質問主意書

第190回国会(常会)

質問主意書


質問第一三五号

二〇二〇年の五輪開催予定都市である東京における放射性物質による汚染の現状に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年五月三十日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   二〇二〇年の五輪開催予定都市である東京における放射性物質による汚染の現状に関する質問主意書

 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」という。)爆発事故は五年以上経過した現在も、相次ぐ汚染水漏れ等、未だ収束にはほど遠い現状である。一方、平成三十二年には東電福島第一原発爆発事故現場から直線距離でわずか二百三十キロメートル程度しか離れていない東京都を開催都市とした東京二〇二〇オリンピック・パラリンピック(以下「東京二〇二〇五輪」という。)が予定されている。
 平成二十五年九月七日、安倍首相はブエノスアイレスで開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会でのプレゼンテーションにおいて「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません。(日本語訳)」(以下「IOC総会プレゼン発言」という。)と述べたが、諸外国の我が国に対する食品等の放射性物質汚染に係る輸入規制等の対応が、現在も東京都を含む東日本の各都県に広く及んでいる状況を鑑みれば、東京都も東電福島第一原発爆発事故で飛散した放射性物質汚染により影響を受けた地域であるとの認識が未だ変わっていないことに他ならないわけであり、また東京二〇二〇五輪招致活動を巡る贈収賄疑惑に対する疑念が世界中に広がりつつある現状においては、安倍政権は東電福島第一原発爆発事故が東京都に及ぼした影響と現状に関して、より丁寧かつ正確な説明を国内外に向けて発信していく必要があると考える。
 以上を踏まえて、二〇二〇年の五輪開催予定都市である東京における、東電福島第一原発爆発事故で飛散した放射性物質汚染の現状に関する安倍政権の認識を確認すべく、以下質問する。なお、答弁はまとめず、各質問項目ごとに個別に回答されたい。

一 東京都健康安全研究センターにおいては、文部科学省からの委託事業である環境放射能調査により、年一回、土壌中の放射性物質のモニタリング(以下「定期土壌汚染モニタリング」という。)が行われている。同センターのホームページには、東京都新宿区百人町の同センター敷地内における土壌中の放射性物質モニタリング結果が公表されているが、深さ〇から五センチメートルの乾土中のセシウム一三七及びセシウム一三四の検出値(ベクレル/キログラム)は各々、平成二十三年九月六日が四百三十及び三百六十、平成二十四年九月四日が四百九十及び三百、平成二十五年九月二十四日が四百五十及び二百、平成二十六年九月二十六日が四百五十及び百五十、平成二十七年九月十四日が五百及び百二十とのことであり、これらの調査結果(以下「事故後調査結果」という。)は、同センターのホームページに示されている、東電福島第一原発爆発事故以前の平成十八年度から平成二十二年度の五年間の調査結果、セシウム一三七の二・〇〇から三・六七ベクレル/キログラム(セシウム一三四は不検出)(以下「事故前調査結果」という。)と比べても、二桁も大きい検出値となっている。事故後調査結果にて示されたセシウム一三七及びセシウム一三四の検出値が、事故前調査結果のセシウム一三七及びセシウム一三四の検出値に比して著しく高値であることについて、その原因及び理由に関する政府の見解を明確に示されたい。

二 前記一に関して、この定期土壌汚染モニタリングは、新宿区百人町の同センター敷地内でしか行っていないとのことであるが、定期土壌汚染モニタリングを、同センター敷地内のみならず、東京都内の他の地点等においても行うことの要否に関して、政府としての認識を明らかにされたい。

三 株式会社朝日新聞出版の「週刊アエラ」平成二十四年六月十八日号において、市民らにより全国百箇所以上の道路脇等において採取された、いわゆる「黒い土」と呼ばれる物質の、東北大学及びいわき明星大学による放射性セシウム分析結果が報じられた。これによれば、東京都千代田区内においても、北の丸公園靖国口で二万五千百五十九ベクレル/キログラム、東京国立近代美術館工芸館前で九万千七百九十ベクレル/キログラム、皇居桃華楽堂前で八万四千六百十一ベクレル/キログラム、皇居乾門で三万四千六百六十七ベクレル/キログラム、皇居天守台石垣下で四万九千三百九十三ベクレル/キログラムの放射性セシウム(以下「「黒い土」の測定値」という。)が、これらの「黒い土」から検出されたとある。これらの地点における「黒い土」の測定値は数万ベクレル/キログラムのオーダーであり、前記一の新宿区百人町の定期土壌汚染モニタリングでの測定値よりも桁違いの高値であるにもかかわらず、その地点における地上一メートルの空間線量率の測定結果等を根拠に、同地点は「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成二十三年法律第百十号)第三十二条において定められた「汚染状況重点調査地域」の対象に該当しないとされ、これらの「黒い土」は、東京都によっても国によっても、その後調査も除染もされることなく放置されているとのことである。
 これらのいわゆる「黒い土」と呼ばれる高度放射性汚染物質について、以下質問する。

1 これらの物質が東京都内の道路脇等に存在していることについて、政府はその存在の事実を確認、把握しているか。その存在を確認、把握していない場合は、今後調査等を行う意向はあるか、政府としての見解を明確に示されたい。また、その存在を確認、把握している場合は、継時的調査及び除染等することなく放置している理由を明確に示されたい。
2 「黒い土」の測定値は平成二十四年現在のものであるが、定期土壌汚染モニタリングにて示された測定値の如く、特にセシウム一三七の測定値は現時点においてもほとんど減衰していないものと考えられ、東京二〇二〇五輪開催時点においても、セシウム一三七の半減期等を考慮すれば、その測定値が減衰して低下しているとは考え難い。さらに、これらの「黒い土」が認められた東京都千代田区は、東京二〇二〇五輪開催地区であるヘリテッジゾーンに該当している。世界各国から多くのアスリートや外国人観光客を迎え入れるにあたって、これらのいわゆる「黒い土」と呼ばれる高度放射性汚染物質については、例え国の定める「汚染状況重点調査地域」の対象に該当しない場合であっても、その汚染の実態調査を行い、適時必要に応じて除染等行うことが、必要かつ極めて重要と考えるが、政府の見解如何。

四 平成二十七年六月十八日の参議院環境委員会の櫻井充参議院議員の質疑に対して政府参考人鎌形浩史環境大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長は「その福島第一原発の事故に伴って出た放射性物質が東京都の地域にも飛散いたして、それによっての汚染が生じた結果のものがあるということでございます。」と答弁した。前記三の、いわゆる「黒い土」と呼ばれる高度放射性汚染物質も「福島第一原発の事故に伴って出た放射性物質が東京都の地域にも飛散いたして、それによっての汚染が生じた結果のもの」であるとの理解で相違ないか、政府の認識を明確に示されたい。また異なる原因によるものであるならば、他に如何なる原因が考えられるか、政府の見解を具体的に示されたい。

五 前記一から四に示した、定期土壌汚染モニタリング調査結果、いわゆる「黒い土」の測定値さらに政府参考人答弁等を鑑みれば、安倍首相のIOC総会プレゼン発言は事実に反するものと考えられるが、安倍内閣としての見解を明確に示されたい。また国内外の不安や不信感を払拭するつもりであるならば、IOC総会プレゼン発言は撤回し、二〇二〇年の五輪開催予定都市である東京における放射性物質による汚染の影響の実態を詳細に調査し、その調査結果を国内外に広く情報公開するべきであると考えるが、政府の見解如何。

  右質問する。