質問主意書

第204回国会(常会)

質問主意書


質問第八二号

我が国における難民認定の状況に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和三年六月四日

石橋 通宏


       参議院議長 山東 昭子 殿



   我が国における難民認定の状況に関する質問主意書

一 難民認定の実態について

1 難民認定申請者について

(1) 二〇一九年末及び二〇二〇年末時点で、難民認定申請中の者の数を示されたい。

(2) 二〇一九年末及び二〇二〇年末時点で、審査請求(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律による改正前の出入国管理及び難民認定法第六十一条の二の九第一項の規定による異議申立てを含む。以下同じ。)中の者の数を示されたい。

(3) 二〇二〇年の難民認定制度の「濫用」の件数を示されたい。

(4) 二〇二〇年三月に公表された「令和二年における難民認定申請者数等について」によれば、二〇二〇年の難民認定申請者のうち、五百五十六人が未成年であった。そのうち、難民認定申請時に在留資格を有していなかった件数を示されたい。

(5) 二〇二〇年末時点で難民認定申請中の者のうち、未成年者の数とその年齢の内訳を示されたい。

(6) 二〇二〇年末時点で審査請求中の者のうち、未成年者の数とその年齢の内訳を示されたい。

(7) 二〇二〇年三月に公表された「令和二年における難民認定申請者数等について」によれば、二〇二〇年に仮滞在を許可した者は十五人であった。このうち、未成年者の数とその年齢の内訳を示されたい。また、未成年者のうち、在留資格を有しない難民認定申請者を両親にもち、日本で出生後に難民認定申請を行った者の数を示されたい。

(8) 二〇二一年五月に公表された「本国情勢を踏まえた在留ミャンマー人への緊急避難措置」によれば、二〇二一年三月末時点で、二千九百四十四人のミャンマー出身者が難民認定手続を行っているとのことである。そのうち、審査請求中の者の数、複数回申請者の申請回数別の内訳、退去強制令書が発付されている者の数及び出入国在留管理庁の収容施設に収容されている者の数を示されたい。

2 難民認定者及び人道配慮による在留許可者について

(1) 二〇一九年及び二〇二〇年に難民として認定された者(審査請求手続における認定者を含む。以下同じ。)のうち、複数回申請者及び退去強制令書発付後に難民として認定された者の数を示されたい。

(2) 二〇一九年及び二〇二〇年に難民としては認定されなかったものの、人道的な配慮により在留を認められた者(審査請求手続の結果、在留を認められた者を含む。)のうち、複数回申請者および退去強制令書発付後に在留特別許可された者の数を示されたい。

(3) 二〇一七年から二〇二〇年(全期間の統計がとれていない場合はとれている期間)に難民として認定された者全てについて、難民認定申請から難民の認定を受けるまでに要した期間を示されたい。

(4) 難民認定事務取扱要領は、難民認定申請案件を「難民条約上の難民である可能性が高い案件、又は、本国が内戦状況にあることにより人道上の配慮を要する案件」(A案件)、「難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情を主張している案件」(B案件)、「再申請である場合に、正当な理由なく前回と同様の主張を繰り返している案件」(C案件)及び「上記以外の案件」(D案件)の四類型(以下「四類型」という。)に振り分けている。二〇一九年及び二〇二〇年(全期間の統計がとれていない場合はとれている期間)に難民として認定された者について、四類型別の内訳を明らかにされたい。

(5) 前記一1(3)及び前記一1(4)において、仮に「通常の業務において集計しておらず」、「膨大な時間を要することから、お答えすることは困難」である場合は、通常の業務において集計していない理由及び集計に要する時間の見込みを示されたい。

(6) 法務省は、二〇一五年九月に公表した「難民認定制度の運用の見直しの概要」の5の(1)においていわゆる「新しい形態の迫害」を申し立てる者が難民条約の適用を受ける難民の要件を満たすか否かの判断に関して「難民審査参与員が法務大臣に提言をし、法務大臣がその後の難民審査の判断に用いるようにするための仕組み」を構築するとしている。

