣を会長とする中央防災会議は、内閣府に設置されている会議であり、同会議の専門委員会の報告書は「政府内」の文書に該当するのではないかという点につき、政府の所見を伺いたい。

三 独立行政法人とは、各府省の行政活動から政策の実施部門のうち一定の事務・事業を分離し、これを担当する機関に独立の法人格を与えたものであり、国立公文書館はこの独立行政法人という組織形態をとる一機関である。そうした形式論のみを持って、国立公文書館を「政府内」に含まないと解釈しているのか、政府の所見を伺いたい。

四 国立国会図書館や国立公文書館に歴史的な事実を検証するに足る有益な資料がいくつも残っていることを政府は把握しているのか。また、朝鮮人や中国人、日本人を殺害し起訴された事件の判例が裁判所に残っていることは把握しているのか、政府の所見を伺いたい。

五 大正十二年九月六日千葉県東葛飾郡福田村(現・野田市)で、香川県からの行商人の一行が朝鮮人と間違われて殺害された福田村事件のように、朝鮮人と間違えられて殺害された日本人もいることは政府として認めるのか。認める場合は、このような朝鮮人と間違えて日本人が殺害された事件について、政府としての見解を伺いたい。

六 朝鮮人等虐殺事件は政府が流言蜚語を流し、官憲も関わって全国に広がっていったとの報告もある。朝鮮人等虐殺事件の実態を解明するために、これらの報告や地方公共団体等が保有している「政府外」の資料も精査すべきと考える。当時の政府の責任も含め歴史の検証を行うべきであると考えるが政府の所見を伺いたい。

  右質問する。