質問主意書

第191回国会(臨時会)

質問主意書


質問第九号

不登校施策の現状に関する質問主意書に対する答弁書の不明確な部分等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年八月三日

山本 太郎   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   不登校施策の現状に関する質問主意書に対する答弁書の不明確な部分等に関する質問主意書

 不登校に対する支援に対しては、国民から依然多くの、多様な観点からの要望がある。不登校で苦しむ子ども・親・保護者・教員を減らすことは我が国の課題であり、国レベルでの教育政策においても、不登校に対する支援は重要な課題であると考えられる。なかでも子どもが自らの意思と権利に基づいて教育を十全に受けられるよう、学習環境の整備と質的平等性の担保、中等教育へのアクセス権の保障、地域間格差の是正などは、現行制度の改善としてすぐに着手できる課題である。
 そこで、平成二十八年五月二十五日に私が提出した「不登校施策の現状に関する質問主意書」(第百九十回国会質問第一二二号。以下「前回主意書」という。)に対する答弁書(内閣参質一九〇第一二二号。以下「答弁書」という。)において答弁が明確でない部分について質問するとともに、新たな観点を追加して以下質問する。
 なお、本質問では特に断りのない場合、「条約」は「子どもの権利に関する条約」を指すものとする。

一 不登校生徒の高校入学者選抜について

1 不登校、障がい者、帰国子女及び外国籍の生徒等マイノリティの立場の子どもに対する都道府県や政令指定都市が行う配慮の状況等について、政府が把握するところが答弁書で示された。
 答弁書一の1では「各都道府県の高等学校入学者選抜の改善等に関する状況の調査」を「政令指定都市については実施しておらず」とあるが、政令指定都市が行う配慮についても、マイノリティの立場の子どもに対する施策の向上のため、教育委員会や学校現場に負担をかけない形で調査し把握する必要性があるのではないかと考えるが、見解を示されたい。
2 答弁書一の2では「静岡県及び京都府が「調査書を用いず、学力検査のみで選抜を行う等特別な入学者選抜の実施を認めている」と回答している」とある。だが埼玉県では「不登校の生徒などを対象とした特別な選抜」がある。他の県にも似たような制度があるとも聞く。これは答弁書一の1にある「不登校の生徒が在籍する中学校が作成した調査書における出欠及び各教科の学習の記録については受験する高等学校において入学者選抜の資料としないことなどの配慮がなされている。」に該当すると判断しているのか。その場合、埼玉県の制度は、答弁書一の2にある、静岡県や京都府が行う「調査書を用いず、学力検査のみで選抜を行う等特別な入学者選抜」と類似していると考えられるが、埼玉県のような事例について、文部科学省はどのように分析し、統計に集計したのか。埼玉県のような事例については、答弁書一の2の中で静岡県や京都府の事例と同様の事例として挙げられるべきと考えるが、そのような取扱いとはされていない理由を明らかにされたい。
3 答弁書一の3では「都道府県教育委員会等に対し、(中略)全国の対応状況を示しつつ、改善を促している」とあるが、まったく配慮をしていない自治体が現在でも八団体あるのは自治体の裁量とはいえ、子どもの中等教育へのアクセス権を保障する観点から、政府として問題とは考えないか、見解を示されたい。
 配慮をしている自治体としていない自治体では、子どもの権利保障に格差がでてしまう。もちろん、地域の実情として、アンケートでは伝えられない配慮もあるかもしれない。担当部署としては、業務が増えて大変だと思うが、予算を確保し、人員等を増やしてでも、その細やかな実情を確認してはどうか。
4 すでに全都道府県の半数以上が不登校生徒の高校入学者選抜に配慮を行っている。だが、自己申告書がどのように運用されているか等、不登校生徒等の高校入学者選抜の実情や配慮について、アンケートを集計するだけでなく、分析等研究を行っているか。もし、まだ行っていない場合は分析等を行うべきではないか。
 前記を踏まえ、全国の自治体に対し、条約の第二十八条等の趣旨に基づいて、不登校児童生徒の進学に対するアクセス権を保障するために、不登校児童生徒へのより一層の配慮を求める通知等を発出することを考えてはどうか。

