質問主意書

第193回国会(常会)

質問主意書


質問第一二一号

ワーク・ライフ・バランス実現に向けた施策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年六月七日

石上 俊雄   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   ワーク・ライフ・バランス実現に向けた施策に関する質問主意書

 昨年提出した、「ワーク・ライフ・バランス実現に向けた施策に関する質問主意書」(第百九十一回国会質問第一八号)に対する答弁書(内閣参質一九一第一八号。以下「前回答弁書」という。)が閣議決定されてから、約一年が経過している。この間のワーク・ライフ・バランス実現に向けた施策に関する取組みを踏まえ、以下のとおり質問する。

一 時間外労働時間の上限規制について

 働き方改革において、労働者の健康確保の観点から、「臨時的な特別の事情」がある場合であっても、時間外労働時間の上限規制を設けるとしたことは重要である。その重要性に鑑み、当該上限規制については、健康確保のための基準と位置付け、①上限規制については、全ての労働者を対象とし、適用除外を認めない。また、年間上限(七百二十時間以内)には、休日労働を含むものとする、②「「特別条項」を適用する場合でも、上限時間水準までの協定を安易に締結するのではなく、月四十五時間、年三百六十時間の原則的上限に近づける努力が重要である」、との考え方の下で合意に至った「時間外労働の上限規制等に関する労使合意」の趣旨を労使に周知徹底し、かつ、労働基準法の改正により新たに定められる指針は、当該趣旨の実現に向けた内容とするべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

二 労働時間の確実な実態把握について

 長時間労働を是正するためには、前記時間外労働時間の上限規制とあわせて労働時間の実態を確実に把握することが重要であることから、二〇一七年一月二十日に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に基づいた対応を周知徹底するべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

三 取引慣行の見直しについて

 長時間労働の要因は様々であり、官公庁を含む取引当事者間での受発注プロセスや納期設定が、結果として長時間労働の要因となっている場合もある。その一例として、診療報酬改定に伴う病院システムの更新作業がある。公的な健康保険によって医療機関で治療・療養を受けた場合に医療機関に支払われる対価である診療報酬は、中央社会保険医療協議会が厚生労働大臣の諮問に応じ、具体的な診療報酬の改定案を答申(二月中旬)し、同答申を踏まえた詳細な診療報酬の改定事項は、厚生労働省の告示等で提示(三月上旬)される。そのため、医療現場では、三月以降、医事会計システム等病院内のシステムを変更しなければならず、システムエンジニアが数カ月に渡る過重な労働によってこの変更に対応している実態がある。二〇一八年度の診療報酬改定は、診療報酬と介護報酬との同時改定であることから、さらに過重な労働となることが予想される。したがって、労働者の健康とワーク・ライフ・バランス確保の観点から、①診療報酬改定に係る厚生労働省告示を行う時期の前倒し、②診療報酬改定に係る疑義解釈資料の送付時期の前倒し、③新診療報酬の適用時期の繰り延べを含む診療報酬改定プロセス全体の見直しについて、喫緊の課題として検討するべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

四 高度プロフェッショナル制度について

 政府が提出した労働基準法等の一部を改正する法律案(第百八十九回国会閣法第六九号。以下「労働基準法改正案」という。)により創設することとしている高度プロフェッショナル制度の対象業務については、すでに裁量労働制等の対象となっており、高度プロフェッショナル制度は特段必要ないと考える。また、一般労働者については、時間外労働時間の上限規制等、長時間労働の是正が強化される一方で、高度プロフェッショナル制度については、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の労働基準法の規定を適用除外とするものとされている。しかし、労働者の健康確保の観点からは、一般労働者と高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者を区別するべきではなく、たとえば、年七百二十時間以内、一カ月百時間を基準値とする等の時間外労働時間の上限規制については、全ての労働者を対象とするべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

五 裁量労働制について

1 労働基準法改正案では、企画業務型裁量労働制の対象業務として「課題解決型提案営業(ソリューション営業)」を追加することとしているが、現在の営業職の業務内容の実態に鑑みると、営業職一般にまで企画業務型裁量労働制を拡大して運用される可能性があり、そのようなことは認めるべきではないと考えるが、政府の見解及び取組みについて明らかにされたい。
2 裁量労働制については、現行制度においても過重労働等の懸念があるため、労働者の健康確保や創造性発揮の観点から、柔軟な働き方が過重労働につながらないための措置が必要である。たとえば、裁量労働制において導入されている「健康・福祉確保措置」について、各職場における措置が実効的な内容となるよう再検討・見直しが必要と考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

六 勤務間インターバルについて

 働き方改革実行計画を踏まえ、今後法制化される予定の「勤務間インターバル」については、労働者の健康確保の観点から、適用除外(職種・業務)を原則として設けることなく、全ての労働者に対して導入するべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

七 病児・病後児保育の充実について

 子育てをしながら安心して働ける環境づくりのためには、「病気」または「病気の回復期」等により普段通っている保育施設に子どもを預けられない場合に、一時的に子どもを預けられる病児・病後児保育施設の充実は不可欠である。現状、病児・病後児保育施設が不足しており、就労継続の観点から社会的なニーズは極めて高い。
1 二〇一六年度から市町村が行う病児保育事業の施設整備に対する財政支援を行うことができるよう予算措置がなされたが、その執行状況の概要を明らかにされたい。
2 小児科が少ない地域においては、医療機関併設型保育施設の整備が困難なため、保育所等における安静室、看護師、担当保育士を確保した病児・病後児保育体制を早急に整備することが必要と考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

八 障害児の保護者の仕事と家庭の両立支援について

 障害児の通学等に関する移動支援の実施は、市町村の判断に委ねられ、個別給付(義務的経費)化されていない。障害児の移動支援を実施している市町村は六割弱に留まり、かつ、ほとんどの市町村では一時的な利用のみ認め、通年の利用を認めていない。障害児の通学等に関する移動支援について、個別給付化に向けた検討を進めることが必要と考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。また、前回答弁書において「障害児の通学等に関する訓練を児童福祉法第六条の二の二第一項に規定する障害児通所支援において実施することも含め検討する」とあったが、その後の政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

九 柔軟な働き方について

1 柔軟な働き方が労働者の健康被害等につながらないよう、雇用型テレワーク(在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス等)の在り方について、①安全衛生管理、②適正な労働時間管理、③セキュリティ保護の観点を徹底し、また、働き方改革実行計画の工程表で二〇一七年度中に刷新するとされた労務管理に関するガイドラインにおいては、在宅勤務、サテライトオフィス等の形態ごとの働き方と就業環境に応じた留意点(労働時間管理及び就業環境整備のためのポイント)を明確にし、周知徹底を図るべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。
2 非雇用型テレワーク(クラウドワーク等)については、現状において取引や働き方について問題が少なくないことから、非雇用型テレワークに係る取引や働き方の適正化に向けた諸措置を講ずるとともに、家内労働法の適用拡大あるいは新法の制定について検討するべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

  右質問する。