質問主意書

第193回国会(常会)

質問主意書


質問第一三二号

医師の長時間労働規制の在り方に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年六月十三日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   医師の長時間労働規制の在り方に関する質問主意書

 新潟市民病院に勤めていた女性研修医が平成二十八年一月に自殺したのは、長時間の時間外労働による過労が原因だったとして、平成二十九年五月、新潟労働基準監督署は労災を認定した。疲労が蓄積している医師による医療行為は、患者の利益にならないという観点から、以下質問する。

一 政府は、働き方改革実行計画において、医師への時間外労働規制の適用は改正労働基準法の施行期日の五年後を目途とし、二年後を目途に規制の具体的な在り方等を決定するとしている。また、厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書」(以下「検討会報告書」という。)では、短時間労働や時差勤務の導入といった勤務体系の見直しや、偏在是正を目的とした外来医療の提供体制の最適化、医師の業務を他職種に移管する「タスク・シフティング」の推進など、医療従事者の働き方について多岐にわたる提言がなされた。今後、厚生労働省は医療機関についても時間外労働の監督を強化するとしているが、医療機関で働く者のうち、医師のみ時間外労働規制の適用が猶予されてしまうと、時間外労働規制が適用される他の医療職への監督強化により、タスク・シフティングに支障が出るのではないか。

二 医療法第三十条の十九において、「病院又は診療所の管理者は、当該病院又は診療所に勤務する医療従事者の勤務環境の改善その他の医療従事者の確保に資する措置を講ずるよう努めなければならない」とされているが、努力義務では不十分であり、義務とすべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 厚生労働省は、医療従事者の勤務環境改善に取り組む医療機関を支援するため、各都道府県に医療勤務環境改善支援センターを設置し、同センターにおいて医療労務管理アドバイザー等が専門的・総合的な支援を行うこととしているが、実際のところは、医療機関の使用者や管理者への影響が強いとされる各都道府県の医師会に同センターの業務を委託している例が多いと聞く。そのような状況で、果たして、医療従事者の勤務環境の改善を目的とする同センターの実効性を担保できるのか。

四 救急医療で働く医療従事者(以下「救急医療従事者」という。)の負担軽減策について、検討会報告書では詳細な言及がなかった。新潟労働基準監督署が前記の労災認定の後に行った是正勧告を受けて、新潟市民病院では、新規外来患者を抑制するとの方針を打ち出したと聞くが、救急医療従事者の負担軽減策として、医療を供給する側が診療機能を自ら制限するような方策をとるようになれば、医療アクセスが制限されることになり、ひいては国民の利益にならない。政府は、救急医療従事者の負担を軽減するため、いわゆるコンビニ受診の抑制以外に、何か別の具体的かつ効果的な方策があるのか。また、具体的にどのようなプロセスで救急医療従事者の負担軽減を進めていくつもりなのか。

五 厚生労働省は、「いきいき働く医療機関サポートWeb(いきサポ)」で、複数主治医制度など、医療機関の勤務環境の改善に役立つ各種情報や医療機関の取組事例を紹介しているとのことだが、厚生労働省として、いきサポが医療機関等から十分に活用されていると認識しているか。

六 労働安全衛生法に基づく産業医制度に関し、病院長が産業医を兼務している問題については、一昨年の参議院厚生労働委員会における指摘を受けて労働安全衛生規則が改正され、病院長が産業医を兼務しないよう措置されているとのことだが、病院長と産業医の兼務状況について、実態を把握するための調査は行っているか。また、新潟市民病院では、平成二十八年一月時点において病院長が産業医を兼務していたかどうかを明らかにするとともに、当該産業医は産業医として期待される役割を果たしていたと評価できるか、政府の見解を示されたい。

七 勤務医を含めた医療従事者の当直は、他業種における当直と同様に取り扱われ、労働基準法第四十一条第三号における断続的労働だとされている。しかし、たとえば、勤務医、勤務薬剤師などの当直は、断続的労働とはいえないものが多く、実際には、通常の労働と変わらないほどの業務量をこなさなければならないというが、そのような状況にあるにもかかわらず、各診療科や薬剤科などの労働三法への無知もあって、「当直制」のままであることが多い。医療現場の実状に照らすと、「当直制」を導入できるのは極めて限定された状況であることを医療現場に周知し、医療現場の実状にあった就業環境へと改善すべきと考えるが、政府として具体的な改善計画などをもっているのか。

八 平成二十九年五月十日、厚生労働省は、週八十時間以上の長時間労働など労働関係法令に違反した疑いで送検された企業などの一覧を公表したが、複数の事業所を有する企業のみが当該公表の対象となっており、多くの医療機関や医療提供施設などは当該公表の対象外となってしまう。医師など医療従事者の長時間労働の深刻な実態を踏まえれば、医療機関や医療提供施設については、事業所を一つしか有していない場合でも当該公表の対象とすべきではないか。

九 労働基準局監督課は、平成二十八年十一月に実施した「過重労働解消キャンペーン」における重点監督の実施結果を平成二十九年三月に公表しているが、同実施結果の統計上「保健衛生業」との分類があるのみであることから、「保健衛生業」のうち、さらに医療機関に特化した統計もまとめるべきではないか。

十 青少年の雇用の促進等に関する法律に基づき、平成二十八年三月から、企業が新卒者等であることを条件とした募集・求人申込みを行う場合に、前事業年度の月平均所定外労働時間を含む職場情報を提供する制度(以下「職場情報提供制度」という。)が開始されているが、医療機関における職場情報提供制度の実施状況はどうなっているか。時間外労働が多く、過酷な労働環境にあるといわれる「研修医」になることを希望している者にも当該職場情報は提供されていると理解してよいか。

十一 企業における前事業年度の月平均所定外労働時間の情報は、新卒者等であることを条件とした募集・求人申込みを行う企業だけでなく、募集・求人申込みを行う全ての企業に対して公表義務を課すべきではないか。また、前事業年度の月平均所定外労働時間の職種ごとの状況について公表することも検討すべきではないか。

  右質問する。