質問主意書

第195回国会(特別会)

質問主意書


質問第三二号

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産登録に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年十二月六日

糸数 慶子   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産登録に関する質問主意書

 日本政府は二〇一七年二月、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産登録に向けた推薦書をユネスコ(国連教育科学文化機関)世界遺産センターに提出した。同年十月には、国際自然保護連合(IUCN)の専門家による現地調査が実施された。報道等によると、IUCNによる現地調査が終わった十月二十日に会見した環境省那覇自然環境事務所の西村学所長は「(専門家から)どんな反応があったかは言えない」としつつも「大きな問題や指摘はなかったと理解している」との認識を示した。しかし、登録候補地の沖縄島北部、いわゆる「やんばる」の自然環境や生態系に詳しい専門家は、世界自然遺産登録に当たっての最大の問題は、登録候補地と隣接する米軍北部訓練場の存在だと指摘し、米軍基地とやんばるの生態系、生物多様性は共存できるのかと疑問を呈している。IUCNの専門家が現地調査のため来日した同月十一日には、登録候補地近くの東村高江の民間地の牧草地で、米軍の大型輸送ヘリコプターが不時着後、炎上した。同訓練場には計六つのヘリコプター着陸帯が建設され、森林等の伐採による自然環境の破壊が著しい。さらに、同訓練場の新たなヘリコプター着陸帯を使用したオスプレイの訓練等も激しさを増しており、その騒音は野生生物の生息環境を著しく損なっている。日本政府によるやんばる国立公園の指定及びやんばる地域等の世界自然遺産登録に向けた取り組みは、同訓練場の存在を度外視して進められている。
 よって、以下、質問する。

一 政府は、前記のIUCNの専門家による現地調査において、米軍北部訓練場の存在について言及したのか。言及したのであればその内容を明らかにされたい。また、当該調査に当たった専門家から同訓練場に関する質問等はあったのか。質問等があったならば、その質疑応答の詳細を明らかにされたい。

二 IUCNの二〇〇〇年のヨルダン、アンマン会議における「沖縄島およびその周辺のジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全」の勧告、二〇〇四年のタイ、バンコク会議における「ジュゴン・ノグチゲラ・ヤンバルクイナの保全」の勧告、二〇〇八年のスペイン、バルセロナ会議における「二〇一〇年生物多様性年、ジュゴン保護の推進」の勧告、二〇一六年のハワイ、ホノルル会議における「島嶼生態系への外来種の侵入経路管理の強化」の勧告のそれぞれに対する日本政府の見解を示されたい。

三 世界自然遺産に登録されるための条件に関する評価基準のうち、「生態系」又は「生物多様性」の評価基準を満たして登録された世界自然遺産で、軍事基地や軍事演習場、訓練場、射爆場等に隣接している例は世界中にあるのか。そのような例があるのであれば、その世界自然遺産と軍事基地等との「共存」関係を日本政府の承知している範囲で示されたい。

四 世界自然遺産登録の第一の条件は「生態系」、「生物多様性」など四つの評価基準のうちいずれかを満たすことである。また、第二の条件は、「完全性の条件(顕著な普遍的価値を示すための要素がそろい、適切な面積を有し、開発等の影響を受けず、自然の本来の姿が維持されていること)」を満たしていることである。第三の条件は、顕著な普遍的価値を長期的に維持できるように、十分な「保護管理」が行われていることである。第二の条件である「完全性の条件」を満たすことについて、沖縄島北部(やんばる)の世界遺産の登録推薦区域と隣接する米軍北部訓練場はなんら問題ないという認識なのか、日本政府の見解を示されたい。

五 日本政府が世界自然遺産の申請等に向けて設置した「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産候補地科学委員会」琉球ワーキンググループでは、「世界自然遺産登録に向けた課題」、「現状」、「将来的に発生する可能性がある問題点」、「これまでの取組」、「取組の成果及び今後の課題」を整理した「沖縄島北部(やんばる)における自然環境の保全上の課題と取組」と題する資料をもとに検討されているが、米軍北部訓練場については一切触れられていない。米軍北部訓練場が世界自然遺産の登録の推薦区域に含まれていないことが理由のようである。しかし、世界自然遺産の登録推薦区域と米軍北部訓練場は隣接しており、当該申請等に向けて米国政府に対し自然環境の保全上の観点から協議等を求めるべきと考えるが、日本政府の見解を示されたい。

六 世界自然遺産には自然環境の保全管理のため緩衝地帯を設けることとされているが、沖縄島北部(やんばる)の世界自然遺産の登録推薦区域と隣接する米軍北部訓練場の間には緩衝地帯が存在しない。緩衝地帯を設けない理由を説明されたい。

七 日本政府は、在日米軍による環境保護及び安全のための取組については在日米軍が極めて厳格な基準である日本環境管理基準(JEGS)を設けているとしている。JEGSの第十三章「自然資源および絶滅危惧種」における自然資源管理計画について、米軍北部訓練場が作成する同計画の内容を明らかにされたい。

八 米軍北部訓練場には、わが国の特別天然記念物であるノグチゲラや環境省が二〇〇六年のレッドリストで「絶滅危惧ⅠA類」にランク付けしたヤンバルクイナが生息している。米国の国家歴史保存法は、米国が海外で活動する場合、相手国で法的保護されている文化財を保護の対象とすると規定しており、ノグチゲラ、ヤンバルクイナは、保護の対象となる生物である。そのことからして米軍北部訓練場を管理下に置く米国政府は、沖縄島北部の世界自然遺産登録に向けた当事者であると考えるが、日本政府の見解を示されたい。

  右質問する。