質問主意書

第204回国会(常会)

質問主意書


質問第九一号

経済連携協定による日本の農林水産物への影響に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和三年六月九日

石垣 のりこ


       参議院議長 山東 昭子 殿



   経済連携協定による日本の農林水産物への影響に関する質問主意書

 安倍政権、それに続く菅政権では、TPP11協定、日EU・EPA、日米貿易協定、日英EPA、RCEP等を推進・締結し、二国間・複数国間での経済連携協定の拡大路線が継続されている。それに伴い、輸入農産品の関税の引下げ等が行われている現状がある。

 菅義偉総理大臣は第二百三回国会における所信表明演説で、「世界経済が低迷し、内向き志向も見られる中、率先して自由で公正な経済圏を広げ、多角的自由貿易体制を維持し、強化していきます。日英の経済連携協定を締結し、日系企業のビジネスの継続性を確保します」と述べている。

 また、菅総理は第二百四回国会の施政方針演説でも「RCEPの進展や日英包括的経済連携協定の発効は、自由で公正な経済秩序の構築に貢献しました。TPPについても、本年の議長国として、その着実な実施と拡大に向けた議論を主導してまいります」と述べている。

 各経済連携協定の経済効果分析では、国内消費(民間・政府)や投資、輸出の増加がGDPにプラスに寄与し、輸入の増加がマイナスに寄与することとされ、いずれも最終的にはGDPは増加すると分析されている。

 一方、我が国の農林水産物の輸入額は輸出額のおよそ十倍に上ることから、各経済連携協定により輸出入が促進された場合、農林水産業には輸出増加によるプラス以上に、輸入増加によるマイナスの影響が及ぶことが想定される。

 各経済連携協定に関する政府の農林水産物に係る影響試算では、「特段の影響はない」か「国内対策により国内生産量が維持される一方、関税削減等による価格下落で生産額が減少する」との結論が示されている。しかし、その根拠となる貿易協定によるマイナス及び国内対策によるプラスの影響は明らかにされていない。

 近年合意・発効した経済連携協定はメガFTAとも呼ばれる大規模なものであって国民生活へ及ぼす影響は大きく、国民への情報提供や第三者による検証を可能とする観点から、農林水産物におけるメリットとデメリット、そして対策により想定される効果について明示するべきである。

 これらを踏まえ、以下、政府に質問する。

一 各経済連携協定に関する政府の農林水産物に係る影響試算は、いずれも「国内生産量に影響はない」こととしている。その理由として「関税削減等の影響で価格低下による生産額の減少が生じるものの、国内対策により農家所得が確保されるため、生産が維持される」ことを挙げているが、国内対策を考慮しない場合の生産量及び生産額への影響と、国内対策に見込まれる効果を明示されたい。また、影響がないとする理由に「重要五品目を除外」、「締結済みのEPAと同水準の関税撤廃率」、「長期の関税撤廃期間の確保」等を挙げる場合、なぜそのことにより「影響がない」こととなるのか、説明されたい。

二 令和二年一月一日の日米貿易協定発効後、令和二年度において米国からの牛肉の輸入量が増加した結果、令和三年三月十八日から四月十六日まで三十日間、日米貿易協定に基づくセーフガードが発動された。政府は、米国産牛肉の輸入が増加しセーフガードの発動要件を満たすに至った理由について、日米貿易協定による関税引下げの影響と判断しているのか、判断していないのか。また、そのように判断する理由は何か。

三 各経済連携協定について、協定が合意等された時点における日本の農林水産物への影響試算は公表されているが、貿易環境の変動を踏まえて試算を更新するべきである。特に、近年合意・発効した経済連携協定等はメガFTAとも呼ばれる大規模なものであって国民生活へ及ぼす影響は大きいことから、各経済連携協定による影響の合計を示すべきである。再度試算する考えはないのか伺う。

  右質問する。