質問主意書

第193回国会(常会)

質問主意書


質問第一三三号

「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」及び「経済財政運営と改革の基本方針二〇一七」に示された薬価制度改革に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年六月十三日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」及び「経済財政運営と改革の基本方針二〇一七」に示された薬価制度改革に関する質問主意書

 政府は、高額な医薬品の登場に際して、我が国の医薬品価格決定システムである「薬価制度」が柔軟に対応できないことをして、医療保険財政に与える影響が大きいとし、薬価制度の抜本的な改革に取り組んでいると理解している。
 平成二十八年十二月二十日には、厚生労働大臣、財務大臣、内閣官房長官、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の四大臣が「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」(以下「薬価制度改革基本方針」という。)に合意し、薬価制度の抜本改革に向けた今後の取り組みを具体的に示した。また、平成二十九年六月九日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針二〇一七」(以下「骨太方針二〇一七」という。)においても、薬価制度の抜本改革や後発医薬品の使用促進などが明記され、政府として医療保険財政における薬剤費の影響をできうる限り小さなものとするような措置を検討する姿勢が明確化されたと理解するものである。
 世界各国の医療保険財政事情に鑑みても、高騰する医療技術や医薬品の価格への対応には、各国とも持続可能な医療制度を堅持するために力を入れているところであり、国家が医療保険財政に強く関与することが予定されている国にあっては、単に、医薬品の価格調整のみならず、医師の手技などにかかる診療報酬にも鋭いメスを入れて、医療費の適正化に腐心していると聞くところである。我が国にあっても、増大する医療費を持続可能性という観点から再検討するのは必要なことであると理解するものであるが、同時に、国民の便益性を確保することへの配慮も忘れてはならないと考えるものである。然るに、国民生活に直結する医療保険制度の改革にあたっては、国民に解るように説明をするべきである。しかしながら、薬価制度改革については、国民の窓口負担が大きく変わる可能性があるにも関わらず、その詳細がいまだに明らかにならないところもあり、以下、政府の見解を質すものである。

一 薬価制度改革基本方針において、いわゆる「市場拡大再算定」について、「新薬収載の機会を最大限活用して、年四回薬価を見直す」と明記された。この再算定においては、「年間予想販売額」や「年間予想販売量」が、再算定の是非を決める決定因子と理解するところであるが、政府は、製薬企業の製造する製品ごとの販売額や販売量を個別に把握する術をもっているのかどうか明らかにされたい。

二 中央社会保険医療協議会(中医協)では、右に示した個別医薬品の販売量を把握する術として、ナショナルデータベースの活用を国側が案として示したと聞く。しかしながら、ナショナルデータベースにおいては、全一般病床の約五十五%を占める病院が対象となっている包括医療費支払制度(DPC制度)で使用された医薬品については、完全かつ網羅的に個別医薬品の販売量を把握できていないと聞く。この場合、データの正確性という点でいえば、製薬企業の個別製品の販売量をとらえているとはいえなくなり、再算定の根拠として使用するには、「堅牢性」と「完全性」という点から不十分であると考えるが、政府の見解如何。

三 中医協では、右に示した個別医薬品の販売量の把握について、診療側の委員から民間データ会社のデータの活用について積極的な意見が出たと聞く。しかしながら、公定薬価制度の根幹たる医薬品の価格を決める根拠として、民間データ会社のデータを根拠とすることに問題はないのかについて、政府の見解を示されたい。
 民間データ会社の示すデータについては、とくに当該会社が株式会社であった場合に、利益追求とデータの信頼性、堅牢性の保証のバランスが問題となると考えるが、政府は、民間データ会社のデータに何ら恣意的な要素が入らないという保証をどのように担保するのか明らかにされたい。

四 薬価制度改革基本方針の「2.改革とあわせた今後の取組み」において、薬価算定方式の正確性と透明性を徹底するとし、製薬企業の機密情報に配慮しつつ、薬価算定の根拠の明確化や薬価算定プロセスの透明性向上について検討し、結論を得るとしているが、我が国の薬価制度は、これまでは国際的観点からしても、比較的透明性の高い制度であり、日本市場に医薬品を上市する企業にとっては予測可能な範囲で価格決定がされる安定的な市場という認識が広まっていたと聞くところである。しかしながら、昨今の特例拡大再算定の突然の導入やオプジーボにおける薬価の期中改定など、既定の薬価制度の枠組みから飛び出し、法定主義を超越したかのような薬価の緊急引き下げルールが導入され、ここ数年の可変的で不安定な薬価算定ルールの導入こそが、不正確で不透明な薬価制度の温床となっているとみるところである。事実、欧州製薬団体連合会などから日本の医薬品市場の将来に対して市場縮小などの不安がよせられていると聞く。また同様に、外資系企業を中心にして、日本への投資意欲が失われ、経済的・経営的な理由によるドラッグラグが顕在化する可能性もあるという指摘もあったと聞く。薬価制度改革基本方針にて、あえて「正確性」と「透明性」に言及したということは、薬価制度改革基本方針で提起されている薬価制度改革をもって、抜本的な改革案を示し、これをして安易には変更を予定しない薬価制度とすることを約束するという意味なのか、政府の見解如何。

五 「骨太方針二〇一七」からは、平成二十九年六月二日に政府より素案として発表された「経済財政運営と改革の基本方針二〇一七(仮称)(素案)」には明記されていた「先発医薬品価格のうち、後発医薬品価格を超える部分について、保険財政の持続可能性や適切な給付と負担の観点を踏まえ、原則自己負担とすることや後発医薬品価格まで価格を引き下げることを含め検討し、本年末までに結論を得る。」という文章が削除されており、平成二十八年に策定された「経済・財政再生計画改革工程表二〇一六改定版」に示された「先発医薬品価格のうち後発医薬品に係る保険給付額を超える部分の負担の在り方」についての関連記述がなくなったものと推察するところである。これは、政府として検討した結果、先述したような先発医薬品価格のうち、後発医薬品価格を超える部分についての差額負担制度の創設及び先発医薬品価格の価格引き下げに関する検討は終わったものと考えてよいのか、政府の見解如何。また、具体的には、平成三十年度の診療報酬改定において、当該差額負担制度の創設及び当該価格引き下げは、議論の俎上に載らないという理解でよいのか明示されたい。

  右質問する。