質問主意書

第201回国会(常会)

質問主意書


質問第五〇号

ネット・ゲーム依存症対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年二月十九日

音喜多 駿


       参議院議長 山東 昭子 殿



   ネット・ゲーム依存症対策に関する質問主意書

 近年、ゲームに過度にのめりこむことが日常生活や社会生活に悪影響を及ぼす可能性があるとして、いわゆるゲーム依存症への対策が必要であると指摘されている。令和元年五月には、WHO(世界保健機関)においても、ゲーム障害が精神疾患の一つとして位置づけられたところである。
 他方で、現在、政府を挙げてeスポーツを推進しているところであり、インターネットやオンラインゲームの利用については、過度な規制とならないよう、関係団体の意見等も踏まえて、慎重に検討すべきものと考えられる。政府においては、ネット・ゲーム依存症にいたってしまう背景等も含めた実態把握に努めるとともに、まずは家庭や学校等における対策の充実・支援を行うことが重要であると考える。
 このような中で、現在、香川県議会において、子どものネット・ゲーム依存症対策について、子どものコンピュータゲームの利用時間の制限や、事業者に対してオンラインゲームの課金システム等についての自主規制やフィルタリングソフトウェアの活用等を求める「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)(素案)」(以下「本条例案」という。)の制定が検討されている。本条例案は、その内容が科学的根拠に基づかないのみならず、制定手続の適正の観点からも問題を抱えているものと考えている。
 そこで、以下、ネット・ゲーム依存症に関する政府の取組みとともに、これに関係する本条例案についての政府の見解を問う。

一 現在、ネット・ゲーム依存症対策やオンラインゲームの課金システム、青少年保護の観点からなされるインターネット上のフィルタリングなどについて、どのような法令が国において整備されているか。

二 一般的に、条例はどのような場合に制定できるか。

三 条例の効力については、最高裁昭和二十九年十一月二十四日大法廷判決(刑集八巻一一号一八六六頁)が「法律の範囲内に在るかぎり原則としてその効力は当然属地的に生ずるものと解すべきである」と判示している。地方公共団体の制定する条例の効力は、原則当該地方公共団体の域内に生ずる(属地主義)と考えるが、政府の見解を示されたい。

四 地方公共団体の制定する条例の効力が当該地方公共団体の域外に生ずる場合はあるか、生ずる場合があるとすればどのような場合か、政府の見解を示されたい。

五 地方公共団体の制定する条例において、条例の効力を当該地方公共団体の域外に及ぼそうとする場合、条例の域外適用を定める明文規定は必要か、政府の見解を示されたい。

六 本条例案においては、「インターネットを利用して情報を閲覧(視聴を含む。)に供する事業又はコンピュータゲームのソフトウエアの開発、製造、提供等の事業を行う者は、その事業活動を行うに当たっては、県民のネット・ゲーム依存症の予防等に配慮するとともに、県又は市町が実施する県民のネット・ゲーム依存症対策に協力するものとする。」と規定されている。当該条文により、香川県外に事務所又は事業所を有する者に対して条例の効力を及ぼすこと、すなわち「県又は市町が実施する県民のネット・ゲーム依存症対策」に協力させることは可能か、政府の見解を示されたい。

七 前記三の最高裁判決は、「本件条例は、新潟県の地域内においては、この地域に来れる何人に対してもその効力を及ぼすものといわなければならない。」と判示している。これは、条例を制定した地方公共団体外に在住する者であっても、条例を制定した地方公共団体内で行った行為については条例の効力が及ぶとの趣旨であると解される。
 現在、インターネットを経由して、事業者が遠隔地からサービスを提供することが可能となった。条例を制定した地方公共団体内に事務所又は事業所を有さず、当該地方公共団体外からインターネットを経由して当該地方公共団体内に在住する者にサービスを提供する事業者に対して、当該地方公共団体の条例の効力を及ぼすことは可能か、政府の見解を示されたい。

八 本条例案は、前記一の法令に違反するものであるか。

九 日本は児童の権利に関する条約を批准しており、憲法上、その内容を守ることが求められている。本条例案は同条約第十二条「自由に自己の意見を表明する権利」、第三十一条「休息及び余暇についての児童の権利」を明確に侵害するものであると考えるが、政府の見解を示されたい。

十 一般論として、地方公共団体が子どものゲーム利用時間を制限することは、児童の権利に関する条約第十二条、第三十一条に反しないか。

十一 今後、政府としてネット・ゲーム依存症対策に取り組んでいくにあたっては、まずは家庭や学校等における対策の充実や、それに対する支援が重要であり、インターネットやオンラインゲーム等の利用の規制については、関係団体等の意見も踏まえて慎重に検討する必要があるものと考えるが、政府の見解を示されたい。

十二 ネット・ゲーム依存症対策については、青少年の健全な発達育成推進の観点や、eスポーツ等の振興の観点等も総合的に考慮して、政府として必要な対策に取り組んでいくべき問題であると考える。政府は、地方公共団体の自主性を尊重しつつも、一部の地方公共団体の施策が現在検討されている国の施策と異なる方向性とならないよう、地方公共団体の条例案について注視するとともに、必要な助言を行っていく必要があると考えるが、このような観点から、政府として本条例案をどのように受け止めているか。

十三 本条例案においては、「子どものスマートフォン使用等の制限」として、ネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、一日当たりの利用時間を六十分まで(学校等の休業日にあっては九十分まで)を上限とするほか、義務教育修了前の子どもについては午後九時までに、それ以外の子どもについては午後十時までに使用をやめることを基準とすると規定しているが、かかる時間的な制限について科学的根拠の有無又は有効性について政府の見解を示されたい。

十四 一般論として、前記十三のようなゲームの時間的な制限について、科学的な根拠又は制限の有効性についての知見を政府は有しているか。

十五 地方公共団体においては、行政手続法に基づく意見公募手続(以下「パブリックコメント」という。)を行うことが義務付けられているわけではないが、同法第四十六条においては、地方公共団体においても、同法の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされている。同法第三十九条第三項においては、パブリックコメントの期間は三十日以上でなければならないと定められており、地方公共団体におけるパブリックコメントの期間についても、同規定の趣旨を踏まえれば、三十日以上とすることが適当と考えられるが、政府の見解を示されたい。

十六 本条例案の検討に際して、パブリックコメントが実施されたが、通常は三十日間実施されているところ、当該案件については令和二年一月二十三日から二月六日までの二週間となっている。このような短期間におけるパブリックコメントの実施は、制度の趣旨に照らし望ましくないと考えるが、政府の見解を示されたい。

十七 本条例案に係るパブリックコメントにおいては、「意見を提出できる方」について、香川県内に住所を有する方、(本条例案)第十一条に規定する事業者に限定している。パブリックコメントはできる限り幅広い意見を募るために行われるものであることを踏まえれば、このように意見を提出できる者を限定するのは望ましくないと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。