二 教育支援センター(適応指導教室)について

1 答弁書二の1では、教育支援センターにおける高校生の受け入れについて、十二府県が設置する二十三の教育支援センターが高校生を受け入れているとのことである。また、文部科学省の「教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査」結果(平成二十七年八月)七ページからは、都道府県設置以外に区市町村設置の教育支援センターでも、高校生を受け入れている場合がありうると推定できる。高校生を受け入れている都道府県設置以外の教育支援センターは、各都道府県に何か所あるのか、区市町村別にそれぞれ詳細を示されたい。
2 子どもの最善の利益を図る視点、いじめ等の人権侵害事例等に起因する不登校児童生徒への学習権保障の視点から考えると、最多の石川県は七か所で高校生を受け入れている一方で、高校生を全く受け入れていない都道府県もある。このように地域によって教育支援センターの受け入れ体制が極端に違い、格差があるのは子どもにとって不利益であり、好ましくないと考える。高校生を受け入れている教育支援センターはまだ少数であるが、不登校の高校生の中には、教育支援センターという居場所を、一部の保護者や教員等の強制ではなく、純粋な自発的意思として望む者や、無料での学びの場を望む者もいると考えられる。このような高校生の教育支援センターでの受け入れを自治体が進めるため、自治体に対し、IT等での遠隔学習や、教育支援センターの設置や人員加配等を行うための一層の財政支援を国として検討する予定はないか。
3 答弁書二の2では教育支援センターを民間に運営委託している「府県」はない、とのことだが、東京都又は北海道で委託している例があるのなら、その数と具体的な施設名を示されたい。
4 前回主意書二の3に言葉を追加して再度質問する。学校教育法施行規則第五十六条等に基づき、不登校児童生徒に対する特別の教育課程を編成している学科指導教室「ASU」(奈良県大和郡山市教育委員会)は、もともと教育支援センターが前身であったと聞く。高校受験に際し、ASUのように調査書を独自で出す教育支援センターが前身の特例校及び特例校への申請をしていないが同等のカリキュラム等を持つ教育支援センターを、事例として把握しているか。把握している場合は全国でいくつあるか、また特例校の申請をしない理由などを把握しているか、それぞれ示されたい。
5 答弁書二の4によると、教育支援センターの運営理念は「不登校の児童生徒の集団生活への適応、情緒の安定、基礎学力の補充及び基本的生活習慣の改善等のための相談及び適応指導を行うことにより、学校への復帰を支援し、不登校児童生徒の社会的自立に資することを基本的な目的とするものである。」とのことである。
 だが、我が国では、憲法や条約、教育基本法以下の法体系を見ても、児童生徒が学校に登校する義務はなく、子どもの「学校への復帰」(「学校復帰」を含むものとする。以下同じ。)を求める法的正当性はないと考えられる。また、答弁書九では、一般論としてではあるが、不登校は学校教育法施行令第二十条に規定する、保護者が子どもを学校に出席させないことの「正当な事由」に該当するとしている。
 そこで、文部科学省が考える「学校への復帰」の定義を示されたい。また保護者や児童生徒にそれぞれその意思に関係なく「学校への復帰」を求めている場合は法的根拠を示されたい。
6 条約等の趣旨を踏まえて考えると、「不登校への対応の在り方について」(平成十五年五月十六日付け文科初二百五十五号文部科学省初等中等教育局長通知)別添一「教育支援センター(適応指導教室)整備指針(試案)」にある運営理念(設置の目的)は、子どもを権利の主体としているものの、子どもの意思を聞き意思を尊重する視点ではなく、あくまで支援者から見た視点でしか扱っていないと考えられる。
 そこで再度、子どもの意思を真に尊重する観点から、試案を作成してはどうか。例えば、条約第四十四条に基づく我が国の第三回定期報告に対する子どもの権利委員会の総括所見の項目「43」では「児童相談所を含む児童福祉サービスが子どもの意見をほとんど重視していないこと、学校において子どもの意見が重視される分野が限定されていること、および、政策策定プロセスにおいて子どもおよびその意見に言及されることがめったにないことを依然として懸念する。」(子どもの権利条約NGOレポート連絡会議仮訳。以下同じ。)と指摘されている。子どもの権利委員会の総括所見も踏まえて、当事者である不登校児童生徒等の意見や不登校を支援する当事者団体等の声を、特定の団体やグループに偏らないようにしつつ、本人に負担をかけない形で取り入れる仕組みを考え、子どもの意見を基に再度試案を作るべきではないか、見解を示されたい。

