質問主意書

第192回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六〇号

環太平洋パートナーシップ協定が定める強制労働及び児童労働の撤廃目標と企業のサプライチェーンにおける人権保護に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年十二月十三日

石橋 通宏   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   環太平洋パートナーシップ協定が定める強制労働及び児童労働の撤廃目標と企業のサプライチェーンにおける人権保護に関する質問主意書

 環太平洋パートナーシップ協定(以下「TPP協定」という。)の第十九・六条には、強制労働に関し、「各締約国は、あらゆる形態の強制労働(児童の強制労働を含む。)を撤廃するとの目標を認める。各締約国は、締約国が第十九・三条(労働者の権利)の規定に基づき関連する義務を負っていることを考慮しつつ、自国が適当と認める自発的活動を通じ、全部又は一部が強制労働(児童の強制労働を含む。)によって生産された物品を他の輸入源から輸入しないよう奨励する」と規定されている。
 この点に関し、以下、質問する。

一 「強制労働及び児童の強制労働の撤廃」については、国際連合で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)の目標8・ターゲット7にもその撲滅を目指す記述があり、その中で児童労働(ILO第百三十八号条約及び第百八十二号条約で定義される違法労働)については、「二〇二五年までに(中略)あらゆる形態の児童労働を撲滅する」と明記されている。もとより我が国は、ILO第百三十八号条約及び第百八十二号条約を批准しており、児童労働、とりわけ最悪の形態の児童労働の撲滅に向けて施策を講じる責務を負っているが、このSDGsの要請も含め、二〇二五年までにあらゆる形態の児童労働を撲滅するとの目標を達成するために、政府はどのような具体的施策を実行するつもりか、見解を示されたい。

二 TPP協定第十九・六条には、「自国が適当と認める自発的活動を通じ、全部又は一部が強制労働(児童の強制労働を含む。)によって生産された物品を他の輸入源から輸入しないよう奨励する」とある。我が国には、現時点において、強制労働や児童労働による生産物を輸入しないことを奨励することを意図した法律がなく、TPP協定が発効した際には、奨励をするための新たな立法措置が必要と考えるが、政府の見解を示されたい。

三 二〇一一年三月、国際連合人権理事会に「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」(以下「指導原則」という。)が提出されているが、この指導原則は、ISO二六〇〇〇の成立とその内容、さらには各国の国内法令にも大きな影響を与えている。この指導原則がもたらした大きな変化の一つが、企業による人権尊重の責任の範囲であり、指導原則では、企業による人権尊重の範囲は、自社の事業に限定されるのではなく、自社の製品やサービスに関連するサプライヤー等の関連企業まで含めることとされている。このことは、グローバルに事業を展開する日本の多国籍企業にとって人権尊重への責任の範囲が広がるだけでなく、多国籍企業に部品等を供給する日本国内の中小企業についても、国内または海外企業のサプライチェーンの一員として、人権侵害に加担していないかの確認を求められることを意味している。このことから、とりわけ多国籍企業のサプライチェーンと人権に関する国内法の整備が各国で進められており、例えば二〇一四年には米国で、サプライチェーンにおける強制労働、奴隷制度、人身売買及び児童労働のリスクを評価して対処する取り組みや、その是正措置などの情報開示を求める「米国ビジネスサプライチェーンの人身売買と奴隷の透明性に関する法律(二〇一四年)」が成立した。また、二〇一五年には英国で、「現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)」が成立し、そのセクション6「サプライチェーン等の透明性」において、企業は「奴隷と人身売買に関する声明」を作成、公表することが義務づけられたが、この声明には、人身売買、強制労働、債務労働などの「現代の奴隷制」のリスクが当該企業のサプライチェーンに存在しないこと、また、奴隷と人身売買に関するデューデリジェンスを行ったか否かを報告することなどが求められている。これら諸外国の法律については、その対象範囲が日系企業にも及び、既に米国・欧州に拠点を持つ日本企業の子会社などがそのウェブサイトで声明を発表しているところである。以上の国連のイニシアチブの下における国際協調的な取り組みにおいて、日本が率先して指導的役割を果たす観点から、また、我が国企業の国際的な競争力・信用力を保障する観点からも、TPP協定の発効如何に関わらず、我が国においても早急に、国際基準に則った形で、サプライチェーンを含む企業の人権尊重に対する責任に関する立法措置を講じる必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。

四 二〇一六年十一月にジュネーブで開催された「国連ビジネスと人権フォーラム」の最終日、ビジネスと人権に関する指導原則に係る国別行動計画セッションにおいて、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部の志野大使より、日本も国別行動計画を作成するとのステートメントが出されている。既に多くの国が国別行動計画を策定しており、またその策定手順についてはガイダンスも発行されているところであるが、今後、我が国でこの国別行動計画を具体的にどのような場及びプロセスで策定するのか、また、その策定プロセスにおいて、市民組織など第三者の意見をどのように反映させるのか、方針を明らかにされたい。

五 以上に関連し、SDGsの目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」のターゲット7の中にも位置付けられている「持続可能な公共調達」は、公共調達の市場への影響力の大きさを考慮し、政府・自治体の公共調達をより環境・社会に配慮したものにすることを促すことを意図している。折しも、我が国は二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックを控えており、国際労働機関(ILO)からもオリンピック・パラリンピックに関連する公共調達や企業の投資等における人権や国際労働基準への配慮について政府に協力要請がなされていると理解しているが、現状、例えば、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)は環境面への配慮しか規定がなく、人権や国際労働基準への配慮をした調達方針については、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に国等からの受注機会の増大に関する規定が設けられるなど一部の優遇措置を規定する法律はあるものの、全体を網羅して規定している法律は存在しないと理解している。このような観点から、今後、サプライチェーンを含む企業の人権への責任を議論することに併せて、政府・自治体の公共調達の方針についても具体的施策を検討すべきだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。