質問主意書

第192回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四号

ゲノム編集技術の研究開発・規制に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年九月三十日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   ゲノム編集技術の研究開発・規制に関する質問主意書

 先般、「ゲノム編集」という技術を使って通常の二倍のスピードで成長するトラフグを作り出すことに京都大学などのグループが成功したとの報道があった。このゲノム編集と呼ばれる生命の遺伝情報を自在に書き換えられる技術が、近年、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)を筆頭に、急速に普及していると承知している。
 これは、従来のアグロバクテリウム等を利用した所謂「遺伝子組換え」とは区別される技術であり、遺伝子組換え技術について国際的に規定した、生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(以下「カルタヘナ議定書」という。)および、その日本における国内法である「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(以下「遺伝子組換え規制法」という。)の対象にならない部分があると考える。しかし、ゲノム編集は「遺伝子組換え」以上に様々な遺伝子の改変を可能にしうる技術であり、その経済的、社会的影響は正負の両面において大きなものになる可能性があるので、以下質問する。

一 ゲノム編集技術を使うと、(a)今回報道されたトラフグのように、自然界に存在する種のゲノムから、特定の遺伝子を機能しなくするなどの措置(所謂ノックアウト)を行うほかに、(b)自然界に存在する種のゲノムに、人工的に作成した遺伝子配列を組み込む、(c)自然界に存在する種のゲノムに、別の種から特定の遺伝子配列を切り出して、埋め込む、という操作が可能になるが、この三つのうち、どの技術が現行のカルタヘナ議定書および遺伝子組換え規制法の対象になり、どの技術が対象にならないと考えられるか。

二 カルタヘナ議定書および遺伝子組換え規制法の対象にならない技術で製造された製品については、現状では販売などに規制がない、したがって、例えば前記のトラフグが量産、商品化されたとしても現在は特に規制されない、という理解でよろしいか。また、そういった商品が現在開発されている、あるいは製品化されているといった情報を行政がどの程度把握可能なのか、また把握しているのか。

三 特に「ノックアウト」だけが行われた品種に関しては、理論的には付け加わった成分などがないことになり、これまで遺伝子組換え食品に適用していた「実質的同等性」概念を利用した安全性審査は困難である、ということになる。一方で、前記トラフグの事例では、遺伝子の一部を改変することで、例えばフグ毒の体内分布が変わってしまい食品としての安全性に影響が出るということも考えられる。そのため、ゲノム編集技術を利用した製品の安全性審査は、まったく新しく設計される必要があるかもしれない。また、ゲノム編集技術の場合、利用の痕跡が遺伝子組換えのような形では残らないため、規制を導入したとしてもそれを実効的なものにすることにも困難が発生する。以上の安全性審査に関する研究を行っている国内外の事例などを把握しているか。

四 ゲノム編集技術に関する環境アセスメント手法も特に定まっていないと思われるが、このことに関する情報や見解があれば開示されたい。また、ゲノム編集技術により作り出された、遺伝的に近似しており、より生存能力の高い改変種が自然界に放出されることで、在来種が駆逐される等の危険が想定されるが、こういったことを、例えば外来生物に準じる形などで規制しうる法律はあるか。

五 ゲノム編集はここ数年で急速に普及した技術である。海外でもまだ制度化された規制はないままに開発が進んでいる状況だと思うが、将来的にはカルタヘナ議定書に準じるような国際協定が必要ではないか。そういった議論や情報交換が国家間や国際機関などで行われているか、調査の上、把握したところを明らかにされたい。

六 近年、高度情報化や国際競争の激化等により新技術の普及速度が上がっている。そのため、一般公衆が技術の特性を理解しないまま普及だけが進んでいくということが起こってしまう。また、そうした技術の場合、一度安全性への懸念が発生すると、非常に大きな不信感に発展する可能性もある。このことから、欧州などでは技術普及の前に、市民を巻き込んで技術についての倫理・法・社会的側面について議論する「上流関与」(アップストリーム・エンゲージメント)の必要性が認識されるようになっている。こうした研究活動における上流関与、市民参加について、ゲノム編集技術の問題に利用可能な制度や予定されている活動などが行政や大学・研究機関などにあるか、調査の上、把握したところを明らかにされたい。

七 ゲノム編集技術による知的所有権は、前記一の(b)および(c)については利用できる遺伝子配列が特許化でき、(a)については特に特許の対象にならない(ただし、植物品種である場合は種苗法の対象になる場合がある)と理解しているが、そのような理解でよろしいか。

八 一九九二年の「環境と開発に関するリオ宣言」第十五原則及び各種国際条約に謳われている予防的取組方法及び予防原則の観点から、ゲノム編集技術の研究において、どのような配慮がなされるべきか指針を示すべきではないか。また今回報道のあった京都大学などのグループはそもそも予防原則を理解しているのか、また実際にどのような配慮を行ったのか、調査の上、明らかにされたい。

  右質問する。