質問主意書

第187回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第八四号

内閣参質一八七第八四号
  平成二十六年十一月二十五日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員山本太郎君提出国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法案とテロリスト対策の強化に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員山本太郎君提出国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法案とテロリスト対策の強化に関する質問に対する答弁書

一の1及び2について

 平成二十六年十一月十九日に成立した国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法(以下「法」という。)は、国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等が、国際連合の全ての加盟国に対し国際的なテロリズムの行為を防止し、及び抑止するために当該行為を実行し、又は支援する者の財産の凍結等の措置をとることを求めていることを踏まえ、我が国が実施する当該措置について必要な事項を定めたものである。我が国における当該措置については、外国為替及び外国貿易法(昭和二十四年法律第二百二十八号。以下「外為法」という。)による規制により実施してきたところであるが、三十四の国及び地域並びに二つの国際的な機関が参加するマネー・ローンダリング等に関する金融活動作業部会(以下「FATF」という。)が平成二十年に公表した対日相互審査の評価において、外為法で規制される場合以外の場合に国内資産が利用可能となるなどテロリストの資産が遅滞なく凍結されない旨の指摘を受けたところである。その後、政府は、当該指摘に係る不備事項への日本の取組を説明してきたものの、平成二十六年六月、我が国に対し、テロリスト資産の凍結メカニズムが不完全であることを含む当該不備事項を改善するために必要な法律の整備を行うこと等を促す声明がFATFから出された。仮にこの声明に対応しない場合、日本がマネー・ローンダリング対策のハイリスク国として国名公表され、国際金融取引に支障を来す可能性があることも、法制定が必要と考えた理由である。
 また、法制定について、お尋ねの「国連安保理や米国政府などから」要望があったとは承知していない。
 お尋ねの「日英共同声明」については、平成二十六年五月に両国政府間でFATFのマネー・ローンダリングに関する勧告(以下「FATF勧告」という。)の実効性のある実施及び実質所有者に関する国別行動計画の早期実施について再確認したものであるが、これは、平成二十五年六月の主要国首脳会議において、法人の実質所有者の透明性について、FATF勧告を実施し、各国で行動計画を策定すること等が議論されたことを受けたものである。

一の3について

 法は、お尋ねの「テロの未然防止に関する行動計画」において記された課題の一つに対応するものであると認識している。一方、御指摘の「論文」が法制定の契機になったとは考えていない。現時点で、お尋ねの「テロの未然防止対策に係る基本方針等に関する法」案を策定する予定はない。

二の1の①について

 法第四条第一項の規定による指定(以下単に「指定」という。)の対象は、公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律(平成十四年法律第六十七号)第一条に規定する公衆等脅迫目的の犯罪行為を引用して定められたものであり、特定秘密の保護に関する法律(平成二十五年法律第百八号)におけるテロリズムの定義を基に定められたものではない。

二の1の②及び⑧について

 法第四条第一項第一号の規定は、指定の対象を外為法に基づき対外取引を規制される者として、アメリカ合衆国等がテロリスト等に対する資産凍結等の対象として個人及び団体を定めた件(平成十四年外務省告示第十号)及び先進主要七箇国(アメリカ合衆国、カナダ、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、フランス共和国、ドイツ連邦共和国、イタリア共和国及び日本国)が協調して資産凍結等の措置を実施する対象となるテロリスト等の個人及び団体を定めた件(平成十四年外務省告示第八十二号)で定める者の範囲に限定することとしたものであるから、同号において御指摘の「仮定法の形」としているのは、これらの者が例えば外為法第十六条第一項に規定する支払を行おうとした場合に同項の許可を受けることが必要となるためである。いずれにせよ、法第四条第一項に規定する要件に該当する場合にのみ指定が行われるものである。

二の1の③から⑤までについて

 法第四条第一項第二号ロは、同号イに該当する者がその活動に支配的な影響力を有する関係等にある者及び同号ロに該当する者がその活動に支配的な影響力を有する関係等にある者が該当し、御指摘のように「テロリストの影響がある限り無限に対象者は拡大する」ものではない。
 なお、お尋ねの「法案概要」は、法案の内容を略記したものである。

