質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第二九一号

徴兵制度の採用が完全には否定できないことに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年九月十五日

藤末 健三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   徴兵制度の採用が完全には否定できないことに関する質問主意書

 政府は、憲法上、徴兵制度を採用できない根拠として、憲法第十八条の禁止する「その意に反する苦役」に徴兵制度が該当すると説明してきた。しかしながら、平成二十六年七月一日の閣議決定で、我が国を取り巻く安全保障環境の変化を理由に、過去の政府見解では絶対にあり得ないとされてきた集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更がなされた現状に鑑みれば、政府の憲法解釈の変更による徴兵制度の採用の可能性も、完全には否定されていないと言わざるを得ない。
 横畠内閣法制局長官は、平成二十七年六月十九日の衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会において、「徴兵制そのものにつきましては、単なる環境の変化によって法的評価が変わるはずもない」と答弁している。しかし、労働人口減による若手自衛官の不足、安全保障関連法案が成立した場合に考えられる人員増など、現段階では想定しえない大きな環境の変化はいくらでも起こりうる。
 政府の憲法解釈の変更による徴兵制度の採用が完全には否定できないことに関して、以下質問する。

一 政府は、憲法第十八条における「その意に反する苦役」に徴兵制度が含まれており、このために徴兵制度は採用できないとしている。ドイツ、シンガポール、韓国など、日本以外にも自国の憲法に「その意に反する苦役」からの自由と同趣旨の条項を有する国はあるが、その全ての国において、「その意に反する苦役」に徴兵制度が含まれるとの解釈がなされているわけではない。例えば、アメリカは、合衆国憲法修正第十三条で「意に反する苦役(involuntary servitude)」からの自由を定めているが、一九一八年の連邦最高裁判決では、兵役などの義務は国民が国に対して負う義務であり、意に反する苦役に当たらない旨判示がなされている。また、世界人権宣言第四条にも「苦役に服することはない」とあるが、その苦役には徴兵制度は含まれていないとされている。これらの諸事情を踏まえれば、将来的には他国の憲法解釈に合わせる形で、政府が憲法解釈を変える可能性も十分にあるのではないか。

二 日本以外に「その意に反する苦役」に徴兵制度が含まれると解している国はあるか。

三 日本の周辺諸国で徴兵制度を採用している国を示されたい。安倍内閣総理大臣は、今やG7諸国はいずれも徴兵制度を取っておらず、日本についても徴兵制度の導入の余地は全くない旨答弁している。しかし、日本を取り巻く全ての国、すなわち、ロシア、中華人民共和国(法律では、中国陸軍は不足に応じて、選抜徴兵制を実施することになっている)、韓国、北朝鮮、台湾は、徴兵制度又はこれに類する制度を有しているということを、政府は認識しているのか。

四 リトアニアとウクライナは、安全保障環境が厳しくなったことを理由に、徴兵制度を復活させたとされる。日本も安全保障環境が厳しくなれば、自衛隊員の数が足りないとして徴兵制度を復活させる可能性があるのではないか。

五 今回の安全保障関連法案が成立すると、自衛隊の海外における任務が大幅に増え、自衛隊の活動地域が非戦闘地域から現に戦闘行為が行われていない地域に広がり、また、弾薬の提供や武器・弾薬の輸送なども行えるようになる。明確に自衛隊の危険は増すことになるが、これにより、自衛隊員が大量に職を辞することはあり得ないと政府は考えているのか。自衛隊員にきちんと説明を行い、危険な任務が増えることについて了解を得ているのか。

  右質問する。