質問主意書

第193回国会(常会)

質問主意書


質問第一三五号

医療従事者の過労と患者安全の観点から講ずるべき医療安全対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年六月十四日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   医療従事者の過労と患者安全の観点から講ずるべき医療安全対策に関する質問主意書

 第百九十三回国会で成立した「医療法等の一部を改正する法律」においては、特定機能病院のガバナンス強化が論点のひとつであったが、これは、医療安全管理の確保を目的とするガバナンス強化であったと記憶するところである。況や医療機関一般に対して、医療法並びに医療法施行規則に基づき、その特性に応じて医療安全管理体制の構築を予定していると承知しているところであるが、構築を予定している医療安全管理体制には、欧米諸国の昨今の状況とは異なり、患者安全の観点からの医療従事者の疲労管理という概念が抜け落ちていると考えられる。医療機関における安全管理とは、つまるところ患者安全の確保であるのはいうまでもないことであるが、我が国における医療安全管理の本質というのは、システムとしての医療機関における安全管理にとどめ置かれ、医療の最終目的であるはずの「患者」という視点が欠落しているのではないかと危惧するところである。医師など医療従事者の疲労が医療過誤に与える影響については、古くはDavid M GABAらが、二〇〇二年十月十七日のNew England Journal of Medicine誌に投稿しているところであり、世界保健機関(WHO)にあっても、WHO患者安全カリキュラムガイドを二〇一一年に公開し、ヒューマンファクターズに起因する医療過誤について解説し、ヒューマンファクターズを管理する方法のひとつとして疲労管理の重要性を訴えている。つまり医療過誤を防止するには、医療従事者の疲労管理は必要不可欠だということを示しているのであり、医療安全を論ずるのであれば、当然に医療従事者の疲労管理の問題は避けては通れぬと考えるものである。
 航空業界にあっては、航空機を運航する運航乗務員の乗務時間制限や疲労リスク管理システムなど健康状態の管理を航空会社に厳しく求めていると聞くが、これは、運航の安全性確保のための措置であり、ひいては乗客の安全確保につながる措置であると考えられる。他方、医療の現場においては、医療従事者の疲労管理は、個々の医療従事者の責任と片付け、医療機関全体として、医療サービスを提供する主体である医療従事者の疲労状態の把握や過労防止への配慮が実施されていない。医療機関として医療サービスを患者などに具体的に提供する主体は医療従事者である。然して、この医療従事者をヒューマンファクターズの問題から遠ざけるように顧慮することは、医療機関の管理者の責務であり、同時に医療安全管理上の核心ではないかと考えるものである。
 以下、こうした観点から政府の見解を求めるものである。

一 政府が医療機関とその管理者に求めている医療安全管理には、個々の医療従事者の疲労管理や勤務状態管理などは含まれていないとみるがその真否とその根拠について政府の見解如何。

二 政府は、医療従事者の疲労管理、つまり個々の医療従事者が疲労困憊し、専門家として適切な判断ができないかもしれない状態、あるいは、医療過誤を誘発しかねない疲労状態で勤務しないようにすることについては、個々の医療従事者の責任において管理するものと考えているとみるがその真否とその根拠について政府の見解如何。

三 右に示したような疲労管理を単に医療従事者個人にのみ求めるのは、患者の安全から考えるにいささか無責任である。医療サービスを業として提供する医療機関にも組織的な管理を求めるのが妥当と考えるが政府の見解如何。

四 航空業界にあっては、より厳格な勤務制限などが実施されているにもかかわらず、医療業界では進まないのは厚生労働行政の不作為ともとれなくはないが、政府の見解如何。

  右質問する。