二の1の⑥及び⑦について

 お尋ねの「この法律に相当する当該国の法令」であるか否かについては、国家公安委員会が個別に判断するものであり、一概にお答えすることはできない。また、お尋ねの「オウム真理教」については、現時点では法第四条第一項第一号に該当しない。さらに、お尋ねの「暴力団だと思われる日本の個人・団体」及び「反社会的勢力」については、その意味するところが必ずしも明らかでないが、いずれにせよ、個別の者が同項各号のいずれにも該当する場合にのみ指定が行われることとなる。

二の1の⑨について

 指定やその有効期間の延長は、法第四条第一項や第六条第一項に規定する要件に該当する場合にのみ行われることとされており、御指摘のように「無期限にできる」ものでも、憲法に違反するものでもない。

二の2の①について

 法第九条に規定する公告国際テロリスト(以下単に「公告国際テロリスト」という。)は、生活のために通常必要とされる費用等に充てられる財産の取得等が認められていることを始め、法に定める規制は、国際的なテロリズムの行為を防止し、及び抑止するために必要なものであり、かつ、憲法で保障される財産権との関係において、合理的な範囲内のものである。法第八条第一項の財産の隠匿その他の行為とは、財産を隠し、その発見を妨げる行為をいう。また、法第十七条の規定による仮領置は、都道府県公安委員会が、同条及び国家公安委員会規則の定めるところにより行う。

二の2の②について

 法は、公告国際テロリストの行為の相手方にも規制を設けているが、法第二十一条の情報の提供等や法第二十二条の公告国際テロリストを相手方とする行為の制限に係る命令を受けることなく直ちに処罰されることはないため、規制対象者に過大な義務を課すものではなく、また、御指摘のように「人権侵害を引き起こす」ものでも、「行政刑法の濫用」になるものでもない。また、このような規制の前提として、法第十九条の資料の提出その他の協力の求めや法第二十一条の指導又は助言が適切に行われるものと考えている。

二の2の③について

 公告国際テロリストは、法の規制を受ける原因が自らに存するものであり、当該規制によって受けることとなる損失は、自ら受忍すべき範囲に留まるものと考えられることから、公告国際テロリストが受けた損失については補償を要せず、また、憲法第二十九条第三項に反するものではない。

二の2の④について

 法第十一条第一項第一号の生活のために通常必要とされる費用の範囲や法の規定に基づき制定する政令及び国家公安委員会規則の内容については、今後、法の施行までに検討することとしている。

二の2の⑤について

 法において処罰の対象となる行為が公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律において処罰の対象となる場合もあるが、両法は趣旨や要件が異なることから、法定刑に違いがあるものである。

二の3の①及び②について

 指定は、国家公安委員会が関係行政機関の長等に対し意見の表明を求めるなどした上で、聴聞の手続を経て行われるものであり、また、官報による公告により指定に係る事項についても周知されるものである。
 なお、国際連合安全保障理事会決議第千三百七十三号を履行するために外為法により実施する国際テロリストの財産の凍結等の措置については、国会の承認が必要とはされていない。

二の3の③及び④について

 法第二十条に定める立入検査等は、同条の規定に基づき、関係者の請求があったときは、身分を示す証明書を提示するなどして実施することとしている。指定に際しては、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十四条の規定に基づき、当該指定の理由を示すこととしているところ、特定秘密である情報を用いてこのような手続を行う必要が生ずるとは考えていない。

二の4について

 法は、一の1及び2についてで述べたとおり、FATF勧告の履行に向けた取組が不十分であると評価されることによる支障の可能性があることも踏まえ、国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等が求める措置について必要な事項を定めたものであることから、こうした国際連合安全保障理事会決議の財産の凍結等の措置に係る部分のいずれもがその効力を失ったときは、速やかに廃止すべきこととしたものである。したがって、御指摘のように「立法事実がないことを端的に示す」ものでも、「恒久法であることを隠すための」ものでもない。
 また、政府が各国に対し、国際連合安全保障理事会決議第千三百七十三号の廃止を働きかけているという事実はない。
 お尋ねの「FATFで検討している事項」の意味するところが必ずしも明らかでないが、FATFから求められている法律の整備のうち、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に伴い必要となるものについては、同条約の早期締結を目指し、どのようなものが必要であるかを検討しているところであるが、国会提出の時期等については未定である。