質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第三〇号

社会福祉法人における内部留保及び介護保険制度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年二月十六日

櫻井 充   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   社会福祉法人における内部留保及び介護保険制度に関する質問主意書

 平成二十七年度予算案の閣議決定に伴い、介護報酬の引下げが決まった。この背景には財務省が高いと指摘している介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム。以下「特養」という。)の収支差率と、特養の約九十五パーセントを運営する社会福祉法人(以下「社福」という。)の巨額とされる内部留保の存在がある。
 しかし一方で、収支差率については調査の時期や手法によって結果が異なるとの指摘もあり、内部留保についても各種調査によって定義が曖昧であることから、経営実態が正確に反映されているのか疑問を持たざるを得ない。
 超高齢社会を迎え、今後ますます介護サービスへの需要が高まる中、介護報酬の引下げや介護保険制度上の不備によって、必要とされる介護サービスの質の低下を招くようなことはあってはならないと考える。
 よって、以下質問する。

一 厚生労働省が発表した平成二十六年介護事業経営実態調査結果によると、特養における収支差率は八・七パーセントとされているが、これは支出から国庫補助金等特別積立金取崩額(以下「補助金等取崩額」という。)を控除して算出した数字である。補助金等取崩額は社福に特有の会計処理上算出される見かけ上の収益であり、実際に資金が入金されているわけではない。よって、収支差率を算出する際には、支出から控除した補助金等取崩額を元に戻すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。また、支出から控除した補助金等取崩額を元に戻して算出した際の特養の収支差率を明らかにされたい。

二 平成二十六年六月二十四日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針二〇一四」では、「社会福祉法人の内部留保の状況を踏まえた適正化を行いつつ、介護保険サービス事業者の経営状況等を勘案して見直す」とされている。この文言にある「社会福祉法人の内部留保」の定義とは何か、政府の見解を示されたい。また、それは貸借対照表上のどの部分に当たるのか、具体的に示されたい。

三 介護事業関連施設等を設立する際の施設費補助金制度は時代によって大きく異なる。このことにより建設費における借入比率に差が生じるため、社福の設立年度によって経営状況は大きく異なっていると考える。厚生労働省の介護事業経営実態調査結果を受け、一施設当たりの内部留保額は平均三億円を超えるとの一部報道もあるが、設立年度による一施設当たりの内部留保額に違いはあるのか、平成十一年以前(老人福祉法による措置時代)、平成十二年以降(介護保険制度施行以降)、平成十八年以降(三位一体改革により施設整備補助が地方自治体の一般財源化して以降)の三つの時代に分けて、それぞれの内部留保額の平均値を明らかにされたい。

四 社福における内部留保額について法人ごとの差異はあるのか、示されたい。差異がある場合には、その平均値をもって議論するのではなく、社福の剰余金については「社会福祉事業又は公益事業に充てる」と定款で定められていることから、社福の規模等を勘案し、必要な内部留保の定義を定めた上で、大幅な内部留保を保有する社福に対し個別に使途計画の提出を求めるべきであると考えるが、いかがか。

五 平成二十七年度介護報酬改定の改定率はマイナス二・二七パーセントとされているが、これは介護職員の処遇改善を実施した場合にのみ加算される一・六五パーセント分等を算入したものである。介護報酬そのものが引き下げられる中、経営的に逼迫し介護職員の処遇改善を実施できない介護施設事業者も出てくると推測されるが、どの程度の介護施設事業者が処遇改善を実施できると考えるのか、政府の見解を示されたい。

六 平成二十七年度介護報酬改定において、介護職員一人当たり月額一万二千円相当の処遇改善を行うとされているが、これは介護職員にのみ適用されるものであり、看護師や事務職員などその他の職員は対象外である。介護報酬が引き下げられる中、介護職員の処遇改善を実施するために、その他の職員の雇用体系や賃金を見直さざるを得なくなる介護事業者が出てくる可能性がある。これは、民間企業に賃上げを要求する政府の姿勢と矛盾すると考えるが、政府の見解を示されたい。

七 介護報酬のマイナス改定が及ぼす影響は大きく、特に中長期事業計画を策定している介護事業者では雇用形態の見直しや事務費の削減など、その都度事業計画の変更を余儀なくされており、ケアサービスの質の低下につながりかねない。介護報酬のマイナス改定が介護事業者に及ぼす影響について政府はどのように認識しているのか、示されたい。

八 個室ユニット型特養での人員配置基準は、特養と同じく入居者等の定員に対して三対一以上となるよう直接処遇職員を配置するよう定められているが、多くの個室ユニット型特養では基準を超える人員を配置している。ユニットケアの特性上、利用者の安全面を担保し職員が所定の休憩をとれるようにするためにはそうせざるを得ないとの現場の声があるが、政府は個室ユニット型特養における実際の人員配置率の平均値は何対何であると把握しているのか示されたい。また、実態に即した配置基準となるよう見直し、介護報酬において適正に評価するべきと考えるが、いかがか。加えて、見直しを行う考えがないのであれば、見直さなくてもよいとする根拠を示されたい。

  右質問する。