質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第一八六号

植物油脂の安全性に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年七月十八日

伊藤 孝恵   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   植物油脂の安全性に関する再質問主意書

一 私が提出した「植物油脂の安全性に関する質問主意書」(第百九十六回国会質問第二六号)に対する答弁(内閣参質一九六第二六号。以下「答弁書」という。)の「一について」では、「日本人の平均的な植物油脂の油種別の摂取量については、政府として把握していない。」としているが、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(二〇一五年版)」では、国民の摂取している脂肪酸の量をもとに各種脂肪酸群の摂取基準が示されている。よって、厚生労働省は、油種ごとの国民の摂取量のデータを保有しているのではないか。データを保有していないのであれば、「日本人の食事摂取基準(二〇一五年版)」において、リノール酸摂取量の上限を撤廃することとした根拠を示されたい。

二 食品群別(穀類、魚介類など)の摂取量は、厚生労働省の「国民健康・栄養調査報告」から得られる。食品群別の摂取量と、文部科学省の「日本食品標準成分表」から得られる食品ごとの脂肪酸組成を乗じて合計すれば、国民一人あたりの各脂肪酸の摂取量が推計できる。この手法によりリノール酸摂取量を算定すると、「日本人の食事摂取基準(二〇一五年版)」に示されているリノール酸摂取量より多くなる。「日本人の食事摂取基準(二〇一五年版)」に記載されている日本人のリノール酸摂取量は、過少評価されていないか。

三 国は二〇〇一年にマヨネーズ、ドレッシング類を「油脂類」から「調味料・香辛料」に分類替えしたが、これ以降、マヨネーズ、ドレッシング類に含まれる油脂は、油脂摂取量に含まれているか。

四 脳卒中易発症性高血圧自然発症ラットのモデルで、カノーラ菜種油ほか数種の植物油脂が用量依存的に脳卒中発症を促進しラットの生存率を四割ほど短縮した。ヘルスカナダの協力でその研究結果の再現性が確認され、オリーブ油やコーン油にも同様の寿命短縮作用が認められた。一方、わが国では、厚生労働科学研究費により植物油脂の摂取が健康に与える影響に関する研究が進展した。二〇〇五年に数種の食用油に関する健康危機情報が厚生労働省に正式に通報された。二〇〇九年、それに対する総括(評価)が公表されており(研究代表者・永田純一(独立行政法人国立健康・栄養研究所))、「一般的に通常健常人が適正に品質管理された食用油脂を適量使用すれば健康に影響を及ぼさない、あるいは安全性が問題となる危険性は認められない」と結論付けている。この結論には毒性学の専門家によるものとは思われない誤りがある。毒性物質の安全性評価を行うためには、動物実験で得られた作用を示さない無毒性量に、種差、個体差に伴う不確定係数を乗じること等により耐容一日摂取量(TDI)を求めるのが常法であり、最近では3-MCPDの例がある。この手法に基づくと、カノーラ菜種油や水素添加大豆油のTDIは〇・〇三エネルギー%(摂取エネルギーに占める脂質エネルギーの割合)以下であり、現在日本人は、その百五十倍以上を摂取している。このような状況でも、報告されている数種の植物油脂の脳卒中モデル動物への有害作用は、前記二〇〇九年公表の総括の結論に準拠して大丈夫なのか。また、二〇〇五年に通報された数種の食用油に関する健康危険情報が、その後十年以上にわたって無視されているのはなぜか。

五 トランス脂肪酸の有害作用については、企業が率先して認め、対応してきたように見える。ゼロトランスのパーム油の方が安価であり、トランス脂肪酸を含む油から容易に置き換えることができたからであろう。しかし、トランス脂肪酸を含まないが水素添加大豆油と同様の有害作用を示すカノーラ菜種油の有害作用については、人の健康に与える影響への対策が先送りされた。カノーラ菜種油の食用への展開を放置することは、国民の健康が第一であるべき厚生労働行政としては問題ではないのか。カノーラ菜種油については、工業用への展開を促進し、食用への展開を削減する必要はないのか、政府の見解如何。

六 植物油に部分的に水素添加して得られるマーガリンなどの原材料は、水素添加の過程で副生するトランス脂肪酸および水素添加ビタミンK1(ジヒドロ型ビタミンK1)を含んでいる。工業用トランス脂肪酸はLDLコレステロール値を上げ、脳・心血管病の原因とされており、欧米では食環境から排除する動きが急であるが、政府は、日本人の通常の食生活ではトランス脂肪酸による健康への影響は小さいと考えられることから、新たな規制を行うことは考えていない旨答弁している(内閣参質一九二第四七号)。
 一方、植物油に多く含まれるビタミンK1は体内の多くの組織でビタミンK2に変換されるが、ジヒドロ型ビタミンK1はビタミンK2に変換されないばかりか、体内でビタミンK2依存反応を阻害し、見かけ上、ビタミンK2欠乏症の様相を発症させることが知られている。臨床的には、ビタミンK2摂取量が多い群ほど脳・心血管病、糖尿病、癌(前立腺癌、肺癌)、骨折、慢性腎炎などが少ないことが知られている。
 カノーラ菜種油、水素添加大豆油など数種の植物油脂については、このような研究報告(用量依存性、許容一日摂取量、解明された作用機序)を精査したうえで安全性を確認するべきではないか。政府の見解如何。

七 答弁書の「三について」では、高オレイン酸型大豆の種子については主務大臣の承認を受けているとしているが、日本国内で高オレイン酸型大豆は食用にも使われているのか。

八 「高オレイン酸型大豆油」を動物に長期に与えた場合の安全性についての論文は、PubMed検索ではみつからない。しかし、「高オレイン酸型大豆油」をマウスに長期間与えたときの安全性評価の結果については、米国の学会で報告されたようである。それによると、リノール酸とオレイン酸の含量が大きく変わっているにもかかわらず、予期した効果は認められず、高オレイン酸型大豆油も高リノール酸大豆油もともに、脂肪肝、耐糖能障害を引き起こす作用がみられているようである。
 また、植物油脂の安全性研究の結果(Huang MZ et al. Lipids 1997; 32:745-51)によると、リノール酸の過剰摂取の有害性が広く認められた結果、高リノール酸紅花油に代わって高オレイン酸紅花油が、また高リノール酸ひまわり油に代わって高オレイン酸ひまわり油が作られた。ところが脳卒中促進作用は両高オレイン酸型の油に表れた。オレイン酸の多いバターやラードには脳卒中促進作用が無いことから、脂肪酸の変化に伴って別の有害因子が増え、脳卒中促進作用を示したと理解できる(物質的な解明はまだなされていない)。
 これらの研究結果にてらしても、高オレイン酸型大豆油については、広く食用に展開される前に、脳卒中促進作用などの有害作用の有無を含むさらなる安全性の評価が必須であると考えるが、政府の見解如何。また、高オレイン酸型大豆油について、動物への長期給餌試験による安全性の評価がなされていないのは何故か、政府の見解如何。

  右質問する。