三 自治体のフリースクールへの財政支援について

1 答弁書三では自治体がフリースクールに対して行っている財政支援について「文部科学省としては把握していない。」との答弁であったが、文部科学省で行っている「フリースクール等に関する検討会議」では検討事項として「経済的支援の在り方」をあげている。にもかかわらず、文部科学省が事前に研究しておらず、事例を調査していないのは問題ではないか。国として、今から、自治体に負担をかけない範囲で自治体の状況を調査することを検討、実行するつもりはないか。
2 前記三の1に関して、全国公立小中学校事務職員研究会「学校と教職員の業務実態の把握に関する調査研究報告書」(平成二十七年三月)の十八から十九ページでは、「国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応」が教員の大きな負担となっていることが示されている。教育現場が、国の調査で疲弊するとしたら本末転倒であるため、前記三の1で行った提案のように、児童生徒や親や保護者、教員のために必要な調査をするとしても、現場の負担を減らす方策として、教育委員会に調査等への回答に必要な人員に対する予算の加配等の措置をし、教員の負担を減らすことを検討すべきではないか、見解を示されたい。

四 不登校児童生徒のIT等を使った自宅学習等について

1 答弁書四の2では、自宅においてIT等を活用した学習活動を指導要録上出席扱いとした児童生徒数が非常に少ない理由として、「例えば、児童生徒が行った学習活動の内容がそのようなものではなかった等の理由があるものと承知している。」としているが、フリースクール等に関する検討会議の審議経過報告である「不登校児童生徒による学校以外の場での学習等に対する支援について~長期に不登校となっている児童生徒への支援の充実~」(平成二十八年七月六日)によると、民間業者の提供によるICTを使った自宅での学習活動が出席扱いと認められた事例がある(十一ページ)反面、認定数が少ない原因として「学校の教員が十分関わっていない家庭での学習について、学校として出席扱いすることに困難を感じていること等が考えられる」(二十三ページ)とされている。この点についても、前記二の6のような趣旨を基に、出席扱いが認められる事例などを分析するとともに、教員や保護者や児童生徒の当事者などに負担のない形でアンケートをとったり、特定の団体やグループに偏らない視点で意見を求めたりしてはどうか。それらの意見を尊重し検討会議等で検討し、更にアンケートを取るなどして、条約の趣旨を十分に尊重し、児童生徒を学ぶ権利を持つ主体であるという視点を備えた「不登校児童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について」(平成十七年七月六日付け十七文科初第四百三十七号文部科学省初等中等教育局長通知)のガイドラインを作るのはどうか。
2 前記四の1に関して、自宅においてIT等を活用した学習活動を指導要録上出席扱いとした小中学校の統計があるのに、高校がないのはなぜか、理由を示されたい。
 また、「学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行等について(平成二十七年四月二十四日付け二十七文科初第二百八十九号文部科学省初等中等教育局長通知)」の「Ⅲ 留意事項」の「第二 施行規則第八十六条等関係」では、特に高校生等について「2 今回の措置により認められる、指定要項の、通信の方法を用いた教育は、学習意欲はありながら療養又は障害により登校できない生徒が、原級留置、転学、中途退学することなく卒業することができるようにすることを目的としていることから、指導を行うに当たっては、療養等による長期欠席生徒等の実態に配慮すること」とあるが、高校についても前記の統計調査を行わなければ、「通信の方法を用いた教育」の効果等を知ることができないのではないかと思われる。統計調査を行ったらどうか。但し、その際には子どもや教員を統計の数字のために追い詰めないような運用を検討されることを併せて要望する。
3 前回主意書四の2にある「子どもの権利擁護を趣旨として」の意味するところは、条約の趣旨に基づいて施策を考え、周知することが大切であり、家庭にいて休息を求める子どもに、一部の親・保護者・教員等支援者の善意からであっても、学習の強制等は万が一にもしてはならないという思いを込めている。
 答弁書四の2の「局長通知の内容については、都道府県教育委員会等に対する周知を図ってきており、今後とも、様々な機会を捉え、その周知に努めてまいりたい」との答弁は評価できるが、子どもの意思を第一に尊重して、子どもにとって強制や負担にならない形での、自発的な学習を支援する形で周知を前向きに検討すべきと考えるが、見解を示されたい。

