質問主意書

第193回国会(常会)

質問主意書


質問第八一号

六ヶ所再処理工場におけるシビアアクシデント防止等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年四月十七日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   六ヶ所再処理工場におけるシビアアクシデント防止等に関する質問主意書

 一九五七年の旧ソ連のマヤーク核兵器用再処理施設での事故は、福島原発事故と異なり、放射性物質のほとんど全てが放出され、再処理工場の事故の深刻さを示している。
 日本原燃株式会社六ヶ所再処理工場(以下「六ヶ所再処理工場」という。)には、福島原発事故により大気に放出されたセシウム137の約三十五倍の量の高レベル放射性廃液(以下「高レベル廃液」という。)が貯蔵されており、また、燃料貯蔵プールの使用済み燃料には同約六百倍ものセシウム137が含まれており、電源喪失やパイプ破断等のシビアアクシデント(二〇一七年一月三十一日の日本原子力学会再処理・リサイクル部会核燃料サイクル施設シビアアクシデント研究ワーキンググループフェーズⅡ報告書「再処理施設において想定される事故の影響評価手法の現状と課題」(以下「日本原子力学会報告書」という。)が定義する「設計基準事故の想定を超える条件で発生し、その判断基準を超えて大きい影響をもたらす事故」をいう。以下同じ。)があると、福島原発事故とは比較にならない大量の放射性物質が大気へ放出される危険性がある。
 六ヶ所再処理工場では、二〇一五年八月二日、敷地内が三つの落雷に襲われ、同工場の主要建屋において多数の計測機器が故障した事故があった。他方、二〇一六年十二月には、日本原燃株式会社(以下「原燃」という。)の副社長が原子力規制委員会(以下「規制委員会」という。)へ濃縮ウラン施設に関わる虚偽の報告を行ったことが国の保安検査で発覚したと報道されている。これらを踏まえ、私は二〇一七年一月、市民団体と関係省庁担当者との意見交換会を行った。その際の省庁側の回答を踏まえ、六ヶ所再処理工場におけるシビアアクシデント防止の対応について以下、質問する。

一 二〇一六年十一月末現在、六ヶ所再処理工場内の三千トンの燃料貯蔵プールは使用済み核燃料二千九百六十八トン(貯蔵率九十八・九%)で埋まっている。一方、返還ガラス固化体貯蔵建屋において、腐食検査のため固化体を移送させつつ作業を行っている。シビアアクシデント等の発生防止のため燃料貯蔵プールから使用済み核燃料の移送が必要になったときの対応に関する市民団体からの質問に対し、二〇一六年七月、原燃は「移送プールや受入プールでまだ保管余裕がある」と具体的な収納可能体数は示さず回答している。福島第一原発四号機では、事故後、約千五百体の核燃料を別プールに移送させることができた。非常時における燃料貯蔵プールからの使用済み核燃料の移送について、厳密にどこのプールに何体収納できるのかを確認しているのか。確認しているのならば、どこのプールにどれだけ収納可能か示されたい。

二 現在六ヶ所再処理工場内に保管されている放射性物質は、プールに貯蔵されている使用済み燃料約三千トン、高レベル廃液約二百三十立方メートル、製造ガラス固化体三百四十六本、抽出ウラン、抽出プルトニウム、放射性廃棄物等がある。他にイギリス及びフランスからの返還ガラス固化体千八百三十本が保管されている。このうち、使用済み燃料、高レベル廃液に含まれるセシウム137とストロンチウム90の放射能総量は各々幾らか、それは福島原発事故により大気に放出された放射能の量の何倍に相当するのか示されたい。

三 二〇一六年十一月二十五日の規制委員会の原子力災害事前対策等に関する検討チーム会合において、規制委員会は、六ヶ所再処理工場の原子力災害対策重点区域の範囲の目安について、PAZ(予防的防護措置準備区域)は「なし」、UPZ(緊急時防護措置準備区域)は従来通り「5km」とする原燃案を了承したと報道されている。報道では「再処理施設内にある放射性物質の量が原発より少なく、事故を起こしても周囲への影響が少ないとみられることから、従来通りでよいと判断した」とあった(二〇一六年十一月二十五日河北新報・毎日新聞、十二月二十八日福島民友、二〇一七年一月三十日毎日新聞)。しかし市民団体の計算では、六ヶ所再処理工場が貯蔵する高レベル廃液の中には福島第一原発事故炉三基から大気へ放出された量の約三十五倍のセシウム137が、使用済み燃料の中には同約六百倍のセシウム137が含まれているとのことだが、「再処理施設内にある放射性物質の量が原発より少な」いとする根拠を示されたい。この報道が誤報ならば、抗議したのか、抗議しなかったならばなぜ抗議しなかったのか。

四 一九七六年八月、ドイツ政府は再処理工場の重大事故で国民の半数である三千万人が死亡するというシミュレーション結果を得ている。一九五七年にマヤーク核兵器用再処理施設で高レベル廃液貯蔵タンクが大爆発を起こした事故では、内容物の約九割が同施設とその周辺へと放出され、約一割に当たる二百万キュリーが三百キロメートル先までの大地を汚染した。その汚染分布地図にはストロンチウム90の汚染濃度が示され、同施設から三百キロメートル先の土壌汚染濃度は三千七百ベクレル毎平方メートルと示されている。二〇〇九年、ノルウェー政府はイギリスのセラフィールド再処理工場事故のシミュレーションを行っている。高木仁三郎氏は東海村再処理施設及び六ヶ所再処理工場における大事故のシミュレーションを行い公表している。いずれも数百キロメートルに及ぶ高濃度汚染が示されている。このように再処理工場の事故による放射能汚染等のシミュレーションの例があるにも拘わらず、そのようなシミュレーションを参照せずに原燃が設定したUPZを半径五キロメートルとすることを規制委員会が認める根拠は何か。
 再処理工場の事故による放射能汚染等のシミュレーションを参照しない姿勢は現実に起きた福島原発事故やマヤーク核兵器用再処理施設での事故の教訓を全く無視するとともに、再処理工場の事故を過小評価し原発よりも狭い範囲の現実離れをしたUPZの設定で済ませようとするものであり、このような「再処理安全神話」を作ることは、その緊張感の緩みによりいつの日かまた大事故を発生させることになるのではないか。国や原燃は再処理工場におけるシビアアクシデントのシミュレーションを行っているのであれば、その結果を示されたい。また、再処理工場のUPZを原発のUPZの六分の一である半径五キロメートルとした理由を示されたい。

