質問主意書

第204回国会(常会)

質問主意書


質問第七号

新型インフルエンザ等対策特別措置法第三十一条の都道府県知事の医療関係者への要請等の解釈に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和三年一月二十二日

小西 洋之


       参議院議長 山東 昭子 殿



   新型インフルエンザ等対策特別措置法第三十一条の都道府県知事の医療関係者への要請等の解釈に関する質問主意書

 二〇一二年十月九日の新型インフルエンザ等対策有識者会議の医療・公衆衛生に関する分科会(第二回)に厚生労働省より提出された資料及び当回の会議録においては、表題「論点(1)要請・指示の範囲について」との資料にある「都道府県知事による通常の協力依頼のみでは医療の確保ができないような場合」の趣旨として「※例えば、地域における医療機関が診療を停止し、近隣の新型インフルエンザ等の患者が医療の提供を受けられなくなったため、医師等の派遣を行う場合など」と説明されている。
 また、これについて当日の会議録においては、厚生労働省により「要請・指示に関しては、どういう場合に必要になってくるのかですが、都道府県知事による通常の協力依頼のみでは医療の確保ができないような場合に要請を行うこととしてはどうか。これは例えば、医療機関が診療を停止して、近隣に患者さんを診るところがなくなった場合に、医師等の派遣を行うような場合などが考えられます。そのような範囲でどうかが論点の一です。」との説明がなされ、これに対して日本医師会を代表する委員より、「日本医師会としては要請・指示については極めて謙抑的に執行をしていただきたい。基本的には医療者の自律行動によってこれを行うという観点から、要請・指示についてはいま事務局ご指摘の範囲で適切ではないかと思っております。」との見解が述べられている。
 これを踏まえ、以下質問する。

一 新型インフルエンザ等対策ガイドライン(新型インフルエンザ等及び鳥インフルエンザ等に関する関係省庁対策会議 平成二十五年六月二十六日(平成三十年六月二十一日一部改定))における「〈Ⅵ医療体制に関するガイドライン〉(8)医療関係者に対する要請等について」の「③b」にある「地域のほとんど全ての医療機関が診療を休止する」の文言の趣旨は「地域における医療機関が診療を停止し、近隣の新型インフルエンザ等の患者が医療の提供を受けられなくなった(ため、医師等の派遣を行う場合)」という場合、すなわち、「医療機関が診療を停止して、近隣に患者さんを診るところがなくなった場合(に、医師等の派遣を行うような場合)」という場合の意味であると理解してよいか。

二 前記一について、当該「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」の当該「地域のほとんど全ての医療機関が診療を休止する」の文言がどのような意味のものと理解しているのか、政府の見解を示されたい。

三 厚生労働省の担当者複数名は、私に対して、本年一月二十日に「地域のほとんど全ての医療機関が診療を休止する」の「地域」の意味が「県域」などの意味ではなく、上記にある「患者からの近隣の地域」の趣旨であると初めて知った、更には、新型インフルエンザ等対策ガイドラインが審議された上記分科会の資料及び会議録を初めて読んだと述べているところであるが、政府はこの間、誤った当該ガイドラインの解釈により都道府県に対し当該第三十一条の要請等が使用できないとの誤った法解釈を伝えていたところ、その過ちに気付きそれを認めてなお、私からの本年一月二十日以降の再三の要請にもかかわらず、何故に即刻に各都道府県に当該第三十一条の正しい解釈(当該ガイドラインの正しい解釈を含む)を伝えないのか。こうした政府の姿勢は、新型コロナウイルスの感染拡大の局面及びいわゆる医療崩壊の局面における人命軽視も甚だしいのではないか。

四 政府は、これまでの間、大阪府、埼玉県等の都道府県より、新型インフルエンザ等対策特別措置法第三十一条に定める都道府県知事の医療関係者への要請及び指示の規定が新型コロナウイルス感染症発生の状況(当該感染症のまんえんを含む)で使用できるか否かの問合せ(当該第三十一条の解釈の照会を含む)を受けたことがあるか。また、問合せを受けた都道府県に対して、どのような説明を行ったのかを示されたい。