五 夜間中学について

1 答弁書六の1では、「中学校に在籍する学齢生徒が希望した場合に、中学校夜間学級において学習する事例については、文部科学省としては把握していない。」とのことであるが、一九五〇年代、六〇年代には学齢生徒を夜間中学(夜間学級)に受け入れていたと聞き及んでいる。そこで答弁の意味について確認する。
 現在の法制度では、学齢生徒は夜間中学には転入できないために存在せず、よって把握していない、と理解してよいか。それとも調査をしていないため、把握していない、と理解してよいか。
2 前記五の1に関して、仮に調査をしていないという意味での「把握していない」ということであれば「中学校夜間学級等に関する実態調査について」(平成二十七年五月)三十一ページでは夜間中学の「入学・在学要件2」として、「中学校を卒業していないこと」、「学齢を超過していること」が挙げられているため、調査はなされているはずである。だが、あえて答弁書で「文部科学省としては把握していない」と書かれたということは、現実には入学できる方法があるということなのか、どういう意味で把握していないのか示されたい。
3 前記五の1に関して、もし、学齢生徒が夜間中学には転入できない法的根拠があり、法的にありえないから「把握していない」ということであれば、その法的根拠を示されたい。もし学校教育法施行令第二十五条第五号を根拠とするのであれば、同号では夜間学校への転入について特段の制限を設けていないと考えるがどうか。
 学校教育法施行令第二十五条施行当時と現在とでは我が国の法体系が変化している。現在は、学齢生徒が夜間中学に転入することは差支えないと理解してよいのか。
4 前記五の1から3に関して、憲法第二十六条では、すべての国民はひとしく教育を受ける権利を有するとしており、条約等でも学習権を認めている。様々な事情や疾患等により、朝に中学へ行きたくても行けない生徒もいる。夜間中学で学びたいという意思のある学齢生徒もいるのではないか。
 そのような自発的意思を持つ生徒に限り、情報の提供や転入の機会を与えることを検討してはどうか。一九五〇年代頃には、夜間中学の存在を理由にして、学齢生徒が労働を強いられるということがあったかもしれない。だが、現在では労働基準法第五十六条や子どもの貧困対策の推進に関する法律第十条、学校教育法第二十条等により、児童労働を禁止し、児童が労働をせずに学べるよう支援する法的制度がある。
 学齢生徒で夜間中学への転入を望む者にはこれを認め、その学習権を国および自治体は保障するべきと考えるが、どうか。
 もしできない場合は、法的な理由その他のいかなる理由があるか、その根拠を逐一示されたい。
5 答弁書六の2では「学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)附則第八条に規定する通信による教育については、昭和二十二年四月に義務教育の年限が中学校段階まで延長されたことに伴い、昭和二十一年三月三十一日以前の尋常小学校卒業者及び国民学校初等科修了者を対象として設けられた特例的な制度であり、今後、「全国的に展開や周知」を行うことは予定していない。」としているが、実際問題として、旧制学校時代の当事者でなくとも、義務教育化以前に学べなかった障がいを持つ方や、一九七〇年代や八〇年代に不登校を理由に中学校を除籍された方等の、学びたくても学べない学齢超過者が現在でもいる。
 これに対して、ある自治体では、中学校通信教育課程の対象者について、現行制度での義務教育が未修了で学齢相当年齢を超過した方で、尋常小学校か国民学校初等科を修了したが高等学校の入学資格のない方に準ずる方としている。文部科学省の方針と違い、現在も現場ではそのような方々への学習権の保障を配慮し、行っているといえるのではないか。
 現在夜間中学は全ての都道府県にあるわけではなく、越境入学を原則として認めていない自治体もあると聞く。夜間中学がない道県の自治体や、設置されていても大きな県等では、現在でも通学するには物理的に困難な場合もある。更に不登校児童生徒には、前記四の1の文部科学省通知でIT等を活用した在宅学習が認められている。これは現在、小学生でも認められ、民間業者の提供するICTを使った自宅での学習活動も出席扱いとされている事例がある。
 この現状に対して、学校教育法附則第八条第二項では、尋常小学校卒業者及び国民学校初等科修了者に対する通信による教育については「文部科学大臣の定めるところによる」となっている。そこで、国家行政組織法第十二条に基づいて、憲法で保障された学習権の保障のため、通信での学習やIT等による通信教育について、夜間中学でも認めていく考えはないか、柔軟に中学校通信教育規程等を改正する考えはないか、文部科学大臣の見解を示されたい。
6 安倍首相の私的諮問機関である教育再生実行会議の第五次提言で「義務教育未修了者の就学機会の確保に重要な役割を果たしているいわゆる夜間中学について、その設置を促進する。」とされたことを受けた取組状況では、「夜間学級における指導の改善、広報強化、未設置地方公共団体における新規設置に係る検討など、中学校夜間学級の振興を図る。」としている。文部科学省の方針も「文部科学広報二〇一五年十一月号」の「特集 中学校夜間学級(夜間中学)について」では「文部科学省としては、当面の施策として、少なくとも各都道府県に一つは夜間中学が設置されるよう、その設置を促進したいと考えています。」とあるが、現在、省令等の改正や予算措置等を含めて検討しているか確認したい。
7 前記五の4や5が法的に可能であったとした場合は、不登校や障がい、外国籍、不良行為等のマイノリティの立場にある子どもたちを在籍している中学校から排除するため夜間中学に転入の強制をさせ、それが本人の意思という形にならないよう、設計をすべきと考えるが、見解を示されたい。
 なお、通信制中学の募集をしている自治体に指導などせず、憲法及び各種の条約や教育基本法に従い、学習権を保障している現状を追認すべきと考えるが、見解を示されたい。