五 私が提出した質問主意書(第百八十九回国会質問第五四号)で再処理工場における最悪事態を未然に防ぐ最後の手段(深層防護)として欧州等の原発で構築されているコアキャッチャーを例に「様々な手段を講じても高レベル放射性廃液の沸騰や爆発を止める見込みがなくなった場合、被害を最小限にするための最後の手段としての方策はあるのか」と質問したところ、工場内各施設で冷却施設の故障による爆発や電源施設の火災などが同時多発した場合の対応については「重大事故が単独で、同時に又は連鎖して発生することを想定して評価することを求めている」との答弁であった。
 政府のこの答弁はあくまでも「設計上定める条件より厳しい条件の下において発生する事故」への対応についての答弁であり、深層防護の有無を問うた私の質問に答えていない。「設計基準事故の想定を超える条件で発生し、その判断基準を超えて大きい影響をもたらす事故」であるシビアアクシデントを防ぐ深層防護について、核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査(以下「新規制基準審査」という。)において検討し指導したのか、示されたい。

六 大地震や落雷等が発生すると、電源喪失や重要施設のパイプ破断による液漏れ・溢水等が工場内各施設で同時に多発し、シビアアクシデントに進展する懸念がある。漏洩液等による火災、臨界、水素爆発、蒸発乾固等、高放射線下でこれらが同時多発する事故に人的・技術的に対応できるのか。高レベル廃液が蒸発し始め、百五十メートルの主排気筒等への送風機が止まる、通路が寸断される等、手の施しようがなくなった場合でもなお深層防護が考えられているのか、示されたい。

七 原燃が二〇一六年六月十五日の「核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合」(以下「審査会合」という。)に提出した資料5(1)によれば、一旦電源喪失や冷却系・掃気系のパイプが破断する事態になれば、約七時間で機器内の水素濃度が八%に達して水素爆発の可能性があり、十五時間程度で廃液の沸騰が始まり、蒸発乾固そして硝酸塩爆発の重大事故が予想されている。原燃は市民団体に対して、そのような事態が生じた場合には十六時間ほどで対応できると回答しているが、それでは当該重大事故の発生を防止することはできないことは同資料から明らかであると考えるが、政府の見解を示されたい。

八 審査会合ではその後、放射線分解水素発生掃気系に空気貯槽を設置することで水素爆発濃度到達時間を引き延ばすことができるとし、蒸発乾固対策が優先されるようになった。しかし日本原子力学会報告書によると「水素が爆発下限濃度(4vol%)以上に蓄積し、さらに着火源の存在を想定すると、水素爆発が発生する可能性がある」と指摘され、原燃の主張する八%という数値については想定されていないが、新規制基準審査において水素爆発の条件が都合よく解釈され、それが認められている疑念がある。新規制基準審査においては、水素爆発下限濃度について、前記七の原燃の資料にある八%ではなく、安全側に立ち、日本原子力学会報告書が指摘する従来通りの四%に到達する時間を制限時間として対策を立てていくべきではないか。

九 八甲田山の山体膨張が観察されているとの報告がある。現在六ヶ所再処理工場が所在する場所まで火砕流が到達したことが過去に二度あると聞いているが、仮に十和田火山群の爆発により火砕流が発生し、六ヶ所再処理工場に到達した場合、高レベル廃液やプールに貯蔵している使用済み核燃料をどう火砕流から守るのか、具体的にお示し願いたい。

十 一九六八年の十勝沖地震では、むつ市役所や三沢商業高校が倒壊し、世界最大加速度四千二十二ガルを示した二〇〇八年六月の岩手・宮城内陸地震では、震源地周辺は大規模な地滑りにより道路が大きく崩れ跡形もなくなった。このように、予知できない規模の地震が各地で発生している。六ヶ所再処理工場の直下でこのような規模の地震が起きないと断言できるのか。原燃が二〇一六年十二月二十六日の審査会合へ提出した資料1-1では、「大陸棚外縁断層は、第四紀後期更新世以降の活動はない」とするとともに、基準地震動を六百ガルから七百ガルに見直したとしている。この原燃の評価は、前記の現実に起こった地震と比べ、あまりに過小評価ではないか。地震科学の限界も踏まえ謙虚に評価しなければいけないのではないか。六ヶ所再処理工場の危険性に鑑み、地すべりの発生も含め、過去最大規模の地震以上の基準地震動等を想定した上で評価すべきではないか。政府の見解を示されたい。

十一 六ヶ所再処理工場の北西一から四キロメートルの場所に独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構のむつ小川原国家石油備蓄基地があり、五十一基のタンクに現在約四百九十万キロリットルの原油が蓄えられているという。同基地で外的事象などにより火災が発生した場合、六ヶ所再処理工場の電力引き込み線等への影響はないのか、影響がある場合には何らかの対策を立てているのか示されたい。

  右質問する。