質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第一八八号

漢方医学と漢方薬を日本と世界に全面展開することに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年六月二十九日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   漢方医学と漢方薬を日本と世界に全面展開することに関する質問主意書

一 国際標準化機構(ISO)が定める国際規格について

1 今年六月に、中国北京で開催された国際標準化機構(ISO)の伝統中医薬標準化技術委員会(TC249)において、東洋伝統医学の正式名称が、伝統中医学(TCM=Traditional Chinese Medicine)に決定されたと報道されているが、それは事実か。
 事実とすれば、その決定に至る経緯を、日本と韓国のとった行動も含めて、詳細に示されたい。
2 前記一の1の決定により日本の漢方医学、韓国の韓医学はどのような影響を受けるのか、政府の見解を明らかにされたい。
 また、中国の標準化国家戦略に対して、日本の漢方医学・漢方薬をどのようにして守り、発展させていくのか、政府の見解を明らかにされたい。
3 中国と韓国は、東洋伝統医学の国際標準化に対して、政府の担当組織をつくり、国家予算も投じている。それに対して、日本政府の対応はあまりにも立ち遅れているのではないか、政府の見解を明らかにされたい。
 また、この立ち遅れに関して、今後はどのようにして、中国・韓国に対する競争力を強化していくつもりなのか、政府の見解を明らかにされたい。さらに、支援体制及び予算措置の現状を示されたい。
4 ISOとは別に、世界保健機関(WHO)での疾病及び関連保険問題の国際統計分類(ICD)の改定作業における日本の伝統医学である漢方医学・漢方薬の現在の扱いはどうなっているのか、示されたい。また、同改定作業に対する政府の支援体制と、WHOが指定した日本における協力センターの活動、そして今後の政府の支援方針を明らかにされたい。
5 TC249において、北里大学東洋医学総合研究所と富士通グループによる、ICTを用いた漢方医学の取組が提案された。この提案に至る経緯と現状について、政府の承知するところを示されたい。また、この提案に対する政府の評価と、政府としての支援方針について、見解を明らかにされたい。

二 超高齢社会における漢方医学と漢方薬の重要性について

1 日本独自の発展をとげた、日本の伝統医学である漢方医学・漢方薬は、「人間」を診る全人医療であり、病気が発病する前の「未病」の段階からの予防・健康増進に大きな効果がある。日本は、同一の医師免許で、西洋医学と漢方医学を併用することができるので、総合医として受診者に対応することができる。超高齢社会における日本の医療は、西洋医学と漢方医学を車の両輪として位置付けることが重要だと思うが、政府の見解如何。
2 漢方薬は西洋薬と比べて、薬価が非常に安く、副作用も少ない。また、薬局の薬剤師に相談するなどして、セルフメディケーションとして、漢方薬の市販薬を利用することもできる。超高齢社会における、予防・健康増進と治療に漢方薬を活用することは、医療の質を高めつつ、医療費の抑制にもつながると考えるが、政府の見解如何。
3 新型インフルエンザ対策として、治療薬タミフル、リレンザが備蓄されているが、期限切れによる大量の廃棄処分が問題となっている。漢方薬の麻黄湯は、特にインフルエンザの初期の諸症状に対して、タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ等と同等以上に有効であると思うが、政府の見解如何。また、麻黄湯をタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタとともに抗インフルエンザ薬とし、予防投与や備蓄の対象とすべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
4 漢方薬では、大腸がんの手術後の腸閉塞予防に、大建中湯が有効であることが知られており、米国でも注目されている。この大建中湯の有効性について、政府の評価を示されたい。また、認知症に効果がある抑肝散と釣藤散、更年期障害に効果がある桂枝茯苓丸、当帰芍薬散及び加味逍遥散、こむらがえりに効果がある芍薬甘草湯について、それぞれの有効性に対する政府の評価を示されたい。
5 漢方薬の薬価は、開発費に巨額の費用がかかる西洋薬と同じような基準で算定され、基本的には下がり続けている。厚生労働省は医療上の必要性が高く、原料が高騰するなどの理由で薬価が生産コストなどの原価を下回っている不採算品目については薬価の引上げを行うとしているが、そもそも漢方薬の薬価の算定基準は、西洋薬の算定基準とは切り離して、コストプラス適正利潤を基準として算定すべきだと思うが、政府の見解を明らかにされたい。