六 改正発達障害者支援法と不登校について

1 平成二十八年五月二十五日の参議院本会議にて、発達障害者支援法の一部を改正する法律が可決成立した。同年五月二十四日の参議院厚生労働委員会における「発達障害者支援法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(以下「附帯決議」という。)では「二、小児の高次脳機能障害を含む発達障害の特性が広く国民に理解されるよう、適正な診断や投薬の重要性も含め、発達障害についての情報を分かりやすく周知すること。特に、教育の場において発達障害に対する無理解から生じるいじめ等を防止するには、まずは教職員が発達障害に対する理解を深めることが肝要であることから、研修等により教職員の専門性を高めた上で、早い段階から発達障害に対する理解を深めるための教育を徹底すること」としている。答弁書七では統計がないとのことであるから、一部の事例かもしれないが、心療内科において、説明書で低年齢児童に対する試験が未実施とされる薬にもかかわらず低年齢児童の患者に投与したという話を当事者から聞いた。まず、医師等医療関係者に対する発達障がいの適正な診断や投薬についての情報の周知として政府が行っている施策はいかなるものがあり、その効果はどれだけあるのか確認したい。
2 一方で、子どもの権利委員会の総括所見のメンタルヘルス部分では「60.(略)委員会はまた、発達障がい者支援センターにおける注意欠陥・多動性障がい(ADHD)の相談数が増えていることにも留意する。委員会は、ADHDの治療に関する調査研究および医療専門家の研修が開始されたことを歓迎するが、この現象が主として薬物によって治療されるべき生理的障がいと見なされていること、および、社会的決定要因が正当に考慮されていないことを懸念する。」とされる。附帯決議は「適正な診断や投薬の重要性」に重きを置いているが、子どもの権利委員会の「主として薬物によって治療されるべき生理的障がいと見なされていること(中略)を懸念する」との総括所見と矛盾するのではないかと考えるが、見解を示されたい。
3 その上で前記六の1及び2に関して、病状によっては適切な投薬は大切だとしても、投薬の重要性を強調することで薬害が出てはならない。子どもたちの薬害防止対策をどのように考えているか示されたい。

七 不登校児童生徒の個人情報の取扱いについて

1 答弁書八では「御指摘のガイドラインにおける記述は、不適切な行動という意味で用いたものではなく、一般的に不登校などの行動が関係機関等の間で児童の情報を交換して対処することが必要な課題である」との回答であった。
 改めて個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン(以下「ガイドライン」という。)を引用すると、個人情報の保護に関する法律第十六条第三項第三号関連について「不登校や不良行為等児童生徒の問題行動について、児童相談所、学校、医療行為等の関係機関が連携して対応するために、当該関係機関等の間で当該児童生徒の情報を交換する場合」となっている。担当省庁では「不適切な行動」でない者に対して、本人の同意を得ずに情報共有することは基本的人権の侵害に当たるとは認識しないのか、改めて見解を示されたい。
2 前記七の1を踏まえて、改めて担当部署において、「問題行動」とはどのような定義で使用するのか、問題のある行動という場合はどのような定義を使うのか、見解を示されたい。
3 ガイドラインでは「医療行為等の関係機関」とあるが、この「等」の中の対象には営利・非営利を含めた民間のフリースクール等や学習塾等の事業者なども含まれると考えてよいのか。

