質問主意書

第198回国会(常会)

質問主意書


質問第四八号

国際協力銀行が融資を決定したベトナム・バンフォン第一石炭火力発電事業に係る国際ルール違反等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十一年四月二十六日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   国際協力銀行が融資を決定したベトナム・バンフォン第一石炭火力発電事業に係る国際ルール違反等に関する質問主意書

 日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)が支援を決定したベトナム社会主義共和国カインホア省のバンフォン第一石炭火力発電事業(以下「当該発電所事業」という。)は、六百六十メガワットの超臨界圧の発電所を二基建設するというものである。当該発電所事業には、超々臨界圧ではなく超臨界圧という低効率の技術を利用すること、大気汚染の悪化への懸念、パリ協定に基づく気候変動対策との矛盾、経済協力開発機構(OECD)公的輸出信用アレンジメント付属書の石炭火力発電セクター了解(以下「OECDルール」という。)などの国際ルールからの逸脱、違反といった問題があるのではないかと考えるので、以下、質問する。

一 石炭火力発電事業への国際協力にあたり、政府はOECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、原則として世界最新鋭である超々臨界圧以上の技術の発電設備について導入を支援するとしている。またOECDルールでも、五百メガワット超の石炭火力発電所については公的支援の対象を超々臨界圧もしくは温室効果ガスの排出が七百五十g-CO2/kWh未満のものに限ると規定している。しかし、当該発電所事業はこのどちらにも当てはまらないのではないか、政府の見解を明らかにされたい。

二 JBICは、当該発電所事業に係る最初の環境社会影響アセスメント(ESIA)が二〇一一年に完了し、ベトナム当局により承認されていたことから、当該発電所事業には経過措置が適用可能であり、OECDルールの対象外であると、これまでJBICが問合せを受けた国会議員事務所や国際環境NGOに説明していると聞いている。確かにOECDルールには経過措置が設けられており、二〇一七年一月一日よりも前に「技術フィージビリティスタディーおよび環境影響評価が完了」しており、迅速に申請手続きがなされたものに限り、例外を認めている。しかし、当該発電所事業に係るESIAは二〇一五年の改訂後、二〇一七年十一月に再改訂されているのではないか。また、二〇一七年十一月のESIAは二〇一五年のものに比べて倍のページ数がある。二〇一七年のESIAには様々な情報の追加が行われているのではないかと考えられるが、二〇一五年のESIAに追加された情報を明らかにされたい。

三 ESIAが二〇一七年十一月に再改訂されたことが事実であれば、当該発電所事業への融資判断及び実際の建設作業にあたり用いられるのは当然、二〇一七年十一月のESIAであるのではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

四 当該発電所事業への融資判断及び実際の建設作業にあたり用いられるESIAが二〇一七年十一月のESIAである場合、当該発電所事業をOECDルールの経過措置の対象とみなすのは不適切ではないか。JBICが融資の検討を開始し、自身のウェブサイトにESIAを掲載したのが二〇一九年二月四日であることからも、当該発電所事業をOECDルールの経過措置の対象とみなすのは不適切ではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

五 日本の化石燃料関連事業への国際協力、なかでも石炭火力発電事業への公的支援は、海外から厳しい目で見られている。とりわけ当該発電所事業に関しては、国際環境NGOが英国フィナンシャル・タイムズに意見広告を出し、JBICに対し石炭火力発電所事業への融資供与を停止するよう求めていることを、政府として承知しているか。

六 OECDルールや、原則として世界最新鋭である超々臨界圧以上の技術の発電設備について導入を支援するという日本政府の方針と照らし合わせれば、JBICは当該発電所事業への支援を見直すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

七 当該発電所事業の事業地収用に伴う非自発的な住民移転をめぐり、現在、ベトナム国内において、地域住民が訴訟を起こしていることを、政府として承知しているか。

八 「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)では、非自発的な住民移転の回避が可能でない場合には、対象者との合意の上で実効性ある対策が講じられなくてはならない旨が規定されている。つまり、地域住民が合意しない以上、当該発電所事業はガイドラインに明らかに違反していることになる。ガイドラインに照らし、地域住民が起こした訴訟の結果が明らかとなり、地域住民が合意するまで、JBICは当該発電所事業に対する融資を決定するべきではなかったと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

九 国連気候変動枠組条約の前事務局長であるクリスティアナ・フィゲレス氏が今年二月の会見において、日本の海外における超臨界圧の石炭火力発電所事業への投融資が日本の国際的評判に傷をつけるだろうと警告したことを政府として承知しているか。

十 前記九に挙げたような外交上のリスクに鑑みて、日本は海外の石炭火力発電事業への公的投融資を止めるべきであると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。