質問主意書

第199回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二号

刑事事件で実刑が確定されたものの保釈中の者の取り扱いに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和元年八月一日

熊谷 裕人   


       参議院議長 山東 昭子 殿



  刑事事件で実刑が確定されたものの保釈中の者の取り扱いに関する質問主意書


 令和元年六月十九日、窃盗や傷害などの罪で実刑が確定した男を収監しようと、神奈川県愛川町のアパートの一室を横浜地検職員が訪れたところ、男は所持していた刃物で抵抗し、車で逃走した(以下「本件事案」という。)。
 男は、一審の横浜地裁小田原支部で懲役三年八月の実刑判決を受け東京高裁に控訴していたが、東京高裁は控訴を棄却し、同年二月に判決が確定した。男は控訴審中に保釈されていた。横浜地検はこれまで書面で出頭を要請していたが男は応じず、自宅を複数回訪れたものの男と接触できていなかった。
 六月二十三日、逃走していた男は横須賀市内で逮捕されたものの、この間、厚木市内などでは小中学校が休校となり、全ての市民に不安を与え、小中学校の休校やイベントの中止、外出の自粛など市民生活に甚大な影響が出ることとなった。
 六月十九日に男の自宅を訪れた横浜地検職員ら七名はいずれも防刃チョッキを身に着けず、警察官も拳銃を所持せず、装備は警棒だけだったと承知しており、危機管理体制が不十分だったと指摘せざるを得ない。男は過去にも服役しており、その粗暴さは十分に予見できた。横浜地検職員が本年二月に男の自宅を訪問した際にも、暴行を受けそうになっており、収容時に暴れることは十分に予想できたと言わざるを得ない。男の逮捕を受け、横浜地検の中原亮一検事正は記者会見を開き、「地域住民、学校関係者、関係自治体に多大な不安を与え、迷惑をかけ、誠に申し訳なかった」旨の異例の謝罪を行っている。
 保釈制度は、被告が起訴された後、裁判が終わるまでの間に身柄の拘束を解くものだが、近年、裁判所が保釈を認めるケースは増えている。裁判所が保釈を認める保釈率は、十年前が十五・六%だったが、昨年は三十二・五%と倍増している。裁判所の保釈に関する姿勢が変化したのは、十年前の裁判員制度の導入がきっかけであった。裁判所は被告側にも裁判の準備が十分できるように保釈を進めようとし、裁判所が証拠隠滅の恐れなどについて具体的に判断するようになってきたことも影響している。
 他方、保釈された被告がその保釈中に事件を起こすケースは増加している。法務省によると、そうしたケースはここ十年で二倍以上になっている。日本の刑事訴訟法では、保釈するかどうか判断する基準に「再犯の恐れ」が含まれていないためと思われる。本件事案のように一度保釈された被告を実刑確定後に収容する際、当該被告は検察の呼び出しに素直に応じて出頭するという考え方がベースになっている。保釈率が高まると同時に、一定の対策が必要であろう。保釈時に被告にGPS装置を付けることや出頭要請に応じない者への罰則などが新たに整備される必要がある。本件事案が地域社会に多大な不安を与えたことに鑑みれば論を俟たない。
 以上のことを踏まえ、以下質問する。


  • 一 「日本では長期の身柄拘束が当たり前に行われ、人権を過度に制約してきた。だが近年、いくつもの冤罪事件や裁判員制度の導入を機に見直しが進み、保釈が認められる例が増えている。この流れを押し戻すような動きに賛成することはできない」と指摘する論調があるものの、保釈の認められる要件は逃亡や証拠隠滅の恐れが高くない場合に限られる。本件事案で「保釈を許可した裁判所は不明を恥じ、謝罪すべき」との指摘もある。本件事案は非常に不適切な制度運用の結果ではないか。政府の見解如何。
  • 二 男はこれまで書面による出頭要請に応じず、横浜地検職員は男の自宅を複数回訪れたが、接触できていなかった。これらの時点で保釈の取り消し請求をなすべきであり、横浜地検の対応は著しく不適切であったのではないか。政府の見解如何。
  • 三 前記二に関連して、横浜地検職員が男の自宅を複数回訪れたものの、接触できていない時点で男の逃走の可能性は予見できた。この時点で横浜地検は裁判所に保釈の取り消し請求を行ったのか。
  • 四 刑法第九十七条は「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、一年以下の懲役に処する」と逃走罪を規定しているが、本件事案において男は「拘禁され」ておらず、自宅にいたため、刑法第九十七条の罪を構成しないのではないか。政府の見解如何。
  • 五 本件事案の男については、刑法第九十五条でいうところの「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する」ことしかできないのではないか。政府の見解如何。
  • 六 本件事案が地域社会に多大な不安を与え、子どもたちの通学等に深刻な影響を与えたことは論を俟たない。今後、刑法第九十七条を見直すとともに、本件事案のような事例への検察の対処を抜本的に見直すべきであると考える。例えば、保釈時に被告にGPS装置を付けることや出頭要請に応じない者への罰則などを新たに整備すべきであろう。現行制度を見直す考えはあるのか。政府の見解如何。
  右質問する。