質問主意書

第204回国会(常会)

質問主意書


質問第一八号

六ヶ所再処理工場に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和三年二月十七日

福島 みずほ


       参議院議長 山東 昭子 殿



   六ヶ所再処理工場に関する質問主意書

 福島原発事故からまもなく十年になろうとしている。当時、総理大臣であった菅直人氏は「いくつかの幸運な偶然という「神のご加護」があって、紙一重で東京を含む五千万人の避難が必要となる最悪の事態は回避されました。」、「日本という国が成り立たなくなるという、本当の意味での恐怖を感じました。」と著書で述べている。
 昨年七月二十九日、原子力規制委員会は日本原燃株式会社六ヶ所再処理工場の事業変更を許可した。しかし、私は、原発を遥かに上回る放射能を有し、その複雑なプロセスにより更に危険性が高い再処理工場の安全について危惧をしている。適合性審査においては「未審査の事項」や「技術的能力に関わる評価」等についての審査が不十分であったと考える。また、今後行われる「使用前事業者検査」やその後の国による「確認」についても、二〇一一年の原発事故前の使用済燃料の再処理の事業に関する規則(以下「再処理規則」という。)第六条の二(性能の技術上の基準)が二〇一二年に削除され、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という。)第四十六条(使用前検査)が二〇一七年に同法第四十六条(使用前事業者検査等)へと変更されるなど段階的に大きく変更されており、国の責任ある公正で厳重な審査が行われるのか不安の声が聞かれている。
 この国で原子力施設において二度と重大事故を発生させないために、徹底した規制の強化を求め、以下質問する。

一 新規制基準適合性審査

1 「重大事故」として、「冷却機能の喪失による蒸発乾固」が挙げられている。二〇二〇年五月十三日第五回原子力規制委員会資料一―二の三十一ページに、蒸発乾固の定義として、「高レベル廃液等の冷却機能が喪失した場合に、高レベル廃液等の沸騰により溶液中の水分が蒸発し、やがて水分が無くなり、最終的には溶質が乾燥・固化に至るまでの一連の現象をいう。」とあるが、あたかも乾固し、事故が収束するかのようである。
 高レベル廃液が蒸発乾固後含有核種の自己崩壊熱により溶融、そして揮発、さらに場合により硝酸塩爆発により環境へ放射性物質が拡散する事態こそ想定されるべき重大事故なはずである。また、蒸発乾固で収束するのならば高レベル廃液のガラス固化は不要になると考えられるが、これらの点について政府の見解を示されたい。

2 一九七七年一月十五日の毎日新聞で「核再処理工場の重大事故」として報じられた旧西ドイツ政府のシミュレーションや一九五七年九月実際に起きた再処理施設の大事故「ウラルの核惨事」では蒸発乾固後の揮発や爆発によるものであった。蒸発乾固で食い止めるのでそれ以降の不都合な事象から目をそむけることは、根拠のない安全信仰による福島原発事故と同じ道をたどり始めたのと同じと考える。高レベル廃液は福島原発以上の大事故を起こす可能性があることをきちんと認識し、蒸発乾固後の対策を講じさせるべきではないか。この点についてどのような対策を講じているのか、あるいはどのような理由で講じていないのかを含めて、政府の見解を示されたい。

3 「重大事故」として、「臨界事故」が挙げられている。高レベル廃液貯槽(百二十立方メートル)や不溶解残渣廃液貯槽(七十立方メートル)には臨界量を超えるプルトニウム239(Pu比重一九・九)が含まれることが、二〇一五年十二月二十一日付けの第八十九回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合資料二(二)の三十八ページ等により判明した。これらの貯槽で冷却が止まった場合、沸騰濃縮、乾固後の溶融時の形状により臨界を超え事故が起きる可能性があるのではないか。具体的に両貯槽について臨界の審査がなされたのか。審査された場合はその会合名と開催日時、会議録を示されたい。審査がなされていないのならば実施すべきではないか。政府の見解を示されたい。

