質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第八号

ライドシェアが地域公共交通等にもたらす影響に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十月二十日

森屋 隆


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   ライドシェアが地域公共交通等にもたらす影響に関する質問主意書

 運行管理や車両整備等について責任を負う主体を置かずに、自家用車のドライバーのみが運送責任を負う形態で、Uber等のプラットフォーム事業者が配車を行う、いわゆる「ライドシェア」は、利用者の安全を損なうことに加え、地域の移動を支えている公共交通事業者と労働者に及ぼす影響が極めて大きい。

 二〇一七年末から二〇一八年十一月にかけ、ニューヨークでは八人のタクシー・ハイヤー運転者が自殺した。増加するライドシェアの影響で生活苦に陥ったことが原因だ。二〇一八年二月五日、ニューヨーク市庁舎前、ショットガンで自らの頭を撃ち自殺したあるタクシードライバーは、亡くなる前に「タクシー運転者になった一九八〇年代は週四十時間働けば充分だった。今は週百時間働かなければ生活できない」とSNSに投稿している(二〇一八年二月、The New York Times)。

 この時期、アメリカの各都市ではタクシーの数倍のライドシェア車両が登録されており、ニューヨークではタクシー一万三千五百台に対し、ライドシェア八万台(二〇一八年)となっている。同様にワシントンではタクシー七千二百台に対し、四万八千六百台(二〇一九年)、シカゴはタクシー六千六百九十九台に対し、六万七千台(二〇一八年)、ロサンゼルスではタクシー二千三百六十四台に対し、十万台(二〇二〇年)のライドシェア車両が登録され、深刻な過当競争がタクシードライバーの生活を圧迫している。アメリカに限らずカナダのトロントではタクシー五千五百台に対し、ライドシェア五万台(二〇一七年)、オーストラリア・ブリズベンではタクシー千八百六十七台に対し、ライドシェア五千六百台(二〇一八年)となっている。

 ライドシェアが需要を奪う対象はタクシーだけではない。カリフォルニア大学デービス校の研究者が全米八都市で無作為に選んだ四千九十四人を調査した結果、ライドシェア配車アプリの利用でバスの利用が六%減少、通勤電車の利用が三%減少していた(二〇一七年十月、STREETSBLOG USA)。

 またケンタッキー大学の研究者による全米二十二都市の調査では、ライドシェアが登場した都市では平均して鉄道の利用が年間一・二九%減、バスの利用が年間一・七%減という結果が明らかとなった。最初にライドシェアが登場したサンフランシスコではこの影響が累積し八年間でバス利用者が十二・七%減少している(二〇一九年一月、STREETSBLOG USA)。

 二〇一九年、米シカゴ市の発表した報告書(TRANSPORTATION NETWORK PROVIDERS AND CONGESTION IN THE CITY OF CHICAGO)では、二〇一五年から二〇一八年にかけてライドシェア配車回数が二百七十一%、実車走行距離が三百四十四%増加し、公共交通の利用が四十八%減少して交通渋滞が悪化し、温室効果ガスの排出量が増加したことが報告されている。同報告書は道路の再舗装費用に一マイル当たり百万ドルの経費が掛かることを指摘し、市の財政に及ぼす悪影響にも言及している。

 都市部にライドシェア車両が集中することは、公共交通の利便性を損なうだけでなく、二酸化炭素排出量を増やし、渋滞の増加等都市交通機能への負の影響をもたらす。

 このようにライドシェアは都市で氾濫し公共交通に悪影響を及ぼす一方で、利用者の少ない過疎地ではまともに機能しないことも判明している。

 ライドシェアサービスのUberとLyftの全米の利用回数の約七十%が、わずか九つの大都市圏で占められており(二〇一八年七月、Schaller Consulting報告書)、アメリカの五十州の内、人口が四十七位のノースダコタ州の調査では「ライドシェアをどこで使うか」という質問に「州外」との答えが七十四%で最多を占めた(Ridesourcing In Rural Communities, North Dakota Driver Survey)。

 また、アメリカでライドシェアサービスを利用している人の割合は都市部で四十五%、都市郊外で四十%に達する一方、農村部では十五%しかなく、さらに毎週利用する人は五%しかいないという調査も存在する。ライドシェアドライバーの掲示板には小さな町でライドシェアをやっても売り上げが少ないことへの不満が書き込まれており、アプリを開いてもドライバーがいないため配車できない地域がある(二〇一九年一月、VOX)。市場の原理にゆだねるだけのライドシェアには、需要の少ない場所で供給を維持する必然性も義務もなく、過疎地では機能していない。