五 大阪府の吉村知事は、本年一月十五日付のTwitterにおいて「国とも協議しましたが、結論として特措法三十一条は民間病院にコロナ対応を要請する条文としては使えないです。政令とガイドラインを添付します。かなり限定的な場面を特措法三十一条は想定してます。」と述べている。政府は、大阪府に対してどのような理由により新型インフルエンザ等対策特別措置法第三十一条の都道府県知事の要請が使えないと説明したのか。その説明の内容を示されたい。

六 西村国務大臣は令和二年十二月十六日の衆議院内閣委員会において、「今回の吉村知事が、看護師の皆さん、ぜひお願いしますということでお願いをして、特措法三十一条に、そういう医療関係者に医療を行うよう要請することができる規定があるんですが、これが使えない規定になっています。机上の空論でできている規定で、これがこの局面で使えないようでは、特措法三十一条、全く話にならないと思います。」と述べた質疑者に対して、「今回、大阪に対しても、・・・。三十一条については、知事が医療従事者個人に対して医療提供の要請及び指示を行うことも可能となっておりますけれども、まさに、規定にありますけれども、ほとんど全ての医療機関が診療を休止するなど、当該地域における医療体制の確保が困難となり、当該地域に所在する医療機関において医療体制を構築する際に、そのための医療関係者を確保できない場合などに要請するという規定となっております。このため、現在の状況とは想定されている状況は異なっているものというふうに考えておりますが、なお、同様の規定があるのは武力攻撃事態国民保護法でありまして、その法律におきましても強制力は設けられていないわけであります。」と答弁している。
 この答弁は、新型インフルエンザ等対策特別措置法第三十一条の都道府県知事の医療関係者への要請が、大阪府においてはできないとの旨を答弁したものなのか。

七 前記六の西村国務大臣の「現在の状況とは想定されている状況は異なっているものというふうに考えておりますが、」について、当該「現在の状況」の具体的な意味と「想定されている状況」の具体的な意味について示されたい。

八 菅総理大臣は、本年一月二十一日の衆議院本会議において「特措法三十一条の適用についてお尋ねがありました。この規定により、知事は医療関係者に対する要請や指示が可能ですが、病原性が非常に高い場合など極めて緊急性の高い状況が想定されております。現時点では感染症十六条の二などその他の規定を活用しつつ協力要請を行って頂きたいと考えています。いずれにしても、感染症法等の見直しについては政府与野党連絡協議会における議論も踏まえ速やかに国会に提出して参ります。」と答弁している。当該第三十一条に係るこの答弁と前記六の西村大臣の答弁の解釈は同じものなのか。また、「病原性が非常に高い場合など」とあるが新型コロナウイルスはこの要件に該当するのか。さらに、「極めて緊急性の高い状況」に現下の緊急事態宣言下の状況は該当するのか。それぞれ該当しないのであればその理由を示されたい。

九 前記一~八について、法令の運用解釈を空前の失政により誤り、そのことによって国民国家の重大事態の対処を誤った失政を誤魔化すため、国民の生命を犠牲にして各都道府県知事に当該第三十一条の正しい解釈を伝えないというのは、万死に値する暴挙ではないか。菅政権の見解を示されたい。

十 新型インフルエンザ等対策特別措置法第三十一条の都道府県知事の医療関係者への要請及び指示の規定があるのに、なぜ、政府は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の第十六条の二を改正し都道府県知事の勧告及び公表の権限を設けようとしているのか。両規定における知事の権限やその効果、更には両規定の政策目的も含めて説明されたい。

十一 政府は、現下の緊急事態宣言下において、都道府県知事は新型インフルエンザ等対策特別措置法第三十一条に定める都道府県知事の医療関係者への要請及び指示の権限を行使することが当該条文の解釈上不可能であると考えているのか。当該権限の行使の可否について説明されたい。

  右質問する。