 この「仕組み」に関して、参議院議員石橋通宏君提出我が国における難民認定の状況に関する質問に対する答弁書(内閣参質二〇一第一三四号)の「一の2の(5)」で「現在においても引き続き検討中」とされていたが、現在の状況を明らかにされたい。

 また、二〇二〇年に難民として認定された者のうち、いわゆる「新しい形態の迫害」に当たる者は含まれているか。含まれているのであれば、その人数及びどのような迫害を受けていたのかを明らかにされたい。

(7) 二〇一四年十二月に公表された「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」は、「難民該当性に関する判断の規範的要素を、我が国でのこれまでの実務上の先例や裁判例を踏まえ、また、UNHCRが発行する諸文書、国際的な実務先例及び学術研究の成果なども参照しつつ、可能な限り一般化・明確化することを追求するべきである」と提言している。この「一般化・明確化」について、現在の検討状況及び今後の作業予定を示されたい。

 また、「一般化・明確化」の作業は、難民条約の規定の適用を監督する責務をもつUNHCRと共に行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

3 一次審査について

(1) 二〇二〇年に難民不認定処分を受けた者のうち、事情聴取が一度も行われなかった事案はあるか。あれば、その件数及び理由を明らかにされたい。

(2) 二〇二〇年三月に公表された「令和二年における難民認定者数等について」によれば、二〇二〇年の一次審査の平均処理期間は約二五・四月と、二〇一〇年以降最長を記録している。本来、難民認定申請は速やかに処理されるべきだが、処理期間が長期化している理由を示されたい。

4 審査請求について

 二〇二〇年三月に公表された「令和二年における難民認定者数等について」によれば、二〇二〇年に不服申立てに「理由あり」とされた者及び「理由なし」とされた者のうち、四千七百五十九人には口頭意見陳述等期日が実施されていない。また、そのうち、二千七百二十一人が口頭意見陳述の申立てを放棄したとされている。

(1) 口頭意見陳述申立ての有無を確認する際、審査請求人に対しどのような説明を行っているか。

(2) 口頭意見陳述の申立てを放棄した二千七百二十一人以外の者について、口頭意見陳述等期日が実施されなかった理由を示されたい。

(3) 出入国管理及び難民認定法第六十一条の二の九第六項では、行政不服審査法第三十一条第一項における口頭意見陳述件の例外規定として「申述書に記載された事実その他の申立人の主張に係る事実が真実であっても、何らの難民となる事由を包含していないことその他の事情により当該意見を述べる機会を与えることが適当でないと認められる場合」を挙げている。「その他の事情」とは何を指すか。

(4) 不服申立てに「理由あり」とされた者及び「理由なし」とされた者のうち、口頭意見陳述等期日が実施された者の数が一割未満に留まる状況で、不服申立て制度の適正性は担保されているといえるか。政府の見解を示されたい。

5 訴訟について

 難民不認定処分取消請求訴訟及び難民不認定処分無効確認請求訴訟について、二〇二〇年に提起された件数及び終局裁判がなされた件数をそれぞれ明らかにされたい。加えて、難民不認定処分の取消し若しくは無効が確定した後、又は、難民認定処分の義務付け訴訟で国側が敗訴した後、難民認定がなされず、在留資格が付与されなかったケースはあるか。あれば、その理由を併せて示されたい。

二 空港等での庇護申請関係の統計について

 前述した通り、政府は二〇一五年九月から「難民の迅速かつ確実な庇護」を推進するための難民認定制度の運用の見直しを行っているという。空港は難民保護のまさに最前線であり、上陸審査時に難民認定申請を希望した者に適切に対処できているかどうかは、「難民を迅速に庇護」できているか否か示す、重要な指標である。そこで、以下質問する。

1 二〇一九年及び二〇二〇年に一時庇護上陸許可を申請した者の数及び許可状況を国籍別に示されたい。

2 二〇一八年から二〇二〇年の我が国の空港における難民認定申請件数を、申請が行われた空港別に示されたい。仮に二〇一七年までは統計がとられていたのにもかかわらず、二〇一八年以降統計がとられておらず、空港における難民認定申請者の実態が把握されていないとすれば、難民条約第三十三条第一項が定めるノン・ルフールマン原則が遵守されているか否かを検証することすら不可能である。当該統計をとることに対する、政府の見解を示されたい。