4 二〇二〇年十二月八日、大阪地裁は大飯原発三、四号機の設置許可取消判決を下した。その判断の根拠となった国の審議判断過程の「過誤、欠落」の内容には「平均値としての地震規模をそのまま用いており、ばらつき効果を上乗せする要否の検討がなされていない」ことがあった。六ヶ所再処理工場は重大事故の外部事象として、地震の基準地震動(七百ガル)の一・二倍(八百四十ガル)を考慮し耐震設計することになっているが、これらの数値は「ばらつき効果」が配慮された数値なのか、どのような根拠により設定されたものか、見直しはされないのか、具体的な説明を示されたい。

5 重大事故の外部事象として、火山の降灰量は五十五センチメートルまで想定され、建屋は耐えることになっている。しかし、三ミリメートルの降灰で停電、十センチメートルの降灰で道路は通行不能、上下水道も処理能力や目詰まりが起こり、目、鼻、のど気管支に異常が現れると言われている。富士山では十六日間噴火が続いた例があるという。五十五センチメートルもの降灰環境下で人は生きていけるのか、実証試験が行われたのかを示されたい。

6 前記一の5で述べたような五十五センチメートルの降灰環境下では各種フィルターが目詰まりを起こし電力や水源の確保ができず、人や物資の移動もできず、高レベル廃液や使用済燃料プールの冷却が正常に行われるとはとても考えられない。非常用発電機で備蓄燃料により七日間の連続運転が可能とのことだが、二〇二〇年十一月二十七日の参議院議員会館集会の追加質問に対する原子力規制庁からの川田龍平参議院議員宛の回答書(十二月四日付)では、七日間を超えて外部電源喪失した場合、「施設外からの燃料補給等により連続運転できる」との回答であった。しかし、五十五センチメートルもの降灰環境下、燃料の輸送をどのように行うのか、冷却ができると判断した理由は実証試験に基づくものか、具体的に示されたい。

二 再処理工場規制法事業指定の改正
 福島第一原発事故前の原子炉等規制法第四十六条(使用前検査)には「及び性能について経産大臣の検査を受け、これに合格した後でなければ、再処理施設を使用してはならない。」とあった。また、同条第二項第二号には「その性能の基準が経済産業省令で定める技術上の基準に適合するものであること」とあった。これを受けて、当時の再処理規則第六条の二(性能の技術上の基準)には、第一項から第七項まで基準が定められていた。いずれも、事業申請書及びその添付書類に記載した能力、性能や値等を満足することとされていた。
 ところが、原発事故後、平成二十四年に原子炉等規制法が改正され、再処理規則第六条の二の二(性能の技術上の基準)が削除され、さらに平成二十九年に原子炉等規制法第四十六条(使用前検査)も削除されてしまい、「使用前事業者検査」に変更されている。当時の再処理規則第六条の二(性能の技術上の基準)に定められていた第一項から第七項までの基準が現行のどの規則のどこにどのように具体的に担保されているのか示されたい。もし担保されていないのならば国による公正で厳重な事業指定検査がなされず、「事業者による使用前検査」で済ませることになり、性能の技術上の基準検査の骨抜きであり、容認できない。「使用前検査」を「使用前事業者検査」に変更した趣旨も示し、見解を示されたい。

三 再処理工場の重大事故防止

1 再処理工場の重大事故として、一九五七年九月に旧ソ連で起こった「ウラルの核惨事」が銘記されなければならない。このような人々の生活を根底から覆し、難民にするような大事故を起こした場合、監督官庁である原子力規制委員会はどう責任をとるのか。見解を示されたい。

2 人々は日本原燃株式会社の従業員ともども、この国で未来永劫平和に暮らしていきたいと願っている。そのために国は絶対に再処理工場で大事故を起こさせない確固たる姿勢が求められる。福島原発事故のような人々を難民にする重大事故を絶対に二度と繰り返さない厳重審査を行う決意を示されたい。

  右質問する。