質問主意書

第189回国会(常会)

答弁書


答弁書第二三四号

内閣参質一八九第二三四号
  平成二十七年八月十八日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員福島みずほ君提出子ども・被災者支援法の基本方針改定に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員福島みずほ君提出子ども・被災者支援法の基本方針改定に関する質問に対する答弁書

一について

 東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(平成二十四年法律第四十八号。以下「法」という。)第一条において、被災者は「一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住し、又は居住していた者及び政府による避難に係る指示により避難を余儀なくされている者並びにこれらの者に準ずる者」と規定されているが、政府としては、その人数について調査を行っておらず、お答えすることは困難である。
 なお、福島県が平成二十七年八月十二日に公表した「平成二十三年東北地方太平洋沖地震による被害状況即報(第一四九三報)」によると、福島県から県内及び県外への避難者数は十万八千百二十五人であると承知している。

二の1から3までについて

 原子力規制庁が実施している航空機モニタリングの結果に基づき推計した外部被ばく線量は、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)発生時と比べ、大幅に低減しており、各市町村で実施している個人被ばく線量の測定、福島県が実施しているホールボディ・カウンタ検査及び厚生労働省等が実施している食品検査等の結果の数値も相当程度低いものとなっていることから、「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」(平成二十五年十月十一日閣議決定。以下「基本方針」という。)について、平成二十七年七月十日に復興庁が公表した改定案(以下「基本方針改定案」という。)では「避難する状況にはなく」としており、削除すべきとは考えていない。
 他方、基本方針改定案においては、「被災者が、いずれの地域かにかかわらず、自ら居を定め、安心して自立した生活ができるよう、法の趣旨に沿って、定住支援に重点を置きつつ、地方創生分野の取組など各施策も活用しながら、引き続き必要な施策を行っていく」としており、法の趣旨に反するものではない。

二の4について

 法第八条第一項に規定する支援対象地域(以下「支援対象地域」という。)は、同項において「その地域における放射線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基準以上である地域」をいうものとされている。「政府による避難に係る指示」は空間線量率を基にしており、支援対象地域の設定についてもこれに合わせたものである。

三について

 国際放射線防護委員会は、「原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用(ICRP Publication 111)」において、現存被ばく状況に適用する参考レベルは年間一から二十ミリシーベルトの下方部分から選択すべきであり、長期の事故後における代表的な参考レベルは年間一ミリシーベルトである旨を勧告している。これを受け、原子力規制委員会が平成二十五年十一月二十日にまとめた「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方」(以下「基本的考え方」という。)では、「国際放射線防護委員会(ICRP)は、・・・参考レベル・・・は、長期的な目標として、年間一~二十ミリシーベルトの線量域の下方部分から選択すべきであるとしている。過去の経験から、この目標は、長期の事故後では年間一ミリシーベルトが適切であるとしている」としている。
 こうした国際放射線防護委員会の考え方を踏まえ、基本的考え方においては、原子力規制委員会として、「長期目標として、帰還後に個人が受ける追加被ばく線量が年間一ミリシーベルト以下になるよう目指すこと」と提言している。
 基本方針改定案においては、専門的な知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会がまとめた基本的考え方を引用する形で、「「国際放射線防護委員会(ICRP)は、・・・参考レベル(中略)は、長期的な目標として、年間一~二十ミリシーベルトの線量域の下方部分から選択すべきである」とする一方、「・・・長期目標として、帰還後に個人が受ける追加被ばく線量が年間一ミリシーベルト以下になるよう目指すこと」としている」としていることから、それぞれの記載に齟齬はなく、御指摘のような修正は必要ないと考えている。

四について

 お尋ねの「参考レベル」については、長期目標として個人が受ける追加被ばく線量が年間一ミリシーベルト以下になるよう目指すこと等を提言した基本的考え方に基づく施策を政府において実施していること等から、設定していない。

五及び六について

 基本方針において、「原発事故発生後、年間積算線量が二十ミリシーベルトに達するおそれのある地域と連続しながら、二十ミリシーベルトを下回るが相当な線量が広がっていた地域においては、居住者等に特に強い健康不安が生じたと言え、地域の社会的・経済的一体性等も踏まえ、当該地域では、支援施策を網羅的に行うべきものと考えられる」とし、支援対象地域についての考え方を示した上で、支援対象地域は、福島県中通り及び浜通りの市町村(避難指示区域等を除く。)としたところである。
 その上で、施策の趣旨目的等に応じて、支援対象地域に加え、施策ごとに、支援対象地域より広範囲な地域を支援対象地域に準じる地域(以下「準支援対象地域」という。)として定めることとし、必要な被災者生活支援等施策を推進しているところである。
 したがって、支援対象地域及び準支援対象地域により、必要な被災者生活支援等施策が講じられているものと認識しており、支援対象地域を拡大する必要はないと考えている。

七について

 政府としては、原発事故の発生前については、現在行われている航空機モニタリングの結果と比較可能な形での測定を行っておらず、空間線量率の増減について一概にお示しすることは困難である。