3 二〇二〇年三月に公表された「令和二年における難民認定者数等について」によれば、二〇二〇年に仮滞在を許可した者は十五人、仮滞在の許否を判断した人数は四百四十人である。そのうち、空港にて難民認定申請を行った者の数をそれぞれ明らかにされたい。

三 難民認定申請者の収容について

1 二〇二〇年末時点で出入国在留管理庁の収容施設に収容されていた者の数と、そのうち、難民認定申請中、審査請求中及び難民不認定処分の取消しを求める訴訟係属中の者の数をそれぞれ明らかにされたい。

2 二〇二〇年六月に公表された報告書「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」では、「仮放免を不許可とする場合及び仮放免の取消処分をする場合は、その理由をより具体的に告知するものとすることを検討すること」及び「一定期間を超えて収容を継続する場合にはその要否を吟味する仕組みを設けることを検討する」ことを求めている。それぞれに関して、現在の検討状況を示されたい。

四 保護費の支給状況について

1 二〇二〇年度(全期間の統計がとれていない場合はとれている期間。以下四5まで同じ。)について、保護費を申請した者の数、保護費を受給していた者の数をそれぞれ明らかにされたい。

2 二〇二〇年度に保護費を受給していた者の申請から受給決定までの平均待機期間、平均受給期間をそれぞれ示されたい。

3 二〇二〇年に保護費を申請したが受給できなかった者の数、国籍の内訳、申請から結果が出るまでの平均待機期間を明示されたい。

4 二〇二〇年度の難民認定申請者緊急宿泊施設(以下「ESFRA」という。)の利用者数を性別、国籍別に示されたい。また、保護費の申請からESFRAの利用開始までの平均日数、最短日数及び最長日数をそれぞれ示されたい。

5 二〇二〇年度について、①保護費、②生活費、③住居費、④医療費のそれぞれの支給額を示されたい。また、二〇二〇年度のESFRAの予算額及び執行額をそれぞれ示されたい。

五 「送還忌避者の実態」について

 二〇一九年十月に公表された「送還忌避者の実態について」で示した以下の事項について、二〇二〇年末時点での統計を示されたい。仮に回答することができないものがある場合は、二〇一九年十月時点での統計は示されていたのにもかかわらず、二〇二〇年末時点の統計を示すことが困難な理由を示されたい。

1 「送還忌避」被収容者について

(1) 退去強制令書の発付を受け、収容中の者の数

(2) 被収容者のうち送還を忌避する者の数及びその国籍の内訳

(3) 前記五1(2)のうち有罪判決を受けている者の数及び「犯罪の態様」の内訳

(4) 前記五1(2)のうち退去強制処分を複数回受けている者の数

(5) 前記五1(2)のうち仮放免中の逃亡や条件違反により仮放免が取り消された上で再収容されている者の数

(6) 前記五1(2)のうち難民認定申請を行ったことがある者の数及びその国籍の内訳

(7) 前記五1(2)のうち複数回の難民認定申請を行ったことがある者の数及びその国籍の内訳

(8) 前記五1(2)のうち退去強制令書の発付後に初めて難民認定申請した者の数及びその国籍の内訳

2 退去強制令書の発付を受け、仮放免中の者の数

3 二〇二〇年末時点及び現時点で拒食継続中の者の数

4 二〇二一年四月一六日の衆議院本会議にて、法務大臣は、「送還停止効は、難民認定申請中の者の法的地位の安定を図るために設けられた」と答弁している。一方、送還停止効を導入した「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律」(平成一六年六月二日法律第七三号)に関する審議で、法務大臣は「難民認定申請中の者及び難民と認定された者の法的地位の安定化を早期に図るため・・・仮滞在許可制度を創設する(二〇〇四年五月一九日衆議院法務委員会)」と述べており、送還停止効の目的が法的地位の安定にあるとは述べていない。

 むしろ、送還の停止は、国際慣習法であるノン・ルフールマン原則に基づくものであり、難民認定申請者の権利である。先般の、送還停止効の目的は法的地位の安定である旨の答弁は、立法趣旨に反するものではないか。政府の見解を示されたい。

  右質問する。