三 クールジャパン、成長戦略としての漢方医学・漢方薬について

1 政府の成長戦略としてのクールジャパン戦略とは、「日本の魅力を世界へ発信し、世界の成長を取り込むことで、我が国の経済成長につなげることを目的とした取組であり、日本全体のブランド戦略の一環でもある」、「伝統的な魅力を再発見・再編集して発信・展開する事業者が活躍し、競争と新陳代謝が促進されることで、我が国経済が活性化していくことが期待される」ものだと、「クールジャパン戦略推進会議」報告書に記述されている。日本独自に発展した伝統医学であり、世界でも注目されている日本の漢方医学と漢方薬こそ、クールジャパン戦略、日本全体のブランド戦略にふさわしいものとして、我が国の成長戦略、輸出戦略、クールジャパン戦略に取り入れるべきであると考えるが、政府の見解如何。
2 日本の漢方医学・漢方薬を、日本ブランドとして世界に展開するには、漢方薬の原料である生薬の国内栽培が必要不可欠となる。大部分を中国産に依存することによる、原料生薬の量的不足、価格高騰を防ぐだけでなく、日本ブランドの漢方薬には世界最高の品質と安全性が求められるからである。
 その生薬の国内栽培には、日本の中山間地域が適地となる場合が多い。中山間地域の高付加価値農業として、漢方薬の原料である生薬の国内栽培に、地域再生・地方創生のための成長戦略としても取り組むべきだと考えるが、政府の見解如何。
3 生薬には、多くの薬草とともに、キハダ、コウボク、ビワ、メグスリノキ、クロモジなど、樹木・樹皮に由来するものも数多く存在する。これら森林内での原料生薬の生産を推進することについて、特に森林組合の役割が重要と考えるが、政府の見解如何。
 さらに、森林内での原料生薬の生産を推進することについて、これまでの政府の取組の状況、今後の推進の方針について示されたい。
4 二〇一三年十二月、神奈川県、富山県及び奈良県が協力して、国内有力企業が参加する一般社団法人漢方産業化推進研究会が設立された。同研究会は「日本再興戦略に資する漢方を通じた国家戦略特区」の提言を行ったとのことであるが、この件を政府は承知しているか、また、どのように対応したのか。このような取組は、クールジャパン、成長戦略の推進にとって有効な取組の一つと考えるが、政府の見解如何。
5 世界最高の品質(有効性)と安全性を備えた日本ブランドの漢方薬を世界に展開するには、現行の日本薬局方では不十分との議論がある。最低限の品質を保証するだけでなく、高品質の評価(等級判断なども含めて)が可能となるような日本薬局方の改正をすべきだと思うが、現在その予定はあるか。
 また、生薬の等級判断も含めた高品質の評価を行うべきであるとの考えについて、政府の見解を明らかにされたい。

四 漢方医学・漢方薬の全面展開についての政府の推進・支援体制について

1 厚生労働省においては、現在、漢方を推進する専門組織が存在しない。これは、国際標準化競争においても、超高齢社会における活用においても、クールジャパン戦略の展開においても、重大な日本政府の問題点であると考える。可及的速やかに、厚生労働省に「漢方推進室」を設立すべきだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
2 文部科学省には、高等教育の医学・薬学における漢方医学・漢方薬教育の更なる充実が求められる。高等教育の医学・薬学における漢方医学・漢方薬教育の現状に関する政府の見解を明らかにするとともに、今後の取組の方針を示されたい。
3 農林水産省では、日本の漢方薬メーカーが自ら国内で生薬栽培を行っている事例がどのくらいあると把握しているのか示されたい。また、厚生労働省との共催による漢方生薬関係団体、生産者団体、主産県等の参加する薬用作物に関する情報交換会のこれまでの経緯とその成果を示されたい。さらに、強い農業づくり政策の一環として生薬の国内栽培は位置付けられているのか。加えて、これら以外にも農林水産省として、生薬の国内栽培の推進に取り組んでいる事例があるのか、政府の今後の取組の方針も含めて示されたい。
4 経済産業省は、国際標準化競争に勝ち抜くだけでなく、日本の漢方医学・漢方薬の産業化、ICT化、輸出戦略、他業種有力企業の参入等も含めて、厚生労働省及び農林水産省と協力しつつ、経済産業省自らも積極的に漢方医学・漢方薬の産業化・輸出戦略に取り組むべきだと思うが、政府の見解如何。
5 内閣官房の知的財産戦略推進事務局、新型インフルエンザ等対策室、社会保障改革担当室、日本経済再生総合事務局、健康・医療戦略室、まち・ひと・しごと創生本部事務局、内閣府の地方創生推進室等においても、それぞれの立場において、漢方医学・漢方薬の推進・支援に取り組むことを検討すべきであると思うが、政府の見解如何。
 特に、内閣府の地域活性化伝道師の中には、生薬の国内栽培の専門家が六名いると認識するが、どのような活動を行ったのか、また、今後どのように活用していくのか、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。