質問主意書

第189回国会(常会)

答弁書


答弁書第三六八号

内閣参質一八九第三六八号
  平成二十七年十月六日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員小西洋之君提出昭和四十七年十月十四日に参議院決算委員会に提出された防衛庁資料「自衛行動の範囲について」と安倍内閣による昭和四十七年政府見解の読み替えとの論理矛盾に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員小西洋之君提出昭和四十七年十月十四日に参議院決算委員会に提出された防衛庁資料「自衛行動の範囲について」と安倍内閣による昭和四十七年政府見解の読み替えとの論理矛盾に関する質問に対する答弁書

 昭和四十七年十月十四日に参議院決算委員会に提出された政府資料「集団的自衛権と憲法との関係」(以下「昭和四十七年の政府見解」という。)においては、
(一)まず、「憲法は、第九条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において「全世界の国民が・・・・平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認し、また、第一三条において「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、・・・・国政の上で、最大の尊重を必要とする」旨を定めていることからも、わが国がみずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであつて、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。」としている。この部分は、昭和三十四年十二月十六日の砂川事件最高裁判所大法廷判決の「わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。」という判示と軌を一にするものである。
(二)次に、「しかしながら、だからといつて、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであつて、それは、あくまで外国の武力攻撃によつて国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためにとられるべき必要最少限度の範囲にとどまるべきものである。」として、このような場合に限って、例外的に自衛のための武力の行使が許されるという基本的な論理を示している。
(三)その上で、結論として、「そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであつて、したがつて、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」として、(一)及び(二)の基本的な論理に当てはまる例外的な場合としては、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるという見解が述べられている。
 この(三)の結論は、従来のいわゆる自衛権発動の三要件(第一要件)と同じである。
 昭和四十七年十月十四日に参議院決算委員会に提出された政府資料「自衛行動の範囲について」は、従来のいわゆる自衛権発動の三要件を前提として、「わが国に対し外部からの武力攻撃がある場合」において、我が国が武力の行使として行う自衛行動の地理的な範囲について、「公海、公空に及ぶことができる」、「いわゆる海外派兵・・・は、憲法上許されない」、「誘導弾等による攻撃を防ぐのに他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、・・・憲法上、可能である」とした上で、「さきの参議院決算委員会における水口議員のご質問は、以上のような憲法第九条が許容している自衛行動の範囲について、その具体的適用が個別の場合にどうであるかを明確にされたいとのご趣旨かと思われるが、現実の事態においては、事は広範にわたり、そのときの国際情勢、武力攻撃の手段・態様等により千差万別であり、限られた与件のみを仮設して論ずることは適当でないと思われる」としたものである。
 「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成二十六年七月一日閣議決定)でお示しし、平成二十七年九月十九日に成立した我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第七十六号。以下「改正法」という。)による改正後の自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第七十六条第一項及び第八十八条並びに改正法による改正後の武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第二条第二号及び第四号、第三条第三項及び第四項並びに第九条第二項第一号ロに明記されている「武力の行使」の三要件(以下「新三要件」という。)は、昭和四十七年の政府見解で示されている(一)及び(二)の基本的な論理を維持し、この考え方を前提として、我が国を取り巻く安全保障環境の変化を踏まえ、この基本的な論理に当てはまる例外的な場合として、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるとしてきたこれまでの認識を改め、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合もこれに当てはまるとしたものである。すなわち、国際法上集団的自衛権の行使として認められる他国を防衛するための武力の行使それ自体を認めるものではなく、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として、一部、限定された場合において他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とする武力の行使を認めるにとどまるものであり、新三要件を満たす限定的な集団的自衛権の行使は、昭和四十七年の政府見解で示されている(一)及び(二)の基本的な論理の枠内のものであり、「昭和四十七年政府見解にある「外国の武力攻撃」の文言を「わが国に対する外国の武力攻撃」以外の「同盟国等に対する外国の武力攻撃」などと読み替え、昭和四十七年政府見解の中に限定的な集団的自衛権行使の論理が許容されているなどと主張することは、日本語が日本語である限り、世の中に理屈や論理がある限り絶対に許されないことになる、すなわち、昭和四十七年政府見解の意図的かつ便宜的、恣意的な読み替えとなる」との御指摘は当たらない。