質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第二一八号

「プロサバンナ事業」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年七月二十日

石橋 通宏   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   「プロサバンナ事業」に関する質問主意書

 二〇〇九年八月に日本・ブラジル・モザンビークの間で調印された「三角協力による熱帯サバンナ農業開発計画」(以下「プロサバンナ事業」という。)については、これまでに国会審議や質問主意書を通して問題を指摘してきたところである。
 本年三月一日には、外務省の希望で本邦NGOとの面談の場が急遽設定され、「事業の今後の進め方」に関する河野太郎外務大臣(以下「大臣」という。)の「指示」(以下「大臣指示」という。)が口頭で伝達されている。その内容は、「外務省・JICA(独立行政法人日本国際協力機構)として反対派を含む参加型意思決定ルールに基づく議論の実現について、必要に応じ、モザンビーク政府の主体的な取り組みを支援し後押ししていくこととした」であり、当該「参加型意思決定ルールに基づく議論」が実現しなければ事業を進めないとの「大臣決定」として伝達されたものと理解している。しかし、実態として、これに反する状況が生じていることが現地モザンビークの市民社会組織や本邦NGOによって指摘されている。また、外務省が大臣指示の位置づけの説明を二転三転させ、文書開示を拒否していることから、大臣指示が本当にあったのか、大臣指示の具体的な内容は何かについて今一度確認することが不可欠だと考える。また、大臣指示の決裁に際して大臣に対して十分な情報が提供されていたのか等の決裁(時期を含む)の妥当性、大臣指示に反する動きに関しても、大臣の見解を確認する必要がある。これらを踏まえ、以下質問する。

一 二〇一七年度までにプロサバンナ事業全体に投じた日本政府(JICAを含む。)の公的資金(財政支出)の総額と年度ごとの額を明らかにされたい。また、マスタープラン策定支援プロジェクト(ProSAVANA-PD)。以下「PD事業」という。)に投じた総額、PD事業において本邦コンサルタントに支払った総額及び年度ごとの額、当初二〇一三年八月に終了するはずだったPD事業に対し二〇一三年九月までに投じた総額と同月以降現在までの総額についても同様に明らかにされたい。さらに、本邦コンサルタントとの契約の延期回数、本年度のプロサバンナ事業全体とPD事業の予算額を具体的な内訳を含めそれぞれ明らかにされたい。

二 二〇一七年二月十七日付で、農民団体・教会団体を含む十市民社会組織が加盟する「プロサバンナにノー! 全国キャンペーン」(以下「キャンペーン」という。)が、JICA理事長宛に公開書簡を送付し、JICAによる契約コンサルタントを使った社会介入への抗議を行うとともに、同年四月にはPD事業の対象地域の住民十一名が同事業に対し、「JICA環境社会配慮ガイドライン」に基づく異議申立を行った。二〇一〇年に同ガイドラインが制定されてから七件の異議申立がなされているが、本調査にまで進んだのは本事案を含む二件だけであり、二〇一四年以来のことであった。本事案における異議申立は、PD事業推進にあたって行われた反対住民等への人権侵害と、このことを訴えた住民に対するJICAの不誠実で人権侵害抑止効果のない対応、そしてJICAによる現地市民社会介入への異議が中心となった。これは大臣が着任する以前のことではあるが、大臣は、前記公開書簡並びに異議申立の事実を把握していたか。大臣の把握状況、そして把握した後にどのような指示を省内外で行ったかを伺う。

三 JICAに対する現地からの強い抗議と異議申立、本邦NGOからの繰り返しの要請を受けて、外務省としてPD事業を中止させたことが明らかにされた(NGO・外務省定期協議会ODA政策協議会(二〇一七年十二月十三日、二〇一八年三月一日))。事業主のJICAは、PD事業推進のため、「プロサバンナ賛成派」の現地NGO(SOLIDARIEDADE)との間で二千万円を超える額のコンサルタント契約を結んでいたが、契約業務の貫徹を待たずして、二〇一八年五月に当該契約を終了させたと理解している。また、JICAは二〇一二年よりPD事業の遂行にあたっていた本邦コンサルタント企業との契約を二〇一八年七月に打ち切った。契約業務内容の完全履行を待たずに両契約を終了させたのは、JICA独自の判断だったのかを問う。この判断に、外務省は何らかの関与をしたのか、したとすればどのような役割を果たしたのか。また、両契約終了の理由は何だったのか、現地NGOと本邦企業とのそれぞれの契約終了について理由を明らかにされたい。

