質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第三二三号

リニア中央新幹線と環境アセスに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年九月二十五日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   リニア中央新幹線と環境アセスに関する質問主意書

 二〇一四年六月五日に出された中央新幹線(東京・名古屋市間)に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見(以下「環境大臣意見」という。)は「本事業の工事及び供用時に生じる環境影響を、最大限、回避、低減するとしても、なお、相当な環境負荷が生じることは否めない」、「本事業の供用時には現時点で約27万kWと試算される大量のエネルギーを必要としているが(中略)これほどのエネルギー需要が増加することは看過できない」、「言うまでも無く、本事業は関係する地方公共団体及び住民の理解なしに実施することは不可能である」といった最大級の厳しい意見であった。
 また、その翌月の同年七月十八日に出された、同じく中央新幹線(東京・名古屋市間)に係る環境影響評価書に対する国土交通大臣意見(以下「国土交通大臣意見」という。)は、「環境大臣意見を勘案し、事業者が別紙の措置を講じることにより、本事業に係る環境の保全について適切な配慮がなされることが確保されるよう求める」というものであった。しかし、「配慮の確保」がどのようになされたか不明のうちに、同年十月十七日に工事の実施計画が認可されている。
 そこで、以下質問する。なお、質問の趣旨がわかりかねるので答弁できない、という回答は厳に慎んでいただきたく要請する次第である。

一 環境影響評価法第三十三条には「対象事業に係る免許等を行う者は、(中略)環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない」とある。審査を行い、環境の保全が確保できると判断したから、リニア新幹線の着工を認可したと考えられるが、環境大臣意見における「これほどのエネルギー需要が増加することは看過できない」との記載につき、また、最新技術での解析を求められた地下水シミュレーション及び希少猛禽類の影響回避措置につき、国はどのように勘案し、東海旅客鉄道株式会社(JR東海)から運行開始までにどのように解決すると説明を受けているのか。具体的に示されたい。

二 国土交通大臣意見に対して、事業者が解決できない場合又は説明が不十分である場合、国は本事業を中止することはあるか。また、その場合、誰が責任者なのか。

三 環境影響評価(以下「環境アセス」という。)の手続において、環境大臣は、評価書に対して参考意見を述べることができるが、一方で、補正評価書に対しては、対応や回答が不十分であっても意見を述べる権限がない。結果、事業の所管官庁の大臣である国土交通大臣によって許認可が下りてしまう、という現象がまま見られる。事実上、事業を推進しアクセルを踏む立場と、環境への配慮というブレーキをかける立場の双方を国土交通大臣が担っていることになり、自然環境の保全よりも開発が優先される余地が大きくなる危険が残っている。このことは、環境影響評価法の抱える根本的な欠陥とも考えうるが、改正による制度の何らかの見直しを図ることを国として想定はしていないのか。

四 環境アセス制度やその実績が進んでいるヨーロッパ諸国や米国では、評価の対象項目が、社会への影響、自然環境への影響、地域経済への影響、と広範囲にわたり、それらを総合的に判断する。日本では評価対象項目が「自然環境への影響」のみであるが、地域によっては「自然環境」のみならず、地域社会の「社会環境」に対しての影響、例えば、車両基地設置に伴う集落の分断や、交通量の大幅な増加などが、これまでの生活環境を一変させることがある。
 以上を鑑み、環境影響評価法の評価対象項目に、「社会環境への影響」評価を加えるべきと考えるが、いかがか。

五 環境大臣意見では、「本事業は関係する地方公共団体及び住民の理解なしに実施することは不可能である」と指摘されている。加えて、国土交通大臣意見でも、丁寧な説明をすることを求めている。しかし、地域が環境協定の締結を求めているにもかかわらず、事業者はそれを拒否しているという現象がまま見られる。
 また、南アルプスユネスコエコパーク事業との整合性について、具体的な保全への取組を、事業者とエコパーク運営側とが適切に進めているとは言い難い現状がある。地域住民からも、丁寧な説明がないままに測量などの作業が進められることへの不満の声が多く上がっていると聞く。
 加えて、長野県下伊那郡大鹿村では、地質調査に際して、夜間作業はしないでほしい旨の住民の声に対し、夜間作業をしないと工期に間に合わないとの事業者側の都合により、夜間調査が強行された。
 このように、リニア中央新幹線の着工に際し、地域住民の理解を得る努力を全力で行ったとは言い難い現状があり、環境大臣意見及びその意見を勘案するよう求めた国土交通大臣意見と齟齬が見られる。これらの事実は、事業認可の取消しにも値すると考えるがいかがか。

六 米国においては、事業の立案段階から、評価対象事業の提案だけでなく、場合によっては事業を実行しない案も含め、環境アセスのために複数案が常に義務付けられている。しかし、日本では環境への影響回避や低減措置が限定的であり、また、複数案の比較を行わない場合もある。改善のために、環境基本法の第十九条に定める国の責務である、「国は、環境に影響を及ぼすと認められる施策を策定し、及び実施するに当たっては、環境の保全について配慮しなければならない」との規定にのっとり、事業立案段階での環境影響評価、いわゆる戦略アセス型の手法の実現が必要と考えるがいかがか。

七 現在の日本の環境アセスの手続は、環境アセス手続上での科学的指摘に対し、一方的に事業者の見解を明らかにするだけであり、説明責任が十分に果たされておらず、形式的なものに終わっている。
 しかしながら、本来、環境アセス制度とは、双方向のコミュニケーションを経ての結論が非常に重要である。科学的指摘に対しては、科学的な反論や回答、意見の不採用の場合にはその科学的な根拠のある理由開示の義務付けが必要であると考えられるがいかがか。

  右質問する。