八について

 御指摘の「線量マップ」は、原子力規制庁が実施している航空機モニタリングの結果に基づき推計した外部被ばく線量について、分かりやすくするため地図に示したものである。
 御指摘の「〇・八五」は、平成二十七年三月十六日に、独立行政法人放射線医学総合研究所(当時)及び独立行政法人日本原子力研究開発機構(当時)が公表した「「東京電力(株)福島第一原子力発電所事故に係る個人線量の特性に関する調査」の追加調査―児童に対する個人線量の推計手法等に関する検討―報告書」で、零歳児から三歳児までを想定した模擬試験を行った結果、空間線量率から実効線量に換算する際の係数として公表されているものである。同報告書では、三歳から十八歳になるまでは○・八、十八歳以上は○・七を換算係数として用いることも示されているが、「線量マップ」の作成に当たっては、保守的に「○・八五」を用いたところである。

九について

 電離放射線障害防止規則(昭和四十七年労働省令第四十一号)では、外部放射線による実効線量と空気中の放射性物質による実効線量との合計が三月間につき一・三ミリシーベルトを超えるおそれのある区域か、放射性物質の表面密度が限度(アルファ線を放出する放射性同位元素による表面汚染に関する限度は一平方センチメートル当たり四ベクレル、アルファ線を放出しない放射性同位元素による表面汚染に関する限度は一平方センチメートル当たり四十ベクレル)の十分の一を超えるおそれのある区域のいずれかに該当する区域を管理区域と定めている。
 この基準は、放射性物質を適切に管理することにより、労働者が受ける放射線被ばくをできるだけ少なくするために、事業者が講ずべき措置等を規定しているものであり、住民避難の基準を示すものではない。政府としては、長期目標として個人が受ける追加被ばく線量が年間一ミリシーベルト以下になるよう目指すこと等を提言した基本的考え方に基づき、個人の選択を尊重し、必要な支援を行っていく考えである。

十について

 お尋ねの「東日本各県の土壌汚染」の意味するところが必ずしも明らかでなく、網羅的にお答えすることは困難であるが、例えば、平成二十五年度に行われた環境放射能水準調査の結果によれば、東北地方各県(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県及び福島県)において採取した地表から深さ約五センチメートルまでにある土壌から一キログラム当たり、青森県青森市で七・一ベクレル、岩手県岩手郡滝沢村で二百八十五ベクレル、宮城県大崎市で三百九十ベクレル、秋田県秋田市で三十一ベクレル、山形県山形市で百六十ベクレル、福島県福島市で七百ベクレルの放射能濃度のセシウム一三七が検出されている。

十一について

 基本方針改定案において、法第五条第二項の規定により基本方針で定めるものとされている「被災者生活支援等施策に関する基本的な事項」において主要な施策を記載した上で、「被災者が具体的な施策について把握できるようにするため、関係省庁の各施策の概要、対象地域等を記した資料を別途取りまとめ、公表する」としたところである。

十二について

 御指摘の「福島県民健康調査検討委員会甲状腺検査評価部会」の「甲状腺検査に関する中間とりまとめ」(以下「評価部会中間取りまとめ」という。)においては、「先行検査で得られた検査結果、対応、治療についての評価」として「検査結果に関しては、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。この解釈については、被ばくによる過剰発生か過剰診断(生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断)のいずれかが考えられ、これまでの科学的知見からは、前者の可能性を完全に否定するものではないが、後者の可能性が高いとの意見があった」と記載されていると承知している。また、御指摘の平成二十六年度厚生労働科学研究費補助金食品の安全確保推進研究事業による「食品安全行政における政策立案と政策評価手法等に関する研究」の分担研究である「日本の食品安全行政の現状分析―福島県甲状腺がんの発生に関する疫学的検討―」においては、「甲状腺がんの診断数が増えていることは事実であるが、過剰診断の可能性が高いと考えられ」ると記載されていると承知している。
 環境省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」の中間取りまとめ(以下「専門家会議中間取りまとめ」という。)においては、「成人に対する検診として甲状腺超音波検査を行うと、罹患率の十~五十倍程度の甲状腺がんが発見される」ことが記載されており、「「先行検査」で発見された甲状腺がんについて、・・・原発事故由来のものであることを積極的に示唆する根拠は現時点では認められない」と指摘されている。御指摘の「同様の分析」及び「専門家会議中間とりまとめの時点とは、既に状況が変わっている」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、専門家会議中間取りまとめの指摘と、評価部会中間取りまとめの指摘とは、福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の先行検査で発見された甲状腺がんについて少なくとも原発事故由来以外のものである可能性が高いことを示している点において同様と考えている。
 お尋ねの「福島県外での健診」の意味するところが必ずしも明らかではないが、専門家会議中間取りまとめにおいては、福島県以外の地域の放射性ヨウ素による被ばくについて「福島県内よりも福島近隣県の方が多かったということを積極的に示唆するデータは認められていない」とされていることから、福島県の近隣県における今後の施策の方向性について「まずは福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の状況を見守る必要がある。その上で、甲状腺がんに対する不安を抱えた住民には個別の健康相談やリスクコミュニケーション事業等を通じてこれまでに得られている情報を丁寧に説明することが重要である」とされている。このことから、政府としては、福島県外において福島県の県民健康調査「甲状腺検査」と同様の検査が必要とは考えていない。

十三について

 福島県においては、災害救助法(昭和二十二年法律第百十八号)に基づく応急仮設住宅について、平成二十八年三月末までとしていた供与期間を、平成二十九年三月末まで延長することとしたところである。
 基本方針改定案においては、「政府としては、被災者がいずれの地域においても安心して生活を営むことができるよう、適切に対応していく」こととしている。