四 プロサバンナ事業の対象となっているモザンビーク北部三州の中でも、ナンプーラ州の役割は特別である。同州は北部行政の中心地であり、JICAも拠点を置き、最大数の事業対象郡が集中する。このナンプーラ州の農務局ペドロ・ズクーラ(Pedro Dzucule)局長は、JICAの資金で三度の来日を果たし、外務省が「プロサバンナ事業で重要な役割を担う」と認める人物である。このズクーラ局長が、二〇一七年十一月一日の異議申立審査報告書(以下「審査報告書」という。)の発表直後の同年十一月六日に、外務省としてPD事業を中止させたとの前記三の情報と異なり、実際にはPD事業が進行中でマスタープランが完成・承認間近である旨発言するとともに、反対する人びとへの誹謗中傷・威圧発言を公の場で行っていたことが、当該発言を録音した音源データとともに発覚している。PD事業に反対する地域住民や市民社会組織へのズクーラ局長による同種の発言は、外務省・JICAに繰り返し直接的・間接的に訴えられてきたが、まったく改善されることがなかったために、住民らは異議申立に至っていた。この訴えを受けた外務省は、前記十二月十三日の協議会において、録音データの提供があれば人権侵害への対応を行うと約束した。そこで、本年一月二十九日に本邦NGOから録音が外務省・JICAに提供された。そして、二月九日及び同月二十二日には、本邦NGO五団体から、この件に関する公開質問状が、外務省国際協力局長を経由してJICA理事長宛に提出されている。これらを受けて録音内容の確認を行った外務省は、前記三月一日の協議会において、ズクーラ局長による当該発言が「人権侵害」に相当すること、今後PD事業を進めるにあたってこのような人権侵害を行わないよう配慮しない限り外務省としてPD事業の推進を承知しない旨が表明された。このようなODA事業を進めるか否かにおいて、人権への配慮と人権侵害への対応を重要な判断材料とする方針は高く評価されるべきと考えるが、大臣の見解は如何か。

五 前記の外務省の表明にもかかわらず、同表明の趣旨が弱められる方向で前記三月一日の協議会の記録が外務省により改ざん(加筆・修正)された。本邦NGOからの要請の結果、当日外務省側が発言しなかった内容の加筆箇所は削除されたが、外務省が勝手に削除した本邦NGOの発言記録を元に戻すことについて、外務省は本年七月十四日時点において、戻すことを確認する一方で、本邦NGOの発言であるにもかかわらず、そこに自らの見解(事前協議での発言内容)を加筆する形で修正を加えた。逐語記録の作成と公開によって、政策協議の公開性を担保し、ODAの透明性を高め、国民の公的援助への理解を得ようとNGOと外務省の双方が合意し取り組んできたODA政策協議会の記録が、このように改ざんされ、前記三月一日の協議会から四カ月以上を経ても決着がついていないことについて、大臣は承知しているか。また、外務省のこのような対応に関する大臣の見解は如何か。今後、大臣としてどのように外務省担当部署・担当者に指導する考えかも示されたい。