 また車いす利用者や盲導犬を伴う視覚障がい者等の移動困難者にとっても、ライドシェアは弊害が大きい。米国では、盲導犬を伴った利用者に対するライドシェアの乗車拒否が相次ぎ、全米視覚障がい者連合会(NFB)は、二〇一四年にUberを訴えた。Uberは、訴訟の取り下げを求めたが裁判所は認めず、ドライバーに対し「盲導犬の引き受け義務がある」とUberが通知することで和解したが(二〇一六年十二月、WIRED)、訴訟決着の二年後の二〇一八年にも、盲導犬を伴った視覚障がいの女性が、「十四回、Uberのライドシェアに乗車拒否された」として、同社を訴えており、状況が改善していないことがわかる。Uberは、当該訴訟において「企業として個人事業主のドライバーが行った差別的行為の責任は負わない」と主張している(二〇二一年四月、Daily Mail)。

 二〇二一年には、Uberのアプリが、乗車に二分以上時間がかかる乗客から追加の待機料金を取っていたことで、障がい者が不当な差別的取り扱いを受けているとし、米国司法省がUberを訴えた。Uberはこの障がい者に対する不当な料金を二〇一六年から徴収していたが、改善指導に応じず、提訴に至った。最終的に不当な取り扱いの是正と、不当に料金を取られた利用者への賠償を行うこと等で和解が成立した(二〇二一年十一月、NPR)が、車いすの乗客から、ライドシェアの乗車拒否を訴える声は多い。

 またカリフォルニア州ではライドシェア車両に対する商用自動車保険料が自家用車の三十倍、タクシーの十倍と高額になっており、事故のリスクの高さを裏付けている(二〇二三年八月、USA Today)。

 このように、地域公共交通の事業者と労働者に多大な負の影響を与え、地球環境の悪化や都市の渋滞を引き起こし、過疎地での移動手段確保や移動困難者に対するバリアフリー化に寄与しないライドシェアであるが、国内において、タクシー乗務員の不足によるタクシー供給不足の解決策として導入論が高まっている。しかし、タクシー乗務員の減少傾向は、タクシー規制緩和の影響による低賃金化、そして長期的なタクシー輸送人員の減少傾向と連動してきたものであり、特に新型コロナウィルス感染症の影響による営業収入の激減等の特殊な要因で二〇二〇年から二〇二二年に掛け、タクシー乗務員の離職が急速に進んだものである。

 政府は公共交通従事者の不足に対し、乗務員の待遇改善を図り要員不足を解消するための政策を取ってきたところであり、二〇二三年七月時点で、全国の百一運賃ブロック中、九十六ブロックで運賃改定が実施又は手続き中となっている。すでに運賃改定が実施された地域では、タクシーの営業収入と乗務員の賃金改善が着実に進み、採用においても回復の兆しが見られるところである。また二種免許取得費用や採用経費等の補助事業も実施されており、さらなる待遇改善によって要員不足の解消を図ることこそ優先される。

 そもそもタクシー事業は安全に関する厳格な法令を遵守し、そのための経費を投じている。仮にライドシェアのような形態のサービスが国内で導入された場合、安全に対する必要経費を負うタクシーとの間に公正な競争が成り立ちうるのか疑問のあるところである。

 以下質問する。

一 運行管理や車両整備等について責任を負う主体を置かずに、自家用車のドライバーのみが運送責任を負う形態で、プラットフォーム事業者が配車を行う、いわゆる「ライドシェア」について、政府の見解を明らかにされたい。

二 政府はタクシーの運転者不足への対策として、運転者の待遇改善に向けた全国的な運賃改定の実施や、二種免許取得費用の補助等の政策を実施してきたところであるが、令和四年十一月に運賃改定が実施された東京特別区・武三地区、同年十二月に運賃改定が実施された名古屋地区における、運賃改定後のハイヤー・タクシー運転者の増減状況を明らかにされたい。また令和五年春頃より、全国の多数地域で運賃改定が実施されているが、同年四月以降の全国のタクシー運転者の増減状況を明らかにされたい。

三 ライドシェアに限らず、合法的にタクシーを配車するアプリケーションサービスが国内外で広まっているが、政府はこれらの配車を行う事業者に対し管理・監督する権限を有しているのか。乗務記録等のデータに関し、政府はどのような管理を検討しているのか、明らかにされたい。

四 令和五年四月に改正・公布された地域公共交通の活性化及び再生に関する法律においては、利便性・持続可能性・生産性が向上するよう地域公共交通ネットワークを再構築することがうたわれており、同法改正に基づく具体的施策はまさにスタートしたところである。従来の交通機関とは全く異質のライドシェアといった輸送手段を検討する以前に、同改正法に明記された取り組みを前進させることが最優先されるのではないか。政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。