質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第三四六号

高齢者に対する在宅歯科診療の推進に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年九月二十五日

牧山 ひろえ   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   高齢者に対する在宅歯科診療の推進に関する質問主意書

 口の健康は全身の健康に深く関係している。食べることは生きること、人としての尊厳そのものである。超高齢社会を迎えている我が国の医療においては、訪問診療、特に在宅診療の推進は急務である。実際、一歯科診療所当たりの歯科訪問診療実施件数は増加している。ただ、その増加分のほとんどは施設への訪問診療であり、在宅訪問は微増に留まっている。また、歯科の四割が在宅歯科治療の経験がない。このことから分かるように、国民の健康を支える在宅歯科診療には数多くの困難があり、早急に改善が求められる。その認識を前提に、以下の質問を行う。

一 在宅訪問歯科診療の患者がしばしば持つ基礎疾患に、認知症がある。在宅高齢者は独居や昼間独居が増加しており、患者と歯科医師が一対一で治療に当たる場合が生ずることから、認知症症状による物忘れや物盗られ妄想などによるトラブルにも注意が必要となる。すなわち、在宅歯科訪問診療については、認知症という側面からも一人で訪問を行うリスクがあるということである。
 在宅療養支援歯科診療所の施設基準では歯科衛生士の配置が要件となっている。歯科衛生士が在宅歯科訪問診療に同行した場合の評価は在宅支援歯科診療所の施設基準届出診療所に限られている上、東京の歯科診療所における歯科衛生士の充足率は五十%強であることから、歯科衛生士の確保が困難となり、施設基準の届け出ができない歯科診療所が多数存在する。在宅歯科診療について、経験豊かな歯科助手の関わりを認め、施設基準にしばられることなく二人以上の体制を確保することができるような手立てが必要ではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 患者の現役時の居住地と入所する介護施設の所在地が離れている場合も多い。そのため、かかりつけの高齢患者への訪問診療については、歯科訪問診療料の算定が認められるのは十六キロメートル以内までという診療報酬の算定ルールが障壁となっている。この状況は、診療の継続性と患者と医師の信頼関係を重視する「かかりつけ医の普及・定着を図る」という我が国医療の方向性に反するのではないか。
 十六キロメートルという指定の根拠を明らかにするとともに、歯科訪問診療の距離制限が、かかりつけ患者への訪問診療への妨げにならないよう、地域の実情に合わせた診療報酬体系を再構築すべきではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

三 歯の状態と認知症発症には深い関連性があることが明らかになっている。「二〇一〇年度厚生労働科学研究」で、六十五歳以上の健康な高齢者四千四百二十五名のデータを分析した結果、①歯がほとんどない上、義歯を使用していない人、②かかりつけ歯科医院のない人等は、認知症発症リスクが高くなるという結果になっている。
 この結果から、認知症の予防のため、要介護認定を受けた全ての高齢者に対し、口腔機能のアセスメントの実施が必要ではないかと考えるが、政府の認識を示されたい。

四 一つの診療所で、う蝕、歯周病、欠損補綴や摂食嚥下障害など全ての分野を担うのは難しい。特徴を活かしつつ、患者により良い医療を提供するためには、ある一定の範囲は全歯科医師が担うが、それ以上の飛び抜けた部分はそれぞれに特化した歯科医療機関との連携ができれば、より適切な医療が提供できる。そのため、これからは歯科の診診連携が求められる。
 そのような医療連携の更なる推進のためには、連携時の情報提供の在り方の見直しが必要ではないかと考える。例えば診療情報提供書等による医療情報連携について、現在は書面による情報の受け渡しが診療報酬上の要件となっている。書面による情報提供では、迅速性にかける上、患者に強いる負担も大きなものとなっている。この医療情報連携は、個人情報の保護が大前提ではあるが、メールでも可能とするべきではないか。「日本再興戦略 改訂二〇一五」でも「次期診療報酬改定時に診療報酬におけるICTを活用した医療情報連携の評価の在り方を検討する。」と規定されていることとも、方向性は一致するのではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

五 高齢者の口腔ケアの充実には、在宅医療の推進とともに、要介護者の通院の充実も同時に必要である。全ての要介護者が在宅医療を望んでいる訳ではなく、医療機関での受診を望む者もいる。また、症状によっては設備が整った歯科医療機関での治療が必要な患者も存在する。重度の要介護者が一人で通院することは困難であるが、通院サービスが利用できれば、要介護者の選択権が保障される。しかしその金銭的な負担は重く、例えば介護タクシー等の運賃は実費であるなど、気軽には利用できない現状がある。この要介護者の通院の充実について、政府はどのような問題意識を持ち、どのような具体策で対応しようとしているのか、明らかにされたい。

  右質問する。