六 二〇一八年四月二十三日になると、今度は、JICAと外務省は、前記ズクーラ局長の発言は「二〇一七年六、七月のブラジル人学生のインタビュー」に答えたものであり、JICAがPD事業を停止した後、あるいは、地域住民による異議申立への審査報告書発表後に公の場でなされたものではなく、メディアの質問に答えたものでもないと主張し始めた。そのため、同発言を録音した人物の協力を得て、具体的な日付(二〇一七年十一月六日午前)、同発言が行われたイベントの詳細(再生エネルギー関連)、同発言がなされた具体的な状況(国際メディアの質問)をJICAに提供したところ、JICAからは現地での確認結果として、ズクーラ局長のイベントへの出席の事実だけでなく、イベント開催の事実も含めて確認できないとする回答がなされた。しかし、当該録音をした人物の証言だけでなく、同発言のあった翌七日付の地元新聞(Wamphula Fax)には、大きく再生エネルギーに関する会議の詳細(十一月六日開催)が取り上げられ、複数のマイクの前で話をするズクーラ局長の写真が大きく掲載されている。つまり、同局長らは明らかに嘘をついており、それにあわせる形でJICA・外務省が対応を後退させている。このように度重なる人権侵害発言を行うだけでなく、その事実を歪曲・隠蔽するために嘘を重ねる人物を日本のODA事業の重要なカウンターパートとし続けることは、ODA事業による援助を通じて現地社会に被害を生み続けることになり、開発協力大綱に反するばかりか、世界での日本の評判を貶めることになると考えるが、大臣の見解如何。また、この事実を踏まえ、大臣としてどのように対処するつもりか計画を示されたい。

七 ズクーラ局長の人権侵害発言に関する前記の出来事が生じている最中に行われた大臣指示は、審査報告書を受けてのものとのことであった。しかし、この時点で申立人による審査報告書への「意見書」は未提出であった。前記二〇一七年十二月十三日の協議会では、申立人が「意見書」提出の意思を示したことを受けて「(審査)報告書と意見書を踏まえて、理事長から事業担当部署に対する指示が出される」との説明が外務省によって行われた。しかし、本事案については申立人が「意見書」提出の意思を示し、年末年始・農繁期であるため提出が遅れる旨が二〇一八年二月九日付ファックスで外務省・JICAに伝えられていたにもかかわらず、異議申立プロセスは終了したかの如く、大臣指示とJICA理事長による「指示」(二〇一八年三月二日)が出されている。大臣として、異議申立審査プロセスやズクーラ局長発言による人権侵害への対応が終っていないことを承知の上で、大臣指示を行ったのか。大臣が承知していた場合、このような状況にもかかわらず、大臣決裁を急いだ理由は何か。

八 大臣指示の伝達にあたり外務省の牛尾審議官が読み上げた文書を提供するよう本邦NGOが外務省に要請したところ、同審議官は「持ち帰り検討」と答えたが、その後提供できない旨の連絡を本邦NGOに行った。二〇一八年四月二十三日に同省は、当該文書を「大臣にお諮りした結果を踏まえて、手持ち用として用意したもの」と述べ公開を拒否するとともに、「決裁文書」は存在せず、大臣指示の「メモ」だけが存在すると回答した。そして、本来望ましい手法は、「公文書の決裁を取って伝えるというやり方」であると認めながらも、文書による決裁のための時間がなかった旨主張した。このことは同日の録音に残っている。大臣指示の根拠となる決裁文書が存在しないとの主張を行い、大臣指示を伝達する際に読み上げた文書の公開を拒否する理由は何か。大臣指示を伝達する際に読み上げた文書を公開するべきと考えるが、大臣の見解如何。

九 大臣指示には不明な点が多く、またその内容を根拠づける文書が外務省から示されないため、本年三月八日には、本邦NGOから大臣に直接会って大臣が現在の状況を把握しているか確認し、大臣指示の内容を改めて確認したいとの希望が寄せられたが、実現していない。外務省大臣秘書室から、国際協力局長との面談を大臣が指示したとの連絡が本邦NGOに届けられている。しかし、前記の通り、外務官僚が、「大臣の指示、決裁、判断、決定」という言葉を多用しながら、その根拠となる文書は示さず、また「伝達」内容の位置づけも変えようとし続ける中、ぜひ大臣には本邦NGOとモザンビークから来日予定のキャンペーンからの派遣団に直接面会して意図を説明してほしいと考えるが、大臣の見解如何。本邦NGOとモザンビークのキャンペーンそれぞれとの直接面談について、見解をそれぞれ示されたい。