八 フリースクールの定義について

 文部科学省初等中等教育局長決定に基づきフリースクール等に関する検討会議が開かれている。
 不登校児童生徒を支援する民間団体にはフリースクールの他にフリースペースや、居場所といわれる団体等があると聞く。文部科学省が検討会議を開く以上、フリースクール、フリースペース、居場所等には定義があると考えるが、政府における定義を示されたい。

九 悪質な自称「フリースクール」等の問題について

1 営利を目的とせず、条約の趣旨に基づいて子どもの人権を尊重するフリースクールの支援は大切と考える。だが、フリースクールの中には、「丹波ナチュラルスクール」のように暴行事件を起こす団体や、法外な金銭を要求する団体もあることが報道されている。このように悪質な自称「フリースクール」等の問題について、承知しているか。
2 不登校で悩む子どもの権利を尊重しつつ支援する、良心的フリースクールの支援を検討するのが大切であるのはもちろんのことである。だが、施策や制度を考える場合、制度を作ることで悪用する者も想定できる。子どもや親・保護者、教員が制度でかえって追い込まれることがあってはならない。
 例えば不登校を受け入れ対象にしている、民間の教育団体とされている戸塚ヨットスクールの戸塚校長は、体罰に対する質問に対して「封印なんかしてないよ。違法じゃないんやから。そんな法律はない。体罰禁止は学校教育法の中にあるだけで、民法の中にはないんや。体罰を使った方が、この子たちはうまくなるということを知っとったもんで、うちは学校法人にせず株式会社にしたんや。でも、そうしたらマスコミは株式会社が教育をやるのはけしからんと言う」と報道されている。またウィッツ青山学園高等学校の不正事件は記憶に新しい。
 公的機関が民間事業者との連携や支援を行う場合、その民間事業者が公的機関との連携の名のもとに、営利活動や特定の違法行為を隠蔽しつつ、子どもや保護者を苦しめる不正行為を行えば、子どもや保護者はますます追いつめられ、公的教育の価値も低下する。ここに示したのはごく一部の個別事例であるが、問題が今までに起きたことは事実である。こうした悪質な団体までも今後の施策では協働相手となる可能性もありうる。
 そこで、法を守り、条約の趣旨を尊重する良心的団体を支援し、悪質な自称「フリースクール」等の発生を防ぐために、どのような対策を考えているか示されたい。もし検討していない場合は、対策を検討することは考えていないか。

十 国レベルのオンブズパーソンの設立検討について

 フリースクール等検討会議の審議経過報告や不登校に対する調査研究協力者会議による「不登校児童生徒への支援に関する最終報告(案)」には、教育委員会や学校等の公的機関、それらを支援するカウンセラー等の専門家の連携、フリースクール等との協働を謳っている。これは強制せずに、子どもの意思を尊重し、子どもの権利を保障する視点でその都度子どもの意思を第一に尊重して行使すれば、効果的な支援が期待できると考える。
 だが万が一、民間事業者も含めた専門家も一体となったチーム支援や、それに基づくアウトリーチに際して、子どもの意思を尊重せず、アセスメントを見立て間違いした場合は、集団で子どもや保護者を追い込み、家庭まで安全でない場にしてしまう危険性が考えられる。また前記の二つの報告にも、法に反する悪質な自称「フリースクール」等の悪意を持つ主宰者に対する明確な対策は示されていない。
 対して子どもの権利委員会総括所見では、項目「17」と「18」で、「独立した監視」が行えるように、日本の自治体での子どものオンブズパーソンについて留意し、パリ原則に基づいた独立した国家人権委員会の設置を求めている。
 実際に先進自治体の事例では一九九九年に川西市で「子どもの人権オンブズパーソン」が誕生したのを嚆矢として現在では三十余の自治体で公的第三者機関が誕生していると聞く。また、文部科学省の「不登校に関する実態調査」(平成二十六年七月)では不登校の原因として、学校でのいじめ等や教員からの体罰等が高い割合にある。学校で起きる権利侵害に苦しむ者を守り、学校の環境をより良くすることは不登校で苦しむ者の減少にもつながるのではないか。
 そこで、万が一地域等で子どもの意思をくみ取れない事案が発生した際の救済機関として、国レベルで条約の趣旨に基づく子どもオンブズパーソンを設置してはどうか。そのためには子どもオンブズパーソン設置を研究し、検討の後に試験的に実施するのがよいと思うがどう考えるか、見解を示されたい。

