質問主意書

第193回国会(常会)

質問主意書


質問第七二号

「テロ等準備罪」新設法案に「テロの定義」が明記されていないことに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年三月三十一日

山本 太郎   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   「テロ等準備罪」新設法案に「テロの定義」が明記されていないことに関する質問主意書

 平成二十九年三月二十一日、政府はいわゆる「テロ等準備罪」を新設する法案、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」(第百九十三回国会閣法第六四号。以下「当該法案」という。)を国会に提出したが、これに先立ち私は、二月十四日に「「テロ」及び「一般の方々」の定義とテロ等準備罪に関する質問主意書」(第百九十三回国会質問第二九号)、次いで三月三日に「「テロ」及び「一般の方々」の定義とテロ等準備罪に関する再質問主意書」(第百九十三回国会質問第四六号)を提出し、各々に対して答弁書(内閣参質一九三第二九号(以下「初回答弁書」という。)及び内閣参質一九三第四六号(以下「前回答弁書」という。))を受領している。
 当該法案の条文には「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」との記述があるにもかかわらず、「テロリズム」の定義が当該法案の条文に明記されていないことが明らかになった。当該法案並びに初回答弁書及び前回答弁書を踏まえて、「テロの定義」等に関して政府の認識を改めて確認すべく、以下質問する。

一 当該法案における「テロリズム」の定義を明確に示されたい。

二 初回答弁書及び前回答弁書の一についてで「テロリズム」とは「一般には、特定の主義主張に基づき、国家等にその受入れ等を強要し、又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等をいうと承知」しているとの政府見解が示された。
 また現行法令においては、「警察庁組織令」(昭和二十九年政令第百八十号)第三十九条第四号では「広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動をいう」、「特定秘密の保護に関する法律」(平成二十五年法律第百八号)第十二条第二項第一号と「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」(平成二十八年法律第九号)第六条第一項では「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう」と、「テロリズム」を具体的に定義しているが、当該法案では、「テロリズム集団」との文言が用いられているにもかかわらず、その条文の何れにも「テロリズム」の定義が明確に示されていない理由を、具体的かつ明確に示されたい。

三 平成二十九年三月十日に逢坂誠二衆議院議員が提出した「テロリズムの定義などに関する質問主意書」に対する答弁書(内閣衆質一九三第一二五号)の二及び三についてでは「一般に、法令の定義規定は、定義される用語を当該法令の規定において用いる場合における特定の意義を明らかにするものであり、各法令の趣旨、目的等により、同一の用語について法令ごとに異なる定義がされることもあり得ると考えられる。」とあるが、当該法案の条文においては「テロリズム」を明確に定義していないため、「テロリズム」との用語について、当該法案の「規定において用いる場合における特定の意義を明らかにする」ことができないと考えられるが、政府の見解如何。加えて「各法令の趣旨、目的等により、同一の用語について法令ごとに異なる定義がされることもあり得る」のであれば、当該法案の条文にある「テロリズム」との用語の定義は、前記二で示した現行法令における「テロリズム」の定義と異なることもあり得るとの理解でよいか、政府の認識を明確に示されたい。

四 平成二十九年二月三日の衆議院予算委員会において安倍首相は、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催するにあたり、当該法案の成立は必要条件であるかとの質疑に対して「もし、テロリストに襲撃をされるということ、法的な制度の中においてそれを防ぎ得ないという穴があるのであれば、それはおもてなしとして不十分であろう。」、「考え得る限りの対応はとっておく責任を果たしていくべきだという考え」と答弁した(以下「首相答弁」という。)。首相答弁中の「テロリスト」とはいかなる行為あるいは活動を行う者を指しているのか、政府の認識を具体的かつ明確に示されたい。

五 前回答弁書の三から五までについてでは「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約第五条1(a)(ⅰ)に規定する行為を犯罪とする法整備については、過去の国会における御議論を踏まえ、テロ組織を含む組織的な犯罪集団と関わりがない方々が処罰の対象とならないことを明確にし、また、重大な犯罪の合意に加えてその実行の準備行為が行われた場合に限り処罰の対象とするものとすること等を考えているところである。」との答弁があった。今回、当該法案が国会に提出されたことを踏まえて、「テロ組織を含む組織的な犯罪集団」との「関わり」について、以下の事項に対する政府の認識を改めて明確に示されたい。

1 「テロ組織を含む組織的な犯罪集団」に所属している個人との婚姻関係は、この「関わり」に該当するか。
2 「テロ組織を含む組織的な犯罪集団」に所属している個人との親子関係は、この「関わり」に該当するか。
3 「テロ組織を含む組織的な犯罪集団」に所属している個人との婚姻関係及び親子関係以外の親族関係は、この「関わり」に該当するか。
4 「テロ組織を含む組織的な犯罪集団」に所属している個人との職場あるいは学校等における知己関係は、この「関わり」に該当するか。
5 「テロ組織を含む組織的な犯罪集団」に所属している個人と名刺を相互に交換している関係は、この「関わり」に該当するか。
6 「テロ組織を含む組織的な犯罪集団」に所属している個人と電子メールアドレスを相互に交換している関係は、この「関わり」に該当するか。
7 「テロ組織を含む組織的な犯罪集団」に所属している個人との、ツイッターにおける「フォロー」あるいは「フォロワー」関係、フェイスブックにおける「友達」関係、ラインにおける「友だち」関係等、ソーシャルネットワーキングサービスを通じて相互に情報を共有あるいは交換可能な状態にある関係は、この「関わり」に該当するか。
8 「テロ組織を含む組織的な犯罪集団」との「関わり」について、前記1から7の他にどういった事例が該当するか。

六 当該法案の条文において「テロ組織を含む組織的な犯罪集団と関わりがない方々」が「処罰の対象」とならないことを明確に規定している部分を抜き書きして示されたい。

七 当該法案は「テロ組織を含む組織的な犯罪集団と関わりがない方々」が「捜査の対象」とならないことまでは担保していない、との理解でよいか、政府の認識を明確に示されたい。

八 首相答弁のごとく当該法案の成立が「テロリスト」への「考え得る限りの対応」として必要であるならば、「テロ」の計画を事前に捜査機関が察知できるようにするために、当該法案に示された対象となる犯罪の範囲に合わせて、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(平成十一年法律第百三十七号)第三条で通信傍受が可能とされる犯罪の範囲を拡大することも、「テロリスト」への「考え得る限りの対応」として考慮すべきものとなり得る、との理解でよいか、政府の認識を明確に示されたい。

  右質問する。