十 いずれにせよ、大臣指示は、これまでの非民主的で不透明なプロサバンナ事業のあり方を抜本的に変えうるものとして、本邦NGOだけでなく、現地の異議申立人や市民社会組織にも大変歓迎された点は重要である。ところが現地では、二〇一八年四月四日の同事業に関する会議に向けて、同事業に批判的な団体の関係者を一人でも多く出席させるための介入が止むことなく続いた。このため同年三月二十二日には大臣宛にキャンペーンから「書簡」が提出され、大臣指示があるにもかかわらず、同事業の関係者が「再び市民社会に介入し、事業に疑問を抱き、それに反対している人たちを強制的に交渉の場に引きずり出し、プロサバンナ事業のマスタープランを検証・承認しようとするプロセスが進行中」との訴えがなされた。本邦NGOも、同日から事実確認を開始するが、繰り返しの情報照会にもかかわらず、当該会議について外務省国際協力局国別開発協力第三課からは同年三月二十九日まで当該会議の開催の確認はなされず、開催についてもモザンビーク農業食料安全保障省(以下「モザンビーク農業省」という。)から「聞いております」とだけ述べ、日本の関与がないかの如き説明が繰り返された。しかし、実際は、同月十九日の時点で、モザンビーク農業省からJICAへの連絡と資金援助要請は行われており、その事実は同年四月二日まで本邦NGOに対して伏せられた。
 当該会議が日本の資金を得て強行される構えとなったことを受けて、キャンペーンからモザンビーク農業大臣宛に抗議の書簡が送られ、同会議に出席しない旨の声明も公表された。本邦NGOはこの声明を外務省・JICAに送るとともに、同会議の緊急中止を要請した。それにもかかわらず同会議は強行され、実施にあたってはJICAの資金が使われた。せっかくの大臣指示であったが、これに反する手法が取られ、現地においてさらなる反発と混乱を招いていることについて、大臣は承知していたか、また、大臣の見解如何。

十一 前記十の会議にみられる不透明で非民主的で一方的な手法とそれに対するJICAの支援は、これまでプロサバンナ事業に特徴的に見られたものであり、このような手法への批判が高まる都度、同事業を延長したり、現地「賛成派」形成のための画策にJICAの資金が投じられたりすることが繰り返されてきた。同事業(特にPD事業)の期間と予算がここまで膨らんだことは、このような手法に起因していた。せっかく二〇一七年度に同事業を止め、大臣指示を受けて同事業の再開の条件まで明確にしたにもかかわらず、大臣指示に反するこれまでと同様の手法が同事業の推進のために悪用され、再び日本の貴重な税金が無駄にされることとなった。大臣指示で示された方針はそもそも存在せずねつ造されたものだったのか、あるいは存在したが何らかの理由で反故にされたのか、または存在したが外務省内の一部とJICAが暴走しているということなのか、大臣指示の同省内及びJICAへの徹底が遅れているだけなのか、大臣の見解如何。

十二 大臣指示に反する手法が行われていることを外務省・JICA・モザンビーク政府に「騙された」と受け止めたモザンビークの市民社会組織や異議申立人は、本年六月六日に「キャンペーンはプロサバンナ事業に改めて反対の立場を表明する」との声明を発表した。これを受けて本邦NGOも、同月二十二日付で「河野太郎大臣「指示」に反する現状に対する要請」を大臣宛に出している。プロサバンナ事業については、このように明らかな税金の無駄遣いや不適切利用が、モザンビークと日本の市民社会からの指摘にもかかわらず、続けられている。せっかくの大臣指示でさえも、日本とモザンビークの同事業の関係者が履行できないとすれば、同事業を凍結することが、モザンビーク社会の民主主義や健全性のためにも、日本の国民や納税者のためにも最適の結論と考えられるが、大臣の見解如何。

  右質問する。