十一 不登校児童生徒の親の教育義務について

1 憲法第二十六条や他の憲法条文、子どもの権利に関する条約、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)、国内法等を見ても、子どもに教育を受ける権利や学習権があるのは当然である。また条約の第三十一条では無条件の休息権を子どもに保障している。子どもには学習権はあっても、登校の義務は法的にないと考えるがこの認識でよいか。
2 教育義務については憲法学者の芦部信喜氏は憲法第二十六条の解説で「子どもに教育を受けさせる責務を負うのは、第一次的には親ないしは親権者である」と述べている。他にも条約第三条や第五条、第十八条、社会権規約第十三条や世界人権宣言第二十六条等でも、親や保護者が子どもの権利を侵害しないことを前提に、教育権を認めていると考えられる。教育基本法第十条でも父母や保護者に対して、子の教育について第一義的な責任を有するものと認め、同条第二項では「家庭教育の自主性の尊重」も認めている。民法第八百二十条も同様に子の利益のための保護者の監護を認めている。一方で我が国の学校教育法第十七条では就学させる義務を保護者に課している。そこで、以下について確認したい。
 子どもの意思に反して無理矢理登校させる、させない等の虐待や子どもへの人権侵害等を除き、不登校児童生徒に対して親や保護者が、子どもの意思と学習権を尊重して、教育権の行使として家庭教育を行う状態は、学校教育法施行令第二十条で規定する「正当な事由」となると考えてよいか。
3 学校教育法第十七条の就学させる義務は、親や保護者が児童生徒の意思に反して学校に無理に登校させる義務ではなく、児童生徒が学びたいときに、学ぶことを支援すること、また学校教育を児童生徒が学びたい際に、親や保護者がその学びを阻害しないことの義務であると理解してよいか。
4 憲法や条約等の学習権の趣旨及び前記十一の1から3を踏まえると、いじめや体罰等の人権侵害等が一要因となる不登校は、学校教育法第十八条の就学義務の猶予・免除の要件の「その他やむを得ない事由」に含まれるかどうか、見解を示されたい。
 また前記等が認められる状況の場合、子どもは学校に通えず、学校が安全配慮義務を守っていない状況になる。その間の子どもの学習権を保障するために、憲法及び各種の条約や教育基本法で保障するところの親や保護者の教育権、教育義務が認められ、その学習は子どもが望めば国や自治体が支援し、保障されるべきであると考えるが、見解を示されたい。
5 司法解釈としても、いじめ自死に対する解釈では、登校をさせたことによる自死が過失相殺の原因となっている事例がある。またそれに対する学理解釈でもいじめの際に不登校や転校を選択することが親の監護義務の内容をなすという解釈もある。
 前記司法解釈及び学理解釈を踏まえると、いじめ防止対策推進法第二十三条第一項では、いじめが疑われたり、実際にいじめがある際には、保護者が学校への通報を始め「適切な措置をとる」ことを認めている。不登校児童生徒に対して親等が児童の求めに応じて行う家庭での学習についても「適切な措置」に含まれると理解してよいか。
6 子どもが、学校教育法施行令第二十条に定める校長の通知義務の例外である「正当な事由」により学校を休む場合や、条約第三十一条で保障された休息権を求めた場合、これらを「マズローの法則」の第一、第二段階の欲求を充足させるために必要な期間ととらえ、無条件に休息させることも親の教育義務の一環と解釈してよいか。
 また、こうした子どもの欲求に対して親や保護者が、ホームスクールや、今でも認められているIT等を利用した家庭教育を行う場合、これらは教育義務の行使として認められると考えるが、見解を示されたい。
7 もし政府が、前記十一の6に示した「休息権」を子どもの権利として認めないとする解釈や憲法、条約及びその他の法に基づく親や保護者の教育権を認めないとする解釈をとっている場合は、前記十一の1に挙げた憲法及び各種の条約や教育基本法について、親や保護者の有する教育権と、子どもの有する学習権についての政府の解釈を示されたい。

  右質問する。